沖縄本土復帰促進に関する件(宣言)

沖縄在住百万の同胞は、日本の領土に住み、日本の国民であるにかかわらず、戦後30年を経た今日、なお米国の軍事支配下にあって、日本国憲法による基本的人権を保障されていないことはまことに遺憾である。


時あたかも世界人権宣言採択二十周年を記念する「国際人権年」にあたる。


よろしく、政府は沖縄の本土復帰を促進し、もって沖縄同胞の人権保障を実現すべきである。


右宣言する。


(昭和43年10月16日、於長崎市、第11回人権擁護大会)


理由

現在のアメリカの沖縄統治の実体は沖縄住民の意思にも希望にも全くかかわりのないアメリカ側で一方的に定められた大統領行政命令に基づき、国防長官任命の現役軍人(実際には沖縄の陸軍指令官がいつも任命される)から任命される高等弁務官の下にある民政府によってなされている。


民政府は行政、立法、司法の三権を行使するが、その頂点に立っている者は高等弁務官であり、単なる行政の最高責任者ではない。従って民政府には厳密な意味では三権分立は認められない。


また、その基本法たる大統領行政命令も全く民意に基づかず制定されその行使者たる弁務官も任命制度であり、その権限があらゆる分野に最終決定権を有するといった組織にである。従ってその統治機構はたぶんに独裁的であり民主的でない。


高等弁務官は常に現役軍人而も沖縄陸軍の軍指令官である。アメリカの沖縄支配が沖縄住民の福祉向上とか産業開発とかいう方面でなく単に沖縄基地の自由使用という至上命令を達する手段であることに鑑みその支配態勢は軍事支配的であることも否定できない。


民政府の下部組織として行政主席を頂点とする日本人(沖縄在住の)による琉球政府が存在する上記アメリカの沖縄支配に差支えない範囲において権限を有するに過ぎず、法の存在を以て沖縄支配が民主的であるとする弁解も当らない。


アメリカの沖縄支配が前期のような目的に基づく支配態勢の結果として沖縄には日本国憲法の適用が(法律上の見解の如何をとわず)認められる筈はなく現に憲法の適用外におかれていることは間違いない。


沖縄の人権侵害特に統治者たる米軍並びにその構成員たる軍人軍属によるそれの多発性並びにその救済の困難さの根本原因は以上のアメリカの軍事独裁的占領政策自体に基づくと云っても差支えない。


隠して、沖縄百万の日本人は今もって国会に代表を送ることもできず、沖縄と本土との自由往来を今もって制限されている。その制限の基準はもっぱらアメリカの利害のみを以て判断され効果的な法律的抗争の方法は存在しない。


沖縄の軍用地は元来戦時中の軍事占領され所有者の意思に関係なく強制的に使用されていたものを平和条約発効後占有の根拠を擬制的に賃貸借に改めたものが最も多く、平和条約後の新軍用地を銃剣付武装軍隊による実力行使みよって取上げ、住民側も止むなく同意したものなどを含めその使用の法的根拠がすこぶる曖昧である。またその補償金額が相当であるかどうかを訴えによって争う方法もない。沖縄全体における広大な土地接収が適法かどうか、その補償の適否について沖縄の人達は訴える所がないのである。


而もこの非民主的非近代的な土地取上げは過去のことでなく、特に最近のベトナム戦等アメリカのいわゆる極東の緊張増大のため新しい接収もなされつつあるのが実状である。


然し、沖縄における人権問題として最も重視しなければならないことは、沖縄県民に対して米軍人軍属等軍関係者からなされる犯罪行為でありこれに対するアメリカ側の処置である。


沖縄の米軍人による沖縄住民に対する犯罪の特徴はその多発性にある。琉球警察は米軍人に対して極めて限定された逮捕権しかないのと米軍人の犯罪の数を発表したがらないが、それでも琉球政府に対して提出された報告によると昭和41年度の凶悪犯罪数は127件でそのうち検挙されたもの51、検挙率40.1%というの数字を示している。(沖縄白書127頁下段一覧表)この数字は沖縄に居る米軍人により沖縄居住の日本人に対する犯罪数としては可成りの高率を示すものである。而もこの数字は琉球警察自身の扱ったもののみであり、米軍MPの扱ったものや米人同志の事件を含んでいないのであるから尚更である。こうしたこれらの米軍人の沖縄住民に対する人権侵害といって差支えない。


これらの人権侵害に対する人権回復の方法の一つは、加害者に対する刑事裁判による刑罰であるが原則として琉球政府の警察には、逮捕権、捜査権はもとより裁判所に裁判権はない。従って、仮にその琉球民警察によって逮捕されてもこれをアメリカ側に引き渡さねばならない。然し、この結果については情報さえも与えられないのが常である。このことは琉球民警察のアメリカに対する従属的立場からの外犯罪者検挙に対する熱意を失わせて検挙率の低下を来している。このことは同時に沖縄の民衆に対し、更に人権侵害の増大の原因ともなるわけである。


1952年アメリカは外国人損害賠償法を発布した。この法律は外国において発生した米軍関係の損害を賠償することにより外国居住者と米国との間に親善関係を維持増進することを目的としたもので元来加害者として被害者に対して与えた損害を賠償することを目的とするものではない。多分に恩恵的処置により親善関係を樹立しようとするにある。従ってその賠償すべき額は1件15,000ドルを上限とし、その支払額は加害者たるアメリカ側の査定に満足した者に対して支払われる制度である。被害者は止むを得ずアメリカ側の一方的査定を承諾した場合でもこの満足した趣旨の領収証をとった上で支払われるのである。民事的立場からしての権利侵害に対する回復方法もこれ以外には存しないのが実状である。 沖縄の人権侵害とその救済方法の実際はこうした水準にある。吾等が人権擁護の立場よりみれば沖縄は全く前近代的な状況にあると云わねばならない。吾等人権擁護を天職とする弁護士は沖縄の政治組織がいかなる状態にあるかを問わず沖縄の同胞のためかような声を大にしてこれが非違を究明して是正のために努力することに努めねばならない。


然しながらこのような人権侵害の多発とその救済方法の欠除との根本原因、結局は沖縄に対するアメリカの施政権行使にあり日本国憲法の適用外にあることは云うまでもない。政府に対し施政権返還のための最大の努力を要望する所以である。


注(1) 提案会
東京弁護士会、第二東京弁護士会


注(2) 要望先
内閣総理大臣、衆・参両院沖縄問題等に関する特別委員会委員長、各党党首