新しい外国人労働者受入れ制度を確立し、外国にルーツを持つ人々と共生する社会を構築することを求める宣言

日本に在留する外国人労働者は、2016年10月には108万人、2017年10月には127万人を超えて増え続けている(特別永住者を除く。外国人雇用状況届出数)。
 

その主たる要因は非熟練労働者の増加にあるが、非熟練労働の担い手は、技能実習生、アルバイトで働く留学生等、本来は、労働者の受入れを目的としない制度によって入国した人々である。技能実習制度では、日本の技術の海外移転という名目上の目的のために実習先を定められ、原則として職場移転の自由が認められず、雇用主に従わざるを得ないという構造的な問題がある。このため、最低賃金法違反、強制帰国等の深刻な人権侵害が生じている。留学生の相当数は、来日時の多額の借入れの返済や学費の捻出等のため、本来の学業に加えて長時間労働を余儀なくされ、週28時間以内の就労を超えた資格外活動が発覚する等して在留資格を失う者もいる。
 

今もなお、建設業、農業、介護等の分野では人手不足が指摘され、少子高齢化社会が進行する中で、経済界や地方からも、更なる外国人労働者の受入れを求める声があがっている。これを受けて政府も本年6月、「経済財政運営と改革の基本方針2018」において、上記の分野等での外国人労働者の受入れを想定して「就労を目的とした新たな在留資格」を創設する方針を示している。しかし、新たな在留資格では、在留の期限は原則5年以内とされ、家族の帯同が認められず、また、この在留資格の創設後もなお技能実習制度は存続することとしている。

 

外国人労働者の増加に伴い、外国人の中長期在留者の数も増加を続けて2017年末には256万人を超え(特別永住者を含む。)、また、6万人以上の非正規滞在者も日本で生活している。さらに、出生後に日本国籍を取得した人や外国籍の親から生まれた日本人等も含め、今、日本は、外国にルーツを持つ多様な人々が暮らす国となっている。特に、上記の新たな外国人受入れ制度の創設に伴って、今後、多くの外国人労働者が日本社会の一員となることが予想される。
 

これらの人々が地域で生活する環境に目を向けたとき、日本語学習や母国の文化を保持するための取組は、いまだ国全体の十分な取組にはなっていない。外国籍の子どもやその家族の在留等の在り方も、国際人権諸条約の諸規定に従ったものとはなっていない。外国にルーツを持つ人々への差別的言動その他の差別を根絶するための立法府及び行政府の取組もようやく端緒に就いたにすぎない。

 

そもそも、人は、国籍、在留資格の内容、有無等にかかわらず、ひとしく憲法、国際人権法上の人権を享有する。国籍や民族の相異を理由に、時の在留政策や雇用側の利害等により、その人権を安易に制約することは許されない。新たな外国人受入れが始まろうとする今こそ、人権保障に適った外国人受入れ制度と多文化の共生する社会を構築することが喫緊の課題となっている。
 

よって、当連合会は、国や地方自治体に対し、以下のとおり求める。


1 人権保障に適った外国人労働者受入れ制度を構築するため、国は、以下の施策を実施するべきである。
 (1) 技能実習制度を直ちに廃止する。
 (2) 政府において検討中の新たな制度も含め、非熟練労働者受入れのための制度を構築するに際しては、労働者の受入れが目的であることを正面から認めた、以下のような条件を満たす制度とする。
  ① 職場移転の自由を認める。
  ② 国の機関による職業紹介、二国間協定の締結等により、送出し国を含めてブローカーの関与を排除する。
  ③ 長期間の家族の分離を強いず、日本に定着した家族全体の在留の安定を図る。
 (3) 外国人労働者全般の権利の保障のために次のことを実施する。
  ① 賃金等の労働条件における国籍や民族を理由とする差別の禁止を徹底する。
  ② 労働者の権利の保障等のための相談、紛争解決の仕組みを充実させる。
  ③ 日本語教育を含む職業訓練や職業紹介制度の充実を国の責務とする。


2 外国にルーツを持つ人々と共に生きる社会を構築し、全ての人に人権を保障するため、以下の施策を実施するべきである。
 (1) 国や地方自治体は、外国につながる子どもや成人の日本語教育、民族的アイデンティティを保持するための母語教育等のための専門的な教員の加配やスクールソーシャルワーカー等の配置を行うとともに施設を整備し、そのための国際交流協会、NGO等の活動を支援する。また、国は、家族滞在の子どもの定住者等への在留資格変更について一層要件を緩和することにより、外国につながる子どもの在留の安定を図る。
 (2) 国や地方自治体は、外国人が医療、社会保障等のサービスや法律扶助制度等に容易にアクセスし、十分に活用することができる制度を実現し、国際交流協会、NGO等と協力してその運用を支援する。
 (3) 国は、国際人権諸条約の諸規定に基づき、長期の在留資格や在留特別許可に係る法令の要件の緩和と明確化を通じて、外国人やその子ども・家族の在留の安定を図る。併せて、複数国籍の制限の緩和等を含め、国籍の得喪要件の見直しを行う。
 (4) 国や地方自治体は、調停委員等や教員の公務就任における差別をやめ、就職・入居等の私人間における差別的取扱い、及び差別的言動の禁止を含む法整備を行う。また、国は、国内人権機関の創設、人権諸条約の個人通報制度の実現を通じて権利救済を実効化する。


3 これらの施策を立案、実施するため、以下の体制を整備するべきである。
 (1) 地方自治体は、外国にルーツを持つ人々が地域の中で共に生きるため、上記を含めた施策を実施する部署の設置等をする。
 (2) 国は、外国にルーツを持つ人々が社会で共に生きるための施策を国や地方自治体の責務とし、これを実施する体制を定め、また、外国人受入れについての基本方針を定める法律(仮称「多文化共生法」)を制定するとともに、これらの施策の実施を所管する省庁(仮称「多文化共生庁」)を設置する。

 

外国にルーツを持つ人々がひとしく人権を保障され、全ての市民が共生できる、活力のある日本の地域社会を創造するため、今こそ、国や地方自治体は、具体的な行動に移るべきである。
 

当連合会も、上記の施策の実現に向けて、全力を挙げて取り組む所存である。
 

以上のとおり宣言する。

 

2018年(平成30年)10月5日

日本弁護士連合会

 

提案理由

第1 日本における外国人労働者の現状と課題

1 現状と課題

(1) 現状

日本における在留外国人数(中長期在留者と特別永住者の数)は、2017年末、256万人を超え、15年前の2002年末と比べて約80万人の増加となった。特に、永住者は約50万人、技能実習と留学の在留資格を有する者は合わせて約30万人、技術・人文知識・国際業務の在留資格を有する者は約10万人、それぞれ増加している。
       

外国人労働者の受入れも着実に進んでおり、特別永住者を除く外国人労働者数(外国人雇用状況届出数)が2016年10月には108万人、2017年10月には127万人を超えるなど、更に増加が加速している。
       

その背景には、日本の労働市場における非熟練労働者を始めとする慢性的な労働力不足がある。長期推計によれば、2015年時点からの20年間で、日本の人口における生産を担う世代(15歳~64歳)は少なく見ても約1200万人減少する一方で、65歳以上は約394万人増加するとされており(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」)、急速に少子高齢化が進んでいる。
       

これを受けて、日本経済団体連合会(経団連)は「外国人材受入促進に向けた基本的考え方」(2016年11月)を、日本商工会議所は「専門的・技術的分野の外国人材受け入れに関する意見~新たな在留資格「中間技能人材」の創設を~」(2018年4月26日)を発表し、農業労働者の不足に悩む地方自治体等も外国人労働者受入れに向けた意見を述べている。また、多くのメディアでも外国人労働者受入れに関する議論がなされている。
       

しかし、100万人を超える外国人労働者が日本で働き、生活する一方で、日本政府はこれまで、いわゆる単純(非熟練)労働者は受け入れないとの建前を維持し続けてきた。
       

このため、本来、労働者受入れを目的としない在留資格で入国した外国人が、特に非熟練労働の担い手となっている現実がある。
       

すなわち、技能実習は、「人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術又は知識の移転による国際協力」(外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律1条)を目的とし、本来は労働者の受入れを目的としない在留資格ではあるが、実質的には、非熟練労働者の受入れ制度として機能しており、2017年末時点で27万4233人の技能実習生が在留している。留学も、資格外活動によってアルバイトに従事する者については、同様に非熟練労働者の受入れ制度として機能している面があり、2017年末時点で31万1505人の留学生が在留している。また日系人及びその家族も、製造業、建設業、農業、食料品製造業、縫製業等の現場で非熟練労働を担っている。

 

(2) 課題

上記のように、非熟練労働者の受入れについて、どのような業種で、どのような方法で外国人を受け入れていくか、正面から議論されたことはなく、中長期の外国人労働者受入れ政策も存在しないままに、なし崩し的に外国人労働者の受入れが進んできた。
       

このため、外国人が対等な労使関係を築いて労働者としての権利を保障されるための仕組みの構築や、外国人と日本人が日本社会でどのように共生していくかという課題が正面から議論されないままとなり、多くの外国人労働者が低賃金かつ不安定な雇用関係の下で危険な作業にも従事させられる等の過酷な労働環境、人権侵害が大きな社会問題となっている。
       

特に技能実習制度については、人材育成を通じた技術又は知識の海外移転という名目上の目的のために就業先の変更を制限され、雇用主に権利主張をしただけでも本国で送出し機関に徴収された多額の保証金を没収されかねない立場ともあいまって、最低賃金法違反、セクシュアルハラスメント、強制帰国等の様々な人権侵害を生み出しており、2014年7月23日の自由権規約委員会の日本の第6回定期報告に関する最終見解や2016年3月7日の女性差別撤廃委員会の第7回及び第8回日本政府報告書に対する総括所見、アメリカ国務省の人身取引報告書において、「強制労働」、「人身取引」との国際的批判を受けている。また、留学生についても、資格外活動として週28時間以内の就労が認められているが、その就労時間内の賃金では、ブローカーへの仲介料等のために本国で負担した年収の何倍もの借金の返済や日本での学費の捻出ができなくなり、経済的に破綻する者も多い。他方、借金返済のために学校での授業への出席のほかに制限時間を超えた過酷な長時間の労働を余儀なくされ、その結果、出席日数が不足して退学となったり、違法な資格外活動が発覚して留学生の在留資格を失い、本国での借金だけが残る者も相次いでいる。また、留学生を受け入れる日本語学校による不法就労助長やパスポートの取上げなどの人権侵害事例が報告されている。
       

このような状況下にありながらも、技能実習制度は人数、職種の双方で拡大を続けており、留学生も2008年の「留学生30万人計画」以降大幅な増加を続けている。また、在留資格「介護」の創設のほか、外国人建設就労者及び外国人造船労働者の在留資格「特定活動」の告示に基づく受入れ、国家戦略特別区域法の改正による外国人家事支援「人材」や農業支援外国人の受入れ、日系4世の受入れ等、本来労働力受入れとして位置付けられないはずの者の受入れや、労働力不足が顕著な分野に限定した個別の制度の創設等による、場当たり的な受入れが行われてきた。
       

ようやく政府は、2018年6月15日、経済財政諮問会議で「経済財政運営と改革の基本方針2018」(いわゆる「骨太の方針2018」、以下「骨太の方針」という。)を閣議決定した。さらに、政府は、同年7月24日、「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」を設置するとともに、骨太の方針を踏まえて、「外国人の受入れ環境の整備に関する業務の基本方針について」(以下「受入れ環境の整備に関する基本方針」という。)を閣議決定した。
       

骨太の方針は、「中小・小規模事業者をはじめとした人手不足は深刻化して」いるとの問題意識の下、「移民政策とは異なるものとして、外国人材の受入れを拡大するため、」「一定の専門性・技能を有し、即戦力となる外国人材に関し、就労を目的とした新たな在留資格を創設する」こととした。
       

ただし、骨太の方針は、「一定の専門性・技能を有」する者を対象とするとしているものの、方針検討において議論の対象となった業種は、農業、建設業、宿泊業、介護等これまで非熟練労働と言われてきた業種である。そうすると、この新たな制度は、非熟練労働の分野でも正面から外国人労働者を受け入れるものとなるものと考えられる。
       

しかし、多くの人権侵害を生み出す技能実習制度は、新たな制度の創設後もなお存続することが前提となっており、制度の廃止どころか、3年ないし5年の技能実習を修了した者については、新たな在留資格で求められる技能水準等を備えるものとみなすこととなっている。
       

また、新たな在留資格では、在留の期限を原則として5年以内とし、家族の帯同を認めないこととしている。技能実習制度も家族の帯同を認めておらず、最長5年間の技能実習を修了した者が、更に5年間にわたって新たな在留資格で在留する場合、10年間にわたって家族と生活することができないという状況が生じ得ることとなる。
       

さらに、骨太の方針は、新たな在留資格の創設も「移民政策とは異なる」ことを強調するが、国連等の国際機関では、「通常の居住地以外の国に移動し、少なくとも12か月間当該国に居住する人」を「移民(migrant)」と定義することが多い。「移民」をどのように定義するかはともかく、多くの国が、受け入れた外国人労働者について、労働力としてだけではなく、社会で生活する「人」であることに着目して、共生のための政策を採っている。骨太の方針と受入れ環境の整備に関する基本方針も、「外国人材への支援」や「受入れ環境の整備」を掲げているのであるから、共生のための施策を受入れ企業等のみの責任とするのではなく国の責務として明確に位置付け、実行する体制を早急に構築するべきである。
       

外国人労働者の受入れが更に増加すると見込まれる今こそ、これらの問題を正面から議論し、以下の取組を進めなければならない。

 


2 正面から非熟練労働者を受け入れる制度の在り方

(1) まず、現行の受入れ制度において、実質的には非熟練労働者の受入れ制度として機能している技能実習制度については、名目と実態の乖離という構造的問題の下、多くの人権侵害を引き起こしていることから、早急に廃止するべきである。骨太の方針によって就労を目的とする新たな在留資格が創設されるのであれば、なおさら早急に廃止されるべきである。その際、既に現実に在留している技能実習生が不利益を被らないような措置を採るべきである。
  

(2) 外国から非熟練労働者を受け入れるのであれば、技能実習制度や留学等の名目と実態の乖離した方法による労働者の受入れではなく、非熟練労働者としての在留資格を創設し、正面から労働者として受け入れるべきである。骨太の方針によって創設が提案されている新たな在留資格についても、非熟練労働者の受入れであるという位置付けを明確に行った上で、制度設計がなされるべきである。
       

その場合には、技能実習制度の構造的問題点への反省を踏まえ、以下の条件を満たさなければならない。
   

① 職場移転の自由を認めること

技能実習制度は、技能の実習という名目上の制度目的ゆえに、少なくとも3年間は原則として職場の移転が認められず、職場に何らかの問題があって不満を持っても、職場を辞めれば帰国しなければならないという立場にあり、このことが、雇用主との間の支配従属的な関係を生じる原因となってきた。新たに非熟練労働者の受入れを行うのであれば、他の在留資格と同様、職場移転の自由が認められ、これが実質的にも保障されるような制度設計をすることが極めて重要である。
   

② 国の機関による職業紹介、二国間協定の締結等により、送出し国を含めてブローカーの関与を排除すること

技能実習制度においては、送出し国において、民間の送出し機関が保証金を徴収した上、技能実習生が雇用主に不満を述べたり抗議をする等すれば保証金を没収することが横行している。二国間協定の締結等により悪質なブローカーを排除し、ハローワーク等の国の機関による職業紹介を充実することが求められる。
         

また、日本国内においても、受入れ事業者から費用を受領した監理団体が技能実習生を受け入れて、受入れ事業者に実習生を配置し、適正な技能実習制度の運用を監理する仕組みがとられている。しかし、受入れ事業者から費用を受領しているという立場上、この仕組みに十分な監理を期待することは困難であり、むしろ、自由な労働市場の中で、対等な労使関係を築くよう、この観点からもハローワーク等の国の機関による職業紹介を充実することが必要である。なお、韓国は、2004年8月から採用した非熟練労働者受入れ制度である雇用許可制において、韓国政府の出先機関が送出し業務を行うことによって民間業者の介入を防止し、さらに日本のハローワークに相当する公的機関がマッチング業務を担当することによって人権侵害を防ぐ役割を果たしており、こうした例も参考にするべきである。
   

③ 長期間の家族の分離を強いず、日本に定着した家族全体の在留の安定を図ること    

技能実習制度においては、最長5年間、日本での正規の滞在が許可されるにもかかわらず、技能実習生は家族を帯同することができない。さらに、骨太の方針が想定している新たな在留資格では、これに加えて最長5年の在留が予定されており、最長10年にわたって家族を呼び寄せることができないまま単身での日本の生活を強いられることが予想される。
         

しかし自由権規約23条は、「家族が、社会の自然かつ基礎的な単位であり、社会及び国による保護を受ける権利を有する」と規定して家族の統合を保護している。また、子どもの権利条約9条も、締約国に子どもがその父母の意思に反して父母から分離されないことを確保することを求めている(日本政府は同条について出入国管理の場面においては適用されないとの解釈宣言を行っているが、国連の子どもの権利委員会からこの政府の対応に懸念が表明されている。)。日本はいまだ批准していないものの既に発効している、「すべての移住労働者とその家族の権利保護に関する国際条約」は、締約国に対し、移住労働者の家族の同居の保護を確実にするために適切な措置を採ることを求めている。これらの人権諸条約の趣旨を考慮し、少なくとも一定の期間の滞在となる場合には、家族の帯同を認める方向で制度設計がなされるべきである。
         

また、家族の帯同を認めるとき、帯同された家族が日本で確立した生活の基盤を失うことがないよう、労働者やその家族自身の安定した在留を保障するべきである。
         

さらに、骨太の方針は、新たな在留資格では、最長5年の在留後は、原則として在留資格の更新や変更を認めずに帰国させることとし、例外的に現在ある他の就労可能な在留資格への変更が認められ得るとしているが、技能実習と通算すると最長10年という長期の在留が想定されること、家族の帯同も認めるべき場合があること等にも鑑みれば、本人や家族の生活基盤を尊重し、在留期間の更新や別の在留資格への変更をより広く認める方向での検討がなされるべきである。

 

 

3 外国人労働者全体の権利保障のための施策

さらに、国は、非熟練労働者を含む様々な外国人労働者を受け入れるに当たって、その権利保障を実現するための施策を検討するべきである。
     

具体的には、 

① 賃金等の労働条件における国籍や民族を理由とする差別の禁止を徹底すること
賃金等の労働条件における差別禁止を徹底し、言語や習慣等に基づく相違を認めてこれを尊重する労働環境の整備を行い、実質的にも差別が行われない環境を作るよう施策を充実するべきである。


② 労働者の権利の保障等のための相談、紛争解決の仕組みを充実させること
相談に当たっては、多言語での対応を可能とすること、法テラスや弁護士会等との連携を充実させることが必要であり、紛争解決の仕組みにおいては、例えば、就業先との間で解雇や賃金未払等をめぐる紛争が発生した場合に、労働者としての権利保障を全うするまでは在留資格を失わないようにする等の仕組みも含めた検討が必要である。


③ 日本語教育を含む職業訓練や職業紹介制度を充実させること
日本に定住する日系2世や3世、日本に定着した外国にルーツを持つ人々は、言語等の面で、日本の労働市場で就職活動等を行うことの困難に直面する。職業訓練や職業紹介に当たっては、これらの特質を踏まえて、これらの人々が実質的に労働市場に参入することができるような仕組みを構築するべきである。なお、ドイツでは、職業訓練の一環として、国の負担の下で就業に結び付くドイツ語講習が実施されていること等も参考にするべきである。
     

以上の各施策の実施により、外国人の人権保障に適った受入れ制度の確立が必要である。



第2 外国にルーツを持つ人々の人権と多民族・多文化が共生する社会の確立に向けて

1 日本における外国にルーツを持つ人々の状況

(1) 前述のとおり、日本における在留外国人数は、2017年末、256万人を超え、過去15年間で約80万人の増加となった。このうち、オールドカマーといわれる特別永住者は32万人、ニューカマーといわれる人々は223万人に上っており、在留カード及び特別永住者証明書上に表記された国籍・地域の数は195(無国籍を除く。)に上っている。このほか、2018年1月1日現在6万6498人の非正規滞在者も日本に居住している。なお、この在留外国人数及び非正規滞在者数の中には、難民認定申請者や難民認定者も含まれている。


前述のとおり、12か月間以上在留する者を「移民(migrant)」とする国際的な定義に従えば、日本は既に移民受入れ国であるとも言える。


さらに、出生後に日本国籍を取得した人や外国籍の親から生まれた日本国籍を有する人等も日本で生活している。


今、日本は、様々な国籍や外国にルーツを持つ人々が暮らす国となっている。


さらに、少子高齢化社会の進展や人手不足を背景として、骨太の方針の実行を始めとして、多くの外国人労働者が日本に入国し、社会の一員となることが見込まれる。


このような中で、日本で生活する外国にルーツを持つ人々の権利を保障し、また、市民社会の中でこれらの人々が分け隔てなく共生することのできる環境を創ることが、日本社会の喫緊の課題となっている。
  

(2) これらの人々も、国籍、在留資格の内容、有無等にかかわらず、ひとしく憲法、国際人権法上の人権を享有している。したがって、日本に入国し、生活する者について、国籍や民族の相異を理由に、その時々の在留政策や、雇用側の利害等により、その人権を安易に制約することは許されない。


これに対して、日本では、外国人の人権享有主体性を認めつつも、「国際慣習法上、国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく、特別の条約がない限り、外国人を自国内に受け入れるかどうか、また、これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかを、当該国家が自由に決定することができる」とし、また、「外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、右のような外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎないものと解するのが相当」とする判例(いわゆるマクリーン判決、最高裁昭和53年10月4日判決)を根拠に、出入国・在留関係の諸手続において国の広範な行政裁量を認め、在留中の外国人への権利制約を広範に認める行政実務が、長年にわたって続いてきた。

 

しかし、日本に在留して生活する外国人に対する憲法・国際人権法上の人権の制約は、在留政策上の判断によって無制限に制約し得るものではなく、比例原則や平等原則等の観点から、また法の趣旨や目的からの逸脱の有無等からその許否が厳しく問われなければならない。


また、マクリーン判決から40年が経過し、その間に日本は、自由権規約、社会権規約、人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約等の国際人権諸条約につき新たに批准、加入したのであるから、マクリーン判決の前提とする法制度の枠組み自体について根本的な変動が生じている。これら人権諸条約は、出入国管理その他の法律の上位規範として、最大限に尊重されなければならない。具体的には、家族の尊重、統合(自由権規約17条、23条、子どもの権利条約9条)、教育を受ける権利(社会権規約13条)、人身取引からの保護等の様々な規範は、外国人の出入国や在留中の権利保障に当たって、最大限に尊重することが必要である。日本に定着した外国にルーツを持つ人々の多くは民族的少数者(社会を構成する民族集団のうちで、多数集団を形成する民族集団とは異なる文化、言語、宗教等を持つもの、“ethnic minority”)であり、自由権規約27条、子どもの権利条約30条等によりその文化や言語等を尊重することも必要である。  


国際間の移住を強いられた難民について見ると、国の難民認定行政は、国際的な認定基準との乖離があり、難民への生活支援は極めて不十分で難民条約締約国としてふさわしいものとは到底言えない。出入国管理、在留管理を所管する法務省入国管理局や外交政策を所管する外務省等から独立し、専門性を持った者によって難民認定審査が行われるべきであるにもかかわらず、いまだにそのような制度は確立していない。



2 法制度の現状

(1) これまで見たとおり、日本は既に多くの外国にルーツを持つ人々が暮らす社会となっているが、戦後の日本の外国人に関する法制度は、当時日本国籍をなお保持しているとされた在日韓国朝鮮人を主たる対象として管理するための外国人登録令を出発点とし、現在も、難民の認定と、外国人の出入国と在留を管理することを目的とする「出入国管理及び難民認定法」があるのみであり、外国にルーツを持つ人々の人権を保障し、外国にルーツを持つ人々が地域で共生するための施策とこれを実施するための体制を定めた法律は存在しない。


前述のとおり日本が批准ないし加入した国際人権諸条約は、国籍や民族等の異なる人々の権利を保障し、差別的取扱いを禁止し、国籍や民族等の違いを超えて共生する社会を創るための諸規定を定めている。しかし、2016年5月に「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(いわゆる「ヘイトスピーチ解消法」)が成立したものの、これらの規定を実効化するための日本の法制度の整備は進んでいない。
  

(2) 国際社会に目を移せば、韓国は、2007年5月、雇用許可制度の実施に合わせて、韓国に住む外国人の処遇を定める「在韓外国人処遇基本法」を制定した。


ドイツは、2005年1月、「移住の調整と制限並びに欧州連合市民及び外国人の滞在と統合の規制のための法律」(いわゆる「新移民法」)を施行した。新移民法は、在留許可の在り方を変えるとともに、ドイツ語講習のコース(600時間)や法令、文化、歴史に関する知識習得のためのコース(30時間)の国庫負担による実施等を内容とする社会統合を強化することを定めている。

また、イギリス、ドイツ、フランスを始めとするEU諸国、オーストラリアその他の諸外国は、人種差別撤廃条約の国内実施の趣旨も込めて、雇用、教育等の様々な社会生活の場面での差別の禁止を規定する人種差別禁止法を制定している。
  

(3) このような状況にあって、日本社会は、日本で生活をする外国にルーツを持つ人々の権利の保障、差別の禁止、外国にルーツを持つ人々と共に生活する社会を創造するための法制度、施策を直ちに確立するべき時期に直面している。
      

以下、具体的な場面ごとに、現状と克服するべき課題を検討する。

 


3 教育

(1) 子どもの権利条約、自由権規約等の人権諸条約の諸権利

社会権規約13条は、全ての者に教育を受ける権利を保障し、初等教育は義務教育とした上で、中等、高等教育においても全ての者の教育を受ける権利を機会均等に保障し、保護者には子どものために公立・私立学校(外国人学校を含む。)を選択する自由を保障する。また、教育を受ける権利は、非差別・平等に保障されなければならず(社会権規約2条2項、自由権規約26条、子どもの権利条約28条1項)、民族的少数者には、その言語、宗教、文化、アイデンティティを保持し、教育し、又は教育を受ける権利が保障されている(自由権規約27条、子どもの権利条約29条1項)。


(2) 日本の実情と課題

上記の人権諸条約にもかかわらず、日本における外国につながる子どもたち(多文化・多民族な背景を持つ子どもたち)に対する、教育を受ける権利の保障は十分でない。
       

初等・中等教育における就学率について見ると、文部科学省が行う不就学調査では日本国籍を有しない児童は対象から除外される等しており、調査が十分でなく、不就学の背景には、就学に関する情報提供が不足していることやいじめや授業についていけずにドロップアウトしてしまうこと等があるにもかかわらず、外国につながる子どもの不就学の全体像は明らかになっていない。
       

初等・中等教育においては、授業の理解のために日本語を学習言語として習得する必要があるところ、教員の加配定数の措置等があるものの、十分な配置はなされておらず、専門性のある教員等が不足する等、充実した日本語教育を行う体制が確立していない。
       

また、外国につながる子どもにとって、アイデンティティ形成のため、母語教育や民族教育も必要となるが、これらを行う学校はごく限られている。
       

不就学等の問題に対応するためには、教員のみではなく学校と家庭、地域を繋ぎ切れ目のない支援をするスクールソーシャルワーカーの本格的導入も検討するべきである。また、行政とNPOやボランティア団体、支援団体とが連携し、日本語教育、母語教育、民族教育等を担っていく必要もあるが、地域の取組状況は大きく異なっている。
       

高校への進学においては、学力はあっても学習言語としての日本語能力が十分でないために、全日制普通科高校への進学を断念せざるを得ず、定時制高校がその受け皿になっている等の実態があることから、特別枠の設置等の入試制度の改革や日本語教育の充実が必要である。
       

また、日本の中学校に相当する外国人学校は、外国につながる子どもたちの教育に重要な役割を果たしているにもかかわらず、外国人学校は学校教育法1条に定める「学校」(いわゆる「一条校」)ではないとの理由で、その卒業生に日本の公立高校への入学資格を認めない自治体が多くある。また、外国人学校は、一条校ではないため、国庫助成等の対象とならず、学校保健安全法の適用もないため健康診断への援助もない等、公的支援が不十分である。
       

児童生徒以外の外国人の日本語教育については、文化庁がボランティア団体等に委託して実施する「生活者としての外国人」のための日本語教育事業はあるが、外国人の我が国の文化芸術に関する理解に資することを目的としたもので、委託期間は3年のみである。その他には、日系定住者や条約難民等に対する日本語教育事業等に限られており、外国にルーツを持つ人々が社会で共生するための制度がない点は大きな問題である。
       

また、日本で学習し、生活してきた外国につながる子どもたちの中には、就労のための在留資格等を持って在留している親との関係で「家族滞在」の在留資格で在留している事案が相当数存在する。そのため、親が帰国してしまうと在留資格を失ったり、学校卒業後に働こうと思っても、就労できる在留資格に当てはまる職を見付けられずに週28時間以内の資格外活動しかできない子もいる。また、大学進学を希望していても、「家族滞在」の在留資格では奨学金の受給要件を充たさない場合があり、大学進学を断念することもある。国は、家族滞在から「定住者」等への在留資格の変更を認め始めたが、なお一層要件を緩和して定住者等への在留資格変更を広く認めるべきである。


(3) 提言

国や地方自治体は、外国につながる子どもや成人の日本語教育、民族的アイデンティティを保持するための母語教育等のための専門的な教員やスクールソーシャルワーカー等の配置・加配や必要な施設整備を行い、そのための国際交流協会、NGO等の活動を支援するべきである。
       

また、国は、家族滞在の子どもの定住者等への在留資格変更について一層要件を緩和し、外国につながる子どもの在留の安定を図るべきである。
       

さらには、共生の観点から、年齢を問わず外国にルーツを持つ人々を広くその対象とする日本語教育の制度の構築を行うべきである。

 


4 医療、社会保障、各種相談等へのアクセス

(1) 現状と課題

外国人については、医療や生活保護を始めとする社会保障に関する行政サービスや、法律扶助等の安心した生活を送るために必要不可欠な制度が、在留資格の有無やその内容によって適用が制限されている状態にある。
       

特に、2012年7月から外国人住民基本台帳制度が開始されて以降、在留資格のない外国人については、本来は受けられるべき緊急医療や母子保健といった最低限の行政サービスについても、事実上提供を拒否される事態が報告されている。
       

また、本来はこのような行政サービスや制度の適用を受けられる外国人であっても、多くの者が、言語上の問題や制度の理解の困難等から、容易にアクセスすることができなかったり、十分に活用することができなかったりする状態に置かれている。こうした問題を解消するための医療通訳制度の必要性は、ますます高まっているが、自治体や民間団体の努力に委ねられている状況にあり、必要に迫られた一部の自治体や民間団体の工夫により何とか維持されているところがあるにとどまっている。厚生労働省による医療通訳養成への助成金も単年度の予算にとどまる等、継続性に欠けている。外国人が安心して医療を受けられるようにするための医療通訳制度を、国が主体となって整備するべき状況にある。
       

その結果、十分な医療を受けられなかったり、高額の医療費の支払を求められたりするほか、健康保険や年金に関する多額の保険料の支払を遡って求められる事態が後を絶たず、外国人が地域で安定した生活を送ることを妨げる大きな要因となっている。


(2) 提言

外国人が医療、社会保障等の行政サービスや法律扶助制度等に容易にアクセスし、十分に活用することができるような制度を実現し、国際交流協会、NGO等と協力してその運用を支援するべきである。



5 在留制度、国籍

(1) 在留資格と国籍についての現状と課題

外国人労働者その他外国にルーツを持つ人々の諸権利の実効的な保障のためには、当事者の地位の安定確保、すなわち、在留資格と国籍の安定した取得・維持が極めて重要である。
       

ところが、既に述べたように、日本の外国人労働者受入れは多分になし崩し的に進行し、当事者の在留資格はその労働者性や定住性の実情とは乖離した、不安定なものにとどまっている例も多い。そこで、外国人労働者等の受入れ議論が活発化しているこの機会に、在留資格の取得・維持の仕組みについても抜本的な見直しが行われるべきである。
       

他方、国籍についても、国籍選択制度や国籍留保制度との関連での日本国籍喪失事案や、現在の国籍実務の下でなお発生している無国籍事案等、出生時及び出生後の日本国籍の得喪に関して様々な解決するべき問題点が存在しており、これらの解決も求められている。


(2) 在留制度についての提言

外国人労働者等の受入れ体制構築の必要性は、「第1」で詳述したとおりであるが、現下の状況においても、当然のことながら、国際人権諸条約に準拠した在留制度の運用が行われなければならない。
       

すなわち、既に来日し現に労働者として日本社会を支えている者及びその家族について、いわゆる正規滞在者であるか否かを問わず、子どもの最善の利益(子どもの権利条約3条)や家族及び私生活の尊重(自由権規約17条、23条、子どもの権利条約9条)等の規範を踏まえて、その地位の安定化と権利保障を速やかに行うことが求められる。とりわけ、生活基盤が既に日本において構築されている非正規滞在者とその家族等について、人権諸条約の要請に基づき、在留特別許可の要件の緩和と明確化により、その地位を速やかに正規化するという対応が広く採られるべきである。
       

そして、これらの検討に当たっては、家族の多様な在り方(性的マイノリティや離婚後の非親権者と子どもとの関わり等を含む。)が、十分に留意・尊重されなければならない。


(3) 国籍についての提言

国籍こそが「諸権利を持つ権利」、すなわち権利の源泉であることを踏まえ、無国籍の予防・削減や、重国籍者の日本国籍維持が重視・尊重されるべきである。
       

そのために、無国籍の予防・削減のための国籍法の規定整備・運用の徹底、国籍選択制度や国籍留保制度の廃止、重国籍(複数国籍)の制限の緩和の検討等が行われるべきである。また、外国にルーツを持つ人々を社会に多く受け入れているヨーロッパ諸国では、重国籍(複数国籍)の保持が広く認められていることも参考にしながら、多様なバックグラウンドを持つ人々の日本国籍の取得の在り方についても、今後、検討がなされるべきである。



6 外国にルーツを持つ人々に対する差別

(1) 公務就任等における差別


① 現状と課題

最高裁判所は、調停委員、司法委員及び参与員の採用に当たり、規則上は国籍要件がなく、その他の要件を満たしているにもかかわらず、外国籍者の就任を拒否している。また、国は外国籍教員を「常勤講師」とし、「教諭」となることを認めておらず、管理職者となる道を閉ざしている。同様に地方公務員の管理職への登用も認めていない。
         

定住外国人への地方自治体の選挙権の付与も最高裁判決はこれを禁じていないと解しており(最高裁平成7年2月28日判決)、自由権規約25条の趣旨からすれば、定住外国人の選挙権、被選挙権の付与が進められるべきであるが、なおこの動きは進んでいない。


② 提言
国や地方自治体は、日本社会の構成員である定住外国人に対し、調停委員等や教員の公務就任の機会を与えるべきである。また、地方自治体については、立法により定住外国人の選挙権、被選挙権の付与を認めるべきである。


(2) 差別的取扱いと差別的言動


① 現状と課題
ア 差別的取扱い
2017年に法務省が公表した外国人住民調査では、日常生活の多くの場面で外国人が差別を受けている実態が報告されている。すなわち、就職差別、日本人より低い賃金等労働契約上の日本人と異なる取扱い、賃貸借契約の際の入居拒絶、レストラン等でのサービス提供拒絶等の私人間における差別的取扱いを受けたとする調査結果が報告されている。
           

また、特に女性については、外国にルーツを持つこととあいまって性差別的言動やハラスメント等の被害を受けている状況にあり、かかる複合的な形態の差別からの保護が喫緊の課題となっている。
    

イ 差別的言動
国はいわゆるヘイトスピーチ解消法を制定し、その前文において不当な差別的言動は許されない旨を宣言しているが、同法施行以降もヘイトスピーチに代表される差別的言動は減少していない。一部の地方自治体において、これらに取り組むための施策が実施されているが、その多くは啓発にとどまっており十分なものとは言えない上、同法の施行から2年が経過した現在においても積極的に取り組んでいる自治体からも国に対して具体的な対策や連携についての要望がなされており、全国的な取組ができていない状況にある。
           

また、同法はいわゆる適法居住要件を設けているが、同法の国会審議の際の附帯決議が懸念するとおり、在留資格のない者に対する差別的言動は許容されるという誤った解釈を招きかねない。
    

ウ 権利救済
差別的取扱い及び差別的言動に対する救済手段である民事訴訟では極めて少額な慰謝料しか認定されず、刑事手続でもこれらを処罰するために刑法が適切に適用されているとは言い難い状況にある。
   

② 提言
国及び地方自治体は、自由権規約20条2項及び人種差別撤廃条約2条1項(d)等の国際人権条約に基づき、私人間における差別的取扱い及び差別的言動を禁止する法整備をし、外国にルーツを持つ人々の権利を保障する施策を遂行するための基本方針等を策定して、差別の根絶に向けて積極的に取り組むべきである。
         

また、権利救済をより実効的にするため国内人権機関の創設及び人権諸条約の個人通報制度を実現するべきである。




第3 国、地方自治体の責務と組織の在り方

1 現状と課題

第1及び第2で述べた課題に対し、国や地方自治体の従前の取組は以下のとおりであるが、課題も多い。
  

(1) 外国人の受入れ政策に関して、これまでのような場当たり的な受入れ政策によらず、第1の2に記載した外国人労働者やその家族の権利の保障の観点、第2に記載した人権諸条約などの要求する観点、共生のための施策の実施という観点を含めて、受入れの基本的な方針を法律で定めるべきである。この方針に基づいて、国において、どの範囲の外国人をどの程度の規模で受け入れるか、またその在留期間、家族帯同や定住化等の受入れの条件をどのようなものにするかについて、共生のための施策や人権保障施策の進展などを踏まえて、短期的また中長期的な社会経済の必要、日本の労働市場への影響等を総合的に判断して受入れの在り方を検討する組織が必要である。2018年7月24日、「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」が設置されたが、受入れ政策の決定のためには、基本的な方針を法律に定めるとともに、専門的知見を持つ者や外国にルーツを持つ人々自身、その支援に関わる人々の意見を踏まえて具体的な制度設計を行う組織が必要である。
  

(2) 多文化の共生する社会を構築するための施策に関して、総務省が、地域の国際化の推進の観点から、自治体の国際協力や多文化共生の推進を所管している(なお、内閣府政策統括官(共生社会政策担当)は、共生社会政策の中で、日系定住者のみを対象としている。)。
       

具体的には、2006年、地域における多文化共生推進プランを策定し、自治体を外国人に対する行政サービスの主要な主体と位置付けた上で、民間団体と連携・協働して施策を推進するよう求めた。同プランは、学習支援や医療通訳制度の整備等重要な施策を的確に挙げているものの、その実現を自治体に委ね、国が責任をもって実現を図るものではなく、実現するための財政的裏付けも欠いている。
       

総務省の上記プラン以前から、外国人住民を多数受け入れている自治体は、必要に迫られ、独自の施策を進めてきた。2001年に設立された「外国人集住都市会議」や、2004年に設置された「多文化共生推進協議会」等は、現場の視点に立って国に対する政策提言活動を行っている。多くの自治体で、国際交流協会と連携した機動的な施策が展開されているが、その内容は、自治体により大きな差がある。
       

なお、国際交流協会(地域国際化協会)は、民間の国際交流組織として自治体の施策を補完する存在であるが、その成り立ちや自治体との関係はそれぞれに異なっており、国や自治体の支援の状況もまちまちである。そのため、補助金の削減や基本財産の運用利回りの低下等から必要な施策の実施や継続に困難を生じている実情もある。
       

以上の実情を踏まえ、第1及び第2に記載した諸施策を含め、外国にルーツを持つ人々が共生する社会を構築するための施策の実施を国と地方自治体の責務として定め、それを実施するための体制を定めた法律が必要である。
       

前述のとおり、ドイツは、2005年、新移民法を施行し、その第1章に「連邦領域における外国人の滞在、職業活動及び統合に関する法律」を設け、外国人の社会統合の強化を定めている。韓国の「在韓外国人処遇基本法」も「外国人が韓国社会に適応して能力を十分に発揮し、国民と外国人の双方が理解し尊重し合う社会環境をつくることで、国の発展と社会統合に貢献することを目的」として制定されたものである。
  

(3) 次に、これらの共生のための施策を実施する国の機関を見ると、教育や医療、労働、差別の解消等のそれぞれの分野について、国においては、それぞれ文部科学省、厚生労働省、法務省等が分散して所管している。例えば、 日本語教育については、文部科学省(文化庁)が外国人の我が国の文化芸術に関する理解に資するために行うものを所管し、内閣府が日系定住外国人の定住施策として行うものを所管している等、外国にルーツを持つ人々全体が社会で共生するための総合的施策となっていない。
       

そもそも、外国にルーツを持つ人々が地域の中で共に生きる社会を構築するための施策は、本来、この目的の下に、外国にルーツを持つ人々全体を対象として、また、外国人受入れ政策と連関して策定するべきものであるところ、現状の国の体制は、各省庁の縦割りとなっており、かかる視点から総合的に検討されたものとはなっていない。外国にルーツを持つ人々と共生する社会を構築する政策の立案、実施を所管する省庁の設置が必要である。

 

2 提言

地方自治体は、外国にルーツを持つ人々が地域の中で共に生きるため、上記を含めた施策を実施する部署の設置等の体制を整備するべきである。
     

国は、外国にルーツを持つ人々が社会で共に生きるための施策を国や地方自治体の責務とし、これを実施する体制を定め、また、外国人受入れについての基本方針を定める法律(仮称「多文化共生法」)を制定するべきである。
     

また、国は、外国人受入れの在り方を中長期的な視点で計画し、さらに、外国にルーツを持つ人々が社会で共生するための施策を自ら実施し、また地方自治体が実施することを財政面などから継続的に支援するための施策を所管し実施する省庁(仮称「多文化共生庁」)を設置するべきである。
     

折から、政府も、骨太の方針に基づく新たな外国人の受入れ制度の創設を機に、仮称「入国管理庁」設置等の組織体制の検討を開始した(2018年7月24日閣議後の法務大臣発言)。しかし、今必要なことは、外国にルーツを持つ人々と共に生きる社会の構築のための施策を、人権保障の観点も含めて立案することであり、入国管理や在留管理の延長線上で外国人の受入れや外国にルーツを持つ人々との共生を検討することではない。国には、外国にルーツを持つ人々と真に共生する社会を構築するための組織の創設を提案するものである。

 

第4 結語


外国にルーツを持つ人々がひとしく人権を保障され、全ての市民が共生できる、活力のある日本の地域社会を創造するため、今こそ、国は、具体的な行動に移るべきである。
   

当連合会も人権保障の観点から、上記の施策の実現に向けて、全力を挙げて取り組む所存である。
   

よって、主文のとおり宣言する。