障害年金制度の認定基準に係る早急な見直しを求める意見書 2024年(令和6年)4月19日 日本弁護士連合会  国は、厚生労働省の社会保障審議会年金部会において、2022年10月25日から「年金制度改革」を議論し、2025年度に年金改革を実施する方針を打ち出している。  障害年金は障害のある人の重要な社会保障上の権利であるにもかかわらず、その権利保障の観点から改革するべき問題が山積している。また、国連の障害者の権利委員会(以下「障害者権利委員会」という。)から、2022年10月に出された日本の障害者の権利に関する条約(以下「障害者権利条約」という。)の実施状況に関する「総括所見」において、「障害」概念について「医学モデル」1に基づくものを排除することが求められており、「医学モデル」に依拠した障害年金制度の抜本的改革が必要かつ重要な課題となっている。  当連合会は、障害年金に関し、これまで2015年7月17日に「精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域間格差の是正に関する意見書」を公表し、また、2018年8月22日に「障害基礎年金の大量支給停止問題につき適正な審査と検証等を求める会長声明」を公表しているところであるが、今般、上記の「年金制度改革」における障害年金制度の改革のうち、当面する喫緊の課題、すなわち、本来受給権を有する者の受給権が不当に侵害されている課題について、早急に改善することを求める。  なお、障害者権利条約の求める社会モデル2・人権モデルに基づく障害年金制度の抜本的改革、「3級」の存否等の国民年金制度と厚生年金制度の不統一についての改革、初診日を基準とすることにより生じる不支給問題等の保険制度を基本としている現行障害年金の制度設計の根幹に関する改革についても、早急に国民的議論を深め、改革の方向性を明らかにするべきであり、当連合会としても引き続き検討を重ねる所存である。 第1 意見の趣旨  1 国は、国民年金法施行令別表の1級9号の「包括条項」に定める障害の程度の文言を、現代社会において用いられる表現に改訂し、また、同別表2級15号の「包括条項」とともに、それらの内容についても、現在の障害年金受給者の生活実態を反映し、機能障害を重視するものではなく日常生活上の制限の程度を基準とするものに改訂するべきである。 2 国民年金・厚生年金保険障害認定基準の「第2 障害認定に当たっての基本的事項」(以下「基本的事項」という。)について、次のように改めるべきである。 (1) 「基本的事項」の例示を削除するべきである。例示を仮に示すのであれば、時代に応じた例示に改訂するとともに、様々な障害種別ごとに、できるだけ多数の例示を記載するべきである。 (2) 「基本的事項」のうち、2級の障害の程度について定める記載について、「労働により収入を得ることができない程度のものである。」は削除するべきである。 (3) 「基本的事項」の「3 認定の方法」では、原則として「診断書及びX線フィルム等添付資料により行う」とされているところ、療養の経過、日常生活状況等を総合的に考慮するものとすべきである。 3 国民年金法施行令別表1級10号及び2級16号並びに厚生年金保険法施行令別表第一の3級13号の精神障害に関する「障害の状態」の規定を、日常生活上の制限の有無及び程度や、支援の要否及びその分量等の明確なものに改訂すべきである。 4 知的障害については、国民年金法施行令別表及び厚生年金保険法施行令別表第一に、精神障害とは独立した項目として、前項と同様の趣旨の「障害の状態」の規定を付け加えるべきである。 第2 意見の理由 1 日本の障害年金制度―障害等級と障害認定基準の位置付け (1) 国民年金法第30条第2項は、「障害等級は、障害の程度に応じて重度のものから一級及び二級とし、各級の障害の状態は、政令で定める。」と定め、厚生年金保険法第47条第2項は、国民年金法第30条第2項に「一級及び二級」とあるものが「一級、二級及び三級」とされて同様の趣旨の定めを置いている。  そして、国民年金法にいう「各級の障害の状態」の1級及び2級については、国民年金法施行令(以下「国年令」という。)第4条の6において「別表に定める」とおりとされている。  厚生年金保険法の「各級の障害の状態」については、厚生年金保険法施行令(以下「厚年令」という。)第3条の8において、1級及び2級は、それぞれ国年令別表に定める1級及び2級の障害の状態とされ、また、3級は、「別表第一に定めるとおりとする。」とされている。  これらを受けて、障害種別ごとに次のように「障害の状態」が定められている。    ①国年令別表  <障害等級1級> ・1号~8号=「両目の視力の和が0.04以下のもの(全盲)」(1号の場合)等の「身体の機能障害に基づく状態」が定められている。 ・9号=「身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの」との「包括条項」が定められている。 ・10号=「精神の障害であって、前各号と同程度以上と認められる程度のもの」と定められている。  <障害等級2級> ・1号~14号=「身体の機能障害に基づく状態」が定められている。 ・15号=「身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」との「包括条項」が定められている。 ・16号=「精神の障害であって、前各号と同程度以上と認められる程度のもの」と定められている。    ②厚年令別表  <障害等級3級> ・1号~11号=「身体の機能障害に基づく状態」が定められている。 ・12号=「前各号に掲げるもののほか、身体の機能に、労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの」との「包括条項」が定められている。 ・13号=「精神又は神経系統に、労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの」と定められている。 (2) そして、国年令別表及び厚年令別表第一(以下、両別表を併せて「施行令別表」という。)に定める「障害の状態」は必ずしも一義的に明確であるとはいえないとして、施行令別表の解釈適用基準である「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」(以下「障害認定基準」という。)が定められ(1977年7月15日庁保発第20号等、最終改訂2022年4月1日)、障害等の認定審査事務の統一的な執行を図るとされている。  裁判例上は障害認定基準には法規性がないとされているが、行政実務上は、一般的に、障害認定基準に沿って障害等級が認定されており、裁判実務上も、その内容が「合理的である」として、障害認定基準の内容に即して行政処分の適法性が判断されることも少なくない。  このように、障害認定基準は、障害年金の認定実務において極めて大きな影響がある。 2 日本の障害年金制度の課題 (1) 障害年金制度の抜本的改革の課題  国連障害者権利委員会から2022年10月に示された障害者権利条約の日本の実施状況に関する「総括所見」においては、医学モデルの要素は排除されるべきものとされ、全ての障害者が、機能障害にかかわらず、社会における平等な機会及び社会に完全に包摂され、参加するために必要となる支援を地域社会で享受できるよう法規制を見直すべきとされた。前述したように、1959年に機能障害を基本として定められた施行令別表3に基づき現在まで運用されている日本の障害年金の障害の認定が医学モデルに偏重していることは明らかである。  また、障害年金の支給要件として「初診日」「障害認定日」を医学的に求め、これに「加入要件」「納付要件」を結びつけている現行制度(これらの要件が、学生無年金者や主婦無年金者を多数生み出した大きな要因でもあった。)も、医学モデル偏重に基づくものである。  日本は、障害者権利条約の批准に当たり、障害者基本法を改正し、障害者の定義を、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」と規定し(同法第2条第1項)、社会モデルに基づく障害概念を取り入れたところである。したがって、障害年金制度における障害の認定についても、この障害者の定義に即したものに抜本的に改革することが求められているが、2014年の批准から現在まで、改革のための検討は一切なされてこなかった。  国は、次回の政府審査までに明確な工程を立て、社会モデルの障害定義に基づく、障害年金制度の抜本的な改革に直ちに着手しなければならない。 (2) 多数の障害年金不支給者(無年金障害者)を生み出す実態  現在、全国に1160万2000人の障害者がいるが(2023年版障害者白書)、このうち障害年金(基礎年金又は厚生年金)を受給している障害者は222万人に過ぎない4。障害者全体の約81%(約938万人)は障害年金を受給できていない。この中には65歳を超えて老齢年金を受給している人もいるため、全てが年金を受給していないとはいえないものの、数百万人規模の無年金障害者が存在していることは、現行の障害年金の受給要件や認定基準、認定実務の厳しさを示しているものである。  実際の年間の障害年金の請求件数は年間約13万件しかないが、その背景には、障害年金の請求に当たって、年金事務所や自治体窓口において、初診日や納付要件等の要件や認定実務に照らして請求を断念している件数が多数存在している。その上、請求した件数のうち年間約1万件(7.7%)(13人に1人)が非該当として却下され、障害年金が不支給とされている(2022年度障害年金業務統計)。  そして、これに対する審査請求、再審査請求、行政訴訟を弁護士や社会保険労務士が担った事案からは、現行制度の障害年金の認定要件等自体の不当性・矛盾が露呈している。  中でも、施行令別表が定める「障害の状態」の認定実務が、施行令別表自体の不合理性やこれに基づく障害認定基準の不合理性から、請求者の障害による日常生活の制約の実態を把握しないまま行われており、障害年金を受給すべき権利が侵害されている実態が積み重なっている。  そこで2025年をめどとする今般の障害年金制度改革においては、(1)で述べた障害年金制度の抜本的改革に先立ち、少なくとも施行令別表及び障害認定基準の当面の不合理点について早急に見直しを図ることが必要であるため、次項で意見を述べる。 3 施行令別表の各包括条項の見直しの必要性(意見の趣旨第1項) (1) 国年令別表1級9号―文言の見直し  まず、国年令別表1級9号は「身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの」と定めているところ、「日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度」といった現代社会において用いられない古めかしい表現を用いており、その文言を見直す必要がある。 (2) 国年令別表2級15号―規定と実態の乖離  また、国年令別表2級15号は「身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」と定めているが、「長期にわたる安静を必要とする病状」を2級15号の障害年金受給要件とすることは、障害者の生活実態及び障害年金の支給実態に即しておらず、見直されなければならない。  すなわち、厚生労働省の年金制度基礎調査(2019年「制度別・障害等級別・傷病名別・日常生活の介助の状況別」)によると、1級の国民年金を受給している者のうち、日常生活の介助の状況を5項目で調査したところ、それぞれの項目につき、「一人で出来る」とされた者の割合が、①移動:32.3%、②食事:48.4%、③排せつ:45.6%、④入浴:32.6%、⑤着替39.4%とされ、明らかに国年令別表の定めや「基本的事項」に記載されている例示の状態とは乖離している。また同様に、2級の国民年金受給者のうち、前記5項目について「一人で出来る」とされた者の割合は、それぞれ、①移動:66.9%、②食事:78.9%、③排せつ:84.3%、④入浴:72.7%、⑤着替78.1%とされており、約3分の2の者が「一人で移動すること」ができ、多くの2級の国民年金受給者の活動の範囲は、家屋内に限られていない。  「長期にわたって安静を必要とする病状」を基本的な障害状態像とする国年令別表の定めが実態と大きく乖離していることは明らかである。  そもそも、このように国年令別表の定めと実態とが乖離することとなったのは、国年令別表の定めが機能障害を重視した文言となっていることが原因である。よって、国年令施行令別表の1級9号及び2級15号について、機能障害を重視する定めではなく、介護や支援、社会環境整備等の様々な配慮を必要とする日常生活上の制限の程度を基準とする旨、時代に即したものに改正するべきである。 4 障害認定基準の「基本的事項」の改訂の必要性について(意見の趣旨第2項)   (1) 障害認定基準の「基本的事項」の例示の廃止  前項記載の国年令別表の定めを受けて、障害認定基準の「基本的事項」において、1級にあっては、前記国年令別表と同一の文言及びそれを言い替えた文言を記載した上で、その具体例として、「例えば、身のまわりのことはかろうじてできるが、それ以上の活動はできないもの又は行ってはいけないもの、すなわち、病院内の生活でいえば、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるものであり、家庭内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね就床室内に限られるものである。」と記載されている。  また、2級にあっても同様に、前記国年令別表と同一の文言及びそれを言い替えた文言を記載した上で、その具体例として、「例えば、家庭内の極めて温和な活動(軽食作り、下着程度の洗濯等)はできるが、それ以上の活動はできないもの又は行ってはいけないもの、すなわち、病院内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね病棟内に限られるものであり、家庭内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね家屋内に限られるものである。」と記載されている。  ところが、実際の認定実務においては、前記のとおり、1級にあっては日常生活の各項目について多くの受給者が「一人で出来る」とされている上、2級にあっても、多くの2級の国民年金受給者の活動の範囲が家屋内に限られておらず、「基本的事項」の例示の記載が、実態と大きく乖離していることが明らかである。  そもそも、現行障害認定基準の「基本的事項」は、同基準の前身である「国民年金 障害等級認定基準について」5の「障害の状態の基本」の記載を踏襲した文言であり、これが制定された1966年から58年が経過した現在、障害者をめぐる様々な介助・支援ツールが発達し、社会環境整備も充実してきており、活動の範囲をおおむね就床室内・家屋内に留める障害者はまれであり6、むしろこのような「病院かベッドで長年伏せって寝たきりで何もできない障害者観」自体が障害者の社会参加の権利を軽視する人権侵害・障害者蔑視といい得るものである。換言すれば、このような人権侵害状態を受忍しなければ1級の障害年金を受給することができないかのような具体例が示されているといえる。  そして、こうした実態から乖離した例示に引きずられて障害年金不支給の行政処分がなされることがあり、これを審査請求や取消訴訟等の不服申立てを行ったときにも、国(厚生労働省)は、この「基本的事項」の例示を引用した上で、不支給を正当化する主張を行い、裁決や判決で追認されることが度々である。つまり、障害年金の支給を拒否する場面では、多くの障害年金支給実務においては機能していない例示を用いてこれを拒否するという恣意的な運用の根拠として使われているのである。  厚生労働省は、障害認定基準のうち、施行令別表「障害の程度」の各号の解釈基準である「第3 障害認定に当たっての基準」については数次に渡り改訂をしているが、「基本的事項」の例示では、1966年に定められて以降、58年もの間、2級の具体例として「ハンカチ程度の洗濯」とされていたものが「下着程度の洗濯」に変更されただけであり、実質的な見直し・変更を行ってこなかった。しかし、障害者の生活実態は時代によって大きく変化しており、こうした社会的環境を考慮することこそ、権利条約、障害者基本法が定める社会モデルに基づく「障害」概念が求めるところであるから、運用基準として機能し得る例示は見直されなければならない。  また、「基本的事項」の例示については、そもそも、障害を有する者の障害特性は障害種別によって区々であるだけでなく、同種の障害を有する者であっても、同じような社会的障壁に直面するとは限らない。このように極めて個別性の高い基準を一つの例示で表現すること自体に無理がある。  そこで、障害認定基準における「基本的事項」の例示はこれを削除し、障害年金制度の抜本的改革までの間の障害年金実務の公平で安定的な運用は、「第3 障害認定に当たっての基準」を、障害者を取り巻く社会環境の進展に即して改訂することで図ることが相当である。  仮に、例示を示すのであれば、その例示を時代に応じて改訂するとともに、様々な障害種別ごとに、できるだけ多数の例示を記載するべきである。 (2) 2級の障害の程度「日常生活は極めて困難で、労働により収入を得ることができない程度のものである。」を改訂すべきこと  1986年に無拠出制の障害基礎年金(国民年金)が創設され、その「障害の程度」に係る基準は、前記のとおり、国年令別表の1級及び2級の包括条項の定めにある「日常生活への制限」の程度が用いられており、そこでは「労働への制限」については何ら言及されていない。  実際、前記年金制度基礎調査によると、2級の国民年金受給者のうち、何らかの仕事に就いている者の割合が40.3%とされている。  ところが、障害認定基準の「基本的事項」によると、2級の障害の程度は、前記国年令別表の記載を引用した上で、「この日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度とは、必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は極めて困難で、労働により収入を得ることができない程度のものである。」と言い替えて説明されている。    つまり、ここでも、実態にそぐわない記載が、「基本的事項」の2級の障害の程度の基準とされているのである。  そして、4(1)で述べたことと同様に、実務上は、障害年金不支給の行政処分がなされ、審査請求や取消訴訟等の不服申立てを行ったときには、就労していることや就労が可能であることを主な事情として不支給を根拠づけようとする主張を国(厚生労働省)が行うことがしばしばある。しかし、実際には、障害に対する個別的配慮があるからこそ就労ができているという場合も多く、日常生活においても様々な配慮を必要としており、その日常生活に著しい制限を受けているのである。    他方、日常生活が極めて困難であるために就労することができず、何らの収入も得られない状況であるにもかかわらず、日常生活上の制約が大きくないとして、障害年金が不支給となる事例もある。しかし、就労の場面というのは、日常生活の中の一部分であるから、就労することができない状況というのは、日常生活に著しい制限が加えられている状況にほかならない。    すなわち、いずれの場合も障害年金が支給されるべき状況であるにもかかわらず、ある時は就労をしていることを理由に障害年金を不支給とし、ある時は就労していないが日常生活上の制限が大きくないとして障害年金を不支給としているのであって、これでは、障害年金の支給実務が恣意的に運用されているとの批判は免れない。    そこで、「基本的事項」については、2級の障害の程度について定める記載のうち、「日常生活は極めて困難で、労働により収入を得ることができない程度のものである。」とされている部分は、単に「日常生活が極めて困難である程度のものである。」とするべきであるとともに、就労の有無とその可能性は、日常生活上の制約を判断する一要因として、総合的に判断されるべきことを明確に示すべきである。    なお、障害認定基準「第3 障害認定に当たっての基準」は障害部位別の基準であるところ、それ自体が医学モデルによっている。例えば、精神障害2級 の場合「長期にわたる安静を必要とする病状」等、「基本的事項」と同様に削除すべき記載がある。したがって、必然的に「第3」部分の改訂も必要となることは言うまでもない。  (3) 「3 認定の方法」にも社会モデルが取り入れられるべきこと    「基本的事項」の「3 認定の方法」についても、「障害の程度の認定は、診断書及びX線フィルム等添付資料により行う。」とされており、医学モデルによる方法が原則とされている。ただし書きにおいては、「日常生活状況等の調査」を行うことが想定されているが、あくまで、「提出された診断書等のみでは認定が困難な場合又は傷病名と現症あるいは日常生活状況等との間に医学的知識を超えた不一致の点があり整合性を欠く場合」に行う例外的なものとされている。    このような方法では、仮に認定基準について医学モデルを脱却したとしても適切妥当な認定をすることができない。そこで、「認定の方法」について、「診断書及びX線フィルム等添付資料により行う」ことを原則とするのではなく、療養の経過、日常生活状況等を総合的に考慮するものとすべきである。 5 国年令別表の精神の障害の基準(1級10号・2級16号)が不明瞭であること(意見の趣旨第3項)  国年令別表1級10号及び2級16号は、いずれも、「精神の障害であって、前各号と同程度以上と認められる程度のもの」と定めている。すなわち、前号までの身体障害等の状態を基準として、精神障害の状態を測ろうとするものであるが、外観や検査数値等により障害の程度を判定することにしている身体障害(それ自体医学モデルに基づくものとして当否があることは、本意見書中の意見の理由第1項で述べたところであるが、ここでは当面の課題として)と、そうではない精神障害を同一の基準で判定することには無理がある。  したがって、国年令別表1級10号の記載は、「精神の障害により、日常生活を営むことが著しく困難であるもの」等に、2級16号の記載は、「精神の障害により日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」等に改訂するべきである。 6 施行令別表に知的障害の記載がないこと(意見の趣旨第4項)  施行令別表には、身体障害と精神障害の記載はあるが、知的障害の記載がない。確かに、実務では、知的障害も精神障害の一つとして運用されているが、知的障害と精神障害では、障害の特性や障害の現れ方も違うから、施行令別表に精神障害とは独立した項目として、知的障害の「障害の状態」の規定(級と号)を明記すべきである。                     以上 1 「医学モデル」とは「障害という現象を個人の問題として捉え、病気・外傷やその他の健康状態から直接的に生じるものであり、専門職による個別的な治療という形での医療を必要とするものとみる。障害への対処は、治療あるいは個人のよりよい適応と行動変容を目標になされる。主な課題は医療であり、政治的なレベルでは、保健ケア政策の修正や改革が主要な対応となる」とされている(ICF「国際生活機能分類-国際障害分類改訂版-」(日本語版)厚生労働省HP)。  障害年金における障害の程度は、いまだ「社会モデル」という考え方が示されていない1959年に、国民年金法の障害等級表として初めて制定された。その後、概ね、機能障害を認定基準の重要な要素とする主に「医学モデル」の考え方で障害認定をしている。 2 ここでいう「社会モデル」は2001年5月第54回国際保健会議(WHO総会)で採択されたICF(国際生活機能分類)の示す、環境因子と個人因子の相互作用を重視し、生物学的・個人的・社会的観点を「統合したモデル」を踏まえた考えである。   3 ただし、1985年法改正までは「法別表」形式。 4 令和5年12月発表の令和4年度末の厚労省「厚生年金保険・国民年金事業の概況」参照。障害厚生年金50万人、障害基礎年金172万人、合計222万人。 5 1966年10月22日庁保発第22号 6 社会モデルの定義に基づく障害年金制度においては、障害等級の認定に当たり、当該障害者が直面している社会的障壁の存在が考慮されることになるから、社会環境の整備や、介助・支援ツールを利用していること、あるいは、障害の特性に応じた合理的配慮を受けていること自体が、障害の等級認定を裏付ける事情となる。この点、1型糖尿病に関する東京地裁令和4年7月26日判決(句報社「賃金と社会保障」1820号)も、障害等級2級該当性の検討の中で、原告の日常生活の実態や、障害ゆえに子を持つことを諦めた経緯についても考慮しており、また、原告が就労している事実について、職場における合理的な配慮のおかげである旨を認定して、障害等級を減じる事情としてではなく、むしろ3級よりも大きな障害等級であることを裏付ける事情としており、事実認定レベルでは、社会モデルの考え方を取り入れている。 --------------- ------------------------------------------------------------ --------------- ------------------------------------------------------------ 2