民事暴力対策に関する決議

本文

近時、倒産整理、債権取立、交通事故の示談など民事紛争への暴力団およびこれに類する者の介入は、ますます激しさを加え、法廷活動を除いたあらゆる分野に彼等の手がのびつつあるといっても過言ではない。


その結果、紛争関係当事者の人権がじゅうりんされ、自殺、蒸発などの悲劇を招来して社会正義、社会秩序に脅威を与えている。


かかる事態を招来した一因としてわれわれ弁護士は、被害者を救済する厳しい姿勢に欠けていた反面、ややもすれば彼等の利用に甘んじる者もいたことを深く反省しなければならない。


われわれ弁護士は、これらの被害を防止するため、各弁護士会に「民事介入暴力被害者救済センター」を設置するなど、ねばり強い運動を展開することを決意するとともに、裁判所の人的・物的施設の不備が介入の背景ともなっていることにかんがみ、裁判所に対しその改善を求め、警察および検察当局には、積極的な態度をもってこれに対処することを要望する。


右決議する。


昭和55年11月8日
日本弁護士連合会


理由

近時、暴力団ないしその関係者による民事執行事件、倒産事件、債権取立事件への介入は著しい。


昭和53年度の警視庁の統計によると、暴力団等が民事事件に介入して得る収入は七百二十億円であり、これに従事する人員は一万五千人はくだらないと言われている。


当然のことながら、これらの数字のかげに泣く被害者は多数であり、かつまた、その被害程度も金銭的被害を越えた悲惨なものがあることは周知の事実であるが、警察当局が彼等の本来的財源である覚せい剤その他の取締りをすればするほど、民事介入の度合は増加してゆくであろうことは明らかである。


このような事態が出現した原因は、警察の民事暴力事件に対する消極的姿勢、民事裁判における人的・物的施設の貧困等多岐に亘るであろうが、われわれの立場よりすれば、弁護士が従来ともすると、デスワークに傾き被害者救済が口頭禅に終っていたこととともに、暴力団等に安易に利用される弁護士が存在していたことが挙げられる。


われわれは、このような反省のうえに立ち、既に当連合会内に民事介入暴力問題対策委員会を設置し、警察庁その他関係機関との連絡調整を蜜にし、本問題をめぐる諸原因を解決していく具体的諸方策の樹立に向け努力を重ねつつ、ねばり強く救済運動を展開していく所存であるが、同時に、裁判所、警察庁、検察庁等関係当局に対して諸施設の改善、積極的な対処を強く要望する次第である。