アメリカ高等弁務官のなした裁判移送命令の撤回に関する件(第五決議)
沖縄のアメリカ高等弁務官が、琉球上訴裁判所に繋属中に友利隆彪から提訴された当選無効事件並びにサンマ事件と呼ばれる物品税加納金還付請求事件を、アメリカ民政府裁判所へ移送せよ、と命じたのは、沖縄県民の司法自治を否定し、且つ、基本的人権を奪うものである。
本会は、さきに会長声明を以て右の撤回方を要望したにかかわらず、今日なお実行をみないことは、まことに遺憾に堪えない。
よって茲に右移送命令を速やかに撤回されんことを要望する。
右決議する。
(昭和41年8月27日、於札幌市、第9回人権擁護大会)
理由
沖縄県民については、終戦後21年が経過するにも拘らずいまだ日本国憲法の保障が与えられていない。沖縄県では大統領行政命令が最高の法規として機能し、アメリカの高等弁務官に絶大な権限が付与されている。本件についても、昨年11月行われた琉球立法院議員選挙で最高得票を得たにも拘らず過去の罰金50ドルに処せられた裁判の存在の為に被選挙権が剥奪され、他の候補者が当選人と決定された事案につき友利隆彪氏から中央選管を相手どって提訴された選挙無効訴訟と、物品税の課税対象とならないサンマにつき琉球政府の行政指導に基づき、誤って物品税を納付した原告から誤納付金の返還を求めた「サンマ事件」と呼ぶ裁判が、共に巡回裁判所で原告側が勝訴し、被告側の上訴により上訴裁判所に係属し、判決直前に到っていたにも拘らず、アメリカ高等弁務官から、この事件は「合衆国の安全、財産又は利害に影響を及ぼすと認める特に重大な事件」であるとして琉球政府裁判所からアメリカ民政府裁判所に移送せよとの命令が出され、それに応じて上訴裁判所から二事件はアメリカ民政府裁判所に移送されたというもので、これは、沖縄県民から他の権力から独立した裁判所の裁判を受ける権利を奪うものであり、司法自治を否定するものである。しかもアメリカ高等弁務官の移送命令はアメリカ民政府裁判所に移送を為し得る場合を定める行政命令の基準からいっても認められない誠に乱暴な措置である。
この様な措置は、我々が沖縄県民について1日も早く日本に復帰し、日本国憲法の権利の享受が出来るようにと考えている希望に逆行するものであるので、先に会長声明を発し、その撤回方を強く関係方面に要望してきたがそれにも拘らず、現在に到るもその実現を見ないので本決議をする次第である。
注(1) 提案会
東京弁護士会
注(2) 要望先
総理府総務長官、駐日アメリカ大使