レッド・パージ国家賠償請求訴訟神戸地裁判決に関する会長談話
神戸地方裁判所は、日本共産党の党員又はその同調者であることを理由とする免職処分又は解雇を受けた3名の原告が国を被告として、救済措置を命じる立法を行わなかった違法な不作為により損害を被った等として行った国家賠償請求訴訟について、本年5月26日、原告らの請求を棄却する判決を下した。
神戸地裁は、マッカーサー書簡は共産党員又はその同調者を排除すべきことを要請する指示であると解釈したうえで、その指示は占領下において超憲法的効力を有していたから、原告らに対する免職又は解雇は有効であり、平和条約発効後もその効力を失わないこと、レッド・パージによる免職又は解雇により受けた損害について、政府が救済措置を行うべき作為義務を負っていたものと認めることはできないことなどを理由として、国家賠償法上の国の責任を否定した。
当連合会は、レッド・パージにより免職又は解雇された申立人らからの人権救済申立事件について、これまで2度にわたり、慎重な調査を経たうえで、レッド・パージは憲法で保障された思想良心の自由、法の下の平等という民主主義の根幹に関わる人権の侵害であり、占領下の連合国最高司令官といえどもかかる人権侵害は許されないこと、日本政府も占領下でレッド・パージを積極的に推し進めようとしていたと認められること、そうである以上、平和条約発効後に主権を回復した日本政府は自主的にレッド・パージによる被害の回復を図るべき責任があったこと等を前提として国の人権侵害性を認め、可及的速やかに、被害回復のための名誉回復や補償を含めた適切な措置を講ずるよう勧告してきた。
今回の判決は、国家賠償法上の賠償責任を否定したが、これまで当連合会が2度にわたり勧告しているとおり、レッド・パージにおける日本政府の責任は重大であると言わざるを得ない。今回の判決では、レッド・パージによって生じた損失について補償することについては、憲法上、立法府の政策的判断に委ねられていると判示しているが、政府は上記勧告に対して今日まで何ら立法府への働きかけをしていない。当連合会は、政府に対し、改めて、当連合会の勧告の趣旨を踏まえて、レッド・パージの被害者の被害回復のための適切な措置を講ずることを求める。
2011年(平成23年)6月3日
日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児