教育の刷新と非行少年補導対策に関する件(宣言)

近時、青少年の非行甚だしく、殊に殺人、傷害等人命軽視の悪質事犯は、その手段残虐を極め、まことに憂慮に堪えない。


われわれは、これが防止のため関係当局に対し、時代に即応する教育の刷新及び非行少年の補導育成につき、適切なる施策の強化を要望するとともに、全国民に道義の高揚をうったえ、もって、憲法の保障する基本的人権の擁護に遺憾なきを期する。


昭和38年11月22日
於鹿児島市、第6回人権擁護大会


理由

我が国戦後青少年の非行状況は、昭和35年において検挙された犯罪少年1,715,000人、翌36年は1,748,000人と年を経るごとに増加している。しかも最近においては年少少年の犯罪増加と犯罪の集団化の傾向がみられ、更にまた、犯罪少年の累犯の増加と犯罪の狂悪化が目立って多くなっている。斯した非行少年の犯罪は、善良な国民の生命、身体、自由或は財産を恐怖にさらし、事実、被害を受ける件数も今日凡そ年間1,750,000人以上という実情にある。


その原因の那辺にあるかというと、国民の道義の低下と人命軽視の思想が青少年に対する強い影響をもたらしているといえるが、反面、従来の教育に適切を欠くものがあり、更には映画、テレビ、雑誌等の悪影響その他貧困の結果など考えさせられるものがあり、この際、教育の刷新と少年の訓育補導につきあらゆる施策の改善、充実をはかり、以って次代を担う青少年の健全な育成を期する要を痛感する。


右宣言実現のために左記要請書を全国教育委員会委員長に発送した。


要請書

本会は予てから、人権の擁護、社会正義の実現に努力を続けてきましたが、青少年の非行による社会不安は深刻の様相を呈し、国民生活は著しく歪められ、座視するに忍びないので、敢えて右の宣言を決議し、関係方面に対し一そうの協力方を要請したのであります。


しかるに、非行青少年の悪質化は、いよいよ国民の生命、自由及び財産を著しく侵害しつつあるの実状に鑑み、本会は、ここに非行青少年問題と人権侵害問題とを特に採り上げ、これが対策を全国民に訴えたいと存じます。


  1. 法務総合研究所発行犯罪白書(昭.38年版)によれば、昭和36年度に於ける非行並びに犯罪少年(8 才~19才迄)検挙人員数は実に1,749,000人の膨大な数となっております。これに検挙洩れの非行、犯罪少年並びに同青年の数を合すれば、2,000,000人を遥かに超過し、しかもこの数は年々増加の一途をたどっているのであります(昭.38.9.6.警察庁発表の非行少年白書)。
  2. 憲法が国民に保障する基本的人権とは、国民の生命、自由及び幸福追求に対する権利が尊重され、また、国政の上ではかかる国民の権利が最大の尊重を必要とされているのであります。ところが非行、犯罪青少年の数が前記の通りでありますから、これ等の者のみによる被害者すなわち人権侵害を受ける人員は少くとも二百幾十万を超ゆることになるのであります。
    われわれがこの権利を享有、維持するがためには、すべての国民が協力して非行青少年を無くす方策を樹立することが緊急不可欠だと信じます。
  3. さて、非行青少年の横行犯罪青少年の激増は第二次大戦後各国共通の悩みでありますが、わが国のように敗戦による社会状勢の激変のあった国には特別の事情があると考えられます。例えば衣食住の欠乏、民主主義の無理解、一部教育の偏向、道義の頽廃並びに俗悪な映画、テレビその他出版物の汎濫などが挙げられるのであります。このような社会悪を一掃して、明るい社会と化し、清純にして闊達な青少年を求めるには、教育環境を清浄化し、家庭、学校、社会において、道徳を基盤とする正常教育を徹底的に行う機運を助長実施し、すでに犯行に転落した少年に対しては少年法の適切な運用、施設の拡充強化によって累犯を防止し、青少年に夢と希望とを持たせる健全な娯楽、スポーツ等により育成することが必要であります。
    これがため諸政の抜本的な刷新を図り、政府、政党、各種の団体各個人が実践躬行、身を以て範とする、真摯にして勇気ある行動を要求されるのであります。ここに想い至れば、まず、全国民の自覚による教育の正常化を必要と思考するのであります。
  4. 昨秋の総選挙に際し各政党は国民に対し公約として、教育に関しては適切なる方策を樹て、実施することを明かにし、昭和38年第16回新聞大会は善意を広め暴力を排除する決議文を発表されました。さらに、各日刊新聞はマスコミの自粛を切望し、また本年度政府予算において総理府、文部省、厚生省、労働省は青少年対策のため570億円を要求する等、非行青少年問題の深刻、重大さを国民に知らしめたものであります。
  5. 本会は会の使命に鑑み人権の擁護運動を強く推進するにあたり、全国民が非行及び暴力を排除し、人間を尊重する民主主義国家の建設に協力邁進することを期待し、前記鹿児島大会宣言の実行に協力方を要請するものであります。

以上


昭和39年3月31日
会長、人権委員長連名