国電焼失事件に関する件(決議)

桜木町国電焼失によって1百有余の死傷者を出したことは人命尊重の観点より甚だ遺憾とするところである。


仍て当局は、事案の重大性に鑑みその責任の所在を明かにし被害者に対して充分なる慰藉の方法を講ずるとともに将来かかる不祥事の根絶を期し之れが根本的対策の確立を要望する。


1951年(昭和26年)5月4日
人権委員会


決議の経過

桜木町国鉄不詳事件については、本件は人権擁護委員会の所管事項ではなかろうという者もあり、或は連合会で本件を取上げるとすれば、本委員会の外に適当な委員会はなく、人権尊重は人命の尊重ほど最大のものはないのでその見地からして本委員会で之を審議しても必ずしも不当ではなかろうなどの議論があり、本案の審議に入ってからも、当局が斯ような不祥事に対し責任を回避するとか又は弔慰方法が甚だしく不相当であった場合に於て、始めて之を是正せしむるよう働きかけるのはよいが、今日までの経過によれば当局も責任を痛感し、なお将来の防避についても着々と邁進し、且つその責任を十分自認しているので、之に対し更に追求するのは穏当でないとか、或は本委員会として何等かの決議するならば、斯の如き集団的な多数の人命に危害を生ずるおそれある業務過失に対しては、現行刑法の業務過失に関する規定では不十分であるので、新しい立法処置を要望すべきであるとか、なお、この際は単に委員会の意見を談話の形式で発表すればよかろうという論もあり、容易に意見の一致をみなかったが、結局、本委員会としては、終戦後特に人命を軽視する弊風があるのでこの機会に大に戒慎せしむべく又将来斯の如き不祥事の起らぬよう特段の注意を喚起すべく、更に被害者に対し最大限の弔慰方法を講ずべきであることの決議を公表することに纏まったものである。