捜査、取調について要望の件(決議)

本文

  1. 治安の保持と人権の擁護は、警察官の職責であるに拘わらず、近時警察官中犯罪捜査に当り、被疑者又は被告人に暴行傷害を加え自白を強要し人権侵害の跡を絶たざるは真に憂慮に堪えない。
  2. 聾唖者たる被疑者、被告人の取調については、口話法、手真似法、双方に通ずる通訳を附し、その通訳の任用については、国家の認定制度を創設して通訳能力を一定の水準以上に充実せしめ犯罪捜査機関による聾唖者の人権の侵害防止に万全を期すべきである。

関係当局は、十分考慮し、世人の誤解を解くことに努められんことを要望する。


1956年(昭和31年)10月27日
於佐賀市、人権委員会秋季総会


理由

犯罪捜査取調の錯誤に起因して後に真犯人の現れた所謂二重犯事件の著しきものは、既に周知されている京都五番町事件(京都西陣警察署)埼玉県本庄事件(本庄警察署)等があり又10月5日の新聞報道によれば、昨年7月8日埼玉県大里郡江南村野原、工員神谷せつ子(18才)が暴行の上殺され埋没された事件に関し、熊谷署が被疑者として逮捕起訴した吉沢証次の公判進行中、本月4日水野慶次郎なる有力容疑者が逮捕され犯行を自供したという犯人二重逮捕事件がある。これら一連の事案は犯罪捜査機関の取調に慎重を欠いた結果によるものであるから、今後かかることのないようこの提案をなすものである。


次に、我国には約8万の聾唖者があり、これらのうち刑事事件に問われて取調を受ける者が1カ年少くとも数百件に上るといわれているが、これらの者の大半は口話法の教育を受けておらないから手真似による通話が必要である。然るに、その通訳者は必ずしも手真似に堪能の人ばかりではなく、場合によると何等経験のない者がたずさわって、とりかえしのつかない供述書が作成され重大なる人権侵害をした事例がある。よって聾唖者の取調には国が認定した口話法、手真似法双方に堪能な適任者を必ず附する要がある。