法廷等の秩序維持に関する法律の改正方の件(決議)

法廷等の秩序維持に関する法律は、根本的に改めらるべきであるが、その運用については、弁護権を尊重し、特に慎重を期せられんことを強く要望する。


昭和36年9月23日
於仙台市、第4回人権擁護大会


理由

  1. 法廷秩序に憂慮すべき事象が間々発生することは、われわれ在野法曹に於ても憂を共にするものである。法廷を国民の絶対信頼の下に冷静な真実発見の場とすることは、権力の背景を有せず理論と弁論を武器とし社会正義実現の使命を課せられた弁護士の誰れよりも強く要請する処である。混乱した法廷ではその武器を奪われることを意味するが故である。
  2. この混乱の原因は、しかし簡単ではない。当事者の側に存する場合も考えられる。公益性を代表する検事が被告人の有利な証拠の閲覧を拒み之を要求する弁護人の追及に初まる例が多い。之が訴訟指揮に問題のある場合も絶無とは言えまい。また公安事件に於て団体的背景による集団行動が問題とされねばなれね場合も有り得ると思う。ある場合には法の強制による秩序恢復も止むを得ぬ場合もあり得よう。
  3. 法廷秩序維持に関する法律は、法廷の混乱除去の方法として驚くべき制度を制定した。監置、過料の制裁及び之が手続として当該裁判所制度による非公開即決処分を許容したのである。その基本的理念は、之等の処分は刑罰ではない。従って之等の手続は憲法上所謂裁判ではないというのである。
  4. これは驚くべき曲論である。弁護士を含めた国民に3万円以下の義務を負担せしめ、20日間自由を拘束し、はく奪し、監置場(刑務所又は拘置所)に監置することが刑罰でなくて何であろう。憲法所謂刑罰であり、裁判であることは議論の余地のない問題である。法廷で弁護人の立会の下に為さるべきは憲法の要求であり、文化の要請である。

かかる不条理な憲法をじゅうりんする法は速やかに改正さるべきである。特に人権擁護の使命を負う弁護人に対し立法当時の説明に不拘之が適用を為すに至った近時の実例は、司法の基本的構造を無視した暴挙と言わねばならね。


日本弁護士連合会発足以来、弁護士の網紀、懲罰は弁護士会の自治に任し、苟も非難さるべき行為は、自発的、他発的に之が自粛に待って来た。然るに近時の例は、之を無視し何等の申告、申入をなさずして強権の発動に及んだことは、由々しき暴挙と言わねばならない。