安全な住宅に居住する権利を確保するための法整備・施策を求める決議

1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災においては、死者6400余名の8割近くが建物等の倒壊による圧死であった。しかも、その後の調査で、倒壊した建物の大半が「新耐震基準」が施行された1981年以前の建築物であり、また、築年数を問わず建物の構造安全性に問題がある住宅も少なからず存在したことが判明した。


阪神・淡路大震災の後も、鳥取県西部地震(2000年10月)、新潟県中越地震(2004年10月)、福岡県西方沖地震(2005年3月)、宮城県沖地震(2005年8月)等の震度6以上の地震が多発し、さらなる大規模地震の発生も予測されている。


一方、この10年の間に、建築物の耐震改修の促進に関する法律の制定(1995年)、建築基準法の大改正(1998年)、住宅の品質確保の促進等に関する法律の制定(1999年)その他の諸改革がなされてきたことは事実である。しかし、現在も、建築基準法が定める最低限の安全基準にも達しない「欠陥住宅」が多数生み出されており、また、建築当時の建築基準法には適合していたが法改正によって現行の耐震基準には適合しなくなった「既存不適格住宅」が全体の約25%にあたる約1150万戸も存在すると推計されている。このような現状では、我が国において住宅の安全性が確立されたとは到底いえず、その意味で、この10年間の法整備や諸改革は、いまだ途上といわざるをえない。


住宅は、地震等の外力から人間の生命・身体を守る器であり、生活の基盤となる。安全な住宅が確保されなければ、個人の尊厳や幸福追求の基盤が損なわれ、健康で文化的な最低限度の生活を営むこともできない。


地震大国である我が国においては、住宅の安全性は全国民の問題であり(被害の普遍性)、しかも地震による建物倒壊被害が高度の蓋然性をもって予測される以上(危険の切迫性)、地震による建物倒壊で生命・身体が侵害される危険は一日も早く除去されなければならない(被害回避の緊急性)。すなわち、国民にとって「安全な住宅に居住する権利」が確保されなければならない。これは、憲法13条、25条に基づく基本的人権であり、また、世界人権宣言3条、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約11条1項に関する一般的意見第4号からも裏付けられるものである。


そこで、当連合会は、既存不適格住宅を含むすべての欠陥住宅をなくして、安全な住宅に居住する権利を確保するため、国に対し、下記のような法整備・施策の実現を求め、ここに決議する。



  1. 安全な住宅に居住する権利が基本的人権であることを宣言し、関係者の責務や安全な住宅の確保のための基本的施策を定める「住宅安全基本法」(仮称)を制定すること。
  2. 建築士の監理機能の回復のために、建築基準法、建築士法の改正を含め、建築士について、その資質向上を図り、かつ、施工者からの独立性を担保するための具体的措置を講ずること。
  3. 建築確認、中間検査、完了検査制度の徹底及びその適正性確保のため、一層の制度改善を図ること。
  4. 建築物の耐震改修の促進に関する法律を改正し、住宅を含め耐震基準を満たさない建物について、耐震改修促進のための施策を充実させること。

2005年(平成17年)11月11日
日本弁護士連合会


提案理由

第1 欠陥住宅被害の現状

1 欠陥住宅とは

欠陥住宅とは、住宅として通常有すべき品質や性能を欠くもの、あるいは、契約において特に示された品質や性能を有しないものをいう。このうち、建築基準法令の定める最低限の構造基準(安全基準)を遵守していない場合を構造欠陥という。いわゆる既存不適格建物も、安全性能を欠いているという意味で、広い意味での欠陥住宅(広義の欠陥住宅)といえる。


2 我が国における「安全な住宅」の必要性

1995年1月17日午前5時46分、阪神・淡路大震災が発生し、6400余名もの方々の命が奪われた。死者の8割近くは、建物等の下敷きによる圧死といわれている。風雨をしのぎ地震や台風など自然界の外力から私たちの生活を守る器であるはずの住宅が「凶器」と化した瞬間であった。倒壊した建物の大半は、いわゆる新耐震基準が施行された1981年以前の建築物であったが、その後の調査により、倒壊建物には築年数を問わず、手抜き工事による欠陥住宅が含まれていたことが判明した。新耐震基準さえ徹底されていれば、多くの命は助かったはずである。


阪神・淡路大震災の後、この10年の間にも、2000年10月6日の鳥取県西部地震、2004年10月23日の新潟県中越地震、2005年3月20日の福岡県西方沖地震、2005年8月16日の宮城県沖地震と震度6以上の地震が多発している。発生確率が高いと予想される東海・東南海・南海地震に限らず、日本では、地震はいつでもどこでも起こりうるのである。


当連合会では、阪神・淡路大震災の翌年の1996年から2000年まで毎年1回、全国一斉の「欠陥住宅被害110番」を実施した。そこには、毎年702件から1153件にものぼる多数の相談が寄せられ、その内容も、傾き・亀裂(クラック)・雨漏り等多岐にわたった。その後も、各地の行政相談窓口や民間団体等には毎年多数の欠陥住宅被害の相談が寄せられており、その被害は多数かつ深刻である。


3 「安全な住宅に居住する権利」の人権性

人間は、我が家という住空間において、日々を過ごす。住宅は、地震や台風等の外力から人間の生命・身体を守る器である。さればこそ、万一の地震に耐えうる耐震性能等の安全性能が厳しく要求されている。


ところが、そのような安全性能を欠いた住宅は、地震のとき、忽ち人間の生命・身体を奪う「凶器」と化す。阪神・淡路大震災における死者6400余名の8割近くが建物等の倒壊による圧死であった。倒壊建物の大部分は、当時の耐震基準さえ満たさない住宅であった。生命・身体を侵害されてからでは手遅れである。人災を繰り返さないためには、平常時から、住宅の安全性を確保するための意識改革、制度改革が必要である。


にもかかわらず、国土交通省によれば、我が国には、現在、いわゆる新耐震基準を満たさない既存不適格住宅が1150万戸も存在するとされ、新築建物においても欠陥住宅被害が多発している。これら安全基準を充足しない多くの建物に居住する国民は、阪神・淡路大震災クラスの地震が起きたとき、同様の生命・身体の安全が侵害される危険に晒されているのである。


地震大国である我が国においては、住宅の安全性は全国民の問題であり(被害の普遍性)、しかも地震による建物倒壊被害が高度の蓋然性をもって予測される以上(危険の切迫性)、地震による建物倒壊で生命・身体が侵害される危険は一日も早く除去されなければならない(被害回避の緊急性)。すなわち、生命・身体の安全に対する侵害が危殆化している今、手遅れにならないためには、その一歩手前で国民の生命・身体を守るべく、「安全な住宅に居住する権利」を重要な基本的人権として保障する必要がある。


この「安全な住宅に居住する権利」は、憲法13条の個人の尊厳と幸福追求権に基づき、生命・身体の安全を侵害するような住宅から国民が保護されなければならないという側面と、憲法25条に基づき「健康で文化的な最低限度の生活を営む」権利の一内容として、安全な住宅に居住する権利の実現のために国家に対し作為を求める権利を包含する概念である。この権利は、「すべて人は、生命、自由及び身体の安全に対する権利を有する」と規定する世界人権宣言3条や、「住居に対する権利は、安全・・・をもって、ある場所に住む権利とみなされるべきである。・・・第一に、住居に対する権利は、他の人権及び、規約が則っている基本原則と不可分に結び付いている。・・・『十分な住居とは・・・十分な安全・・・が、すべて合理的な費用で得られるものを意味する』」などと規定する「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」11条に関する一般的意見第4号(1991年)7項からも裏付けられる。


また、スペインやポルトガルなどの憲法にも明記されている「消費者の権利」には、「安全に関する権利」も含まれる。また、我が国の消費者基本法2条(基本理念)には「・・・消費者の安全が確保され・・・ることが消費者の権利である・・・」と規定されている。


当連合会も、1989年9月16日、「消費者被害の予防と救済に対する国の施策を求める決議」において、「消費者の権利」として「消費者が、その消費生活のすべての場面で、安全及び公正を求める権利」を宣言している。かかる「消費者の安全に関する権利」の中に、消費者の生命・身体を守るべき器である住宅が含まれることに疑問の余地はないから、消費者にとって「住宅の安全を確保する権利」すなわち「安全な住宅に居住する権利」は、憲法規範レベルで認められるべき基本的人権である。


「安全な住宅に居住する権利」が基本的人権であるならば、その実現のため、これを最大限尊重するための基本的施策を定める「住宅安全基本法」(仮称)の制定や、建築基準法や建築士法の改正等を含む、欠陥住宅を生まない建築生産システムを構築するための具体的措置や諸制度の改善、及び、既存不適格住宅に関する耐震改修促進のための施策の促進・充実等を、議論、検討すべきである。


第2 欠陥住宅が生み出される原因

1 施工者に起因する問題

施工者に起因する問題として、1)施工者のモラルの低下、2)重畳的下請、一括下請による生産システム、3)施工技術の低下、4)優秀な技能者の適正評価と育成制度の欠落、が指摘されている。


2 建築士制度の問題点

(1) 監理の形骸化

建築基準法は、安全で適正な建物を建築させるために、関係法令を遵守した「設計」、設計どおりに建物を建築する「施工」、施工が設計どおりに行われているかどうかをチェックする「監理」という3つの概念を設けている。これは、それぞれ三権分立における立法・行政・司法になぞらえることができ、このうち「設計」と「監理」は、資格を有する建築士(建物の規模に応じて、一級建築士、二級建築士、木造建築士がある。)が行うことになっている。


ところが、我が国では、多数の建築士が施工業者に所属するか、人的・経済的に密接な関係にあるのが現状である。その最も顕著な形態は、施工業者自らが併設している建築士事務所、いわゆる併設設計事務所に、自社物件の監理を行わせる方法である。これでは、実質的に同一人によって施工と監理が行われているに等しく、三権分立的な意味での「監理」は形骸化しているといわざるをえない。


また、形骸化の最たるものとして、最初から現場監理をする予定もないのに建築確認申請書に「監理者」として届出だけを行う「名義貸し」が横行している。


(2) 統一的な研修制度の不整備

建築士は、その経験・知識の多寡を問わず、誰でも設計や監理を行う権限が認められ、専門家としての高度の監理能力や職業倫理が求められている。にもかかわらず、現行制度においては、統一した倫理規定や研修制度が設けられておらず、一部の建築士について、監理能力の不足や職業倫理の低下が指摘されている。


(3) 建築士に対する指導・監督の不十分

建築士に対する指導・監督は、一級建築士は国土交通大臣(旧建設大臣)、二級・木造建築士は都道府県知事が行うことになっているが、直接の指導・監督はほとんどなされておらず、資格をもった建築士がどれだけ現存し、活動しているかさえ把握できていない現状にある。日本建築家協会や各都道府県の建築士会、建築士事務所協会といった団体もあるが、いずれも任意加入団体であり、またその加入率も決して高くない。


その結果、相当数の建築士に対しては、監督官庁による指導・監督が事実上及ばない状況にある。


(4) 監理業務の不明確さと監理者の権限の弱さ

現行建築士法には、監理の方法、内容、程度、範囲等が定められておらず、実際の監理は、監理者の能力や誠実さの程度によって大きく左右されている。


また、現行建築士法には、工事が設計図書のとおりに実施されていない場合であっても、監理者には工事差止めなどの強い権限が与えられておらず、欠陥住宅予防の決め手を欠いている。


3 確認・検査制度の不十分さ

建築基準法は、設計・施工・監理という建築現場でのいわば「自治」に加え、建築前に行政が建築内容をチェックする「建築確認」、設計どおり施工が行われたかを検査する「完了検査」制度を設け、行政が補完的にチェックするという建前をとっている。にもかかわらず、行政の人手不足もあって、完了検査の実施率がわずかに3割程度にすぎない地域があるなど、全国的にも完了検査が十分に実施されていない実態が長い間続き、確認どおりの施工が行われないケースが多かった。


4 消費者と住宅供給者の間の知識・情報の格差

「夢のマイホーム」という言葉があるように、消費者にとって、住宅の取得は人生最大の買物であり、欠陥住宅を取得することによる経済的・精神的被害はまさに重大な消費者問題である。その根本原因としては、消費者と住宅供給者の間に、非常に大きな知識・情報の格差があり、消費者は、住宅の安全に関する情報のほとんどすべてを、住宅供給者側に依存せざるをえないという実情がある。


第3 この10年間の制度改革とその到達点

1 「住宅の安全」に対する国民の意識の変化

阪神・淡路大震災を契機として、住宅の品質・性能に関する国民の認識は、災害時における安全性を重視するように変化してきた。地震や台風に遭遇したとしても居住者の生命・身体が危険に晒されないことは、建築基準法の理念でもあり、国民の意識の中に浸透してきたといえる。


2 司法判断による被害救済と制度改革の促進

この10年間において、被害者とその訴えを受けた弁護士、裁判所が果たしてきた欠陥住宅被害の救済と、制度改革の促進の役割には、大変大きなものがあった。とりわけ、ここ数年間で、次のような3つの最高裁判決が出され、被害救済は大きく前進した。


(1) 欠陥判断の基準

従前の欠陥住宅訴訟においては、欠陥住宅を供給した業者側からの、「建築基準法令は行政取締法規であるから、これに違反しても契約法上の瑕疵には該当しない」とか、「契約に違反しても、機能上あるいは法令上の問題が生じなければ、瑕疵とはいえない」などといった反論がなされることがあった。


しかし、今日では、1)建築基準法令は最低限の基準を定めたものゆえ、これに反することは当然に瑕疵にあたる(客観的瑕疵)、という判断が司法においても定着した。


また、最高裁の2003年(平成15年)10月10日判決は、2)契約者間で約定されて契約の重要な内容になっていた品質・性状を欠く場合には、仮に建築基準法令の基準を満たしていても瑕疵にあたる(主観的瑕疵)、との判断を示した。


こうして、欠陥(瑕疵)の基準は、建築基準法令及び契約を基準とすることが定着したといえる。


(2) 取壊し建替え費用の賠償

請負契約における瑕疵担保責任として建物の取壊し建替え費用の損害賠償請求が認められるか否かについて、従前、下級審裁判例は判断が分かれていたが、最高裁は2002年(平成14年)9月24日判決によって、これを正面から認めるに至った。


(3) 建築士の責任

建築確認申請において監理建築士として名義だけを貸して実際には監理を行わなかった建築士が、欠陥住宅について法的な責任を負うか否かについて、最高裁は2003年(平成15年)11月14日判決で、名義のみを貸し監理を放棄した建築士の責任を認めた。


3 法律の整備

(1) 建築基準法改正

1998年(平成10年)改正においては、1)中間検査制度を導入して、従前の設計段階の建築確認と竣工段階の完了検査という2回のみのチェックから、建築途中における数次の適法性等のチェックが行われうる仕組みをつくり、2)これまで専ら行政において行われていた建築確認・検査業務を民間にも開放して、大量・迅速に処理できる制度とし、3)建築技術の進展に柔軟に対応できるように、建物の安全性等に関する技術基準である単体規定について、従前の仕様規定中心の定め方から、性能規定中心の規定方法に転換し、4)市街地建築規制を合理化する(連担建築物設計制度の創設)など、建築基準法施行以来50年ぶりの大改正が行われた。


また、2004年(平成16年)改正では、1)既存不適格建築物における建築行為の規制の合理化、2)建築物にかかる報告・検査制度の充実と監督の強化が図られた。


(2) 住宅の品質確保の促進等に関する法律

他方、建築基準法令による最低基準とは別に、より良質な住宅の普及を目指し、また、欠陥住宅被害の対策として、1999年(平成11年)に住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)が制定され、翌2000年4月に施行された。同法では、1)住宅の性能を表示する共通基準を定めるとともに、性能評価の仕組みを整備し、性能に関する契約内容の明示を図り(住宅性能表示制度)、2)性能評価住宅における紛争について裁判外紛争処理制度を創設し(住宅紛争審査会制度)、3)新築住宅の瑕疵について10年間の担保責任を強制した(瑕疵保証制度)。なお、2002年(平成14年)には、住宅性能表示制度が既存住宅についても拡張された。


第4 さらなる法整備・施策の必要性

しかし、欠陥住宅の予防・救済のためのシステムづくりは、いまだ途上であり、以下のような法整備・施策が必要である。


1 住宅安全基本法(仮称)の制定

いわゆる「基本法」は、ある分野・問題についての基本的な考え方や施策のあり方を定める法律であり、憲法上の人権を、行政の施策や私人間の関係に具体化する橋渡しの役割をも果たすものである。


住宅の安全の重要性と現在の実情に鑑みるとき、少なくとも次のような内容を有する「住宅安全基本法」(仮称)の制定が急務である。


  1. 基本理念(安全な住宅に居住することが基本的人権であることの宣言)
  2. 関係者の責務(国・地方公共団体・事業者)
  3. 住宅の安全確保のための基本的施策

なお、現在「住宅基本法」(仮称)制定の動きがあり、2006年の通常国会には法案として提出されることが報じられている。同法は住宅のストック、供給、街づくり等についての政策を実現するためのものと推測されるが、もし住宅に関する「基本法」が立法されるのであれば、あわせて上記内容を取り込んだ法律とすべきである。


2 建築士制度の改革

欠陥住宅の大部分は施工者の施工技術の不足や手抜きによって起こるのであるから、施工者に対する指導・監督を強化すべきは当然である。


とりわけ故意又は過失により欠陥住宅を発生させた施工者には、建設業法・建築基準法違反に基づく厳正な行政処分・刑事罰を課すべきである。


しかし、それだけでは十分とはいえない。建築基準法や建築士法が、建物の建築に際して設計・監理を専門家である建築士に行わせることにしていることに鑑み、下記のような建築士制度の改革が必要である。


(1) 建築士の現状把握と資質向上

建築士に対する指導・監督の前提として、きちんとした各級の建築士名簿を整備し、登録事項に変更があれば速やかに反映するようにすべきである。


また、現在活動している任意団体への加入を促進すべく、一定の特典を与えることも含めて、加入を誘導すべきである。


その上で、すべての建築士に対して、定期的な研修を義務づけるとともに、違法・不適切な業務を行った建築士に対する処分を含め、十分な指導・監督を行うべきである。


(2) 工事監理の内容の法定と工事監理者の権限の強化

監理業務の内容を法定し、また工事差止めを含む権限の強化を図るべきである。


(3) 施工業者から独立した第三者監理の義務化(仮称・登録監理建築士制度)

施工業者がその支配下にある建築士や併設設計事務所に設計を行わせる場合については、監理が厳格に行われるような制度的仕組みが必要である。


例えば、次のような制度(仮称・登録監理建築士制度)が考えられる。


  1. 建築士が監理業務を行おうとする場合は、それぞれ国土交通大臣ないし都道府県知事が作成する名簿に登録し、かつ施工監理に関する法令、監理業務、監理における倫理について研修を受けなければならない。
  2. 建築基準法及び建築士法の定める工事監理(建築基準法5条の4第2項、7条の5、建築士法2条6項、3条、3条の2、3条の3、18条4項)は、1)によって登録した建築士(仮称・登録監理建築士)のみが行うことができる。
  3. 仮称・登録監理建築士は、その者又はその配偶者が役員もしくは使用人、又は過去1年以内にこれらの者であった施工業者の行う施工、その他当該仮称・登録監理建築士と著しい利害関係を有すると認められる施工業者の行う施工について、監理を行ってはならない。

3 確認・検査制度の改善・充実等

(1) 確認・検査制度の改善・充実

1998年(平成10年)の建築基準法改正により、工事開始後、各特定行政庁(建築主事を置く市町村の区域については当該市町村の長をいい、その他の市町村の区域については都道府県知事をいう。)で定める「特定工程」にかかる工事を終えたときに検査を受ける、いわゆる中間検査制度が導入された。また確認・検査主体も、建築主事とともに民間確認検査機関にも開放され、現在では全確認・検査業務の5割弱を民間確認検査機関が行っており、完了検査率も飛躍的に向上している。


しかしながら、建築基準法6条1項4号の木造戸建住宅等(いわゆる4号建物)について中間検査制度を導入している特定行政庁は、いまだ半数程度であり、導入している場合でも、検査対象である特定工程の指定が不十分であり、さらに増やす必要がある。また、民間確認検査機関は行政と異なり、確認申請者からの手数料収入を事業収益としている民間事業者であることを考えると、これら機関による確認検査業務が信頼性、実効性をもつのかという疑問も指摘されている。


したがって、確認・検査制度については、中間検査制度を拡大・充実させ、民間確認検査機関の業務内容の信頼性、実効性確保を図る必要がある。


(2) 予防のための関連制度の整備

さらに、以下のような関連制度の整備も検討すべきである。


  1. 建物登記制度との連携
    完了検査は、建築確認と相まって違法建築・欠陥建築の出現を防止する最低限の検査であるから、これを確実に受検させるため、建物の保存登記の要件として、不動産登記法上、検査済証を必要的添付書類とすべきである。
  2. 住宅ローンとの連携
    金融機関が住宅資金を融資する場合に検査済証の提出を要件とする制度を導入すべきである。
  3. 重要事項説明範囲の拡大
    宅地建物取引業者から、あるいは、これを介して建物を買い受ける場合には、宅地建物取引業者は買主に対して重要事項説明を行うことが義務づけられているが (宅地建物取引業法35条)、現行法上説明すべき重要事項に、当該建物の建築確認・中間検査・完了検査が行われているか否かの事実は含まれていない。これを重要事項に加えるべきである。

また、性能評価住宅については、その内容の説明や「設計」性能評価なのか「建設」性能評価なのか等についても、重要事項として説明を義務づけるべきである。


4 耐震基準を満たさない建物に対する耐震改修促進策の立案

狭い意味の欠陥住宅にとどまらず、既存不適格住宅、老朽化や破壊的リフォーム等の結果、現時点で法令の定める耐震基準を満たしていない建物は相当数存在する。
阪神・淡路大震災後の1995年(平成7年)12月には、建築物の耐震改修の促進に関する法律が施行されたが、耐震診断・耐震補修につき建物所有者への法的拘束力がなく(努力義務)、また、対象建物が百貨店等の規模の特定建築物に限られるという問題点がある。個人住宅の耐震診断・補修には現実問題として公的援助が不可欠であるところ、一部自治体の熱心な取り組みはあるもののいまだ不十分であり実際には耐震補修は進んでいない。この現状を受けて、地震防災推進会議も2005年6月には「10年間で耐震化率90%を目指すべき」として、さらなる耐震補修支援策の充実すること提言している。しかし、東海地震を例にとっても、いつ発生してもおかしくなく、最悪ケースで9000人を超える死者が想定されていることから、政策としては極めて不十分である。安全な住宅に居住する権利が人権であることに照らせば、既存不適格建物に住まざるをえないことそのものが人権侵害状態であり、速やかにこの状態を解消するため、より実効的で迅速な施策の立案が急務である。


第5 結語

国土の多くが廃墟と化した敗戦からの60年間、我が国においては、世界でもまれな経済的復興・発展により、風雨をしのぐという意味での住宅に居住するという面はほぼ確立されてきた。しかし、既存不適格住宅を含むすべての欠陥住宅が根絶されない限り、「健康で文化的な最低限度の生活」はおろか、個人の尊厳や幸福追求の根源にある生命・身体の安全すら、実質的に保障されていないことになる。阪神・淡路大震災から10年を経た今日、改めてこのことを確認するとともに、「安全な住宅に居住する権利」を確保するための第一歩を踏み出さなければならない。


そこで、当連合会は、欠陥住宅を根絶し、安全な住宅に居住する権利を確保するための法整備・施策を求め、主文のとおり決議するものである。