臨時総会・司法修習期間に関する方針

法科大学院は、2004年(平成16年)春から学生の受け入れを開始し、2006年(平成18年)秋には、その第1期卒業生(2年課程・既修者コース)のうち新司法試験に合格した者に対する司法修習(以下「新司法修習」という。)が開始される予定である。その後2010年(平成22年)までは、経過措置により旧司法試験が残るため、これに合格した者に対する司法修習(以下「旧司法修習」という。)が終わる2012年(平成24年)までは、旧司法修習と新司法修習とが併存することとなる(以下この時期を「移行期」という。後注参照)。


さらに、移行期終了後は、新司法試験に合格した者(予備試験を経由して新司法試験に合格した者を含む)のみが、新司法修習を経た後に法曹資格を付与されることとなる。


このような新たな法曹養成制度が開始されるにあたり、日本弁護士連合会は、司法修習期間に関する方針を以下のとおり定める。


  1. 新司法試験に合格した者に対する司法修習(新司法修習・移行期を含む)の期間は、1年とする。
  2. 経過措置による旧司法試験に合格した者に対する司法修習(旧司法修習)の期間は、1年4か月とする。

2002年(平成14年)12月5日
日本弁護士連合会


(提案理由)

第1 新しい法曹養成制度のもとにおける司法修習の意義

  1. 日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)は、司法制度改革審議会が2000年(平成12年)10月31日の第36回審議会において法科大学院設置の方針を固めたことを受け、同年11月1日の臨時総会において、法科大学院を中核とする新しい法曹養成制度について次のとおり決議した。
    「 法曹一元制を目指し、21世紀の『市民の司法』を担うのにふさわしい専門的能力と高い職業倫理を身につけた弁護士の養成を眼目として、下記事項を骨子とする新たな法曹養成制度を創設し、大学院レベルの法律実務家養成専門機関(以下「法科大学院(仮称)」という。)における教育と、その成果を試す新たな司法試験及びその後の実務修習を行うこととし、弁護士会は、これらに主体的かつ積極的に関与し、その円滑な運営に協力する。
    (1)法科大学院(仮称)は、公平性・開放性・多様性を基本理念とし、全国に適正配置する。
    (2)新たな法曹養成制度は、法曹養成における実務教育の重要性を認識し、法科大学院(仮称)においてもこれを適切に行う。
    (3)新たな司法試験後に実施する実務修習は、法曹三者が対等な立場で運営する。」
  2. 2001年(平成13年)6月12日、司法制度改革審議会意見書(以下「意見書」という。)においては、「司法試験という『点』のみによる選抜ではなく、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた『プロセス』としての法曹養成制度を新たに整備すべきである。その中核を成すものとして、法曹養成に特化した教育を行うプロフェッショナル・スクールである法科大学院を設けるべきである」(意見書61頁)と提言され、ここにおいて新しい法曹養成制度の骨格が形成されるに至った。
  3. その後、司法制度改革推進本部のもとに設置された法曹養成検討会及び中央教育審議会大学分科会法科大学院部会における検討を経て、「法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律案」「司法試験法及び裁判所法の一部を改正する法律案」「学校教育法の一部を改正する法律案」が関連法案として本年10月18日に開会された第155臨時国会に上程されるに至っている。新しい法曹養成制度の概要が、ほぼ固まりつつある。
  4. 意見書及び上記総会決議によると、新しい法曹養成制度は、「法曹養成に特化した教育を行うプロフェッショナル・スクールである法科大学院」を中核としつつ、「法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた」ものとして構成されるべきものである。同制度のもとにおいても「実務修習を中核」(意見書75頁)とする司法修習の意義はいささかも薄らぐものではないが、法科大学院が「理論的教育と実務的教育を架橋する」(同63頁)、新しい法曹養成制度の中核をなす教育機関として創設されることとの関係において、新しい司法修習のあり方についても検討がなされなければならない。
    本議案は、新しい法曹養成制度のもとでの司法修習のあり方を展望しつつ、移行期を含め、司法修習期間に関する方針を定めるものである。
    なお、日弁連は1997年(平成9年)10月の臨時総会において、最低1年6か月の司法修習期間を確保する旨決議している。同決議は法科大学院制度の存在を前提としておらず、したがって、旧司法修習と新司法修習が併存する移行期の場合を予想したものではないが、司法修習期間の点に着目するならば、本方針は、旧司法修習の修習期間を1年6か月から1年4か月に変更するものであることから、本総会に付議するものである。

第2 新しい法曹養成制度とその教育内容

  1. 司法制度改革審議会意見書における法科大学院の目的と理念
    意見書では、法科大学院の目的として「法科大学院は、司法が21世紀の我が国社会において期待される役割を十全に果たすための人的基盤を確立することを目的とし、司法試験、司法修習と連携した基幹的な高度専門教育機関とする」(意見書63頁)とし、教育理念として、 「法科大学院における法曹養成教育の在り方は、理論的教育と実務的教育を架橋するものとして、公平性、開放性、多様性を旨としつつ、以下の基本的理念を統合的に実現するものでなければならない。
    ・『法の支配』の直接の担い手であり、『国民の社会生活上の医師』としての役割を期待される法曹に共通して必要とされる専門的資質・能力の習得と、かけがえのない人生を生きる人々の喜びや悲しみに対して深く共感しうる豊かな人間性の涵養、向上を図る。
    ・専門的な法知識を確実に習得させるとともに、それを批判的に検討し、また発展させていく創造的な思考力、あるいは事実に即して具体的な法的問題を解決していくため必要な法的分析能力や法的議論の能力等を育成する。
    ・先端的な法領域について基本的な理解を得させ、また、社会に生起する様々な問題に対して広い関心を持たせ、人間や社会の在り方に関する思索や実際的な見聞、体験を基礎として、法曹としての責任感や倫理観が涵養されるよう努めるとともに、実際に社会への貢献を行うための機会を提供しうるものとする」(同63頁)
    としている。
    そして、制度設計の基本的な考え方として、
    「・新しい社会のニーズに応える幅広くかつ高度の専門的教育を行うとともに、実務との融合をも図る教育内容とすること
    ・法科大学院における教育は、少なくとも実務修習を別に実施することを前提としつつ、司法試験及び司法修習との有機的な連携を図るものとすること
    ・以上のような教育を効果的に行い、かつ社会的責任を伴う高度専門職業人を養成するという意味からも、教員につき実務法曹や実務経験者等の適切な参加を得るなど、実務との密接な連携を図り、さらには、実社会との交流が広く行われるよう配慮すること」(同64頁)
    などと指摘している。
    また、意見書は法科大学院創設後の司法修習について、「新司法試験実施後の司法修習は、修習生の増加に実効的に対応するとともに、法科大学院での教育内容をも踏まえ、実務修習を中核として位置付けつつ、修習内容を適切に工夫して実施すべきである」(同75頁)としている。
  2. 中央教育審議会の答申
    中央教育審議会は、大学分科会法科大学院部会において、意見書を踏まえ、2004年(平成16年)4月からの学生受け入れ開始に向けて、法科大学院としての設置基準、学位等の課題を中心に検討を行った。同部会の意見を受けて、2002年(平成14年)8月5日、中央教育審議会は、「法科大学院の設置基準等について(答申)」を取りまとめた。
    同答申によれば、
    「法科大学院は、法曹養成に特化して法学教育を高度化し、理論的教育と実務的教育との架橋を図るものであるから、狭義の法曹や専攻分野における実務の経験を有する教員(「実務家教員」)の参加が不可欠である」(答申書62頁)
    「法曹として備えるべき資質・能力を育成するために、法理論教育を中心としつつ実務教育の導入部分をも併せて実施することとし、実務との架橋を強く意識した教育を行う。そのために必要な授業科目を開設し、体系的に教育課程を編成するものとする」(同64頁)
    とし、
    「教育方法については、少人数教育を基本として、事例研究、討論、調査、現場実習その他の適切な方法により授業を行うものとし、双方向的・多方向的で密度の濃いものとする」(同頁)
    としている。
    そして、科目の例として
    「a 法律基本科目群
       公法系(憲法、行政法などの分野に関する科目)
       民事系(民法、商法、民事訴訟法などの分野に関する科目)
       刑事系(刑法、刑事訴訟法などの分野に関する科目)
    b 実務基礎科目群
       法曹倫理、法情報調査、要件事実と事実認定の基礎、法文書作成、模擬裁判、ローヤリング、クリニック、エクスターンシップなど
    c 基礎法学・隣接科目群
       基礎法学、外国法、政治学、法と経済学など
    d 展開・先端科目群
       労働法、経済法、税法、知的財産法、国際取引法、環境法など」(同頁)
      を例示している。
  3. 法曹養成検討会等における検討状況
    (1) 法曹養成検討会においては、2002年(平成14年)1月11日以降、法科大学院に関する第三者評価及び司法試験、司法修習のあり方について検討された。

    (2) 同年3月28日の第6回検討会では、法科大学院における実務基礎科目の必修単位数について、「実務基礎科目の必修単位数については、当初は5単位とし、平成23年ころを目途に9単位とする」(「第三者評価《適格認定》基準の在り方について《意見の整理》《案》」8項)との取りまとめを行った。同検討会が検討の基礎とした、「法科大学院の教育内容・方法等に関する中間まとめ」(2002年《平成14年》1月22日「法科大学院の教育内容・方法等に関する研究会」)は、実務基礎科目の必修単位数について、「法律基本科目群の教育も、実務との架橋を強く意識した内容となること、展開・先端科目群のなかで、実務家が担当する実務関連科目が相当数開講されること、さらに実施のための人的・制度的条件の整備に一定期間かかることなどを考慮すると、法科大学院設置当初は、5単位相当を必修とし、現行司法試験が並行して実施される期間(5年間程度)が終了する時点で、それに加えて4単位相当を選択必修とし、合わせて9単位相当程度を必修ないし選択必修とするのが適切である」(6頁)としており、同検討会においてもこのような考え方に基づいて上記取りまとめを行ったものといえる。

    (3) 新司法修習のあり方については、法曹三者の各プレゼンテーションをふまえて検討が行われた結果、まず、同年6月4日の第8回検討会において、「全体の養成期間の長期化や、法科大学院での実務教育や法曹資格取得後の継続教育との役割分担等を考慮すると、移行期間の問題はあるものの、修習期間を1年程度に短縮する方向で、関係機関において検討」(第8回法曹養成検討会議事概要)する、との方向性が示された。
    その後、司法制度改革推進本部事務局が、裁判所法第67条第1項の改正を同年秋の臨時国会に上程するとの方針を急遽とるに至ったため、同年8月28日の第11回検討会では、司法修習期間の問題が再び検討事項に加えられた。
    同年9月18日の第12回検討会では、最高裁は、移行期について新司法修習を1年、旧司法修習を1年6か月とした場合、両者の集合・実務修習の重なりから実務庁や司法研修所が負担に耐えられないことを理由に、旧司法修習についても、新司法修習と同様に1年程度に短縮する旨のプレゼンテーションを行い、法務省もこれに賛同する趣旨の意見表明を行った。同日の検討会では、日弁連推薦の委員以外には、最高裁のプレゼンテーションに異論をとなえる意見はなかった。
    このような状況から、同年9月30日の第13回検討会までに法曹三者の協議が合意に達しないときは、検討会において、旧司法修習も1年という取りまとめがなされることが必至の事態となった。

    (4) そこで、執行部は、同年9月20日の理事会において、上記検討会における厳しい状況を説明し、新司法修習1年、旧司法修習1年6か月が望ましいが、旧司法修習1年6か月を維持するのは困難な状況にある、執行部としては旧司法修習の期間を1年6か月に近づけるよう最大限努力するが、法曹三者の協議に際しての若干の譲歩は執行部に一任されたいと提案し了解を得た。
    その後の協議において、日弁連は最高裁に対し、再度、法科大学院の教育を経ていない者に対する旧司法修習と新司法修習とを同一期間とする合理性はなく1年6か月が相当と考えること、移行期において増加する実務庁及び司法研修所の負担については、充実した修習の実施に責任を負う日弁連としても、これを誠実に担っていく決意であること等を、具体的なシミュレーションを示しながら、その検討結果を踏まえて主張した。これらの主張により、当初は実務庁及び司法研修所の負担の観点から移行期の旧司法修習も1年とする以外には考え難いと主張していた最高裁も、このような日弁連の主張を受けて再考することとなった。
    その結果、当初の旧司法修習1年程度との案は撤回され、最高裁は1年4か月まではこれを伸長することを受け入れるに至った。

    (5) 同年9月30日の第13回検討会では、日弁連は、旧司法修習を1年4か月とするとの意見を述べ、最高裁はこれに賛同し、法務省もその協議結果を尊重し、反対の態度は取らなかった。
    その後、検察実務修習の実施の困難性等の理由から最後まで態度を明確にしなかった法務省も最終的にはこれに同意し、旧司法修習については1年4か月とするという点において、法曹三者の合意が成立した。

第3 2012年(平成24年)以降及び移行期における司法修習の期間

  1. 2012年(平成24年)以降における新司法修習の期間は、1年とする
    法科大学院においては、前述のとおり、理論的教育と実務的教育を架橋する教育がなされること、現在、司法研修所において行われている前期集合修習に相当するものは、法科大学院のカリキュラムとして概ね予定されること、2011年(平成23年)ころを目途に、実務基礎科目群の必修単位数が従来の5単位から9単位に増加することなどを考えるならば、2012年(平成24年)以降における新司法修習については、その期間を1年とすることが適当である。また、前期集合修習を要することなく実務修習に入ることも可能と考えられる。
    最高裁は、分野別修習8か月(弁護、検察、民事裁判、刑事裁判各2か月)の後に総合修習2か月と集合修習2か月を2班制で実施するという提案を行っているが、その内容と期間配分は、法曹三者の今後の協議によることとなる。
  2. 移行期の新司法修習の期間も1年とする
    2012年(平成24年)以降の法科大学院における実務基礎科目群の必修単位数が9単位であるのに対し、移行期における実務基礎科目群の必修単位数は5単位に止まっている。
    日弁連は、実務基礎科目群の必修単位9単位の早期実現を主張しているものであるが、5単位を前提とした場合には、実務修習への導入となる何らかの集合修習が必要と考えられる。
    しかし、移行期の新司法修習の期間を1年を超えたもの、例えば1年2か月とした場合には、2期の集合修習相互間(前期と後期)の重なりが生じること、また、必修5単位とはいえ法科大学院の実務基礎科目群を履修していることに鑑みれば、修習カリキュラムの工夫等によって質の確保をはかり、これを1年とすることも可能と考える。
    なお、1年とした場合の内容と配分は、法曹三者の今後の協議によることとなる。
  3. 移行期における旧司法修習の期間は、1年4か月とする
    移行期には、4月に旧司法修習による、秋には新司法修習による各司法修習生を受け入れなくてはならず、その合計は、現在の人数を大幅に上回ることになる。しかも、新司法修習を1年、旧司法修習を1年6か月とするならば、別紙1表のとおり、司法研修所において各期の集合修習が間断なく10か月も続くことにもなり、司法研修所教官等の負担が現在に比して飛躍的に増大することになる。
    このような負担を緩和しながら移行期における旧司法修習についても実のある修習を実施するためには、司法修習の理念及び目的を損なわないよう、修習カリキュラムの工夫等によって質の確保をはかりつつ、現行の1年6か月の旧司法修習の期間を1年4か月の限度で短縮することもやむを得ない。
    上記短縮案により、司法修習の中核を占める実務修習の期間については、集合修習(前期・後期)を短縮することによって、現行どおり1年間を確保できる見通しである。

第4 新しい法曹養成制度のもとでの弁護士・弁護士会の責務

新しい法曹養成制度のもとにおいても、司法修習が重要な位置を占めることに変わりはなく、今後もその実施について弁護士・弁護士会は重大な責務を負担すべきものである。特に、移行期にあっては、法曹養成を支える人的体制が十分であるとは言い切れず、これを克服するには相当の覚悟と努力が必要と考えられる。
日弁連は、これまで司法修習に取り組んできた多くの会員の情熱を結集し、指導担当弁護士の必要数の確保や司法修習のあり方を工夫することにより、これからの司法修習が充実したものとなるよう、最大限の努力を尽くすものである。