高齢者・障がいのある人の地域で暮らす権利の確立された地域社会の実現を求める決議

自分が暮らしたい地域で暮らし住みなれた地域で一生を終える権利。年齢や障がいの有無にかかわらず、地域社会において、人とのつながりの中で、自分らしい生き方を求める権利。このような「地域で暮らす権利」は、憲法13条、14条、22条、25条、国際人権規約をはじめとする国連人権条約・国連諸原則の要請する基本的な人権である。


わが国の要介護高齢者や障がいのある人に対する福祉施策は、「ノーマライゼーション」と「自己決定・自己選択」を理念とした社会福祉基礎構造改革のもと、2000年の介護保険制度、2003年の支援費制度の導入などにより大きな変革期を迎えた。「地域福祉」と「利用者本位のサービス提供」の実現が謳われ、入所施設や病院の中ではなく、地域の中で自分らしく生きることを支援する施策への転換が打ち出された。しかしながら、それから5年を経過した現在も、これらの人々の「地域で暮らす権利」が大きく前進したとはとうてい言い難い。


要介護高齢者や障がいのある人々の地域での生活を実現するためには、福祉サービスの充実のみならず、住まい、医療、所得保障、雇用・社会参加、教育、権利擁護、バリアフリー、防災など、生活全般についての支援施策とともに、地域住民や家族の理解と支援が不可欠であるが、いずれも極めて不十分である。また、支援にあたっては、当事者自らがニーズを主張し、生活のあり方を決めるという「当事者主権」の視点に立つことが重要であるが、現実には周囲の抱く「当事者の安全と保護のため」という発想のために、結果として、これらの人々の地域での生活は断念させられてきた。


その上、今年見直された介護保険制度や、「障害者自立支援法」においては、むしろ、地域生活支援に必要なサービスの縮小が危惧されている。 


このままでは、わが国において、これらの人々が地域で暮らすことは、名ばかりのものとなりかねない。


以上をふまえ、当連合会は、地域で自分らしく安心して暮らす権利は、誰にとってもかけがえのない基本的人権であることを改めて確認するとともに、とりわけ要介護高齢者や障がいのある人の「地域で暮らす権利」を保障するため、国及び地方自治体に対し、次の施策を求める。 


  1. 国及び地方自治体は、在宅福祉サービスの拡充のみならず、住まい、医療、所得保障、雇用・社会参加、教育、権利擁護、バリアフリー、防災など生活全般について、地域の特性と当事者のニーズに応じた支援策、体制整備、人材養成を抜本的に強化し、これに必要な財源上の措置を講じること。
  2. 国及び地方自治体は、地域での生活を、総合的・継続的に支援することのできる公的な相談・支援機関を、当事者組織、福祉・保健・医療・教育・法律の専門職、地域住民とのネットワークのなかで構築すること。

当連合会は、全国の弁護士会及び会員とともに、これらの人々の「地域で暮らす権利」の確立された地域社会を実現するため、判断能力の不十分な人の権利擁護の支援や地域社会の様々なリスク(犯罪、虐待、消費者被害)からの予防・救済の支援など、地域生活における法的支援の諸課題につき、当事者、福祉・保健・医療・教育従事者及び地域住民との連携とネットワークを構築しつつ、全力で取り組むことを決意し、以上のとおり決議する。


2005年(平成17年)11月11日
日本弁護士連合会


提案理由

1 施設を出て地域で暮らし始めた当事者の声

「僕は生活上のあたりまえのことをさっぱりわかっていませんでした。53年間生きてきて、今さらそんなことがわかったとは驚きでした。本当にいろんなことを一気に学んでしまいました。地域に出ていくと、洗剤・水の使い方、電気の使い方、それらを含めた経済観念が必要です。それから地域で共同で生活するのに必要なこと、たとえば階段を下りるときの足音、ドアの開け閉めのこと。そして人との交流。たとえば、「こんにちは」との人との会話。なぜ必要かというと地域で暮らしているからです。入所施設では教えてくれなかったことです。」


「それからくれぐれも、A君とB君を一緒にするなということです。A君にできてもB君にできないことも当たり前。B君には常識でも、A君にはわからないこともあります。A君とB君を一緒にするのは入所施設独特のことです。」


「これから私はどんどんつまずくでしょう。しかし僕は生きたいと思います。私はいろいろなことを身体で体験させていただきました。それが私にとっては大きな喜びです。」


これは、53歳の知的障がいのある男性が、35年間の入所施設での生活を離れ、地域のグループホームで暮らし始めたときの思いを綴った文章である(『もう施設には帰らない-知的障害のある21人の声-』中央法規出版16~21頁より要約)。


2 わが国の要介護高齢者や障がいのある人への福祉施策の理念

わが国の福祉政策は、「ノーマライゼーション」(障がいのある人や高齢者に関わらずあらゆる人が共に住み、共に生活できるような社会を築くこと)と「自己決定・自己選択」を理念とした社会福祉基礎構造改革のもと、介護保険制度(2000年)、支援費制度(2003年)が実施され、誰もが自分らしく安心して地域で暮らすことを理念とした、新しい契約型福祉社会がスタートした。これに伴い、新成年後見制度(2000年)も改正された。


介護保険制度は、高齢者介護を「家族介護」から「社会的介護」(公的介護)に転換し、要介護高齢者の地域での暮らしを支えようとするもののはずであった。支援費制度も同様に、障害者福祉施策の流れを施設から在宅へと転換し、障がいのある人が地域で暮らすことを実現しようとするもののはずであった。


さらに、介護保険制度の将来像を描く「2015年プラン」では、要介護高齢者を住み慣れた地域に近い環境で介護支援する方向性が強く打ち出され、「障害者グランドデザイン」でも、障がいのある人の地域生活支援の促進が謳われている。特に精神障がいのある人について、7.2万人のいわゆる「社会的入院者」の地域生活移行につき本格的な施策を講じるべきであるとされている。


3 進まない支援施策と地域社会の現状

しかしながら、長年、様々な要因から、障がいのある人が自分が暮らしたい地域で暮らすことを妨げられ、要介護高齢者は住みなれた地域を追われてきたというわが国の状況が、これら新しい社会福祉制度への変革によって改善され、地域で暮らすことが前進したとはとうてい言い難い。現在も、身体障がいのある人のうち18.9万人が、知的障がいのある人のうち13万人が、精神障がいのある人のうち34.5万人が施設などに入所している(厚生労働省「平成13年身体障害児・者実態調査」)。また、サービスを利用している要介護高齢者265万人(2003年1月現在)のうち、要介護度4以上の重度の者で在宅での生活を送ることができているのは、半分以下の状況にある(厚生労働省「介護給付費実態調査月報」2003年4月)。


第48回人権擁護大会シンポジウム(2005年)第2分科会「いつまでもこの地域で暮らしたい-高齢者、障がいのある人が地域で自分らしく安心して暮らすために-」において、全国の基幹型在宅介護支援センターや障がいのある人のための地域支援センター約2000カ所に対するアンケート調査結果が発表されたが、そこで明らかになったのは、要介護高齢者や障がいのある人(以下、「当事者」とも表記する)が地域で自分らしく安心して暮らすためには、まだまだ国や地方自治体の支援施策も地域社会の理解や協力も不十分な現状であった。


  1. 要介護高齢者については、在宅生活を支える医療的ケアや福祉サービスが絶対的に不足しており、サービス利用の経済的負担も重く、本人の意思決定を支える支援も得られないことなどから、家族や地域住民などが認知症に対する対応や独り暮らしでの安全確保が難しいことを理由として入院・入所を希望することもあって、やむなく在宅生活を断念している実態が浮き彫りになった。
  2. 障がいのある人については、在宅生活を支え、地域での社会参加を可能にするための「住まい」や福祉サービスの貧困が大きく、また、就労の機会や年金などの所得保障の不十分さとともに、地域住民の障がいのある人への無理解も大きく、結局、家族による支援がなければ、地域生活は断念せざるをえないという実態が確認された。

4 地域生活支援を脅かす施策転換への危惧

にもかかわらず、国は、介護保険制度や支援費制度の導入による福祉サービス利用量の急速な伸びにより福祉財政が圧迫されているとして、地域生活の支援に逆行するおそれのある施策を次々と進めている。すなわち、 1)介護保険制度の見直しに際しては、要介護度の低い高齢者を各種介護サービス適用から除外し、2)支援費制度については新たに「障害者自立支援法」が成立し、大幅な利用者負担の増大(応益負担への転換)によるサービス利用量の抑制や地域生活支援のために必要不可欠な移動介助の縮小などが危惧されている。3)さらに、2009年には、介護保険制度と支援費制度との統合が焦点となっており、さらなる地域生活支援施策の改悪のおそれが懸念されている。


5 「地域で暮らす権利」は基本的人権

要介護高齢者や障がいのある人が「地域で暮らす」ことは、単なる願望や理念ではない。そもそも地域で暮らすことは、年齢や障がいの有無にかかわらず、地域社会において、人とのつながりの中で、自分らしい生き方を求めることであり、個人の尊厳・幸福追求権の中核をなす権利であり、かつ、平等原則の具現化である。憲法22条(居住・移転の自由)や憲法25条(生存権)の保障を基礎に、憲法13条(個人の尊厳・幸福追求権)、憲法14条(平等権)等の憲法条項によって保障されている。


世界人権宣言や国際人権規約、それに基づく国連諸原則においては、さらに明確に、要介護高齢者や障がいのある人々が地域で暮らす権利の保障を謳っている。たとえば、社会権規約(A規約)委員会のA規約9条や11条に関する一般的意見第5号において、障がいのある人の社会保障を受ける権利は、施設入所で充足されるものではなく、自ら利用できる住居の保障が必要なことや適切な所得援助や支援サービスの提供をすべきことが明言されているほか、「精神病者の保護及び精神保健ケア改善のための原則(1991年)」や「障害者の機会均等化に関する基準規則(1993年)」にも規定があり、現在国連で審議中の「障害者の権利条約(草案)」でも明示(15条)されている。また、高齢者については、「高齢化に関するマドリッド国際行動計画2002」において「高齢者のための住宅の選択肢を拡大し、地域社会において在宅で高齢期を迎えることへの対応の促進」があげられているほか、「高齢者のための国連原則(1991年)」があり、これらの人々の「地域で暮らす権利」を裏付けるものである。


よって、地域で自分らしく安心して暮らす権利は、誰にとってもかけがえのない基本的人権であること、とりわけ要介護高齢者や障がいのある人の「地域で暮らす権利」を保障するためには、国や地方自治体による様々な支援施策が講じられなければならないことを、改めて確認する必要がある。


6 「地域で暮らす権利」の保障に必要な支援

地域で自分らしく安心して生活するということは、様々な社会生活上の困難をかかえた当事者にとって容易なことではない。従って、単に、地域で暮らすことを妨害しないといった自由権的な保障で足るものではなく、国・地方自治体や地域社会が、積極的な支援策を提供することによってようやく実現される権利である。


具体的には、「障害者差別禁止法」の制定などによる機会均等のための条件整備を前提に、国・地方自治体が、福祉サービスの充実だけでなく、住まい、医療、所得保障、雇用・社会参加、教育、権利擁護(この決議でいう「権利擁護」とは、判断能力が不十分な当事者や自己防御能力の乏しい当事者に対する成年後見制度をはじめとした法的支援のことを言う)、バリアフリー、防災など生活全般についての積極的な支援施策を展開することが不可欠である。


また、地域での生活は、入所施設や病院の「保護」された空間での生活に比べ、たくさんのリスクもあり、それらに対する支援策も必要である。


たとえば、在宅高齢者の虐待への対応である。現在進められている「高齢者虐待防止法」の制定とこれに応ずる各市町村の具体的な支援策の整備が早急に求められている。知的障がいのある人への虐待も、これを放置した福祉・労働行政に対する国家賠償訴訟などで問題提起されたが、改善の施策はとられないまま、同種の事案が全国に見られ、早急な対応が求められる。


あるいは、過剰リフォーム詐欺被害など判断力の不十分な当事者を標的にする消費者契約被害も大きな社会問題となっており、これへの相談・救済体制や新たな法整備とともに、予防のためには、成年後見制度活用など権利擁護の対応が緊要である。


また、当事者が地域で暮らす場合、リスクとして、事故や事件の被害者となることも、反対に、加害者として疑われることもある。このような場合犯罪被害者として、あるいは刑事被疑者・被告人として、その特性に配慮した権利保障のための支援が必要である。


さらに、先の新潟県中越地震でも明らかになったごとく、災害時に最も深刻な影響を受けるのもこれらの当事者であり、「災害弱者対策」の整備も重要である。


7 地域生活支援の実践状況

このような支援につき、上記シンポジウムにおいて実施された実践事例の調査結果では、全般的には遅々として進んでいない地域生活支援の中で、一方で、当事者の力をもとに、様々な努力と工夫を重ねた支援によって、「地域で暮らす権利」の保障を実現しているところが、全国各地にあることが明らかになった。


例えば、障がいのある人自らが地域生活を支える介護サービス事業を作り出し自立生活を広げていった活動、重度の心身障がいのある人も一人暮らしができることを実証した事例、高齢・障がいの区別なく地域で必要なサービスを当事者のニーズに応じて提供している地域、日々の高齢者の状況に応じて柔軟なサービスや見守りを提供する「宅老所」の試み、町全体に住まいの場・働く場・憩いの場・地域貢献の場などを設けて、施設から地域に出た障がいのある人の暮らしを継続的に支援しているところ、住民のボランティアが組織的にその地域の高齢者の生活継続を支える取り組み等である。


これらの実践は、これからのわが国の地域生活支援のあり方を示すものとして勇気と展望を切り拓くものである。


8 「当事者主権」の視点の重要性

そしてこれらの実践例は、いずれも「当事者主権」の視点から、それぞれの支援を展開していくことの重要性を教えるものであった。


「当事者主権」とは、「私のことは私が決める。私のニーズが何であるかを代わって決めることを許さない」と言う考え方であり、当事者の「個人の尊厳」の確立のために、当事者の「自己決定・自己選択」とこれを保障するための支援を要求するものである。


しかし、これまでのわが国の福祉施策は、「当事者主権」の視点ではなく、福祉制度・施策を提供する側や周囲の保護的視点によって、「客観的に必要」な処遇を当事者以外の者が判断して提供されてきた。その結果、多くの当事者は、入所施設や病院等の保護の下に置かれ、あるいは丸抱えの家族介護によって、主体性を失い、依存的になる傾向にあった。冒頭の手記は、施設から出たことによって、初めてそのことに気づいた本人の痛切な思いの吐露である。


「自分自身に関することは自分で決める。自分の意見をきかずに勝手に決められない。」という「当事者主権」の主張は、当然であるべき根源的権利についての目覚めと自覚であり、要介護状態だからとか、障がいがあるからということで、それを結果として奪ってきた社会への批判である。


先に述べた各地の実践事例は、当事者自身によるニーズについての意思から出発し、それを支えるために何ができるかを追い求めた結果であり、その結果、地域で暮らし続けることを、様々な困難を克服しながら、わが国においても実現してきたのである。


この「当事者主権」の重要性は、認知症高齢者や知的障がい、精神障がいのある人に対しても変わることはない。各地の実践事例は、十分な関わりにより、非言語的コミュニケーションを含めて、これら当事者自身の意思を理解し、汲み取り、これに基づき支援をすることが必要であり、可能であることを示している。


9 国・地方自治体のとるべき具体的支援施策

以上をふまえ、われわれは、要介護高齢者や障がいのある人の「地域で暮らす権利」の確立した地域社会の実現のため、国・地方自治体、福祉、保健・医療及び教育の専門職や関係諸機関・諸団体、そして弁護士など法律専門職や地域住民と多面的な協力・連携を形成して、様々な課題について取り組みを強める必要がある。


とりわけ、国及び地方自治体は、以下の点を中心に、地域生活支援の施策を抜本的に強化し、これに必要な財源上の措置を講じるべきである。


  1. 当事者が地域で必要な「住まい」を確保することができるように、公営住宅や公的保証人制度の整備、質の担保されたグループホームや「小規模多機能施設」の整備など、地域の中に多様な「住まい」の資源を整備すること。
  2. 当事者がニーズに応じて必要な福祉サービスを柔軟に利用できるように、介護保険や支援費のサービス支給額を当事者のニーズに応じて合理的に決定する仕組みに改正するとともに、移動介助をはじめとした社会生活支援のためのサービスを介護保険制度及び支援費制度内のサービスとして制度化すること。
  3. ターミナルケア、在宅精神医療を含む在宅医療の抜本的整備のため、福祉との包括的なケアを可能とする制度整備や人材の養成及び診療報酬上の必要な措置を講ずるとともに、在宅医療行為に関する福祉従事者の役割分担について明確な基準確立と法整備を行うこと。
  4. 地域で暮らすために必要なサービスをニーズに応じ活用できるように、老齢基礎年金・障害基礎年金の支給額の引き上げなど十分な所得保障施策を講じるとともに、低所得者に対する恒久的な減免措置を整備すること。
  5. 障がいのある人の雇用の場の確保につき抜本的施策を講じるとともに、雇用における権利を保障し、差別をなくすための法整備と職業安定所・労働基準監督署の支援体制整備をはかること。また、重度の障がいのある人についての雇用や社会参加の場を整備すること。
  6. 障がいのある人・子が地域で共に学び、育つことを保障するために、当事者のニーズと選択に応えられるよう教育システムを抜本的に整備すること。
  7. 判断能力が不十分な当事者、あるいは地域社会の様々なリスク(犯罪、虐待、消費者被害等)から自らを十分に防御できない状況にある当事者に対する権利擁護のネットワーク体制(刑事司法機関等を含む)を整備するとともに、成年後見制度の市町村長申立と利用支援事業の積極的活用をはかること。
  8. 地域防災計画における災害弱者支援対策を強化し、地域ごとの「災害弱者対応マニュアル」の作成、災害時の支援センターの設置や福祉施設の避難所としての活用、避難所となる公的施設のバリアフリー化、災害弱者に関する個人情報の適切な管理、仮設住宅のバリアフリー設備の向上、住宅再建への公費支援などの諸施策を早急に整備すること。
  9. 以上の各施策の実施にあたって、実際に当事者の支援にあたる福祉や保健・医療、教育従事者、関係諸機関・諸団体などの資質向上のため、当事者による相談支援(ピアカウンセリング)やサービス提供(ピアヘルパー)の導入を含め、「当事者主権」の視点から、適切な人材育成やサービス提供者への助言・指導を行うこと。
  10. 総合的・継続的相談・支援センターの必要性
    上記各支援策を、当事者自らがその必要に応じて活用し、様々な社会生活上の困難を、適切な助言や援助の中で乗り切り、自ら主体的に生活していく力を高めていくためには、生活上全般について継続的に相談に応じ、具体的な支援を行うことを目的とする、総合的・継続的相談・支援センターが不可欠である。地域で生活するということは、日常生活において様々な問題に直面するが、それを課題毎に分断することなく、その当事者の特性に応じて総合的に、しかも継続的に支援していくことで、本人の生きる力を高めるとともに、有効な社会資源活用が可能となるのである。
    これを公的機関として、身近な地域ごとに設置し、質の高い適切な人材を配置して支援にあたらせるとともに、重要なことは、この相談・支援センターを中心に、地域全体で必要な支援にあたれるよう、当事者自身が相談活動やサービス提供を行っている当事者組織、福祉、保健・医療、教育の従事者や各関係機関、法律家その他の専門職、そして地域住民などの多層的な支援のネットワークを構築し、地域生活のセーフティネットとして、その機能を十分に果たすことが求められている。
  11. 地域住民・家族の理解と協力
    当事者が「地域で暮らす」にあたっては、当然のことながら、地域住民の理解と協力も必要不可欠である。地域の中で当事者が多様な「住まい」を確保するために、あるいは、在宅での虐待や消費者被害など諸問題を発見・予防する「見守り」のためにも、地域住民の理解や協力の役割は大きい。

したがって、地域社会の人々が、要介護高齢者や障がいのある人もまた、同じ普通の住民として、そこに暮らし、共に地域共同体を担う一員であることを自覚し、これらの人々の「地域で暮らす権利」を実現するために、十分な協力をすることが大切である。


ただしそれは、地域住民に公的責務を肩代わりさせることではなく、国や地方自治体が、単なる住民啓発にとどまらず、地域の中に、「共に学ぶ」教育の場や「共に働く」雇用の場、「共に暮らす」日常生活の場など、認知症や障がいのある人々と同じ住民として生活する場を積極的に創出することなどによって、地域住民の体感的理解とこれにもとづく協力を促進させる努力を粘り強くすすめることこそが肝要である。


同様に、「地域で暮らす」には、当事者の家族の理解・協力も重要であるが、このことも、断じて家族による支援を押しつけ、公的支援を後退させ、家族の負担による「安上がり福祉」の道に後戻りさせることを意味しないし、そうあってはならない。当事者の地域生活支援は、基本的に公的サービス・支援を中心とした社会全体によって担われるべきものであり、家族からの自立のもとに実現すべき課題である。


12 地域生活支援における弁護士会・弁護士の役割

当連合会は、これまで第44回人権擁護大会(2001年)において、契約型福祉社会への移行における当事者の主体性確立のための権利擁護のあり方につき提言し、また、障がいのある人の機会均等の条件整備のために「障害者差別禁止法」の早期制定を求める提言をしてきた。


その後、全国の各弁護士会と弁護士は、それらの課題の具体的実践として、各地に「高齢者・障害者支援センター」を設置し、当事者への権利擁護活動の実践を積み重ねてきた。また、障がいのある人の差別を是正する訴訟などの支援や「障害者差別禁止法」案の策定に取り組んできた。


そして、これらの活動を通じて、当事者のおかれている現状や前述した施策の動向などから、「地域で暮らす権利」の人権課題としての取り組みが今こそ必要であるとの認識にいたったのである。


この課題の具体的実現のためには、弁護士が、地域生活のための法的支援として、総合的な法律相談・支援体制の整備、サービスの質向上のための苦情解決機関等での取り組み、成年後見制度など権利擁護制度の担い手の受け皿作りと改善提言、刑事手続や消費者被害、虐待救済等リスクのある様々な場面での法的援助など、多様な課題において積極的な役割を果たすことが期待されており、各地の弁護士会や弁護士は、これに全力で取り組む必要がある。


13 まとめ

以上のことから、当連合会は、改めて、要介護高齢者や障がいのある人の「地域で暮らす権利」の確立とその保障が、わが国における人権課題として今こそ重要であることを確認するとともに、これらの人々の「地域で暮らす権利」を保障することは、すなわち一人ひとりが大切にされる地域社会の実現でもあるとの認識に立ち、必要な支援が保障されるよう、国・地方自治体の公的責任に基づく諸施策の抜本的強化及びこれに対する財源上の措置を求めるとともに、法律家としてなすべき支援を、当事者組織、福祉・保健・医療・教育の専門職や関係諸機関・諸団体、及び地域住民との連携とネットワークの中で、全力を上げて取り組むことを決意し、上記のとおり決議するものである。