第24回定期総会・最高裁判所裁判官の任命に関する決議

(決議)

裁判所が憲法の要請にこたえ、憲法と人権を守るうえで、最高裁判所長官の指名および最高裁判所裁判官の任命はきわめて重要である。


内閣がその指名および任命を行なうにあたっては、司法の独立と裁判の公正を期するよう慎重な配慮がなされなければならない。


しかるに最近、最高裁判所裁判官を弁護士・裁判官・学識経験者の三分野から各5名を選んで任命する慣行が守られていないばかりでなく、国民の総意を反映しないような人選が行なわれていることは極めて遺憾である。


よって内閣は、最高裁判所裁判官任命諮問委員会を設けてこれに諮問するなど、使命および任命の公正を期し、国民の負託に応えるべきである。


右決議する。


1973年(昭和48年)5月26日
第24回定期総会


理由

最高裁判所の長官の指名および裁判官の任命がどのように行なわれるかは司法の独立と裁判の公正を保持する上で極めて重要であって、国民ならびに当連合会の重大な関心事である。最高裁判所長官の司法全般におよぼす影響力が極めて甚大であり、裁判官の人選如何によって判例の動向が左右される事跡に徴すれば、最高裁判所の長官の指名および裁判官の任命にあたっては国民の納得する公正な手続によってなされるべきであり、時の政府与党と政治的見解を同じくしたり、官僚的司法行政を是認し推進するような立場にあることに重点を置いた選任がなされるようなことがあってはならない。もしそのようなことがあれば、最高裁判所の政治権力に対する独立と裁判の公正は維持できなくなり、国民の信頼を失なうことになるであろう。そしてそれは、民主主義の危機を醸成するものといわなければならない。


わが国のこれまでの最高裁判所裁判官の選任について、右のような懸念が抱かれていないだろうか。少くとも、何人かの最高裁判所裁判官の任命については、何らかの政治的配慮によって恣意的になされたものではなかろうかとする国民の疑惑が深まっている。たとえば最高裁事務総長時代に司法の独立の問題について重大なかかわりを持ち、当連合会も強く批判したことのある裁判官を任命したこと、もと駐米大使として極めて政治色の強い発言を繰り返し当時問題とされた裁判官を任命したこと、当連合会の推薦を無視した任命がなされたこと、あるいは田中裁判官が任期なかばにして最高裁判所裁判官を辞任したことなどについて、国民が強い疑問を持ったことを否定するわけにいかない。


われわれは、このような傾向を深く憂えるものであるが、任命権者の独断や恣意的偏向を抑止し、最高裁判所長官の指名および最高裁判所裁判官の任命が公正に行なわれるようにするためには、指名および任命方法について制度的改革がなされることが急務であると考える。すなわち、指名および任命にあたって、国民の意見が反映され、選任の基準および候補者の適格性、さらに具体的選任の理由等、いわば指名および任命にいたる全過程ができる限り国民の前に明らかにされることが必要である。


かつて、昭和22年第1回最高裁判所裁判官の任命にあたり裁判官任命諮問委員会が設置され、同委員会の推薦にもとづいて最高裁判所裁判官が任命されたことがあるが、翌23年廃止されたまま以後、今日に至るまで任命手続の民主性を確立するための具体的措置は全くとられていない。わずかに最高裁判所裁判官を弁護士・裁判官・学識経験者の3分野から各5名を選んで任命する慣行が確立しつつあったが、最近はこの慣行すら崩されており、最高裁判所長官の指名および最高裁判所裁判官の任命にあたって司法、法務関係の高級官僚の比重が著るしく大きくなるなど、ますます国民から遊離したものとなっている。


われわれは、司法の独立と裁判の公正を守るため、かかる事態を抜本的に改める必要があることを痛感し、司法に対する国民の信頼が維持され、司法の権威が一層高められることを希望して、この決議をするものである。


昭和48年5月26日
日本弁護士連合会