不法投棄等による被害の根絶と資源循環関連法制の抜本的改正を求める決議

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人類にとって、持続可能な社会を確立し資源の枯渇や地球温暖化の進行を防止することは喫緊の課題であり、資源の循環利用と浪費の抑制、環境に悪影響を及ぼさない方法による廃棄物処理の確保は、これを実現するため必要不可欠な事柄である。

 

ところが、長年にわたり大量生産・大量消費の社会構造が改められず膨大かつ多様な廃棄物が生じた上に、必要な法整備や適切な監督権行使などがおろそかにされたため、青森岩手県境不法投棄事件をはじめ、産業廃棄物を中心とする膨大な数の不法投棄・不適正処理事案が全国各地で発覚している。これら事案では、廃棄物に含まれる有害物質が流出して広範囲に水質汚濁や土壌汚染等が発生し、周辺住民などに甚大かつ回復困難な被害を及ぼす恐れがあるため、汚染拡散防止や原状回復の措置を迅速に行うべきである。しかし、不法投棄等の実行者等にそれらを履行させることを担保する制度が整備されていないことなどから、被害地の自治体・住民に巨額の費用負担が転嫁されたり、十分な措置が講じられず汚染拡散の潜在的な危険が放置されている。

 

このような事態を改めるには、不法投棄等を防止することはもちろん、適正公平な負担のもと迅速に対策費用を確保し是正措置を実施する態勢を強化することが必要である。さらに、より抜本的には、生産者責任及び排出事業者責任を強化し、廃棄物の発生抑制、再使用及び再生利用を推進するとともに、適正処理の確保を徹底することが必要である。

 

よって、当連合会は、不法投棄等による被害の根絶と持続可能な社会の確立のために、以下の内容を含む法制度の整備及び政策の推進を求める。

 

国並びに都道府県及び廃棄物処理法施行令で定める市(以下「国及び都道府県等」という。)は、廃棄物の不法投棄等事案に対する当面の対策として、直ちに次の措置を講ずること。
  1. 適正な汚染拡散リスク調査及び汚染拡散防止措置を講ずること。
  2. 適正な原状回復のため予算及び既存の基金を拡充すること。
  3. 原状回復等に関する被害地自治体・住民への負担の偏在を是正すること。

 

国は、廃棄物処理法、循環型社会形成推進基本法、各種リサイクル法などの資源循環関連法制を抜本的に見直し、次の各点を中心とする大幅な法改正を行うこと。
  1. 事業者等に対する廃棄物の発生抑制のための具体的義務を創設・強化すること。
  2. 事業者等に対する有害物質の使用制限・管理に関する具体的義務を創設・強化すること。
  3. 一定の製品の製造者に対し、廃棄時の無償引取と再使用等を義務付けること。
  4. 排出事業者の義務を強化・明確化し、不法投棄等事案における責任追及を容易にするほか、同業者全体で不法投棄等の対策費用を立て替える制度を設けること。
  5. 不法投棄等を行った処理業者の責任履行を徹底するため、処理業者に対する強制保険等を導入すること。
  6. 安定型最終処分場という類型を廃止するとともに、水道水源保護の観点から管理型最終処分場の設置及び操業の立地規制をするなど、処理施設の設置・維持管理基準を強化すること。
  7. 電子マニフェスト(廃棄物管理票)を義務化するなどして、廃棄物処理の全過程を公的機関が確実に管理すること。
  8. 適正手続のもとで、措置命令や原状回復に関する行政代執行などの権限行使に関する裁量を羈束化するなどして、都道府県等に迅速かつ適正に権限を行使させること。

 

国及び都道府県等は、廃棄物行政に関する迅速かつ適切な対応を確保するため、次の措置または法改正を講ずること
  1. 都道府県等は、住民、環境NGO、法律家などの学識経験者等による常設の第三者機関が行政の権限行使を監視・監督する制度を創設し、あわせて地域の環境、廃棄物行政のあり方の決定に参画する住民の権限を保障する制度を構築、整備すること。
  2. 国は、本項(1)の住民参加を促進する趣旨の法律を制定するとともに、個別の事件における住民の役割を強化するため、住民及び環境NGOに処理施設の調査立会権等を認め、住民等の訴訟提起を容易にする法制度を整備すること。

 

以上のとおり決議する。

 

2010年10月8日
日本弁護士連合会


提案理由

第1 人権及び公害問題としての廃棄物と不法投棄に関する諸問題

1 廃棄物の不法投棄や不適正処理により生じる人権侵害

わが国では、廃棄物は通常、焼却などの中間処理を施した上で埋立により最終処分される。しかし、焼却の際にダイオキシン類を含んだガスが排出されたり、埋め立てられる廃棄物に様々な有害物質が含まれていながら汚染拡散防止措置が適切に施されていないことなどにより、周辺環境に被害を及ぼす例が後を絶たない。処分場には、高濃度のダイオキシン類を含む焼却灰・ばいじんや発がん性のある化学物質を含んでいる有機溶剤、さらには水銀、砒素、カドミウム、六価クロムなどの有害物質を含有する廃棄物が埋め立てられることもあり、これら有害物質が場外に流出・飛散し、周辺地域に大気汚染、水質汚濁、土壌汚染等を惹き起こす例が全国各地で生じている。このため、処理施設の周辺住民の多くが、環境破壊や人体等の被害を危惧し、処理施設ひいては廃棄物処理そのものに深い不信を抱いて、その設置や操業に対して激しい反対運動を行っている。


また、廃棄物処理法に基づく中間処理や最終処分を行わずに廃棄物が不法投棄または不適正処理される例も後を絶たず、多くの被害地では有害物質の漏出による汚染の拡散防止や撤去等の負担に苛まれており、長年にわたりわが国の至るところで、処理業者や排出者による廃棄物処理法違反の行為(不適正処理または不法投棄。以下「不法投棄等」という。)による被害が生じてきた。


特に、有害物質を含有する廃棄物の大規模な不法投棄等が行われた事案では、廃棄物や汚染土壌を迅速かつ適正に除去等しなければ、大規模な土壌汚染、水質汚濁を惹起し、周辺地域を死の世界に変えてしまう危険が強く存する。米国では、1978年に、その数十年前に有害物質が不法投棄された現場の周辺に居住していた多数の住民に奇形児や流産などの出産異常、てんかん様の発作や呼吸器障害などの健康被害が生じたため、数百世帯もの住民が移住を余儀なくされる事件(ラブキャナル事件)が生じているが、このような事態は、大規模な不法投棄等がなされたわが国の多くの事件でも、いつ生じても不思議ではない。
不法投棄及び不適正処理は、多数の住民の生活環境や健康等に甚大な被害を負わせるものであって、重大な人権問題というべきである。


2 近年多数発覚した大規模かつ深刻な不法投棄等事件

環境省の調査によれば、2009年3月末現在、わが国には、産業廃棄物が不法投棄等された事件(残存事案)が総数2675件、総量1726万トンも存在しており(特別管理産業廃棄物を除き10トン以上の事案に限定)、その大半が1989年以後に発覚したもので、1998年以後に発覚したものが過半数を占めるほか(件数の87%、総量の63%。ただし、残存事案の中に占める割合。以下同じ。)、10万トン以上の大規模事案が総量のうち58%を占めている。また、それら以外でも、調査未了の事案や、有害物質が混入する安定型最終処分場など、この統計には含まれない潜在事案が他に多数存在すると見込まれている。


著名事件を例に見ても、1990年に発覚した香川県豊島の不法投棄事件は住民らによる長く困難な公害調停の手続を経て2000年に調停成立となったが、この間、山間部の過疎地を中心に全国各地で大規模な不法投棄等が潜行し、1999年末発覚の青森岩手県境不法投棄事件、福井県敦賀市事件(1998~2000年発覚)、岐阜県岐阜市事件(2004年発覚)など、2000年の前後に全国各地で一斉に大規模な不法投棄等事件が発覚しており、廃棄物問題は現代において特に顕著となっている。


3 不法投棄等事案を巡って生じている諸問題と解決の困難性

廃棄物処理法は、都道府県または廃棄物処理法施行令で定める市(以下「都道府県等」という。)が産業廃棄物の不法投棄等の実行者に対し廃棄物の撤去等の措置命令を発出できる旨を定めるとともに、一定の場合には実行者に処理委託した排出事業者にも措置命令を発出できる旨を定めている。


しかし、不法投棄等事件、特に処理業者による大規模な事件では、実行者である処理業者が倒産して原状回復等の履行能力がなく、委託者たる排出事業者には法的責任を追及するのが困難な実情にある。そのため、被害地の自治体は、予算不足を理由に住民が切望する廃棄物の全量撤去を拒絶し、有害性の強い廃棄物のみの一部撤去や遮水壁による現地封じ込めに止まるのが通例となっており、効果的な汚染拡散防止措置が何ら講じられずに放置されている例すら少なくない。


しかし、現地封じ込めなどにより廃棄物を未処理のままで現地に残す手法には、やがて、廃棄物に含有されまたは化学変化により発生した有害物質の汚染が拡散し、冒頭に述べた深刻な事態が発生する恐れが皆無とはいえず、後の世代に重大な環境汚染のリスクを強いることになる。生活環境の保全を徹底する見地からは、廃棄物及び汚染土壌の全量撤去が原則とされるべきである。


他方、全量撤去が容易でない現実にも目を向けざるを得ない。豊島事件と青森岩手事件を契機として2003年に制定された「特定産業廃棄物に起因する支障の除去等に関する特別措置法」(以下「産廃特措法」という。)は、国が原状回復費用の6割前後を補助し10年以内に国内の大規模事件の全部を解決することを目指したが、当初に確保された予算が1000億円にとどまり、豊島事件と青森岩手事件の処理だけで上記予算の半分程度の拠出を要する事態となった。その後に申請された事件は予算不足もあってすべて一部撤去に止まっているが、同種事件が全国に多数存在するため、発覚した不法投棄等事件のすべてで全量撤去を基本とする原状回復を図るには1兆円以上の費用を要すると危惧され、財政難に喘ぐ国や地方自治体が躊躇せざるを得ない面があることは否定しがたい。


また、原因当事者(処理業者や排出事業者)が原状回復等の費用を負担するのはごく一部に止まり、被害地の都道府県等や国による税金により費用の大半が賄われ、最終的には被害地の住民や全国民に負担が転嫁されているという問題も看過すべきではない。


このように、わが国が抱えた多数の不法投棄等事件は、放置や現地封じ込めであれば周辺環境や生存へのリスクという形で、全量撤去であれば膨大なコストという形で、現在及び将来の被害地住民さらには国民全体に深刻な負担を生じさせるものとなっている上、今後も同種事件の発生を防止するための十分な法整備がなされていないという点で、わが国が現在直面する最大の公害問題の一つというべきものとなっている。


国なども、現在は不法投棄等の問題の深刻さを認識し、一定の対策や法改正を打ち出してはいるが、抜本的かつ効果的な対策を欠く状況が続いている。2010年5月に成立した廃棄物処理法の改正でも、都道府県知事による処理施設への検査の義務付けなど若干の改善が図られてはいるものの、不法投棄等を抜本的に防止できる政策は導入されておらず、ごく一部の問題について措置を講じたに止まっている。


4 緊急対策と抜本的防止策の必要性

かかる状況を踏まえ、汚染リスク調査を徹底して汚染拡散を防止し、国や被害地自治体に過大な費用負担を強いることなく公平な負担とする制度を構築するとともに、将来の不法投棄等を防止できる抜本的政策を導入することが急務である。


第2 不法投棄等事案への当面の緊急対策として直ちに行われるべき措置

不法投棄等事案による被害は深刻であり、速やかに以下の緊急対策が講じられなければならない。


1 汚染拡散リスクの調査と汚染拡散防止措置の徹底(主文1項(1))

環境省は、毎年、全国各地の産業廃棄物の不法投棄等の状況調査を都道府県等の協力のもと実施し公表しているが、この調査には、一般廃棄物の不法投棄等のデータが含まれていない上、各現場の汚染拡散リスクの程度、あるべき原状回復等の手法や必要な費用などといった被害の内容や解決等に関する具体的な情報まで含むものではない。


事件によっては、ボーリングにより地中の有害物質を調査し汚染拡散の有無をモニタリングする等の措置が講じられているが、大量の廃棄物の埋立が判明していながら、地元行政の不熱心や風評被害を恐れる所有者の反対などにより、必要な調査がなされていない事案も多々見られる。


有害物質の流出による周辺地域への汚染拡散は、不法投棄等により生じうる被害の中で最も深刻かつ回復困難なものであるから、その防止措置は優先的に実施されなければならないにもかかわらず、現行の廃棄物処理法ではその調査は行政の裁量に委ねられ、かつ対象者等に対する強制力の乏しいものとなっており、極めて不十分というべきである。


上記のほか、汚染原因たる有害物質を含んだ廃棄物は、広域移動を経て投棄等されるのが通例であること、米国では、ラブキャナル事件を機に制定されたスーパーファンド法(包括的環境対処・補償・責任法)により、環境保護庁が深刻な汚染箇所を登録、調査して必要な浄化措置を自ら実施または命ずるものとなっていることなどに照らし、一定以上の規模・内容の不法投棄等事案は環境省が自らまたは被害地を管轄する都道府県等を監督して汚染拡散リスクを調査し、相当の拡散リスクが認められる場合には、直ちに必要な防止措置を講ずべきである。


そして、その調査及び防止措置費用は、後記3と同様、国と関係都道府県等が相当の割合で分担するものとし、土地所有者等が調査に協力的でない場合などに迅速に対処するため、汚染防止のため緊急の必要があるときには裁判所の令状により強制的に調査ができるようにするなど、適正手続に配慮しつつ必要な法整備を検討すべきである。


また、現在の法制度では、個々の事案で原状回復等を行うか否かの判断は専ら被害地の都道府県等に委ねられているが、各都道府県等の対応の違いなどから、原状回復等の作業はおろか不法投棄等の有無や汚染拡散リスク等の調査すら十分になされずに放置されているケースが多々見られ、適正な解決を担保する制度が存在しない状況といわざるを得ない。そこで、例えば、環境省が設定する統一的な基準のもとに全都道府県等が適正な調査を行い、汚染拡散リスクの有無などを斟酌して有識者等の意見をもとに環境省が各事案にランク付けをし、高いランクのものから優先的に原状回復等の作業を行うよう義務付ける制度が導入されるべきである。この点に関し、ランク付け(汚染拡散リスク等の評価)や行われるべき原状回復等の作業の程度などに争いが生じた場合は、被害地の住民や都道府県等が不服申立てし、公害等調整委員会または裁判所の判断を受ける制度の創設を検討すべきである。


2 適正な原状回復の実現と必要な予算の確保等(主文1項(2))

汚染拡散リスクのある有害物質を含有する廃棄物の不法投棄等事案では、汚染拡散の防止のため廃棄物及び汚染土壌を現場から除去し、相当な中間処理を施した上で、再生利用または最終処分がなされるべきことは当然である。また、廃棄物が適正処理されずに不法投棄等されていれば、そのこと自体から生活環境の保全上の支障が生じているというべきであるから、有害物質を含有しない廃棄物であっても、同様に全量を撤去し適正処理等を行うことが検討されるべきである。


この点、巨額の借金を抱えた国及び被害地自治体が全量撤去を基本とする原状回復を実施するのは困難との反論が想定されるが、米国のスーパーファンド法が、85億ドル(便宜上1ドル100円計算で8500億円)もの基金を用意したのに対し、わが国の産廃特措法は10年間の時限立法で1000億円の予算を用意したに止まっていることなどに照らしても、わが国がこれまで原状回復等のため用意してきた金額は、あまりにも低いものといわざるを得ない。とりわけ広範囲への汚染拡散が生じた場合には、生じる被害の総額は適正な汚染拡散防止措置や撤去等に要する費用を遥かに上回ることになるのは必定であり、リスクの高い事案では、優先的に費用を確保し全量撤去を基本とする相当な措置が講じられなければならない。よって、国は、不法投棄等事案対策の費用として、最低でも現行産廃特措法の数倍以上の予算を確保すべきである。そして、個々の事案の解決に際し予算等の制約から一部撤去や封じ込め措置に止まらざるを得ない場合でも、暫定措置と位置づけ、最終的には全量を撤去し処理することが目標とされるべきである。


また、1998年6月以前に行われた不法投棄等事案には産廃特措法が適用され、1998年6月以後に行われた事案には国や産業界の拠出に基づく適正処理推進センターの原状回復基金によって支障の除去等を行うものとしているが、後者も適正解決に十分な基金を形成できておらず、同様に強化・拡充が必要である。


また、不法投棄等事案で排出された廃棄物に関して、生産、流通、消費、廃棄までの過程に関与した事業者には、拡大生産者責任や汚染者負担原則に照らし、公費を通じて負担を強いられる無関係な第三者よりも潜在的な責任があるので、措置命令の要件を満たさず廃棄物処理法に基づく法的責任を追及することができない場合でも、これら事業者に費用負担を求める手法を導入すべきである。例えば、不法投棄等事案において、廃棄物を大量に排出した事業者や有害性の高い物質を不法投棄等された事業者に対して、都道府県等が、税法等による相当の優遇措置と引き換えとするなどして任意の費用拠出を勧告できるものとするなどの手段が考えられる。


3 被害地自治体・住民への負担の偏在の是正(主文1項(3))

現在の産廃特措法の運用では、公費による原状回復等の費用負担については、事案により若干の前後はあるものの、事業主体たる都道府県等(被害地)が概ね4割、国が6割程度の分担という形になっている。しかし、不法投棄等の発生や拡大に対する被害地都道府県等の帰責性の程度(原因者側に対する監督義務の懈怠の程度)は事案によって相当に異なるほか、その他の斟酌要素(処理業者による不法投棄等の場合には、その処理業者の活動により納税等の受益があったか等)なども事案により異なるから、一律に上記比率で負担割合を決するのは適正公平とはいえない。環境省は、産廃特措法に基づく環境大臣の同意の条件として、被害地の都道府県等に対し不法投棄等の原因者への徹底した責任追及を行うとともに、従前の行政対応を厳しく検証するよう求めているが、国がその検証結果等を負担割合の決定に斟酌しているものとは認めがたく、帰責性や受益の程度などを総合的に斟酌して、都道府県等の負担割合を定めるよう改めるべきである。


また、A県の許可を受けた中間処理業者などがB県で不法投棄等に及ぶ事例が見られるが、この場合に、A県に当該業者に対する監督義務の懈怠や当該業者の活動による税収入等の受益があるときには、B県のみが費用を負担しA県が負担を免れるというのは、社会正義の観点から不相当かつ不公平であり、廃棄物の数量、被害や必要な原状回復等費用の程度、処理業者の違法行為の内容や程度、それらに対する都道府県等の関与・責任の内容や程度、業者の活動によって受けた受益の程度などに照らし、A県にも相当の費用を負担させる法制度が必要というべきである。同様に、排出事業者の所在地の都道府県等も、委託行為の内容や排出事業者の活動による受益の程度などに応じて一定の費用負担を定めるべきである。そして、かかる費用負担に関して争いが生じた場合も、公害等調整委員会または裁判所が相当な負担割合を定めることができるような制度の創設が検討されるべきである。


第3 資源循環関連法制の抜本的見直しと必要な法改正

不法投棄等事案による被害を撲滅させ、 将来にわたって防止するため、 資源循環関連法制を抜本的に見直して必要な法改正を行わなければならない。


1 廃棄物の発生抑制の見地から導入されるべき制度(主文2項(1))

過剰な資源採取・生産・排出を抑制し、再使用や再生利用の徹底による資源の循環利用を確立することは、不法投棄等の撲滅のため必要不可欠である。しかし、わが国の資源循環・廃棄物法制は、廃棄物の発生(排出)抑制を理念として掲げているものの、事業者等に具体的な義務をほとんど課しておらず、自主的取組に委ねているため、実効性が担保されていない。


そこで、廃棄物の発生抑制の理念から、製品の製造者に対し、資源使用の抑制や長寿命化を義務付け、これらに関する一定の基準を満たすことを製造の条件とする環境適合設計アセスメントの導入を検討すべきである。


また、極端な短寿命製品である使い捨て型の製品に対しては、生産及び使用の抑制措置が必要である。韓国では法律により、広範な業種を営む事業者に対し、割り箸・爪楊枝、歯ブラシ・スプーン・容器類など多種の使い捨て製品の使用抑制が義務付けられ、無償での提供が禁止されており、参考にすべきである。


2 有害物質の規制強化のため導入されるべき制度(主文2項(2))

有害物質を含有する廃棄物の処理は、ただでさえ汚染拡散防止のため特別の措置を必要とする上、有害物質を含有する廃棄物が不法投棄等されると、一緒に埋め立てられた他の廃棄物はもちろん、土壌・水・大気を通じて汚染が拡大し、その処理に莫大なコストを要するのみならず、周辺環境に取り返しのつかない被害をもたらすことになりかねない。


そこで、製品の製造者に対し、製造段階における有害物質の使用制限を義務付けるとともに、有害物質を含有する製品の供給者に対し、設計や製品表示上の配慮、排出時の引取や処理情報に関する把握等の義務付けなど、当該物質による被害発生防止のため特別の義務を課すことを内容とする制度が設けられるべきである。


EUにおいては、指令により、電気・電子機器及び自動車に関し、鉛、水銀、カドミウム、六価クロムなどの有害物質の使用の制限が義務付けられており、韓国にも同様の法規制がある。


3 拡大生産者(製造者)責任の見地から導入されるべき制度(主文2項(3))

わが国のリサイクル法制は、縦割り行政を反映して、個別の製品に関するリサイクル法が分立しており、制度が不統一な状況である。また、生産者(製造者)の責任も不徹底である。


このような法制下では適正なリサイクルを実現することはできないというべきであって、リサイクル法を統合し、一定種類の製品廃棄物については、その製造者に製品廃棄物の引取・リサイクル(=再使用等)の義務・責任を課すことのできる一般的な法的枠組みを作るべきである。対象とする製品廃棄物の種類は、家電・自動車等から始めて徐々に拡大していくことになろう。なお、引取義務は第一次的には製品の製造者が負うべきものであるが、製造者側に複数の企業が介在し、形式的な製造者よりも、製品設計にイニシアティブを発揮しうる事業者に引取等の義務を負わせることが適切な場合もあるので、それらも視野に入れた広い意味での供給者に適正な責任を課すことができるものとすべきである。また、ここにいうリサイクル(=再使用等)とは、(1)部品等の再使用、(2)再生利用を、この優先順位によって行うことをいう。この法的枠組みにおいては、製品廃棄物の種類を問わず、次の点が貫徹されるべきである。


(1) 製造者は無償で引き取るものとし、リサイクル等に要する費用は一次的には製造者が負担し、最終的には製品価格に上乗せされて消費者が負担することになること。


(2) 環境行政を所管する官庁が主導権を持つこと。例えば、製品ごとのリサイクル義務率は、環境大臣が主務大臣と協議して定めるものとすること。


4 排出者責任の見地から導入されるべき制度(主文2項(4))

廃棄物処理法では、排出事業者が処理や委託の基準に違反した場合、原状回復(生活環境上の支障除去)の措置を講ずるよう都道府県等が命じることができるが、委託者が不法投棄等を行うことを知り得た場合などに措置命令を発出できるものとした同法19条の6は、2000年の導入以来、未だに発出例が一つもない。同条は、物の利用・排出によって利益を受けた排出事業者こそが適正処理の責任を第一次的に果たすべきであるという排出者責任の原則を貫徹する上で極めて重要な規定の一つというべきであり、米国のスーパーファンド法が紆余曲折を経た今も排出事業者等に厳格な責任を課して汚染除去を図っていることに鑑みても、排出事業者責任の強化は、喫緊の課題というべきである。


また、委託時に排出事業者が履行すべき措置の明確化、具体化も徹底すべきである。例えば、廃棄物の類型ごとに委託費用の最低基準のガイドラインを政令等で定めた上で、排出事業者は、委託時に後記の電子マニフェスト(廃棄物管理票)により、委託情報を情報処理センター(廃棄物処理法12条の4)に通知することを義務付け、同センターを通じて、個々の委託費用が当該基準に抵触しないか、委託先の処理施設に、処理能力や残余容量を上回る委託がなされていないかなどのチェックを受けるものとすれば、委託段階で不適正処分が行われることを相当程度防ぐことができるものと考えられる。このような制度を通じて、悪質な排出事業者が不法投棄等を誘発する廉価での委託を行うのを防ぐとともに、適正に業務を行っている排出事業者が、安心して優良な処理業者に委託できる制度の構築を検討すべきである。


また、排出事業者自身による廃棄物処理(自ら処理)による不法投棄等を防止するため、自ら処理の情報を自社の電子データで管理し情報処理センターに提出するとともに、その主要部分を開示する制度の創設を検討すべきである。


次に、当事者に対する責任追及によっては原状回復等に必要な費用を賄うことができないような大規模な不法投棄等の場合には、現在のように国や被害地自治体の税金(すなわち納税者)に負担を転嫁するのではなく、当該廃棄物(特に、廃棄物に含有される有害物質)を取り扱う事業者の業界向けに目的税を課すなどして特別の基金を設け(米国のスーパーファンド法に基づく基金類似の制度)、税金に代わって、この基金からの費用で原状回復等ができるよう制度設計を行うべきである。なお、目的税の負担を余儀なくされる特定の業界は、不法投棄等を防止するため相互監視的な取組を自主的に行い、成果を挙げれば、目的税の負担を軽減できるので、不法投棄等の防止にも効果が期待できる。


5 処理業者による不法投棄等に対する責任担保の制度(主文2項(5))

大規模な不法投棄等は、中間処理業者や最終処分業者が自社敷地内または隣接地に、許可容量を大幅に超えて、汚染拡散防止措置を施さない違法な態様で廃棄物を大量に埋立または放置することによって生じる例が多い。そして、発覚時には処理業者が倒産状態になっているため、措置命令を発出しても全部または大半が履行されず、その見込みもないケースが圧倒的である。同様に、収集運搬業者による不法投棄等も後を絶たない状況にある。ところが、現行法は処理業者の責任履行を担保する制度を何ら設けておらず、そのことが、不法投棄等への対処に多額の公費負担を余儀なくさせている最大の原因の一つというべきであるから、責任担保の制度の導入は喫緊の課題である。


この点、韓国の廃棄物管理法は、処理業者に対し、責任履行を目的とする相当額の保険に加入することまたは共済組合に営業開始時までに加入すること(分担金納付)を義務付けており、一定程度、責任履行が担保されるものとなっている(保険や共済組合制度は、保険会社の調査や組合員たる処理業者の相互監視等による予防機能もある。)。一定の限度額を定める自賠責保険類似の強制保険制度は、当連合会が2004年7月に公表した「不法投棄の未然防止及び適正解決を徹底するため廃棄物処理法の改正等を求める意見書」でも述べていたものであり、上記の共済組合制度も含め、導入に向けて早急に検討がなされるべきである。


6 廃棄物処理の安全を担保する制度(主文2項(6))

安定型産業廃棄物最終処分場(廃プラスチック類などの「安定5品目」に限り遮水のための設備のない素掘りの穴に埋めるだけでよいとする処分場)について、当連合会は、2007年8月に「安定型産業廃棄物最終処分場が今後新規に許可されないよう求める意見書」を公表しているが、その主たる根拠は、埋立処分される廃棄物を「安定5品目」とその余の物質に分別することが現実には不可能であるため、多くの処分場が周辺の環境汚染を惹起している点にあり、現在では多くの裁判例も、そのことを踏まえて安定型処分場の操業差止等を認めている。安定型産業廃棄物最終処分場という類型は廃止すべきである。


また、管理型最終処分場(埋立地から出る浸出水による地下水や公共用水域の汚染を防止するため、シートなどの遮水工で埋立地の側面や底面を覆い、浸出水を集めて浄化処理を行う処分場)についても、遮水工の破損など安全性に関する問題が多々指摘されており、水道水源保護の観点から設置及び操業の立地規制を行うことなどが必要である。なお、法律でこのような立地規制を行う場合には、既に多くの地方自治体において水道水源保護のための条例が制定されていることを踏まえて、地方自治体の自律性を損なうことのないように配慮することが必要である。


同様に、中間処理施設や保管施設等も、環境汚染を防止するための規制の強化が図られるべきである。


7 廃棄物処理情報の全過程の電子化と公的機関による管理等(主文2項(7))

産業廃棄物の委託処理は、マニフェスト(廃棄物管理票)により排出事業者や処理業者が処理の過程を書面化して一定期間保管すべきものとされ、現在は電子マニフェストが義務化されていないため、大半は紙マニフェストで行われている。しかし、処理業者側が処理内容を偽装して排出事業者に虚偽の報告をする例が後を絶たないほか、不法投棄等の発覚時などにマニフェストが廃棄され、委託基準違反等のある排出事業者への責任追及が困難となる事態が生じている。


このような事態を抜本的に解決するためには、電子マニフェストを義務化するなどして廃棄物処理の全過程を公的機関が確実に管理することが不可欠であり、前記4のとおり、排出事業者による自ら処理にも同様の措置が講じられるべきである。韓国では、一定の廃棄物について電子マニフェストが義務化され、公的機関が処理情報を管理する制度が導入されており、わが国でも同様の制度の導入が焦眉の急というべきである。


8 措置命令や行政代執行などの行政裁量の羈束化など(主文2項(8))

廃棄物処理法では、措置命令や代執行を行政の裁量的判断に委ねるような体裁になっているが、不法投棄等がなされた場合には、適正手続のもとで、原状回復を命ずる措置命令を迅速に発出し、その履行の見込みがない場合には、代執行により相当な原状回復及び汚染拡散防止措置を迅速に講じなければならないというべきである。したがって、これらを義務的または羈束裁量的な規定に改めるべきである。


また、従前より、違法業者に対して措置命令等の監督権行使が適切に行われてこなかった理由として、(1)措置命令を発出すると代執行を余儀なくされることが多く、財源確保の面から消極的になっていたこと、(2)違反行為の調査や措置命令の発出及びその後の対処並びにこれらを遂行するための行政内部の調整などに膨大な労力を必要とすることなど、迅速に権限行使を行う行政内部のシステムが整備されていないことが指摘されており、これを改善する措置が必要である。


このうち、(1)は、上記のとおり当事者の責任履行を確実化することで、公金拠出を極力回避することが可能となる。(2)は、行政内部の手続の整備や後記の第三者機関による監視・監督、各都道府県等に対し措置命令等の業務を支援する組織の整備などの方策が必要であり、適正かつ迅速な権限行使を確保するため、これらの業務への法律家の関与も検討されるべきである。


第4 廃棄物行政の迅速かつ適正な対応を確保するため必要な政策

多数の不法投棄等の被害が生じた主たる原因は、都道府県等が、廃棄物処理法に基づく処理業者等に対する調査や監督の権限を適切に行使せず、不法投棄等の被害を訴える住民の声に耳を傾けてこなかった点にあると、強く指摘されているところである。廃棄物行政の迅速かつ適正な対応を確保するためには、住民が行政の権限行使を監視、 監督し、住民自治の観点から地域住民が積極的に政策形成過程に参画し決定することができる仕組をつくることが重要である。


1 廃棄物行政に対する住民の監視、監督及び参画(主文3項(1))

不法投棄等は、外部からは容易には知り得ない自社敷地内やその周辺、山間部などで行われることが多く、都道府県等がこれを迅速に察知し監督権を行使するには、不法投棄等の現場周辺の住民やその活動を支援するNGO等(以下「周辺住民等」という。)の通報や調査活動などに依存する面が大きい。また、自らが居住する地域の廃棄物行政ひいては地域環境のあり方は、究極的には住民の自治により定められるべきという見地からも、住民の直接的関与を高めるべきである。廃棄物処理法は、周辺住民に処理施設の維持管理に関する一定の記録の閲覧を認める程度に止まっているが、住民の権利は強化されるべきである。


そこで、周辺住民等の役割・関与を強化する立法措置(後記2)が必要であるが、法改正を待たずとも都道府県等の現場で対応できる措置は直ちに講じていくべきである。例えば、自治体内の処理施設の周辺住民、環境NGO、法律家などの学識経験者等による常設の第三者機関が、都道府県等が適正に監督権を行使しているかを監視・監督し、それらを通じて、政策形成全般を含めた地域内の環境、廃棄物行政のあり方の決定に参画する住民の権限を保障する制度を構築、整備すべきである。


2 国による住民参加を促進する法整備(主文3項(2))

国は、1で述べた見地から、住民参加を促進する趣旨の基本法を制定するとともに、個別の事件における周辺住民等の役割を強化する法改正を行うべきである。後者の具体例として、処理施設の調査立会権、行政が業者から徴求した資料に対する一定の範囲の閲覧権、行政権限発動の申立権(相当期間内に適正な行政権限が行使されない場合は検察審査会類似の第三者機関の審査を求め、その勧告により権限行使が強制される制度を含む。)を導入ないし検討すべきである。


また、行政が適切な権限行使を怠る場合、住民は義務付け訴訟(行政事件訴訟法3条6項)を提起することができるが、いかなる場合に「処分をすべき」かを明らかにするため、上記のとおり、措置命令や代執行を義務化または羈束化するとともに、不法投棄等の場合に重大な損害発生の恐れや他の方法がないことについて推定規定を置くなどして、立証責任の軽減を図るべきである。あわせて、米国のスーパーファンド法にならい、住民が行政に代わって措置命令の対象者に対し責任履行を求める代位訴訟制度を導入するとともに、消費者契約法の適格消費者団体制度を参考に、真摯に環境保全に取り組んでいるNGOを、適格団体として広く認定し、これに義務付け訴訟や代位訴訟の提訴権を認めるべきである。


以上の理由から、本決議を提案するものである。


以上