東日本大震災・福島第一原子力発電所事故の被災者・被害者の基本的人権の回復への支援を継続し、脱原発を目指す宣言

 

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東日本大震災及び福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という。)事故発生から5年が経過した。

 

当連合会は、これまでも、被災地を中心に被災者及び福島第一原発事故被害者のための法律相談を行い、「人間の復興」の観点から、数々の支援と立法提言活動を行ってきた。

 

しかし、震災発生から5年を経過してもなお、全国で避難生活を送り続ける人々の数が17万人を超え、復旧・復興が進んでいるとはいえず、一人一人の被災者及び被害者の抱える問題が、複雑かつ深刻になっている。その一方で、福島第一原発事故の教訓に学ばず、原発の安全性の確認が不十分なまま再稼働が優先され、原子力事業者の損害賠償責任を限定しようとする動きさえも見られる。

 

当連合会は、震災及び福島第一原発事故発生から5年が経過した現在、人々の生活再建及び被災地の復興が道半ばであること、一人一人の被害に対応したよりきめ細かな支援が必要とされていることを改めて認識し、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする法律専門家団体として、引き続き、被災者及び被害者に寄り添い、支援活動を継続するとともに、原発事故の再発防止に取り組むことを宣言する。特に重要な課題を以下に示す。

 

第一に、被災者の生活再建の支援について、被災者生活再建支援法をはじめとする現行の支援制度では、個々の被災者の個別具体的な救済策としては不十分であることから、住宅被害のみならず生活基盤全体の被害を基礎とする制度に改め、支援制度を拡充するとともに、被災者生活再建支援員などを配置する人的支援をも行い、個別のきめ細かな支援策を計画して実行する仕組みへと改正されるべきである。

 

第二に、震災及び福島第一原発事故による震災関連死として認定された死者数は3400人を超え、なお増加している。これは、避難生活の過酷さを示すものである。震災関連死について、各自治体が実施している認定審査は公平かつ適正に行われる必要があり、また、災害弔慰金制度の趣旨にのっとってできる限り支給される方向で認定されるべきである。自治体間での取扱いに差があるとの指摘もあり、今後、公平な審査が行われていくために、これまでの認定例が公表されるべきである。

 

第三に、福島第一原発事故について、引き続き、東京電力ホールディングス株式会社に対し、避難指示の解除等を理由として、賠償の早期打切りを図るのではなく、被害の実情に即して、必要かつ十分な賠償を行うよう求める。とりわけ、原子力損害賠償紛争解決センターの和解案の受諾を長期にわたり拒否する例があるが、和解案を尊重し受諾するよう求める。

 

また、国に対しては、福島第一原発事故被害者の良好な生活環境の確保や、健康維持のための支援策の実施を求めていく。とりわけ、避難指示区域以外からの避難者の入居する仮設住宅等(民間借り上げ住宅等のみなし仮設住宅、公営住宅を含む。)について、総合的に支援する新たな立法措置を採ること、福島第一原発事故被害者の健康への影響を最小限に抑えるため、健康診断を継続的に実施し、医療費を減免する措置を採ること、子どもたちが心身の健康を回復するために、定期的に保養の機会を供する措置を採ることを求める。

 

第四に、原発事故における原子力事業者の損害賠償責任の有限化を求める動きが見られるが、原発事故の再発を防止するため、国に対し、原子力事業者の無過失・無限責任を堅持し、損害賠償がより実効性のあるものとなるよう求めていく。

 

第五に、原発再稼働について、原子力規制委員会が策定した規制基準では安全は確保されないので、運転(停止中の原発の再稼働を含む。)は認めず、できる限り速やかに、全ての原発を廃止することを国に求める。併せて、これまでの原子力施設立地自治体が原子力施設依存から脱却し、自立していくことへの支援を行うことを国に求めていくものである。

 

以上のとおり宣言する。

 

                                                                                                                                 

 

 

2016年(平成28年)5月27日

日本弁護士連合会

 

提案理由

第1 被災者の生活再建の支援

被災者の生活再建を支える基本的な法律として、被災者生活再建支援法がある。しかし、同法に基づく生活再建支援制度は、住宅被害を基礎に世帯ごとに最大300万円の金銭給付を行う制度となっており、支給金額が生活の再建には十分とはいえない上、半壊の住宅にやむを得ず住み続けている者、住宅被害は甚大ではないが生業を継続できなくなった者、非居住の住宅所有者などは支援の対象とはならず、また、家族が分散して避難生活を送っている場合などに支援金が行き渡らないことがあるという問題点がある。これらの問題点は、震災発生直後の避難所における法律相談の段階から指摘されていたが、近年、半壊の住宅において5年間変わらず不自由な生活を送り続けているいわゆる在宅被災者の存在もようやく認識されるようになってきている。そもそも、災害による被害は、住宅のみならず、生業や健康状態など多岐にわたる上、被害の程度も様々であり、世帯ごとに認定を行うこと自体に問題があるといえる。

 

そこで、悲惨な体験をした被災者の生活が一日でも早く復旧に向かうために、生活再建支援制度を抜本的に改正するべく、取り組むべきである。具体的には、一人一人の被災者の生活基盤の被害状況に応じた支援の拡充のみならず、個別具体的な支援計画を立てる生活再建支援員を配置するなどの人的支援も盛り込むべきである。

 

第2 震災関連死の合理的かつ公平な認定

復興庁の発表によれば、2015年9月30日時点において、震災関連死者数として認定された人数は、ついに3400人を超えた。なかでも、福島第一原発事故の影響により長期避難生活を強いられている福島県の震災関連死者数は約2000人となっており、各種報道においても、福島県の直接死者数を上回ると報じられている。また、震災発生から3年以上経過した後に亡くなった方の数も、福島県において78人を数えている。

 

震災関連死者の人数及び震災発生後から長期間経過後に亡くなった方々の人数は、そのまま、震災及び福島第一原発事故の被害の大きさ、そして、長期間にわたる避難生活がいかに被災者及び被害者の健康状態を悪化させるかの現れでもある。

 

震災関連死として認定されるか否かは、災害弔慰金の支給そのものに直接影響するばかりでなく、遺族にとって、身近な者の死を、震災によるやむを得ないものとして受け入れられるか否かに影響する重要な事項である。震災により命を落とした被災者の遺族に対し、自治体が弔意を示し遺族の生活再建を支援するという災害弔慰金の趣旨からすれば、その認定はできる限り広く認める方向で行われるべきであり、1998年4月28日大阪高裁判決において示されているように、少なくともその時期にはいまだ死亡という結果が生じていなかったと認められる場合には、震災と死亡との因果関係を認め、震災関連死として認定されるべきである。

 

当連合会が過去に実施した、震災関連死の認定を行う災害弔慰金支給審査委員会が設置されている各自治体へのアンケートや、その後に実施した各自治体へのヒアリング等によれば、審査委員会の審査の時間が余りにも短すぎるといった事象がうかがわれ、また、特定の県の審査委員会において認定率が低い、一定の地域において震災発生から6か月が経過した後に亡くなった方に関する申請が極めて少ないという傾向も認識されており、いまだに申請をためらう遺族もいると思われる。自治体によって震災関連死の認定基準が異なることは、公平の観点からもあってはならないことである。

 

震災関連死の認定が公平かつ適正に行われるためにも、少なくとも、これまでに集積された認定例の公表などが行われるべきである。

 

第3 十分な賠償の実現と健康保持への支援

1 十分な賠償の実現を

 

福島第一原発事故によって、いまだ10万人に及ぶ住民が避難を余儀なくされ、また、放射性物質に対する不安やいわれない偏見も解消されず、精神的にも経済的にも多大な苦しみを負い続けている。長期にわたる避難生活や生業に回復できる見通しを得られないこと等から新たな問題も生まれ、将来の展望を抱けていない住民も少なくなく、自殺者の数はなお減少を見ていない。

 

東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針が、避難指示区域からの避難を慰謝料算定の基礎としているところ、当該中間指針の画一的・形式的運用によって住民間に分断や軋轢が生じた。さらに、除染が完了したとはいえない中、避難指示の解除がなされ、避難指示の解除時期にかかわらず賠償期限を2018年3月とする方針が打ち出されたところである。こうした中で、既に帰還した者、今後、帰還しようとしている者、そして帰還を選択しない者も、様々な生活の困難や不安を抱えている。

 

原子力損害賠償紛争解決センター(以下「原紛センター」という。)は東京電力ホールディングス株式会社(以下「東京電力」という。)に対し、こうした被害者の被害の多様性と被害の実情を直視し、被害者の損害の早期解決のために和解案を提示し、受諾を促してきたが、東京電力が和解案の受諾を長期にわたり拒否する例がある。例えば、多数回の避難移動を余儀なくされた浪江町(人口約2万人)の住民の約8割を代理して浪江町が申し立てた事案において、和解案を提示し、更に数度にわたって意見を補充し、和解案の受諾を促してきたが、いまだに東京電力はこれを受諾していない。

 

東京電力は自ら、原子力損害賠償・廃炉等支援機構と共に策定した新・総合特別事業計画において、「東電と被害者の方々との間に認識の齟齬がある場合であっても解決に向けて真摯に対応するよう、ADRの和解案を尊重する」と宣言してきたところである。しかるに、このような東京電力の対応は、賠償問題を「円滑・迅速・公正」に解決するために設置された原紛センターの理念を蔑ろにするものである。

 

2 区域外避難者への住宅支援

 

現在、避難指示区域以外からの避難者(以下「区域外避難者」という。)に対する避難先住宅の無償提供は、2017年3月末をもって一律に打ち切ることとされている。

 

2015年4月27日に福島県から発表された避難者意向調査によれば、区域外避難者の58.8%が応急仮設住宅での避難生活を余儀なくされており、46.5%が入居期間の延長を求めている(前年度から2.5%増)。延長を求める理由として、58.3%が「生活資金に不安があるため」を、56%が「放射線の影響が不安であるため」を挙げ、「よく眠れない」、「何事も以前より楽しめなくなった」という心身の不調を訴える回答も増加している。区域外避難者は損害賠償においても厳しい立場に置かれていることを踏まえれば、区域外避難者は、支援策と賠償の両面で厳しい状況に置かれている。

 

このような状況下で、2017年3月末で避難先住宅の無償提供が終えられるとすれば、避難生活を余儀なくされた被害者に対し、間接的に帰還又は移住を強制する結果となりかねない。

被害者のそれぞれの選択を尊重し、福島県内に滞在する被害者、避難を継続する被害者、そして帰還又は定住を選択する被害者につき、そのいずれの選択も尊重する「人間の復興」の理念に沿った新たな立法措置を採ることを国に求める。

 

3 国による被災者の健康保持のための支援

 

福島第一原発事故によって広範な地域とその地域の住民が放射能に汚染され、今もその危険を払拭しえない中で生活を余儀なくされている。まず、国は、区域外避難者を含めて、福島第一原発事故被害者が幅広く健康診断の機会を保障され、医療費の減免が受けられるようにすることによって、住民の健康調査を継続し、住民の健康を損なうことのないよう、問題を早期に発見して、必要があれば速やかに対処できる体制をとり、実施すべきである。

 

現在、体系だった健康診断は福島県内でしか行われておらず、福島県内ですら、甲状腺がん、心の健康、生活習慣病に狭く絞った健康診断が行われているにすぎない。また、詳細な健康診断は、避難指示区域からの避難者にしか実施されていない。これでは甲状腺がん以外のがんや、がん以外の多様な疾病の全体像を把握していくことはできない。

 

また、保養の機会は、避難生活をしている住民と子どもたちにとって、その健康を維持する上で、切実な要求となっている。地方自治体の支援や民間団体の努力に委ねるのでは限界があり、福島第一原発事故の被害者、とりわけ子どもたちが求めれば必ず受けられる幅広い国家制度の構築を求める。

 

第4 再発防止のための損害賠償制度の充実

1 再発防止と損害賠償制度

 

損害賠償制度の在り方は、被害者の損害の填補としてだけでなく、将来の損害の発生を予防するために極めて重要である。原子力事故の再発防止のためには、電力会社をはじめとする利害関係者において事故防止のための投資等の措置を促し、安全性確保対策への動機付けを与えるような賠償制度とすることが不可欠である。

 

電力システム改革の下で、2020年に電気料金規制が廃止され総括原価方式も廃止されることから、これまで地域独占と総括原価方式によって保護されていた原子力事業者も価格競争下に置かれることになる。そこで、2014年12月の経済産業省総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会における中間整理で、「原子力発電について、原子力事業の予見性を高め、民間事業者がリスクがある中でも主体的に事業を行っていくことができるよう、必要な政策措置を講ずることが必要」とされ、さらに、原子力事業を支援するための「事業環境整備」の一つとして、原子力事業者の損害賠償の責任範囲はどこまでにするか等の原子力損害賠償制度の見直しも、関係機関が相互に連携して取り組んでいくべきとされた。2015年5月から内閣府原子力委員会に損害賠償制度の在り方について原子力損害賠償制度専門部会が設置され、原子力事業の予見性向上と国の責任の明確化の観点から、原子力事業者の損害賠償責任の有限化を求める意見が出され、審議の焦点となっている。

 

しかし、原子力事業の予見性については、福島第一原発事故を経験し、その事業リスクは相当程度、予見可能となっている。

 

原子力事業者の有限責任化によって原子力事業者の賠償額に上限が設けられることになれば、仮に国による一定の補償がなされたとしても、原子力事故の被害者が十分な補償を受けられないおそれが生じる。また国の補償に損害賠償を委ねるということは、電力事業の自由化が進展する中で、原子力事業者のみに、その負うべき事故のリスクを国に転嫁させることを意味する。いずれにしても、原子力事業者及びその関連事業者は倒産のリスクなく原子力事業を行うことができることになり、原子力災害に対する厳格なリスク評価がなされないまま原子力事業が行われるというモラル・ハザードをもたらす懸念及び原子力事故の防止のための安全対策の動機付けを失わせるおそれが大きい。福島第一原発事故を経験して、国民の原子力事業者に対する安全確保の要請は一層高まっているのであって、有限責任化はその要請に逆行するものである。

 

当連合会は、2015年7月17日付け「原子力発電所事故による損害賠償制度の見直しに関する意見書」において述べたとおり、原子力事業者の有限責任制度の導入に強く反対する。

 

2 損害賠償制度の強化

 

福島第一原発事故による損害額は除染や賠償、廃炉等の費用を含むと優に13兆円を超え、更に拡大する見通しである。それにもかかわらず現在の一事業所当たり1200億円という賠償措置額は過少にすぎるものである。さらに、東京電力の賠償資金の不足分は、国が原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じて交付金として支払っているが、その返済の見込みは不透明であり、福島第一原発事故に重大な責任を負う東京電力の責任が明確にされたとも言い難い状況にある。

 

本来、汚染者負担の原則に従い、原子力事業に起因する損害賠償コストは、原子力事業者が負うべきである。原子力機器メーカーは製造物責任を免責されているが、これらの者についても、原子力事業者の有限責任化と同様にモラル・ハザードを招き、安全性確保の取組がおろそかになるおそれがある。国の原子力事業者等への援助措置も、専ら被害者救済の目的で行うべきであり、原子力事業者らに対する経済的支援や、原子力事業者の経営責任を曖昧にするものであってはならない。

 

第5 原発再稼働問題と立地地域の自立

1 いまだに福島第一原発事故を防止するに足りる規制基準は設けられておらず、その結果、厳格な審査もなされていないこと

 

二度と、原子力事故による被害を繰り返してはならない。その観点から、当連合会は、2013年10月4日付け「福島第一原子力発電所事故被害の完全救済及び脱原発を求める決議」において、「原発の新増設(計画中・建設中のものを全て含む。)を止め」ること及び「既設の原発について、安全審査の目的は、放射能被害が『万が一にも起こらないようにする』ことにあるところ、原子力規制委員会が新たに策定した規制基準では安全は確保されないので、運転(停止中の原発の再起動を含む。)は認めず、できる限り速やかに、全て廃止すること」を国などに求めてきた。

 

原子力事故の再発防止のためには福島第一原発事故の原因や発生機序等の実態解明が不可欠である。しかるに、福島第一原発事故から5年を経過して、事故の3日後にはメルトダウンしていたことが明らかにされるなど、国会に設置された事故調査委員会が安全規制体制を含めた実態を調査したにもかかわらず、今日においても、依然として、事故の発生機序等には不明な点が多く残されている。

 

一方、福島第一原発では想定した地震が過小であり、耐震設計の解析に不備があったこと、地震・津波による共通原因故障及び全電源喪失事故発生の危険性やシビアアクシデント(過酷事故)等の対策が不十分であったところ、原子力規制委員会がこれまで策定した基準によっても、これらの問題点の多くは、現在でも解決されていない。また、当連合会は2014年8月6日付け「川内原子力発電所の適合性審査書案に対する意見書」において、新規制基準は、大規模損壊が起きた場合に、原子炉と周辺住民とを十分離隔することができる場所であるか否かの審査を行うものではなく、周辺住民が安全に避難できることを審査許可基準として定めるものでもないこと等を指摘してきたところであるが、これらの点についても解決されていない。

 

2014年5月21日に福井地裁の、大飯原発3、4号機の原子炉について運転差止めを関西電力株式会社に命じた判決及び2015年4月14日に高浜原発3、4号機の原子炉について運転差止めを同社に命じた仮処分決定は、基準地震動の策定基準が基本的には福島第一原発事故以前から変わっておらず、基準地震動を超える地震動が到来するおそれがあること、外部電源や主給水ポンプが基準地震動以下の地震動で損壊しうること等を指摘し、さらに大津地裁は2016年3月9日、福島第一原発事故の原因究明は建屋内の調査が進んでおらず道半ばの状況で、福島第一原発事故を踏まえたシビアアクシデント(過酷事故)対策についての設計思想、耐震性能決定における基準地震動の策定、津波対策や避難計画等に疑問が残るとして、高浜原発3、4号機の運転の差止めを命じる仮処分決定をした。

 

しかるに、原子力規制委員会には、上記の指摘を取り込む動きは全くなく、稼働40年を経過した原発を含め、再稼働に向けた適合性審査を進めている。九州電力株式会社は2015年8月11日に川内原発1号機を再稼働させ、関西電力株式会社は福井地方裁判所の上記仮処分決定が2015年12月24日に取り消されたことを受け、高浜原発3、4号機を再稼働させようとした。2016年2月29日には高浜原発4号機が緊急停止を余儀なくされるに至り、同年3月9日には大津地方裁判所の仮処分決定により、3号機も運転を停止したが、政府及び電力会社において原発の再稼働を進める方針は変わっていない。

 

2013年秋以降、川内原発1号機が再稼働するまでの間、我が国においては全ての原発が停止していたが、電力不足は発生していない。化石燃料の輸入額増加も、為替レートの変動等によるところが大きい。したがって、原発の停止に起因する電力不足やコスト高騰を理由に原発の再稼働を進めることにも根拠がない。

 

よって、改めて、原発の運転(停止中の原発の再稼働を含む。)を認めることなく、できる限り速やかに、全ての原発を廃止することを国に求める。

 

2 原子力施設立地地域に対する支援の必要性

 

国の原子力推進政策は、核燃料サイクル再処理施設を含め、原子力施設立地自治体が原子力施設に依存せざるを得ない体質を生み出した。原子力施設立地自治体が原子力施設依存から脱却し、自立していくことへの支援も、福島第一原発事故の再発防止はもとより、地域住民の生存権確保の観点からも、急を要する課題である。

 

原子力施設立地自治体を原発依存の不健全な財政から解放し、自立した地方経済を回復するためには、電源三法交付金制度のうち、原子力施設に関する部分を廃止することが不可欠である。しかし、原子力施設立地自治体の収入の大部分を担ってきた電源三法交付金制度のうち、原子力施設に関する部分が廃止されれば、地域経済の急激な疲弊と、自治体による地域住民に対するサービスの急激な低下、更なる人口の流出等をもたらすことが懸念される。

 

このため、国は原子力施設立地自治体が自立した健全な財政を創出するまでの間、暫定的な支援策を講じるべきである。

 

その一つとして原子力施設立地自治体住民から「廃炉交付金」という構想が唱えられている。この構想は、旧式・高経年炉その他の原子炉を廃炉にした場合、廃炉後数十年間、一定の交付金を支給するというものである。地域が脱原発に向けて舵を切るための地域支援策として、このような期限を区切った交付金制度も有効である。ただし、交付金の支給は自治体の依存体質を招きうるものであり、ひいては財政破綻にもつながりかねないものであるから、国による経済的支援は、地方独自の健全な財政を創出するまでの一時的なものとし、最終的には再生可能エネルギーや原発以前から地域に根差してきた産業など、地域本来の資源を活用した、自立的な地域経済の創設が目指されるべきである。

 

第6 結語

以上のとおり、当連合会は国及び電力会社等に求めるとともに、東日本大震災及び福島第一原発事故の被災者・被害者の基本的人権の回復と二度と原子力事故を引き起こさないために、引き続き、全力で取り組む所存である。