検察官に対しその公益性の再認識を要望するの件(決議)

検察官は、公益を代表するものであるにかかわらず、刑事裁判の現実においては、秘密交通権を犯し、あるいは証拠を隠匿し、また、弁護人の証拠蒐集を防げるがごとき事例がある。


よって、検察官はその公益性を再認識し、司法的正義の実現を期すべきである。


昭和36年9月23日
於仙台市、第4回人権擁護大会


理由

  1. 戦後日本国憲法は民主主義を確立し、之が根幹として基本的人権の尊重を宣言し、これを保障するため司法権の独立を再確認し検察官の公益性を強調し、弁護権を拡充強化した。
  2. 法が検察官に望むに公益の代表者として絶大な権力の背景の下に法違反者の追及に任ずると共に公益の代表者として力の自己制限、被告人、被疑者の利益の擁護に任ぜしめたのは民主主義の基本的理念であり、近代文化の要請でもある。
  3. しかるに、戦後検察官が当事者主義の美名に隠れ、公益の代表者としての光栄ある伝統と任務を抛棄したるに非ずやの疑をさしはさむべき事象が続出している。すなわち、
    1. 憲法が確保した弁護人の秘密交通権を、名を時間場所の指定に藉り、現実には検事の発行する指定書なくしては被疑者に面会を許されないところの法によらない立法がなされ、日弁連の屡次の抗議にもかかわらず今なおかかる憲法じゅうりんが公行されている。
    2. 法は、検察審査会を設け検察官の恣意を制限した。しかるにその運営の実際においては、この審査会において「起訴相当」の結論を出してもその起訴率は驚くべき低率を示し、その殆どが勧告無視に終っている。検察官の「公益代表」の伝統と良識に信頼し民主的運営を期待し、審査会の結論に強制権を与えず、その良識に任した国民の信頼は今日完全に裏切られている。「徳島事件」においては、有罪の中心証拠となった二少年の偽証には、審査会は「起訴勧告」の結論を出したがこれを握りつぶしてしまった。
  4. 有罪判決確定後、無実を立証する証拠を発見し、再審の請求がなされた場合において捜査機関が一旦確定した判決に拘泥して、無実を立証する事件関係人を予め取調べ、ときには偽証罪により逮捕する等と畏怖せしめ、或は又被告人又は弁護人を尾行してその身辺を調査する結果となる場合がすくなくない。

捜査機関はよろしく、裁判所、弁護人と協力して真実を発見することに徹し、かかる不当な行為を一切なさないことを要望するものである。