刑法「改正」問題に関する決議

本文

刑法は国民の基本的人権に直接かかわる基本法典であり、その「改正」は広い国民的合意に基づいて進められなくてはならない。


われわれは、右の趣旨から、改正刑法草案が提案する現行刑法を超える処罰の拡大、重罰化、保安処分の新設に対し、これを白紙撤回すべきことを求め、阻止運動を展開してきた。


法務省は、昭和56年12月26日、日本弁護士連合会をはじめとする国民各層の批判を一部受け入れ、重罰化についてはほぼ撤回したものの、保安処分については一部手直しのうえ、あくまでも新設に固執するほか、処罰の拡大についても導入の意図を捨てておらず、近い時期に国民各層の批判を無視して政府案を作成し、国会上程を強行しようとしている。


われわれは、さらに広く国民的支持を結集するため、現行刑法を日本弁護士連合会の意見書にそって現代用語化することを提唱した。これは刑法「改正」問題に関する幅広い国民的合意となり得るものであり、すでに各界に支持と理解を広げつつある。


われわれは、基本的人権と民主主義を擁護する立場から、従来の主張を実現するため一層努力するとともに、法務省に対し、国民各層の批判を無視して「改正」作業を強行しないよう求める。


右宣言する。


昭和57年10月30日
日本弁護士連合会


理由

昭和49年5月29日、法制審議会が答申した改正刑法草案の現行刑法を超える処罰の拡大・重罰化および保安処分の新設の提案に対し、日弁連は昭和49年3月に発表した意見書において、基本的人権と民主主義擁護の立場から一貫して反対し、広く国民とともに阻止運動を展開してきた。


昭和56年12月26日の日弁連と法務省の意見交換会において、それまでの論議も踏まえ、法務省から示された「刑法改正作業の当面の方針」は、「意見の対立の著しい問題については現行法のとおりとする」との原則を明らかにし、それに従って、改正刑法草案による重罰化の提案をほぼ全面的に撤回するに至った。


これは、日弁連をはじめとする国民各層の強い批判を受け入れたものと評価できる。


しかるに、右「当面の方針」は同時に、この原則の例外として、反対の強い保安処分については、名称を治療処分と改め若干の手直しを加えているが、依然としてその新設に固執するほか、公務員機密漏示罪など新設処罰規定の大部分について「検討中」として導入の意図を捨てていない。


最近の動向からみても、法務省が国民各層の批判を無視し、十分に意見を聴かないまま政府案を作成し、国会上程を強行するおそれが強まっている。


このような切迫した状況のもとで、日弁連意見書にそって現行刑法を現代用語化し、広く国民の理解と支持を結集していくことは、残る保安処分の新設、処罰の拡大を阻止するためにも、大きな役割をはたすものである。


刑法全面「改正」問題が重大な局面を迎えているこのような時期に、本決議をする意義はきわめて大きいというべきである。