情報公開法等の制定に関する決議

本文

民主主義制度は主権者たる国民が「知る権利」を保障され、正確かつ充分な情報を提供されることによってはじめて充分に機能するものである。また、政府・国家機関および地方公共団体のもつ公的情報は、国民全体の共有財産であり、原則として国民は誰でも自由に利用できるものでなければならない。


しかるにわが国においては、国民の利害に密接に関連し、国政判断の資料となるべき公的情報が恣意的に非公開とされることが多く、これに対する国民による情報公開請求手続も何ら整備されていないのが現状である。このような情報の国家的独占ならびに秘密主義は、国家による国民の官僚的操作の基礎をなすと同時に、適切かつ公平であるべき行政を阻害し、政治腐敗の根源となっており、国民が国政の主体であるという民主主義の理念に照らし、強く是正が求められなければならない。


よって、われわれは、政府・国家機関および地方公共団体による情報独占を排し、国民の基本的人権を重んじる開かれた民主政治を実現するために、国および地方公共団体に対し、「知る権利」を制度的に保障する情報公開法・同条例の制定を強く要望する。


右決議する。


昭和55年11月8日
日本弁護士連合会


理由

近時、国民各階層の間に政府機関の有する情報の原則的開示を求めて情報公開法を制定すべきであるとの声が高まっている。これは1970年代の一連の公害や薬害に反対する市民運動のなかで公害・薬害のため、政府機関のもつ情報の重要性が痛感されたことや、ロッキード事件等の一連の疑獄・腐敗事件の多くがアメリカ等の外国政府の情報に端を発しながら、その真相解明がほとんどつねにわが国行政上の「秘密」の前に挫折せざるを得なかった苦い体験に基づいている。さらに最近金大中事件の真相を記したアメリカ政府情報我同国の情報自由法によって公開されたが、このことはわが国における秘密行政の根深さと、情報公開制度の立ち遅れをあらためて浮き彫りにした。


加えて日米両国の歴史学者等により構成される「日本占領国際会議」の参加者が、政府に対し、占領文書等の公開アピールを発したが、このことは、政府情報の開示が単に行政の民主的コントロールという政治的要請にとどまらず、学術研究上の要請でもあることを示している。


そもそも政府は、今日の情報社会において権力を背景に強大な情報収集力をもち収集した情報を自在に駆使し得るところから、それだけで国民に対し圧倒的な情報上の優位性を有しているが、それらの情報の大部分が秘匿されるとき、政府と国民との懸隔はますます増大し、国民による政府の民主的コントロールは困難となり、ついには国民は、国政の主体であるという民主主義の理念に反し、単なる政府の情報操作の客体に転落してしまう危険がある。200年に亘る情報公開の歴史をもつスウェーデン、1966年情報自由法を制定したアメリカをはじめ、議会制民主主義を採る欧米先進諸国が近時相次いで情報公開制度を整備・拡充しつつあることは、情報の政府独占のもたらす民主主義への脅威とこれに対処するための情報公開制度の必要性・有効性がこれら諸国で共通の認識となっていることを示している。


ましてや積年に亘り行政の秘密主義が横行しその弊害が噴出しつつあるわが国においては、とりわけ情報公開制度導入・整備の必要性が痛感されるのである。


わが国においては、いわゆる沖縄密約事件をめぐって国民の「知る権利」が注目をあびたのを契機として、判例・学説・世論においてその概念が定着しつつあるが、前述の一連の事態のなかで「知る権利」を制度的に保障するじょうほうこうかい制度の必要性が叫ばれ、昨年九月の自由人権協会による「情報公開法要綱] の発表や総選挙時における各野党の公約・試案発表などを通じて議論はいよいよ高まり、いまや政府の消極的態度にもかかわらず情報公開法制定の機は充分に熟しているものと言わなければならない。


当連合会は、民主主義の理念に基づき、情報公開法の速やかな制定とそれによる国民の「知る権利」の確立を求めるものである。