東日本大震災及びこれに伴う原子力発電所事故による被災者の救済と被災地の復旧・復興支援に関する宣言

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2011年3月11日午後2時46分、マグニチュード9.0という我が国観測史上最大の地震による大津波や家屋の倒壊、火災等により、東北・関東地方の太平洋沿岸部に壊滅的な被害をもたらした東日本大震災が発生した。死者は1万4千人、行方不明者は1万2千人を超えるとともに、多数の被災者が過酷な避難生活を強いられている。


また、東京電力株式会社福島第一原子力発電所では、複数の原子炉事故が発生し、放射性物質の漏えいにより、周辺住民のみならず国民全体に多大な不安と脅威を与えている。避難生活の長期化、農作物に対する出荷制限、海洋汚染の広がりによる漁業への打撃、風評被害による農漁業への損害の拡大等地震及び津波並びに原子力発電所の事故による複合被害が深刻化している。


当連合会は、未曾有の大災害により亡くなられた方々に謹んで哀悼の意を表し、御冥福をお祈りするとともに、現在も過酷な状況に置かれている被災者の方々に心よりお見舞いを申し上げる。


当面、被災者や避難者に対する住宅・雇用・生活資金の確保等緊急支援が求められている。特に、災害弱者である高齢者、子ども、障がい者、外国人等に対する支援は、最優先に行われる必要がある。さらに、女性に対する特別の配慮も忘れてはならない。


また、被災地の復旧・復興については、基本的に国の財政負担で行われるべきであるが、復旧・復興を進める上では、被災自治体が中心となって、被災者の意見を十分に尊重しながら、被災者が生活再建に向けて希望を持てるような復旧・復興計画が早急に立てられなければならない。


今ほど、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする我々、弁護士が、その使命を果たすことが切実に求められているときはない。


当連合会は、被災地の復旧・復興の主体が被災者であることを十分に認識し、復旧・復興が、憲法の保障する基本的人権を回復するための「人間の復興」であることを銘記し、この理念に基づいて、法律専門家団体としての職能を活かし、被災者に対する相談活動などを通じて被災者の救済と被災地の復旧・復興支援に取り組むことをここに宣言するとともに、以下の2点の取組みを行っていく決意である。


  1. 当連合会は、被災地弁護士会、全国各地の弁護士会、弁護士会連合会、日本司法支援センター、地方自治体等と連携しながら、無償で、かつ、簡易にアクセスできる方法により、災害により生起した生活再建に関する法的問題を相談できる態勢を確立し、被災者が生き生きと生活する権利を回復できるよう、避難所、仮設住宅等に出向き、被災者に寄り添いながら無料法律相談を実施するとともに必要な法的支援を行っていく。
  2. 当連合会は、被災者に対する無料法律相談から浮き彫りになった問題を解決するために、既存の災害救助法、被災者生活再建支援法、原子力損害賠償法等の抜本的見直し、既存の債務の免除等、従来の枠にとらわれない特別立法の提案等積極的な政策及び立法提言を行い、その実現のために全力を挙げて取り組む。
    さらに、当連合会は、住居、職業、医療、福祉、年金、公的扶助、保育、教育、税制、学校の耐震化、その他あらゆる分野にわたる政策の提示が必要であることを自覚し、基本的人権の擁護を使命とする在野法曹の立場から、積極的かつ責任ある政策の提案及び立法提言を行う。

 

また、以上のような見地に立って、当連合会は国、関係地方自治体、東京電力株式会社等に対し次の諸点を強く求める。





2011年(平成23年)5月27日
日本弁護士連合会


1 復旧・復興に向けた制度提案の視点

(1) 被災住民は、未曽有の被害に直面し、将来の目標すら設定するのが困難な状況にある。被災者の救済と被災地の復興・復旧は、基本的には国の財政負担で行われるべきであるが、被災地の復旧・復興に当たっては、被災者の意思が尊重されるとともに被災地自治体が中心となって行われるべきである。また、国及び被災自治体は、早急に復旧・復興に向けた工程表を提示し、被災住民、農漁業者、中小企業者等被災に関連する人々が基本的人権を享受し、希望を持って人間復興へと歩み出せるようその道筋を提示するべきである。


(2) 住宅、自動車及び工場などを根こそぎ喪失し、債務のみが残った人が少なくないことから、生活再建のための新たなローンと併せて二重のローンを負担しなければならない事態が広範に生じている。国及び被災自治体は、このような二重ローンの解消について債務自体の免除の方策を含めた生活再建や雇用の維持のため大胆な政策を講じるべきである。


2 福島第一原子力発電所事故への対応

福島第一原子力発電所の事故とこれによる放射性物質による汚染は過去に例を見ない甚大なものであり、被災地のみの問題ではなく、国際的な関心事となっていることに鑑み、国は国際機関とも連携し、一元的に迅速かつ正確な情報を公開する体制を整備し、早急に以下の措置を講じるよう強く求める。


(1) 国は、福島第一原子力発電所事故の現状及び今後想定されるあらゆる事態並びに各地の放射能汚染の実情、被曝による健康被害等の長期的なリスク及び健康管理体制に関する情報、被曝防護に関する情報を正確かつ迅速に国民に提供し、適切な範囲の住民を速やかに避難させ、避難の長期化に対応して避難中の住居を保障するとともに、十分な生活支援を行うこと。


(2) 国及び東京電力株式会社は、今回の事故により避難及び屋内待避の指示を受けた住民、さらには自主的に避難した者を含めてその生活再建に必要かつ十分な支援及び被害補償を迅速に行うこと。


(3) 国及び東京電力株式会社は、今回の事故に関連する農漁業の被害や観光業等の風評被害等を含め被害の実情に応じた補償を十分に行うこと。


(4) 国、電力会社その他原子力関係機関は、二度とこのような原子力発電所事故を繰り返さないために、原子力発電所の新増設を停止し、既存の原子力発電所は段階的に廃止すること。特に、運転開始後30年を経過し、老朽化したものや、付近で巨大地震が発生することが予見されているものについては、速やかに運転を停止し、それ以外のものについても、地震及び津波への対策を直ちに点検し、安全性が確認できないものについては運転を停止すること。


(5) 原子力安全規制行政は、米国の原子力規制委員会にならって、独立行政委員会に一元化する等、原子力政策推進官庁からの独立を確保すること。


(6) 今後のエネルギー政策については、持続可能性を基本原則とするものに抜本的に転換し、再生可能エネルギーの推進を政策の中核に据えること。他方、石炭火力発電については、新増設を停止すること。発電と送電を分離し、エネルギー製造・供給事業の自由化を促進すること。エネルギー消費を抑制するための実効的な制度を導入すること。排出量取引制度等によってエネルギー供給の確実な低炭素化を図っていくこと。


3 震災被害に合わせた民事法律扶助制度の拡充

当連合会は、国に対して、中小企業を含む被災者が住居をはじめとする財産を喪失し、生活に困窮した状況にあることに鑑み、あまねく法的支援を受けることができるようにするため、民事法律扶助制度について、災害時の特例的措置の創設を進め、対象者及び対象事件の範囲の拡大と現行の利用者負担の在り方につき、償還の猶予及び免除を原則化する等扶助制度の一層の充実発展を求める。


以上のとおり宣言する。

2011年(平成23年)5月27日

日本弁護士連合会


 

(提案理由)

第1 はじめに

2011年3月11日午後2時46分に発生した東北地方太平洋沖地震は、マグニチュード9.0という国内観測史上最大の地震を記録した。地震に伴い発生した津波は、広範囲の太平洋沿岸地域に壊滅的な損害を与え、死者1万4千人、行方不明1万2千人を超える未曾有の災害となった。家族全体が津波被害等に遭い行方不明の届出自体出せないケースも多数存し、死者及び行方不明者の全体像はいまだ判明せず日々増大している。


また、いまなお13万人を超える多数の被災者が不自由な生活を余儀なくされている。


そればかりでなく、福島第一原子力発電所の事故は、政府、原子力安全・保安院及び東京電力株式会社から様々な情報が示されるものの、それぞれのデータが異なるなど情報への信頼を失わせている。過去に経験したことのない放射性物質の大気や海水への放出は近隣住民に退避を余儀なくさせ、避難生活は長期化する様相を呈している。さらに、風評被害による地域経済への影響は甚大である。農作物に対する出荷制限、海洋汚染の広がりによる水産業への影響等、震災と放射性物質による被害の複合被害が深刻なものとなっている。


多くの被災者は、一命をとりとめたものの、住居を奪われ、職を失い、明日の生活の糧もままならない状況のまま、限られた情報しかもたされず、住宅ローンや事業資金の借入金が今後どうなるのか、仕事に戻れるのか、あるいは、原子力災害のもと、住居や学校にいつ戻れるかという不安に苛まれた日々を過ごしている。

 

第2 基本的視点

東日本大震災からの復興で目指すべき基本的視点は、


  1. コミュニティの維持・再生・発展
  2. 二重ローンなど不合理な債務からの解放
  3. 生業と雇用の場の回復

である。


コミュニティとは、単に住居の提供やかつての集落の人の集まりの場所的維持というだけではなく、あらゆる世代の人と人のつながり、住民それぞれの役割・生業、地域の社会的基盤、地域の産業等全てを包括するものでなければならない。


したがって、地域の復旧・復興のあり方や進め方については、復旧・復興の主体が被災者であることを十分認識し、被災者自身の意思決定を尊重して、被災自治体が中心となり決定されるべきである。その際には、いわゆる災害弱者といわれる人々に十分な配慮をし、その意見も尊重すべきである。また、物理的な復旧・復興のみならず、心のケア、心理的な傷の修復も重要である。


他方、震災が県境を越えて広域に及び、被害が甚大であることから、震災からの復興には、国のリーダーシップと積極的な財政出動が不可欠であり、これをためらってはならない。被災者からの相談で悲鳴のように聞こえてくるのは、地震や津波によって家屋などの不動産を失った者のローン負担への不安である。同じことは、生産設備等を失った地場の企業のオーナーの個人保証等にも当てはまる。これらの被災者が自らの足で立ち上がって復興に向けて歩き始めることができるように、国は積極的な施策をとるべきである。


具体的には、まず二重ローンの解消のため、震災によって家屋や生産設備をすべて失ったような場合には、第一次債務の全部又は一部を免除する措置を立法的措置を含めて検討するべきである。そして、債権者が被災者に対する債権を放棄した場合には、当該金融機関が債権の全額無税償却ができるようにするとともに、体力が十分でない被災地の金融機関に対しては、公的資金の注入や政府機関等による不良債権の買取り等を積極的に行うことを宣明すべきである。このような震災被災者に対する債権放棄はモラル・ハザードのおそれもなく、被災者がゼロから再出発できるようにするために必要な措置として、国民全体が支持できるところであろう。


また、被災者らの生活基盤の安定や地場産業の復興のため、被災した個人に対しても中小事業者に対しても、無利子又は低利・長期の融資制度や助成金制度を充実させるとともに、物的担保の提供が難しい債務者のために低廉な費用で保証を行う制度又は機関を整備すべきである。


今時の震災の被災者の多くは、農林漁業従事者や地場の中小零細産業の従事者であって、震災と原子力発電所事故被害によって生業の道そのものを失っている。前述の融資や助成などにより、できる限り、被災者が元の生業を再開できるよう支援すべきであるが、津波や原子力災害などの被害により、元の生業に戻ることが困難な者も生じる。このような被災者については、その損害が補償されるだけではなく、新たな産業の振興策を検討し、働く意欲と能力のある者に対しては、能力開発プログラムの提供やきめ細かな就職支援などの対応を行うことが肝要である。


このような基本的視点に立った上で、以下、現時点において緊急に対応すべき個別の点について述べる。


第3 東京電力株式会社福島第一原子力発電所問題

今回の震災は、地震においても津波においても、その被害が未曽有のものであるだけでなく、原子力発電所の事故とそれによる放射性物質による汚染という三重の複合被害であって、原子力発電所問題の解決なくして真の震災対策はあり得ない。


福島第一原子力発電所の事故とこれに伴う放射性物質による汚染によって、半径20キロメートル圏内では放射性物質の数値が高濃度であることから、遺体の収容すら進まず、さらに、住民の多くが先行きのめどがまったく立たないまま居住地に長期にわたり帰還できない可能性が生じている。避難住民の生活を再建するためには、原子力発電所の事故の終息と汚染地域の土壌、海洋の回復という息の長い作業が必要であり、その前途には過去の災害に類例を見ない困難が予想される。


また、今回の事故によって生じた損害は、避難住民の避難費用や財産的損害にとどまらず、放射能汚染により出荷制限を受けた農産物や漁獲物、風評被害による農漁業や観光産業の損害等の幅広い分野に及んでおり、国及び東京電力株式会社はこれらの被害の実情に応じた適切な被害補償を行うべきである。


さらに、今回の事故を教訓とし、取り返しのつかない巨大な原子力災害を二度と繰り返さないために、原子力発電所依存のエネルギー政策を根本的に見直し、持続可能性を基本原則とするエネルギー政策に転換するべきである。


よって、当連合会は関係機関に対し、早急に以下の措置を講じるよう強く求める。


  1. 政府が国際機関と連携し、公正な第三者機関から、一元的に迅速かつ正確な情報を公開する体制を整備し、福島第一原子力発電所事故の現状及び今後想定されるあらゆる事態並びに各地の放射能汚染の実情、被曝による長期的な健康被害等のリスク及び健康管理体制に関する情報、被曝防護に関する情報を正確かつ迅速に国民に提供し、適切な範囲の住民を速やかに避難させ、避難の長期化に対応して避難中の住居を保障するとともに、十分な生活支援を行うこと。
  2. 国及び東京電力株式会社は、今回の事故により、避難及び屋内待避の指示を受けた住民、さらには自主的に避難した者を含めてその生活再建に必要かつ十分な支援及び被害補償を行うこと。
  3. 国及び東京電力株式会社は、今回の事故による放射能汚染で出荷制限を受けた農産物や漁獲物の補償、さらには放射能汚染の風評被害により損害を受けた農漁業や観光産業の損害等被害の実情に応じた補償を十分に行うこと。
  4. 国、電力会社その他原子力関係機関は、二度とこのような原子力発電所事故を繰り返さないために、原子力発電所の新増設を停止し、既存の原子力発電所については、段階的に廃止すること。特に、大規模な地震が発生するなど危険性の高い地域の原子力発電所、例えば中部電力株式会社浜岡原子力発電所、東京電力株式会社福島第二原子力発電所、同柏崎刈羽原子力発電所等は速やかに運転を停止すること。既設の原子力発電所の運転継続については、地震や津波災害に対する対策を飛躍的に強化し、地震発生時の原子力発電所停止を確実なものとし、停電対策を多重化し、配管などの耐震補強を徹底すること。
  5. 今回の原子力発電所震災の発生を警告されながら、未然にこれを防止するため何ら効果的な措置を講ずることもできなかった原子力安全規制行政については、抜本的な見直しをすること。原子力安全委員会と原子力安全・保安院はいったん解体し、米国の原子力規制委員会にならって独立行政委員会に一元化する等原子力政策推進官庁からの独立が確保された体制とすること。
  6. 今後のエネルギー政策については、持続可能性を基本原則とするものに抜本的に転換し、太陽光、風力、バイオマス等の再生可能エネルギーの推進を政策の中核に据えること。他方、石炭火力発電については、二酸化炭素の排出量が化石エネルギーの中でも極めて多く、温暖化防止の観点から、新増設を停止すること。エネルギー製造・供給事業は、持続可能なエネルギー供給と健全な競争環境の確保の観点から、発電と送配電を分離し、送配電網をコモンキャリアとして公的なコントロールのもとにおき、他方で発電事業の独占体制を改め、速やかに自由化を図ること。エネルギー消費を抑制するための実効的な制度を導入すること。温室効果ガス削減のための有効な手段である排出量取引制度の導入については、発電所もその対象とし、エネルギー供給の確実な低炭素化を図っていくこと。

第4 アクセスしやすい災害相談態勢の確立

被災者の避難生活における悩みを解決すべく、被災者が無償で、かつ、簡易にアクセスできる方法により、相談できる態勢を確立する必要がある。


当連合会は、地震後の3月23日から電話による無料相談を実施し、被災地の岩手、宮城、福島、茨城等の被災地弁護士会で電話による無料相談を実施するだけでなく、避難場所での面接相談に応ずる体制を整備している。さらに、被災地弁護士会から当連合会や各弁護士会への支援要請を得て、支援弁護士を当連合会として避難場所などへ派遣している。


今後とも、支援態勢の確立に当たっては、被災地のかつての状況を知悉し、従来から被災地市民と接してきた被災地弁護士会の意見を反映させ、被災者のニーズに沿った積極的な取組が必要である。


また、その支援に当たっては、国、日本司法支援センター及び地方自治体が、被災者の生命・身体・財産を守るべき責務があることに鑑み、利用可能な既存の資源の利用はもとより、相談場所の提供や職員の派遣などの人的・物的支援を積極的に展開し、相談態勢の確立を図ることを求める。

 

第5 災害相談を通じて得た現行諸制度の不備の改革・改善のための提言の視点

我々は、この間、多くの被災者に接することや被災地における相談活動を通じて既存の自然災害対策制度の不備を痛感した。被災者は、被害の程度が甚大であり、政府や自治体から今後の生活再建、街づくりの工程表が示されていないことから、将来の目標設定すら困難となり大きな不安を抱えている。


さらに、高齢者、障がい者、震災で親を失った子ども、外国人等の社会的弱者である被災者の支援体制や、医療、福祉、年金、公的扶助、教育、保育、学校の耐震化等生活全般の側面での支援が検討されなければならない。


そこで、当連合会は国及び被災自治体に対し、被災者の救済と被災地の復興等について、早期に今後の復旧・復興についての工程表を示しながら次の施策を実施するよう求める。


第1に、被災者の人間らしい安定した生活を回復するため、次の措置を求める。


  1. 被災者のニーズに対応した応急仮設住宅を建設し、民間借家の借り上げを含む公営住宅の整備拡充を含め、速やかに実質的な保障を徹底すること。仮設住宅等の設置においてもコミュニティの維持の観点が重視されなければならない。
    さらに、義捐金の早期の分配だけでなく、被災者への速やかな現金給付や被災者生活再建支援法の適応範囲及び給付金額の拡大を求める。
  2. 東日本大震災の地域経済に対する甚大な影響に鑑み、被災事業者の再建と雇用不安等の解消に必要な援助を行い、被災地の産業復興についても具体的な計画を策定すること。
  3. 被災者に対する以上のような救済措置を実行可能な限り速やかに遂行し、震災に伴う二次的健康被害及び二次的災害の予防及び救済を図るため、万全の措置を行うこと。

第2に、被災地の中には地域の全体又は相当部分が津波被害によって壊滅的な影響を受けている箇所が多数見られる。その復興に当たっては、津波災害の再発防止の観点と地域の特性を活かした市民本位の安全で住みやすい街づくりを実現するために、震災復興計画の策定及びその実施について各専門分野の英知を集めるとともに、情報を住民に十分公開した上で、その意見を反映するなど、地域コミュニティを重視した市民参加を実質的に保障するべきである。この場合に広域的な避難が実施されているコミュニティについて、その意思決定の手続的な困難を考慮した援助がなされることを求める。


地域がコミュニティを維持しながら再生していくためには、雇用先の確保、住宅の設置及び移動手段としての自動車等の確保が必要不可欠であり、住宅、自動車及び中小企業の二重債務の解消を図る必要があり、無税償却や金融機関への支援策など二重債務解消に向けたこれまでにない取組が求められる。


第3に、法律相談や示談あっせん仲裁にとどまらず、調停や訴訟事件への対応が急務である。


津波により土地の形状が変わり、境界自体が不分明となり、被災地での法的紛争の激増が予測される。また、停電などにより操業を停止した事業所などの閉鎖に伴う労働問題等を簡便・迅速・適正に解決する必要がある。


このような震災に伴い急増する法的紛争に対処するため、法律相談にとどまらず、巡回の調停・簡易迅速な裁判制度などについて特別の措置をとることを提言する。


第6 災害に対応した民事法律扶助制度の特例的措置等の創設

被災者は住居をはじめとする財産をほとんど失い、生活に困窮した状況にあることは明らかである。他方、震災に伴い発生した紛争につき、被災者が弁護士費用、裁判費用の負担により、法的解決を躊躇することがあってはならない。このような被災者の窮状に鑑み、被災者にあまねく法的支援を受けることができるようにする必要がある。そのためには、現行の民事法律扶助制度につき、災害時の特例的措置の創設を進める必要がある。


まず、被災者には、その資力要件を問うことなく、広く法律扶助制度の利用が可能となるようにすべきである。また、法律扶助制度の適用対象に被災企業も含めるよう検討するべきである。


次に、対象事件の範囲についても、裁判手続に限定することなく、行政手続にも拡大すべきである。


また、前述のように、調停、仲裁等の裁判外紛争解決手続(ADR)による解決が有用であることに鑑み、ADR機関の調停人、仲裁人等への報酬も法律扶助の対象とすべきである。


さらに、被災者が扶助制度を利用するに際し、償還の負担を憂慮して、利用を躊躇することがないよう、被災者には、立替費用の償還猶予及び免除を原則化すべきである。


そして、これらの特例的措置の実施が可能なように財政措置を求めることも不可欠である。

 

第7 「人間の復興」に向けて

我々は、この間、法の支配が社会のすみずみにまで及ぼされ、それにより、市民の権利が十分に保障され、民主主義社会が豊かに発展することを指向してきた。


震災により、日常生活が瞬時に失われたとしても、法の支配が後退することがあってはならない。


災害により失われた今までの日常が一日も早く回復され、「人間の復興」が実現することを目指し、以上のような取組に最大限取り組むことを決意する。