臨時総会・被疑者国選弁護制度の早期実現を求める決議

当連合会は、これまで刑事弁護の充実強化を通じて、わが国刑事司法の改善改革を目指す活動を続けてきた。とりわけ近年は、平成元年(1989年)開催の第32回人権擁護大会を契機として、改革の要となる被疑者段階の弁護活動の抜本的な強化に努めてきた。


犯罪の嫌疑を受けた被疑者は、法律知識に乏しく自らの力で適切な防御活動をすることが極めて困難である。特に、身体の拘束を受けた被疑者は、社会から隔絶された中で取り調べを受け、肉体的にも精神的にも疲弊し無防備の状態で不本意な自白を強要される場合や家族関係または職務に関しても不必要な不安にさらされることも少なくない。


かかる被疑者に適切な助言を行い、違法不当な身体拘束や取り調べから守り、被疑者の人権を擁護して適正な刑事手続を確保するため、弁護士による被疑者段階での充実した弁護活動が必要不可欠となっている。


もとより被疑者の弁護人依頼権は憲法上保障されているが、貧困等のため事実上弁護人を依頼できない被疑者に対しては、憲法と国際人権法の諸規定からも、国がその責任で弁護人を付す責務を負っているといわなければならない。しかし、わが国では、これまで被疑者段階での国選弁護制度が存在せず、被疑者の多くが弁護人を依頼しないまま取り調べを受ける状態が長く続いており、国際水準から大きく立ち遅れている。


こうした状況を打開するため、平成2年(1990年)以降、各地の弁護士会は当番弁護士制度を発足させ、2年後にはこれが全国52の全ての弁護士会で実施されるに至った。当番弁護士制度は、貧困等のため弁護人を依頼できない被疑者を援助する被疑者弁護援助制度と相まって、着実な成果を上げており、現在全国で約7000名の弁護士が参加し、出動件数は年間2万件を超える規模に達している。


しかし、この制度の運営には、国費の支出が全く行われておらず、弁護士と弁護士会の負担によって支えられている現状にある。当連合会は、平成7年(1995年)5月の定期総会の決議をもって、全会員から特別会費を徴収しこれを財源とする当番弁護士等緊急財政基金を設置して自主的に当面の財政確立に努めてきたが、公的費用に裏付けられた制度がない現状ではその基盤はきわめて脆弱であり、今後の利用件数の増大に対応することも困難である。わが国において被疑者弁護を質的にも量的にも拡大充実させるためには、被告人段階と同様、被疑者段階においても公的費用により弁護人を付す制度を創設することが急務である。


こうした情勢を踏まえて、当連合会は、昨秋、会内外の議論を集約し、「被疑者国選弁護制度試案」を発表した。試案は、平成22年(2010年)、身体拘束された全ての被疑者の請求により国選弁護人を付する制度の実現を目指し、平成12年(2000年)を目途に関係法規を整備して段階的にこれを実施することを提言するものであり、発表以来、市民、国会議員、学会、言論界などに幅広く大きな反響を生み、高い評価を得てきている。


当連合会は、本年5月で期限切れとなる特別会費の徴収をさらに3年間延長し、当番弁護士制度の一層の充実強化に向けて邁進する決意を明らかにすると共に、国に対し、試案を基礎とした被疑者国選弁護制度の早期の法制化を強く求め、その実現に向けて全会員の英知と力を結集して努力していくことを誓うものである。


以上のとおり決議する。


1998年(平成10年)3月27日
日本弁護士連合会