人身売買禁竭に関する件(決議)

東北地方農村その他に於て、人身売買の悪幣依然として存続することは人道上看過し難いところである。


当局は、速かにこれを禁竭するの方途を強化すると共に活溌なる啓蒙運動を推進し、併せて之等困窮せる者に対する保護施設を拡充実施せられんことを切望する。


1950年(昭和25年)10月21日
於京都市、人権委員会秋季総会


(理由)

米国における黒人売買の解放をリンカーンが行ったことは史上特記すべきものであって、境遇、地位、職業によって自由を有しないということは不当である。人身売買は憲法で禁止されているにもかかわらず今日なお官辺の調査によれば、2,000件にも及ぶといわれているが洵に悲惨であり、文化国家として屈辱である。


政府の施策に労基法、少年福祉法、教育法があるが不充分と思う。当局は、更に法令の完備、社会保障の確立、啓蒙運動の推進をなし、人身売買の根幹を絶たなければならない。


右決議実現のため理事会の承認を得右決議要望先に対し左記調査事例を具して、善処方重ねて要望した。


昭和26年1月20日
人権委員会


1. 山形県下事件

山形県北村山郡福原村芦沢村小林とり(42)は、夫の死後生活苦のため同県飛田作の仲介にて昭和25年3月16日に長男精之(16)を神奈川県足柄下郡曾我村谷津、農業長谷川撥一方へ、次男之郎(14)を同県同郡下中村山西、農業志沢美登方へ共に千円無期限無給料で身売りした。また小林とり自身も同一仲介にて昭和25年3月27日に大磯町湯屋業須田ヤエ方へ前借5千円給料5百円無期限で身売りした。


2. 群馬県下事件

群馬県佐波郡、玉村町無職石井由治は、昭和25年10月25日同県多野郡上野村の某女を名古屋市港区陽町特殊飲食店馬場京子方へ他の3名と共に身売仲介した。また同県同郡新町の某女(21)をも岡崎市板尾町藤田屋本店へ身売りした。


藤岡署の調査では、石井のために売春街に身売された者は今秋だけで9名あり、この2年間に30名余に及んでいるとのことで同署は石井を人身売買の常習犯として告発した。


3. 荒川区内事件

荒川区尾久町10の1596無職大平なつ(63)は、昭和23年春以来手下8名を使い、上野、浅草、千住界隈の家出娘を狙い某女(24)を長野県上田温泉の魔窟に5千円で売った外、同様手段で17才から24、5才の娘ばかり43人を特殊喫茶店や私娼窟に1人4、5千円で身売りしていたので荒川署は11月20日に送検した。


4. 横浜市内事件

横浜市神奈川区青木通49古物商河内栄三(40)は昭和23年3月頃48名の女を横浜市南区大久保町340田村ホテル田村トキ(53)方その他に身売り仲介したので横浜市署防犯少年課は本年10月20日河内他関係者11名を送検した。


5. 横浜市内事件

横浜市西区浅間町2の308土井富雄(38)は18才の娘を横須賀市荒川町382蔦の家へ身売りの仲介をした。


6. 渋谷区内事件

渋谷区幡ヶ谷本町3の685無職岡田栄蔵(38)は昭和25年5月から6月中旬に戦争未亡人(35)及女給(27)同(23)同(18)の4名を江東区深川州崎弁天町2の12「スズラン」鈴木雄方へ1人3千円で周旋身売りした。なお、同人は本年9月にも江戸川区葛飾橋の漁業福田、渡辺両家より17才の娘を頼まれ神奈川県三浦の魔窟に周旋して前借3万円を横領した。また他に本年10月16日にも州崎弁天町カフェーへ周旋をなした。深川署では昭和25年11月19日岡田を検挙した。


(参考事項)

日本政府が国連経済社会理事会第6回社会委員会に対して、昭和25年4月末迄の調査として提出した資料によると


  1. 労働省より労働基準法違反の面から摘発したものだけで同法実施以来1年間に2,300件に達していると報告されており、
  2. 厚生省よりは児童福祉法違反の面から取上げただけで戦後より2,014件に及んでいると報告されている。