第34回定期総会・免田・財田川・松山の死刑再審3事件の身柄の「拘置」を解き解放の手続をとるよう求める決議

(決議)

免田、財田川、松山の死刑再審3事件は、再審開始決定が確定して再審公判に移行している段階において、その身柄はなお死刑確定者としての拘置(刑法第11条2項)を継続されている。


一旦、有罪死刑判決が確定した者につき無罪を言い渡すべき明らかな証拠が新たに発見された(刑事訴訟法第435条6号)とする再審開始決定が確定したときは、当該被告人を拘禁する理由は消滅するものといわなければならない。


われわれは、右3事件の身柄の「拘置」を継続する関係当局に対し、これを是とする不当な見解を改め、速やかに「拘置」を解き釈放の手続をとるよう求める。


右宣言する。


(提案理由)

1.わが日本弁護士連合会が冤罪者の救済のために長年にわたり全力を傾注している再審諸事件のうち、免田事件、財田川事件、松山事件はいずれも確定有罪死刑判決(原判決)につき「無罪を言い渡すべき明らかな証拠が新たに発見されたとき」(刑事訴訟法第435条6号)として再審開始決定がなされ、これに対する検察官の特別抗告ないし即時抗告はいずれも棄却されて、右各再審開始決定が確定するにいたったものである。


再審開始決定が確定すれば、請求人本人に対して「その審級に従い」(刑事訴訟法第4 51条1項)、公判更新手続に準じて「被告人」に対する公判手続が進められる。免田事件については熊本地方裁判所八代支部において、財田川事件については高松地方裁判所において、松山事件については仙台地方裁判所において、各再審公判(前同条同項の手続)が進行しており、免田事件についてはすでに結審して近く判決を迎えようとしている。


2.そもそもわが憲法は諸々の基本的人権の中で最も重要な一つとして人身の自由をかかげ、逮捕、抑留、拘禁には「正当な理由」が必要であることを明示している。


3事件の被告人については勾留状は存しない。仮に勾留状を求めても、すでに「無罪を言い渡すべき明らかな証拠が新たに発見された」として再審開始決定がなされ、その判断が確定しているから「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(刑事訴訟法第60条)という勾留の要件を充足するに由ないことは明らかである。


それにもかかわらず、3事件被告人に対する拘禁を継続する理由について、確定有罪判決の効力が再審開始決定の確定によっても消滅せず、再審判決の確定まで存続するものであるとし、従ってなお併有する死刑確定者たる身分に伴う拘置(刑法第11条2項)として拘禁される、との見解が示されている。


かかる見解はすでに免田、財田川両事件の裁判所はじめ法務省当局の国会答弁等において表明されているところであるが、その見解によれば、被告人の身柄は当該裁判所と関係なく、その支配の外で原判決の存続する効力によって「死刑確定者として拘置」されるものであり、しかも原判決の効力は再審判決の確定によって消滅するまで存続し、その間被告人たる身分とともに、なお死刑確定者たるの身分を併有し、その併有する死刑確定者たる身分によって拘置されるというのである。そうとすれば、来るべき3事件の再審判決において無罪判決が言い渡されても、これが確定までは引き続き拘禁が継続されるという驚くべき事態の現出することも予想せざるをえないのである。


3.勾留されている被告人に対する場合は、無罪判決の場合はもちろんのこと、有罪の場合でさえ、執行猶予の判決であれば、その確定を待たず、宣告と同時に勾留は失効して釈放されることはいうまでもない。


しかるに3事件の場合は、かって死刑確定者ではあったものの、その確定有罪判決について「無罪を言い渡すべき明らかな証拠が新たに発見された」との判断が確定し、勾留の要件すら充足するに由ない状態にあるにかかわらず、当該裁判所の支配の外で「死刑確定者としての拘置」という、著しく正義に反する事態を現出し、継続しているのである。


4. たしかに、確定有罪死刑判決について再審開始決定が確定し、再審判決を迎えるという事態はわが裁判史上、未曽有のことである。前例のないこの事態について再審開始決定の確定に伴う原判決の効力の消長に関連して積極消極の見解の存することはとも角としても、人身の自由そのものにかかわる3事件の身柄について、再審開始決定後になお拘禁する「正当な理由」(憲法第34条)の存在しないことは明らかであると言わなければならず、さらにかかる拘禁は白鳥決定(昭50・5・20最1小決定)以降、最高裁判所が重ねて示してきた無辜の救済という再審制度の理念にも反するものというべきである。


5. よって、われわれは、死刑再審3事件について、再審開始決定確定後もその身柄を「死刑確定者として拘置」するという、「正当な理由」を欠く拘禁に対し、関係当局がその見解を改め、速やかに「拘置」を解き釈放の手続をとるよう求めるものである。