第57回定期総会 議事概要
日時・場所
- 日時
- 2006年5月26日(金)13:00~16:25
- 場所
- ホテルグランヴィア岡山 (岡山市駅元町1-5)
会議の目的たる事項(議案)
号 | 内容 |
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第1号議案 | 平成17年度会務報告の件 |
第2号議案 | 平成17年度(一般会計・特別会計)決算報告承認の件 |
第3号議案 | 平成18年度(一般会計・特別会計)予算議決の件 |
第4号議案 | 平成19年度(一般会計)4・5月分暫定予算議決の件 |
第5号議案 | 綱紀委員会委員及び綱紀審査会委員選任の件 |
第6号議案 | 第58回定期総会開催地決定の件 |
第7号議案 | 宣言・決議の件 |
出席会員数、出席外国特別会員数及び議決権数
項目 | 人数 |
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本人出席 | 749名 |
代理出席 | 5,775名 |
弁護士会出席 | 52会 |
外国特別会員 | 0名 |
議決権総数 | 6,576名 |
議長及び副議長の氏名
役職 | 氏名 |
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議長 | 田淵 浩介(岡山弁護士会所属) |
副議長 | 坂巻 國男(東京弁護士会所属) |
副議長 | 大本 和則(広島弁護士会所属) |
出席した会長、副会長及び監事の氏名
役職 | 氏名 |
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会長 | 平山 正剛 |
副会長 | 吉岡 桂輔、奈良 道博、飯田 隆、杉崎 茂、久保田嘉信、小寺 一矢、高野 嘉雄、山田 靖典、松本 光寿、川副 正敏、松坂 英明、伊藤 誠一、木村 清志 |
監事 | 石田 弘義 |
◇ ◇ ◇
日本弁護士連合会第57回定期総会は、2006年5月26日(金曜日)午後1時から、岡山市駅元町のホテルグランヴィア岡山において開催された。
総会は、明賀英樹事務総長の司会で午後1時から始められ、まず、平山正剛会長が、議事規程第2条に基づき開会を宣し、挨拶を述べた。平山会長は挨拶において7つの議案についての十分な審議を要請するとともに、本年度執行部の基本姿勢と喫緊の司法改革課題への取組状況を述べた。基本姿勢としては、21世紀を平和と人権の世紀とするために全力を尽くすこと、人々が平和で暮らせる調和のとれた、公平で納得性の高い品格のある社会づくりに全力を尽くすことが述べられ、喫緊の司法改革課題への取組状況としては、本年10月から業務を開始する日本司法支援センターを成功させるべく、6月から対応室を設置して嘱託弁護士を配置する一方、弁護の自治、独立性、自主性を確保し、刑事弁護に関し適正な報酬を獲得することを目指して全力を尽くしていること、裁判員裁判を成功させるべく広報活動、研修活動に力を入れること、弁護士業務総合推進センターを立ち上げるべく準備を進めていること等が述べられた。
続いて正副議長の選任手続がされた。
平山会長が議長の選任方法について議場に諮ったところ、渕上玲子会員(東京)から、選挙によらず、会長が指名する方法で、議長及び副議長2名を選出されたいとの動議が提出された。平山会長が動議を議場に諮ったところ、賛成多数で可決された。
動議可決を受けて、平山会長は、議長に田淵浩介会員(岡山)、副議長に大本和則会員(広島)及び坂巻國男会員(東京)を指名した。議長及び副議長は各々議長席、副議長席に着席し、就任の挨拶をした。
議事規程第5条に基づき、平山会長が議案書を提出した。
議長は議事録署名者として、木下秀三会員(東京)、田中茂会員(第一東京)、深澤信夫会員(第二東京)を指名し、議事に先立ちいくつかの注意事項を述べ、さらに本総会の議事は会則第54条により公開されていること、傍聴者のために傍聴席を設けたことを述べた。
議長は議事に入る旨を宣した。
[第1号議案] 平成17年度会務報告の件
議長は、第1号議案として、「平成17年度会務報告の件」を議題に供すると宣した。報告者の吉岡桂輔副会長は、昨年度は日本司法支援センター推進本部を中心に同センターの業務開始に向けた準備が精力的に行われたことのほか、昨年度における正副会長会、理事会の開催状況、意見書、勧告書、要望書等は合計65件に上り、会長声明・談話が35件に上ったこと、本年3月3日に開催された臨時総会において裁判所の処置請求に対する取扱規程等の会規が制定されたこと、人権擁護大会の開催状況、広報活動の状況等を報告し、詳細については平成17年度会務報告書に譲った。
吉岡副会長の報告を受けて、議長は、後刻質疑の時間を設ける旨を宣した。
[第2号議案] 平成17年度(一般会計・特別会計)決算報告承認の件
議長は、第2号議案として「平成17年度(一般会計・特別会計)決算報告承認の件」を議題に供すると宣し、柳瀬康治平成17年度経理委員長が決算報告をした。まず一般会計については、平成17年度の総収入が約41億2,916万円、支出が約35億9,321万円、今年度一般会計への繰越金が約5億3,595万円であること、平成17年度予算と比較すると総収入が約9,000万円下回り、支出が約5億5,000万円下回ったこと等が報告された。次に特別会計のうち当番弁護士等緊急財政基金会計については、収入が約10億1,428万円、支出が約10億5,057万円、約3,628万円の支出超過であったこと、超過部分は会館特別会計から借り入れたこと、日弁連ひまわり基金会計については、収入が約3億5,505万円、支出が約2億5,676万円、9,828万円の黒字であったこと等が報告された。なお、一般会計及び特別会計の正味財産の増減についての説明は割愛された。
引き続き、彦惣弘平成17年度監事が、監査の実施回数、方法を報告したうえ、平成17年度一般会計、同特別会計の収支計算書、正味財産増減計算書、貸借対照表、財産目録は、いずれも収支状況と財政状況を適正に表示しているものと認めるとの監査報告をした。
議長は質疑に入ると宣した。
質疑を希望する者がなく、議長は質疑の終局を宣し、討論を省略して第2号議案の採決に入ると宣した。
第2号議案は挙手による採決に付され、賛成多数で承認された。
[第3号議案] 平成18年度(一般会計・特別会計)予算議決の件
[第4号議案] 平成19年度(一般会計)4・5月分暫定予算議決の件
議長は、第3号議案として「平成18年度(一般会計・特別会計)予算議決の件」、第4号議案として「平成19年度(一般会計)4・5月分暫定予算議決の件」を一括して議題に供すると宣した。なお議長は、両議案については、審議は一括して行うものの、採決は個別に行う旨を説明した。
奈良道博副会長が両議案の提案理由を説明した。第3号議案について,同副会長は、詳細を議案書に譲った上で、大要、次のとおり説明した。すなわち、まず一般会計については、総収入が約47億7,000万円と見込まれること、このうち3億円はスタッフ弁護士養成の援助金に備えるために福利厚生基金特別会計から繰入れを行うこと、支出は基本的に例年どおりであるが、今年度から事業費として裁判員制度広報啓発事業費を新設し2,400万円を支出すること、会長報酬を年額1,000万円から年額1,200万円に引き上げたこと、副会長報酬が理事会で承認された場合に備えて予備費に支出見込み分を計上したこと、日本司法支援センター常勤弁護士養成援助基金特別会計へ3億円の繰入れを行うこと等が説明された。次に特別会計のうち福利厚生基金特別会計については支出として一般会計へ3億円の繰入れを行うこと、会館特別会計については昨年度から実施中の会館大規模修繕工事に関し今年度分の工事費として約2億円を支出すること、財政基盤強化積立基金として今年度は3,000万円を積み立てること等が説明された。
続いて第4号議案について、奈良副会長は、従前、次年度4月分、5月分予算は今年度予算の12分の2を暫定予算として計上していることを説明した。さらに同副会長は会計規則第6条に基づき今年度予算における款内流用支出の承認を求めた。
議長は第3号議案及び第4号議案について質疑に入ると宣した。
武内更一会員(東京)「日本司法支援センターのスタッフ弁護士の養成を援助するために日弁連が基金を設け、今年度は8,000万円を支出する理由は何か。」
奈良副会長「本年10月から業務を開始する日本司法支援センターが成功するかどうかはスタッフ弁護士をどのように養成し、全国に配置するかにかかる。全国の法律事務所に協力を要請しているが、養成のために負担をかけることとなるので、日弁連として援助するものである。」
他に質疑を希望する者はなく、議長は質疑を終局して、討論に入ると宣した。
武内更一会員(東京)「本予算案に反対する。まずスタッフ弁護士養成のために日弁連が援助金を支出する点であるが、そもそも日本司法支援センターは弁護士の業務を国家が管理し、弁護士会から弁護人推薦権を奪う仕組みである。スタッフ弁護士に応募した者は現在19名であり、養成事務所も集まっていない。スタッフ弁護士の全国配置は無理な状況である。そこで援助金を配布して養成事務所を募り、スタッフ弁護士を養成してもらおうというのであるが、その是非について議論が尽くされていない。しかも福利厚生基金特別会計から3億円を流用するというのは許しがたい。さらに、デフレの時代に会長報酬を200万円アップする理由がない。よって本予算案に全部反対する。」
木下秀三会員(東京)「本予算案に賛成する。議案書によれば、本予算案編成の基本方針は会務運営を効率的に行い、かつ健全財政を維持することを前提に、日弁連の幅広い活動をよりいっそう充実・発展させること、とりわけ継続的な司法改革課題についての全会的な粘り強い取り組みを推進することとされている。支出のうち委員会費を見れば、懲戒委員会、綱紀委員会といった弁護士自治の根幹にかかわる委員会はもちろん、人権擁護委員会、公害対策・環境保全委員会、消費者問題対策委員会、子どもの権利、刑事拘禁制度、取調べの可視化、犯罪被害者支援等の各委員会活動、弁護士制度改革、裁判官制度改革、裁判員制度実施本部といった司法改革の実施、運営に向けた取り組みに対して重きを置いた予算編成となっている。さらには弁護士業務総合推進センターの設置を視野に入れた予算措置も講じているし、裁判員制度広報啓発事業費の新設や、日本司法支援センター常勤弁護士養成のための特別会計への繰入れなど、現執行部の姿勢がよく表れている予算である。」
他に討論を希望する者はなく、議長は討論を終局して採決に入る旨を宣した。
第3号議案及び同一款内の科目間流用の承認は挙手による採決に付され、賛成多数でいずれも可決された。
第4号議案は挙手による採決に付され、賛成多数で可決された。
[第5号議案] 綱紀委員会委員及び綱紀審査会委員選任の件
議長は第5号議案として「綱紀委員会委員及び綱紀審査会委員選任の件」を議題に供すると宣し、杉崎茂副会長が、平成19年3月31日に任期満了となる綱紀委員会委員の半数と綱紀審査会委員5名の後任委員の選任については、理事会に一任し、その選任をもって本総会の選任とすること、また選任された委員が任期中に欠けた場合の補充選任についても理事会に一任することを提案した。
議長は議場に質疑及び討論の省略の可否を諮ったところ、異議はなかった。そこで議長は第5号議案について質疑及び討論を省略して採決に入ると宣した。
第5号議案は挙手による採決に付され、賛成多数で可決された。
[第6号議案] 第58回定期総会開催地決定の件
議長は第6号議案として「第58回定期総会開催地決定の件」を議題に供すると宣し、飯田隆副会長が、第58回定期総会の開催地は慣例に従って東京にしたいと提案した。
議長は議場に質疑及び討論の省略の可否を諮ったところ、異議はなかった。そこで議長は第6号議案について質疑及び討論を省略して採決に入ると宣した。
第6号議案は挙手による採決に付され、満場一致で可決された。
[第7号議案] 宣言・決議の件
議長は第7号議案として「宣言・決議の件」を議題に供すると宣し、まず同議案のうち、「司法改革実行宣言(案)―司法アクセスの更なる拡充と公的弁護対応態勢確立のために―」を議題に供した。
吉岡桂輔副会長が提案理由を説明した。「司法改革のこれまでの経緯」については、日弁連の9次にわたる司法改革宣言、司法制度改革審議会の意見書、司法制度改革推進本部の議論を経て、法科大学院、裁判員制度、日本司法支援センター、被疑者国選弁護制度等が実現されたこと、これらは我々が提言してきた改革の重要な部分が制度化されたものであり、日弁連の運動の成果と評価できること等が述べられた。「司法アクセス改善と刑事司法改革のための日弁連の活動」については、司法改革課題として司法予算の増額を要求する一方、自らも財団法人法律扶助協会を設立し、ひまわり基金を設けて公設事務所、法律相談センターを開設してきたこと、当番弁護士制度を実施する等の諸活動をしてきたこと、こうした実践が認められ、民事法律扶助法の成立、国費による被疑者弁護制度の実現等一定の成果が得られたことが述べられた。以上の経過で設立された日本司法支援センターについては、同センターが行う5つの事業は、いずれも日弁連の活動実績を踏まえ、司法制度改革課題の重要な部分を担うものであること、同センターの構想が明らかにされて以来、日弁連内に対策本部を設置して、制度設計に日弁連の意見が反映されるよう努力してきたこと、したがって同センターを主体的に担うことは我々の責務であることが述べられた。さらに「民事刑事両分野における対応態勢」については、扶助事件の増大、被疑者国選弁護事件の増大に対応する態勢整備が必要であり、特に刑事については弁護の自主性、独立性を確保して質の高い弁護を提供すべく万全の態勢でこれを担う社会的責務があること等が述べられた。今後の取り組みについては、司法改革が目指した法の支配が社会の隅々まで及ぼされるべく、市民の法的ニーズに対して供給義務を果たしていく責務があること等が述べられた。
議長は質疑に入ると宣した。
佐々木斉会員(岡山)「日本司法支援センターについては執行部のようにバラ色に語れない現実があり、危惧する者が多い。執行部は「本宣言は、日本司法支援センターと弁護士会とのかかわりを危惧する会員の声を真摯に受け止め、第58回定期総会において検討されるものとする。」という附帯決議をするつもりはないか。会長が答弁されたい。」
吉岡副会長「我々弁護士が日本司法支援センターをしっかり支えていくことで、危惧や懸念がなくなるようにしたい。制度設計に当たっても日弁連の意見を伝えてきた。同センターの活動を日々検証し、折に触れて報告していきたい。附帯決議は考えていない。」
平山会長「全力を挙げて、弁護権の独立性等が侵されることのないよう、しっかり取り組んでいきたい。」
他に質疑を希望する者はなかったので、議長は討論に入ると宣した。
藤本明会員(札幌)「本宣言案に反対する。札幌弁護士会は、日本司法支援センターの準備段階において他会に劣ることなく活動してきたし、これからも活動する決意である。これまでも民事扶助、当番弁護、法律相談センターの設置、運営といった諸活動に積極的に取り組んできた。したがって今後ともかかる体制の充実に努めていくこと自体には何の異論もない。しかし、それは支援センターができたからではなく、弁護士の責務であるという自覚によるものである。支援センターの立ち上げによって各業務にさまざまな変容を来たす可能性がある以上、日弁連として対応態勢を整える旨の決意をすることを理解しない訳ではないが、日弁連が取り組んできた司法改革は支援センターの業務のみに集約されるものではなく、裁判所改革、法曹一元等々幅広い運動であった。本宣言案は支援センターの歴史的位置付けを誤り、無批判に支援センターを受け入れている点でどうしても賛成できない。日弁連も支援センターが弁護士自治への重大な危険性を内包していることを認識していたはずであり、だからこそ制度設計に積極的に関与してきたはずである。その結果、一定の成果はあったが、理事長の弁護士就任は実現せず、地方事務所に実質的な権限がほとんど得られなかった等不十分な体制であることは明らかである。ところが本宣言案は支援センターの危険性について全く指摘せず、あたかも我々の活動の成果としてそれが存在するかのように表現し、支援センター業務に支障を来たさぬよう体制づくりをしようという内容になっている。あまりに無警戒、無批判である。」
永田雅英会員(長崎県)「本宣言案に賛成する。宣言は、要するに、日本司法支援センターを日弁連が単位会と協力して組織的にサポートしていこうというものである。長崎県は会員数が少なく、増加も見込めない状況にある一方、壱岐、対馬、五島、島原等の離島や半島、都市型司法過疎地といわれる佐世保市を抱えている。従来、全力を尽くして国選弁護、被疑者当番弁護、民事法律扶助等の業務に対応してきたが、会員のみでは対応が非常に困難であり、福岡県弁護士会や佐賀県弁護士会の協力を得てもなお、会員の負担は限界に達していた。今後の被疑者国選弁護への対応は深刻な悩みである。とりわけ佐世保支部では対応が不可能と思われる。長崎県弁護士会は、日本司法支援センター長崎地方事務所が長崎県全域でこれら業務にきちんと対応できるよう全面的な協力体制を構築する予定であるが、当会だけの協力体制では長崎地方事務所の業務遂行は困難である。そこで日弁連が単位会、弁護士会連合会と協力して支援センターの業務遂行をサポートする旨を宣言することは極めて有意義である。」
高山俊吉会員(東京)「本宣言案に反対する。日弁連は歴史的な危機に直面している。かつてない重大な局面において、我々がどういう態度をとるべきかを述べたい。10度目の司法改革宣言であるが一体何が実現されたのであろうか。本宣言案には司法改革課題の重要な部分が制度化されたとあるが、法曹一元は実現したのであろうか。陪審制はどうか。ロースクールにはそもそも反対していたのではなかったか。被疑者、被告人、刑事弁護人の権限は確保、増進されたのか。代用監獄の存続に徹底的にこだわる法務省。依頼者を密告せよという国家権力。そのような状況下で私達が主張することが制度化されうるのか。これらは大したことではないのか。格差社会が進行し、共謀罪法案等の治安弾圧の方向が強化され、教育基本法による愛国心の強制等々のすさまじい事態が進行しつつある。こうしたことは我々が実現したいと願っている司法の民主化とは整合しない。日本司法支援センターとは要するに国営弁護士センターであり、国家戦略の一環である。これと対決せず、ひれ伏して迎合するのが本宣言案である。1948年に最高裁判所事務総長は官選弁護人の推薦は弁護士会に一任せよと通達したが、これは戦前の指定弁護人制度に対する痛切な反省に立ったものである。弁護人推薦権とはそのようなものであり、奪われてはならないものである。」
中本源太郎会員(東京)「本宣言案に反対する。日本司法支援センターの評価に強い違和感がある。改革の成果である、喜ばしいことであると手放しに喜んでいるが、そうであろうか。司法アクセスの拡充、法律扶助の拡充、被疑者国選の実現には賛成である。しかし、なぜ支援センターが担い手にならなければならないのか。主導したのは弁護士会ではなく政府、法務省である。我々の声を逆手にとって法務省が立案した制度なのである。中身の問題もある。司法アクセスを拡充せよ、被疑者国選を実現する制度を作れ、ただし口は出すな、そのようにこれまで要求してきた。ところが実現した制度は、金はあまり出さず、口は出すというものなのである。弁護士に自由はなく、縛り統制する、問題のある弁護士は排除する、そういう制度なのである。国選弁護人の推薦権は奪われ、法律扶助も支援センターと契約しないとできないことになった。他方で司法予算は相変わらずであり、大きな司法は実現していない。重大な成果を勝ち取ったというのはまやかしである。」
立松彰会員(千葉県)「本宣言案に反対する。承服できない点がいくつかある。まず本宣言案は我々が提言したことの重要な部分が制度化されたとするが、提言したこととは全く違うものができ上がってしまった。日本司法支援センターが日弁連の活動実績を踏まえたとあるが、日弁連執行部は一体なぜこのような制度ができるのかということで大変驚いたという経緯があったのではないか。支援センターを主体的に担うのは我々の責務とあるが、その危険性を指摘しておらず、無警戒、無批判である。支援センターとは契約したくないと考えている会員も多くいるのが実態なのである。被疑者、被告人のためには仕方がないと思って泣く泣く支援センターと契約する会員も多くいると聞いている。日弁連としては、弁護活動の自主性やどのように取り組むかを示すべきであるのに、そのような宣言となっていない。かろうじて弁護の自主性、独立性を確保して、とあるだけなのである。しかもこの一行がなくても全体の意味は通る。業務方法書、法律事務取扱規程、契約約款の3点セットが認可されたと日弁連から報告を受けたが、弁護活動の自主性・独立性が確保されるような制度設計にはなっていない。弁護士会が支援センターをチェックする機能が全く与えられていない。本宣言案は、このような支援センターを全面的に、無批判に支えていくというスタンスであって、法務大臣に対する誓約書のような文書になっている。」
氏家和男会員(仙台)「本宣言案に賛成する。日本司法支援センターについては常に一定の警戒感、危険であるという認識を持ちながら取り組まなければならないとは考える。司法アクセスの改善に取り組み、民事法律扶助に取り組んできたのは弁護士、弁護士会である。だからこそ、これからも弁護士、弁護士会が中心になるべきである。弁護士大量増員時代を迎えることを考えると、活動の場を広げていくためにも大事なことである。被疑者段階の刑事弁護態勢については、支援センターの危険性について常に警戒感をもって望まなければならないが、国選弁護人指名の運用については弁護士会の待機制名簿でも十分対応できる。我々が支援センターをリードできる可能性と機会は十分与えられているのではないかと考える。そういう状況の中で、さらに我々が働きやすい日本司法支援センターにしていくことこそ、我々に求められていることである。」
議長は討論の終局を宣し、本宣言案を挙手による採決に付したところ、本宣言案は賛成多数で可決された。
議長は第7号議案のうち、「引き続き未決拘禁制度の抜本的改革と代用監獄の廃止を求め、刑事司法の総合的改革に取り組む決議(案)」を議題に供した。
奈良道博副会長は提案理由の詳細を議案書に譲り、その趣旨として、未決拘禁法案が4月18日に衆議院で可決されたが代用監獄漸減廃止条項が盛り込まれなかったことは誠に遺憾であること、参議院での審議において法案の修正を求めて努力を傾注しているところであること、法案には代用監獄漸減廃止条項が盛り込まれなかったものの、衆議院法務委員会において1980年の法制審議会答申を踏まえ、代用刑事施設制度のあり方について刑事手続全体との関連の中で検討すべき旨の附帯決議がされたことは、少なくとも法案の附則ないし附帯決議において1980年法制審要綱の漸減条項の趣旨が明らかになるようにすべきであるとの日弁連の方針に、かろうじて適うと考えること、我々は今後とも代用監獄の漸減廃止を求めて総力を結集する必要があること等が説明された。
議長は質疑に入ると宣した。
岩村智文会員(横浜)「本決議案自体が日弁連の刑事法関連委員会では議論されていないことを申し上げた上、何点か質問する。第1点、本決議案3段落目に、有識者会議は、さしあたり代用監獄の存続を前提とした提言をしたとあるが、有識者会議の提言には「さしあたり」という文言はない。なぜ「さしあたり」の文言を使うのか。第2点、法案が警察の留置場を法的に認めて、刑事施設の代用施設としての地位を与え、勾留場所として認知していることは認めるのか。この点が国際的に人権にもとるものとして早急な改善が求められていることは認めるのか。第3点、法案が刑事施設と留置施設を「刑事収容施設」という名称で一括りにしている点をどのように考えるか。第4点、法案は既決、未決を区別せずに、刑事収容施設とは必要な処遇を行う施設であるとしているが、この点をどのように考えるか。第5点、本決議案の第6段落には、裁判員裁判になると口頭主義、直接主義への転換が迫られ、自白偏重の捜査、裁判のあり方も見直しが求められている旨が記載されている。しかし、最高検察庁の「裁判員制度実施にあたって」という文書について、ジュリスト誌上で検察官がした解説によれば、裁判員制度の下において口頭主義、直接主義がこれまでよりも重視されることになるとはいえ、書証の持つ意義、証人の負担等を考慮すれば、書証による立証の役割を軽視することはできないし、被告人や証人が公判廷で常に真実を語ることを期待できるわけではないから、自白調書や検面調書が事実上、認定上重要な役割を果たす場合があることは否定できず、そこで検面調書には全部を詳しく書くのではなく、メリハリをつけてわかりやすい表現と構成で、可能な限り簡潔で信用性の高い内容にするとある。したがって裁判員制度になれば自白調書が重要視されなくなるなどとは言えないのではないか。第6点、本決議案には法務省内に過剰拘禁対策のプロジェクトが発足し、刑事司法のトータルな改革に向けた検討が開始されているとあるが、誰が開始しているのか。そもそも誰かがやっているというようなことを、なぜ日弁連の宣言に入れるのか。」
小池振一郎刑事拘禁制度改革実現本部事務局長「90年代、原宿警察等々大規模独立留置場が次々とつくられ、代用監獄はますます強化される現実がある。どのように代用監獄を漸減、廃止するのか。代用監獄問題は調書裁判と密接に関わっており、刑事手続の改革と密接に関わりがある。両面から改革していかなければならない。名古屋刑務所事件が発覚し、行刑改革会議が設置され、1年前に受刑者処遇法が成立した。電話の設置等々、刑事施設視察委員会の設置、弁護士会推薦の視察委員の選任等、かなりの改革であった。未決にも行刑改革の流れを及ぼしていくため、日弁連は法務省、警察庁と協議を重ねてきた。ところが今回の法案は抜本的改革には程遠く、極めて不満足である。日弁連は一貫して代用監獄の廃止と監獄法改正を求めてきたこと、この法案のような形で終息されることは絶対に許されず、これから代用監獄漸減廃止に向けた新たな段階に入ることを参議院法務委員会の参考人質疑でも述べてきた。さて、第1点については、有識者会議の最終回で、わずか2か月間の議論では不十分であることは認識している、長年の課題である代用監獄の存置について雌雄を決することなどできない、さしあたり今回の立法についてはこのような提言をする、との発言が委員から続出したので、「さしあたり」と表現したものである。第2点については、法案が代用監獄に被勾留者を勾留する根拠規定を盛り込んだこと、それが国際的人権にもとるとして早急な改善を求められることはそのとおりである。だからこそ、我々としては代用監獄の漸減、廃止に向けてどうするか、ということである。第3点については、刑事収容施設という名称も極めて遺憾である。第4点については、未決の処遇が何かということが明確でない。未決については処遇という概念を用いるべきではなく、未決拘禁処遇法という概念ではなく、未決拘禁法とすべきである。第5点については、最高裁は裁判員制度によって公判中心主義にならざるを得ない、調書の要旨の告知では通用しない、全文朗読が必要である、これによって口頭主義、直接主義に転換しなければならないと判例タイムズ誌上で言っており、検察庁とは立場を異にしている。第6点については、今後、当実現本部において、例えばイタリアにおける在宅拘禁のような制度を検討したらどうかと考えている。」
議長は議場に質疑の打ち切りを諮ったところ、異議がなかったので、議長は質疑を終局し、討論に入ると宣した。ここで岩村智文会員(横浜)が修正案を提出した。議長の求めにより岩村会員は修正案の提案理由を、原案は論旨が分かりにくいため、これを簡潔かつ明快にするため修正案を提出するものであると説明した。議長の求めにより執行部(奈良副会長)が、修正案について、簡潔ではあるが、日弁連の各委員会、実現本部、理事会における議論が伝わりにくいこと、結論として今次法案は到底認めることができないとしている点は日弁連の意見と質的に異なり、修正案の域を逸脱していることから、原案の承認を求める旨の意見を述べた。
続いて議長は修正案の提出には出席した弁護士会員50名以上の賛成が必要であることを告げて議場に修正案の提出の賛否を問うたところ、賛成者101名で修正案の提出が認められた。
議長は修正案を議題に供し、修正案及び原案の双方について討論を進めた。
河原昭文会員(岡山)「原案に賛成する。今回の法案は日弁連が目指してきた未決拘禁制度の改革水準には、まだまだ届かない不十分なものである。再審無罪4事件は代用監獄で取られた虚偽の自白によるものである。また法案には現在の死刑確定者処遇の元凶とも言える「心情の安定」との文言が残されている。刑事拘禁問題に真剣に取り組んできた会員であれば、この法案に満足できるはずがない。法案が通ったとしても、代用監獄廃止、刑事拘禁制度の改革を断念してはならない。国会答弁でも代用監獄問題は今後の検討課題とされている。刑事司法手続の総合的改革に取り組む決意を今こそ新たにして、明日からの取り組みを開始すべきである。したがって原案に賛成する。」
若松芳也会員(京都)「原案に反対する。法案に反対する態度を毅然として示すものとなっていないからである。法案第1条は刑事収容施設として刑事施設、留置施設、海上保安留置施設の3種類の異質の施設をくくっている。法案第14条は都道府県警察が留置施設を設置できるとし、留置施設には被勾留者を収容できることになっている。これは代用監獄の恒久化につながるものである。つまり法案は代用監獄問題を先送りしたのではなく、代用監獄は廃止、漸減しないと明言している。また、原案は代用監獄という文言を使用しているが、監獄法は廃止されたから、代用刑事施設という文言を使用すべきである。さらに、原案には代用監獄が冤罪、人権侵害の温床であることが一言も触れられていないという問題もある。」
議長は討論の打ち切りを議場に諮ったところ、異議はなかった。議長は討論の終局を宣し、採決に入ると宣した。
議長は、まず修正案について採決し、修正案が可決されたときは原案の採決をしないことを説明した。修正案は挙手による採決に付され、反対多数をもって否決された。そこで議長は原案を挙手による採決に付したところ、原案は賛成多数をもって可決された。
議長は第7号議案のうち「弁護士から警察への依頼者密告制度(ゲートキーパー制度)の立法化を阻止する決議(案)」を議題に供した。
松坂英明副会長が提案理由を説明した。すなわち、当該制度は弁護士、弁護士会の独立性を侵害し市民の信頼を損ねるものであること、警察庁は犯罪捜査を基本とする国家機関であり、刑事弁護等を通じて弁護士、弁護士会とは制度的に対抗関係にあること、弁護士会は政府機関の中でもとりわけ警察庁に対しては独立性を保たなければならないこと、弁護士が依頼者の相談等を通じて得た情報、しかも単に疑わしいというレベルの情報を警察庁に通報するとすれば、直接の捜査協力関係になるおそれがあり、弁護士会、弁護士が警察庁の統制下にあるとの誤解を受け、市民の信頼を損なうものであること、弁護士に対する信頼が損なわれた結果、弁護士にも真実を語らず、結局、違法行為を招来する悪循環を招きかねないこと、弁護士に課せられた守秘義務とも矛盾し、弁護士制度を崩壊させるものであること、海外の状況をみても、アメリカではかかる制度を立法化する提案がなく、ベルギー、ポーランドでは憲法裁判が提起されていること等が説明された。
議長は質疑に入ると宣した。
羽田野節夫会員(福岡県)「日弁連は昨年、依頼者密告制度について金融庁に対しては承諾したかのような対応であったが、本決議案では警察への密告制度の立法化を阻止する決議としている。警察庁から金融庁への所管換えが行われたときはどのように対応するのか。」
松坂副会長「そのような事態は想定していない。法務省、警察庁が考えている立法の骨子は、弁護士から警察庁への報告に固定されている。このスキームが覆されることは99%ないと考えている。」
他に質疑を求める者がないので、議長は質疑を終局して討論に入ると宣した。
小寺正史会員(札幌)「本決議案に賛成する。私たち弁護士にとって守秘義務は根幹をなすものである。我々にとって絶対的な職業倫理である。弁護士が警察に通報することは依頼者の信頼を裏切るものであり、そのような制度的裏切りは社会や市民の弁護士、弁護士会に対する信頼を著しく破壊する。そうすると弁護士は依頼者から正確な説明を受けることができないこととなって、国民の権利擁護に著しい障害が生じる。この制度の下では弁護士、弁護士会に国家機関の監督が入ることにもなりかねない。厳しく国家機関と対峙しなくては弁護士会にとっては自殺行為である。よって本決議案に賛成する。」
他に討論を求める者がないので、議長は討論を終局して採決に入ると宣した。
決議案は挙手による採決に付され、圧倒的多数の賛成をもって可決された。
議長は第7号議案のうち「出資法の上限金利を利息制限法の制限金利まで引き下げること等を求める決議(案)」を議題に供した。
木村清志副会長が提案理由を説明した。すなわち、2007年1月に予定されている貸金業制度及び上限金利の見直しに向けて、2003年にヤミ金対策法が成立した後も未だに解決しない多重債務問題の解決に資するため提案したものであること、金融庁が主宰した有識者懇談会では上限金利を利息制限法の水準へ向けて引き下げ、みなし弁済規定を廃止するとの中間整理がされたが、首相が「貸す方も悪いが、借りる方も悪い」と発言し、金利規制について慎重な検討を求めるとの談話を発表し、貸金業協会が巻き返しの活動をしていること等油断できない情勢であることなどが説明された。
議長は質疑に入ると宣したが、質疑を希望する者はなかった。
議長は質疑を終局して討論に入ると宣した。
河端武史会員(岡山)「本決議案に賛成する。現在、サラ金利用者の平均利用年数は約6年半であり、3人に1人は10年以上も利用しているとの調査結果がある。利息制限法の範囲内であれば通常は完済又は過払いとなるであろう。ところが利用者は利息制限法やみなし弁済に関する判例を知らない。知らずに払い続け、多重債務に陥り、悲惨な場合には自殺することもある。最高裁判例によってほとんど死文化と言っても過言でない貸金業法第43条はいまだに存在し続けていること等高金利が容認されていることもあって、いまだに多くの方が多重債務に苦しんでいる。早期に抜本的解決を図るため、本決議案に賛成する。」
他に討論を希望する者がなかったので議長は討論を終局して採決に入ると宣した。
本決議案は挙手による採決に付され、賛成多数をもって可決された。
議長は第1号議案について質疑の時間を設けたが、質疑を希望する者はなかった。
以上で本総会の議案の審議は全て終了し、平山会長の挨拶の後、午後4時25分、議長は閉会を宣言した。