東日本大震災・福島第一原子力発電所事故の被災者・被害者の基本的人権を回復し、脱原発の実現を目指す宣言

2011年3月11日の東日本大震災・福島第一原子力発電所事故発生から、既に3年が経過した。東日本大震災による死者・行方不明者は1万8500人、震災関連死として認定された死者は2900人をそれぞれ超え、全半壊した建物は40万棟以上に達し、避難生活者は現在もなお約26万人も存在する。震災発生から3年以上が経過しても、今なお多くの被災者・原発事故被害者が、経済的にも精神的にも過酷な状況に置かれ、十分な救済を受けられずにいることは、極めて深刻な事態であり、重大な人権侵害である。


当連合会は、基本的人権を擁護し社会正義を実現することを使命とする法律専門家団体として、被災地弁護士会をはじめ全国の弁護士会・弁護士会連合会、日本司法支援センター、地方自治体、ボランティア団体等と連携して、避難所・仮設住宅での法律相談を含む面談相談、電話相談あるいは情報提供を行い、各種ADR(裁判外紛争解決手続)への協力や原発事故被害者の損害賠償請求等の支援活動に取り組んできた。加えて、被災者・原発事故被害者の支援のためのあらゆる立法提言活動等にも精力的に取り組み、原発事故被害者の救済に関し損害賠償請求権に関する消滅時効特例法の制定に尽力しこれを実現したほか、災害弔慰金の支給等に関する法律の改正、相続放棄等の熟慮期間の延長に関する特例法の制定、日本司法支援センター震災特例法の制定、原発事故子ども・被災者支援法の制定、東日本大震災復興特別区域法の改正など、一定の成果を上げている。


しかし、いまだ被災地の復旧・復興は遅々として進んでおらず、被災者・原発事故被害者が東日本大震災発生前の生活を取り戻すには程遠い実情にある。当連合会は、復旧・復興の主体が被災者・原発事故被害者であり、復旧・復興が憲法の保障する基本的人権を回復するための「人間の復興」であることを改めて銘記し、今後も、歩みを止めることなく被災地の復旧・復興に取り組むことを改めて宣言するとともに、特に以下の問題について取り組む決意である。


1 災害弔慰金等の支給における震災関連死の認定に関し、死亡時の地域によって震災関連死として認定されないことのないよう、今後も認定状況について注視し、審査方法や事例の公表・認定基準の策定に関する提案をするとともに、今後、大災害が発生した場合にも、一人でも震災関連死による死者が少なくなるよう、避難所や仮設住宅等の環境改善等の問題にも取り組む。


2 復興事業用地の取得が円滑かつ適正に行われるために、東日本大震災復興特別区域法の改正後も、衆議院東日本大震災復興特別委員会でなされた決議の内容に沿った運用がなされるよう、その運用・進捗状況を注視した上で、必要に応じて、運用改善や抜本的対策も含めた更なる政策提言を積極的に行う。


3 復興まちづくりについては、被災住民に最も身近な基礎自治体である市町村に裁量のある権限と予算を配分するよう、各種法制度の改正や住民意思の適正な反映を確保するための、十分な情報提供と専門家の助言を前提にした仕組みづくりに取り組む。


4 個人版私的整理ガイドライン(被災ローン減免制度)の利用件数の低迷を踏まえ、東日本大震災の被災者を一人でも多く救済するべく、今後もその運用改善に取り組むとともに、将来の大災害の発生に備えて、全債権者の同意を必要とする現在の同ガイドラインの見直しを行い、その立法化に取り組む。


5 福島第一原子力発電所事故による被害について、国及び東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)が完全かつ速やかな賠償義務を誠実かつ確実に履行するよう、引き続き全力で取り組み、東京電力に対し、改めて原子力損害賠償紛争解決センター(以下「原紛センター」という。)の和解案を尊重及び遵守することを求め、政府に対しては、東京電力に対し、強くその旨を指導すること及び原紛センターの和解案に片面的裁定機能を付する立法を行うことを、改めて求めていく。


さらに、改めて政府に対し、原発事故子ども・被災者支援法の理念に基づいた具体的な支援策を早急に定めるよう求めていく。

 

6 深刻な原子力発電所事故被害の再発を未然に防止するため、以下のとおり、原子力推進政策を抜本的に見直し、原子力発電と核燃料サイクルからの撤退を求めていく。

 

(1) 原発の新増設(計画中・建設中のものを全て含む。)を止め、再処理工場、高速増殖炉等の核燃料サイクル施設は直ちに廃止すること。


(2) 既設の原発について、原子力規制委員会が新たに策定した規制基準では安全は確保されないので、運転(停止中の原発の再稼働を含む。)は認めず、できる限り速やかに、全て廃止すること。


(3) 原発輸出は相手国及び周辺諸国の国民に人権侵害と環境汚染をもたらすおそれがあるため、原発輸出政策は中止すること。


(4) 今後のエネルギー政策は、再生可能エネルギーの推進、省エネルギー及びエネルギー利用の効率化と低炭素化を政策の中核とすること。


以上のとおり宣言する。


2014年(平成26年)5月30日

日本弁護士連合会


 

(提案理由)

第1 震災関連死の合理的かつ公平な認定

2013年9月時点において、震災関連死者数として認定された人数は、2900人を超える。強い揺れや津波に襲われ、又は原発事故の発生により、突然住み慣れた自宅や土地を離れることとなり、その後、長期間にわたる避難所生活を強いられた結果、慣れない環境の変化に体調を崩し、また体調を悪化させて亡くなった被災者・原発事故被害者は多い。避難所や仮設住宅等という環境において、先の見えない不安な生活を長期間送り続けることが、どれほどに被災者・原発事故被害者の心身をむしばむか、改めて認識するべきである。震災関連死の多くは、いわば「救うことができた死」である。東日本大震災において被災者・原発事故被害者が置かれた環境を改めて見直し、今後の災害において一人でも震災関連死者数が少なくなるよう、避難所や仮設住宅等における環境改善や、災害救助法に基づき1年ごとの更新とされる仮設住宅等のあり方自体を検討するべきである。


また、震災関連死として認定されるためには、市町村又は市町村から委託された県に設置された災害弔慰金支給審査委員会により認定されることが必要であるが、特に、特定の県の審査委員会において認定率が低い、また、一定の地域において震災発生から6か月が経過した後に亡くなった方に関する申請が極めて少ないという事象が生じている。震災関連死として認定されるか否かは、災害弔慰金の支給そのものに直接影響するばかりでなく、遺族にとって、身近な者の死を、震災によるやむを得ないものとして受け入れられるか否かに影響する重要な事項である。震災により命を落とした被災者の遺族に対し自治体が弔意を示し遺族の生活再建を支援するという災害弔慰金の趣旨からすれば、その認定はできる限り広く認める方向で行われるべきであり、1998年4月28日大阪高裁判決において示されているように、少なくともその時期にはいまだ死亡という結果が生じていなかったと認められる場合には、震災との因果関係を認め、震災関連死として認定されるべきである。震災関連死の認定は自治体の事務とはいえ、認定されるべき死が、ある地域によっては認定されないということは、公平の観点からもあってはならないことである。

 

なお、この問題に関しては、新潟県中越地震において採用された、認定に極めて限定的ないわゆる長岡基準の影響が指摘されている。長岡基準の影響を払拭するためには、これまでに認定された事例の公表及び一定の認定基準の策定が必要だと考える。また、震災関連死及び災害弔慰金の制度の存在は被災者に周知されつつあるものの、いまだに窓口において申請をためらう遺族があるともいわれる。国は、震災関連死及び災害弔慰金の制度について改めて周知を図るとともに、これまでに集積された事例の公表や認定基準の策定を検討すべきである。


当連合会は、2012年11月から災害弔慰金等の支給に係る弁護士費用の立替事業を開始し、災害弔慰金等の支給申請を行う被災者への弁護士による法的支援を行っているが、今後も、災害弔慰金の趣旨に沿った震災関連死の認定が漏れなくなされるよう、認定状況を注視し、審査方法や事例の公表・認定基準の策定に関する提案も含めて、この問題に取り組んでいく。

 

第2 円滑な用地取得制度の構築 

甚大な津波被害を受けた沿岸部、特に平野の面積が少ない岩手県沿岸部において、いわゆる高台移転である防災集団移転促進事業等の復興事業に必要な用地の取得が進んでいない。用地の取得が進まない原因は、相続人が多数であったり、権利者が所在不明であったり、権利者不明等の事情を抱える数千筆の土地が存在することである。このような土地を防災集団移転促進事業の移転地として取得する場合、任意交渉しか取得方法がなく、権利者調査及び交渉に多大な時間を要し、その結果、コミュニティの移転に最も適した土地の取得を断念し、計画変更を余儀なくされる場合も少なくなかった。そのため、被災地弁護士会は、早くから復興事業用地の確保のための特例措置の制定を求めて、この問題に取り組み、また、当連合会も2014年3月19日に同様の趣旨の意見書を取りまとめ、関係者への働きかけを行うなどした結果、2014年4月23日に東日本大震災復興特別区域法の改正が実現し、衆議院東日本大震災復興特別委員会では運用に関する決議もなされた。


この改正は、被災地の意向を一定程度反映するものであるが、前記決議に沿った運用が現実になされなければ、法改正の趣旨は失われるものである。また、この改正においては、住民意思の反映の機会が条文上保障されていない点が課題として残っているといわざるを得ない。当連合会は、真に被災地の復興及び被災者の救済に資するか否かの視点で、改正後の運用を注視及び検証し、その進捗状況によっては、運用改善や当連合会の意見書で提案した抜本的な対策の検討を積極的に求めていく。

 

第3 復興まちづくりにおける住民意思の反映

被災地の復興まちづくりにおいて課題とされているのは、用地取得の問題のみではない。復興まちづくりそのものも順調に進んでいるとはいえない。


まず、復興まちづくりにおいて、被災住民に密着した市町村(基礎自治体)の担う役割は大きい。基礎自治体に対し、裁量があり、実効性のある規模の予算を配分するとともに、権限についても、過疎化や人口流出の中でその地域の規模の縮減に対応しうる各種法制度について基礎自治体が制度設計可能な途を開くべきであると考える。


また、復興まちづくりにはその地域の住民の意思が反映されることが重要であるが、必ずしも住民の意思決定及びその反映が適切に行われていない地域もあり、地域によっては、被災地域に戻る選択をする住民が全体の1割を切る事態となっている。当連合会は、かねてから、復旧・復興の視点として「人間の復興」を掲げてきたが、これは日本全体又は東北地方の経済的復興を主眼とするのではなく、まずその地域において生活を営んできた一人一人の住民の意思が尊重されなければならないという趣旨である。そのためには、意思決定の前提となる十分な情報の提供、まちづくりの経験を持つ建築家・弁護士等の専門家による支援、選択権を残した上で十分な時間をかけての住民自身による意思決定、同じく十分な時間をかけての住民全体の合意形成が必要であり、かかるプロセスを経ることこそが重要である。当連合会は、今後もこのような住民意思を反映させるための仕組みづくりの実現を支援していく。

 

第4 被災ローン減免制度の運用改善と今後の災害に備えた制度設計の見直し

当連合会は、阪神・淡路大震災等の経験を踏まえ、東日本大震災発生直後から、被災者が既存の債務から解放されるよう、政府等に働きかけ、その結果、個人版私的整理ガイドライン(被災ローン減免制度)の策定が実現した。


しかし、同ガイドラインは、2011年8月の適用当初こそ、被災者から大きな期待が寄せられ、1万件以上の利用が見込まれていたが、その後一向に利用件数が伸びず、適用から3年が経過しても、債務整理成立件数及び成立見込件数は1300件台にとどまっている。このように、利用件数が大きく低迷した原因は、当初の周知・広報不足や、被災者に周知が行き届く前に金融機関によるリスケジュールが進んでしまったことに加え、債務整理の成立に全債権者の同意が必要という同ガイドラインの限界にあると考える。また、同ガイドラインを利用するために必要な支払不能要件がとりわけ当初の段階で厳格に運用されたことや、その他の運用の改善に時間を要したことも、利用低迷をもたらした要因として看過できない。


当連合会は、東日本大震災による被災者を最後の一人まで救済できるよう、引き続き同ガイドラインの運用改善に取り組むとともに、今後、南海トラフ地震等の大震災の発生が予測されているところ、人口密集地において大震災が発生した場合にいわゆる二重ローン問題が深刻な問題となることはほぼ確実であることから、制度設計の見直しを行い、改めて実効性ある立法の提言に取り組む。

 

第5 福島第一原子力発電所事故による被害の完全回復について

1 東京電力と国が負う被害の完全回復義務


福島第一原子力発電所事故による被害は、我が国史上未曾有の人権侵害であり、いまだ13万人を超える住民が避難を余儀なくされ、また、避難はしなくとも放射性物質に対する不安やいわれない偏見にさらされながら不安定な状況で居住を続ける多くの住民も存在するなど、膨大な数の被害者が精神的にも経済的にも多大な苦しみを負い続けている。その責任は、東京電力は当然のこととして、安全を確保することなく原子力利用を推進してきた国にもある。よって、国は、東京電力と共に、福島第一原子力発電所事故の加害者であり、福島第一原子力発電所事故のあらゆる被害を完全に回復するために、あらゆる措置を講じる義務を負っているといわなければならない。当連合会は、引き続き、国及び東京電力がその義務を誠実かつ確実に履行するよう、全力で取り組んでいく。


2 原子力損害賠償紛争解決センターの実務と制度の改善


経済的損失や慰謝料等、既に顕在化している被害については、東京電力が完全かつ早急に損害賠償を行うことが求められる。しかし、近時、東京電力が原紛センターの示した和解案を拒否したり、また最終的に和解案を受諾したとしても回答期間の延期や和解案再考を求めたり、これらによって和解までの時間が遅延するといった事例が散見されるようになっている。


東京電力は自ら、原子力損害賠償支援機構と共に策定した新・総合特別事業計画において、「東電と被害者の方々との間に認識の齟齬がある場合であっても解決に向けて真摯に対応するよう、ADRの和解案を尊重する」とも述べているにもかかわらず、このような東京電力の対応は、賠償問題を「円滑・迅速・公正」に解決するために設置された原紛センターの理念を蔑ろにするものである。したがって、当連合会は東京電力に対し、このような対応を直ちに改善し、改めて原紛センターの和解案を尊重及び遵守することを求めるとともに、政府に対しては、東京電力に対し、強くその旨を指導することを求める。


なお、当連合会は、2012年8月の「原子力損害賠償紛争解決センターの立法化を求める意見書」において、原紛センターの和解案の提示に加害者側への裁定機能を法定し、東京電力側が一定期間内に裁判を提起しない限り、裁定どおりの和解内容が成立したものとみなすこととすべきであり、東京電力側は裁定案の内容が著しく不合理なものでない限り、これを受諾しなければならないものとすることなどを趣旨とする立法提言を行っている。今般の東京電力の対応を踏まえると、同意見書の趣旨に沿った形で原紛センターの和解案に片面的裁定機能を付する立法を行うことを、改めて求めていく必要がある。


3 原発事故被害者間の格差を生み出す中間指針第四次追補の問題点


政府は、2011年12月に避難区域を、帰還困難区域、居住制限区域及び避難指示解除準備区域に再編することを発表した。これに伴い、原子力損害賠償紛争審査会(以下「審査会」という。)においても、2012年3月に、政府による避難区域等の見直し等に係る損害についての中間指針第二次追補を取りまとめ、さらに、2013年12月に、避難指示の長期化等に係る損害についての中間指針第四次追補を取りまとめている。


これらにより、避難区域ごとに賠償の目安が示され、同じ原発事故被害者であっても、場合によっては、わずか道一本を隔てただけで賠償額に格差が生じるという不合理な事態となり、原発事故被害者間に極めて大きな不公平が生じている。現実には、避難指示が解除されても、公共機関や商店の再開、雇用の確保等のインフラの整備が進まなければ、実質的な生活再建は不可能であり、また、除染の効果も明らかではないため、特に子どもを持つ家庭が、通常より放射線量が高い地域に戻ることを躊躇することは無理からぬことといえる。さらに、生活の基盤となる住居に関しても、長期間放置されたことにより荒廃が進み、現実には建て替えを行わなければ居住不能である事例も多い。このような状況は、原発事故被害者それぞれで事情が異なるのであり、ただ単に審査会の指針を当てはめれば、それで足りるというわけにはいかない。したがって、審査会が定めた賠償指針に拘泥することなく、合理性が認められる場合には、東京電力、原紛センター及び司法において、柔軟な解釈が行われ、原発事故被害者の個別事情に十分に配慮した賠償がなされるよう、注視していく必要がある。


4 損害賠償請求権の消滅時効特例法の成立と今後の課題

 

2013年12月4日、原発事故による損害賠償請求権の消滅時効特例法が成立し、2014年3月で損害賠償請求権が時効により消滅するという事態は回避された。この特例法はあくまでも権利行使の期間を確保したにすぎず、いまだに請求をしていない原発事故被害者へのアクセスや適切な賠償を受けるための支援など、個々の原発事故被害者の救済のために、今後、長期間にわたって弁護士が果たすべき役割は極めて大きい。当連合会は、改めて原発事故被害者に寄り添い、その救済のために全力を尽くしていく。


5 原発事故子ども・被災者支援法の完全実施を求めて


原発事故被害からの完全回復は、金銭による損害賠償だけでは実現できない。原発事故被害者の生活再建、住居の確保、放射線被ばくに起因する疾病の予防と健康管理などは損害賠償だけではカバーできず、人権の擁護のためには原発事故子ども・被災者支援法(以下「支援法」という。)が十分に活用されるべきである。支援法は、放射性物質による放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されていないことを認めたこと、原発事故被害者が被災地に滞在するか、避難するか、又は避難した後帰還するかについて、被害者自身の自己決定権を認め、そのいずれを選択した場合であっても適切な支援を受けられることを認めたこと、さらに、国がこれまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的責任を負っていることを認めた点において、画期的なものであった。


しかしながら、支援法成立後約1年2か月も経てから公表された、具体的な支援施策を定める基本方針案の内容は、ほとんどが既存施策の寄せ集めにすぎないものであり、居住者や帰還者に対する促進施策に偏り、避難者に対する施策が乏しく、また、居住者や帰還者に対する施策も、損害賠償でカバーできない被害に対する具体的支援策については乏しいものであった。


その後、原子力規制委員会が2013年11月20日に「帰還に向けた安全・安心対策に関する基本的考え方(線量水準に応じた防護措置の具体化のために)」と題する報告書を取りまとめ、また、政府の原子力災害対策本部は、同年12月20日に「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」と題する指針を決定している。原子力規制委員会の報告書は、避難指示区域への住民の帰還に当たっての年間の被ばく線量について、20ミリシーベルト以下を必須条件とし、長期的な目標として、個人の追加被ばく線量が1ミリシーベルト以下になるよう目指すこと、また、被ばく線量については、「空間線量率から推定される被ばく線量」ではなく、個人線量計等を用いて直接実測された個々人の被ばく線量による評価をすることを提案しており、政府の指針もこれを踏まえて作成されている。さらに、復興庁は、2014年2月18日に「帰還に向けた放射線リスクコミュニケーションに関する施策パッケージ」を公表し、これと合わせ、10省庁連名による「放射線リスクに関する基礎的情報」というパンフレットも公表しているが、いずれも、帰還を促進することに重点を置いた政策である。帰還を望む住民に対して、生活再建、健康確保等のために十分な支援を行うことは当然であるが、このような政府の動きが避難者の切り捨てにつながり、避難者、居住者及び帰還者いずれにも等しく支援するという支援法の理念に反するものになりかねないことを懸念する。


2014年3月11日に、福島県弁護士会、山形県弁護士会及び新潟県弁護士会の三弁護士会は、「原発事故被害者に寄り添い、支援を続けていくことの共同宣言」を発表し、それぞれの経験と知識を結集するとともに、その橋渡し役となることが必要であり、「福島県内に滞在する被害者、避難を継続する被害者、そして帰還または定住を選択する被害者につき、そのいずれを選択した場合であっても、適切な支援を受けられるよう、被害者に寄り添い、共同して支援を続けていく」ことを宣言している。このような動きは、当連合会も強く共感するものであり、改めて政府に対し、支援法の理念に基づいた具体的な支援策を早急に定めるよう求めていく。

 

第6 二度と原発事故による被害を繰り返さないために

1 原発事故を防ぐためには脱原発を実現する必要がある


福島第一原子力発電所事故については、国会の「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」など4つの事故調査委員会(以下「事故調」という。)が設置され、それぞれ報告書を公表している。しかし、4つの事故調によってもなお、福島第一原子力発電所事故の全容、事故への地震動の関わりなど重要な点が未解明なままであるといわざるを得ない。原発内の高い放射線量が直接調査することを阻んでおり、いまだに福島第一原子力発電所事故の原因は解明されておらず、いつになれば解明されるのかさえわからない状態である。


事故防止に不可欠な事故原因の解明が未了であり、いまだに、有効な事故防止対策を講じられる状況にはない。


安全審査は「災害の防止上支障がないこと」を審査し、当該原発によって万が一にも深刻な災害が発生しないことを保障するためのものである。しかし、福島第一原子力発電所事故の発生によって、具体的審査基準や、調査・審議の過程における不備や欠陥が明らかになり、新規制基準が策定されたものの、根本的問題はほとんど解決されないままである。しかも、このような不備のある内容の基準でさえ、一部の対策について5年間の猶予を与える案が出されている。このような状況では原発による悲惨な被害の発生を防止することは到底できない。


このように、現時点において、福島第一原子力発電所事故の再発防止策は全く確立されておらず、近いうちに確立される見込みもない。福島第一原子力発電所事故のような事態の再発を防ぐためには、既存原発の再稼働及び新増設(計画中・建設中のものを全て含む。)を行わず、原発から撤退するほかない。


2 放射性廃棄物をこれ以上発生させないために


高レベル放射性廃棄物である使用済み燃料は、原発の稼働に伴い不可避的に排出され、現状は各原発の敷地内で保管し管理されている。福島第一原子力発電所事故は、使用済み燃料が保管されている限り、冷却機能喪失によって苛酷事故を引き起こす危険性を明らかにした。原発の稼働は、管理と処分に重大な問題を抱える放射性廃棄物を増やさないという観点からも、直ちに止めるべきである。


福島第一原子力発電所事故後も、核燃料サイクル政策は一貫して堅持されてきたが、再処理技術は未確立で、平常運転時にも大量の放射性物質を放出し、膨大な高レベル放射性廃棄物を発生させ、地震やテロ等による施設破壊が起こると原発事故を上回る地球規模での被害が発生する可能性がある。諸外国の事故事例にみられるように、再処理工程での臨界事故等も想定される。また、再処理後に残る高レベルガラス固化体の処分方法は、いまだ確立されておらず、最終処分のめどは全く立っていない。再処理政策をとっていた欧米諸国は、既に再処理政策を停止している。このような中で、再処理を継続することは、更なるプルトニウム余剰に拍車をかけ、核不拡散と核物質防護の観点からも強い国際的非難を招く。また、六ケ所再処理工場の建設、運転及び後処理に投じられる巨額な費用は、国民に高い電気料金の負担を強いることになる。必要性、経済性及び安全性に多くの問題を抱える再処理は直ちに廃止し、使用済み燃料を直接処分する政策に転換するべきである。


3 環境汚染と人権侵害につながる原発輸出政策の中止


政府は、福島第一原子力発電所事故を踏まえて日本は世界一厳しい基準の下に原発を作れるかのように宣伝して、原発メーカー共々積極的に原発輸出を推進している。しかし、福島第一原子力発電所事故の原因すら、いまだ究明されておらず、新規制基準には重大な欠陥がある。自然現象により重大な原発事故が起こることを福島第一原子力発電所事故は明らかにしたが、日本が輸出しようとする各国には、それぞれの憂慮すべき自然現象が存在し、平常運転中の労働者被ばくや公衆の被ばくのおそれ、また使用済み燃料や放射性廃棄物の処分等の憂慮すべき問題もある。このように、原発輸出は相手国及び周辺諸国の国民に人権侵害と環境汚染をもたらすおそれがあり、原発輸出政策はこのような人権侵害と環境汚染を防止するためにも中止すべきである。


4 原子力に依存しないエネルギー政策


政府は原子力を重要なベースロード電源と位置付け、核燃料サイクルの継続を基幹とする「エネルギー基本計画」を2014年4月11日に閣議決定するなど、着々と原発再稼働に向けた準備を進めている。しかしながら、気候変動対策を後退させることなく脱原発を実現させることは、エネルギー消費を削減しつつ、再生可能エネルギーの推進、エネルギー利用の高効率化及び低炭素化を図ることによって実現可能である。そのために、需要側では、熱も含めたエネルギー消費全体の削減を実現する政策を、供給側では、再生可能エネルギーによる電力及び熱を飛躍的に拡大していく政策を、目標を設定した上で、確実に実施する中長期計画が必要である。また、その移行期においては、比較的CO2排出の少ない天然ガス火力発電所の新増設、既設発電所の効率を高めることが、気候変動対策との両立の鍵となる。


再生可能エネルギーの推進等、電力の需給両面での改革の鍵は、電力システム改革にある。これまでの地域独占による垂直一貫統合体制から、発送電事業を分離し、発電部門への新規参入を可能にする政策及び送配電事業の公益化、需要側管理及び多様な再生可能エネルギー電力の拡大を前提として、より安価に電力の安定供給を図る方針を明確にし、制度整備計画を立て、実現していくことが急務である 。


福島第一原子力発電所事故を経験した我々には、二度と原発事故による被害を繰り返さないために、気候変動対策を図りながら脱原発を実現することは可能であることを世界に示す責任がある。

 

第7 結び

以上のとおり、当連合会は、東日本大震災・福島第一原子力発電所事故の被災者・被害者の基本的人権を回復し、脱原発を実現するために、改めて全力で取り組む所存である。