\「シェアして応援」する/

高校生
インタビュー

日本弁護士連合会では、再審法改正プロジェクトの一環として、京都府立嵯峨野高等学校の生徒2人にインタビューを行いました。嵯峨野高校は文武両道で知られる学校ですが、この2人は日頃から体育会系の部活動で汗を流しながら、高校が取り組む課題探究ラボで「法学ラボ」に所属し、日弁連主催「高校生模擬裁判選手権」への参加や「えん罪」についての課題探究などに取り組んできました。ラボでは、再審弁護に取り組む弁護士の著書を読んで著者インタビューを行うなどの探究活動を通じて考察した結果をまとめ、校内で発表しました。2人に、日本の将来を担う若者として、学びから感じたこと・自身の考えについてお話をしていただきました。
*インタビューは2023年5月実施

image

左:今西裕大さん、右:早川舞さん

「再審法」を学ぶことになったきっかけは、
「えん罪」について研究する「ラボ活動」
その活動を通じて連絡を取った、
鴨志田弁護士との出会いが大きな転機

- 再審法について学ぶことになった理由や背景と、そもそも鴨志田弁護士とお知り合いになったいきさつについて聞かせてください。

今西裕大さん
(以下、今西)

この高校には、それぞれ自分が研究したい分野について調べる「ラボ活動」というのがあります。その中で僕は法律について学べる「法学ラボ」に所属していて、その研究テーマを決める段階で、「えん罪」について研究したいと考えていました。「えん罪」事件について調べていく中で、鴨志田祐美弁護士が書いた「大崎事件」についての結構分厚い本があって、ラボの先生に勧められて夏休みに読みました。鴨志田弁護士が京都弁護士会に所属されているということで、もし可能なら直接インタビューしたいと思い、先生から連絡を取ってもらい実現していただきました。

早川舞さん
(以下、早川)

私も「法学ラボ」の同じグループだったので一緒です。「えん罪」が起きてしまうのは、やっぱり判断をする裁判官も人なので、間違いが起こるのは仕方ないと思うんですけど、その後の救済が整っていることが、「えん罪」被害が起きたとしてもその被害が最小限になるんじゃないかなと思って「再審法」に注目しました。

- 2人とも「法学ラボ」に入る前から、こうした問題に関心があったのでしょうか。

早川

ちょっとありました。「えん罪」とか、「同性婚」の話とかもよく聞いていたので、法律の改正っていうこと自体が難しいなというのは思っていたんですけど、なにか必要じゃないかっていうのはラボに入る前から時事問題として知っていました。

- 鴨志田弁護士から直接お話を聞いて、どんな印象を感じましたか。

今西

インタビューする前は、「えん罪」事件というのは自分にとって新聞とかニュースの中の世界だったんですけど、実際に「えん罪」事件に取り組んでいる人の意見を聞くことで、なんか結構身近にあるものなんだなって印象を受けました。

- どういうお話から身近だなと思ったのですか。

今西

まず弁護士の方とお話をするのが初めてだったので、弁護士さんという存在を実感できたことと、「えん罪」というのは誰でも被害者になりうるみたいなことが、インタビューを通して実際に遠い話じゃなくて自分にも起こりうる話だなと実感しました。

早川

誰でも「えん罪」被害者になりうるという可能性を感じたのもそうだし、そこから社会に戻る難しさがすごく実感できて、「えん罪」被害にもしあったら多分そこから人生をやり直すのはほとんど無理じゃないかと思って、身近な人も自分も、なったらすごく怖いと思いました。

「えん罪」は、人生が本当に大きく
変わってしまう、あってはならないこと
「間違ってはダメ」という検察側の考えが
無理な有罪を生むのではないか

- ご自身でいろいろ調べたりして、どんな事件が印象的だったりしますか。

今西

やっぱり一番中心に調べた「大崎事件」です。この事件は三回目の再審請求で、高裁から再審開始決定が出たにもかかわらず、最高裁で棄却されて今も再審開始の決定が出ていない。すごい時間がかかっていて、無実を訴えている原口アヤ子さんは95歳になり、この事件を調べて「えん罪」はあってはならないと感じました。ほかにも「袴田事件」とか同じような境遇の人がいて、再審制度が機能していない現状を改善していかないといけないと思いました。

image
早川

メインで調べていたのがやっぱり「大崎事件」で、あれ?って思ったのが、証拠の開示が検察側の判断によるものなので、ずっと無実を訴える側が不利な状況で…、そういうのがよくないと思ったし、なんでそういう状況なのか単純に疑問でした。

- 「えん罪」のどういうところが問題で、どのような原因があると思いますか。

今西

「えん罪」事件は何件も起こっています。その中で、なぜ「えん罪」が起きたかという原因があるはずなんですが、その原因についての反省を全然生かせていないとすごく感じました。人間なら誰でも間違った判断をすることはあるので、「えん罪」事件が発生してしまうのは仕方ないことだと感じますが、失敗から検察官・警察側が学んでいないのではないかと思えてしまい、そこが「えん罪」事件の繰り返される一番の問題かなと思いました。

早川

私が思うのは、無実を訴える人・弁護側の立場の不利さです。検察側は証拠を管理して開示する義務がない上に、裁判所が出した再審決定を不服申し立てによって棄却させることもあるので、そういう状況だとやっぱり公正に判断することができないんじゃないかと思います。有罪か無罪か、検察側も弁護側も裁判をもう1回やり直して改めて判断すればいいって鴨志田弁護士もおっしゃっていたんですが、その段階にすら行けていない。再審法がまったく機能していない現状というのは、弁護側が不利になっている原因だと思います。

- どうすればえん罪を少しでもなくすことができると思いますか。

今西

今の警察・検察側には「絶対に犯人を見つけ出さなければいけない」という気持ちがあると感じていて、「この人が犯人ではなかったです。すみません」というのができていないと思います。もっとバイアスとか固定観念を捨てて捜査に当たったほうがいいと僕は思います。

早川

私も同じ意見で、警察・検察側に「間違ってしまってはダメ」「恥だ」という考えがあって、だからその事件を無理にでも有罪にもっていこうとか、警察・検察側にとって不利な証拠を隠してとなっているんじゃないかと思います。そうじゃなくて、やっぱり間違いをちゃんと認めて、また新たに正しい道を探せばいいというスタンスで事件を取り扱うべきじゃないかと思います。

image

- 「えん罪」被害者の方については、どんな風に受けとめましたか。

今西

やってないのに無実の罪をかけられ拘束されて、「袴田事件」にいたっては死刑判決まで出ていて、もし死刑が執行されていたら本当に取り返しがつかないわけで、「えん罪」被害者のことを考えると絶対にこの問題は解決しないといけないと思います。

早川

「えん罪」被害者の方から、無実だとしても不当な取り調べで精神的に参って、そこで自白するよう追い込まれるという話を聞きました。「自白した方が後が楽だよ」「言っちゃえばいいよ」みたいに言われたという話も聞いて、それは本質じゃないと思いました。無実の方が仮に自白して有罪を認めて出られたとしても、その後の生活とか心のあり方はまったく変わると思います。1回でもそういう経験をしたら、人生が本当に変わってしまうので、なんとかできたらと思います。

「えん罪」は普通の人からすると、
あまりなじみのない問題
しかし、自分や友人にも起こる可能性が
あるところが怖い

- 自分にも起こりえるかもしれないという話がありましたが、自分や周囲の身近な人がそういう「えん罪」被害にあったらどう思いますか。

今西

今まで全然関わりがなかった人の「えん罪」事件でもすごい怒りが湧いてきたので、これが自分や友人だったら、本当に想像できないくらいすごい怒りが湧いてくると思うし、それが起こる可能性のあるところが怖いですね。

早川

もし「えん罪」によって罪を問われることになったら、本当にやるせない、なんで?という許せない気持ちになると思います。でも、そういうことをまったく想像できていなかったし、法学ラボで調べるまで知らなかったので、ちょっとしたことで「自白してはダメ」とか、そういうことをある程度は知っておく必要があると思いました。

- 「法学ラボ」で再審制度を研究しているのは4人と聞きましたが、他のメンバーを交えてどんな話をしましたか。

今西

「えん罪」の問題には、「えん罪」を減らしていくための取り調べの問題と、再審がなかなか開始されないという問題があります。話し合う中で「再審法が機能していない」となり、調べを進めていき、さらに「えん罪」被害者をどうしたら救えるかもグループで調べました。

早川

メンバーとは単純に「怖いね」みたいなことも話しました。意味がわからないというか、なぜそんなおかしなことがあるのか、不条理だなっていう話になりました。

- 「法学ラボ」以外のクラスメイトと、再審法の話はしましたか。

今西

日常会話で急に「再審法が」とかはないですが、ラボ活動でインタビューに行った後、友達と再審の問題について話したことはあります。でも、普通の人からすると、あまりなじみのない問題だとは思います。

image
早川

インタビューの後、友達や家族に話したときに、まず「再審法ってなに?」から始まります。現状についてまったく浸透していない。裁判は本来やり直しできるけど、それがすごく難しい道のりだということも知らないし、「えん罪」被害者の存在も「えん罪」によって罪を問われることがあるんだということも、まったく身近には思えていない印象です。

「再審法改正」は、この問題を知る人が
多くなることで、より解決に近づく
実現は長い道のりだが、国民全員で関心を持ち、
注目するというのが今は大事

- 「えん罪」や「再審法」の改正に関心を持ってもらうには、どうしたらいいと思いますか。

今西

僕たちの班でも「再審法を改善しないとダメ」となったんですが、みんな再審法を知らない。今の時代だからSNSを使った情報の拡散とか、ほかにシンポジウムみたいなもので、その存在をまずみんなに知ってもらう。こういう問題がある現状を多くの人に知ってもらうために、SNSを活用していくのは一手だと思います。

早川

この世代はSNSがすべてではないですが、中心になっているので、そういう現状をもっと気軽に発信できたら。法律と聞くとみんな敬遠して、あえて見ようとしないことが多いと思うので、SNSでもインフルエンサーがちょっと発信するとかで、周りの関心度は変わると思います。そこでちょっと気になった人が調べて、さらにその人たちがわかりやすくまとめてWebに上げて、日本で広まってくれたらと思います。最後は再審法の改正だから国会にいかないとダメで、そのことを考える国会議員がいる日本にするためには、国民の関心が大事なので広めていけたらと思います。

- 若い人たちは、この問題にどう向き合っていったらいいと思いますか。

今西

大人を含めてこの問題を知らない人が多いわけで、自分たちは関心があって特別に学ぶ機会があったのはすごい特例で、誰もがこの問題にここまで真摯に向き合い再審法改正になにか行動するとか必要ないと思いますが、まずはこの問題を若い人たちが一人でも多く知ることが大事だと思います。問題を知る人が多くなることで、より解決に近づくんじゃないかと思っています。

早川

若い人も大人も、こういう社会の仕組みについて知らないことがたくさんあると思っていて、そういうことをもっと自分から知りにいくことが、自分の身を守ることにつながり、他人を傷つけないことにもつながると思うので、もっといろんな情報を自分から取りにいく姿勢は大事だと思います。みんなにSNSで発信することはできても、受け取るかどうかはその人たち次第なので、もっと受け取ろうと思う人たちが増えてくれることが大事だと思います。

image

- どのようにしたらこの問題を解決に近づけるか、少しでも被害を小さくできるか。

今西

「えん罪」被害者を救うという面では、再審制度は今もあるんですが、それをまったく生かせていないと思います。再審を決定するまでの段階で争っているので、まずは再審を行い、そこで無罪か有罪かを争うべきだと思います。今は再審開始の決定に喜んでいるわけで、冷静に考えてちょっとおかしいと思います。まだ無罪が決まったわけではなく本来は通過点なのに、そこのハードルが高すぎてそれを低くすることが大事だと思います。その原因が今の再審法なので、改正していくことが「えん罪」被害者をより多く救う道になると思います。

早川

日本に住む人たちが再審について興味を持ち注目を集めることで、検察側も弁護側もちゃんとしているか、おかしな点がないか、日本全国で再審をチェックする仕組みが作られて、もっと慎重になり客観的に見て不公平なことが少なくなるんじゃないかと思います。再審法の改正はすごく難しく長い道のりだと思うので、その間に「えん罪」被害者がいかに早く救われるかも、国民の関心とか全員で注目するというのが今は大事だなと思います。

- 再審法改正に向けた広報を日弁連で取り組んでいますが、感想や意見を聞かせてください。

今西

再審法を改正するには国民の意見が大事になってくるので、この問題をとにかく知ってもらい、現状を改善するときがきたら動いてもらえるように、とりあえず知ってもらうことが大事だと思います。

早川

日弁連のウェブサイトでもわかりやすくまとめていて、そういう身近にわかりやすく見られる状況を作ることが第一歩と思います。関心・興味を募るには、難しいままではみんな見ようとしないので、そういう工夫が大事だなと思いました。

image
ご家族インタビューiconicon