第56回定期総会・未決拘禁制度の抜本的改革と代用監獄の廃止を求める決議

長年の懸案である監獄法改正問題について、今通常国会において「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律」が成立し、受刑者の処遇等については一定の改善が図られることとなった。当連合会は、同法制定に伴う規則整備及び同法施行後のさらなる運用改善に向けて引き続き尽力する所存である。しかし、未決拘禁制度と代用監獄問題及び死刑確定者の処遇の改革については、今後の検討課題として残されている。


未決拘禁者は無罪の推定を受け、刑事手続における一方の当事者として防御権及び弁護人依頼権を有することから、刑事手続上、必要最小限の身体拘束を受ける以外は市民生活と同様の保障が必要とされる。したがって、当然、受刑者とは異なった理念に基づき処遇されなければならない。しかるに、未決拘禁者に対し、被疑者・被告人の権利保障よりも施設管理権が優先されている。また、現在に至るも、捜査機関の手元に身柄を置く代用監獄が取調べに利用されている。そうした状況の下で、えん罪や人権侵害が繰り返し惹起されている。


当連合会は、いわゆる旧拘禁二法案について、憲法・刑事訴訟法に定める未決拘禁者の防御権保障を危うくし、代用監獄を警察監獄に格上げするものであるとして、強く反対してきた。


今後、未決拘禁者等の処遇等を定める立法作業をすすめるにあたり、当連合会は、以下の点を含め、国際準則に沿った未決拘禁制度の抜本的改革と代用監獄の廃止を改めて強く求める。


  1. 被逮捕者を含む未決拘禁者の処遇を定める単一の法律を制定し、旧留置施設法案又はこれと同様の警察立法は制定しないこと。
  2. 夜間、休日の面会を確保し、弁護人との間の通信の検閲を廃止し、電話の使用を認めるなど、未決拘禁者と弁護人の接見交通権を十分に保障すること。
  3. 代用監獄の廃止に向けた手だてを尽くし、廃止までの間も、代用監獄の弊害を極力除去、軽減すること。
  4. 死刑確定者については、被勾留者に準じた処遇内容を保障すること。

以上のとおり決議する。


2005年(平成17年)5月27日
日本弁護士連合会


(提案理由)

1. 受刑者処遇法の成立

長年の懸案である監獄法改正問題について、受刑者処遇等を中心とする「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律」(以下「受刑者処遇法」という。)が今通常国会で成立した。


この法律は、数々の不十分な点があるものの、未決拘禁者の処遇と受刑者の処遇を明確に分離した上、受刑者の人権保障と刑務所運営の透明化を求めた行刑改革会議提言(2003年(平成15年)12月)を大筋において実現し、第三者機関たる刑事施設視察委員会の設置、外部交通権の範囲拡大、規律秩序の偏重を是正する姿勢、社会一般水準の医療の保障などの点で前進しており、当連合会が求めてきた「刑事施設法案の抜本的修正」に近づいたものと評価することができる。


当連合会は、同法制定に伴う規則整備及び同法施行後のさらなる運用改善に向けて引き続き尽力する所存である。


2.今後の課題-未決拘禁制度の抜本的改革と代用監獄の廃止

しかし、監獄法改正のうち、他方の重要課題である未決拘禁制度と代用監獄問題及び死刑確定者の処遇については、今後の検討課題として残されており、受刑者処遇について立法化した後に一から論議を開始しようとしている段階である。早急にこの検討に着手し、改革の実現を図ることが求められている。


未決拘禁者は、刑事手続上の必要によって身体を拘束されているにすぎず、権利や自由に対する制限は最小限にとどめられるべきところ、受刑者処遇法が施行された後は、未決拘禁者には旧監獄法(刑事施設ニ於ケル刑事被告人ノ収容等ニ関スル法律)が適用され、受刑者の処遇と未決拘禁者の処遇との間に逆転現象が生じるという不合理がある。


したがって、未決拘禁制度の抜本的改革に早急に着手し、これを実現することは喫緊の課題である。この点については、もともと行刑改革会議提言(2003年(平成15年)12月)が未既決両面にわたる改革の必要性を強調していたばかりではなく、2004年(平成16年)12月、法務省及び警察庁並びに当連合会による三者協議会においても、2006年(平成18年)の通常国会への法案提出を目途として、三者が努力することが確認されているところである。



3.未決拘禁制度と代用監獄問題の審議に向けて

未決拘禁者は本来、無罪の推定を受け、刑事手続における一方の当事者として防御権及び弁護人依頼権を有することから、刑事手続上、必要最小限の身体拘束を受ける以外は市民生活と同様の保障が必要とされる。したがって、当然、受刑者とは異なった理念に基づき処遇されなければならない。


しかるに、未決拘禁者に対し、被疑者・被告人の権利保障よりも施設管理権が優先されている。また、現在に至るも、未決拘禁者の多くが代用監獄たる警察留置場に収容され、捜査機関の手元に身柄を置く代用監獄が取調べに利用されている。そうした状況の下で、えん罪や人権侵害が繰り返し惹起されている。


当連合会は、いわゆる旧拘禁二法案について、憲法・刑事訴訟法に定める未決拘禁者の防御権よりも施設管理権を優先させることを法律で認知するものであり、未決拘禁者の防御権保障を危うくし、代用監獄を警察監獄に格上げ恒久化するものであるとして、強く反対してきた。


今後、未決拘禁者等の処遇等を定める立法作業をすすめるにあたり、当連合会は、未決拘禁制度の抜本的改革と代用監獄の廃止を改めて強く求める。


そのためには、上記の三者協議会と並行して、行刑改革推進委員会顧問会議での審議を経る必要がある。この顧問会議の審議を充実させ、そこに刑事法・国際人権法を専攻する学者・研究者を加えるとか、彼らを呼んで意見を聴く機会を作ることは必須である。



4.未決拘禁制度の抜本的改革の内容

未決拘禁制度の改革にあたっては、1998年の国際人権(自由権)規約委員会による日本政府への勧告もふまえ、国際準則に沿った抜本的改革が必要であり、以下の点に特に留意するよう強く求める。


  1. 被逮捕者を含む未決拘禁者の処遇を定める単一の法律を制定することとし、旧留置施設法案又はこれと同様の警察立法は制定しない。
    警察留置場における被逮捕者の処遇については現在、国家公安委員会規則である被疑者留置規則が適用されるのみであり、被逮捕者についても、その法的地位にふさわしい権利保障規定は法律化されるべきであるが、その法律化にあたっては、拘置所にも警察留置場にも適用される、被逮捕者を含む未決拘禁者の処遇を定める単一の法律を制定すべきである。その中で、被逮捕者については、被勾留者に関する部分が被逮捕者の地位にふさわしい形で準用されるようにすべきであって、旧留置施設法案又はこれと同様の警察立法は不要である。
  2. 未決拘禁者の防御権及び弁護人依頼権を実効あらしめるための方策を講ずるべきである。このことは、裁判員制度を効果的に機能させるためにも一層重要である。
    具体的には、弁護人との接見交通権を十分に保障する方策として、夜間や休日などの接見を確保し、電話(テレビ電話を含む)などの使用を認めることである。
    電話については、例えば、弁護士会内に設けた電話室から刑事施設の面会室(あるいは電話室)を電話でつなぎ、連絡する方法が考えられる。
    裁判所や検察庁での接見が円滑に行われるようにする。
    弁護人との間の信書も検閲してはならない。
    また、取調べにおける弁護人の立会権も法律に明記すべきである。
  3. 未決拘禁者と弁護人以外の者との外部交通の権利を拡充するため、一般面会についても、夜間や休日などの面会を認めることとすべきである。
  4. 逮捕、勾留された状態を、供述を強いる手段に利用してはならないのであって、あらゆる施設における夜間及び長時間の取調べを制限するべきである。
  5. 冷暖房については、すべての拘置所に設置し、稼動させるべきである。
  6. 未決拘禁者が希望する場合には、労働と教育の機会を保障しなければならない。

5.代用監獄の廃止と廃止までの弊害除去

われわれは、代用監獄の恒久化に一貫して反対してきた。


(1) 代用監獄の弊害と廃止の必要性


警察庁は、警察内部で捜査部門と留置部門を分離した1980年(昭和55年)以降、代用監獄の弊害は基本的に解消したと主張している。しかし、その後も捜査が留置に優先する実態は変わらず、代用監獄を利用した自白強要などによって、えん罪や様々な人権侵害の弊害は多発している。


警察留置場は、本来、逮捕された者を裁判官の下に送致するまでの間に限り、一時留め置く場所であって、基本的には被疑者を勾留すべき施設ではない。これは近代刑事法の大原則であり、国際機関や諸条約によって確認された原則でもある。


被疑者を勾留すべき施設は、捜査当局から独立した施設でなければならず、被疑者の勾留を捜査に利用することがあってはならないのである。


警察留置場は、本来的施設である監獄(拘置所)の「代用」としてしか位置付けられていない。「代用」を恒久化することは上述の弊害に照らしても許されず、代用監獄は廃止すべきである。


(2) 代用監獄廃止の方策とプロセス


代用監獄を廃止する方法としては、まず全国に拘置所を新増設し、拘置所の収容力を増強すべきである。


最近、警察署に付属しない独立の大型留置場が各地に建設されつつあるが、本来、これは法務省所管の拘置所とすべきである。


また、拘置所の増強を待たなくとも、警察留置場の所管を警察庁から法務省に移管し、勤務する職員を警察職員から法務省職員に所管替えすることも検討されてよい。


いずれにしろ、代用監獄の廃止に向けたあらゆる手だてを尽くす必要がある。


(3) 代用監獄廃止までの間の弊害除去・軽減の方策


代用監獄廃止までの間も、現在の代用監獄は順次減少させていくべきであるが、これと並行して、代用監獄の弊害を極力除去、軽減するよう努めるべきである。


そのためには、次のような方策を求めたい。


  1. 代用として認められる警察留置場は、保安室(保護房)を備えていること、提携医師を確保していることなど、一定の条件を満たしたものに限定する。
  2. 警察留置場における懲罰は禁止し、防声具など、生命、身体に危険性のある戒具を使用しない。
  3. 被収容者の医療を受ける権利を保障する。
  4. 取調べの可視化(録画・録音)の実現。取調べの可視化は,特に,警察留置場における未決拘禁者に対する自白の強要など人権侵害や誤判を未然に防止するために不可欠な制度であり,既に実施されている諸外国も少なくない。
  5. 取調べの時間的制限、即ち、夜間及び長時間の取調べを制限する措置も、自白強要につながる取調べの抑制のために必要である。
  6. 代用監獄における運営と被拘禁者の処遇について透明性を高める方策を講ずるべきである。
    具体的には、受刑者処遇法における刑事施設視察委員会と同様、外部の市民による視察制度を創設すべきである。
  7. 未決拘禁者が第三者機関に処遇等について苦情の申出や不服申立ができる制度を創設すべきである。
    さらに、代用監獄の管理者が行った権限行使について、準抗告に類似した簡易迅速な司法救済手続を創設すべきである。
  8. 一定の重大犯罪や否認・黙秘の事件については拘置所に収容し、少年は少年鑑別所に、女性は拘置所への収容を義務付けるなどの措置を講ずるべきである。
    また、被疑者・被告人に拘置所への移監請求権を認めるべきである

6.死刑確定者の処遇

死刑確定者にとって、刑の執行とは死刑の執行それ自体であるから、それまでの拘置は、受刑者、未決拘禁者いずれの身分でもない。


未決拘禁者の処遇等に関する法律においては、死刑確定者の処遇につき、所内生活や外部交通など、被勾留者に準じた処遇内容を保障すべきである。