接見交通権確立に関する決議

本文

被疑者及び被告人と弁護人との接見交通の自由は、国民にとって憲法が保障する司法上の基本的人権であり、弁護人にとっても固有の基本的権利である。


しかるに捜査当局は、右接見交通の自由にとっては例外的な「指定に関する規定」を不当に拡大し、いわゆる一般的指定によって全面的に接見を制限し、具体的指定によってその一部を解除し、その上恣意的な具体的指定と指定書の持参を必要条件とするなどの運用を行い、著しく右の接見交通権を侵害する事例を頻発させ、われわれをしてしばしばこれに対する批判とその是正を求める提言を余儀なからしめて今日に至った。


のみならず最近のいわゆる拘禁二法案においては、施設管理に名をかりて、自由な接見交通権の憲法上の保障を侵害するような立法措置が進められようとしている。


よってわれわれは、捜査当局に対し違憲・違法な「一般的指定制度」の即時撤廃並びに具体的指定要件の厳格な解釈適用及び指定の際における実質的な防禦権の尊重を強く要望する。


右宣言する。


昭和59年10月20日
日本弁護士連合会


理由

1.弁護人又は弁護人となろうとする者が身柄を拘束されている被疑者又は被告人と自由に接見交通する権利は、国民にとって憲法第31条、第34条及び刑事訴訟法第39条1項により保障された最も重要な司法上の基本的人権であり、弁護人にとっては、固有の基本的権利である。


この法意にもとづき、すでに最高裁判所は、刑事訴訟法第39条3項所定の接見指定につき、接見交通の自由を原則とした上、指定による制限を必要やむをえない例外的措置である旨明言した(最高裁第1小法廷昭和53年7月10日判決)。


2.ところで、このように憲法・刑事訴訟法によって保障されている接見交通権は、昭和20年代より捜査当局の執拗な妨害行為の反復によって形骸化され、現状においては、極めて閉塞的な状況にあることは周知の通りである。


すなわち捜査当局は、弁護人と被疑者との接見交通を原則的に禁止する一般的指定書を発行し、例外的に検察官の発行する具体的指定書を持参した場合にのみ接見を許すという運用が全国的にみられる現況である。このようないわば「面会切符制」が憲法第34条及び刑事訴訟法第39条に違反することは明らかである。


しかるに、捜査当局は、右最高裁判例に示された「捜査の中断による顕著な支障」という要件が存在しないにもかかわらず、弁護人と被疑者との接見を原則的に禁止する一般的指定を行い、その上被疑者との接見を求める弁護人に対しては、事件の特性、弁護人の都合などにかかわりなく、「捜査の必要」を口実として恣意的な日時の指定を一方的に行い、更に具体的指定書の持参を強要する等の違憲・違法な運用を依然として改めず、今日に至っている。


3.接見交通の権利を守る闘いは、当連合会の歴史と共に長くてきびしく(自由と正義24巻11号78頁、34巻5号参照)、本問題に関する当連合会、各弁護士会連合会及び各弁護士会の決議や要望等は、昭和25年以来現在まで枚挙にいとまもない程である。


しかしながら、このようなわれわれの永年にわたる多くの要求や提言にもかかわらず、捜査当局は、依然として一般的指定制度を維持して、接見交通の自由を妨害し権利を侵害し続けている。


しかも一部裁判の中には、右のような捜査当局の誤った法の運用を実質的に追認し許容するような見解すらあらわれている。のみならず、最近のいわゆる「拘禁二法案」においては、施設管理に名をかりて、接見交通の自由に対する憲法上の保障を侵害するような立法措置さえ進められようとしている。


このように接見交通権はまさに危機的状況にあるといわなければならない。


当連合会は、去る昭和58年6月、接見交通権確立実行委員会を設け、一般的指定制度の撤廃・接見交通の自由確立をめざして調査研究を行い、本年4月には当面の要望意見を関係当局に明示した。


4.われわれ弁護士及び弁護士会は、右のように憲法・刑事訴訟法に公然と挑戦し、接見交通権を侵害する捜査当局の違法行為の継続を断じて許すことはできない。


よって本決議を提出する。