全面的な国選付添人制度の実現を求める決議

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弁護士付添人は、少年審判において、非行事実の認定や保護処分の必要性の判断が適正に行われるよう、少年の立場から手続に関与し、家庭や学校・職場等少年を取りまく環境の調整を行い、少年の立ち直りを支援する活動を行っている。少年たちの多くは、家庭で虐待を受け、あるいは、学校で疎外されるなど、どこにも居場所がなく、信頼できる大人に出会えないまま、非行に至っている。少年審判において、そのような少年を受容・理解した上で、少年に対して法的・社会的な援助をし、少年の成長・発達を支援する弁護士付添人の存在は、少年の更生にとって極めて重要である。しかし、非行を犯したとして家庭裁判所の審判に付される少年のうち観護措置決定により身体拘束される少年は、2005年では、年間15,476人に上るのに対し、弁護士である付添人が選任されたのは、約28%の4,358人に過ぎず、現在の付添人選任率はあまりにも低いと言わざるを得ない。


当連合会は、少年保護事件付添扶助制度の全国実施への働きかけや同制度に対する当番弁護士等緊急財政基金からの補助金の支出を実施するなど、長年にわたり、弁護士付添人の重要性を訴え、その拡充へ向けて努力を続けてきた。さらに、2001年2月に福岡県弁護士会が身体拘束された少年について「全件付添人制度」を導入したことを皮切りに、全国の弁護士会で、当番付添人制度を開始した結果、1980年代には1,500名程度で推移した弁護士付添人数が2005年には約3倍にまで増加した。しかし、なお、前述のとおり、付添人選任率は低率にとどまっている。


当連合会は、少年の付添人選任権を実質的に保障するために、資力のない少年に対する国選付添人制度が不可欠であり、これを観護措置決定により身体拘束された少年に対して保障すべきであると主張してきた。本年の通常国会で成立した「改正」少年法において、非行事実の争いとは無関係に国選付添人制度が導入されたことは、その成果であると高く評価できるものである。


しかし、なお、その対象事件は一定の重大事件に限定されており、成人の刑事裁判では、通常の事件についても国選弁護人が付されていることと対比すれば、その差は歴然としている。とりわけ、2009年には、被疑者国選弁護制度の対象事件が、いわゆる必要的弁護事件にまで拡大されるが、現状のままでは、被疑者段階の少年に国選弁護人が選任されながら、その大半が、家裁送致後には国選付添人が選任されないこととなってしまう。


したがって、このような事態を回避するためには、国選付添人の対象事件を、少なくとも観護措置決定により身体拘束された必要的弁護事件にまで拡大することが必要であるし、さらに、少年事件における弁護士付添人の役割の重要性に鑑みれば、観護措置決定により身体拘束された全ての事件にまで拡大した全面的な国選付添人制度の実現が必要である。そして、その実現までの間、被疑者段階と同様に、家裁送致後にも、弁護士の援助が受けられるよう、弁護士の対応態勢を強化するとともに、これを支える少年保護事件付添援助事業を拡充することが必要である。


 このため、当連合会は、次のような取り組みを推進する。


  1. 国に対し、国選付添人制度の対象事件を、速やかに、少なくとも、観護措置決定により身体拘束された少年については、全ての必要的弁護事件にまで拡大させるように求めるとともに、さらに、観護措置決定により身体拘束された全ての事件にまで拡充した全面的国選付添人制度の実現を求める。
  2. 全面的国選付添人制度の実現までの間、観護措置決定により身体拘束された少年が弁護士の援助を受けることを可能にするため、全弁護士会で、当番付添人制度を導入し、さらにその拡充に努力するよう働きかけるとともに、少年保護事件付添援助事業を拡充するよう努力する。
  3. 全面的国選付添人制度実現の不可欠の要件である弁護士の対応能力を確保するため、多様な研修を実施する等の取り組みを行い、また、弁護士会での実施を要請する。
  4. 全面的国選付添人制度の実現について、国民の広い支持を得るため、弁護士付添人の重要性を訴える活動を強化する。


以上のとおり、決議する。


2007年(平成19年)11月2日
日本弁護士連合会


提案理由

1.少年法10条は、少年審判手続において、少年及び保護者は、付添人を選任することができることを規定する。少年は、成人に比べて防御能力が乏しい上、少年審判手続においては、刑事裁判に比して手続が弾力的でかつ裁判官の裁量が大きいので、適正手続を確保し、より少年の福祉を図るためには弁護士である付添人は不可欠である。それに加えて、少年の健全育成を期する少年審判手続において、家庭や学校・職場等少年を取りまく環境の調整を行い、少年の立ち直りを援助する者としても、弁護士付添人の役割は重要である。


少年たちの多くは、家庭で虐待を受け、あるいは、学校で疎外されるなど、どこにも居場所がなく、信頼できる大人に出会えないまま、非行に至っている。たとえば、少年院入院少年に対するアンケート調査により約半数が被虐待経験があるとの報告がなされており(法務総合研究所研究部報告11「児童虐待に関する研究(第1報告)」〔2001年〕参照)、また、児童自立支援施設入所児童についても、同じく約半数が被虐待経験ありとの報告がなされている(国立武蔵野学院「児童自立支援施設の入所児童の被虐待体験に関する研究」〔2000年3月〕参照)。さらに、当連合会が2001年に実施した調査においても、被虐待経験や学校生活への不適応、また、少年時の疎外体験が非行につながっているとの報告がなされている(日本弁護士連合会「検証少年犯罪」〔2002年7月〕参照)。少年審判において、そのような少年を受容・理解した上で、少年に対して法的・社会的援助をし、少年の成長・発達を支援する弁護士付添人の存在は、少年の更生にとって極めて重要である。


子どもの権利条約は、「自由を奪われたすべての児童は、弁護人その他適当な援助を行う者と速やかに接触する権利を有」する(37条(d))、「刑法を犯したと申し立てられ又は訴追されたすべての児童は」、「防御の準備及び申立てにおいて弁護人その他適当な援助を行う者を持つこと」、「法律に基づく公正な審理において、弁護人その他適当な援助を行う者の立会い・・・・の下に遅滞なく決定されること」について保障を受ける(40条2項(b)(ⅱ)(ⅲ))と規定している。特に、同条約原文では、40条2項が、「弁護人その他適当な援助を行う者」を"legal or other appropriate assistance"と規定しているのに対し、37条(d)は、"legal and other appropriate assistance"と規定していることから、少なくとも「自由を奪われた児童」すなわち身体拘束された少年に対しては,弁護士の援助を受ける権利が保障されていると解される。また,憲法31条,34条,37条3項の趣旨からも,少年に弁護士付添人の選任権を実質的に保障することは極めて重要である。


2.当連合会は、この間、付添人活動の拡充に全力を傾注してきた。


  1. 1975年に設置された少年法「改正」対策本部(1992年に「子どもの権利委員会」に改称)は、少年法「改正」法案への対応という当初の目的を超えて、具体的な付添人活動の拡充の必要性を訴え、実際に、少年えん罪事件や重大な少年事件の付添人活動は大きな成果を上げてきた。
    1991年には、付添人活動の経験を交流し合い、全国の弁護士の付添人活動の質と量の両面にわたる拡充を目的として、第1回全国付添人経験交流集会を開催したが、その後、全国各地を会場として毎年1回開催するようになり、すでに17回に及び、その参加者は、年々増加している。
  2. この間の弁護士付添人選任数の増加は、少年保護事件付添扶助事業(以下「付添扶助事業」という)の拡充の歴史を抜きには語れない。
    付添扶助事業は、少年保護事件として家庭裁判所で審判を受ける少年に対して弁護士による付添人費用を援助する制度であるが、最高裁の要請を受け、1973年から財団法人法律扶助協会の事業として開始された。当初は、法律扶助協会東京都支部と愛知県支部の2支部で実施されたのみであったが、当連合会は、子どもの権利委員会を中心に、同制度を全国で実施するように働きかけ、1996年度には全国実施に至った。
    この間、弁護士付添人を選任した少年の数は、1985年には、1,565人であったが、1995年には、35%増加して2,116人になっている。
    1995年に、全国の会員が特別会費を拠出することとして当番弁護士等緊急財政基金が創設され、同基金から付添人扶助事業の補助金が出されることにより、同事業の財源が確保され、扶助付添人数は急増した。その結果、弁護士付添人選任数は、2000年には、3,580人となり、5年間で、69%増加している。
  3. さらに、2001年2月には、福岡県弁護士会が、身体拘束された少年の全てに原則として弁護士付添人を付することを目指し、「全件付添人制度」を導入した。これは、弁護士会と家庭裁判所と協議の上、家庭裁判所が観護措置決定をする際に、少年に対し、弁護士が1回無料で面会できることを説明し、少年が希望する場合には弁護士会に連絡して、待機していた弁護士が少年と面会し、弁護士付添人の役割及び扶助付添人制度を説明した上、付添人選任を受ける制度であって、この制度導入を契機に、福岡県での扶助付添人選任件数は3倍にも増大し、2004年に観護措置決定を受けた少年に対する弁護士付添人選任率は約75%に至っている。
    この福岡県弁護士会の取り組みを受け、東京三会が2004年10月から、観護措置決定を受けた少年全件を対象にする当番付添人制度を開始したのを始め、全国の弁護士会でも、一定の要件の限定を付しながらも、観護措置決定を受けた少年に対する当番付添人制度の導入が拡がりつつある(2007年9月現在で38単位会)。その他、当番付添人制度以外にも、各単位会で工夫して、弁護士付添人の選任数を増加させるための取り組みを行っている。
    このような活動の結果、弁護士付添人の選任数は、2005年には4,358人にまで増加しており、1985年当時の3倍にまでなっている。
  4. 付添扶助事業については、財団法人法律扶助協会の解散に伴い、本年4月から、当連合会が実施する法律援助事業の一つとして引き継ぎ、さらに、本年10月から日本司法支援センターに対する委託事業として実施したところであり、付添人の弁護士費用を援助することによって、少年の弁護士の援助を受ける権利を保障していくために不可欠の制度となっている。

3.全面的な国選付添人制度の実施の必要性


  1. このように、弁護士付添人選任数は増加してきたものの、2005年に観護措置決定がなされた少年の数は15,476人(交通関係事件を除く)であるから、約4分の3の少年は、弁護士付添人の援助を受けられていないという現状にある。
    当連合会は、長年にわたり、適正手続保障の要として、国選付添人制度の導入を主張してきた。「成人なみの保障」を考えれば、身体拘束の有無を問わず国選付添人制度は必要であるが、少なくとも身体拘束された少年に対しては、速やかな国選付添人制度の導入が必要である。
    当連合会が、1984年3月に発表した「少年法『改正』答申に関する意見」においては、身体拘束を伴う事件等を必要的付添人事件とした上で、これらを対象に国選付添人制度を創設すべきことを提案した。
    また、1998年7月に発表した「少年司法改革に関する意見書」においても、「国選の弁護士付添人制度、必要的弁護士付添人制度の実現と付添人の権限強化を、少年の適正手続保障の軸とすべきである」として、被疑者国選弁護制度の発足、適用範囲の段階的拡張と連動させ、少なくとも少年被疑者に国選弁護人がついた事案は全て当該弁護人が当然に国選付添人となり、それ以外の事案でも観護措置決定時に少年の請求又は職権で国選付添人を選任する制度を実現すべきであると提案した。
    そもそも、上述のような福岡県での「全件付添人制度」の実施は、国選付添人制度の実現を求めるために、弁護士の対応能力を拡充し、その必要性について理解を得るための取り組みであった。
  2. 2000年の少年法「改正」において、少年審判に検察官が関与する決定がなされた場合で、弁護士付添人がないときに国選付添人を選任するという極めて限定的な国選付添人制度が導入されたが、本格的な国選付添人制度と言えるものではない。ちなみに5年間で25人の少年に選任されているに過ぎない。
    これに対して、2001年6月の司法制度改革審議会意見書では、2000年「改正」により導入された国選付添人制度以外についても、「少年事件の特殊性や公的弁護制度の対象に少年の被疑者をも含める場合のバランスなどを考慮すると、積極的な検討が必要だと考えられる」とされた。
    これを受けて、司法制度改革推進本部公的弁護制度検討会において、被疑者国選制度の導入と合わせて、公的付添人制度の導入が議論され、引き続き、2004年2月から12月にわたり、法曹三者による公的付添人制度に関する意見交換会において、公的付添人制度の導入について議論された。その議論を踏まえて、法務省は、少年法「改正」要綱について議論していた法制審議会少年法部会に対して、国選付添人制度の導入を提案した。その内容は、「重大事件については、少年院送致や刑事処分を前提とする検察官送致の決定がなされることが予想されるとともに、社会的影響の大きいことから、より適切な処遇選択が要請されるところ、そのためには、法律の専門家である弁護士付添人を付して、少年の行状や環境等に関する資料の収集や環境調整のために積極的に活動してもらうことが適当な場合があり、その要請は、少年の身柄が拘束されている場合には、より高いということができる」として、重大事件について観護措置決定がなされている場合に、家庭裁判所が職権で付添人を付するというものであり、この提案は、法制審議会総会での議論を経て、少年法「改正」法案に盛り込まれた。
  3. 少年法「改正」法案は、当初、2005年通常国会に提出され、2007年通常国会において成立した。
    その内容は、対象事件を「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪」または短期2年以上の懲役・禁錮に当たる罪に限定した上、観護措置決定がなされた場合に、裁判所が必要と認めた場合に国選付添人を付するものとされている。この制度の導入は、これまで国選付添人制度の実現を求めてきた当連合会の運動の成果と評価できるものであるが、なお、裁判所の裁量に委ねられているところは不十分であり、対象事件の拡大が必要である。
    2006年10月から実施された被疑者国選弁護制度は、その対象事件が短期1年以上の懲役・禁錮に当たる罪とされており、国選付添制度との差異は、それほど大きくはないが、2009年からは、その対象事件が長期3年を超える懲役・禁錮に当たる罪(いわゆる必要的弁護事件)に拡大され、国選弁護人が選任される少年被疑者の数の急増が予測され、家裁送致後はこれに対応する国選付添人制度が存在しない事件が大幅に増大する。
    しかし、少年被疑者の弁護人の活動は、家裁送致後の審理期間が通常4週間と短期間であることから、単に捜査機関に対する防御のみではなく、審判を見通しての環境整備や示談交渉等にまで及ぶことが求められているのであり、家裁送致後付添人として活動しないとすれば、責任を持った被疑者弁護活動すらできないことになる。そのため、被疑者国選弁護人に選任された弁護士は、家裁送致後も付添人として活動することが求められている。
  4. したがって、国選付添人制度の対象事件を、できる限り速やかに、観護措置決定を受けた事件全件に、あるいは、少なくとも被疑者国選制度と同一になるよう拡大した全面的国選付添人制度の実現が求められている。
    そのために、弁護士付添人の重要性、資力のない少年に対しては国費で弁護士付添人を付することの必要性を、広く国民に訴えるための活動を強化し、国に対してその実現を働きかけていくことが必要である。

4.全面的な国選付添人制度実現までの取り組み


以上のように、身体拘束を受けた少年に対する全面的な国選付添人制度の実現を求める運動を進めるとしても、当面は、被疑者国選制度との差異が存在することは否定できない。しかし、これを理由として、少年が弁護士付添人による援助を受けることができないという事態は、何としても回避しなければならない。また、家裁送致後も付添人として活動できるような弁護士の対応能力を確保し、活動実績を積み上げることが、全面的な国選付添人制度実現には、不可欠である。
そのために、当連合会としては、次のような取り組みを推進し、あるいは、その推進を弁護士会に要請する必要がある。


  1. 国選付添人制度の対象事件を、速やかに、少なくとも必要的弁護事件に拡大させるよう、国に対して求めるとともに、さらに、観護措置決定により身体拘束がなされた全ての少年の事件にまで拡充した全面的国選付添人制度の実現を目指す。
  2. 全面的国選付添人制度の実現までの間、観護措置決定により身体拘束された全ての少年が弁護士の援助を受けることを可能にするため、全弁護士会で、当番付添人制度を導入し、すでに導入している弁護士会にあってはその拡充に努力するよう働きかける。
  3. 全面的国選付添人制度実現までの間、被疑者段階で国選弁護人となった弁護士が、家裁送致後も引き続き付添人として活動するよう全会員に呼びかける。
  4. 全面的国選付添人制度実現までの間、家裁送致後の付添人費用を援助する制度である少年保護事件付添援助事業を財政的にもより拡充し、被疑者国選弁護制度の対象事件拡大によって予想される事件数増加に対応できるよう努力する。
  5. 全面的国選付添人制度実現の不可欠の要件である弁護士の対応能力を確保するため、多様な研修を実施する等の取り組みを行い、また、弁護士会での実施を要請する。
  6. 全面的国選付添人制度の実現について、国民の広い支持を得るため、弁護士付添人の重要性を訴える広報活動等を強化する。

以上の理由から、本決議を提案するものである。