刑事訴訟法の改悪に反対する件(決議)

現行刑事訴訟法は、逮捕状の制度、検事の請求する勾留期間の延長、逮捕状、勾留状の差換え、保釈制度の無視等近時増加しつつありて、憲法の規定に反す。然るに更に之等の法律を改悪して時代に逆行せんとするは民主々義の思想に反するものである。


吾等は、之等改悪法案に対し絶対に反対する。


1951年(昭和26年)10月19日
於仙台市、人権委員会秋季総会


理由

過日法務府の第4法制意見局より全国弁護士会に刑事訴訟法の改正について諮問事項があったが、次のとおりその1、2を除いては改悪するものであって、正に民主主義に逆行するものである。特に人権侵犯行為が現行法に於ても行われ易く逮捕状保釈等の制度にその幣を見られつつあるは司法ファッショ化を叫ばれるに至っている際、今回の諮問はこれに価しないものが、多数含まれているので反対する。


  1. 被疑者又は被告人に対する黙秘権告知制度に関する規定を改正することの可否については、むしろ運用上更に徹底せしめる要があり改正すべきでない。
  2. 逮捕、勾留及び保釈に関する制度について、
    1. 司法警察員の逮捕状請求には検察官を経由する点賛成。
    2. 司法警察員に勾留請求権及び証人訊問請求権を認めることは反対。
    3. 集団犯罪等捜査困難な犯罪につき逮捕時間、起訴前の勾留期間延長の改正は要なし。
    4. 勾留理由開示制度に関する規定を改正することの可否については、廃止乃至改正に反対。
    5. 起訴後の勾留更新回数制限の規定の改正。
    6. 権利保釈に関する規定改正。
      右5、6改正反対。
    7. 禁錮以上の刑に処する判決の宣言による保釈失効制度の廃止の件は賛成。
  3. 秘密交通権に立会人を置く件については反対。
  4. 差押、捜索の緊急制度並緊急検証制度の創設については反対。
  5. 現行の起訴状一本主義の改正には反対。
  6. 証拠法の規定改正には反対。
  7. 被告人に証人適格を認めることは賛成し難い。
  8. アレイメント制度を採用することは憲法上疑問があり、新刑訴の構造を崩壊せしめる一因となるので反対。
  9. 訴因制度に関する規定を改正する要は認めない。
  10. 保釈は勾留執行停止中被告人が逃亡した場合及び正当の事由なく期日に出頭しない場合、公判審理及判決言渡について特別の規定を設けることの可否については、現状維持を可とする。
  11. 上訴制度についての規定改正の可否については覆審制度の復活を要望する。
  12. 略式命令についての規定改正については略式命令の要件を緩和することには反対である。
  13. その他、現行法に改正を加うべき点の要望としては
    1. 刑訴法第335条を改正すること。
    2. 刑訴法第228条を改正すること。