第57回定期総会・出資法の上限金利を利息制限法の制限金利まで引き下げること等を求める決議

2007年(平成19年)1月を目途に行うとされている貸金業制度、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)の上限金利の見直しに向けて、本年中に法案が国会に上程される見通しとなっている。


今回の見直しは、多重債務問題の中で、とりわけヤミ金融問題解決のために、2003年(平成15年)7月に成立した、いわゆるヤミ金融対策法附則第12条に基づくものであるが、同法成立後も多重債務を原因とする自己破産件数、多重債務が引金となったとみられる自殺者数が高い水準にあり、多重債務問題は依然として深刻な社会問題となっている。


当連合会は、これまでに多くの決議や意見書等を通じて、多重債務問題解決のために、貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業規制法」という。)第43条のみなし弁済規定の廃止、出資法の上限金利を利息制限法の制限金利まで引き下げることや日賦貸金業、電話担保及び質屋営業の特例金利廃止や、法定利息以外に高額な保証料を徴求することへの規制を繰り返し求めてきたところである。


最高裁も、本年1月13日及び19日、みなし弁済規定について、利息制限法に定める制限利息を超過する利息を支払うことが事実上強制される場合は「任意に支払った」とはいえず、有効な利息の支払いとみなすことができないとする画期的な判断を下すに至っている。


こうした中、今回の見直しにおいて、利息制限法の制限金利を出資法の上限金利にまで引き上げることを求めるなど利息制限法の改悪につながる動きがあることから、当連合会は、本年2月「上限金利引き下げ実現本部」を設置し、利息制限法の厳守や多重債務問題対策に全力を傾けることとした。


そもそも、利息制限法違反の貸付が横行するのは、その違反に刑事罰が定められていないこと、みなし弁済規定が貸金業者に多大な利益をもたらしていることにあり、利息制限法違反の貸付が行われないようにするために、当連合会は、国に対し、以下の点を強く求める。


  1. 出資法第5条の上限金利を、利息制限法第1条の制限金利まで引き下げること。
  2. 貸金業規制法第43条(みなし弁済規定)を廃止すること。
  3. 日賦貸金業、電話担保金融及び質屋に対する特例措置の撤廃を行うとともに、保証料を徴求して、出資法及び利息制限法を潜脱することへの規制を行うこと。

以上のとおり決議する。


2006年(平成18年)5月26日
日本弁護士連合会


(提案理由)

1.はじめに…本件決議の背景

2003年(平成15年)7月成立したいわゆるヤミ金融対策法(貸金業規制法及び出資法の一部改正法)附則第12条は、施行後3年(2007年(平成19年)1月)を目途に貸金業制度及び出資法の上限金利の見直しを行うことを定めており、本年中にこれら法案の改正が国会に上程される見通しとなっている。


2.深刻な多重債務問題

自己破産件数は、2002年(平成14年)が21万4683件、2003年(平成15年)が24万2357件とピークに達し、2004年(平成16年)以降は若干減少しているものの、依然として高水準にある。しかも、長期かつ複数の業者から借入をしている多重債務者の数は、150万~200万人ともいわれている。
警察庁の調べによると、経済・生活苦による自殺者数は、2003年(平成15年)度は8897人、2004年(平成16年)度は7947人と高い水準にある。また、京都弁護士会等が実施した路上生活者に対する聞き取り調査によると、実にその8~9割が多重債務が原因で、自宅に戻れず路上等で生活するようになったということである。そして、長期の借金生活が債務者や家族の心を疲弊させ離婚や児童虐待を引き起こしたり、財産犯を中心とした犯罪の動機にもなっている。
このように、多重債務問題は、多重債務者本人に止まらず、その家族や親族をも巻き込む事態に発展することが多く、深刻な社会問題となっている。


3.消費者金融会社による高金利での貸付と多重債務者の増加

(1)高金利を容認する仕組み
日本の金利規制は、利息制限法(貸付額により年15~20%)と出資法(年29.2%)の二重構造になっており、利息制限法を超える利息部分を民事上無効としその支払義務を認めないものの、出資法の年29.2%を超えないと刑事罰の対象とならず、利息制限法と出資法の間の利息は「グレーゾーン金利」とされ貸金業規制法第43条は登録貸金業者には「任意の支払」など、一定の厳格な条件を満たす場合は例外的にグレーゾーン金利の取得を認めている(みなし弁済規定)。


(2)わが国の多重債務者の実情と高金利が多重債務者を生み出していく構造
貸金業者の業界団体である日本消費者金融協会の2005年(平成17年)版消費者金融白書によると、サラ金の平均的利用者像は、借入数1顧客当たり平均3.3社、平均利用総額143万円であり、3社以上から借入をしている顧客が全体の60%に達していること、利用期間は平均6.2年であり、10年を超える顧客が全体の約28%、5年以上利用している顧客が全体の約50%近いこと、また、サラ金利用者の平均所得は年収439万円で、400万円未満が47.4%を占めていることが報告されている。貸付金利の平均は年25.43%、25%以上29.2%未満の高利の貸付が72.4%となっている。
同協会の調査結果は、サラ金の利用者の多くが、借入を完済できないまま高金利を返済し続ける借金漬けの状況に陥っているという実態を浮き彫りにしている。サラ金の利用者の多くが低所得者層であり、返済余力が乏しいことから高金利を支払い続けるために新たな借入を行うといういわゆる雪だるま状態となって多重債務者に陥っていくという被害構造なのである。


(3)多重債務の原因は高金利
サラ金の調達金利は、与信量の9割以上を占める大手の場合は年2%程度で、業界全体でも、年4.41%とされている。そこで、サラ金は大手を中心に年25~29.2%という高金利で、貸せば貸すほど儲かることから、テレビCMなど多量の広告で借金の抵抗感をなくし、無人契約機を利用して支払能力を大幅に超過する過剰な貸付を行っている。


4.みなし弁済規定に関する最高裁判決とその廃止の必要性

このような中、最高裁は、本年1月13日及び19日判決で、貸金業者の貸付につき貸金業規制法第43条(みなし弁済規定)を厳格解釈し、その適用を否定する画期的な判断を下した。同判決は、利息制限法を超過する約定利息の支払いを滞った場合には、期限の利益を喪失すると定める期限の利益喪失特約のもとにおける返済は、支払義務のない利息の支払いを誤解によって事実上強制するもので原則として任意性がないと判断したものである。
最高裁が指摘するまでもなく、みなし弁済規定は、利息制限法の例外規定であるものの、その実質が利息制限法に違反し支払義務のない利息を人の誤解等のもとに事実上強制するものであって、消費者基本法などの趣旨からしてもその廃止は急務である。


5.出資法の上限金利の利息制限法の制限金利までの引き下げ

(1)利息制限法制定と銀行平均貸出金利
現行利息制限法が制定された1954年(昭和29年)の銀行平均貸出金利は年9%であり、それ以降、一度も改正作業が行われてこなかった。現在の銀行平均貸出金利が2%を割り込んでいることからすれば、利息制限法の引き下げ等の見直しが必要となってきている。


(2)利息制限法を知らない利用者
他方、サラ金の利用者は、個人信用情報機関への登録数からして2000万人を超えていると推計されるところ、利息制限法の保護を受けられるのは法律家にたどり着いたほんの一部に過ぎず、大多数の利用者は利息制限法を知らないまま、法律上支払義務のないことを知らずに支払いを続けている。
翻って検討するならば、利息制限法に違反する高金利が横行するのもその違反に刑事罰が科せられないことにある。当連合会が出資法の上限金利を利息制限法の制限金利まで引き下げることを求めるのは、すべての利用者が利息制限法による保護を受けられるようにするためである。


(3)金利引き下げの多重債務者対策としての効果
また、前記の平均的利用者の利用期間が6.2年であるとの実態からすれば、平均的な利用者が利息制限法により計算すると法的債務がほとんどない状況となるものであり、制限金利への引き下げは日本の多重債務者救済・予防に対し、極めて有効・適切な対策となるのである。


6.金利引き下げが社会にもたらす効果

出資法の上限金利が利息制限法の制限金利まで引き下げられることによって、少なくとも年間1兆円以上が利用者の手元に残り、生活に還元され、健全な生活の大きな糧となり、税金の滞納の解消、長期的社会保障費の削減などの面で国民生活にも多大な効果も発揮することになる。


7.日賦貸金業、質屋、電話担保ローンに対する例外措置の撤廃

現行法は、貸金業者のうち質屋・日賦貸金業者・電話担保金融について特例を設け、刑罰対象利率を、質屋につき年109.5%(閏年は年109.8%)、日賦貸金業者・電話担保金融につき年54.75%(閏年は年54.9%)とした上で、これらの利率をみなし弁済規定の上限利率としている(質屋営業法第36条、出資法附則第10条第8項及び第14項)。
法が、質屋・日賦貸金業者・電話担保金融について他の消費者信用取引と異なる扱いをしている根拠として、これまで問題視されるようなトラブルがなかったことや集金・担保物保管などにコストがかかることといった理由が挙げられている。しかし、コストがかかるといっても、他の貸金業者が市街地の見やすい場所に店舗を構えるコストと比べると、特例を認めるべき差ともいい難い。
また、日賦貸金業者については、過酷な取立が問題となって、2000年(平成12年)6月に刑罰対象金利を引き下げる法改正がされているが(2001年(平成13年)1月1日施行)、これによって、過酷な取立が沈静化していることはないし、高利徴求の隠れ蓑として脱法行為も横行し、最高裁の本年1月24日判決においてもみなし弁済の適用が否定されている等、特例金利を残すことはもはや許されない。電話担保金融についても、担保を取っていることからすれば、むしろ無担保業者より低金利であっても当然である。
従って、これら例外措置は撤廃されるべきである。


8.業界などの動きと問題点

全国貸金業協会連合会は、(1)貸金業規制法第43条の「みなし弁済規定」の要件の緩和、(2)出資法の上限金利の年29.2%~年40.004%への引き上げ、を当面の運動目標と定めるとともに、将来的には金利規制そのものの撤廃・自由化を目指して、政界に対する働きかけを強化していた。
また、本年1月の最高裁判決後は、過払金返還回避目的から、グレーゾーン金利の廃止を強く求め、その解消方法として、利息制限法の引き上げや廃止を唱えて政界への要請を強めており、この度の上限金利の見直しに当たっては、利息制限法の制限金利の引き上げ等を求める政治的圧力が非常に強く、利息制限法の制限金利の引き上げや廃止が断行されかねない危険な情勢に直面している。
一方、本年4月、金融庁の貸金業制度等に関する懇談会が取りまとめた中間整理において、みなし弁済制度の廃止及び出資法の上限金利を利息制限法の金利水準まで引き下げるとの方向性が示されたことに加え、大手消費者金融アイフルに対する業務停止処分がなされたという状況もあるが、業界側の今後の巻き返しも予想されており、楽観は許されないものといえる。


9.むすび

当連合会は、これまでにも、1999年(平成11年)5月「多重債務者の救済と多重債務問題解決のための総合的施策を求める決議」(第50回定期総会)、2000年(平成12年)5月「日賦貸金業者および電話担保金融の特例金利の即時廃止を求める意見書」、同年10月「統一的・総合的な消費者信用法の立法措置を求める決議」(第43回人権擁護大会)、2003年(平成15年)7月「出資法の上限金利引き下げ等を求める意見書」、同年8月「統一消費者信用法要綱案」を採択するなどして、クレジット・サラ金・商工ローン被害の根絶と多重債務問題の解決のために、出資法の上限金利の引き下げやみなし弁済規定の廃止等を強く求めてきた。
本年は、貸金業規制の関連法規をめぐって関係諸団体がしのぎを削る年になることが予想されるが、前述の危機意識の下に当連合会は、本年2月に会長を本部長とする「上限金利引き下げ実現本部」を設置し、利息制限法の厳守や、多重債務問題対策に全力を傾けることとした。ここに改めて、国に対し決議本文に記載した法改正を強く求めるべく、本決議を提案するものである。