消費者被害のない安全で公正な社会を実現するための宣言

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私たちは、消費者として商品・サービスを購入して日々の生活を営んでおり、その商品・サービスは、現在の社会のあり方や市場のルールを前提として、生産者・事業者により生産・提供されている。消費者が安心して生活を送るためには、生産者・事業者、消費者、国や地方公共団体からなる社会が、消費者被害のない安全かつ公正なものでなければならない。


私たちの生活の消費への依存がますます強まり、消費者と事業者との間の情報や交渉力の格差が決定的になっている現代社会において、消費者の権利、すなわち(1)基本的な需要が満たされること、(2)健全な生活環境が確保されること、(3)安全が確保されること、(4)自主的・合理的な選択の機会が確保されること、(5)必要な情報が提供されること、(6)教育の機会が提供されること、(7)意見が消費者政策に反映されること、(8)被害が生じた場合に適切かつ迅速に救済されることについての権利の実現・充実は、ますます重要になっている。


そして、現代社会において消費者の役割が重要になってきていることから、消費者に対して、(1)批判的意識を持つこと、(2)主張し行動すること、(3)貧困者などの社会的弱者に配慮すること、(4)環境に配慮すること、(5)連帯することが呼びかけられている。


1980年代以降、政治経済政策として規制緩和政策がとられ、消費者には多様な商品やサービスが供給されるようになった反面、消費者被害や消費者問題は増加し深刻化している。これに対し、市場メカニズムを活用する規制や事後チェック機能を強化した個別救済制度の整備によって対処を図ろうとされてきたが、被害の防止、問題の解決には至っていない。


そこで、市場や社会のあり方を生産者・事業者の視点を中心としたものから消費者の視点を中心としたものに変革しようとする動きが本格化し、消費者庁及び消費者委員会が発足した。そのなかで、消費者や消費者団体の役割はますます重視されている。生産者・事業者、消費者、国や地方公共団体が、適切な緊張関係のもとに、協働することが求められている。


私たちは、消費者の権利の尊重と消費者の主体的な参加に根ざした、次のような安全で公正な社会の実現をめざす。


  1. 消費生活について安全と公正が確保され、消費者の消費行動や社会的活動により、誠実な事業者・生産者を支援し、また、事業者・生産者の質の向上、市場や社会の改善を図っていくことができる社会。
  2. 消費者の生命・身体や重要な財産へ危険を及ぼす商品・サービスを市場に出さないための規制、市場で解決できない問題についての規制、市場が適切に機能するための規制が的確に行われている社会。
  3. 多様な消費者が存在するなかで、社会的弱者が保護されているとともに、多くの消費者が消費者教育等により批判的な精神をもって消費行動や社会的活動を行うことができ、かつ、消費者団体等の諸組織やそのネットワークが、充実した活動を行うことができる社会。


当連合会は、このような「消費者市民社会」の確立をめざして、国及び地方公共団体に対して消費者の権利実現のための規制及び制度の充実を求めるとともに、消費者及び消費者団体の意見が社会に反映される環境を整えるため、積極的な役割を果たす決意である。


以上のとおり宣言する。


2009年(平成21年)11月6日
日本弁護士連合会


提案理由

1.市民の消費生活と安全で公正な社会

私たち市民は、生活のために必要な商品やサービスのほとんどを市場から購入して、日々の暮らしを営んでいる。生活のすべてにわたって、このような消費行動なくしては、私たちの暮らしは成り立たない。消費者とは、市民を消費生活から捉えた概念であり、消費者とは市民そのものである。


私たちの必要に応える商品・サービスが安全かつ公正に提供されることは、私たちの日々の暮らしにとって、不可欠の前提である。提供される商品が安全性を欠いていたり、また不公正な形で提供されるときには、私たちは不当な負担を強いられたり、甚だしいときには生命・身体や重要な財産を失うことになりかねない。


他方、商品やサービスは、現在の社会のあり方や市場のルールを前提として、消費者や他の生産者・事業者、国や地方公共団体と多様な関係を持つ生産者・事業者により生産・提供される。そして、商品・サービスが安全かつ公正に提供されるためには、生産者・事業者、消費者、国や地方公共団体からなる社会全体が、消費者被害のない安全かつ公正なものでなければならない。


2.私たちが直面する課題(消費者被害・消費者問題の現状)

(1)消費者被害・消費者問題の概況

全国の消費生活相談センターが受け付け、PIO-NET(国民生活センターと地方消費生活センターをネットワークで結び、消費生活に関する苦情相談情報等の収集を行っているシステム)に登録された消費生活相談情報の総件数は、1989年度は165,697件であったが、2007年度は1,041,607件にのぼっている。内閣府の「国民生活選好度調査」(2008年)では、全体の2.6%が、2006年4月から2007年3月までの間に消費者被害にあったと回答している。また、平成20年版国民生活白書は、2007年度における消費者被害に伴う経済的損失額を最大3兆4千億円と推計している。


私たちは、現在、多くの消費者被害・消費者問題に直面している。残念ながら、私たちの社会は、いまだ安全で公正な社会とはいいがたい状況にある。


(2)商品・サービスの安全をめぐる被害・問題

消費者の生命や健康を脅かす消費者問題は、依然として発生し続けている。


食の分野では、BSE問題、遺伝子組み換え食品問題等、生産体制の合理化や科学技術の発達によって、新しい問題が発生している。また、食材が世界で生産され、一部は加工されて消費者の食卓に届くまでのフードチェーンが国境を越えて延伸化、複線化しているなかでどのようにして食の安全を確保するかが、課題となっている。冷凍餃子事件・メラミン事件等による健康被害は、このような背景で生じている問題である。


医薬品の分野では、製薬会社による多様な宣伝活動が医薬品の評価や医療現場に大きな影響を与えるようになり、「副作用の少ない夢の新薬」と喧伝された抗がん剤イレッサでは、市販後爆発的に使用された結果、多数の副作用死亡者が発生した。


製品分野では、自動回転扉に男児が頭をはさまれる事故、エレベータ事故、ガス湯沸かし器による一酸化炭素中毒事故等、痛ましい事件が相次いでいる。また、家庭内における製品事故も多発しており、なかでも幼児と高齢者が事故に遭うケースが多い。このような事故に関しては、事故情報の伝達の遅れや、事故発生後の事業者の対応が問題とされるケースもある。


生身の人間である消費者の生命や健康の損害は、取り返しのつかないことも少なくない。被害者本人や家族・周囲の人々への影響は、深刻である。


(3) 取引の公正をめぐる被害・問題

悪質業者が欺瞞的な商法を行いクレジットによって代金を先取りのうえ破綻する事件が相次いでいる。このような事件は全国規模の大量被害事件となるものが少なくない。また、リフォーム詐欺商法や高齢者に呉服や布団等の商品を次々にクレジットで購入させる商法など、クレジットを悪用した事件が発生している。


投資サービスに関しても、投資商品が多様化・複雑化していることを背景に、消費者がリスクのある複雑な商品を購入することにより不測の損害を被る事例が後を絶たない。また、この間、大型の投資詐欺事件も相次いでいる。社会保障制度が十分でないわが国の状況を背景に、老後の不安を抱えた高齢者が、老後の蓄えを少しでも増やそうとして損害を被る例も多く、齢を重ねた後に老後の生活資金を失う被害は、深刻である。


社会の高齢化や家族や地域社会の繋がりが希薄化する中で、取引分野では、高齢者や障害者の消費者被害が多数発生している。


(4) 表示に関する問題

消費者は、事業者・生産者等からの情報提供に基づいて、取引を行うほかない。


しかし、食の分野をはじめとして、表示が必ずしも消費者に分かりやすく適切な形で情報提供されるものとなっていない問題がある。また、食品に関する偽装表示の問題が次々と明らかになり、社会問題ともなった。


2008年度の公正取引委員会による景品表示法の事件処理件数は、排除命令52件、警告9件及び注意551件の計612件である。排除命令件数は、表示事件について過去最高であった2007年度に引き続き、高い水準となっている。


(5) 多重債務・貧困の問題

多重債務は依然深刻な問題である。多重債務問題深刻化の原因は、(1)高金利、(2)過剰融資、(3)過酷な取立てがあげられるが、この間の雇用に関する規制緩和と経済環境の悪化、わが国におけるセーフティネットの不十分さと相まって、深刻な貧困問題の要因となっている。2006年の自殺者数は約3万2000人にのぼるが、そのうちの4人に1人が経済的な理由によるものである。


深刻な貧困状況のもとでは、人々は生活のための商品・サービスの購入を十分に行うことすらできない。また、社会的な紐帯から排除される事態も生じている。


(6) 消費者と環境問題

大量生産・大量消費・大量廃棄といわれる社会経済システムの中で、環境に配慮した持続可能な社会をつくるために、消費者への協力が呼びかけられている。この問題は、現在の国内の消費者の被害の問題にとどまらず、将来の消費者ないし市民に多くの被害を与え、また、途上国にも被害をもたらしている。広い視野を持った消費者の行動が期待されている。


3.消費者の権利

消費者基本法2条は、消費者が次の権利を有することを明らかにした。


(1)基本的な需要が満たされる権利
(2)健全な生活環境が確保される権利
(3)安全が確保される権利
(4)自主的・合理的な選択の機会が確保される権利
(5)必要な情報が提供される権利
(6)教育の機会が提供される権利
(7)意見が消費者政策に反映される権利
(8)被害が生じた場合に適切かつ迅速に救済される権利


もとより消費者の権利は、憲法13条及び25条等によって保障される憲法上の権利である。消費者基本法2条はその内容を明らかにしたものである。


消費者の権利は、商品やサービスが提供される市場において、消費者が市場に依存する傾向が強まり、情報力・技術力・組織力・交渉力を備えた事業者・生産者と、ばらばらな生身の人間である個々の消費者との格差が、決定的なものとなっていることを背景としているものであり、現代的な権利である。このことは、消費者基本法1条における、「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力等の格差にかんがみ」との点にも表現されている。


現実の消費者は、多様な形で存在する。職業や社会的な地位などからある程度の知見を備えた消費者もいるし、特段の知見を有しない平均的消費者、消費や消費をめぐる社会について必ずしも知見を有するわけではない消費者、あるいは、消費に関する情報に接する機会の乏しい消費者もいる。消費者の権利の保障は、このような多様な消費者の権利を保障するものであり、一部の消費者の権利を切り捨てるものであってはならない。


また、これらの権利は、当然に、健康で文化的な生活に必要な消費ができる権利が前提となる。生活のための消費を行うことができない貧困は、消費者の権利の保障のためにも、解決が必要である。


消費者の権利は、市民の生活を支える重要な基盤となる権利である。事業者・生産者の営業の自由(憲法22条)は、一方で市民の生活のための所得を生み出し、他方で市民の生活に商品やサービスを提供するために行われるためのものであることに鑑み、消費者の権利は、事業者・生産者の事業活動によって侵害されてはならない優越的権利として位置づけられるべきである。


このような消費者の権利に基づく消費者の行動は、個人の幸福追求のための権利であるとともに、その権利の行使は社会的影響力を持ち得る。消費者に対して、批判意識を持つこと、主張し行動すること、社会的弱者に配慮すること、環境に配慮すること、連帯することが呼びかけられるが、これらは消費者の権利の社会的な側面あるいは消費者の役割に着目して呼びかけられている。なお、消費者は一定の役割を期待されることがあり得ても、行政や事業者に対して「責務」や「責任」を負うものではなく、また、消費者の役割への期待は、行政や事業者の責務を軽減するものであってはならない。


4.これまでの消費者政策

(1)20世紀型の消費者政策

わが国では、消費者のための政策は、長年にわたり、産業育成優先、経済至上主義の政治経済政策の中で、産業育成省庁により、その政策を実施していくのに必要な限度で、産業政策に付随して行われてきた。


1968年には消費者保護基本法が制定されたが、同法は、社会的弱者である消費者への「保護」という考え方を基礎として、行政が事業者に対して事前規制による指導・監視を行うことにより、商品やサービスの一定の内容や質等を確保しようとするものであった。


(2) 政治経済政策の転換

1980年代以降、政治経済政策として、規制緩和政策がとられるようになった。1998年3月の「規制緩和推進3か年計画」(行政改革推進本部・規制緩和委員会)では、経済的規制(価格の安定、安定的な供給、既存産業の保護などの観点から行われる規制)は原則として自由とし、例外的にのみ規制する、社会的規制(安全性の確保、環境の保全、災害の防止、弱者保護などの社会的観点からの規制)は必要最小限にとどめるとの方針が確認された。


このような政治経済政策のもとで、大量生産・大量消費の傾向はますます進み、商品の分野だけでなくサービスの分野でも、消費者の自発的な需要によらずに供給が行われる傾向が強まった。また、社会的なセーフティネットが脆弱な中で、自己責任を強調しつつ競争が強められた結果、競争のために消費者を顧みない傾向も強まった。そこに過剰与信や欺瞞的な取引が行われる契機が存在した。


このように規制緩和が進められ、また社会状況が変化してきた。消費者との関係では、規制緩和により、多様な商品やサービスが提供され、消費者の選択の範囲が拡大することが消費者の利益となると説明されたが、他方、規制緩和を背景として、外国為替証拠金取引などの投資被害や耐震偽装問題等の消費者被害が発生しているのである。


(3)この間の消費者政策

このような流れの中で、消費者政策の見直しが議論され、事前規制の緩和を図り、事後チェックを強化する、また、市場メカニズムを活用する手法や消費者自身による被害回復を重視するという方針が採用された。2004年には、消費者保護基本法の改正により、消費者基本法が成立した。同法は、(1)消費者を「保護される主体」から「権利の主体」と捉えなおし、(2)消費者の権利が尊重されるべきことを基本理念の中で明示し、(3)行政・事業者の主要な責務は消費者の権利尊重と自立支援を旨とすることを明記した。


また、この間、行政規制の横断化と消費者自らが紛争を解決するための手段を充実する観点から、消費者契約法(2000年)、金融商品の販売等に関する法律(2000年)、公益通報者保護法(2004年)、消費者契約法改正(消費者団体訴訟制度・2006年)、金融商品取引法(2006年)、貸金業の規制等に関する法律改正(2006年)、特定商取引に関する法律・割賦販売法改正(2008年)等の改正が行われてきた。


しかし、消費者問題や消費者被害の発生に追いついていない。


(4) 消費者庁及び消費者委員会の設置へ

消費者行政推進会議は、2008年6月13日、「安全安心な市場」「良質な市場」の実現が競争の質を高め、消費者、事業者双方にとって長期的な利益をもたらす唯一の道であり、事業者・生産者の視点を中心とした行政から、消費者の視点を中心とした行政への転換を図るとして、消費者庁の設置を提言した。


同提言に基づいて、消費者庁の設置等に関する法案が提出され、2009年5月29日、消費者庁及び消費者委員会設置法等関連3法案が成立し、2009年9月、消費者庁及び消費者委員会が発足した。消費者庁及び消費者委員会の発足により、消費者行政が一元化され、また、消費者事故情報の一元的管理等が図られる。


これまで規制緩和政策がとられてきた中で、市場や社会のあり方を消費者の視点を中心としたものに変革しようとする動きが本格化しつつあり、そのなかで、消費者や消費者団体の役割が重視されるようになってきている。


このような状況の中で、私たちは、次に述べる諸施策が必要と考える。


5.安全で公正な社会のため立法・行政・司法

(1)安全で公正な社会のためのルール(立法)

安全で公正な社会のためのルールを確立していくことは、極めて重要である。


特に、消費者の権利を保障する観点からは、消費者の生命・身体及び重要な財産に対する危険に対しては、厳格な事前規制を行う必要がある。このような危険については、生命・身体及び重要な財産への危険が現実化した後の事後的な規制では、取り返しがつかないからである。例えば、食品や薬品の安全を確保するための事前規制や、生活の本拠である住宅の安全、生命・身体に危険を及ぼさないための製品の安全を確保するための規制は、しっかりとしたものを定める必要がある。


また、市場を通じた適正化を図ることができない事項についても、的確な規制が必要である。例えば、多重債務問題の原因である高金利による貸付は、低所得者・生活困窮者が生きるため、生活のために、選択の余地がない状態の中で行われる取引であり、また、生活破壊を引き起こす危険性の高いものであって、市場による解決を図ることができない問題である。したがって、貸金業に対する的確な規制が必要であり、かつ、多重債務問題は労働のルールや社会保障が脆弱であることにも起因するものであるから、規制を実効あるものにするためには、これまで当連合会が決議したように、労働のルールの適正化や社会保障の充実などを併せて行わなければならない。


また、高齢者や障害者に消費者被害を及ぼさないため、販売方法の規制や救済制度の整備等、実効性のある規制の整備も必要である。このような規制の実効を図るためには、高齢者や障害者の権利を確立する法整備とともに、高齢者・障害者の権利のためのネットワークの整備・充実も併せて行われなければならない。


さらに、市場を適切に機能させるための規制も整備が必要である。市場を歪める取引の温床となっている不招請勧誘を禁止すること、説明義務等の情報提供義務の実効ある整備、適合性の原則の徹底等が求められる。


(2) 消費者庁・消費者委員会を中心とした消費者行政の充実(行政)

(1)消費者庁・消費者委員会の充実


真に、生産者・事業者の視点を中心とした社会から、消費者の視点を中心とした社会への転換を図っていくためには、消費者庁・消費者委員会の活動の充実を図っていく必要がある。


安全で公正な社会のためのルールを整備していくためには、消費者庁・消費者委員会が、各分野において積極的な提言を行い、消費者のためのルールの整備を具体的に進めていく必要がある。消費者庁・消費者委員会の発足は、安全で公正な社会のためのルールを構築していく画期とすべきものである。


消費者庁・消費者委員会が事故に適切に対応するためには、各省庁の連携が不可欠であり、事故情報伝達の体制を含め、連携強化のための体制を充実すべきである。消費者安全法の対象となる「消費者事故等」については、取引事例についても広く対応をすることができるように、適用範囲を拡大すべきである。


さらに、消費者行政の充実を図っていくためには、消費者団体や消費者被害救済に取り組む実務家・研究者の参加を確保するなど、消費者団体や実務家・研究者との連携を強化していく必要がある。消費者庁・消費者委員会はもちろんのこと、食品安全委員会や厚生労働省薬害肝炎検証再発防止委員会第一次提言が創設を求めている薬事行政を監視・評価する第三者機関などの機関においても、消費者代表の委員の積極的な参加を得るべきである。


(2)地方消費者行政の充実


地方消費者行政の充実を図るにあたっては、人的基盤・財政的基盤を継続的に確保できるよう整備が必要である。平成20年度地方消費者行政活性化交付金等の財政措置により、向こう3年間は消費者行政充実のための予算が確保されているが、それ以降の財政措置については検討課題として残されている。


また、地方においては、地方消費者政策への政策提言や消費者被害防止や消費者関連情報伝達のための、地域ネットワークの構築が必要である。様々な機関や諸団体との連携のもとで、このような地域ネットワークの構築が期待される。


(3)被害救済制度の充実(司法)

商品やサービスの多様化や規制緩和と相まって、消費者関連事件が増えており、迅速かつ適切な被害救済の制度が必要とされている。これまで司法改革や消費者関連法制の整備の中で、消費者団体訴訟制度の導入などを含め一定の制度改革が行われてきたが、裁判をはじめとする被害救済制度は、未だに、立証責任の負担や、解決までに相当程度の時間を要するなど、消費者にとって十分なものとなっておらず、消費者が容易に利用・参加できる制度となっていない。


そこで、以下の制度改革を行うべきである。


(1)これまでつくられてきた様々なルールに適切な民事効果を付して、被害救済の手段を充実すること。
(2)消費者にとって立証責任の負担が重いことから、様々な分野で立証責任の転換を図ること。
(3)証拠開示制度の導入。
(4)懲罰的賠償制度を設けること。
(5)適格消費者団体による集団的損害賠償制度を設けること。
(6)行政が消費者にかわって訴訟を提起する制度の創設。
(7)違法収益を剥奪する制度の創設。


6.消費者が力をつけていくために

(1) 消費者団体への支援等

消費者団体には、(1)消費者被害の救済、(2)消費者相談、(3)消費に関する情報の提供、(4)消費者教育、(5)政策や価値観の提言、(6)事業者や行政の監視、(7)事業者啓発、(8)事業者・行政との協働等、様々な役割が期待される。特に、今後は消費者庁・消費者委員会への参加と監視、及び、地域ネットワークの構築による地方消費者行政の充実化等の活動が期待されるとともに、適格消費者団体においては、契約の適正化についての活躍が期待される。


しかし、わが国の消費者団体の人的・財政的基盤は、海外の消費者団体に比しても必ずしも十分な状況にはない。消費者団体の前記の諸活動は、民間の団体が行うものではあるが、公共的な意義を有するものである。また、消費者への情報提供や消費者教育、市場や社会の改善の提言など多様な役割を消費者に身近な立場で行っていく消費者団体は、消費者が市場や社会の改善に積極的役割を果たしていくにあたって、必要不可欠の存在であるといえる。したがって、消費者団体の活動の充実のために、今後、税制における優遇措置や国や地方公共団体による財政支援の制度を整備すべきである。


また、今後、消費者団体が期待される役割を十分に果たしていくためには、財政支援にとどまらず、消費者団体と弁護士を含む実務家・研究者等専門家との連携も重要になってくると考えられる。したがって、消費者団体と専門家の連携を促進する施策を、消費者庁及び自治体において進めるべきである。当然、その前提として、地域ネットワークへの参加等、弁護士会等専門家団体による意識的・積極的な協力も必要である。


(2) 消費者教育

消費者とは市民を消費生活の面から捉えたものであり、消費者教育とは、市民に対して消費生活に関する教育を行うことである。消費が生活の中で営まれ、また、商品・サービスが社会的な仕組みの中で生産・供給されていること、また、今日消費行動が社会的な影響力を持ち得るものとなっていることに鑑みれば、消費者教育は、このような社会の中における消費のあり方について考え、かつ、一人ひとりの消費者が表面的な情報・宣伝に流されることなく、批判的な精神をもって消費者としての行動をとることを可能にするものである必要がある。


北欧の消費者教育では、市民が批判的な精神をもって消費行動をとることができるように、単なる知識の習得でない、体系的な教育が行われている。わが国においても、このような取組に学び、消費者教育の充実を図っていくべきである。


消費者教育の充実は、消費者の権利の実現として意義を持つとともに、消費者教育により知見や批判する力をつけた消費者が、消費行動を通じて市場の改善や企業の支援に寄与する条件を提供するものであり、さらには、消費行動や社会的活動を通じた社会の改善の条件を提供する可能性を持つものである。


(3) 消費者への情報提供

消費者教育と並んで、消費者に対する情報提供が適切に行われることは、極めて重要である。消費者に対する情報提供が適切に行われなければ、消費者は適切な消費行動を行うことができず、その結果、消費者自身の消費が妨げられるばかりか、市場が信頼を失い、あるいは不誠実な事業者が利得を得て、誠実な事業者が不利益を被るなど、市場や社会全体にも悪影響を及ぼすことが懸念される。したがって、まずは、事業者及び行政から消費者へ正確かつ理解しやすい形で情報が提供されること、そのための基盤の確立が必要である。


消費者への情報提供については、提供される情報の分析や伝達も重要である。この点、消費者団体の役割や専門家との連携、地域ネットワークの役割が期待されるところであり、この観点からも消費者団体への支援や地方消費者行政の充実が求められる。


(4) 市場や社会を改善する消費者行動

消費者教育が充実し、消費や事業者・生産者に関する情報が適切に提供されれば、消費者が、消費行動や社会的活動を通じて、市場や社会に影響を及ぼす可能性が高まる。教育の普及や表現の自由の保障により市民の政治的な意識が高まっていったように、市民の消費者としての意識が高まり、様々な消費行動や社会的活動が取り組まれることが期待される。


例えば、消費者が環境に配慮して消費行動を行うことにより、環境の保全に寄与することが期待される。また、人権や労働者の権利を顧みない企業に対する消費を忌避し、このような問題に配慮のある企業を選択することにより、人権や労働者の権利の保障に影響力を及ぼすことも考えられる。社会的責任投資、フェアトレード、環境配慮型消費行動は、消費者にそのような影響力行使のための選択肢を提供するものである。


また、消費者や消費者団体が、ボランティア、地域活動等や政策形成過程への参加等の社会的活動を通じて、市場や社会の改善に寄与していくことも期待される。この間、当連合会が消費者団体や市民団体とともに取り組んできた、貸金業法改正、特定商取引法・割賦販売法改正、消費者行政一元化等の取組は、このような社会的活動の重要な経験である。


このような消費行動や社会的活動は、消費者や消費者団体において様々な情報交換・意見交換が行われ、個々の消費者や消費者団体が多様な選択肢の中で、自ら選択することによって実現される。


消費者団体への支援、消費者教育の充実、消費者への適切な情報提供は、このような消費行動や社会的活動の条件整備としての意義を有する。


7 安全で公正な社会をめざして

安全で公正な社会の実現のためには、消費者の権利を実現するための規制や制度の充実と、消費者及び消費者団体の意見が社会に反映される環境の整備が必要である。


そのためには、まず、消費者庁と消費者委員会による積極的取組が必要であり、消費者及び消費者団体等による消費者庁と消費者委員会への参加と監視が決定的に重要である。並行して、消費者団体への助成や専門家との連携の促進、地域ネットワークの構築、消費者教育の充実などによる基盤づくりが必要である。


当連合会は、このような取組を積極的に行っていく決意を宣言するとともに、消費者団体や消費者の皆さんにも、このような取組への参加を呼びかけることにより、安全で公正な社会を実現したいと考える。


消費生活について安全と公正が確保されている社会。消費者が、適切に消費行動を行ったり、あるいは社会的活動を行うことにより、誠実な事業者・生産者を支援し、また、事業者・生産者の質の向上、市場や社会の改善を図っていくことができる社会。


消費者の生命・身体や重要な財産へ危険を及ぼす商品・サービスを市場に出さないための規制、市場で解決できない問題についての規制、市場が適切に機能するための規制が的確に行われている社会。


そして、社会には多様な消費者が存在し、多くの消費者が消費者教育により、批判的な精神をもって消費行動や、社会的活動を行うことができる社会。他方で、知見や情報に乏しい消費者、被害にあった消費者、貧困者などの社会的弱者を決して切り捨てない社会。消費者をつなぎ支える消費者団体と専門家を含めたネットワークがつくられている社会。


このような「消費者市民社会」の確立をめざして、宣言の提案を行う。


以上