李ライン問題に関する日本漁民拉致に対し韓国の反省を求める件(宣言)

凡そ、1国の領海は、3海里を限度とすることは国際法上の慣行であり、公海内に於ける魚族其他一切の資源は人類共同の福祉の為めに全世界に解放せらるべきである。


然るに、韓国大統領は、これを封鎖して、平和的漁船を拿捕し、漁民を拉致し且つ刑事犯人として処罰するが如きは国際正義に悖る行為である。


よって、本委員会は、正義と平和の名において、茲に韓国の反省と漁船、漁民の即時解放を求め、以って、相倚り相助け東亜の再建に貢献することを期待する。


附帯決議

本委員会は、右宣言の趣旨に基き、日本漁民の人権擁護のため調査団並に弁護団を派遣すべきことを強く政府当局に要望する。


1953年(昭和28年)10月31日
於高知市、人権委員会秋季総会


宣言理由

国際法上の慣行である1国の領海が干潮時の海岸線より3海里の沖合を限度としているのに、李韓国大統領が一方的に擅に公海上に所謂李ラインの一線を画し、之を宣言したことは、国際正義に対する重大なる反逆であり、公海内に於ける魚族其の他一切の資源は人類共同の福祉のため全世界に解放せらるべきである。


しかるに、之を封鎖して独占を企図し剰え平和的漁船を拿捕し無辜の漁民を拉致し而も刑事犯人として処罰するが如きは洵に許し難い所業である。


世界平和を遵守する我等は、正義と平和の名において断乎韓国の反省を求め相共に東亜の再建に貢献したい。


附帯決議理由

本年9月以降10月6日までに韓国に拿捕された船舶は水産庁の調べによれば、39隻、現地臨検64隻、退去命令8隻、停船命令を受け逃げたもの13隻に達し、乗組員は482名全員抑留されているという。已に第二徳島丸の船長以下は判決を受けたが韓国スポークスマンの言によれば拿捕船舶は、没収、抑留船員の大部分は2、3カ月の懲役と罰金を科せられ10日乃至15日で裁判終了といわれている。洵に一刻を許さざる憂慮の状態である。


よって、単に宣言に止まらず緊急動議として茲に附帯決議を提出するものである。


更に本宣言並に附帯決議実現のため理事会の承認を得要望先に対し左記の要望書を提出した。


昭和29年4月23日 人権委員会


要望書

日本弁護士連合会人権擁護委員会は客年10月所謂李承晩ライン問題に関して総会を開催したる際、凡そ一国の領海は三海里を限度とすることは国際法上の慣行であり、公海内における魚族其の他一切の資源は人類共同の福祉のために全世界に解放せらるべきである。


然るに韓国大統領はこれを封鎖して平和的漁船を拿捕し漁民を拉致し且つ刑事犯として処罰するが如きは国際正義に悖る行為である。よって本委員会は正義と平和の名において茲に韓国の反省と漁船、漁民の即時開放を求め以て相倚り相助け東亜の再建に貢献することを期待する。


旨の宣言を決議し関係各方面に提出したが、其の後更に本問題に関し慎重検討を遂げた結果韓国が一方的に拿捕したる漁船、漁民を審判するに当り、処罰の根拠を巳に終戦と共に失効している昭和4年朝鮮総督府令第109号を殊更に適用したること並に1953年12月1日韓国国会は政府提案の漁業資源保護法を無修正可決してこれにより右法律施行前の漁船を没収し漁民を処罰したるが如きは国際公法を蹂躙したるものであり、而も今日尚同ライン侵犯の故を以て漁船、漁民の拿捕を続けつつある状況は正義と平和の為めに許すべからざるところである。よって関係各当局は断乎たる態度を以て斯る状態を速やかに是正解決するよう折衝せられんことを再度要望する。


ことを議決致しましたから、茲に重ねて要望書を提出致します。


右要望理由

日韓両国の関係は東亜の平和を左右するものであって、これが調整親善は国民等しく熱望するところであるに拘らず、日韓会談は幾度か開催されるも未だ妥結の予想つかず殊に両国漁業権の問題については李韓国大統領が所謂李ラインを宣言し、これが為めわが国漁船漁民の拿捕拉致処罪を受けるに至り、昭和28年9月より今日迄に拿捕されたる漁船46隻漁民630名に及んでいる(28年9月以前に14隻拿捕された)。而して漁船はすべて没収され、漁民は大部分処罰されて帰還したが未帰還者33名が残っている。


本委員会は去る28年10月31日高知市における秋季総会にて本件を採り上げ満場一致前掲の宣言及び附帯決議をなした。


而して該宣言、決議は連合会理事会の承認を得て直ちに総理大臣、法務大臣、外務大臣、水産庁長官、衆参両院水産委員長、駐日韓国代表部、大日本水産会会長、日韓漁業対策中央本部に夫々提出して反響と期待を呼んだが、委員会は単に宣言決議の発表に止らず之が目的達成の実行に移す要ありとして、11月21日「李ライン対策委員会」を設け、各方面より拿捕された漁船乗組員名簿、審判状況、李ラインの沿革等数十種に上る資料の収集をなす一方、日韓漁業対策中央本部と懇談会を開きたる他6回に亘り審議を重ねて韓国人弁護士金判厳、権逸両氏、並びに海洋法に関する研究家榎本重治弁護士より詳細なる意見を聴取し、又拿捕された第一太平丸の乗組員の第二審に弁護人として非常なる尽力をされた韓国大邱市の厳輔翼弁護士より裁判の状況その他関係資料の送付を受け、或は山口人権擁護連合会小池副会長その他地方委員より資料の送付を受けて慎重検討審議を続けた結果


  1. 所謂李ライン宣言は一方的のもので国際法上の慣行に悖ることは明白であり、而もわが漁船漁民を拿捕拉致し、刑事犯として処罰するが如きは正義に反し、両国漁業に極めて大なる打撃を与えるものであるが、これが是正を日韓会談により求むることは、会談の再会予想つかざる今日殆ど無益のことであると認められる。
  2. 韓国が一方的に拿捕したる漁船漁民を審判するに当り処罰の根拠を既に終戦と共に失効している昭和4年朝鮮総督府令第109号を殊更に適用したること、並びに1953年12月1日韓国国会は政府提案の漁業資源保護法を無修正可決し、これにより右法律施行前の漁船を没収し漁民を処罰したるが如きは国際法を蹂躙したのもである。
  3. 而も今日尚李ライン侵犯の故を以て漁船漁民の拿捕を続けている状況に対し、調査団弁護団の派遣の 如きは到底為し得ざるものと認める。
  4. さればといって本委員会が独自の立場に於て救済対策を樹立し、これを実行することは容易の業ではない。要はわが国の国力の恢復と相俟って、政治的外交的に解決するより他に途がないと思料されるが、李大統領はわが国を侵略国なりとしている現状から見て、本委員会としては実情を陳述して理由を明かならしめ、連合会より国際法曹会、政府当局、米国大使館、駐日韓国代表部等関係方面に通達されんことを強く要望することとして本委員会は事態の進移を厳に監視するものである。と意見が一致したので茲に報告書を提出いたします。