死刑執行停止法の制定、死刑制度に関する情報の公開及び死刑問題調査会の設置を求める決議

死刑が法定刑として規定されている罪に直面している者に対し、そうでない罪の事件で付与される保護に加えて、特別な保護が与えられるべきことは国連総会決議で強く要求されているところである。しかし、わが国の刑事司法制度は、捜査段階、公判段階、刑の確定後、執行段階のいずれにおいても、十分な弁護権、防御権が保障されておらず、国際人権基準に大きく違反している状態にある。4つの死刑確定事件における再審無罪に見られるとおり、死刑判決の誤判が明らかとなっているが、死刑事件についての誤判防止のための制度改革も全くなされていない。死刑と無期の量刑についても、最高裁、高裁、地裁において判断の分かれる事例が相次ぎ、死刑判決への信頼が揺らいでいる。これらの重大な問題点について抜本的な改善がなされない限り、少なくとも死刑の執行は許されない状況にある。


死刑制度そのものについて見れば、死刑を廃止したヨーロッパ諸国をはじめ世界の6割の国と地域が死刑を法律上あるいは事実上廃止し、死刑廃止は国際的な潮流となっており、この流れは、アジアにも及んでいる。かかる状況下において、わが国においても死刑制度の存廃について、早急に広範な議論を行う必要がある。


よって、当連合会は、日本政府及び国会に対し、以下の施策を実行することを求める。


  1. 死刑確定者に対する死刑の執行を停止する旨の時限立法(死刑執行停止法)を制定すること。
  2. 死刑執行の基準、手続、方法など死刑制度に関する情報を広く公開すること。
  3. 死刑制度の問題点の改善と死刑制度の存廃について国民的な議論を行うため、検討機関として、衆参両院に死刑問題に関する調査会を設置すること。

当連合会は、国会議員、マスコミ、市民各層に働きかけ、死刑制度の存廃について広範な議論を行うことを提起する。また、当連合会は、過去の死刑確定事件についての実証的な検証を行い、死刑に直面している者が、手続のあらゆる段階において弁護士の適切にして十分な援助を受けることができるよう、死刑に直面する者の刑事弁護実務のあり方についての検討に直ちに取り組む決意である。


以上のとおり決議する。


2004年(平成16年)10月8日
日本弁護士連合会


提案理由

1 わが国における死刑に関する刑事司法制度の問題点

(1) 概説

わが国では、1980年代に相次いだ4つの死刑確定事件(免田・財田川・松山・島田各事件)についての再審無罪判決により、死刑判決にも誤判があることが明らかになった。わが国の刑事司法制度には、死刑に直面する者(死刑が規定されている罪で捜査の対象とされた被疑者、裁判の対象とされた被告人、死刑確定後執行に至るまでの死刑確定者を含む。)に対する権利保障が、国際人権基準に大きく違反している状態にあること、誤判防止のための制度が欠如していること、死刑の基準が不明確であること、死刑の執行が密行主義であること、死刑確定者が非人道的な処遇の下に置かれていることなどの制度上、運用上の問題点を指摘でき、これらの点について抜本的な改善がなされない限り、死刑の執行はもはや許されない状況にある。


(2) 死刑に直面する者に対する権利保障

「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(以下「国際人権(自由権)規約」という。)6条は、「2 死刑を廃止していない国においては、死刑は、犯罪が行われた時に効力を有しており、かつ、この規約の規定及び集団殺害犯罪の防止及び処罰に関する条約の規定に抵触しない法律により、最も重大な犯罪についてのみ科することができる。この刑罰は、権限のある裁判所が言い渡した確定判決によってのみ執行することができる。」、「4 死刑を言い渡されたいかなる者も、特赦又は減刑を求める権利を有する。死刑に対する大赦、特赦又は減刑は、すべての場合に与えることができる。」、「6 この条のいかなる規定も、この規約の締約国により死刑の廃止を遅らせ又は妨げるために援用されてはならない。」と定めているが、国際人権(自由権)規約委員会は、6条に関する一般的意見6(16)において、以下のように述べている。「本条の文言は(死刑)廃止が望ましいことを強く示唆している(2項及び6項)。」、「独立の裁判所による公正な審理を受ける権利、無罪の推定、防御のための最小限の保障及び上級の裁判所による再審理を受ける権利を含め、規約で定められた手続上の保障は、遵守されなければならない。これらの権利は更に、死刑に対する特赦又は減刑を求める特別の権利にも適用される。」としている。国際人権(自由権)規約14条3項は、すべての者に対して「(b) 防御の準備のために十分な時間及び便益を与えられ並びに自ら選任する弁護人と連絡すること。(d) 自ら出席して裁判を受け及び、直接に又は自ら選任する弁護人を通じて防御すること。弁護人がいない場合には、弁護人を持つ権利を告げられること。司法の利益のために必要な場合には、十分な支払手段を有しないときは自らその費用を負担することなく、弁護人を付されること」を保障している。


また「死刑に直面する者の権利の保護の保障に関する決議」(1984年(昭和59年)5月25日国連経済社会理事会決議)は、「死刑が適用される犯罪で嫌疑をかけられあるいは起訴された者に、すべての段階において適切な弁護人の援助を受ける権利を含む、少なくとも市民的及び政治的権利に関する国際規約14条に定めるのと同等の、あらゆる保障を与え」なければならないと定めている(付属文書5)。


さらに、「死刑に直面している者の権利の保護の保障の履行に関する国連決議」(1989年(平成元年)第44回国連総会で決議)は、「死刑が規定されている罪に直面している者に対し、死刑相当でない事件に与えられる保護に加えて、手続のあらゆる段階において弁護士の適切な援助を受けることを含む弁護を準備する時間と便益を与えることによって特別な保護を与えること」を要求している(総会決議1a)。


ところが、わが国では、捜査段階において、ようやく公的弁護制度が実施される見通しではあるものの、私選弁護人が選任されている場合でも、刑事訴訟法(以下「刑訴法」という。)39条3項の接見指定、代用監獄により、弁護人との自由にして十分な接見が保障されていないのが現実である。また公判段階においては、起訴後国選弁護人が選任されるまでの間、また控訴後、控訴審における国選弁護人が選任されるまでの間、いずれも弁護人が選任されない空白の状態が生じる。そのため、死刑相当事件で、控訴後国選弁護人が選任されるまでの間に控訴の取下げがなされ、死刑判決が確定し、執行されるという事例も発生している。さらに、刑の確定後において刑訴法30条1項は、被疑者・被告人の弁護人選任権しか規定しておらず、刑確定後に弁護人の援助を受ける機会は全く保障されていないことになる。監獄法も弁護人の選任に関する制度を設けていない。また、再審請求に関して弁護人の弁護を受ける機会についても保障されていない。刑訴法36条は、被告人以外の者に国選弁護を受ける機会を保障しておらず、このため資力のない者は再審請求において弁護士の援助を受けることが極めて困難な状態に置かれている。さらに、刑訴法39条1項は、被疑者・被告人にしか弁護人との秘密交通権を保障しておらず、死刑確定者と弁護人との間の秘密交通権は保障されていない。しかも現実には、死刑確定者は、面会・通信の外部交通が極めて制限されているため、再審請求に関しての弁護人とのアクセスの機会が奪われている。刑の執行段階において、刑訴法476条は、死刑の執行命令後5日以内に執行することを規定しているが、執行命令に対する防御の機会を保障しておらず、しかも事前告知の制度が設けられていないため、現実には、執行の当日刑場に引致される際に初めて刑の執行を告知されているのが実情であって、執行に対する防御を準備する機会を完全に奪われている。


このようにわが国の刑事司法制度は、捜査段階、公判段階、刑の確定後、執行段階のいずれにおいても、十分な弁護権、防御権が保障されておらず、国際人権基準に大きく違反している状態にある。


(3) 構造的な誤判の危険性

裁判制度には誤判の可能性は避け難いが、わが国の刑事司法制度とその運用は、構造的に誤判の危険性を孕んでいる。すなわち、現在、司法制度改革により被疑者段階での公的弁護制度が実施される見通しではあるものの、被告人の防御権を保障した刑事手続の確立や取調べ過程の可視化(録画・録音)の実現や人質司法の廃止は今後の課題にとどまっている。捜査機関による代用監獄における自白の強要、裁判官の捜査機関に対する過度の信頼と被告人に対する強い不信を背景とした自白偏重の裁判・検察官寄りの訴訟指揮、検察官手持証拠の不開示、誤った鑑定の存在、再審の困難さなどについて、抜本的な改善はなされていない。また、死刑宣告に際しての裁判官の全員一致制や死刑判決に対する自動的上訴制度はなく、恩赦、再審制度も不十分である。


(4) 死刑の基準の不存在

死刑と無期の量刑の運用については、客観的な基準がなく、裁判官の世界観など主観的側面に左右されており、著しく不公平な結果となっている。例えば、老女強盗殺人事件においては、地裁、高裁の判決は無期であったが、最高裁は1999年(平成11年)12月10日、原判決を破棄し高裁へ差し戻し、高裁は2004年(平成16年)4月23日、死刑を言い渡した。また、地下鉄サリン事件の関係では、実行犯ではない被告人について、東京地裁が無期を言い渡したにもかかわらず、東京高裁は2004年(平成16年)5月28日原判決を破棄し、死刑を言い渡した。他方、検察官は、自らまいたサリンによって2名を殺害し、共謀共同正犯として合計12名を殺害したとされる実行犯の被告人に対し、無期を求刑し、同人に対しては、1998年(平成10年)5月26日、東京地裁が無期を言い渡し、この判決は確定している。このように死刑についての明確な基準は存在しておらず、量刑についての誤判も数多く存在する。


(5) 密行主義など

現状では死刑執行について、死刑確定者に執行が知らされるのは、執行当日の朝ということがほぼ定着し、死刑執行前には一般社会への情報提供がないだけでなく、死刑確定者の家族や何らかの法的手続を準備している代理人弁護士にも知らされることはない。死刑確定者に対して執行を決定するにあたり、誰がいつどのような基準でいかなる記録・資料(公判記録、心身の状態など)をもとに判断するのか、執行方法は具体的にどのようなものであるのか(執行担当者の職務・心情、執行される者の心身の状況・苦痛・遺体の状態なども含む)、死刑判決確定から執行までどのような処遇がなされ死刑確定者においてどのような心情が形成されるのか、死刑判決確定後の被害者遺族の生活・心情はどうなっているのかなど重要な情報はほとんど提供されていない。


また、死刑確定者は非人道的な処遇の下に置かれている。


(6) わが国に対する勧告など

このようにわが国の死刑に関する刑事司法制度には、制度上、運用上、多くの問題点があり、これらの点について抜本的な改善がなされない限り、少なくとも死刑の執行はもはや許されない状況にある。


現に日本政府の第4回報告書を審査した国際人権(自由権)規約委員会は、1998年(平成10年)、「日本が死刑の廃止に向けた措置を講ずること、及び、それまでの間その刑罰は、規約第6条2に従い、最も重大な犯罪に限定されるべきことを勧告する。」、また、「死刑確定者の拘禁状態について、引き続き深刻な懸念を有する。特に、委員会は、面会及び通信の不当な制限並びに死刑確定者の家族及び弁護士に執行の通知を行わないことは、規約に適合しないと認める。委員会は、死刑確定者の拘禁状態が、規約第7条、第10条1に従い、人道的なものとされることを勧告する。」と述べている。


また欧州評議会議員会議は、2001年(平成13年)6月、わが国及びアメリカに対して死刑廃止を求め、重要な進展が見られない場合は、両国の欧州評議会のオブザーバー資格を問題にする旨の決議を採択した。


2 死刑廃止へと向かう国際的潮流と日本国内の状況の乖離

(1) 国際的な潮流

1989年(平成元年)に国連で国際人権(自由権)規約第二選択議定書(いわゆる死刑廃止条約)が採択された後、1990年(平成2年)当時では、死刑存置96カ国、法律上ないし事実上の死刑廃止80の国と地域であったのに対し、2004年(平成16年)3月現在では、死刑存置78カ国、法律上ないし事実上の死刑廃止117の国と地域と大きく逆転しており、死刑廃止が国際的な潮流となっている。


(2) ヨーロッパの状況

ヨーロッパでは、1985年(昭和60年)に、欧州評議会において、平時における死刑廃止を定めたヨーロッパ人権条約第6議定書が発効し、さらに2002年(平成14年)2月には戦時を含むあらゆる場面における死刑の廃止を定める第13議定書が採択された。現在、欧州評議会の44加盟国においては、死刑が行われていない。ロシアも、1997年(平成9年)には第6議定書に署名し、未だ批准はしていないものの、事実上執行を停止している。トルコにおいても、2002年(平成14年)8月には死刑廃止を盛り込んだ法案が可決され、死刑を廃止した。


(3) 米国の状況

米国では、50州のうち12州と1特別区が死刑を廃止しており、連邦および軍刑法並びに38の州において死刑が存置されている。しかし、最近、米国でも死刑制度の存廃をめぐる議論が高まっており、2001年(平成13年)には、連邦議会(上下院とも)に死刑執行停止法案が上程され、現在も審議中である。アメリカ法曹協会(ABA)は、1997年(平成9年)2月、死刑執行停止決議を採択し、死刑の制度的欠陥が除去されるまでの間、全死刑存置地域において死刑執行が停止されるよう求めている。また過去の死刑事件についての実証的な検証作業が行われ(イノセンス・プロジェクト)、多くの冤罪が明らかとなり、死刑存置州であるイリノイ州においては、2003年(平成15年)1月、拷問によって強要された自白が有罪の根拠となっていたとして4名の死刑確定者について特赦し、さらに残りの死刑確定者167名を一挙に減刑し、3人は有期刑、164名は仮釈放のない終身刑となった。


(4) アジアの状況

アジアでは、カンボジア、ネパール、東チモールが全面的に死刑を廃止しているほか、韓国では1998年(平成10年)以降、死刑の執行が停止されており、台湾においても、法務大臣によって、死刑を廃止する計画が発表されている。このように、アジアへも死刑廃止の潮流が及んでいる。


(5) 日本国内の状況

死刑廃止条約は、1989年(平成元年)12月、国連総会において賛成59、反対26、棄権48票で可決されたが、日本政府は「死刑廃止の問題は、各国がその国民感情、犯罪態様等を考慮しつつ慎重に検討されるべきである」として反対した。政府は、世論の大多数が死刑存置を支持していることなどを理由に死刑を廃止できないとしているが、上述した刑事司法制度の問題点は、何ら明らかにされていない。また、死刑制度を議論する前提として、「死刑に代わる最高刑」についての調査研究及び具体的な提言が急務であるが、十分に納得のできる死刑に代わる最高刑の提起を伴って死刑制度を議論すれば、死刑についての意識も変わりうると考えられる。


1994年(平成6年)4月、超党派の国会議員による「死刑廃止を推進する議員連盟」が結成され、活動を継続している。


3 日本弁護士連合会の死刑問題についてのこれまでの取り組み

(1) 死刑執行停止を求める談話等

わが国では、4つの死刑確定事件について、再審による無罪判決がなされ、そのような中、日本政府は1989年(平成元年)11月の死刑執行の後、3年4カ月の期間、事実上死刑の執行を停止した。しかし、この状態を打ち破ったのが、1993年(平成5年)3月26日の後藤田法相(当時)による3名の執行再開であった。以後、毎年、死刑執行が行われている。当連合会は、死刑が執行されるつど、11年間で合計13回、当時の法務大臣に対し、死刑の執行を停止するよう声明ないし談話を表明してきたが、死刑の執行は繰り返されてきた。


この間、当連合会は、1997年(平成9年)11月19日には、人権救済申立に関連し、上記の国際人権(自由権)規約及び国連決議によって保障されるべき権利保障が不十分なまま死刑の執行をされた者及び、執行されていない50名の死刑確定者について、「これらの国際人権(自由権)規約及び国連決議に違反する状態に置かれているものと認めることができる。」とし、「日本政府は、死刑に直面する者に対する国際人権(自由権)規約及び国連決議に従い、死刑に直面する者に対する権利保障に関する立法の整備をはかり、死刑に関する情報公開をはかるなど、死刑に直面する者に対する権利保障のための対策をすみやかに講じるとともに、少なくとも、それまでの間は、死刑確定者が国際人権(自由権)規約及び国連決議に違反する状態に置かれていることにかんがみ、死刑の執行は差し控えるべきである。」旨総理大臣あて要望した。しかし、これに対し、何ら改善は行われなかった。


(2) 死刑制度問題に関する提言

2002(平成14)年11月22日、当連合会は、長年にわたる会内論議を経て、理事会で下記の「死刑制度問題に関する提言」を採択した。


「死刑制度問題に関する提言」の趣旨は、以下のとおりである。


  1. 当連合会は、死刑制度の存廃につき国民的論議を尽くし、また死刑制度に関する改善を行うまでの一定期間、死刑確定者に対する死刑の執行を停止する旨の時限立法(死刑執行停止法)の制定を提唱する。
  2. 当連合会は、死刑制度に関して、下記の取り組みを推進する。
    1. 死刑に関する刑事司法制度の改善
    2. 死刑存廃論議についての会内論議の活性化と国民的論議の提起
    3. 死刑に関する情報開示の実現
    4. 死刑に代わる最高刑についての提言
    5. 犯罪被害者・遺族に対する支援・被害回復・権利の確立等

4 今後の取り組むべき課題

(1) 政府及び国会に対して求める施策
死刑執行停止法の制定

前記のとおり、死刑に関する刑事司法制度の制度上・運用上の問題点について抜本的な改善がなされない限り、少なくとも死刑の執行はもはや許されない状況にある。また死刑制度の存廃につき広範な論議を尽くすためにも死刑執行停止が必要である。わが国の法務大臣は当連合会会長の度重なる執行停止の要請にもかかわらず執行を停止しておらず、時限立法に基づく執行停止が必要である。


死刑に関する情報の公開

死刑廃止へと向かう国際的な潮流と国内的な状況の乖離を踏まえた上で、わが国においても、死刑制度の存廃について、早急に広範な議論を行う必要がある。そこで議論するための前提として、政府に対し、執行決定の基準、執行決定の理由とその資料、具体的な執行場所の構造・しくみ、具体的執行方法、執行直前から執行終了までの死刑確定者の心身の状況など死刑制度に関する情報を公開することを求める必要がある。


死刑問題調査会の設置

死刑制度の問題点を抜本的に改善し、死刑制度の存廃について広範な議論を行うため、結論を出すための機関として、衆参両院に死刑問題に関する調査会を設置することを、国会に対し求める必要がある。


以上3点は、「死刑制度問題に関する提言」で提案された死刑執行停止法要綱(骨子)案に明示されているものである。


(2) 当連合会の取り組むべき課題
死刑制度の存廃についての広範な議論の提起

当連合会は、国会議員、マスコミ、市民各層に働きかけ、死刑制度の存廃についての広範な議論の提起に、継続して取り組む必要がある。


過去の死刑確定事件の実証的検証と死刑事件弁護の確立

前述したとおり、わが国の死刑に関する刑事司法制度は、防御権・弁護を受ける権利の保障の不十分さと併せて、構造的な誤判の危険性を持っている。また今時の司法制度改革によって、5年以内には、死刑を含む法定合議事件に「裁判員制度」が導入され、被疑者公的弁護制度も実現される見通しである。


当連合会は、捜査や裁判の審理が大きく変わる今こそ、過去の死刑確定事件についての実証的な検証を行い、さらに死刑に直面している者が、手続のあらゆる段階において、弁護士の適切な援助を受けることができるよう、以下に述べるとおり、死刑に直面する者の刑事弁護実務のあり方についての検討に直ちに取り組む必要がある。


  1. 過去のすべての死刑確定事件記録を洗い直し、その問題点を検討すること。
  2. 死刑事件の弁護の充実に向けて、組織的な体制を確立すること。
  3. 死刑事件の弁護の指針を検討し、弁護のありかたの認識を共通にすること。
  4. 死刑確定後の弁護が保障されるよう組織体制を確立すること。

5 犯罪被害者の権利の確立・支援と死刑制度問題

犯罪被害者の権利の確立と支援は、本来国の責務であるにもかかわらず、わが国では、これまで長い間、多くの犯罪被害者が社会的に放置されて孤立し、きわめて深刻な状態に置かれてきた。しかし近時、わが国でも犯罪被害者の権利確立と支援のための取り組みが、遅ればせながら進みつつあり、当連合会においても、昨年、第46回人権擁護大会において、「犯罪被害者の権利の確立とその総合的支援を求める決議」がなされている。また上述した当連合会の「死刑制度問題に関する提言」は「犯罪被害者・遺族に対する支援・被害回復・権利の確立等」を、その取り組みを推進する重要な柱として掲げており、死刑制度問題の観点からも、犯罪被害者の権利の確立は焦眉の問題である。犯罪被害者の権利の確立と死刑の執行停止、死刑制度の見直し、再検討の課題は、相互に理解し、協力すべき課題であると思われる。


死刑制度を考えるとき、犯罪被害者の権利の確立と支援が著しく遅れている現状を看過することはできず、当連合会は、犯罪被害者の権利の確立と支援について、今後も取り組む決意である。


よって、主文のとおり提案する。


以上