第61回定期総会・市民の司法を実現するため、司法修習生に対する給費制維持と法科大学院生に対する経済的支援を求める決議

 

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法科大学院創設から6年、21世紀の司法を支える新たな法曹養成制度は、着実な成果をあげる一方、様々な課題も指摘されるに至っており、改善に向けた動きが本格化している。


新しい法曹養成制度が真に「国民の社会生活上の医師」を養成する制度として機能するには、貧富の差を問わず法曹への門戸が開かれていることが必要であることは言うまでもない。意欲ある者が広く法曹をめざせる法曹養成制度を確立することは、当連合会がめざす「市民の司法」を実現する不可欠の前提となるものである。


当連合会は、このような観点から、法科大学院創設への積極的関与を決議した2000年臨時総会において、法科大学院制度に対する国の十分な財政措置を求めるとともに、2003年には「司法修習給費制の堅持を求める決議」を採択するなど、法曹養成に関する経済支援について制度創設過程から積極的に取り組んできた。


ところが、法科大学院への国の財政措置は、なお極めて不十分な現状にある。法科大学院入学から司法修習生になるまでには多額の経済的負担が必要であり、当連合会の調査によれば、その債務が1000万円を超える者すら生じている。また、裁判所法「改正」によって、司法修習生に対する給費制の廃止と貸与制の実施が定められ、その施行時期は本年11月となっている。


新しい法曹養成制度の改善に向けた真摯な議論が進められているにもかかわらず、このまま法科大学院生への経済的支援策の充実がなされることなく、しかも司法修習生に対する給費制が廃止されることになれば、優れた資質を備えた多様な人材が、経済的な事情から法曹を志すことを断念せざるを得なくなる事態が拡大することは避けられない。のみならず、そのことは、法曹志望者の減少傾向に一層拍車をかけ、ひいては、新しい法曹養成制度の改善に向けたこれまでの努力を頓挫させることにもつながりかねない。


よって、当連合会は、資力の十分でない者が経済的理由から法曹への道を断念する事態を生じさせないよう、また、現在進行しつつある新しい法曹養成制度の改善を円滑に進めるためにも、国に対し、2009年の「法科大学院生及び司法修習生に対する経済的支援を求める提言」に掲げたとおり、次のとおり要望する。


  1. 本年11月施行予定の裁判所法「改正」法を見直し、司法修習生に対する給費制を維持すること。
  2. 給付制奨学金の創設、貸与制奨学金の返還免除の拡充、授業料減免制度の拡充などの法科大学院生に対する経済的支援策を充実させること。

当連合会は、当面差し迫った課題である給費制について、司法修習費用給費制維持緊急対策本部を設置し、給費制維持のため全力を尽くすものである。

 

以上のとおり決議する。

 

2010(平成22年)5月28日

日本弁護士連合会


 

(提案理由)

1 新しい法曹養成制度の現状

新しい法曹養成制度の中核をなす教育機関として法科大学院が創設されてから6年が経過した。すでに新60期から新62期の、法科大学院を修了した約4700名の法曹が、社会の様々な分野に進出し、活躍を始めている。これら新法曹に対しては、多様なバックグラウンドを有し、判例や文献の調査能力、コミュニケーション能力及びプレゼンテーション能力に優れているなどの評価がなされている。


しかし、他方で、法律基本科目をはじめ基本的な知識・理解や論理的表現能力が不十分な者が一部に見られる、各法科大学院における法律実務基礎教育の内容にばらつきがあることなどから司法修習への円滑な移行に支障が生じているとの指摘や、法科大学院の定員が過剰であること、十分な教育体制が整っていない法科大学院が一部に見受けられることなどの指摘がなされており、法科大学院志願者数は、全体数においても、非法学部出身者、社会人経験者の割合においても減少傾向が続いている。


このような課題を解決し、社会の幅広い需要に応える多様で質の高い法曹を養成するという目的に沿って新しい法曹養成制度を成熟させるため、現在、中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会、法務省及び文部科学省が設置した法曹養成制度に関する検討ワーキングチームなどにおいて、改善に向けた本格的な取組が行われているところである。


2 当連合会の取組

新しい法曹養成制度が「国民の社会生活上の医師」を養成する制度として適切に機能するためには、貧富の差を問わず法曹への門戸が開かれていることが必須である。意欲ある者が広く法曹をめざせる法曹養成制度を確立することは、当連合会がめざす「市民の司法」を実現する不可欠の前提となるものである。


当連合会は、このような観点から、法曹養成に関する経済支援について、制度の創設過程から、公平性・開放性・多様性という法科大学院の基本理念を実現するために、国が法科大学院制度に対して必要十分な財政措置を講じることを求め、法科大学院に対する財政支援とともに、奨学金制度の充実に向けて取り組んできた。


また、司法修習生に対する給費制の廃止が具体的な課題になる中で、2003年8月には「司法修習給費制の堅持を求める決議」(2003年8月22日理事会決議)を採択した。同年9月には司法修習給費制問題対策本部を設置し、全弁護士会における決議・声明の採択、討論集会の開催、国会議員要請など、当連合会は給費制度維持に向けた運動に全力で取り組んだ。これらの運動にもかかわらず、司法修習生に対する給費制を廃止して貸与制を実施することとする裁判所法の一部を改正する法律(平成16年法律第163号。以下「「改正」法」という。)が成立し、その施行時期は、原案の2006年11月1日から2010年11月1日へと4年間延期されることとなった。


3 法科大学院入学から司法修習開始までの経済負担

法科大学院の学費は、国立大学の場合、入学金が約28万円、年間授業料は約80万円となっており、私立大学の多くは入学金が20万円から30万円程度、年間授業料は100万円から150万円程度となっている。このほかに教科書などの教材費のほか、生活費も必要である。特に家族を抱えた法曹志望者においては、家族の生活費を考慮する必要も生じ得る。


こうした法科大学院における2年または3年間の学資と生活費に加え、法科大学院修了後も、司法試験に合格して司法修習生となるまでには約8カ月間の生活費が必要であり、法科大学院入学から司法修習生になるまでには多額の経済的負担を余儀なくされることになる。


当連合会が2009年11月19、20日に実施した司法修習前研修(事前研修)に際し、同研修の受講を申し込んだ新63期司法修習予定者を対象に実施したアンケートによれば、回答者1528名中807名(52.81%)が法科大学院で奨学金を利用したと回答し、そのうち具体的な金額を回答した783名の利用者が貸与を受けた額は、最高で合計1200万円、平均で合計318万8000円に上っている。  


4 司法修習給費制が果たしてきた役割と「改正」法の成立

司法修習生には修習専念義務が課され(司法修習生に関する規則第2条)、兼職が禁止されている。これに対応して、国は、司法修習生に対して給与を支払い、修習期間中の生活を維持させている。すなわち、給費制は、修習の間の生活を保障して修習生を修習に専念させることを目的とした、司法修習制度と不可分のものとして運用されてきた制度である。


また、裁判官、検察官、弁護士は、司法制度の担い手たる公共的存在であるところ、給費制は、これら法曹三者が、いずれの立場にあっても国の司法制度の一翼を担うという使命の自覚と高い公共心の醸成に寄与してきた。弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命としており(弁護士法第1条)、国選弁護、法律援助事件、各種無料法律相談、公益的事件への取組、裁判官・検察官任官や任期付公務員などの公務への就任、ひまわり公設事務所・日本司法支援センタースタッフ弁護士などの司法アクセス保障のための活動など、公共性・公益性をもった弁護士の活動は、そのような使命と公共心に支えられてきたものである。


しかしながら、前述のとおり、「改正」法によって、司法修習生に対する給費制の廃止と貸与制の実施が定められ、同法の施行時期は本年11月1日に迫っている。


5 奨学金などの充実と給費制の維持を

(1) 改善に向けた取組を支える経済的支援を

現在、新しい法曹養成制度をめぐる困難な状況について、制度理念に沿った改善を図るべく、真摯な取組が行われている。そのような現況において、このまま法科大学院生への経済的支援策の充実がなされることなく、しかも司法修習給費制が廃止されることになれば、優れた資質を備えた多様な人材が、経済的な事情から法曹を志すことを断念せざるを得なくなる事態が拡大することは避けられず、社会の幅広い層から多様な人材の輩出をめざすという新しい法曹養成制度の目的に背馳する。のみならず、そのことは、法曹志望者の減少傾向に一層拍車をかけ、ひいては、新しい法曹養成制度の改善に向けた努力を頓挫させることにもつながりかねない。


したがって、資力の十分でない者が経済的理由から法曹への道を断念する事態を生じさせないよう、また、現在進行しつつある法曹養成制度の改善を円滑に進めるためにも、貧富の差を問わず広く法曹への門戸が開かれていることを担保するための経済的支援の充実が不可欠である。


当連合会は、2009年11月、「法科大学院生及び司法修習生に対する経済的支援を求める提言」(2009年11月18日理事会決議)において、法科大学院生に対する奨学金などの充実と、司法修習給費制の維持などを求め、取り組んできたところであるが、現下の情勢を踏まえ、あらためてこれら経済的支援の維持、充実を求めるものである。法曹としての職務の公共性・公益性にかんがみ、適切な経済的支援の下に法曹を養成することは、国の責務というべきである。


(2) 法科大学院生に対する経済的支援策の充実を

司法制度改革審議会意見書は、「資力の十分でない者が経済的理由から法科大学院に入学することが困難となることのないように、奨学金、教育ローン、授業料免除制度等の各種の支援制度を十分に整備・活用すべきである。」(同意見書69頁)としたが、現状はなお極めて不十分な状況にある。


(1)給付制奨学金制度の創設


独立行政法人日本学生支援機構(以下「学生支援機構」という。)の奨学金は、法科大学院生の経済支援に重要な役割を果たしているが、全て貸与制であり、給付制奨学金を独自に設けている法科大学院は一部であって、極めて限定的である。国は、その責任において給付制奨学金制度を創設し、法科大学院生に適用することを検討すべきである。


(2)貸与制奨学金の返還免除の拡大


学生支援機構は、無利息の第一種奨学金と年利3%を上限とする利息付の第二種奨学金を法科大学院生に対して提供しているが、第一種奨学金貸与人数には限りがある。


また、第一種奨学金については「特に優れた業績による返還免除制度」が存在している。しかし、同制度による免除者は、全額免除、半額免除をあわせても3割に過ぎず、不十分である。


したがって、第一種奨学金の貸与人数及び上記返還免除制度の適用人数を、それぞれ拡大すべきである。


(3)授業料減免制度の拡充


国公私立を問わず多くの法科大学院において、入学試験または入学後の成績優秀者などを対象として、授業料の減免制度が設けられているが、法科大学院生全体からみると少数にとどまっている。


したがって、授業料減免措置を大幅に拡大するよう、必要な財政的措置がとられるべきである。


(3) 司法修習給費制の維持を

「改正」法第67条の2に基づき、修習専念義務が維持されたまま給費制が廃止されるとなると、兼職を許されない司法修習生は、相当の貯蓄がない限りは貸与制度を利用せざるを得なくなる。基本額で月額23万円の貸与額は1年間の修習終了時点では合計276万円に及ぶことになる。法科大学院入学から司法修習生になるまでの間に既に生じている負担をも考慮するならば、給費制廃止に伴い司法修習生に生じる経済的負担は余りに過酷なものと言わざるを得ない。


給費制を廃止した「改正」法成立時における衆参法務委員会附帯決議は「給費制の廃止及び貸与制の導入によって、統一・公平・平等という司法修習の理念が損なわれることがないよう、また、経済的事情から法曹への道を断念する事態を招くことのないよう、法曹養成制度全体の財政支援の在り方も含め、関係機関と十分な協議を行うこと。」としているが、現状において給費制を廃止することは、まさに附帯決議が懸念した「経済的事情から法曹への道を断念する事態を招く」ことにつながるものである。


したがって、このような事態の発生を回避するため、本年11月施行予定の「改正」法を見直して現行給費制を維持すべきである。また、見直しを行う前提として、法曹養成制度の改善に向けた取組が本格化している現下の情勢にかんがみ、少なくとも「改正」法の施行を当面延期すべきである。


6 今後の当連合会の取組

当連合会は、「市民の司法」を実現するためにも、経済的事情によって法曹への道を断念する者が生じることのないよう、法科大学院生への経済的支援の充実と、司法修習給費制の維持に向けて全力を尽くしていく所存である。


当面、差し迫った課題である給費制について、当連合会は、本年4月、司法修習費用給費制維持緊急対策本部を設置した。今後、同本部を中心に各地の弁護士会などと連携しつつ、運動を展開していく所存である。