民事介入暴力排除に関する決議

本文

暴力や暴力を背景とする威圧的行為が民事紛争等に介入し利益をむさぼることを許容するとき、公正な法秩序が破壊されるばかりではなく、関係者の人権侵害を招くこととなる。


われわれの長年にわたる努力にもかかわらず、こうした民事介入暴力はいまだに減少せず、かえって多様化、巧妙化、広域化している。いわゆる整理屋や示談屋はあいも変らず各地で暗躍を続けており、総会屋も企業を引きつづき資金源にしようとして、あらたな暴力的手口を模索している。これらの動きに加えて、今次の貸金業規制法のもとにおいては、利息の取立をめぐってあらたな民事介入暴力が堂々とまかりとおるようになることが憂慮される。


われわれは、かかる民事介入暴力に万一にも手を貸すことがないよう自戒し、暴力を背景とする人権侵害と社会的不正を断固排除することをあらためて決意するとともに、警察をはじめ、各関係機関及び民間諸団体に対して、民事介入暴力の根絶のために各弁護士会が設置した民事介入暴力被害者救済センターの活動に対し、なお一層の理解と協力を要望する。


右宣言する。


昭和58年10月29日
日本弁護士連合会


理由

暴力や暴力を背景とする威圧的行為が民事紛争等に介入し利益をむさぼることを許容するとき、公正な法秩序が破壊されるばかりではなく、正当な権利の実現を妨げるなど関係者の人権侵害を招くこととなる。


われわれは、このような見地に立って昭和55年の日弁連人権擁護大会において民事介入暴力による被害の防止を自らの課題とするなどの決議を採択した。その後、全国の単位弁護士会に次々と民事介入暴力被害者救済センターが設置され、現在では34を数えるに至った。われわれの長年にわたる努力と、警察当局の民事介入暴力に対する厳しい態度とがあいまって、大手整理屋の取締りにある程度の成果は得られたが、未だしの観がある。なお、当初は、西日本とりわけ京阪神地区において顕著であった民事介入暴力事犯が今や北海道から沖縄までほぼ全国的に蔓延し、その被害は、一層深刻な様相を呈している。また、今次の商法改正によって株主の議決権行使に伴って企業側の利益供与が禁止された反面、総会屋の企業に対する不正な利益の要求は、巧妙かつ陰険の度を加え、これに応じない企業においてはその株主総会で延々8時間以上も総会屋の蹂躙を許した事例も発生した。さらに、いわゆる貸金業規制法の成立により利息制限法超過の一定の利息が適法化され、しかも任意に支払われた利息制限法超過の利息は適法であることを明示した。右法律に自信を得た悪質金融業者が大蔵省による各種の対応にもかかわらず、これまでにもまして、不法かつ不相当な債権取立を強行するおそれもある。


かかる事態に当面し、われわれは、弁護士としての高い倫理を保持していやしくも民事介入暴力に万一にも手を貸すことのないことは勿論、次々と新しい手法をもって跳梁しようとする民事介入暴力の制圧と被害の救済に研鑚・努力する必要のあることを痛感し、かかる民事介入暴力を断固排除することを改めて決意する。


ところで、こうしたわれわれの努力は、弁護士の職域と隣接する警察、行政機関あるいは民間諸団体からの相互理解に基づく連携協力関係を得られなければその全きを期すことができないことが明白である。


そこで、われわれは、民事介入暴力による被害者に対してわれわれと連携することなどにより、不退転の勇気をもって、民事介入暴力に対処することを求めるものであるが、併せて警察・行政機関・民間諸団体などに対して個々の弁護士や各単位会の民事介入暴力被害者救済センターの努力に、今後ともなお一層の理解と協力をするよう要望するものである。