日本列島改造計画に伴う国土開発に関する件(第二決議)

政府が現時推進しようとしている日本列島改造計画は、国民福祉の向上と公害なき開発の理念に徹し、広く国民的討議を重ねて策定されるべきであり、これが一二分の検討と国民的同意なくして実行に移される場合においては、公害を日本全土に拡散し、重大なる環境破壊をもたらすは必至である。


よって、国・地方公共団体は、深刻な基地公害を抱える沖縄県の開発についてはもとより、およそ国土の開発にあたっては、計画の策定および実施について、あらかじめ地域住民の完全な理解と同意を得るとともに、地域住民に対し住民参加を基礎とする公害の完全防止を制度的に保障すべきである。


右決議する。


1972年(昭和47年)11月25日
第15回人権擁護大会、於那覇市


理由

  1. 何人も良好な環境の下に自己の生命を全うする基本的権利を有するは、人類普遍の原理であるとともに、良好なる環境を維持向上させることは、将来の世代に対する人類の最大の責任である。このことは、本年6月、スウェーデンの首都ストックホルムにおいて開催された国連人間環境会議において採択された人間環境宣言にも明記されているところである。
  2. しかるにわが国において、昭和30年頃より政府が採用した高度経済成長政策に基づく産業保護と、開発優先の施策とこの施策を最大限に利用した企業のあくなき利潤追求のための無制限な生産の増大は、全国各地に深刻な公害の発生と自然環境・生活環境の重大なる事ゃかいをもたらして、国民の生命、健康を蝕み、さらには精神的荒廃をもたらし、人間の存在そのものを脅かすに至っている。これが人間生存の基本的権利に対する重大な侵害であることはいうまでもない。
  3. 昭和35年前後より公害問題が次第に広く一般国民の関心を呼び、強い世論が形成されたことにより、公害対策のための諸法令が制定され、政府、地方公共団体が不充分ながらも公害対策を実行し、また、多数の国民が公害企業を厳しく、糾弾しているにもかかわらず、今日の事態は悪化の一途をたどっていると言わざるを得ない。
    このような事態を打開するためにはわれわれは「開発」に対する考え方を根本的に転換する外はない。すなわち第一に開発が当然に周辺の地域を発展させ、住民の生活水準を向上させるという誤った信仰を捨てさせることであり、第二に開発に当ってはその計画の策定、実行、公害の監視に、住民が参加する制度を確立することである。何故なら住民参加の制度こそ効果的な公害対策を立案、実行させる現実的な保障であるからである。
  4. 政府は現在いわゆる日本列島改造計画を策定しつつあるが、現在までにいくつかの省より発表された内容を検討すると、依然として開発優位の思想より脱却しておらず、また、計画の策定および実行に住民を参加させるという姿勢は皆無に等しく、相変わらず政府主導型、住民不在の開発計画といわざるを得ない。
    もしこのような姿勢、考え方で開発が推し進められていったならば、公害を日本全土に拡散させ、四日市をはじめ各地において問題となっているような深刻な公害の発生と、自然環境、生活環境の重大なる破壊をもたらすことは、火を見るよりも明らかである。
    このことは、沖縄においても全く同様である。
    沖縄は、県民の長い間の血の出るような闘いの結果、本土に復帰したが、基地は縮小されないばかりか、かえって強化されようとさえしている。そのため、米空軍機による騒音被害をはじめとする基地公害は依然として解決されないままになっている。
    このような状況の下に沖縄は今や外国資本、本土資本等による大規模な企業立地と観光開発が地域住民の意思に関係なく推し進められている。
    まさに住民不在の開発優位の思想に基づく政策であって、われわれはこのような開発を許してはならないのである。
  5. われわれは、沖縄においてはもちろん、およそ国土の開発にあたっては、これまでと同じ過ちを繰り返してはならないのである。
    今後、地域開発をなすに当っては、開発に対する考え方を根本的に改め、国民福祉の向上と、公害なき開発の理念に徹し、住民の健康で文化的な環境の確保を最優先とすべきである。
    このためには、開発計画の策定および実施について住民参加の制度を確立することが不可欠の要件である。
    この制度により、われわれはかいはつにつき広く国民的討議を巻きおこし、計画の内容に公害のない開発、国民福祉優先の理念を十二分に織り込ませることができるし、また、開発について地域住民の意思を充分に確認し、同時に国、地方公共団体、企業の発生しないことを保障させ、また計画が実施された場合における公害の予防・排除のための住民の監視体制を作ることが可能となり、ここにはじめて開発は真の意味において地域住民のためのものとなるのである。
    このような住民参加の制度の確立を国、地方公共団体に強く要望するため、本決議をする次第である。

注(1) 提案会
日弁連公害対策委員会、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会


注(2) 要望先
総理大臣、総理府総務長官、経済企画庁長官、通産・建設・運輸・自治各大臣、沖縄開発庁長官、北海道開発庁長官、環境庁長官、各党党首、各党公害対策委員会委員長、衆・参両院公害対策及び環境保全特別委員会委員長