第44回定期総会・法律扶助制度の抜本的改革に関する決議

(法律扶助制度の抜本的改革に関する決議)

法治国家の基本理念である「法の支配」を実現するためには、経済的、社会的な障害によって弁護士の援助を受けることができない者の存在を放置することは許されず、これらの者に弁護士の援助を保障する法律扶助は、国民の裁判を受ける権利を実質的に保障するもので、その充実を図ることは明らかに国の責任でもある。


わが国の法律扶助は、主として当連合会を中心に設立された財団法人法律扶助協会により、弁護士及び弁護士会を中心として実施されてきた。同協会は、これまで慢性的な資金不足等の困難な状況の中で、弁護士及び各地弁護士会の犠牲的な奉仕に支えられて法律扶助事業の充実に努めてきたが、最近の著しい財政難は、同協会による法律扶助事業の破綻の危険すら窺わせるに至っている。


当連合会は、1990年(平成2年)及び1991年(同3年)に行った「司法改革に関する宣言」において、国民主権の下でのあるべき司法、国民に身近な開かれた司法を目指して、司法改革を進める決意を明らかにし、その重要な柱として法律扶助事業の抜本的改革が必要であることを指摘した。


当連合会は、1987年(昭和62年)5月、法律扶助法案制定のための総会決議を行ったが、その後における諸情勢の推移の中で、財団法人法律扶助協会への国庫補助増額を骨子とする同法案の実現が困難となったため、本総会において、先の総会決議を撤回するとともに、新たに前記法律扶助の理念を踏まえ、国の財政負担と開かれた組織体制を基本とした法律扶助制度の抜本的改革に全力で取り組む決意を表明するものである。


以上のとおり決議する。


1993年(平成5年)5月28日
日本弁護士連合会


提案理由

1. 1989年(平成元年)3月24日の衆議院法務委員会で高辻法務大臣(当時)は、「法律扶助は、憲法第32条の国民の裁判を受ける権利を保障するものである」と答弁しているが、裁判を受ける権利は、法の支配の根幹であり、その保障が国の責任であると考えられる以上、これを保障する法律扶助が国の責任であることは明らかであり、それは憲法第25条及び第14条の要請するところでもある。


2. 1990年(平成2年)9月、ハバナで開催された「犯罪防止と犯罪者処遇に関する第8回国際連合会議」において採択された「弁護士の役割に関する基本原則」においては、「すべての人」が、「自ら選任した弁護士の援助を受ける権利を有する」ことが宣言され、各国政府に対し、「実効的で平等な弁護士へのアクセスのために、効率的な手続と適切な応答をなす機構が提供されるよう保障」すること及び貧困者その他の不利な状況にある人々に対し、リーガルサービスのための十分な基金その他の援助が与えられる規定を置くことを義務づけている。


3. わが国の法律扶助事業は、主として財団法人法律扶助協会によって実施されてきた。同協会は、1958年(昭和33年)から国庫補助金を受けるようになり、その額も1991年(平成3年)度には1億2700万円となっている。しかしこの補助金は、法律に根拠をおく法律補助としてではなく、予算補助として法務省の予算から支出され、その使途も民事法律扶助に限られる。


また、それは平成3年度の民事法律扶助費支出総額8億8700万円の14.3%を賄うに過ぎず、償還金6億200万円を加えても、なお1億6000万円の不足を生じている実情である。


それがため、国庫補助金の対象外となる他の扶助事業費及び事務経費は、全てその他の財源に依存せざるを得ず、そのため当連合会も例年国の補助金程度の資金援助を行う一方、弁護士も、事務の受託、扶助事件受任弁護士による報酬の一部の寄付、扶助事件の報酬の低額化等によって、扶助事業の充実に協力してきたが、それにもかかわらず、現状はあるべき法律扶助制度の実現にはほど遠い。


しかも当番弁護士制度の普及に伴う刑事被疑者弁護援助制度の利用者の急増及び消費者金融事件の急増は、同協会の財源を大きく圧迫し、同協会による法律扶助事業の破綻の危険すら窺わせるに至っている。


4. 現在の法律扶助制度の問題点は、国庫補助金の大幅な増額と使途の拡大を目指した立法をいかにして確実に実現するかであり、そのためにこれまでいくつかの立法構想が検討されてきた。


その一環として、当連合会も、この制度の基盤を確立するための「法律扶助法案」を策定し、1987年(昭和62年)5月定期総会において、その制定・実施を求める決議を行ったが、現在まで「法律扶助法案」を含めて抜本的改革は、なんら実現されていない。こうした実情を深く懸念し、最近、関東弁護士会連合会、近畿弁護士会連合会、中国地方弁護士会連合会、九州弁護士会連合会、東北弁護士会連合会、北海道弁護士会連合会、四国弁護士会連合会において、法律扶助法の早期制定を求める決議が相次いで採択されている。


当連合会は、1990年(平成2年)5月定期総会において、「司法改革に関する宣言」を採択し、国民主権の下でのあるべき司法、国民の身近な開かれた司法を目指して、司法の抜本的な改革を国民とともに進める決意を明らかにした。また、1991年(平成3年)5月定期総会において、「司法改革に関する宣言-その二」を採択し、司法改革の基本理念を確認するとともに、更に一歩進めた内容として、全国の弁護士会と弁護士が、総力をあげ、国民とともにこれを実現する決意であることを宣言した。そして、国民の司法へのアクセスを実効的に保障するため法律扶助事業の抜本的改革の必要性を指摘した。


他方、先の1987年(昭和62年)5月の当連合会定期総会決議における法律扶助法案に対しては、同法案の立法運動の過程において、多額な国庫補助と国の義務、国による監督強化、国庫補助の対象の限定、国庫補助金の対象事件及び扶助対象者の範囲、扶助の内容、扶助の要件等について種々問題点があることが判明した。


当連合会は、これらの問題点が、いずれも同法案の基本的な構造にかかわるものであり、これらの問題点を克服しないまま、同法案を立法化することは現段階では極めて困難であって、より広い視野に立った構想を必要とすることを認めざるを得ない。


よって、本決議をもってこれを撤回することとし、新たに国の財政負担を前提とし、開かれた組織体制を備えた法律扶助制度の創設に全力で取り組む決意を明らかにし、関係当局においても、早急に公的資金の裏付けを伴う法律扶助に関する基本法の制定を含めた法律扶助制度の抜本的改革のための取り組みをされるよう求めるものである。