「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案」に対する意見書 2021年(令和3年)3月18日 日本弁護士連合会 目次 はじめに 4 第1 総論 6 1 インターネットを用いてする申立てによらなければならない場合 6 2 インターネットを用いて裁判所のシステムにアップロードすることができる電磁的記録に係るファイル形式 15 3 訴訟記録の電子化 19 第2 訴えの提起,準備書面の提出 22 第3 送達 26 1 システム送達 26 2 公示送達 33 第4 送付 34 1 当事者の相手方に対する直接の送付 34 2 裁判所の当事者に対する送付 36 3 相手方が在廷していない口頭弁論において主張することができる事実 37 第5 口頭弁論 38 1 ウェブ会議等を用いて行う口頭弁論の期日における手続 38 2 無断での写真の撮影等の禁止 41 3 口頭弁論の公開に関する規律の維持 43 4 準備書面等の提出の促し 45 第6 新たな訴訟手続 47 第7 争点整理手続等 57 1 弁論準備手続 57 2 書面による準備手続 59 3 準備的口頭弁論 61 4 争点整理手続の在り方 62 5 進行協議 67 6 審尋 68 7 専門委員制度 69 第8 書証 70 1 電磁的記録についての書証に準ずる証拠調べの手続 70 2 電磁的記録の書証に準ずる証拠調べの申出としての提出 71 3 インターネットを用いてする電磁的記録の提出命令に基づく提出及び送付嘱託に基づく送付 75 4 インターネットを用いてする証拠となるべきものの事前の準備としての写しの提出 77 第9 証人尋問等 78 1 証人尋問等 78 2 通訳人 84 3 参考人等の審尋 85 第10 その他の証拠方法等 86 1 鑑定 86 2 検証 88 3 裁判所外における証拠調べ 90 第11 訴訟の終了 94 1 判決 94 2 和解 95 第12 訴訟記録の閲覧等 100 第13 土地管轄 108 第14 上訴,再審,手形・小切手訴訟 109 第15 簡易裁判所の手続 110 第16 手数料の電子納付 111 1 インターネットを用いてする申立てがされた場合における手数料等の電子納付への一本化 111 2 郵便費用の手数料への一本化 113 3 書面による申立てが許容される場合における手数料等の納付方法 115 4 民事裁判手続のIT化に伴う訴訟費用の範囲の整理等 116 第17 IT化に伴う書記官事務の見直し 119 第18 障害者に対する手続上の配慮 122 第19 その他に検討すべき論点 126 「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案」に対する意見書 2021年(令和3年)3月18日 日本弁護士連合会  法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会が2021年(令和3年)2月26日に公表した「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案」(以下「中間試案」という。)に対して,当連合会は以下のとおり意見を述べる。 はじめに 1 法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会(以下「部会」という。)が審議している法務大臣諮問第111号は,「民事訴訟制度をより一層,適正かつ迅速なものとし,国民に利用しやすくするという観点から,訴状等のオンライン提出,訴訟記録の電子化,情報通信技術を活用した口頭弁論期日の実現など民事訴訟制度の見直しを行う必要がある」としている。  また,上記法務大臣諮問の前提となった公益社団法人商事法務研究会「民事裁判手続等IT化研究会−民事裁判手続のIT化の実現に向けて−」(以下「研究会報告書」という。)の「はじめに」には,「本研究会においては,・・・民事裁判手続が国民のためにあるものであり,民事裁判手続のIT化も,国民目線で国民の司法アクセスを向上させ,国民の期待に応える民事訴訟を実現するために行うものであること,他方においてIT化をすることが自己目的となり,高齢者や障害者,さらにはIT機器を保有していない者やその操作に習熟していない者の権利を害することがないようにすることに留意しつつ検討を行った」と明記されている。 2 当連合会も,民事訴訟制度を国民に利用しやすくする,司法アクセスを向上させ,国民の期待に応えることに賛同するものであり,この点は,既に2020年(令和2年)6月18日,「民事裁判手続等IT化研究会報告書−民事裁判手続のIT化の実現に向けて−」に対する意見書(以下「当連合会意見書」という。)をもって,裁判所へのアクセスを拡充し,審理を充実させ,適正かつ迅速な紛争解決を図るための方策の一つとして,裁判手続等のIT化を重要な課題と位置付け,これを推進すべきであると公表したところである。  他方,研究会報告書が指摘するとおり,IT化を自己目的化することは許されないのであって,当連合会意見書では,研究会報告書の目指す基本的方向性に賛意を表すると同時に,次の点に特に留意すべきであると主張した。 @ 裁判手続等のIT化を審理の充実,紛争の適正・迅速な解決の手段と位置付ける以上,裁判の公開,直接主義,処分権主義等の民事裁判における諸原則との整合性を図ること。 A 利用者が安心してIT化された裁判手続等を利用できるためには,情報セキュリティ(情報の機密性,完全性,可用性)を確保し,プライバシーや営業秘密を保護する法制度とシステムの確立が不可欠であること。 B 裁判所へのアクセスを拡充し,身近で利用しやすい民事裁判を実現するという視点から,IT機器を保有しない者やその取扱いに習熟しない者にも配慮した手続や支援制度の構築が求められるし,支部の統廃合など司法過疎を拡大する方向での議論は厳に慎まれるべきこと。 C 裁判手続等のIT化は非弁活動の温床を生む危険性を秘めており,その弊害を生じさせない制度設計が必要であること。 D IT化を契機として,審理の充実,適正・迅速な紛争解決の観点から,民事裁判手続等の審理の在り方を再検証し,その改善を図るとともに,運用等の改善を続けていくべきであること。 E 法改正後に導入される事件管理システムは,国民の裁判を受ける権利を実質的に保障するために十分な性能を備えた利便性の高いものでなければならず,その開発・構築に当たっては,実際に利用した者の意見,なかんずく最大の利用者である弁護士の強制加入団体たる当連合会の意見を尊重し,不断の改善を図る必要があること。 3 当連合会は,上記の基本的観点に立脚し,「中間試案」の提案ごとに,当連合会が目指す民事裁判手続等のIT化の方向性と一致しているものについては評価し,そうでないものについては修正ないし反対の意見を表明する。  今回の民事訴訟法改正の審議においては,当連合会が重視している上記基本的観点に沿った議論が十分に行われ,司法アクセスを拡充し,真に身近で利用しやすい民事裁判を実現する法制度が創設されることを強く要望する。 第1 総論  1 インターネットを用いてする申立てによらなければならない場合  訴えの提起等裁判所に対する申立て等のうち書面等をもってするものとされているものについて,電子情報処理組織を用いてすることができるものとした上で,電子情報処理組織を用いてしなければならない場合について,次のいずれかの案によるものとする。   【甲案】  申立てその他の申述(証拠となるべきものの写しの提出を含む。以下「申立て等」という。)のうち書面等(書面,書類,文書,謄本,抄本,正本,副本,複本その他文字,図形等人の知覚によって認識することができる情報が記載された紙その他の有体物をいう。以下本項において同じ。)をもってするものとされているものについては,電子情報処理組織(裁判所の使用に係る電子計算機(入出力装置を含む。以下同じ。)と申立て等をする者の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。以下同じ。)を用いてしなければならない。ただし,委任を受けた訴訟代理人(民事訴訟法(以下「法」という。)第54条第1項ただし書に規定する訴訟代理人を除く。以下本項において同じ。)以外の者にあっては,電子情報処理組織を用いてすることができないやむを得ない事情があると認めるときは,この限りでない。   【乙案】  申立て等のうち書面等をもってするものとされているものについては,委任を受けた訴訟代理人があるときは,電子情報処理組織を用いてしなければならない。   【丙案】  電子情報処理組織を用いてしなければならない場合を設けない(電子情報処理組織を用いてする申立て等と書面等による申立て等とを任意に選択することができる。)。 (注1)甲案から丙案までのいずれかの案によるものとする考え方に加えて,国民におけるITの浸透度,本人サポートの充実度,更には裁判所のシステムの利用環境等の事情を考慮して,国民の司法アクセスが後退しないことを条件として甲案を実現することを目指しつつ,まずは,法第132条の10の最高裁判所規則を定めて利用者がインターネットを用いた申立て等と書面等による申立て等を任意に選択することができることとすることにより,丙案の内容を実質的に実現した上で,その後段階的に(乙案を経て)甲案を実現するものとする考え方がある。 (注2)乙案において訴訟代理人がない場合の当事者や丙案において当事者及び訴訟代理人が一旦インターネットを用いてする申立て等によったとき(丙案において,インターネットを用いてする申立て等をした訴訟代理人が辞任し,又は解任された等訴訟代理人がないこととなった場合であって,当事者が通知アドレス(本文第3の1(1))の届出をしていなかったときを除く。)は,その事件が完結するまではインターネットを用いてする申立て等によらなければならないものとする。 (注3)甲案において,当事者本人から訴状が書面等によって提出されたときの書面等の取扱いについて,訴状審査権に類する審査権を創設し,一旦受付をした上で,書面等を用いる申立て等をすることができる例外に当たるかどうかの判断,すなわち方式の遵守の有無に関する審査をし,方式違反の場合には補正の機会を与えるものとする。  また,甲案及び乙案において,訴訟代理人から訴状が書面等によって提出されたときは,直ちに却下することができるものとするとの考え方と,当事者本人から訴状が書面等によって提出されたときと同様に一旦受付をした上で,インターネットを用いてする申立て等による補正の機会を与えるものとする考え方がある。  さらに,本人及び訴訟代理人から提出された答弁書についても同様に方式の遵守の有無に関する審査の制度を創設して審査をするものとする考え方がある。 (注4)(注3)で本人及び訴訟代理人から訴状が書面等によって提出されたときに一旦受付をすることとする考え方を採った場合や裁判所のシステムの故障の間に訴状が書面等によって提出されたときに一旦受付をすることとする考え方を採った場合において,書面等で提出された訴状についてインターネットを用いてする申立て等による補正がされたときは,書面等で提出された訴状の提出を基準として時効の完成猶予効を認めるものとする。  また,そのような考え方を採った上で,さらに,期間の満了の時に当たり,裁判所のシステムの故障により裁判上の請求(民法(明治29年法律第89号)第147条第1項第1号),支払督促(同項第2号)及び法第275条第1項の和解(民法第147条第1項第3号)に係る手続を行うことができないとき(天災その他避けることのできない事変によりこれらの手続を行うことができないときを除く。)は,その事由が消滅した時から1週間を経過するまでの間は,時効は,完成しない旨の規定を設けるものとする考え方がある。 (注5)甲案及び乙案に記載の訴訟代理人について,委任を受けた訴訟代理人に加えて法令上の訴訟代理人を含むかどうかについては引き続き検討するものとする。 【意見】  1 甲案,乙案,丙案のいずれかの案によるのではなく,まず丙案を施行し,次に,事件管理システムの使いやすさや安定性・信頼性の確保,訴訟代理人による事件管理システムの習熟,事務職員がオンライン申立て等に係る事務を行える制度の整備が実現された段階で乙案を施行し,その後,裁判所による適切な事件管理システム及び通信環境の構築,市民におけるIT機器の浸透,更に非弁の温床とならない適切な担い手による充実したITサポートの全国的な展開が確保され,国会において,原則として誰でもオンライン申立てに対応できるという検証を経た後に,法曹三者における自律的判断を尊重しつつ,甲案の施行の可否及びその時期を国会の議決で決めるべきである。  2 甲案に例外規定を設けることに賛成する。ただし,甲案の例外は,裁判を受ける権利を保障するために,できるだけ広く認めるべきである。    乙案に例外規定を設けないことに反対する。 3 (注1)については,前記1より段階的に実施することに賛成するが,乙案及び甲案の施行は前記1によるべきである。  4 (注2)の考え方に賛成する。  5 (注3)については,インターネットを用いてする申立てによらなければならない場合において,訴状が書面によって提出されたときの書面の取扱いは,(注3)の考え方に賛成する。甲案及び乙案において,訴訟代理人から訴状が書面によって提出されたときは,当事者本人から訴状が書面によって提出されたときと同様に一旦受付をした上で,インターネットを用いてする申立てによる補正の機会を与えるものとする考え方に賛成する。また,本人及び訴訟代理人から提出された答弁書についても同様に方式の遵守の有無に関する審査の制度を創設して審査をするものとする考え方に賛成する。 6 (注4)に賛成する。ただし,救済の事由を裁判所のシステム故障に限定するのではなく,当事者の責に帰することができない電子情報処理組織の障害等を含む規定とするべきである。また,救済の対象も,時効完成猶予だけでなく,出訴期間等の延長にも広げるべきである。 7 (注5)については,引き続き検討することに賛成する。 【理由】  1 電子情報処理組織を用いてしなければならない場合   (1) 段階的実施の採用    ア 当連合会の意見  申立て等のうち書面等をもってするものとされているものについて,電子情報処理組織を用いてしなければならない場合(以下「オンライン申立ての義務化」という。)について,当連合会は次のとおり意見を述べた。すなわち,丙案を相当の期間認め,訴訟代理人がオンライン申立てに習熟し弁護士事務所の事務職員がオンライン申立て等に係る事務を行える制度が整備されたことを慎重に見極めた上で,訴訟代理人についてのみオンライン申立ての義務化をし,当事者本人を含む民事裁判手続等の利用者全体にオンライン申立てを原則義務化することについては,書面による申立てを許容する例外規定の整備,裁判所による適切な事件管理システム及び通信環境の構築,市民におけるIT機器の浸透,更に適切な担い手による充実したITサポートの全国的な展開が前提となって初めて認められるべきであるというものである(当連合会意見書3頁以下)。この時点の意見は,現在も変わらない。 イ オンライン申立ての義務化の前提条件  オンライン申立ては,例えば,書面申立てと比較して時間的制約が減る,自宅・事務所を問わず申立て等ができる点で場所的制約もなくなるなど,当事者の利便性を増し,ひいては裁判を受ける権利の拡充につながる。また,訴訟記録の電子化は,迅速かつ効率的な争点整理に対する貢献,参照・検索等の容易化,障がい者の訴訟記録の利用の支援,書面の印刷・提出・保管等の管理コストの低減をもたらすなど,利用者に大きなメリットがある。  一方,オンライン申立てを市民一般に義務化するには,その前提として,利用しやすい電子情報処理組織の構築,裁判所内におけるIT環境の整備(パソコンの設置など)及びこれに対応する人員整備,ユーザーガイドの作成,充実したサポート体制の構築などが必要であるが(研究会報告書14頁以下),現状では,オンライン申立てに利用される電子情報処理組織が構築されておらず,安定的に利用しやすいものとなっているか否かを検証できない。また,地方裁判所本庁・支部,簡易裁判所の裁判所内におけるIT環境の整備(パソコンの設置など),これに対応する人員体制,ユーザーガイドの作成なども全く明らかになってない。憲法で裁判を受ける権利が保障されている以上は,国がこれらの前提条件を整備しなければならないのは当然である。  これらの点が明確でない現状下では,弁護士会及び弁護士がオンラインの義務化に伴う具体的なサポート体制を提言しようにも,これを提言できない状況にある。しかし,適切な担い手によるサポート体制を構築しなければ,非弁活動(弁護士法第72条によって禁止される弁護士でない者が報酬目的で行う法律事務の取扱行為又は訴訟事件や債務整理事件等の周旋行為)の温床となり,ひいては当事者の裁判を受ける権利が保障されないという重大な問題を惹起するので,サポート体制の構築はオンライン申立ての義務化の前提条件として検討しなければならない。  また,オンライン申立てに利用される電子情報処理組織の構築においては,弁護士の利用が最も多いので,当連合会と協議しながら,誰でも利用しやすいものが構築されるべきである。    ウ 段階的実施の立法化  以上から,オンライン申立ての義務化の前提条件を確認できない以上,現時点で,直ちに甲案や乙案のみを立法化し施行することは,許されない。さりとて前提条件の確認を経た段階で,新たに甲案や乙案の内容を定めた法律を制定するのでは,前提条件の整備を含めた裁判のIT化の制度設計を統一的に進めることはできず,前記のメリットの享受を遅らせかねない。そこで,今般の改正では,義務化の段階的実施を法律で定めておき,その施行時期については,まず丙案を施行し,義務化の前提条件の整備を慎重に見極めた上で,乙案,甲案と順次段階的に施行していくべきである。   (2) 乙案及び甲案の各施行時期について    ア 乙案の施行時期  乙案の施行時期は,丙案が実施された後に,訴訟当事者の裁判を受ける権利を保障するために,利便性,安定性及び信頼性を充たす事件管理システムの構築を前提として,訴訟代理人がオンライン申立てを習熟できるための十分な期間を設けるべきである。附則においてその一定期間をどの程度定めるかは,義務化の前提条件を確認できない現時点では一概には言えない。どのような電子情報処理組織が構築されるのか明らかではないし,また当連合会意見書で指摘している,弁護士事務所の事務職員に対するオンライン申立てを補助できるアカウントの設定についても,設定されるのか否か,設定されるとしてどのような権能を持つアカウントが設定されるのかが不明である。  したがって,これらの議論が進み,改めて上記の前提条件の実現の状況を確認した段階で,訴訟代理人がオンライン申立てを習熟できるために必要な周知期間及び準備期間を勘案して,施行時期を検討すべきである。その際には,段階をおってIT化を進めてきたドイツ,フランス,アメリカなど諸外国の例も十分に参照されるべきである。    イ 甲案の施行時期  甲案はオンライン申立ての義務化を訴訟代理人がついていない本人訴訟に拡張するものであり,裁判を受ける権利に直接影響するので,その権利を保障する点から,施行するか否か,施行するとしてその時期を何時にするかは慎重に検討すべきである。慎重な検討を要することは,内閣府の「民事裁判IT化に関する世論調査」(令和2年9月調査)において,オンライン申立ての義務化に「反対である」「どちらかといえば反対である」という回答が51.7%を占めている現状からして,当然であるといえる。  したがって,甲案の施行の可否及びその時期は,今回の民事訴訟法の改正とは別に,国民を代表する国会において議論し議決すべきである。具体的には,国会において,前記(1)のオンライン申立ての義務化の前提条件を定期的に検証し,原則として誰でもオンライン申立てができる段階に到達しているか否かを確認した上で,法曹三者における自律的判断を尊重しつつ,甲案の施行の可否及びその時期を国会で議論し議決すべきである。例えば,本則で甲案を,附則で「実施に当たっては,環境整備等の進捗状況を検証した後に,まず乙案を先行させる」旨を定めておくなどして,甲案の施行に国会の議決を必要とすべきである。  2 甲案及び乙案の例外規定について   (1) 甲案の例外規定  甲案の例外規定は,裁判を受ける権利を保障する意味から,できる限り広い範囲で書面申立てができるような文言にすべきである。中間試案では,甲案の例外について,「ただし,委任を受けた訴訟代理人(民事訴訟法(以下「法」という。)第54条第1項ただし書に規定する訴訟代理人は除く。以下本項において同じ。)以外の者にあっては,電子情報処理組織を用いてすることができないやむを得ない事情があると認めるときは,この限りでない。」と定めている。しかし,「やむを得ない事情」では,文言上,限定的に解される可能性が高く,ひいては裁判を受ける権利の保障がなされないことになる。  したがって,「やむを得ない」を削除し,「電子情報処理組織を用いてすることができない事情」とすべきである。そして,解釈の指針を示すことも検討すべきである。例示案としては,「電子情報処理機器を保有しない者,電子情報処理組織の利用が困難な者」などが考えられる。   (2) 乙案の例外規定  中間試案では,乙案の例外を認めないが,訴訟代理人となる弁護士は千差万別であるし,弁護士に委任した訴訟当事者の裁判を受ける権利は,そのような弁護士の訴訟活動を通して実現される。仮に,オンライン申立てをすることができない弁護士がいるとすれば,書面等による申立てを認めなければ,訴訟当事者の裁判を受ける権利が保障されないことになる。  したがって,乙案においても例外を設けるべきであるが,乙案は,電子情報処理組織が安定的に利用しやすいものであることを前提に,オンライン申立てに習熟できる一定の期間を経た後に実施されるのであるから,甲案よりも例外の範囲は限定されたものであって差し支えない。  以上から,「電子情報処理組織を用いてすることができない正当な理由があるときは,この限りではない。」というような例外条項を検討すべきである。  3 (注1)について  前記1のとおりであるので,段階的に実施することには賛成するが,乙案及び甲案の施行時期は前記1によるべきである。 4 (注2)について    事件管理システムに登録している以上,電子情報処理組織を用いて訴訟活動をすることができると考えられるので,(注2)に賛成する。  5 (注3)について  甲案において,訴状が書面によって提出されたときの書面の取扱いについては,甲案の例外に該当するか否かの判断は,単なる形式判断ではなく,裁判を受ける権利が保障されるか否かに関連するので,(注3)の訴状審査権に類する審査権の創設には賛成するが,裁判官が審査することにすべきである。  甲案及び乙案において,訴訟代理人から訴状が書面によって提出された時は,当事者本人から訴状が書面によって提出されたときと同様に一旦受付をした上で,インターネットを用いてする申立てによる補正の機会を与えるものとする考え方に賛成する。乙案には例外を設けるべきであるので,例外に当たるか否かの判断をする必要があるし,仮に訴訟代理人が例外なくオンライン申立ての義務化の対象となったとしても,裁判所の内外におけるシステム障害によって,訴訟代理人がオンラインの申立てができないような事態が起こることは容易に想定できるからである。  また,本人及び訴訟代理人から提出された答弁書についても,答弁書が提出扱いにならないと,第一回口頭弁論期日で結審をされたりするなどの不利益を被る可能性があるので,訴状と同様に方式の遵守の有無に関する審査の制度を創設して審査をするという考え方に賛成する  6 (注4)について   (1) 消滅時効期間の延長を認める必要性  (注3)で示されたように,一旦書面での提出を認めた上で,事後的にオンライン提出を行うことによる補正を認め,書面提出時に遡って時効完成猶予効を生じさせれば,これとは別に裁判所のシステム故障を理由とする消滅時効期間の延長を認める必要はないようにも思える。しかし,オンライン提出をしようと考えていた当事者が,いざ申立て等をしようとした際に何らかの障害等に遭遇し,オンライン提出ができず,かつ,郵送や持参によったのでは時効期間を経過してしまうという事態も生じ得る。このような状況では,書面の提出自体が不可能であるから,その提出を前提に後の補正を認めるだけでは救済として不十分であり,これに加えて,故障等の復旧後一定期間オンライン提出を認める規律を設けるべきである。  この考え方に対しては,消滅時効の完成直前にオンライン提出を行うこと自体が問題であり,そのような行動を行った者には要保護性を欠くとの考え方もあり得る。しかし,オンライン提出が可能となった暁には,(郵送や裁判所への持参では間に合わないが)オンライン申立てによって時効完成を阻止しようと考える者が現れても不自然でないし,このような信頼は保護して然るべきである。  なお,オンライン提出による補正を認めることと,消滅時効期間の延長を認めることは,それぞれ訴訟法上の効果,実体法上の効果を付与するものであり,両立は可能と思われる。部会では,理論的な整合に留意しつつ検討がなされるべきである。   (2) 救済の事由について  中間試案は,裁判所のシステムに故障があった場合も時効完成猶予効に関する手当てを認めようとするが,それは当事者の責に帰することができない事由に当たると考えられるからであろう。この点は,ネットワーク障害等にも妥当するから,救済対象を裁判所のシステム故障に限定するのは妥当ではない。もっとも,大規模なネットワーク障害の発生時は,民法第161条の「天災その他避けることのできない事変」に該当するとして,消滅時効期間の延長が認められる場合もあろう。しかし,いわゆるラストワンマイルといわれる各家庭への引込線のケーブル劣化などでは,極めて限定的な場所でネットワーク障害が生じるため,天災等の事変に該当するとは言い難く,同条とは別の延長制度を設ける必要性は高い。  他方,救済対象を広く電子情報処理組織の障害とすると,当事者の保有するコンピュータのメンテナンス不足等の当事者の責に帰するべき事由がある場合にも救済がなされることになり不公正である。したがって,電子情報処理組織の障害について当事者に帰責性がある場合は救済しないとするなど,両当事者の利害のバランスを図った規定を設けるべきである。   (3) 出訴期間に関する救済の必要性  中間試案は,救済対象として消滅時効期間を徒過する場合を掲げるが,システム故障等により申立てができないことの不利益は,このほかにも控訴,上告又は抗告等の不変期間を徒過する場合,詐害行為取消権等の出訴期間を徒過する場合にも生じ得る。この点,不変期間の徒過については,法第97条の適用で救済が可能としても,システム故障等が当事者の「責に帰することができない事由」に該当するか否かが明確でなく,システム故障等が生じた場合に控訴等を可能にすることが必要である。また,出訴期間に関しては,不変期間のような救済規定はなく,民法改正により消滅時効とは異なる法的性質のものであることが明確化されたので,時効完成猶予効の付与と並列的に救済対象として列挙する必要がある。  7 (注5)について  法令上の訴訟代理人(支配人,船長等)について,法律の専門家たる弁護士と同様に評価してよいのかは検討する必要があるので,引き続き検討することに賛成する。 2 インターネットを用いて裁判所のシステムにアップロードすることができる電磁的記録に係るファイル形式  電子情報処理組織を用いて裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係るファイル形式について,次のような規律を設けるものとする。 (1) 電子情報処理組織を用いて裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録することができる電磁的記録に係るファイル形式は,解読方法が標準化されているものとする。 (2) 裁判所は,必要と認める場合において,当事者が電子情報処理組織を用いて裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録したものに係るファイル形式と異なる他のファイル形式の電磁的記録を有しているときは,その者に対し,当該他のファイル形式の電磁的記録を提供することを求めることができる。 (注1)当事者又はその代理人が身体の障害により相手方が提出した電磁的記録を読み取ることができない場合であって,当該電磁的記録を提出した者が音声情報に変換可能な情報を有する電磁的記録を提出することができるときは,裁判所は,当事者の申立てにより,当該電磁的記録を提出した者に対し,音声情報に変換可能な情報を有する電磁的記録を提供することを求めることができるとの規律を設けるものとする考え方がある。 (注2)容量の大きな電磁的記録の提出や,証拠となるべきものの写しに係るファイル形式が本文(1)に規定するものに該当しない場合の提出に関する規律について,引き続き検討するものとする。   【意見】 1 (1)に賛成する。ただし,証拠については,ファイル形式の制限を設けるべきでない。また,「標準化されている」という用語は誤解を招くおそれがあるので,使用するべきではない。  2 (2)に賛成する。 3 (注1)の考え方に賛成する。ただし,提出を求めることができる電磁的記録を,音声情報に限定せず,障がい者の訴訟追行に有益と認められる情報を有する電磁的記録とすべきである。 4 (注2)について,容量の大きな電磁的記録についてもできる限り提出を可能としつつ,一定の限度を定めてそれを超える容量の電磁的記録については,DVD等の媒体による提出を認めるべきである。  証拠については,電磁的記録の種類を限定すべきではない。 【理由】  1 主張書面の電磁的記録の種類((1)について)  主張書面については,提出された電子データによる主張書面を,裁判所及び相手方が汎用性のあるソフトウェアで閲読できなければ,裁判所の審理及び当事者の攻撃防御に支障が生ずるので,一定の汎用性が認められるものに限定することが必要である。そのような趣旨から,標準的なファイル形式のものに限定すべきという趣旨では,中間試案に賛成である。  中間試案は「解読方法が標準化されているもの」としているが,「標準化」という用語は,ISO(国際標準化機構)やJISC(日本産業標準調査会)のような標準化を行う団体や組織が一定の標準的規律を設定することを示すことが多い。そして,一般に広く使用されていて汎用性のある文書作成ソフトウェア(Microsoft Word等)のファイル形式は,これらの標準化団体が標準化したものではないが,主張書面として採用する必要性が高いので,中間試案の「解読方法が標準化さているもの」という用語法は適当ではない。現実にファイル形式を限定する際には,法律ではなく最高裁判所規則で定めることが想定されるので,「広く使用されているファイル形式として最高裁判所規則で定めるもの」といった用語を使用するべきである。  なお,(注2)において,証拠となるべきものの写しに関しては引き続き検討するとされているので,(1)で論じられている電磁的記録は主張書面を対象としているものと解され,本意見もそのような理解を前提としている。  2 証拠等の電子データの種類や提出方法((注2)について) (1) (注2)前段は,容量の大きな電磁的記録の提出方法を引き続き検討するとしているが,容量が大きいからといって証拠としての価値がないわけではないから,容量の大きさの故だけで証拠提出を制限するべきではない。ただ,事件管理システムの技術的制限上,アップロードできる電磁的記録の容量に制限を設けざるを得ないことも確かなので,一定の容量を超える電磁的記録については,DVD等の媒体に格納して提出することを認めるべきである。なお,事件管理システムにアップロードできる電磁的記録の容量に上限を設けるとしても,昨今のハードディスクやクラウドサービスの価格は低下しているので,可能な限り高い上限を設定するべきである。 (2) (注2)後段は,証拠となるべきものの写しとして提出する電磁的記録のファイル形式を引き続き検討するとしている。しかし,公に標準化されていないもの又は標準的なファイル形式とはいえないものが証拠価値を有さない訳ではないから,これを証拠提出の要件とするのは適切でない。例えば,プログラムの契約不適合を争う場合には,当該プログラムの実行形式を証拠として提出する必要があるが,それらは当事者特有の目的のために作成されており,標準的なファイル形式には該当しないが,証拠として取り調べる必要性は高い。また,汎用性のあるソフトウェア(Microsoft Word,Microsoft Excel等)で作成された電磁的記録が証拠とされる場合もあるが,それらも標準化された形式ではないが,裁判所のシステムにアップロードしておく必要性がある。そして,証拠調べの事前の提出として,これらの標準的でないファイル形式で保存された電磁的記録に係る情報の写しを提出する場合であっても,当該電磁的記録の複製(ファイル形式は従前のものと同一)をそのままアップロードしておくのが便利なこともある。もちろん,汎用性がないファイル形式の電磁的記録を裁判所のシステムにアップロードした場合に,証拠申出をした当事者が何ら閲読等の策を講じなければアップロードが無駄に終わることもあり得るが,裁判所及び相手方が解読可能となる措置を講じることも可能であり,このような措置を講じ得なければ証拠力を認めないという扱いで足りる。したがって,セキュリティに対する配慮は必要ながら,汎用性の欠如をもって,一律に証拠となるべきものの写しとしての提出そのものを制限する理由とするのは妥当でない。  3 他の種類の電磁的記録の提出((2)について)  中間試案の本文(2)で述べられているように,提出された電磁的記録の再利用による審理や訴訟追行の効率化のため,裁判所が当事者に対し,PDF形式に変換される前の保存形式の電磁的記録の提出を求め得るとするべきである。  4 障がい者のため他の種類の電磁的記録の提出((注1)について)  視聴覚障がい者による円滑な訴訟活動を実現するために,音声データに変換可能な電磁的記録の提出を可能とする規定を設けることは有用であるから,中間試案の示す方向性に賛成する。  ただし,障害には多様なものがあり,障害の種類や程度により求められる電磁的記録の内容も異なる。例えば,色覚異常者に対しては,色使いに配慮した主張書面の提出が有益なことがあるし,視覚障がい者に対しても,ときに適切な読上順序を制御するタグの付いたPDFの提出が望ましいことがある。したがって,電磁的記録の提出者が所持する限り,裁判所が提出を求め得る電磁的記録の種類を音声情報に変換可能な情報を有する電磁的記録に限定する必要はない。多様な障害に対応できるよう,障がい者の訴訟追行に有益と認められる情報を有する電子データを広く対象とする規定とすべきである。  3 訴訟記録の電子化 (1) 訴訟記録は裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録されたものによるものとする。 (2) 書面で提出されたものを裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録することについて,次のような規律を設けるものとする。 ア 裁判所は,書面で提出された訴状及び準備書面並びに証拠となるべきものの写しについて,裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する。 イ 裁判所は,書面で提出されたアのものを【アによりファイルに記録された日からその後の最初の期日が終了するまでの間】【アによりファイルに記録した旨の通知の日から一定期間(例えば2週間)】保管しなければならない。 (注1)書面を提出した者は,その書面が裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに正確に記録されていない場合には,再度,裁判所に対して同ファイルに記録することを求めることができるものとする。 (注2)本文1における甲案,乙案及び丙案のいずれの場合においても,裁判所に書面を用いた申立て等をする当事者からは,当事者が提出した書面を電子化し訴訟記録の一部とする役務の対価として,手数料を徴収することについても,引き続き検討するものとする。 【意見】  1 (1)に賛成する。  2 (2)アに賛成する。  同イに賛成する。ただし,書面の保管期間は,ファイルに記録された直後の期日が経過するまでの間又は記録した旨の通知の日から一定期間のいずれか遅い方とすべきである。    (注1)に賛成する。    (注2)を引き続き検討することに反対する。 【理由】  1 訴訟記録の電子化  訴訟記録の電子化には,裁判所及び当事者の保管コストを減らせる,検索・再利用の利便性が高く,迅速かつ効率的な訴訟追行や訴訟運営を可能とする,移送,上訴等により係属裁判所が変わる場合も迅速な訴訟記録の利用を可能とする,どこでも訴訟記録にアクセスでき,事件記録の運搬の負担が減るほか,場所を問わずに執務を可能とし,感染症の拡大防止,災害発生時の業務継続,ワーク・ライフ・バランスの実現に資するなどのメリットがある。このように訴訟記録の電子化には大きなメリットがあり,訴訟記録の電子化に賛成する。  2 裁判所による書面の電子化  訴訟記録の電子化のメリットは,できるだけ多くの訴訟記録を電子化することにより実現されるので,書面で提出されたものも電子化して保管するべきである。また,提出された書面をそのままの状態で保管すると,書面と電磁的記録の訴訟記録が併存し,かえって管理コストを増大しかねないから,書面を保管する期間を制限することにも合理性がある。  なお,書面の電子化には一定のコストがかかるので,利便性の高い事件管理システムの構築によりオンライン申立ての利用者を増やすといった工夫のほかに,韓国のようにオンライン申立ての手数料の低額化によりインセンティブを設けることを検討すべきである。また,書面の電子化は比較的単純な作業であるから,必ずしも裁判所書記官等が行う必要はなく,秘密の漏洩を防止しつつ,外部委託による効率化も検討されてよい。  3 書面の保管期間  書面の電子化が完全かつ正確になされるとは限らないから,当事者による確認の期間を確保するため,書面の電子化後の一定期間書面を保管する必要がある。  次に,保管期間について,電子化がなされた直後の期日が経過するまでの間とする案と,電子化を行った旨の通知の日から一定期間(例えば2週間)とする案の2案が提示されている。書面を提出する当事者の多くは,裁判所に備え付けられたコンピュータ等で電子化された訴訟記録の内容を確認することが想定され,そのような当事者に直近の期日より前に出頭して確認を求めるのは酷である。したがって,書面を保管する期間は,最低でも事件記録がファイルに記録された直後の期日まで確保すべきであるが,記録された日から直近の期日までの期間が短いこともあり得るから,ファイルに記録された直後の期日が経過するまでの間又は記録した旨の通知の日から一定期間のいずれか遅い方をもって,提出書面の保管期間の終期とすべきである。  4 記録訂正の機会の確保 当事者が電子化の当否を確認した結果,電子化に漏れや過誤があると判明した場合は,当事者に訂正を求める機会を確保すべきであり,当事者にそのための権利を付与すべきである。  5 電子化の役務の対価  書面の電子化には一定の役務を要し,それを書面提出者の負担とする考え方もあり得る。しかし,これを当該提出者に負担させたのでは,かえって民事訴訟手続のIT化が手続利用者に負担を強いることになってしまう。特に,書面提出者の中には一定割合でIT機器を保有しない経済的弱者が存在すると想定され,そのような当事者に手数料の負担を求めることは,裁判を受ける権利の侵害につながりかねない。さらに,甲案の例外に該当するときは,当事者に書面提出の権限が認められているのであり,それにもかかわらず提出した書面の電子化に役務の対価の負担を求められれば,その権利性を否定するに等しい。書面の電子化にコストがかかるのは確かだが,電子化は総体としての裁判所の事務コストを削減することに資すること,前記2の方法で可及的に書面提出を減らす方策を講ずべきことを踏まえると,書面提出者に電子化のための対価を徴収することには賛成できない。  これに対し,上記理由2においてオンライン申立ての手数料の低額化によりインセンティブを付与すべきとしていることと矛盾するのではないかとの考え方もある。しかし,上記理由2におけるインセンティブは自発的に申立てを行う者に対して与えられるものであるが,ここで問題とされる書面で提出せざるを得ない者の中には,申立てを受けて対応せざるを得ない者も含まれる。また,申立費用の低額化によりインセンティブを与えるのは本来支払わなければならない費用の減額というメリットを与えるものであるのに対し,別途費用を徴収するのは従来負担しなくてもよかった費用を付加的に徴収するものであるから,その性格が自ずから異なるものであると言える。 第2 訴えの提起,準備書面の提出  電子情報処理組織を用いてする訴えの提起及び準備書面の提出は,最高裁判所規則で定めるところにより,裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに電子訴状及び電子準備書面を記録する方法によりするものとする。 (注1)インターネットを用いて訴えの提起及び準備書面の提出をする者の本人確認に関する規律の在り方について,引き続き検討するものとする。 (注2)濫用的な訴えの提起を防止するための方策として,訴訟救助の申立ての有無にかかわらず,訴えを提起する際には,一律に,例えば数百円程度のデポジットを支払わなければならないという規律を設けることや,訴え提起手数料を納付すべきであるのに一定期間を経過しても一切納付されない場合には,納付命令を経ることなく命令により訴状を却下しなければならず,この命令に対しては即時抗告をすることができないという規律を設けることについて,引き続き検討するものとする。 【意見】  1 本文に賛成する。   なお,提出した電子準備書面等といえども,裁判所が相当と認める場合には,当事者の申出により,陳述前に限り,電子的ファイルに記録された電子準備書面情報の抹消による書面提出の撤回を認めるべきである。  2 (注1)の規律の在り方を引き続き検討することに賛成する。 3 (注2)のうちデポジットの納付を義務付ける規律には反対する。訴え提起手数料を納付すべきであるのに一定期間を経過しても一切納付されない場合に,納付命令を経ることなく命令により訴状を却下し,この命令に即時抗告を認めない規律については,引き続き慎重に検討すべきである。   【理由】  1 電子訴状及び電子準備書面の提出方法   (1) 提案に対する基本的意見  本提案は,当事者がいわゆるオンラインを通じて電子訴状及び電子準備書面(以下「電子訴状等」という。)を提出するに当たり,裁判所の使用に係る電子計算機のファイルに記録を求めるもので,法第132条の10第3項を踏襲しており,賛成である。   (2) 電子訴状等の提出の撤回  部会においては,オンラインによる電子訴状等の提出に当たり,一旦保存された電子訴状等の非改変性確保に関する議論がなされているため,念のため意見を述べる。  記録された電子訴状等を原則的に改変できないようにする措置を講じることには賛成である。しかしながら,電子訴状等については,特に署名(記名)押印の省略(予定)とあいまって,当事者が,事件と無関係な書面や推敲中の書面を過って記録する可能性を否定できない。  これらの書面を撤回できないと,電子情報の複製容易性から当事者に回復困難な損害が生じるおそれがあるため,当事者の申出を踏まえ,裁判所が事件との関連性の欠如,書面としての未完成など撤回を相当と判断する場合には,裁判所が,陳述前に限って提出の撤回を認めるべきである。もっとも,訴状審査,期日外釈明等を通じて提出される電子訴状等に変遷があることを記録に残す必要もあるから,その要件等を検討すべきである。  2 電子訴状等の提出者の本人確認について   (1) 民事裁判手続のIT化に伴う本人確認の必要性の高まり  民事裁判手続のIT化に伴い,法廷や弁論準備室などでの対面による本人確認の機会が減り,事件管理システムにアクセスする人物を裁判所が特定することが困難になる。その上,提出すべき電子訴状等への署名(記名)押印が省略されると,なりすまし訴訟や第三者が不当に手続に介入する余地が増え,詐欺的な債務名義の取得,当事者の意に沿わない訴訟行為,更には非弁護士による訴訟追行の増大,裁判の質の低下をもたらしかねない。  したがって,民事裁判手続のIT化に伴い,第三者の不当な関与を排除する必要性は従来にも増して高まるのであり,電子訴状等のオンライン提出を認めることで非弁行為を招来することがないよう,可能な限りの立法的・技術的措置が講じられるべきであるから,電子訴状等の提出者の本人確認に関する規律の在り方については,引き続き検討すべきである。 (2) アカウント付与に際する本人確認の重要性  現行法下では,裁判所は,@訴状等の特別送達を通じた本人確認,A対面時における身分証明書の提示等によって本人確認を行っており,今後もこれらの有用性は高く,可能な限りこれらを続けるべきである(@については,IT化に伴う訴え提起通知書等の特別送達という方法で代替可能である)。  もっとも,事件管理システムに記録された電子訴状等の成立の真正は,本人しか知り得ないID及びパスワードを用いて事件管理システムにアクセスし提出されることで担保される見通しであり,そのため第三者による電子書面等の提出を排除するには,前述の本人確認とは別に,B上記プロセスの源流であるところのID及びパスワードの付与に際し,裁判所が当事者の本人確認を適宜適切に行うこと(さらにこれらの情報の第三者提供を禁止すること)が必要である。 (3) 本人確認の規律の在り方 ア ID及びパスワードの付与に際する本人確認の時期について,原告は電子訴状の提出によりID及びパスワードの発行を受ける時点で,また,被告は特別送達等により取得したアカウント情報を用いて電子答弁書を提出する時点で,それぞれ行うべきである。 イ 本人確認の手法としては,例えば身分証明書の電子的な写しを提出する方法などがあり得るが,今後の技術的改革によって更に効果的な本人確認手法の採用も考えられるし,アカウント使用時に適宜行われる多要素認証も本人確認の一助となるから,本人確認の具体的方法を規律することはかえって運用の硬直化を招き妥当ではない。  したがって,最高裁判所規則において,裁判所は,当事者が電子訴状等を提出するに際し,本人の確認をすべき旨の抽象的な規程を置くにとどめ,具体的な方法を実務に委ねるべきである。  3 濫用的な訴えの提起を防止するための方策   (1) 当事者に対する金銭的負担を求める提案について  濫用的な訴え提起を防止するための方策として,訴訟救助申立てや同申立ての回数を契機としてデポジットの納付を義務付ける方策等の提案を経て本提案に至ったが,いずれも貧困その他の理由により真に訴訟救助を必要とする当事者による訴え提起を困難にし,国民の裁判を受ける権利を阻害するものであるから反対である。  本提案は,すべての訴訟当事者(原告)にデポジット納付と手数料納付の二重の支払いを強い,煩瑣で手続的負担が大きい。その反面,現在,コピー料金や訴状の郵送料を負担して敢えて濫用的訴えを提起する者がいることを踏まえると,少額のデポジットが抑止的効果を生じ得るのか,その実効性に疑義がある。  現行法より当事者の負担を加重する方向で濫用的訴えの防止策を設けるのであれば,立法事実を確認の上,当該立法事実への方策として目的と手段の合理性を実証的に検証することが不可欠であるが,本提案はこの前提を欠くものと言わざるを得ない。  したがって,当事者にデポジット等の負担を求める方策については反対である。   (2) 納付命令の創設  濫用的訴え提起か否かを問わず,一定期間手数料を納付しない訴え提起に対し裁判所に納付命令を経ずに訴状却下命令権限を付与するとの考え方は,そもそも濫用的訴え提起の防止という目的に対する合理的な規律といえるか,法制審議会において十分に審議されていない。  現行法では,手数料の不納付に関する手続として,納付命令とこれに対する不服申立て(即時抗告及び再抗告)に加え,さらに不納付を理由とする訴え却下命令とこれに対する不服申立て(即時抗告及び再抗告)が認められ,理論上は6回にわたり審理を受ける機会が存在する。これら一連の手続が濫用的訴え提起に利用され,裁判所の人的資源の浪費の要因となっているならば,手数料不納付に合理性がないことが明白な事案に関する審理を合理化する考え方が,著しく不合理とまでは言えない。  しかしながら,手数料を一切納付しない事案が,必ずしも濫用的な訴えの提起といえるわけではない(最高裁第三小法廷平成27年9月18日判決・民集69巻6号1729頁参照)。また,手数料の不納付の要因は多様であって,訴額に対する訴訟当事者と裁判所の解釈の相違に起因することもあるから(最高裁第三小法廷平成17年3月29日決定・民集59巻2号477頁参照。ただし本事例では一部は納付済み。),手数料の全不納付を一律に濫用的訴えの提起とみなし,不納付の合理性を争う機会を全く排除するのは妥当でない。  以上から,前記の考え方を,特に要件面から慎重に審議を行うべきであり,適正な訴えを抑止する危険性が残るようであれば,この考えに基づく立法は断念すべきである。 第3 送達  1 システム送達  電子情報処理組織を利用した送達方法(以下「システム送達」という。)について,次のような規律を設けるものとする。 (1) 当事者,法定代理人又は訴訟代理人(以下本項,第4の2及び第12の4において「当事者等」という。)は,最高裁判所規則で定めるところにより,次に掲げる事項(以下「通知アドレス」という。)の届出をすることができる。 ア 電子メールアドレス(電子メール(特定の者に対し通信文その他の情報をその使用する電子計算機の映像面に表示されるようにすることにより伝達するための電気通信(有線,無線その他の電磁的方式により,符号,音又は影像を送り,伝え,又は受けることをいう。イにおいて同じ。)であって,最高裁判所規則で定める通信方式を用いるものをいう。)の利用者を識別するための文字,番号,記号その他の符号をいう。) イ アに掲げるもののほか,その受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信の利用者を識別するための文字,番号,記号その他の符号であって,最高裁判所規則で定めるもの (2) 通知アドレスの届出をした当事者等に対する送達は,法第99条及び法第101条の規定にかかわらず,裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに送達すべき電子書類を記録し,通知アドレスの届出をした当事者等が電子情報処理組織を用いてその電子書類の閲覧及び複製をすることができる状態に置き,通知アドレスの届出をした当事者等の通知アドレスにその旨を通知してする。 (3) (2)による送達は,通知アドレスの届出をした当事者等が電子情報処理組織を用いて送達すべき電子書類の閲覧又は複製をした時(通知アドレスの届出をした当事者等が二以上あるときは,最初に送達すべき電子書類の閲覧又は複製をした者に係る閲覧又は複製の時)にその効力を生ずる。 (4) 通知アドレスの届出をした当事者等が(2)の通知が発出された日から1週間を経過する日までに送達すべき電子書類の閲覧又は複製をしないときは,その日が経過した時にその電子書類の閲覧をしたものとみなす。 (注1)システム送達により訴状を送達することができる場面を拡大するためにどのような方策を講ずるべきかについては,実務の運用に委ねることとし,特段の規律を設けないものとする考え方がある。 (注2)裁判所のシステムを通じて提出された送達すべき電子書類を通知アドレスの届出をしていない当事者等に送達する場合の取扱いについては,提出当事者が当該電子書類の出力を行って裁判所に提出した書面によってするものとする考え方と,裁判所が自ら書面への出力を行った上でこれを送達するものとする考え方とがある。また,提出当事者において,送達に用いる書面につき,@自ら出力した書面を用いるか,A一定の手数料を納付することにより裁判所が出力した書面を用いるかを選択することができるものとする考え方がある。 (注3)送達すべき電子書類の閲覧又は複製をしない場合に関する特則(本文(4))を設ける場合に,送達を受けるべき者がその責めに帰すべき事由以外の事由により通知を受領することができず,又は送達すべき電子書類の閲覧又は複製をすることができなかったときの取扱いについては,引き続き検討するものとする。 (注4)当事者本人及びその訴訟代理人の双方が通知アドレスの届出をしている場合など,通知アドレスの届出をしている者が複数いる場合に,当事者等がその一部を送達を受けるべき者とする旨の届出をすることを認め,そのような届出があったときには,当該届出のあった者以外の当事者等について,システム送達の名宛人としないものとする考え方と,このような届出をすることを認めない考え方とがある。 【意見】 1 (1)及び(2)に賛成する。ただし,当事者等に通知アドレスの届出をさせるに当たっては,現行の民事訴訟規則(以下「規則」という。)第41条第3項に準じた規律を設けるべきである。 2 (3)に賛成する。 3 (4)に賛成する。ただし,送達の効果が受送達者の権利や法的地位に重大な影響を及ぼすものであって,かつ,当事者が将来の送達を予見できないようなものについては,「みなし規定」の対象とすべきではない。 4 (注1)の考えに賛成する。なお,訴訟詐欺等の弊害防止に十分な留意が必要である。 5 (注2)について,事件管理システムを通じて提出された送達すべき電子書類を通知アドレスの届出をしていない当事者に送達する場合,裁判所が書面へ出力した上でこれを送達する考え方に賛成する。また,書面の出力に当たっての手数料については,これを徴収すべきではない。 6 (注3)を引き続き検討することに賛成する。送達を受けるべき者がその責めに帰すべき事由以外の事由により通知を受領することができず,又は送達すべき電子書類の閲覧又は複製することができなかったときは,「みなし規定」を適用すべきではない。 7 (注4)について,一方当事者側に複数の者が通知アドレスを届け出ている場合,当事者等が受送達者をその一部の者に限定する旨の届出をし,その者に対してのみ送達をすることを選択できるものとする考え方に賛成する。 【理由】  1 システム送達の必要性  電子情報処理組織を利用した送達方法(以下「システム送達」という。)は,裁判所における送達事務の効率化のみならず,送達された書面の早期把握,電子データの再利用等の点で受送達者にとっても利便性が高く,これを導入する必要性は高い。したがって,システム送達の導入に賛成する。  ただし,当事者等に通知アドレスの届出をさせるに当たっては,当事者のサポート名下に無資格者が訴訟に関与しようとすることを可及的に防止すべく,中間試案の第2の(注1)において検討されるべき本人確認に付随する手続として,規則第41条第3項に準じて,当事者が保有するメールアカウントのメールアドレスかどうか,第三者の保有するアカウントのメールアドレスであればその者と当事者,法定代理人又は訴訟代理人との関係を明らかにするよう求める規律を設けるべきである。  2 システム送達の効力発生時点 (1) 一般的な規律  システム送達の効力が生じる時点につき,中間試案は,「電子情報処理組織を用いて送達すべき電子書類の閲覧又は複製をした時」とする。民事訴訟手続における送達の重要性に鑑みれば,事件管理システムのログにより,裁判所においても容易にその時点が特定及び確認することが可能な時点をもってシステム送達の効力発生時点とすべきであるところ,中間試案の補足説明(26頁)において,ウェブページにアクセスし,ブラウザ上において送達すべき電子書類の内容が表示され,これを閲読することができるようになった時点で「閲覧」したと認められることを前提としていることなども踏まえれば,中間試案の提案は基本的に相当である。   (2) 当事者等が二以上ある場合の規律 ア 一方当事者側に複数の者が通知アドレスを届け出た場合,全員が事件管理システムにアクセスして電子計算機に備えらえた送達すべき電子書類を閲覧できるのだから,全員の通知アドレスに宛てて電子書類に記録された情報を受けとることができる旨の通知をすべきである。  そして,この場合のシステム送達の効力発生時期については,中間試案が提案するように,いずれの者も受送達者としての地位にある以上,その一人が閲覧をした時点で送達の効力が発生すると考えることに基本的に賛成する。 イ もっとも,このように解すると,当事者及び訴訟代理人の双方が通知アドレスを届け出た場合,訴訟代理人が意図しないところで当事者が先行して閲覧し,そのことが訴訟代理人の訴訟行為に支障を来し,ひいては当事者本人が想定外の不利益を被ることもないではない。  そこで,原則として,最初に送達すべき電子書類が閲覧された時点で送達の効力が生じるとしつつも,(注4)で述べられているような,当事者等が受送達者をその一部の者に限定する旨の届出をしたときは,受送達者として届出された者に対してのみ送達のための通知が行われ,その者が送達すべき電子書類を閲覧した時点で送達の効力が生じるようにすることを選択できる旨の規律を設けるべきである。 ウ このような規律に対しては,受送達者としての届出をしない者が事件管理システムを通じて送達文書を閲覧することで,送達の効力を発生させないまま送達すべき電子書類の内容を了知でき,不当であるとの批判が考えられる。  しかし,受送達者として届出をした者が閲覧しない間は,他の当事者等を閲覧不能の状態に置くなど,不当な事態を回避することが考えられる。また,システム送達の導入後はみなし送達の規定も同時に設けられるはずであるから,判決の内容を了知しつつ送達の効力が生じない状態が長期化することはなく,弊害の程度は小さく,必ずしも前記の批判は当たらない。  3 いわゆる「みなし規定」について   (1) 「みなし規定」の必要性及び電子メールの信頼性の限界  システム送達による場合,受送達者が何らかの理由で事件管理システムにアクセスせず,送達文書を閲覧しないこともあり得るから,一定の条件の下で,受送達者が送達書面を閲覧し,もって送達がなされたものとみなす規定(以下「みなし規定」という。)を設ける必要がある。  その要件について,中間試案は,当事者の通知アドレス宛に送達書面が事件管理システムにアップロードされた旨の電子メールを発出した日を起算日として,一定期間の経過後に閲覧をしたものとみなすとする。しかし,電子メールは,必ず受信者のメールサーバに到達するとは限らず,その信頼性は必ずしも高くないし,サーバ等の状態によっては,発信から受信者の電子メールサーバに到達するまでに数日間を要することもある。したがって,このような要件は,技術的観点で適切とは言い難く,本来,受送達者が通知を受信した日を「みなし規定」の起算日とするべきである。  しかし,他方で,受送達者の通知アドレスに対する電子メールの到達の有無やその到達時刻を裁判所書記官が確認するのは困難であり,ときにはそれが不可能である。そのため中間試案のように通知の発信日をもって「みなし規定」の起算日とすることはやむを得ない側面もあり,これに反対するものではないが,受送達者に電子メールが届かないことを勘案して,(注3)にあるとおり受送達者の責めによらない事由により通知を受領することができなかった場合には「みなし規定」を適用しないものとするとともに,「みなし規定」の対象文書に制限を加えるべきである。  また,受送達者の責めによらない事由により,送達すべき電子書類にアクセスできなかった場合についても,通知を受領することができなかった場合と同様にみなし送達の効力を発生させるべき前提を欠くというべきであるから,「みなし規定」を適用すべきではない。   (2) 「みなし規定」の対象とすべきでないもの  前記のような電子メールの信頼性に限界があることを考慮すれば,少なくとも訴状,決定などその法的効果が受送達者の権利や法的地位に重大な影響を及ぼすものであって,かつ,当事者が将来の送達を予見できないようなものは,「みなし規定」の対象とするのではなく,発信日から一定期間を経過したにも関わらず受送達者において閲覧がなされず送達が完了しない場合には,従来どおりの書面による送達を行うべきである。なぜなら,将来の送達が予見不可能ないし困難なものについては,このような行動をとることができず,仮に電子メールの受信に気付いたとしても,一定期間(例えば7日)のうち残された期間内でこれに対する適切な対応を取り得ないこともあり得るからである。  一方,裁判の審理の過程で当事者が将来の送達を予見できるものについては,電子メールの着信を確認できないときに裁判所に問い合わせて送達書類のアップロードの有無を確認するなどの対応を取ることもできるから,これらは「みなし規定」の対象として差し支えない。  また,裁判の審理の過程で当事者が将来の送達の予見可能性にかかわらず,受送達者の権利や法的地位に重大な影響を及ぼすものではない書面についても,システム送達の利便性の確保を優先して,「みなし規定」の対象として差し支えない。   (3) ヒューマンエラーがあり得ることを前提とした仕組みの必要性     なお,前記のとおり電子メールの信頼性自体への限界があるだけでなく,電子メールによる通知には,紙媒体の郵送による従前の送達方法と比較して,ヒューマンエラーにより見落とされるリスクが一定程度あることは否定できないものと思われる。     このようなヒューマンエラーにより「みなし規定」が適用されてしまうことは単なる自己責任との考え方もあり得ようが,民事訴訟のIT化の利用を促進する観点からは,送達すべき電子書類の閲覧等がなされない場合における再度の通知等,一定のヒューマンエラーがあり得ることを前提とした仕組みの構築が望ましいものというべきである。また,このことは手続保障をより実質化する観点からも必要なことと考えられるところである。  4 通知アドレスの届出をしていない当事者等に対する送達  IT機器の使用が困難な者やITに習熟しない者が存在する以上,全ての送達をシステム送達によることはできず,システム送達の対象は,通知アドレスを届け出た当事者に限定せざるを得ない。  そして,通知アドレスを届け出た当事者等が事件管理システムを通じて提出した電子書類を通知アドレスの届出をしない当事者等に送達する場合には,送達文書と事件管理システムに登録された電子書類との同一性を担保する観点から,裁判所が当該電子書類を出力して印刷した文書を送達するべきである。中間試案には,送達に用いる書面について,提出当事者に,自ら出力した書面と裁判所が出力した書面のいずれかを選択させる案も示されているが,事件管理システムが整備された時点では,敢えて当事者が出力した書面を用いて同一性担保を損ねる規律とすべきではなく,このような案にも賛成できない。  なお,書面の出力に要する費用については,「第1・3訴訟記録の電子化」の「【理由】5電子化の役務の対価」において述べたところと同じ観点から,当事者に負担させるべきではなく,裁判所の負担とするのが相当である。 5 システム送達による訴状送達の利用範囲の拡大のための方策について 訴状のシステム送達の利用範囲を拡大することは,送達コストを削減する効果を期待できる面がある。そのための方策として,訴状の送達をする前に通知アドレスの届出を促す簡易な通知を郵送し,被告に対し,訴状の送達を受けるに当たってシステム送達を利用することを促す考え方がある。  しかし,常に被告に対して簡易な通知を郵送するものとすると,訴訟詐欺等の弊害も生じ得る。したがって,訴状の送達にシステム送達を利用することについては,弊害の防止策にも十分に留意しつつ,実務上の運用の工夫として位置付けるのが望ましく,システム送達の特則として法制化するべきではない。   なお,部会において,訴え提起の際に原告に被告の通知アドレスを届けさせ,裁判所がそのアドレスに宛てて通知アドレスの届出を促すメールを発信する制度も検討されたが,当該電子メールの着信が確実とはいえない,複数アドレスの保有者が当該電子メールを見落とす危険があるなど実効性に疑問がある上,アドレスが共有されているときにプライバシー,営業秘密の侵害を惹き起こす懸念がある。さらに,裁判所をかたった電子メールの送信によって架空請求を行う者が現れるなど,消費者被害の誘発や拡大につながる危険性が高く,この考え方の法制化には反対である。   2 公示送達   法第111条を次のように改めるものとする。 (1) 公示送達は,電磁的方法により不特定多数の者が公示すべき内容である情報の提供を受けることができる状態に置く措置であって最高裁判所規則で定めるものをとる方法によりする。 (2) (1)における公示すべき内容は,裁判所書記官が送達すべき電子書類を裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録し,いつでも電子情報処理組織を用いて送達を受けるべき者に閲覧又は複製をさせ,又は送達を受けるべき者にその内容を出力した書面を交付すべきこととする。 【意見】  (1),(2)のいずれにも賛成する。ただし,電磁的方法による公示送達を導入しても,裁判所に公示送達の内容にアクセスできる端末が設置され,誰でも容易に自己の公示送達の内容を検索し閲覧できる体制が整っていないときは,従来の掲示による公示送達を併存させるべきである。また,今後の具体的な制度設計に当たっては,当事者等のプライバシー保護に十分に配慮する必要がある。 【理由】  現行の公示送達では,係属裁判所の掲示場に掲示されるだけであり,受送達者が現実に送達すべき書類の内容を知ることは事実上不可能に近い。そのため公示送達の方法にインターネットを活用し,広く公示送達の有無を知り得るようにすることは,受送達者の手続保障の観点からも望ましい。  しかし,全ての者がインターネットを利用できると限らない以上,裁判所に公示送達の内容にアクセスできる端末が設置され,誰でも容易に自己の公示送達の内容を検索し閲覧できる体制が整っていないときは,直接に掲示場で公示送達の内容を知る機会を残す必要がある。  また,インターネットを通じて,誰もが事件管理システムにアクセスし,検索により容易に送達すべき書類の内容を知り得るようになると,当該事件の当事者等のプライバシーが侵害される危険性が高まる。近時,問題となった破産者マップのように,デジタル化された情報当初の意図とかけ離れた形で拡散,利用されることがあるから,今後の具体的な制度設計に当たっては,例えば,事件名については表示させないようにするなど検索対象とする情報を制限するほか,公示送達された内容は個人情報の保護に関する法律第2条第3項の「要配慮個人情報」に当たるものとして政令で定めるなどにより,当事者等のプライバシー保護に十分に配慮する必要がある。 第4 送付  1 当事者の相手方に対する直接の送付  当事者の相手方に対する直接の送付は,次に掲げる方法によることができるものとする。ただし,通知アドレスの届出をした相手方に対する直接の送付は,次に掲げる方法のうち(1)によるものとする。 (1) 裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに送付すべき電子書類を記録し,通知アドレスの届出をした相手方が電子情報処理組織を用いてその電子書類の閲覧又は複製をすることができる状態に置き,当該相手方の通知アドレスにその旨を自動的に通知してする方法(通知アドレスの届出をした相手方に対するものに限る。) (2) 送付すべき書類の写し又は送付すべき電子書類に記録された情報の内容を出力した書面の交付 【意見】   賛成する。 【理由】 1 事件管理システムを通じた直送  中間試案が示す事件管理システムを通じた直送は,裁判所における送達事務の効率化のみならず,送達された書面の早期把握,電子データの再利用等の点で受送達者にとっても利便性が高く,これを導入する必要性は高い。少なくとも通知アドレスの届出をしている相手方に対する文書の送付については,事件管理システムを利用して行うべきである。  しかし,当事者等の責めによらない事情により,一時的に事件管理システムにアクセスができないときは,事件管理システムを通じた直送が機能しないことがある。また,直送の対象が大量であったり,大型図版であったりするときは,紙媒体で送付するほうが相手方にとって利便性が高いこともある。したがって,訴訟手続上の直送は原則として事件管理システムを通じて行うにしても,直送双方当事者の同意がある場合には,従前の方法による送付も許容されるべきである。  なお,事件管理システムを利用した書面の提出につき,現行法の下での「直送」の用語を維持すべきかどうかについては,引き続き検討をすべきである。 2 通知アドレスの届出をしていない相手方に対する書面の送付について  相手方が通知アドレスを届け出ていない場合,事件管理システムを利用した書面の送付ができない。そこで,提出者が裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに送付すべき電子書類を記録したときは,当事者等が提出した書面との同一性を担保する観点から,裁判所が当該電子書類の出力を行った上で,相手方に従前の方法で送付すべきである。また,提出者が書面を裁判所に提出したときは,同様に裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録されたデータと相手方に送付される書面との同一性を担保する観点から,提出された書面の副本が提出されていればその副本を,そうでない場合は裁判所が提出された書面を事件管理システムに電子化して記録した上で,それを出力して相手方に送付すべきである。  なお,書面の出力に要する費用については,前記第1の3項5(電子化の役務の対価」において述べたところと同じ観点から,当事者に負担させるべきではなく,裁判所の負担とするのが相当である。  また,通知アドレスの届出をしていない当事者からの書面の送付の場合など従前の方法による場合において,現行法令で認められているファクシミリによる直送を禁止するまでの必要はない。以前より利用頻度は減ってきているとはいえ,我が国では今なおファクシミリが文書の送信手段の一つとして利用されているからである。   2 裁判所の当事者に対する送付  裁判所の当事者等に対する送付は,次に掲げる方法によることができるものとする。ただし,通知アドレスの届出をした当事者等に対する送付は,次に掲げる方法のうち(1)によるものとする。 (1) システム送達(通知アドレスの届出をした当事者等に対するものに限る。) (2) 送付すべき書類の写し又は送付すべき電子書類に記録された情報の内容を出力した書面の交付 (注)当事者が裁判所のシステムを通じて提出した送付すべき電子書類を通知アドレスの届出をしていない相手方に送付する場合の取扱いについては,提出当事者が直接の送付をするものとする考え方と,裁判所の送付によるものとする考え方があり,そのうち裁判所の送付によるものとする考え方を採る場合の取扱いについては,提出当事者が当該電子書類の出力を行って裁判所に提出した書面によってするものとする考え方と,裁判所が自ら書面への出力を行った上でこれを送付するものとする考え方とがある。また,提出当事者において,裁判所の送付に用いる書面につき,@当事者自ら出力した書面を用いるか,A一定の手数料を納付することにより裁判所が出力した書面を用いるかを選択することができるものとする考え方がある。 【意見】 1 本文に賛成する。  2 (注)については,裁判所のシステムを通じて提出された電子書類を通知アドレスの届出をしていない相手方に送付する場合の取扱いについて,裁判所が自ら書面への出力を行った上でこれを送付する考え方に賛成する。なお,書面の出力に当たっての手数料については,これを徴収すべきではない。 【理由】  当事者等による送付と裁判所による送付を特に別異に取り扱う理由はないと考えるから,ここでもシステム送達の方法を認めるべきである。  裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録された電子書類と相手方に送付される書面との同一性を担保する観点から,裁判所が記録された電子書類を出力して送付すべきであり,また,民事裁判手続のIT化が当事者の経済的負担をかえって増やすのは妥当でないから,書面の出力のための手数料は徴収すべきでない。   3 相手方が在廷していない口頭弁論において主張することができる事実  相手方が在廷していない口頭弁論において,準備書面(相手方がその準備書面の閲覧又は複製をしたもの)に記載した事実を主張することができるものとする。 (注)本文の規律に加えて,相手方が在廷していない口頭弁論において,準備書面(本文1(1)の通知が発出された日から一定の期間を経過したもの)に記載した事実を主張することができるものとする考え方がある。 【意見】  1 本文に賛成する。 2 (注)の考え方に賛成する。ただし,「一定の期間」については十分な期間を確保すべきであり,かつ相手方の責めに帰すべきでない事由により相手方が事件管理システムを通じて提出された準備書面を閲覧できなかった場合の例外規定を設けるべきである。 【理由】 1 事件管理システムを利用した準備書面の直送手続を許容するのであれば,これによる送付手続が完了した準備書面に記載された事実については,相手方が在廷していない口頭弁論においても主張できるものとしなければ,事件管理システムを利用した準備書面の直送手続を許容した意味がない。この点に関する中間試案の提案には賛成である。 2 また,(注)において記載されている事件管理システムを利用して相手方に対する送付手続を行ったものの,相手方がこれにアクセスして閲覧していない準備書面につき,送達における「みなし規定」と同様の効果を生じさせることについては,一般に準備書面の送付が相手方の権利や法的地位に重大な影響を及ぼすことはないから,手続の効率性の観点から賛成である。しかし,「一定の期間」については十分な期間を確保すべきであり,また電子メールの信頼性に限界があることを考慮すれば,相手方の責めに帰すべきでない事由により相手方が事件管理システムにアクセスして準備書面を閲覧できなかった場合の例外規定を設けるべきである。 第5 口頭弁論  1 ウェブ会議等を用いて行う口頭弁論の期日における手続  裁判所は,相当と認めるときは,当事者の意見を聴いて,最高裁判所規則で定めるところにより,裁判所及び当事者双方が映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって,口頭弁論の期日における手続を行うことができるものとする。その期日に出頭しないでその手続に関与した当事者は,その期日に出頭したものとみなすものとする。 (注)ウェブ会議等を用いて出頭する者の本人確認及び所在すべき場所並びにその者に対する不当な影響の排除に関する規律の在り方について,引き続き検討するものとする。 【意見】  1 本文に賛成する。  なお,当事者が裁判所に出頭したい意向を有する場合には裁判所に出頭できることは当然である。  2 (注)に賛成する。  出頭者の本人確認,所在すべき場所の確認やその者に対する不当な影響の排除に関して引き続き検討をすべきである。本人確認等に関する最高裁判所規則を定め,実務上,原則として当事者や証人について顔写真付きの身分証明書の提示等により本人確認をすべきである。 【理由】  1 ウェブ会議を用いて行う口頭弁論期日における手続について   (1) その必要性及び許容性  現行法において,当事者は,擬制陳述が認められている場合(法第158条)及び簡易裁判所における手続の場合(法第277条)を除き,現実に裁判所に出頭しなければ口頭弁論期日において弁論をすることはできないこととされている。  他方,通信技術の著しい発達に伴い,インターネットによるウェブ会議等を利用することで音声と映像を活用して訴訟活動をすることが,技術的に可能となった。  そこで,裁判所へのアクセスの向上や当事者の利便性のため,当事者が裁判所に出頭しなくても,ウェブ会議等を利用して,口頭弁論の期日における手続を行うことができるようにすべきである。  なお,このような制度を採用することは,口頭主義及び直接主義に反しないかが問題となるが(本意見書では,直接主義の意味を,判決をする裁判官(受訴裁判所)が弁論の聴取と証拠調べを行うという原則に止まらず,裁判官の面前で当事者の弁論や証拠が提供され,他の媒介物なしに裁判官が直接これを聴取し,取り調べるべきとの考えを含む趣旨で用いる。),裁判官は,ウェブ会議等を利用することで,出頭していない当事者の様子を見ながら,その発言内容を聞いて,手続を進めることができるため,口頭主義及び直接主義には反しないと考える。   (2) 当事者の出頭について  とはいえ,当事者がウェブ会議等を利用する場合と裁判所に出頭した場合とでは,裁判官との直接的なコミュニケーションの程度に違いが生じるのは明白である。  したがって,当事者が裁判所に出頭しなくてもウェブ会議等を利用して口頭弁論の期日における手続を行うことができる制度を導入したとしても,当事者が裁判官との直接的なコミュニケーションを望み,裁判所に出頭したいとの意向を有する場合には,裁判所に出頭できることは当然のことである。  2 本人確認の方法について  なりすまし防止や非弁防止の観点からすれば,ウェブ会議等を用いる者の本人確認は重要であり,出頭者の本人確認は当然のこと,出頭している場所の確認,さらに不当な影響の排除のため,例えば同席者の本人確認をすべきである。  最高裁判所規則において,映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって口頭弁論の期日における手続を行うに際し,裁判所は,通話する相手が出頭すべき本人であることを映像の送受信その他の適切な方法を用いて適宜確認する旨を概括的に規律し,実務上,本人確認については,顔写真付きの身分証明書の提示や,それを所持しないときは二種類以上の身分証明書の提示を求めるべきである。提示の方法として,ウェブ会議の画面越しに提示することが考えられる。  そして,本人確認を拒否する者や適切な本人確認をなし得なかった者がいる場合には,同人の発言を禁じ,場合によっては口頭弁論の期日を取り消すなどの運用を行うべきである。ただし,訴訟代理人弁護士が同行する当事者等については,訴訟代理人弁護士が本人確認を行っているので,この者に対する本人確認は不要である。   2 無断での写真の撮影等の禁止  裁判所及び当事者双方が映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法により手続を行う期日又は裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法により手続を行う期日において,裁判長がその期日における手続を行うために在席する場所以外の場所にいる者が,裁判長の許可を得ないで,その送受信された映像又は音声について,写真の撮影,録音,録画,放送その他これらと同様に事物の影像又は音を複製し,又は複製を伴うことなく伝達する行為をしたときの制裁を設けるものとする。 【意見】  写真の撮影,録音,録画,放送その他これらと同様に事物の映像又は音声を複製し,又は複製を行うことなく伝達する行為を裁判長の許可にかからしめること,裁判長の許可なく前記行為をした場合に,過料であれば,制裁を科すことに賛成する。ただし,裁判長の許可を得ないでなされた放送及び伝達をもって公開をした場合には刑事罰の制裁を科すべきである。  期日におけるウェブ会議等の手続の場合だけでなく,協議の場面でウェブ会議等を利用する場合も含むべきである。  また,個人のプライバシーや営業秘密を保護するため,事件管理システム上の工夫や,実際に情報が流出した場合の受訴裁判所の対応策も検討すべきである。 【理由】  1 制裁規定の新設の必要性及び対象行為  規則第77条は,法廷における秩序維持の見地から,写真の撮影等の制限について規定しているところ,民事裁判手続がIT化されると,ウェブ会議等の写真の撮影,録音や録画等をしてこれらが公開されることで,当事者らのプライバシーや営業秘密といった情報が流出するおそれがあり,これを防止する方策を検討する必要がある。  そのため,中間試案が掲げる期日において,映像又は音声についての写真の撮影,録音,録画,放送その他これらと同様に事物の影像又は音を複製し,又は複製を伴うことなく伝達する行為を裁判長の許可にかからしめることには賛成する。  また,規制の実効性を確保するための過料の制裁規定を設けることにも合理性がある。  しかしながら,現実にプライバシー等との法益が侵害されるのは,映像や音声が公開された場合であり,公開に至らない写真の撮影,録音,録画及び複製にまで,罰則をもって規制をすることは手段として相当性を欠く。他方,裁判長の許可なく放送や伝達をもって公開した場合,法益が侵害され,実行した者の特定が容易ではないことも想定される。  したがって,裁判長の許可なく前記行為をした場合に過料の制裁を科し,裁判長の許可なく放送や伝達をもって公開した場合には,刑事罰の制裁を科すべきである。  また,期日におけるウェブ会議等の手続が想定されているが,協議においてウェブ会議を利用することも考えられ,同様の事態は起こり得るので,期日におけるウェブ会議等の手続だけでなく,協議においてウェブ会議等を利用する場合も含むべきである。  2 制裁規定以外の対応策  プライバシー等の情報を保護するため,事件管理システムを構築する際,同システムにおいて,写真の撮影,録音や録画等を困難にするような技術的な工夫をしたり,同システムの画面に写真の撮影,録音や録画等が禁止されていることを表示したりすべきである。  さらに,期日での写真の撮影等だけではなく,期日終了後の拡散行為もあり得るのであり,実際に情報が流出した際の受訴裁判所の対応についても,予め定めておくべきである。  3 口頭弁論の公開に関する規律の維持  口頭弁論の公開は,現実の法廷において行うものとし,裁判所がインターネット中継等によって行うことを許容したり禁止したりする規律は設けないものとする。 【意見】   反対する。  司法に対する国民の理解の増進,裁判に対する市民の監視及び最高裁判所裁判官の国民審査の実質化を図るため,個人のプライバシーや営業秘密に配慮しつつ,下級審に先行して最高裁判所の弁論期日をインターネットで配信することの検討を開始すべきである。 【理由】  1 裁判の公開原則  憲法第82条第1項は,裁判の公開原則を定めており,裁判の公正を確保するため,対審及び判決という裁判の中核をなす過程の公開を定めるものであり,憲法第32条の裁判を受ける権利の保障には,公開裁判の保障が含まれているものと解されている。そして,裁判の公開は,当事者公開だけではなく広く一般に公開することを意味しており,誰もが裁判を傍聴することができる傍聴の自由が含まれる。もっとも,法廷に設けられる傍聴席数などの物理的制約から,傍聴人の人数が制限されているし,裁判長は,法廷における秩序を維持するため必要と認めるときは,傍聴席に相応する数の傍聴券を発行し,その所持者に限り傍聴を許す措置をとることができるものとされている(昭和27年9月1日最高裁判所規則第21号・裁判所傍聴規則第1条第1号)。  2 口頭弁論期日のウェブ中継の導入  しかし,民事裁判手続がIT化され,ウェブ会議を通じて口頭弁論期日に当事者が参加できるようになれば,各地の裁判所の法廷にウェブ会議を実施するための機器が設置されるようになるから,裁判所のウェブサイトなどインターネット上で裁判を傍聴すること(ウェブ中継)も可能になるはずである。ウェブ中継を実施すれば,傍聴席の数などの物理的障害はなくなることになり,国民に広く傍聴の機会を与えることができるようになる。裁判の公開の在り方として,法廷での傍聴に加えて,テレビ中継やウェブ中継をすることは,現行法の下においても許容されており,裁判の公正を確保するという公開原則の趣旨から望ましい。国民が民事司法をより身近に感じ,親しみを持つ効果も期待できる。  この点,中間試案は,「口頭弁論の公開については,現実の法廷のみで行うこととし,ウェブ中継などを認めたり禁止したりする規律は設けないものとする」としている。  確かに,民事裁判の多くは訴訟当事者及び関係者(以下「訴訟関係者等」という。)のプライバシーに関わる情報が含まれており,インターネットが発達した現在,訴訟関係者等が知られたくないプライバシー等がソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を通じて拡散され,ウェブ中継による裁判の公開が訴訟関係者等の名誉やプライバシーを侵害する危険性も生じ得る。当事者が民事裁判の利用をためらうことがないよう配慮されなければならない(市民的及び政治的権利に関する国際規約第14条参照)から,訴訟関係者等の私生活の利益等を害する場合には,ウェブ中継を実施するべきではない。  他方,司法に対する国民の理解の増進,裁判に対する市民の監視の観点からは,ウェブ中継のニーズがあると思われる訴訟類型,例えば,議員定数不均衡訴訟や原発訴訟などのいわゆる「政策形成訴訟」,住民訴訟その他の社会的関心が高く傍聴券の発行がされる訴訟などでは,訴訟関係者等の名誉やプライバシーに配慮する上でウェブ中継が実施されることによる利点は大きい。さらに,最高裁判所裁判官の国民審査制の機能が十分に果たされる前提として,移動の時間や費用をかけずに,国民が最高裁判所の口頭弁論期日における審理を傍聴する機会を設けることは重要である。  このように,司法に対する国民の理解の増進,裁判に対する市民の監視及び最高裁判所裁判官の国民審査の実質化を図るため,訴訟関係者等のプライバシーや営業秘密に配慮しつつ(具体的には,両当事者が同意し,裁判所が相当と認める場合に実施することが考えられる。もっとも,国や地方公共団体を被告とする訴訟においては国等の同意を原則不要とすべきであろうが,これらは今後検討されるべき課題である。),下級審に先行して最高裁判所の口頭弁論期日をインターネットで配信することから,まずは検討を開始すべきである。     4 準備書面等の提出の促し  裁判長は,法第162条の規定により定めた期間を経過しても,同条の規定により定めた特定の事項に関する主張を記載した準備書面の提出又は特定の事項に関する証拠の申出がされないときは,裁判所書記官に,その準備書面の提出又は証拠の申出の促しをさせることができるものとする。 (注)本文の規律に加えて,提出期間を経過しても準備書面が提出されない場合に,提出が遅延している理由を説明しなければならないものとする考え方,裁判所がその提出を命ずることができるものとする考え方及び正当な理由なくその命令に違反した場合に,法第157条の2と同様の制裁を設けるものとする考え方がある。 【意見】  1 本文に賛成する。  なお,裁判所書記官の権限見直しにも関わるので,その観点からの検討も必要である。 2 (注)のうち,遅延している理由を説明しなければならない考え方については慎重に検討すべきであり,その余の考え方については反対する。 【理由】  1 準備書面等の提出の促しの必要性  そもそも,口頭弁論は書面で準備しなければならず(法第161条第1項),準備書面は,記載された事項について相手方が準備するのに必要な期間をおいて,裁判所に提出しなければならない(規則第79条第1項)。しかし,準備書面等が期日の当日に提出され,実質的な口頭弁論が行われない状況があり,これを変えるため,平成8年法改正により,法第162条が定められた。この規定が設けられた後も,準備書面等が定められた期間までに提出されないことがある。  紛争解決のための充実した審理の実現には,準備書面等が定められた期間までに提出されるべきことは言うまでもないが,提出期間経過後の裁判所書記官による促しが,既に裁判所書記官の審理充実事務の1つとして事実上行われている。そこで,これを法律上の具体的制度として明文化することとし,裁判長は,法第162条の規定による期間を経過しても,同条に規定する準備書面の提出等がされないときは,裁判所書記官に,その準備書面の提出等の促しをさせることができるものとする規定を置くべきである。  2 提出命令や攻撃防御方法の却下までは必要ないこと  (注)は,法第162条の規定が訓示規定と解されており違反による制裁や失権効がないが,これを超えて遅延している理由を説明しなければならないとする,あるいは,提出命令や法第157条の2と同様に攻撃防御方法の却下を認める考え方である。  提出期限が守られないのは,当事者等の懈怠もさることながら,期限に間に合わない事情がある場合も存在する。どのような理由で遅延したのか理由を説明しなければならないとすることで,懈怠を防止し,充実した審理を目指すことには一理ある一方,一律に遅延している理由を説明しなければならないとする義務を課すのは,弁論主義や法第167条,第174条及び第178条の要件との比較から行き過ぎであるとも考えられる。そこで,遅延している理由を説明しなければならないとする考え方については,慎重に検討すべきである。  更に踏み込んで提出命令や攻撃防御方法の却下まで規定するのであれば,具体的な立法事実を明確にする必要がある。また,法第157条の2は審理計画が定められ,攻撃防御方法の提出時期について当事者の意見が聞かれているが(法第156条の2),法第162条が定める準備書面等の提出期限は,審理計画が定められておらず,攻撃防御方法の提出時期について当事者の意見も聞かれていないのであって,同様に解するべきではない。よって,その余の考え方については反対する。 第6 新たな訴訟手続  民事裁判手続のIT化を契機として,裁判が公正かつ適正で充実した手続の下でより迅速に行われるようにするため,訴訟手続の特則として新たな訴訟手続の規律を設けることについて,新たな訴訟手続の規律を設けるものとする甲案若しくは乙案(ただし,甲案及び乙案はいずれも排斥し合うものではなく,例えば,甲案及び乙案を併存させ,又はいずれか一方の規律に他方の一部を導入することもあり得る。)又は規律を設けないものとする丙案のいずれかの案によるものとする。  【甲案】 1 地方裁判所においては,通知アドレスの届出をした原告は,新たな訴訟手続による審理及び裁判を求めることができる。 2 新たな訴訟手続による審理及び裁判を求める旨の申述は,第1回の口頭弁論の期日(第1回の口頭弁論の期日の前に弁論準備手続に付する決定をした場合にあっては,第1回の弁論準備手続の期日。以下本項において同じ。)の終了時までにしなければならない。 3 新たな訴訟手続においては,特別の事情がある場合を除き,第1回の口頭弁論の期日から6月以内に審理を終結しなければならない。 4 証拠調べは,即時に取り調べることができる証拠に限りすることができる。 5(1) 被告は,第1回の口頭弁論の期日の終了時まで,訴訟を通常の手続に移行させる旨の申述をすることができる。    (2) 訴訟は,(1)の申述があった時に,通常の手続に移行する。 6(1) 次に掲げる場合には,裁判所は,訴訟を通常の手続により審理及び裁判をする旨の決定をしなければならない。この決定に対しては,不服を申し立てることができない。 ア 公示送達によらなければ被告に対する最初にすべき口頭弁論の期日の呼出しをすることができないとき。 イ 被告が第1回の口頭弁論の期日の終了後【10】日以内に通知アドレスの届出をしていないとき。 ウ 新たな訴訟手続により審理及び裁判をするのを相当でないと認めるとき。    (2) 訴訟が通常の手続に移行したときは,新たな訴訟手続のため既に指定した期日は,通常の手続のために指定したものとみなす。 7(1) 新たな訴訟手続の終局判決に対しては,控訴をすることができない。 (2) 新たな訴訟手続の終局判決に対しては,判決書の送達を受けた日から2週間の不変期間内に,その判決をした裁判所に異議を申し立てることができる。ただし,その期間前に申し立てた異議の効力を妨げない。 (3) 法第358条から法第360条までの規定は,(2)の異議について準用する。 (4) 適法な異議があったときは,訴訟は,口頭弁論の終結前の程度に復する。この場合においては,通常の手続により審理及び裁判をする。  【乙案】 1 地方裁判所においては,通知アドレスの届出をした当事者は,共同の申立てにより,新たな訴訟手続による審理及び裁判を求めることができる。 2 1の共同の申立ては,第1回の口頭弁論の期日の終了時までにしなければならない。 3(1) 裁判所は,1の共同の申立てがあったときは,答弁書の提出後速やかに当事者双方と審理の計画について協議をするための日時を指定し,その協議の結果を踏まえて審理の計画を定めなければならない。 (2) (1)の審理の計画においては,次に掲げる事項を定めなければならない。 ア 争点及び証拠の整理を行う期間 イ 証人及び当事者本人の尋問を行う時期 ウ 口頭弁論の終結及び判決の言渡しの予定時期 (3) (1)の審理の計画においては,(2)アからウまでに掲げる事項のほか,特定の事項についての攻撃又は防御の方法を提出すべき期間その他の訴訟手続の計画的な進行上必要な事項を定めることができる。 (4) 裁判所は,(1)の審理の計画を定めるに当たり審理の計画を定めた日から審理の終結までの期間を6月以内とするものとし,(2)アからウまでに掲げる事項について次のとおり定めるものとする。 ア 争点及び証拠の整理を行う期間審理の計画を定めた日から5月以内の期間 イ 証人及び当事者本人の尋問を行う時期争点及び証拠の整理の期間が終了する日から1月以内の時期 ウ 口頭弁論の終結の予定時期最後に証人又は当事者本人の尋問を行う日(証人及び当事者本人の尋問を行わないものとするときは,争点及び証拠の整理の期間が終了する日から1月以内の日) エ 判決の言渡しの予定時期口頭弁論の終結の日から1月以内の時期 (5) 裁判所は,審理の現状及び当事者の訴訟追行の状況その他の事情を考慮して必要があると認めるときは,当事者双方と協議をし,その結果を踏まえて(1)の審理の計画を変更することができる。 4(1) 次に掲げる場合には,裁判所は,訴訟を通常の手続により審理及び裁判をする旨の決定をしなければならない。この決定に対しては,不服を申し立てることができない。 ア 当事者のいずれかから通常の手続に移行させる旨の申述がされたとき。 イ 新たな訴訟手続により審理及び裁判をするのを相当でないと認めるとき。 (2) 訴訟が通常の手続に移行したときは,新たな訴訟手続のため既に指定した期日は,通常の手続のために指定したものとみなす。  【丙案】   新たな訴訟手続に関する規律を設けない。 (注1)次に掲げる紛争に係る事件について,甲案及び乙案のいずれにおいても対象から除外するものとする考え方,甲案においては対象から除外するものとする考え方がある。 ア 消費者(消費者契約法(平成12年法律第61号)第2条第1項に規定する消費者をいう。)と事業者(同条第2項に規定する事業者をいう。)の間の民事上の紛争 イ 個別労働関係紛争(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成13年法律第112号)第1条に規定する個別労働関係紛争をいう。) (注2)甲案においては,被告も第1回の口頭弁論の期日までに新たな訴訟手続による審理及び裁判を求める旨の申述をすることができ,原告が第1回の口頭弁論の期日の終了時までに訴訟を通常の手続に移行させる旨の申述をすることができるものとする考え方がある。 (注3)乙案においては,新たな訴訟手続による審理及び裁判を求める共同の申立ては,第1回の口頭弁論の期日の終了後であっても(例えば,争点整理手続が終了するまでの間)することができるものとする考え方がある。 (注4)乙案においては,本文3(4)の期間・時期について,「6月」等と法定することなく,当事者の協議によって柔軟に定めることができるものとする考え方がある。 (注5)甲案及び乙案のいずれにおいても訴訟代理人が選任されていることを必要的とするものとする考え方,甲案及び乙案のいずれにおいても訴訟代理人が選任されていることを必要的とせずいわゆる本人訴訟でも利用することができるものとする考え方,甲案においては訴訟代理人が選任されていることを必要的とするものとする考え方がある。 (注6)乙案においては,通常の手続への移行の規律を設けないものとする考え方がある。   【意見】 1 甲案に反対する。  乙案は,そのままであれば賛成できない。  ただし,更に検討を行うのであれば,訴訟制度における当事者の自主性を基本とする乙案の考え方を基礎とし,審理の充実が損なわれることがないように配慮すべきである。  2 (注1)のア,イ記載の事件を対象から除外する考え方に賛成する。  3 (注2)の考え方に反対する。 4 (注3)の考え方に賛成する。  5 (注4)の考え方に賛成する。 6 (注5)の訴訟代理人が選任されていることを義務的とする考え方に賛成する。  7 (注6)に反対する。 【理由】  1 新たな訴訟手続を設けることについて   (1) 立法事実の精査の必要性  新たな訴訟手続は,現在行われている通常の訴訟手続に対し特則を設けるものである。現在の訴訟手続で認められている訴訟当事者の訴訟上の権能は,憲法第32条の「裁判を受ける権利」の要請を具体化したものである。この手続に特則を設け,前記権能について一定の制約を課するのであれば,制度導入の必要性(予想される効用,利用予測,現行法で代替可能な制度はないかなど)とともに,当該制度による制約の程度や導入による弊害はないかなど,制度導入の合理性を支える立法事実を精査する必要がある。  (2) 新たな訴訟手続の規律を設けることの必要性の検討  一定の紛争類型や紛争当事者間で事前交渉がある事案においては,時間を要するフル装備の訴訟手続ではなく,手続を限定した形ででも短期間に裁判所の判断を得たいという要請があると指摘されている。例えば,交通事故の事案や,企業間の紛争で事前に交渉が重ねられた事案,ADR手続が先行している事案など,互いに相手方の主張する事実を把握し,証拠資料も十分に保有し合っているものの,結論において合意に達することができない場合に,その点に限って裁判所の判断を求めたいといった例があることが挙げられている。  ここで十分な事前交渉がある事案について見れば,当事者間で結論において合意に達すれば,当事者間で和解内容をコントロール可能な訴え提起前の和解の制度(法第275条)を活用することができる。これとの対比でいえば,結論の合意にまでは達しない場合であっても,十分な交渉がされているのであれば,当該当事者が審理期間を主体的にコントロールし,期間の予測可能な制度を設けることも考えられる。訴訟制度における当事者の自主性を活かすものである点では,私的自治の観点からも望ましいといえる。  (3) 新たな訴訟手続を導入することの弊害  他方,新たな訴訟手続が訴訟迅速化に寄与し,当事者の自主性を活かすものものとして設計されるとはいえ,憲法上の要請を基礎とする訴訟当事者の訴訟上の権能を一部制限する提案であるから,その内容は慎重な検討が必要である。  上記(2)に挙げた例においても,主張や証拠を全て把握しているものと考えて特別な訴訟手続に同意したものの,後になって相手方から新たな主張や証拠が提出されることは生じ得る。このような場合,それら主張や証拠が重要であれば通常訴訟手続へ移行することが望ましいものの,例えば,移行後も同じ裁判官が担当することを悲観して移行を諦める事例が多くなれば,実質的に十分な訴訟活動が制約されたものといえ,憲法への抵触が問題になりかねない。また,短期間での不十分な審理の結果,実体的真実に反する判断がなされるようなことがあれば司法への信頼が損なわれるおそれもある。  (4) 審理の充実を確保することの重要性  前記(2)でみたとおり,当事者が共同の申立てにより審理及び裁判を求める新たな訴訟手続を検討すること自体には賛成である。  ただし,訴訟の迅速化のために新しい手続を検討するとしても,裁判を受ける権利を保障する観点から,審理の充実が損なわれることがあってはならないのはもちろんである。このような観点も踏まえ,新たな訴訟手続の合理性は,具体的な規律も併せ,慎重に検討する必要がある。  2 甲案について  甲案は,研究会報告書の6で述べられていた「特別訴訟手続」に関する規律を基にした提案となっている。  当連合会は,当連合会意見書において「賛成できない」との意見を述べたところであるが,今回の甲案についても同様の理由で反対である。  まず,甲案の規定する証拠方法の制限(甲案4)は,公正かつ適正な裁判を受ける権利を保障する憲法第32条に抵触しないかが問題となる上,ラフジャスティスを招く危険性を拭えず,民事訴訟制度に対する信頼を損ねかねない。また,訴訟係属の当初,訴訟代理人は,相手方当事者の反論の内容を十分に把握していないことが多いから,新たな訴訟手続を開始したものの,途中で予見し得なかった事態が生じた場合にも,一旦当該手続を選択した以上,裁判所の終局判決がなされるまで通常の手続における審理を受け得ない(甲案5(1) ,7(2),(4)参照)。この終局判決には異議が認められるとしても,「裁判をするのに熟した」ものと判断した裁判官の心証を変更するのは容易ではなく,当事者の手続保障として不十分である。  したがって,甲案には反対である。また,(注2)は,甲案を前提とする提案であるが,甲案に反対である以上,ここでの提案にも反対する。  3 乙案の考え方を基礎とする検討の継続について  当連合会は,かねてより,民事裁判手続において,紛争類型ごとの適合性や当事者の手続上の権利保障の観点に留意しながら,簡易かつ迅速に一定の結論が得られる手続の導入の是非を検討すべきであることを指摘してきた(2011年5月27日第62回定期総会「民事司法改革と司法基盤整備の推進に関する決議」)。その意味では,甲案については反対であるものの,現段階で一律に迅速化のための新たな訴訟手続に関する規律を設けないとするのではなく,更に継続して検討する余地があると考える。  他方,中間試案本文に示された乙案については,その要件・効果に関して以下に述べる問題点等があり,そのままであれば賛成できない。更に検討を行うのであれば,乙案に示された訴訟制度における当事者の自主性を基本とする考え方を基礎とし,審理の充実が損なわれることのないように配慮すべきである。  4 申立要件について   (1) 新たな訴訟手続の前提について  訴訟手続において迅速化の要請があり,また当事者が迅速な審理を求めているとしても,判決は「裁判をするのに熟したとき」(法第243条1項)になされるものであるから,それに向けた十分な審理も同時に必要となる。6か月程度で判決に至ることを目指し,それと同時に十分な審理がなされることも担保すべきことを考えると,新たな訴訟手続を導入する場合には,訴訟前の時点で,当事者双方において相互の主張,立証の重要部分を把握していることが必要不可欠である。  (2) 申立ての資格要件(弁護士関与の必要性,(注5)関係)  新たな訴訟手続に適した事件であるか否かを的確に判断するためには,要件事実の理解に基づいた主張の整理,手元にある証拠資料に基づく立証の見通し,審理に要する期間に関する予想ができることが不可欠である。また,訴訟が提起された後,審理計画を立てる際にも,前記訴訟に関する専門知識を持つ弁護士が関与しなければ,当事者の権利を守りながら適切な審理計画を立てることは困難である。さらに,新たに提出された主張や証拠の重要性を評価して,通常訴訟手続に移行すべきか否かを判断するにも専門的知識が必要となる。  したがって,新たな訴訟手続を選択するためには,訴訟の専門家である弁護士の関与が必要不可欠である。  (3) 当事者双方の明確な同意の必要性  新たな訴訟手続は,通常の訴訟手続において認められている,裁判を受ける権利を具体化した当事者の権能を制約する一面を有する。この権能の重要性に鑑み,その制約を正当化する同意は,両当事者の積極的,かつ,明確なものであることが必要である。また,当該同意については書面(又は書面データ)により確認されるのが相当である。  なお,前記(1)で述べたとおり,ここでの同意は当事者双方において相互の主張,立証の重要部分を把握していることが前提とされる。したがって,例えば,約款などで新たな訴訟手続によることを事前に同意したとしても,紛争となる権利関係が特定されておらず,また主張,立証の内容も特定されていない以上,当該合意は無効であり,ここでの同意の要件を満たすことにはならないと解すべきである。   (4) 共同の申立ての時期((注3)について)  前記(3)で検討したとおり,新たな訴訟手続が両当事者の合意を前提とするのであれば,この合意は尊重されるべきであり,申立ての時期も第1回口頭弁論までに限定する必要はない。   (5) 特定の事件類型の排除((注1)について)  新たな訴訟手続を正当化する同意の前提として,当事者双方において相互の主張,立証の重要部分が明らかになっていることが必要となる。したがって,訴訟前の段階で十分な準備を期待できない場合や,類型的に証拠の偏在が見られる場面に適用すべきではない。  したがって,消費者と事業者間の紛争や個別労働関係紛争など,当事者間に情報や資金力の格差があるような紛争については,新たな訴訟手続の対象から除外するとの考え方に賛成である。  5 通知アドレスの届出    申立ての際に通知アドレスの届出義務を課すことについて特に異論はない。  なお,今回の新たな訴訟手続の提案は「ITツールの特性を十分に活用することを前提」とするものであり,通知アドレスの届出義務もその前提を満たすためのものであると解される。しかし,審理の迅速化のためにITツールをどのように活用するのかという具体的な運用モデルは依然として明らかになっていない。  この点につき研究会では,「ウェブ会議等で争点整理期日を何度も入れられるようにする」,「ファイル共有機能や編集機能を使って充実した争点整理をしていくこと」といった説明がされていた。しかし,当事者が短い間隔での争点整理期日指定に十分対応できるか,ファイル共有機能等で現状よりどれだけ迅速化が可能かは具体的な検証がなされていない。この点は,立法事実とも直結するところであり,更に検討が必要である。  6 審理計画について   (1) 審理計画の定めについて  当事者双方の共同の申立てがあったときに裁判所が審理計画を定めることに特に異論はない。ただし,この計画を定める前提として,訴状において規則第53条第1項所定の事項(予想される争点(立証を要する事実),重要な間接事実及び証拠)のほか,訴訟前の交渉の経緯を記載することを義務付けるほか,これに対して実質的な答弁がなされている必要があるものとすべきである。これにより,的確な審理計画を立てることが容易になり,また,新たな訴訟手続によることに関する両当事者の合意が真意に基づくものかの確認もできる。  (2) 必要的計画事項について 審理計画で定めるべき事項を3(2)アからウまでとする点について,特に異論はないが,同イの前提として,尋問対象になる証人を「即時に取り調べることができる」ものに限る趣旨(甲案4,法第188条)であれば反対である。期限内に収まるのであれば,これを限定する必要はない。   (3) 任意的必要事項について     特に異論はない。   (4) 審理期間の定めとその変更について((注4)について)  3(4)は「審理の計画を定めた日から審理の終結までの期間を6月以内とする」と規律するが,審理期間を固定することには反対である。  新たな訴訟手続が当事者の合意に基礎を置くものである以上,当事者の合意によりこの期間を長期化したり,逆に短縮したりと柔軟に定めることを可能にすべきである。その意味で,同(5)の裁判所による計画変更は,当事者双方の希望を尊重してなされるべきである。  7 通常手続への移行   (1) 移行要件について  ア 通常の訴訟手続に移行可能な制度設計の必要性((注6)関係)  新たな訴訟手続をとることについての同意においては,上記4(1)で述べたように,当事者双方が互いの主張,立証を把握していることが想定されている。しかし,場合によっては,審理の途中に一方当事者から事前に開示されていなかった主張や証拠が提出されるという,想定外の事態も起こり得る。そのような場合に,相手方当事者が希望しても裁判所が新たな訴訟手続での審理継続を相当と判断し,通常の手続に戻されないと,相手方は十分な反論をする機会を失うことになる。この状態で判決がなされると,「裁判をするのに熟したとき」に至らないままの判決となるおそれもある。このような事態は当事者の裁判を受ける権利(審問請求権)を損なうものであり,また,司法に対する信頼を損ねることにもつながりかねない。  したがって,第1回口頭弁論後であっても,一定の場合には通常訴訟手続に移行できる余地を残す制度設計は必須である。 イ 一方当事者の申述による移行について  当事者の一方から通常手続への移行の希望が出された場合の規律については,以下のような選択肢があり得る。 @ 無条件に移行を認める考え方(無条件説:乙案4(1)ア) A 一方当事者の申立てがあり,裁判所が相当と認める場合に限定する考え方(限定説)  両説の考え方の違いは,この手続に入ることを合意した相手方当事者の信頼をどれだけ尊重すべきか,訴訟終結までの期間はどちらが短くなるか,どのような制度設計をすることがより多くの利用につながるかの評価の違いにあると考えられる。  新たな訴訟手続の提案に対しては,研究会での提案当初からこの手続の利用は低調なものになるのではないか,本当に審理期間の短縮につながるのかといった疑問が提起されているところである。乙案をとる場合,この通常訴訟へ移行するための要件は,制度利用数や審理期間に直結するものと考えられる。どのような設計をすれば,より現状の改善につながるのか,利用者の意見を踏まえた慎重な検討が必要である。    ウ 不相当判明による移行について  裁判所が「新たな訴訟手続により審理及び裁判をするのを相当でないと認めるとき」に通常手続に移行することに異論はない。  ただし,これに加えて,両当事者が移行に同意した場合には通常手続に移行することを条文上明記すべきである。通常の訴訟手続が本則であり,特別な訴訟手続をとることが両当事者の同意に基づくことからすれば,両当事者の同意がある場合の通常手続への移行が確実なものとされるべきであるからである。   (2) 通常手続移行後の期日について     特に異論はない。 第7 争点整理手続等  (前注)「1弁論準備手続」から「3準備的口頭弁論」までは,民事裁判手続のIT化に伴い,現行法における争点整理手続に関する規律の見直しを検討するものであるが,争点整理手続については,このほかに,三種類の争点整理手続を置く現行法の規律を見直し,これを一つの手続に統合することの可否という論点がある。第7では,後者の論点については「4争点整理手続の在り方」で一括して取り扱うこととし,「1弁論準備手続」から「3準備的口頭弁論」までにおいては,三種類の争点整理手続を置く現行法の規律を維持することをひとまずの前提としている。  1 弁論準備手続    法第170条第3項を次のように改めるものとする。  裁判所は,相当と認めるときは,当事者の意見を聴いて,最高裁判所規則で定めるところにより,裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって,弁論準備手続の期日における手続を行うことができる(同項ただし書は削除する。)。 (注)本文とは別に,法第170条第2項の規律を見直し,弁論準備手続の期日において,調査嘱託の結果,尋問に代わる書面,鑑定人の意見を記載した書面及び鑑定嘱託の結果を顕出することができるものとする考え方がある。 【意見】   本文,(注)のいずれにも賛成する。    【理由】 1 法第170条第3項の「当事者が遠隔の地に居住している」という相当性についての例示を削除するものである。遠隔の地か否かという判断が必ずしも明確でないこと,相当性の判断が必ずしも場所によりなされるものでないことからすると「当事者が遠隔の地に居住している」という例示は相当性の例示として適切でないことから削除に賛成する。「裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話することができる方法」によって,実りある争点整理が可能か否かという観点から相当性を判断すべきである。なお,「裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話することができる方法」には,ウェブ会議も含み,ウェブ会議の場合と電話会議の場合では情報量の違いだけでなく,非公開性の担保,非弁活動の排除の観点からも相当性の判断が異なるべきである。また,現行法と同じく「当事者の意見を聞いて」となっているが,当事者が出頭を希望するときは,これを無視してはならないことは当然である。  また,争点整理が実質的に行えるのであれば,当事者の一方が物理的に裁判所に出頭している必要もないので,ただし書きの削除にも賛成する。 2 (注)については,現在も事実上顕出しているので法制上できることを明確にすることに賛成する。   2 書面による準備手続   (1) 法第175条を次のように改めるものとする。  裁判所は,相当と認めるときは,当事者の意見を聴いて,事件を書面による準備手続(当事者の出頭(第5の1及び法第170条第4項の規定により出頭したものとみなされる場合を含む。)なしに準備書面の提出等により争点及び証拠の整理をする手続をいう。以下同じ。)に付することができる。 (2) 法第176条第1項を削除した上で,受命裁判官に関する規律として新たに次のような規律を設けるものとする。 ア 裁判所は,受命裁判官に書面による準備手続を行わせることができる。ただし,判事補のみが受命裁判官となることはできない。 イ 書面による準備手続を受命裁判官が行う場合には,法第176条の規定(アを除く。)による裁判所及び裁判長の職務は,その裁判官が行う。ただし,同条第4項において準用する法第150条の規定による異議についての裁判は,受訴裁判所がする。   (3) 法第176条第2項を次のように改めるものとする。     裁判長は,法第162条に規定する期間を定めなければならない。 (4) 書面による準備手続における協議(法第176条第3項)について,次のいずれかの案によるものとする。   【甲案】    同項を削除する。   【乙案】  裁判所は,必要があると認めるときは,最高裁判所規則で定めるところにより,裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって,争点及び証拠の整理に関する事項その他口頭弁論の準備のため必要な事項について,当事者双方と協議をすることができる。この場合においては,協議の結果を裁判所書記官に記録させることができる。 (5) 法第176条第4項を次のように改めるものとする(法第149条第2項を準用の対象から除外する現行法の規律を改める。)。  法第149条〈釈明権〉,法第150条〈訴訟指揮等に対する異議〉及び法第165条第2項〈要約書面の提出〉の規定は,書面による準備手続について準用する。    【意見】   (1)から(3)まで及び(5)に賛成する。   (4)は,乙案に賛成する。 【理由】  1 (1)は,法第175条第1項の「当事者が遠隔地に居住しているとき」という「相当と認めるとき」の例示を削除するものである。裁判所からどの程度離れると遠隔地というか明確でないこと,近距離であっても出頭が困難な場合があること,争点整理なので弁論と異なり公開の手続でなく書面で争点整理ができるのであれば書面で行っても特に問題ないことを考えると,相当性の例示として,「遠隔地に居住しているとき」は不要である。 2 (2)は,法第176条第2項が書面による準備手続は裁判長が行う。高等裁判所においては,受命裁判官に行わせることができるとなっているのを,地方裁判所でも受命裁判官に行わせることができるようにする改正である。地方裁判所でも陪席裁判官が単独事件を持てる場合,単独事件では書面による準備を行い得るが,合議事件では受命裁判官として行うことができないというのは,合理性がない。したがって,(2)アに賛成する。受命裁判官による書面による準備を認めるのでイにも異論がない。  3 (3)は,文言の整理であり,賛成する。 4 弁論準備手続も双方当事者不出頭で電話会議にて行えることになる。そうすると,口頭で争点整理を行う必要があるときは,弁論準備手続で行えばよく,書面による準備は口頭の整理を必要としないときに限定すべきであるとも考えられる。そうして,原則として弁論準備を用い,電話会議やウェブ会議を使えない,書面しか使えない場合に限定して書面による準備を使うという整理もあり得る。しかし,簡単に争点整理ができる場合には,書面による準備とすることも合理的である。そうして,書面による準備を開始したが,口頭で確認した方が良いことが出てきた場合に,書面による準備を取り消すのでなく,書面による準備の中で口頭で確認できるとすることが便利である。したがって,乙案がよい。  5 (5)は,異論がない。     3 準備的口頭弁論    準備的口頭弁論については,現行法の規律を維持するものとする。 【意見】   賛成する。 【理由】   社会的関心の高い事案では,公開の法廷で争点を整理することが,司法に対する社会の信頼という観点からも望ましい。その場合,弁論で争点を整理することで良いのでないかという意見もあり得る。しかし,準備的口頭弁論として行うと準備的口頭弁論の終了に当たっては必ずその後の証拠調べにより証明すべき事実の確認が裁判所当事者の間でなされ(法第165条),準備的口頭弁論終了後の攻撃防御方法の提出には制約がある(法第167条)ので,口頭弁論で行うより,準備的口頭弁論で行う方が訴訟の迅速な進行には役立つといえる。したがって,準備的口頭弁論は,争点整理の一方法として残しておくべきである。  4 争点整理手続の在り方  争点整理手続として,準備的口頭弁論,弁論準備手続及び書面による準備手続の三種類の手続を置く現行法の枠組みを見直し,これを一つの争点整理手続に統合することについて,次のいずれかの案によるものとする。   【甲案】  現行法における三種類の争点整理手続を一種類の争点整理手続(新たな争点整理手続)に統合することとし,次のような規律を設けるものとする。   (1) 新たな争点整理手続の開始  裁判所は,争点及び証拠の整理を行うため必要があると認めるときは,当事者の意見を聴いて,事件を新たな争点整理手続に付することができる。   (2) 新たな争点整理手続の期日 ア 新たな争点整理手続は,当事者双方が立ち会うことができる期日において行う。ただし,裁判所は,相当と認めるときは,当事者の意見を聴いて,期日を指定せずにこれを行うことができる。 イ 裁判所は,新たな争点整理手続を公開し,又はア本文の期日において,相当と認める者の傍聴を許すことができる。ただし,当事者が申し出た者については,手続を行うのに支障を生ずるおそれがあると認める場合を除き,その傍聴を許さなければならない。 【ウ 裁判所は,必要があると認めるときは,当事者の意見を聴いて,争点及び証拠の整理に関する事項その他口頭弁論の準備のため必要な事項について,新たな争点整理手続の期日外において,当事者双方と協議をすることができる。この場合においては,協議の結果を裁判所書記官に記録させることができる。】   (3) 音声の送受信による通話の方法による新たな争点整理手続 ア 裁判所は,相当と認めるときは,当事者の意見を聴いて,最高裁判所規則で定めるところにより,裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって,新たな争点整理手続の期日における手続【又は(2)ウの協議】を行うことができる。 イ アの期日に出頭しないでその手続に関与した当事者は,その期日に出頭したものとみなす。   (4) 新たな争点整理手続における訴訟行為等    ア 裁判所は,当事者に準備書面を提出させることができる。 イ 裁判所は,新たな争点整理手続の期日において,証拠の申出に関する裁判その他の口頭弁論の期日外においてすることができる裁判及び文書(法第231条に規定する物件を含む。)の証拠調べをすることができる。 ウ 法第148条から法第151条まで〈裁判長の訴訟指揮権・釈明権,これらに対する異議,釈明処分〉,法第152条第1項〈口頭弁論の分離・併合〉,法第153条から法第159条まで〈口頭弁論の再開,通訳,弁論能力を欠く者に対する措置,攻撃防御方法の提出時期・提出期間とその却下,陳述の擬制,自白の擬制〉及び法第162条〈準備書面の提出期間〉の規定は,新たな争点整理手続について準用する。   (5) 受命裁判官による新たな争点整理手続    ア 裁判所は,受命裁判官に新たな争点整理手続を行わせることができる。 イ 新たな争点整理手続を受命裁判官が行う場合には,(2)から(4)までの裁判所及び裁判長の職務((4)イの裁判を除く。)は,その裁判官が行う。ただし,(4)ウにおいて準用する法第150条の規定による異議についての裁判及び法第157条の2の規定による却下についての裁判は,受訴裁判所がする。 ウ 新たな争点整理手続を行う受命裁判官は,法第186条の規定による調査の嘱託,鑑定の嘱託,文書(法第231条に規定する物件を含む。)を提出してする書証の申出及び文書(法第229条第2項及び法第231条に規定する物件を含む。)の送付の嘱託についての裁判をすることができる。   (6) 証明すべき事実の確認 ア 裁判所は,新たな争点整理手続を終結するに当たり,その後の証拠調べにより証明すべき事実を当事者との間で確認するものとする。ただし,新たな争点整理手続の全てを期日を指定せずに行った場合には,裁判所は,新たな争点整理手続の終結後の口頭弁論の期日において,その後の証拠調べによって証明すべき事実を当事者との間で確認するものとする。 イ 裁判長は,相当と認めるときは,新たな争点整理手続を終結するに当たり,当事者に新たな争点整理手続における争点及び証拠の整理の結果を要約した書面を提出させることができる。   (7) 当事者の不出頭等による終結  当事者が期日に出頭せず,又は法第162条の規定により定められた期間内に準備書面の提出若しくは証拠の申出をしないときは,裁判所は,新たな争点整理手続を終結することができる。   (8) 新たな争点整理手続に付する裁判の取消し  裁判所は,相当と認めるときは,申立てにより又は職権で,新たな争点整理手続に付する裁判を取り消すことができる。ただし,当事者双方の申立てがあるときは,これを取り消さなければならない。   (9) 新たな争点整理手続の結果の陳述  当事者は,口頭弁論において,新たな争点整理手続の結果を陳述しなければならない。ただし,新たな争点整理手続の全てを期日を指定せずに行った場合は,この限りでない。   (10) 新たな争点整理手続終結後の攻撃防御方法の提出 ア 新たな争点整理手続の終結後に攻撃又は防御の方法を提出した当事者は,相手方の求めがあるときは,相手方に対し,新たな争点整理手続の終結前にこれを提出することができなかった理由を説明しなければならない。 イ アの規定は,新たな争点整理手続の全てを期日を指定せずに行った場合には適用しない。この場合において,新たな争点整理手続の終結後の口頭弁論の期日において,(6)イの書面に記載した事項の陳述がされ,又は(6)アの規定による確認がされた後に攻撃又は防御の方法を提出した当事者は,相手方の求めがあるときは,相手方に対し,その陳述又は確認前にこれを提出することができなかった理由を説明しなければならない。   【乙案】  三種類の争点整理手続を置く現行法の規律を維持した上で,1及び2に掲げるほかは,その規律について変更を加えないものとする。 (注)甲案を基礎としつつ,新たな争点整理手続において証人尋問等を行うことができるものとする考え方や,乙案を基礎としつつ,弁論準備手続に関する現行法の規律について必要な見直しを行うものとする考え方がある。   【意見】   乙案に賛成する。 【理由】  1 国民の関心と司法監視  甲案は,現行の準備的口頭弁論,弁論準備手続,書面による準備手続を一本化するものである。表現を変えると,現行の3種類の手続を互いに柔軟に往来できるようにするものといえる。  しかし,民事訴訟を考える場合,裁判所という司法制度の設置者である国民の利益と訴訟当事者の利益を考える必要がある。裁判が公開されるか否かは,国民の利益であるとともに,当事者にとっても関心事である。ところが,甲案では(2)イで,公開が裁判所の裁量となっている。すなわち,ある期日に行ったところ公開になり,次の期日には非公開になるという可能性がある。これは,国民の司法の監視,当事者の準備という観点からも好ましくない。したがって,公開の準備的口頭弁論と非公開の手続は明確に分離し裁判官に公開,非公開の裁量を与えるべきでない。  2 一本化の必要性に対する疑問  弁論準備手続と書面による準備手続を,互いに往来する必要性も少ない。(2)アのただし書きの期日でない弁論準備手続は,現行法にない手続であり,一見便利そうに見える。しかし,弁論準備手続についての改正では,両当事者が電話,ウェブ会議での出頭が可能であり,特に,現実に出頭して意見を述べる必要がなければ現実の出頭は必要ない。(2)アのただし書きでも,双方が電話会議,ウェブ会議に出席できる日時の調整が必要であり,その日を期日というか否かだけであり,当事者にとって利便性はない。  また,期日間に裁判所が当事者双方の主張を検討し釈明することも当事者が相手方の主張に反論の書面を提出することも,裁判所の求釈明することも禁止されないので,期日外に敢えて(2)ただし書きのような手続を設ける必要ない。  3 結論  乙案では,準備的口頭弁論,弁論準備手続,書面による準備手続を維持するので,裁判所は当事者の意見を聴いて手続を選択することとなる。(準備的口頭弁論については,法文上は当事者の意見を聴く必要はないこととなっているが)実際には,裁判官がどの手続をするかを提案し,当事者の意見を聴いていずれかの手続に付すことを決定することとなる。当事者は,公開の手続で行う方が良いか,出頭して主張するのが良いかを検討し意見を述べることとなる。また,一旦定めた特定の手続を他の手続に変更するときは,裁判所としては,前者を取り消し,後者に付する裁判をする必要がある。  しかし,甲案をとると,当事者の意見を聴くとはいえ,裁判所の裁量で,期日ごとに公開の手続になったり,非公開の手続になったり,期日が指定されず口頭で主張整理をし得なくなったりし,当事者にとって手続の透明性や予測可能性を損ねかねないし,裁判に対する国民の監視の観点からも,それを弱める方向に作用するものといえる。  多くの事件では,現在の3手続を行き来することなく,弁論準備手続あるいは準備的口頭弁論で争点整理をすることで何ら支障がないのであり,敢えて一つの争点整理手続に統合する必要はない。ただ,例外的に,当事者が出頭できないため書面による準備手続を行っていたが,当事者が現実に,あるいはウエッブ会議,電話会議で出頭できるようになった場合に弁論準備手続に切り替えることは,当事者の手続保障を充実させ,司法に対する監視を高めることになるから,明文で定めることを検討する余地はある。  5 進行協議  進行協議の期日における手続について,次のような規律を設けるものとする。 (1) 裁判所は,相当と認めるときは,当事者の意見を聴いて,裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって,進行協議の期日における手続を行うことができる(当事者が遠隔地に居住している場合等に限らず,裁判所が相当と認める場合に幅広く電話会議等によることを可能とするとともに,当事者の一方のみならず,双方ともに電話会議等により期日に関与することを認める。)。 (2) 電話会議等により進行協議の期日における手続に関与した者について,その期日において訴えの取下げ並びに請求の放棄及び認諾をすることができる。     【意見】   賛成する。 【理由】   進行協議は,非公開の手続であり,裁判所及び当事者が進行協議を行うことを認識して行われ,かつ,協議を実質的に行うことができるなら,裁判所に当事者が出頭する必要はない。そうして,一方当事者が裁判所に物理的に出頭しなければならないとすると期日が入りにくくなる。そう考えると,規則第96条第1項ただし書きの削除に賛成する。  弁論準備手続では,電話会議で出頭している当事者も訴えの取下げ並びに請求の放棄及び認諾ができるのでこれと平仄を合わせて進行協議でもできることにすることに賛成する。   6 審尋    法第87条に次のような規律を設けるものとする。  裁判所は,相当と認めるときは,当事者の意見を聴いて,最高裁判所規則で定めるところにより,裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって,審尋の期日における手続を行うことができる。 【意見】   賛成する。 【理由】  審尋は口頭弁論でないから公開の必要はなく,ウェブ会議を含む電話会議を利用する支障はない。ただ,審尋は,必ずしも両当事者同席して行う必要はない。個別に審尋することも可能であるし,申立人のみを審尋することも可能である。両当事者が同席しない場合も,電話会議,ウェブ会議を利用できることが手続の迅速な進行と事案の解明に役立つ。  改正案の趣旨が,一方当事者のみを審尋する場合は,電話会議,ウェブ会議を利用できないとする趣旨であるときは,不十分改正として反対し,一方当事者のみを審尋する場合にも利用できるようにすべきである。   なお,法第187条の審尋はこの意見の対象としていない。     7 専門委員制度    法第92条の3を次のように改めるものとする。  裁判所は,法第92条の2各項の規定により専門委員を手続に関与させる場合において,相当と認めるときは,当事者の意見を聴いて,同条各項の期日において,最高裁判所規則で定めるところにより,裁判所及び当事者双方が専門委員との間で音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって,専門委員に同条各項の説明又は発問をさせることができる。     【意見】   賛成する。 【理由】  法第92条の3の「専門委員が遠隔の地に居住しているとき」という相当性についての例示を削除するものである。遠隔地に居住しているか否かの判断が必ずしも一義的でないこと,仮に遠隔地に居住していなくても電話会議システムを利用することが相当な場合があること,専門委員が関与する手続が衡平かつ迅速になされることが重要であることからして,相当性の判断の例示として「専門委員が遠隔地に居住しているとき」という例示は不要である。したがって,「専門委員が遠隔地に居住しているとき」という例示の削除に賛成する。  なお,相当性の判断は,電話会議システムを利用する場合とウェブ会議を利用する場合で異なると考えられる。 第8 書証  1 電磁的記録についての書証に準ずる証拠調べの手続  電磁的記録であって情報を表すために作成されたものの証拠調べについて,書証に準ずる規律を設けるものとする。 【意見】   賛成する。 【理由】  ITの発展とその普及により,情報を紙片その他の有形物によらず,電子的方式,磁気的方式等で保管することが増えている。現行法に従って電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(以下「電子文書」という。)の取調べの申出をするときは,情報を印刷した書面を提出するか,情報をUSBメモリ等の媒体に記録して提出するほかなく(法第219条,法第231条参照),民事裁判手続のIT化後にこのような迂遠な方法を維持するのは妥当でない。また,書証に関連する文書提出命令に関する規定(法第220条から法第225条まで),文書送付嘱託に関する規定(法第226条),文書の留置きに関する規定(法第227条)及び形式的証拠力等に関する規定(法第228条から法第230条まで)は,いずれも電子文書に準用するのに支障ないように思われる。したがって,電子文書の証拠調べについて,書証に準じた規律を設けることに賛成する。     2 電磁的記録の書証に準ずる証拠調べの申出としての提出  電磁的記録であって情報を表すために作成されたものの書証に準ずる証拠調べの申出としての提出は,当該電磁的記録又はこれを電磁的方法により複製したもの(当該電磁的記録に記録された情報について改変が行われていないものに限る。)でしなければならないものとする。 (注)原本の存在及び成立に争いがなく,相手方が写しをもって原本の代用とすることに異議がないことを条件に,原本の提出に代えて写しを提出することが許される旨の規律(大審院昭和5年6月18日判決・民集9巻9号609頁)を明文化した上で,本文の規律にかかわらず,電磁的記録であって情報を表すために作成されたものについて,これに準ずる規律を設けるものとする考え方がある。   【意見】   本文に賛成する。   ただし,電磁的記録の改ざん,棄損等を防止し,また,その発見を容易にするための制度を導入すべきである。  (注)の考え方に賛成する。 【理由】 1 原則として賛成である。  電子文書には,文書と同じく,最初にかつ確定的に作成されたもの(以下「原電子文書」という。)が存在する。原電子文書は,記録された媒体にそのまま保管され続けることもあれば,その作成と同時に又は事後に,原電子文書が記録されたものと同一若しくは異なる媒体に複製されることもある(以下,複製された原電子文書を「複製電子文書」という。)。また,電磁的記録の管理の一環として,原電子文書が消除され,複製電子文書のみが保管されることも少なくない。このように原電子文書と複製電子文書は,分けて観念し得るものの,技術上,原電子文書をもとにこれと全く同一の複製電子文書を複製することが可能であるし,そのような保管方法は珍しいことではない。そうすると,正しく思想内容の部分が複製される限り,電磁的記録については,従来文書で行われてきたように原本と写しを明確に区別し(規則第143条第1項参照),原本提出主義を採用する必要性が大きいとは言い難い。そもそも裁判所の電子情報処理組織に記録された電磁的記録は,申出者が保管するものの複製であり,裁判所は,多くの場合にその複製電子文書を閲読して取り調べることになるであろうから(原電子文書の取調べを行うには,裁判所が提出者の保管する原電子文書が格納された媒体にアクセスし,その内容を閲読等する必要がある。),取調べの対象を原電子文書に限定することは,事実上,困難である。  したがって,電子文書の取調べの手続を新設するときは,電子文書の提出又は送付をその複製をもって行うこととするのが現実的である。  2 関連情報の取得の制度について (1) 電子文書については,その改ざん,棄損等が容易に,しかも巧妙になされる危険性がある。したがって,電子文書の提出の規定を新設するに際しては,このような改ざん,棄損等を禁じる規律を設けると同時に,その有無を検証するための関連情報の提供を義務付けるべきである。中間試案には,この点に関する一定の配慮が見られるものの,不十分な面がある。 (2) まず,中間試案は,電子文書の証拠調べを申し出る際に,「当該電磁的記録に記録された情報について改変が行われていないものに限る」とするが,何から(何を基準にして)改変を禁じているかが不明確であり,この点を明確化すべきであるように思われる。一般に,申出者は,取調べの対象として特定の年月日に作成された電子文書(原電子文書がこれに該当することが多いであろう。)の取調べを求めるのであるから,申出者には,それが改変されていないものを提出させるべきである。   なお,複製電子文書の証拠能力を否定することはできないし,相手方の対応の如何によって,申出者が複製電子文書を原電子文書として証拠調べの申出をすることもあるから,「改変が行われていないものに限る。」との文言は,証拠能力や書証申出の適法性要件であるとの誤解を生まないよう更に検討する必要があるように思われる。 (3) 次に,中間試案では,改変を許さない部分が特定されていないが,申出者の意思を基準にして,証拠調べの対象とする意思を有する範囲とすれば足りるとする考え方もあり得る。しかし,メタデータは,思想内容の点で申出者が取調べの対象とする電子文書と裁判所の電子情報処理組織に複製された電子文書との同一性を判断する際の重要な情報であり,後記(4)の制度の創設とあいまって,メタデータの改変を許さないことが真実発見に資する。したがって,裁判所の電子情報処理組織に記録する電子文書は,メタデータについても改変がなされていないものとすべきである(正確に言えば,メタデータには多様なものがあり,通常,原電子文書と複製電子文書のメタデータを完全に同一に保つことは困難である。したがって,改変のないものを提出する義務は,努力義務にとどめるしかない。)。 (4) さらに,中間試案は,申出者に対し,原電子文書が記録されている電子計算機のファイルから抽出した電子文書と証拠提出された電子文書の同一性を検証するための関連情報(例えば,電子署名,タイムスタンプその他の二つのファイルのハッシュ値,双方のメタデータ,原電子文書の作成時に作成者が操作した媒体(コンピュータ内蔵のHDD,SSD等の記録媒体)が自動記録したログその他の原本情報等)の提出を義務付けていないが,改ざん,棄損等を抑止するとともに,これらがなされたか否かの検証を容易ならしめるために,電磁的記録の提出と同時に,少なくとも相手方が求めたときは,これらの関連情報を提出すること,更にこれらの関連情報の再生を可能とすることを義務付けるなどの方策を設けるべきである。これまで文書の証拠調べでは,文書の提出と同時に裁判所及び相手方が紙の製造時代,紙質及び色彩等,筆跡,印影等の情報に接することで,原本性の判断材料を得られてきた。電子文書では,前記の関連情報がこれらに匹敵するのであり,その提出を義務付けても申出者に過度な負担を強いるものではない(裁判所は,フォレンジック・エンジニアの支援を受けつつ,オンラインにより,申出書が管理する記録媒体にアクセスし,原本情報を確認することも可能である。)。また,後述のとおり,原電子文書の代用に異議がないことを条件に複製電子文書の提出,取調べを許容する実務上の必要性は高いが,これを円滑に進めるためにも,申出者に関連情報の提出を義務付け,その再生を可能とする制度を設けるべきである(申出者が事前の準備として提出した写しの中に関連情報が含まれていたときは,改めて提出させる必要はない。)。  3 原本代用の規定の新設・(注)関連  大審院昭和5年6月18日判決・民集9巻9号609頁を明文化する中間試案注記の考え方に賛成する。この判決は,実務上定着してきており,反対する理由がない。また,電子文書に書証の規定が準用される結果(前記第8の1参照),明文化された判決の考え方が電子文書に妥当することになる。その結果,当事者が原電子文書の存在及び成立に争いがなく,複製電子文書をもって原電子文書の代用とすることに異議なければ,当該原電子文書を取り調べたことになる。逆に,これらに異議があるときは,申出者としては,複製電子文書を原電子文書として取調べの申出をし,裁判所は,思想内容を表示するため確定的に最初に作成された電磁的記録の情報の存在及び成立の判断をし,これらが認められるときは複製電子文書の実質的証拠力を判断することになる。改ざん等の危険性に鑑みれば,誤判を防止するためにこのような規律の在り方が望ましいというべきである。  3 インターネットを用いてする電磁的記録の提出命令に基づく提出及び送付嘱託に基づく送付 (1) 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(当該電磁的記録に係るファイル形式が第1の2(1)に規定するものに該当する場合に限る。)の提出命令に基づく提出及び送付嘱託に基づく送付については,電子情報処理組織を用いてすることができるものとする。 (2) 電磁的記録であって情報を表すために作成されたものの提出命令に基づく提出及び送付嘱託に基づく送付を電子情報処理組織を用いてする場合は,最高裁判所規則で定めるところにより,裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該電磁的記録を電磁的方法により複製したもの(当該電磁的記録に記録された情報について改変が行われていないものに限る。)を記録する方法によりするものとする。 (注)証拠となるべき電磁的記録に係るファイル形式が第1の本文2(1)に規定するものに該当しないときの提出及び送付の在り方について,引き続き検討するものとする。 【意見】   本文に賛成する。   (注)の引き続き検討することに賛成する。 【理由】  1 電子文書を有する訴訟当事者以外の第三者が,電子文書の提出命令に基づく提出又は送付嘱託に基づく送付を行う場合,事件管理システムを通じて複製電子文書の提出等ができれば,一般に,所持者にとって便利であり,また,裁判所の審理も容易になるから,このような提出等を認めることに賛成する。  なお,第三者が複数の媒体で断片的に電子文書を保管する場合,電子文書を外部に持ち出したり,送付したりすることが困難な情報管理体制が敷かれている場合などでは,かえって紙媒体に印刷して送る方が簡便なこともあり,履行方法を電磁的方法に限定することが提出等の萎縮効果を生み出す懸念がある。また,もともと私人には送付嘱託に応じる義務がないと解されているところ,私人が電子文書を送付するときには,必ず電磁的方法によるべきことを義務付け得るのか,疑問なしとしない。さらに,前記第1で乙案や丙案が採用されている段階で(訴訟当事者にオンライン申立て等が義務付けらない段階で),第三者にのみ電磁的方法によるべきことを義務付けるのは困難なように思われる。したがって,事件管理システムを通じた提出等ができるとすることには賛成するが,これを義務化するのではなく,第三者に紙媒体,電磁的記録のいずれかを選択できるようにすべきである。 2 ファイル形式が本文第1の2(1)に規定するものに該当しないときの提出及び送付の在り方については,前述の実践面と理論面の両面から,慎重な検討をすべきである。 4 インターネットを用いてする証拠となるべきものの事前の準備としての写しの提出 (1) 証拠となるべきものの事前の準備としての写しの提出については,電子情報処理組織を用いてすることができるものとする。 (2) 電子情報処理組織を用いてする証拠となるべきものの事前の準備としての写しの提出は,最高裁判所規則で定めるところにより,裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該証拠となるべきものの写しを記録する方法によりするものとする。 【意見】   賛成する。 【理由】   電子文書の写しの提出についても,民事裁判手続のIT化を踏まえた規律を設けるべきであり,中間試案に賛成する。  なお,容量の大きな電子文書の取扱いについては,弁論主義の観点から,そのまま電子情報処理組織を用いて提出又は送付ができるシステムを設けるべきである(第1の2項【理由】2参照)。 第9 証人尋問等  1 証人尋問等   (1) 法第204条を次のように改めるものとする。    ア 同条第1号を次のように改める。  証人の住所,年齢又は心身の状態その他の事情により,証人が受訴裁判所に出頭することが困難であると認める場合であって,相当と認めるとき。    イ 同条第3号として,次のような規律を設ける。      相当と認める場合において,当事者に異議がないとき。   (2) 法第204条に次のような規律を設けるものとする。  同条に規定する方法による尋問は,証人を次に掲げる要件を満たす場所に出頭させてする。 ア 当事者の一方又はその代理人,親族若しくは使用人その他の従業者(以下本項において「一方当事者等」という。)の在席する場所でないこと(当該場所が当事者の他の一方又はその代理人の在席する場所であるとき,一方当事者等の在席する場所に証人を出頭させることにつき,他の当事者に異議がないとき及び裁判所が事案の性質,証人の年齢又は心身の状態,証人と当該一方当事者等との関係その他の事情を考慮し,相当と認めるときを除く。)。 イ 適正な尋問を行うことができる場所として最高裁判所規則で定める要件を具備する場所であること。 (3) 当事者尋問については,法第204条を準用する法第210条の規律を維 持し,(1)及び(2)と同じ規律とするものとする。 (注)宣誓の方法について,宣誓書の作成自体を要しないものとする考え方や,書面の形式による宣誓書に代わる新たな形式の宣誓書を創設するものとする考え方がある。 【意見】 1 (1)に賛成する。 2ア (2)アに賛成する。ただし,例外要件である括弧書きの内容のうち,「当該場所が当事者の他の一方又はその代理人の在席する場所であるとき」を削除し,「他の当事者に異議がないとき」を「他の当事者が同意し,相当と認めるとき」とすべきである。  イ 同イに賛成する。ただし,最高裁判所規則には,「適正な尋問を行うことができる場所」でなければならないこと,そして,その判断基準として「通信環境が整備され,かつ証人に対する不当な影響を排除することができる場所」であることを明記すべきである。また,不当な第三者による証人への影響が排除され,裁判官の訴訟指揮権や法廷警察権等の実効性が確保できるような規律も設けるべきである。  3 (3)に賛成する。 4 (注)の書面の形式による宣誓書に代わる新たな形式の宣誓書を創設するものとする考え方に賛成する。   【理由】  1 現行法の下での証人尋問と中間試案が企図する方向性  現行法の下でも証人尋問は,証人が現実に出廷して証言を行うことを原則としつつ,一定の要件,すなわち,@証人が遠隔の地に居住するとき,又はA事案の性質や証人の年齢等の事情により,証人が法廷で陳述をすると圧迫を受け,精神の平穏を著しく害されるおそれがある場合であって,相当と認めるときには,例外的に映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法により証人尋問を行うこともできるとされている(法第204条)。これは,通信技術の進歩の結果,映像と音声を通じて相手の表情などを認識しながら離れた場所にいる者同士のやり取りが可能になったことを考慮して,遠隔の地に居住する証人等の負担を軽減するため,1996年(平成8年)に新設され,2007年(平成19年)に現在の形に改められたものである。  中間試案は,近年のIT技術の発展により,ウェブ会議等における音声や映像の品質が飛躍的に向上し,隔地者間においても臨場感あるやり取りが可能となりつつあることに鑑み,証人尋問にもウェブ会議を利用することを念頭におき,ウェブ会議による証人尋問を行うための要件と証人の所在場所等を緩和することを企図したものである。  2 ウェブ会議等を利用した証人尋問の要件について   (1) 直接主義の原則  前記のとおり,法第204条は,証人が現実に出廷して,証言を行うこと(直接主義)を原則とした上で,映像と音声の送受信による通話方法によって証人尋問を認める場合を限定列挙としている。これは,従来,裁判所は,証人の証言を証言態度,雰囲気を含めて直接面前で体感することによってはじめて適切に心証を形成し,それを判断に反映させることができるのであり,当事者にとっても,証人と直接相対して尋問を行う(特に反対尋問を行う)機会の確保は手続保障の上でも重要だからである。  確かに,映像と音声の送受信により,相手の状態を相互に確認しながら隔地者間でのやり取りを可能とするITの利点を民事裁判手続等においてもできる限り享受しようとの発想に立てば,かかる要件を緩和してその適用範囲を拡大する方向での立法の志向も検討に値する。  しかし,IT技術の進歩により,隔地者間においても臨場感あるやり取りが可能となりつつあるとはいえ,それには未だ限界がある。それゆえ,証人の証言については,今後も,受訴裁判所の面前で行うという直接主義の原則は堅持し,例外を認めることには慎重であるべきである。   (2) 例外の検討  証人が遠隔地に居住していなくても,その年齢又は心身の状態その他の事情により受訴裁判所に出頭することが困難な場合は想定されることから, ウェブ会議等を利用した証人尋問の要件として,法第204条第1号を「証人の住所,年齢又は心身の状態その他の事情により,証人が受訴裁判所に出頭することが困難であると認められる場合であって,相当と認めるとき。」に改めることには賛成する。  しかし,裁判所には行きたくないなど,証人の我儘ともいうべき単なる主観的事情による不出頭や,単に多忙であるなど,受訴裁判所への出頭を困難にする具体的事情が明らかでない事由による不出頭は排除されるべきであるから,この点の明示を求める。  また,当事者が受訴裁判所に出頭した証人を直接尋問する機会を放棄し,かつ,裁判所もウェブ尋問等を行うことが相当であると判断した場合にまで,法廷における証人尋問を強いる必要はないことから,現行法第204条第3号として「(ウェブ尋問等をすることについて)当事者に異議がない場合であって,相当と認めるとき。」を加えることにも賛成する。  ただし,その文言については,中間試案が提案する同条第1号改正案の規律及び同条第2号の規律がいずれも「・・・と認める場合であって,相当と認めるとき」となっていることと平仄を合わせ,「当事者に異議がない場合であって,相当と認めるとき」とすべきである。  3 ウェブ会議等を利用した証人尋問における証人の所在場所等について   (1) 証人の所在場所の要件  ウェブ会議等による証人尋問の実施の細則は,最高裁判所規則に委ねられているが,これを受けた規則第123条第1及び第2項によれば,映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法により証人尋問を行う場合の証人の所在場所は官署としての裁判所に限定されている(電話会議によって行うことができる少額訴訟における証人尋問(規則第226条)は除く。)。この点,ITの発展やIT機器の普及により,音声及び映像の通信は,インターネット回線を利用することにより,裁判所以外の場所でもすることができるとすれば,証人尋問を裁判所以外の場所で行うことも物理的には可能である。  それゆえ,中間試案が,証人の所在場所について,今後の技術革新の可能性も踏まえ,証人を裁判所以外の場所に出頭させて尋問を実施することを認めることを想定し,現行法と同様,最高裁判所規則に委ねる旨の規定を置こうとしたことは評価できる。  しかし,いかなる場所でも通信環境が十分であるとはいえないところ,証人の表情や声の変化も読み取れることが求められる証人尋問では,弁論準備手続等の時以上に,端末機器の解像度も含めた高度な通信環境が必要不可欠である。また,証人尋問が公開の法廷で行われるからといって,証言内容に関するプライバシー等を確保することが難しい公衆の面前やその他証人に対して不当な影響を与える者を排除できない場所では,適正な尋問を行うことはできない。  それゆえ,このような規定を設けるのであれば,法第204条の中に,通信環境が整備され,かつ,証人に対する不当な影響を排除することができる場所であることという判断基準を示した上で,「適正な尋問を行うことができる場所」でなければならないことを明記することが不可欠であり,最高裁判所規則への白紙委任を許すべきではない。  したがって,第9の1(2)イについては,「適正な尋問を行うことができる場所(通信環境が整備され,かつ証人に対する不当な影響を排除することができる場所)として,最高裁判所規則で定める要件を具備する場所であること。」という規律とすべきである。   (2) 一方当事者等が証人と同じ場所に所在することの可否  ウェブ会議等による証人尋問を行う場合において,証人が一方当事者等と同じ場所に所在するときには,証人の証言に不当な影響が生じるおそれは否定できないため,類型的に第9の1(2)アのとおり,一当事者等が証人と同じ場所に所在することは原則として禁止した上で,例外を認める規律を設けようとしている点は評価できる。  ただし,訴訟においては,当事者が複数存在し,相当事者間の中でも主張が対立することはありうるため,証人と直接相対するのが一部の当事者のみであった場合には,意図的か否かにかかわらず,その当事者から一定の影響を受けるおそれがあることは否定できない。  それゆえ,第9の1(2)イで例外の一つと定める「当該場所が当事者の他の一方又はその代理人の在席する場所であるとき」だけでは足りないから,これは例外から除外すべきである。  また,本人訴訟の場合には,その異議自体を適切に申し出ることができない場合もあると考えられるから,「他の当事者に異議がないとき」は,「他の当事者が同意し,相当と認めるとき」に変えるべきである。   (3) 訴訟指揮権及び法廷警察権との関係の規律  前記のような証人に対する不当な影響を排除するための規律を設けたとしても,かかる問題が発生した場合に,直ちにそれを排除し適正な尋問を行うことができる環境と厳格な秩序維持が確保されなければ意味がない。特に,証人尋問は,証人から真実の証言を得て,判決内容の適正を確保するという公益的見地の上でも,極めて重要な手続である。  それゆえ,ウェブ会議等による証人尋問を行う場合においても,裁判所による訴訟指揮権やいわゆる法廷警察権が迅速かつ適切に行使が可能でなければならないが,裁判官不在の証人所在場所での訴訟指揮権や法廷警察権の行使方法や,当該場所の管理者の管理権限との関係については,未だ十分な議論はされていない。  したがって,これらについても検討の上,裁判官不在の証人の所在場所における証人尋問の秩序維持を確保する規律を設けることも必要不可欠である。 4 宣誓の方法について((注)について)   現行法上,証人には,特別の定めがある場合を除き,宣誓させなければならず(法第201条第1項),規則第112条第3項は,その方法として,証人に宣誓書を朗読させ,これに署名押印させるものと定めている。こうした現行法の規律を,ウェブ会議等による証人尋問を行う場合にも維持することは,IT化によるメリットを最大化する観点からは確かに望ましくない。それゆえ,証人に宣誓をさせたことは口頭弁論調書の記載事項とされていることから(規則第67条第1項第4号),宣誓書を作成してこれに署名押印させることまでは必要ないとして,宣誓書の作成自体を不要としてしまう規律も考えられる。  しかし,宣誓書が必要とされている趣旨は,宣誓に伴う効果として,宣誓した証人が虚偽の証言をした場合に制裁が予定されていること等から,証人に対して宣誓の趣旨を自覚させる点にもあるので,書面の形式による宣誓書の作成に代えて,電子データの形式による宣誓書を作成することとし,この場合には,署名押印に代えて,作成者を明らかにする措置をとるとする等,新たな形式の宣誓書を創設すべきである。  2 通訳人    通訳人に通訳をさせる方法について,次のような規律を設けるものとする。  裁判所は,相当と認めるときは,最高裁判所規則で定めるところにより,【音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法】【映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法】によって,通訳人に通訳をさせることができる。   【意見】   賛成する。通訳の方法は,映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法とすべきである。 【理由】   手話通訳において映像が不可欠であることは言うまでもない。また,通訳人は,話者の表情や身振り手振り,態度,雰囲気等を実際に目にすることによって,話者の理解度を確認し,その真意を読み取ることで,はじめて適切な通訳をすることが可能となる。証人尋問における通訳の重要性に鑑みれば,こうした通訳の方法は,少数言語であるために通訳人を探し出すことが困難であるとの理由で緩和してよいものではない。また,音声のみであれば通訳人を探し出すことが容易であるとの合理的理由も存在しない。  もっとも,少数言語であるため,通訳人を探し出すことが困難であり,かつ,同通訳人の所在場所の通信環境が整備されていない等の合理的理由がある場合であって,他の当事者に異議がなく,裁判所も相当と認めるときは,極めて例外的に音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によることを認めてもよいのではないかという意見もあった。    3 参考人等の審尋    法第187条に次のような規律を設けるものとする。  裁判所は,相当と認めるときは,最高裁判所規則で定めるところにより,音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって,参考人又は当事者本人を審尋することができる。 【意見】  賛成する。ただし,相手方のある事件では,映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によるとの規律とすべきである。 【理由】  決定で完結すべき事件は,訴訟手続又はこれらに関連して生じる派生的な裁判又は特に迅速を要する事項について裁判をするに当たり,判決に比べて手続の厳格さを緩和しているところに特徴がある。その一つが,法第187条に基づく非公開の期日における簡易な証拠調べとしての審尋である。略式のものであるから,出頭義務は課せられず,不出頭に対する制裁はないし,宣誓の手続もなく,裁判所は,裁量により事案の内容や対象者等に応じて適切と考える方法で事情を聴取することができる。  それゆえ,法第187条に,中間試案が提案する規律を設けることに異論はない。  しかし,法第187条は第2項で,対立構造にある相手方のある事件については,手続保障の観点から,当事者の対席が保障された審尋期日においてしなければならないと定めている。また,簡易とはいえ,審尋も証拠調べであるから,裁判所は,参考人等の供述をその態度,雰囲気を含めて直接面前で体感することによって適切に心証を形成することができるという点に変わりはない。  したがって,相手方のある事件では,対立当事者の手続保障及び直接主義の原則に照らし,映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができるという方法によるとの規律にすべきである。 第10 その他の証拠方法等  1 鑑定   (1) 法第215条の3を次のように改めるものとする。  裁判所は,鑑定人に口頭で意見を述べさせる場合において,相当と認めるときは,最高裁判所規則で定めるところにより,映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって,意見を述べさせることができる。   (2) 法第215条に次のような規律を設けるものとする。  鑑定人は,法第215条第1項の規定に基づき書面で意見を述べる場合には,書面の提出に代えて,最高裁判所規則で定めるところにより,電子情報処理組織を用いる方法により意見を述べることができる。 (注)本文の規律に加えて,規則第133条に基づく鑑定人の発問等について,電話会議等によることができるものとする。また,宣誓書を裁判所に提出する方式によって宣誓をする場合(規則第131条第2項)に,インターネットを用いる方法によってこれを行うことができるものとする考え方がある。 【意見】 1 (1)に賛成する。ただし,当事者が鑑定人の所在地に出向く希望を有しているときは,できるだけ当事者の意向に従うようにすべきである。 2 (2)に賛成する。 3 (注)のうち,規則第133条に基づく鑑定人の発問等については,賛成するが,可能であれば映像と音声によるウェブ会議の方法によることが望ましい。   宣誓書の提出に関する考え方に賛成する。 【理由】  1 遠隔地要件の廃止について((1)について)  現行法では,鑑定人が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは,隔地者が映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって,鑑定人に意見を述べさせることができることとされており,意見陳述に際してウェブ会議等を利用することができる(法第215条の3)。  しかし,鑑定人が「遠隔の地に居住しているとき」といういわゆる遠隔地要件については,現行法上,同様の文言が用いられている弁論準備手続に関する法第170条第2項においても遠隔地要件を廃止し単に「相当と認めるとき」とするのが相当ではないかと考えられていること,証人尋問等に関しても現行の法第204条一号の遠隔地要件を廃止することが提案されていることとの平仄から,現行の法第215条の3の遠隔地要件を廃止することには賛成する。これにより,ウェブ会議等の利用により,より鑑定人を確保することが容易になれば,鑑定が実施される事件の増加や審理の迅速化が期待できる。  ただし,書証を示して鑑定人の意見を求めるには,ウェブ会議システムより,鑑定人と同席しているほうがよりよい結果を得やすい。したがって,当事者が鑑定人の所在地に出向く希望を有しているときは,できるだけ当事者の意向に従うようにすべきである。  2 書面提出の方法について((2)について)  現行法上,裁判所は,指定した鑑定人に対し,宣誓書(規則第131条第2項)及び鑑定書(法第215条第1項)などの書面を提出させることができる。  そして,現行の実務では,鑑定人はこれらの書面を裁判所に持参又は郵送する方法で提出しているが(規則第3条第1項第3号参照),事件管理システムなど電子情報処理組織が整備された場合には,これらの書面の電子データをアップロードすることにより,これらの書面を提出することができることとするのが合理的である。  これにより,多忙な鑑定人に鑑定書の作成の時間をより確保させ,持参又は郵送の手間を省かせることができ,審理期間の短縮化に寄与することが期待できる。  3 鑑定人の発問等について((注)について)  鑑定人が鑑定を行う際にその基礎となる事実関係を,当事者又は証人に確認をしておくことは,正確かつ充実した鑑定には必要である。この点は,鑑定の結果報告後において,補足的に説明を求められる際も同様である。規則第133条はこのような趣旨で平成8年規則改正にて新設されたものであるが,多忙な鑑定人は法廷に出廷して,このような発問の機会を持つことが困難である。そのため,ウェブ会議システムを通じて,かかる機会を持つことができることは,このような発問の機会を確保することができ,遠隔地に所在する専門家も鑑定人に選任することが可能となり,より鑑定人を確保しやすくなることが期待できる。なお,(注)では「電話会議等」とあるが,可能であれば映像と音声によるいわゆるウェブ会議の方法によることが望ましいものと思われる。  宣誓書の提出については,2で述べたことと同様である。  2 検証    法第2編第4章第6節に次のような規律を設けるものとする。  裁判所は,相当と認める場合であって,当事者に異議がないときは,最高裁判所規則で定めるところにより,映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって,検証をすることができる。 【意見】  賛成する。 【理由】  1 ウェブ会議の導入について (1) 検証は,裁判官が五感の作用によって,直接に事物の性状,現象を検査して得た認識を証拠資料にする証拠調べである。    現行法上,裁判所において検証物を所持者に提示若しくは送付させ,又は裁判所が裁判所外の検証物が所在する場所に赴いて所持者に提示させ,裁判官が検証物を直接に認識する方法で実施している(法第232条)。 (2) もっとも,検証が五感の作用によるものであるとしても,味覚,嗅覚又は触覚によって検証物を認識する場合は必ずしも多くはないと思われ,視覚及び聴覚のみによって検証物を認識するような場合も存在する。その場合には,その検証物を直接認識しなくとも,精度の高い映像や音声の送受信が可能であれば,それによって間接的にその検証物を認識することができるものと思われる。  このようなときでも,当事者が検証物を法廷に持参したり,裁判官が現地に臨場して見分をしなければならないとすると,不要な費用や手間をかけさせたり,あるいは,検証のために現地に赴く期日が短期間で指定できず,審理が長期化する原因にもなりかねない。 (3) そこで,検証物の形状や性質,その検証に必要な五感の種類,当該検証物を映像及び音声の送受信の方法によってどの程度認識することができるか(精度),当事者が裁判所に検証物を提出することの負担,裁判所が検証物の所在地に赴き検証をすることの負担の程度などの事情を総合的に考慮して,相当と認める場合には,ウェブ会議等を利用して,当該検証物を映像及び音声で認識する方法により,検証をすることができるとすることも,検証の在り方として一概に否定されるべきではないものと思われる。 (4) もっとも,このようなウェブ会議等を利用する検証の方法は,本来検証に要求されている手続と異なって,直接に事物の性状,現象を検閲して得た認識方法ではなく,間接的な認識方法である。  また,ウェブ会議等を利用する検証の場合,当事者(又は当事者に委託された者)がその検証物を所在地において器材を用いて映像及び音声を録取することによって行われることが想定されるが,その映像や音声の録取方法によっては裁判官の心証に与える影響も異なる可能性があり,また,そもそも送信された映像や音声が取り調べるべき検証物と同一の物を録取したものであるかなどの疑義が生ずることもあり得る。 (5) そこで,少なくとも当事者双方がこのようなウェブ会議等を利用した検証に異議を述べない場合に限り,許されることとすべきである。  なお,精度の高い映像や音声の送受信が可能となることにより,視覚及び聴覚による検証物の認識の再現のための映像又は音声の保存が可能となることが,ウェブ会議等を利用した検証においても期待できる。そこで,現行の検証調書の記録の在り方についても,併せ検討を加えるべきである。 2 なお,いわゆる「ハイブリッド方式」による検証の場合については,後述の「3 裁判所外の証拠調べ」で述べる。  3 裁判所外における証拠調べ    法第185条に次のような規律を設けるものとする。 (1) 裁判所は,相当と認めるときは,当事者の意見を聴いて,最高裁判所規則で定めるところにより,裁判所及び当事者双方が映像及び音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって,同条の規定による裁判所外における証拠調べの期日における手続を行うことができる。 (2) 裁判所は,同条第1項の規定により裁判所外において証拠調べをする場合(合議体の構成員に命じ,又は地方裁判所若しくは簡易裁判所に嘱託して証拠調べをさせる場合を除く。)において,相当と認めるときは,その期日における手続を行う場所以外の場所に合議体の構成員の一部を在席させることができる。この場合において,当該合議体の構成員の一部は,裁判所及び当事者双方が映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法により手続を行うものとする。 (注)本文(2)の手続について,本文のように法第185条に規定する裁判所外における証拠調べとするのではなく,口頭弁論の期日における証拠調べとする考え方がある。 【意見】  1 (1)に賛成する。 2 (2)に反対する。いわゆるハイブリッド方式による証拠調べは,法第185条に規定する裁判所外における証拠調べと位置付けるべきではない。  検証については,通常の検証と同様の規律とすべきであり,証人尋問(法第204条が準用される本人尋問を含む。以下,同様。)については,法第204条で規律すべきである。  証人尋問については法第204条に「裁判所は,同条に規定する方法による尋問を行う場合において,相当と認めるときは,合議体の構成員の一部を,裁判所外で手続に関与させることができる。」との規律を加え,第204条による証人尋問の一態様として位置付け,同条により規律すべきである。  3  (注)の考え方に賛成する。 【理由】  1 ウェブ会議等による裁判所外における証拠調べについて((1)について)    (1)は,現行の法第185条で認められている裁判所外における証拠調べについて,口頭弁論の期日で証拠調べを行う場合と同様に,当事者のウェブ参加を認める旨の提案であり,特段の異論はない。  2 いわゆるハイブリッド方式による手続について((2)について) (1) 検証について ア 検証手続などでウェブ会議等を利用して検証を行うことが相当と認められる場合であっても,補充的に,合議体の構成員のうち一部が,裁判所外の検証物の所在地において検証を行うことが相当である場合も考えられる。   合議体の構成員の一部が検証を行う現場に臨場し,他の裁判官は,法廷に在席して,ウェブ会議等を利用して検証を行うことができることとする,いわゆる「ハイブリッド方式」も,裁判官全員がウェブ会議等を利用した検証の場合に比し,合議体の構成員のうちの一人でも直接検証物を見分して認識するという点で,より直接主義の要請に適う証拠調べ方法ともいえる。 イ この場合,臨場する裁判官は,裁判所外において証拠調べを行うことになるが,受命裁判官等が単独で裁判所外で証拠調べを行う場合とは異なり,他の合議体の構成員も音声と映像を媒介してではあるものの検証物を見分するものである。そのため,法第185条の裁判所外での証拠調べと位置付けるべきではなく,前記「2 検証」での規律によるべきである。 ウ ただし,ハイブリッド方式による場合には,臨場する裁判官以外の合議体の構成員は,ウェブ会議等を利用して間接的ながらも検証物を見分するものであり,かえって受命又は受託裁判官のみが裁判所外において検証を行う現行の法第185条1項による場合よりも,前記「2 検証」の要件である「当事者に異議がないこと」を要件として加重することは,均衡を失するものと思われる。 エ そこで,この点の均衡を図るべく,ハイブリッド方式による検証の場合は,合議体の構成員全員がウェブ会議により検証を行う場合に要求される「当事者に異議がないこと」は,要件とせず,「相当と認めるとき」との要件により行うことができるとするのが相当である。 オ そして,ハイブリッド方式による検証の場合も,臨場する裁判官以外の合議体の構成員は法廷に在廷し,法廷を公開して,口頭弁論期日における証拠調べとすべきである。   (2) 証人尋問について ア 現行法上,裁判所は,相当と認めるときは,裁判所外で証拠調べをすることができ(法第185条第1項),さらに一定の要件を満たす場合には,受命裁判官等に裁判所外で証人尋問をさせることができる(法第195条第1項)。 イ 証人尋問について,ハイブリッド方式によることが必要とされる場合は,合議体の構成員の一部が証人のもとに赴き,他の合議体の構成員は法廷に在廷して,音声と映像を通じて証人尋問の情況を見分する場合が想定される。    この場合,他の合議体の構成員も音声と映像を通じてではあるものの証人の表情や証言態度,証言内容等の証人尋問の情況を見分することができ,受命裁判官等が単独で裁判所外で証拠調べを行う法第195条の場合とは明らかに異なる。  そこで,このようなハイブリッド方式による証人尋問の場合は,受命裁判官等が単独で証人のもとに赴き手続を行う法第195条各号の事由を要件とすることなく,法第204条の要件のみでかかる尋問を認めることが相当である。 ウ また,ハイブリッド方式による場合は,合議体の構成員の一部は証人の所在地に実際に赴き,証人の証言を証言態度,雰囲気を含めて面前で体感することができる。この点は,合議体の構成員全員が在廷したまま証人と直接対面しない現行の法第204条の場合に比し,より直接主義の実質を充足するものと評価できるので,法第204条の一態様として規律するのが相当である。 エ なお,証人が在廷しながら,受訴裁判所の構成員の一部が裁判所外からウェブ会議の方法により,証人尋問手続に関わることは,直接主義の要請を弱めることになり,これを上回る必要性は見当たらないので,現時点では認めるべきではない。  3 口頭弁論期日としての位置付け((注)について)   (1) 証人尋問について ア 前述のとおり,ハイブリッド方式による証人尋問は,現行法における法第185条,第195条の裁判所外での証拠調べと位置付けるべきではない。 イ 映像等の送受信による通話の方法による証人尋問等(第204条,第215条の3,第372条第3項)の場合,証人等は場所的には口頭弁論が開かれている法廷の外にいるが,証人等は映像と音声によって受訴裁判所の法廷に出頭しているとみなされるため,裁判所外における証拠調べには当たらないと解されている。 ウ 合議体の構成員の一部が在廷し,他の合議体の構成員が裁判所外に所在する証人とともに所在して,その期日における手続を行いながら,合議体の構成員同士が双方に映像と音声の送受信により他の合議体の構成員の状態を相互に認識しながら通話をすることができる状態にあるならば,合議体の構成員全員が在廷して行う現行の法第204条における証拠調べと同質と評価することも可能と思われる。 エ 以上からすれば,ハイブリッド方式による証人尋問は,受訴裁判所が自ら証人尋問をしないことを前提とした法第195条の受命裁判官等による証人尋問とは異なるものといえ,法第204条に基づく受訴裁判所による証人尋問手続であるとして,裁判所外の証拠調べには当たらず,口頭弁論期日における証拠調べと公開の手続で行わなければならないと解すべきである。 オ この場合,証人尋問は,法廷にてその映像を流すことによって傍聴人等にも公開されることになるから,法廷に傍聴人用のモニターを設置することが必要不可欠である。 (2) 他の証拠調べについて  同様に,証人尋問以外のその他の証拠調べに関しても,ハイブリッド方式による場合には,受命又は受託裁判官が単独で裁判所外で証拠調べを行う法第185条による場合とは異なるので,口頭弁論期日における証拠調べと位置付け,手続の状況を公開法廷で傍聴できることとすべきである。     第11 訴訟の終了  1 判決   (1) 電子判決書の作成及び判決の言渡し  電子判決書の作成及び判決の言渡しについて,次のような規律を設けるものとする。    ア 判決は,電磁的記録により作成する。 イ アで作成された電磁的記録(以下本項において「電子判決書」という。)に記録された情報については,作成主体を明示し,改変が行われていないことを確認することができる措置をしなければならない。    ウ 判決の言渡しは,電子判決書に基づいてする。   (2) 電子判決書の送達  電子判決書を当事者に送達しなければならないことを前提として,電子判決書の送達について次のような規律を設けるものとする。 ア 電子判決書の送達は,裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録された電子判決書の内容を書面に出力したものをもってする。 イ アの規律にかかわらず,通知アドレスの届出をした者に対する電子判決書の送達は,システム送達によってする。    【意見】  (1)及び(2)に賛成する。ただし,(1)の「作成主体を明示し,改変が行われていないことを確認することができる措置」については,最高裁判所規則で定めるべきである。 【理由】   今般の民事訴訟法で書面の電子化を図る以上,判決についても,電磁的記録によるべきである。また,電磁的記録である以上,その同一性が確保されなければならないことも当然であり,提案の規律について賛成する。   そして,上記同一性の確保が制度の要点であることからすれば,その具体的な方法についても明確かつ安定的に運用することが適当であり,その内容を最高裁判所規則により定めることが適当である。   2 和解   (1) 和解の期日  和解の期日(和解を試みるための期日のことをいう。以下同じ。)について,法第89条に次の規律を加えるものとする。 ア 裁判所は,相当と認めるときは,当事者の意見を聴いて,最高裁判所規則で定めるところにより,裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって,和解の期日における手続を行うことができる。 イ アの期日に出頭しないでアの手続に関与した当事者は,その期日に出頭したものとみなす。 ウ 法第148条〈裁判長の訴訟指揮権〉,法第150条〈訴訟指揮権に対する異議〉,法第154条〈通訳人の立会い等〉及び法第155条〈弁論能力を欠く者に対する措置〉の規定は,和解について準用する。 エ 受命裁判官又は受託裁判官が和解の試みを行う場合には,ウの規定による裁判所又は裁判長の職務は,その裁判官が行う。   (2) 受諾和解     法第264条を次のように改めるものとする。  当事者が出頭することが困難であると認められる場合において,その当事者があらかじめ裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官から提示された和解条項案を受諾する旨の書面を提出し,他の当事者が口頭弁論等の期日(口頭弁論,弁論準備手続又は和解の期日をいう。)に出頭してその和解条項案を受諾したときは,当事者間に和解が調ったものとみなす。   (3) 新たな和解に代わる決定     新たな和解に代わる決定について,次のいずれかの案によるものとする。   【甲案】 ア 裁判所は,和解を試みたが和解が調わない場合において,審理及び和解に関する手続の現状,当事者の和解に関する手続の追行の状況を考慮し,相当と認めるときは,当事者の意見を聴いて,当事者双方のために衡平に考慮し,一切の事情を考慮して,職権で,事件の解決のため必要な和解条項を定める決定(以下本項において「和解に代わる決定」という。)をすることができる。 イ 和解に代わる決定に対しては,当事者は,その決定の告知を受けた日から2週間の不変期間内に,受訴裁判所に異議を申し立てることができる。 ウ イの期間内に異議の申立てがあったときは,和解に代わる決定は,その効力を失う。 エ 裁判所は,イの異議の申立てが不適法であると認めるときは,これを却下しなければならない。 オ イの期間内に異議の申立てがないときは,和解に代わる決定は,裁判上の和解と同一の効力を有する。   【乙案】    新たな和解に代わる決定の規律を設けない。 (注1)和解又は請求の放棄若しくは認諾を記録した調書は,送達しなければならないものとする考え方がある。 (注2)和解の期日,受諾和解,裁定和解等に参加する第三者に関する規律を設けるものとする考え方がある。 (注3)当事者双方が出頭することが困難であると認められる場合において,当事者双方が裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官から提示された和解条項案を受諾する旨の書面を提出し,裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官がその書面を提出した当事者の真意を確認したときは,当事者間に和解が調ったものとみなし,裁判所書記官が調書にその旨を記載したときは,その記載は確定判決と同一の効力を有するとの規律を設けるものとする考え方がある。 (注4)新たな和解に代わる決定の手続要件として,本文(3)アの当事者の意見を聴くことに代えて,当事者に異議がないこと又は当事者が同意していることのいずれかを必要とする考えがある。 (注5)新たな和解に代わる決定の対象事件を限定することについて,引き続き検討するものとする。    【意見】  (1)及び(2)に賛成する。  (3)の乙案に賛成する。   (注1)(注2)(注3)の各考え方に賛成する。  (3)の乙案に賛成することから,(注4)の考え方に反対し,(注5)の引き続き検討することにも反対する。 【理由】 1 和解の期日について  今般の民事訴訟法改正により広くウェブ会議を導入する以上,和解についても,これを用いて行えるようにすべきであり,ひとり和解のみ例外とする理由はない。  また,現在の裁判実務上,和解に利害関係人が参加することもあり,第三者にウェブ会議を通じた参加を認める必要性は高い。  なお,他の手続と同様,なりすましや非弁活動を防止する観点から,本人確認の方法等規律が必要になるというべきである。  2 受諾和解について((注3)関連)  規則第163条第2項は,受諾和解に際し,「裁判所等」が「書面を提出した当事者の真意を確認しなければならない」と規定する。この条項の趣旨は,訴訟の終了という当事者の権利に終極的な影響を及ぼす事項に関し,裁判官が当事者の意思に真に齟齬がないかを慎重に判断しようとするところにある。したがって,当事者双方が和解に出頭しない受諾和解においても,現行の規律と同様,裁判所等が当事者の真意に齟齬がないことをまず確認すべきであり,この考え方を採り入れた(注3)の考え方に賛成する。  3 新たな和解に代わる決定について   (1) 立法事実の不存在     簡易裁判所の管轄とされている少額の金銭支払請求訴訟においては,被告は若干の不満があっても事実を争わず,分割払や支払期限の猶予による和解を希望することも多く,原告も強制執行は請求金額に比して負担が大きいので,任意の履行を期待して分割払等の和解に応じることが多い。そこで,軽微な事件を簡易な手続で迅速に解決するため,簡易裁判所の役割を踏まえて平成15年改正で新設されたのが法第275条の2の制度である。  これに対し,甲案については,確かに,当事者間において和解のための歩み寄りが見られたが,和解の合意が成立するまでには至らない場合に,裁判所が和解決定を行うニーズがあるのかもしれない。しかし,現行法でも共同の申立てを要件とする裁定和解の制度があり(法第265条),上記のような例外的な事件のために新たな法制度を設ける必要があるのか,その立法事実は明らかでない。  また,現行法の下で利用されている民事調停法第17条の調停に代わる決定に実際上の不都合は見られないと思われ,以下のとおり問題点が多い本制度を敢えて新たに設ける必要性はない。   (2) 和解内容と裁判所の裁量の無限定 ア 現行の簡易裁判所の訴訟手続における和解に代わる決定の制度(法第275条の2)は,対象事件を簡易裁判所の金銭の支払を目的とする訴えに限定し, 和解内容についても,分割払等に限定されている。これに対し,甲案の制度は,対象事件及び和解内容に何ら制限を設けられておらず,裁判所は,当事者の求める訴訟物を超えて和解に代わる決定をすることも可能となってしまう。訴訟において当事者が裁判所に判断を求めているのは,実体的権利関係の存否であり,既判力を有する判断であって,訴訟物や要件事実を超えたより広い範囲での紛争解決を図ることは,本質的に当事者の役割である。甲案の制度は,こうした訴訟という紛争解決過程における当事者と裁判所の本質的な役割分担を損ねるおそれがある。仮に,裁判所の心証を知る,あるいは,当事者本人の説得という実務上の便宜があったとしても,それは従前どおり裁判所が和解案を示すなどの方法で行うべきである。 イ また,当事者は,裁判所の結論だけでなく,そこに至る理由をも含めた判断を仰ぐことに期待を有しているが,甲案の制度では,裁判所がかかる判断を示すことは要求されていないため,当事者は裁判所の理由を含めた判断を問う機会を一方的に奪われてしまいかねない。 ウ このような制度は,民事訴訟の大原則である当事者主義や処分権主義,ひいては当事者の裁判を受ける権利をも侵しかねない。かかる本質的な問題を回避するためには,手続的要件として提案の(注4)に示されているように当事者の積極的な同意を必要とすべきであるが,そうなると,今度は,前述の裁定和解(法第265条)との区別が困難となり,現行の制度に加えて甲案のような制度を設ける必要性を見出し得ないことになる。   (3) 当事者に対する手続保障 ア 甲案は,訴訟のどの段階で,どのような内容の和解に代わる決定をするのかについては,結局のところ,裁判所の裁量に委ねられることになる。裁判所は,この制度を利用することで判決を回避できることから,厳格な事実認定がおろそかにされたまま和解を勧めたり,事件処理を急ぐあまり,判決を避ける手段としてこの制度を用いたりする危険性もないとはいえない。 イ 甲案では,当事者に決定に対する異議を認め,その効力を失わせることも可能としている。しかし,本人訴訟の当事者が裁判所に異議を申し立てることは容易ではなく,むしろ裁判所の決定には従わざるを得ないと思い込んでしまいがちである。仮に異議を申し立てても,同じ受訴裁判所がその後の審理を担うため,当事者は不利な判決を恐れて,裁判所の和解決定を受け容れざるを得なくなることも予想される。   (4) 実体法上の効果  裁判所が和解を示し,それに訴訟物以外の内容が含まれる場合,当事者間に実体法上の効果が生じ,当事者を拘束するのか,その根拠が何かも判然としておらず,立法技術的にも問題を抱えるように思われる。   (5) 小括  以上の次第で,新たな和解に代わる決定には反対する。 第12 訴訟記録の閲覧等  1 裁判所に設置された端末による訴訟記録の閲覧等   (1) 訴訟記録の閲覧  何人も,裁判所書記官に対し,裁判所においてする訴訟記録(第1の3の電子化後のものに限る。以下第12の1から3までにおいて同じ。)の閲覧を請求することができるものとする。公開を禁止した口頭弁論に係る訴訟記録については,当事者及び利害関係を疎明した第三者に限り,裁判所においてする訴訟記録の閲覧の請求をすることができるものとする。   (2) 訴訟記録の複製等  当事者及び利害関係を疎明した第三者は,裁判所書記官に対し,裁判所においてする訴訟記録の複製,その正本,謄本若しくは抄本の交付又は訴訟に関する事項の証明書の交付を請求することができるものとする。   (3) 裁判所に設置された端末による閲覧等をすることができない場合  (1)による訴訟記録の閲覧の請求及び(2)による訴訟記録の複製の請求は,訴訟記録の保存又は裁判所の執務に支障があるときは,することができないものとする。 (注1)訴訟記録の複製の具体的な方法として,記録媒体に記録する方法によることの他にどのような方法があるかについて,引き続き検討するものとする。また,訴訟記録を出力した書面を裁判所において入手することができるようにする考え方がある。 (注2)補助参加の申出を濫用した訴訟記録の閲覧等を防ぐための規律の在り方について,引き続き検討するものとする。 (注3)本文(3)の規律に加えて,当事者以外の第三者は,裁判所に提出され,当事者が受領した後一定の期間が経過していない訴訟記録や,期日を経ていない訴訟記録について,閲覧等の請求をすることができないものとする考え方,和解を記載した調書(例えば,その全部又はそのうちいわゆる口外禁止条項を定めたもの)について,閲覧等の請求をすることができないものとする考え方がある。 (注4)事件係属中の当事者を含め,裁判所に設置された端末による訴訟記録の閲覧等を請求する者からは,当該端末を使用する対価を徴収することについても,(対価を徴収する場合にそれを手数料として徴収するか否かも含め)引き続き検討するものとする。  2 裁判所外の端末による訴訟記録の閲覧及び複製   (1) 当事者による閲覧等  当事者は,いつでも,電子情報処理組織を用いて,裁判所外における訴訟記録の閲覧及び複製をすることができるものとする。   (2) 利害関係を疎明した第三者による閲覧等  利害関係を疎明した第三者は,裁判所書記官に対し,電子情報処理組織を用いてする裁判所外における訴訟記録の閲覧及び複製を請求することができるものとする。   (3) 利害関係のない第三者による閲覧  利害関係のない第三者による電子情報処理組織を用いてする裁判所外における訴訟記録の閲覧に関する規律については,次のいずれかの案によるものとする。  【甲案】  当事者及び利害関係を疎明した第三者以外の者は,裁判所書記官に対し,電子情報処理組織を用いてする裁判所外における訴訟記録(次に掲げるものに限る。)の閲覧を請求することができる。ただし,公開を禁止した口頭弁論に係る訴訟記録については,この限りでない。    ア 訴状及び答弁書その他の準備書面 イ 口頭弁論の期日の調書その他の調書(調書中の証人,当事者本人及び鑑定人の陳述,検証の結果並びに和解が記載された部分を除く。)    ウ 判決書その他の裁判書  【乙案】  利害関係のない第三者による電子情報処理組織を用いてする裁判所外における訴訟記録の閲覧を認めない。   (4) 裁判所外の端末による閲覧等をすることができない場合  (1)による訴訟記録の閲覧及び複製,(2)による訴訟記録の閲覧及び複製の請求並びに(3)による訴訟記録の閲覧の請求は,訴訟記録の保存又は裁判所の執務に支障があるときは,することができないものとする。訴訟の完結した日から一定の期間が経過したときも,同様とするものとする。 (注)第1の本文3の電子化後の訴訟記録の保存期間に関する規律の在り方について,引き続き検討するものとする。    3 インターネットを用いてする訴訟記録の閲覧等の請求  電子情報処理組織を用いてする1による訴訟記録の閲覧,複製,その正本,謄本若しくは抄本の交付又は訴訟に関する事項の証明書の交付の請求及び2による訴訟記録の閲覧又は複製の請求は,最高裁判所規則で定めるところにより,裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該請求を記録する方法によりするものとする。 (注)インターネットを用いて訴訟記録の閲覧等の請求をする者の本人確認に関する規律の在り方について,引き続き検討するものとする。    4 閲覧等の制限の決定に伴う当事者の義務  法第92条第1項の決定があったときは,当事者等又は補佐人は,その訴訟において取得した同項の秘密を,正当な理由なく,当該訴訟の追行の目的以外の目的のために利用し,又は当事者等及び補佐人以外の者に開示してはならないものとする。 (注1)本文の規律に加えて,法第92条第1項の申立てをする当事者は,当該申立てに係る秘密記載部分を除いたものの作成及び提出並びに同項の決定において特定された秘密記載部分を除いたものの作成及び提出をしなければならないものとする考え方がある。 (注2)法第92条の規律に加えて,例えば,犯罪やDVの被害者の住所等が記載された部分については相手方当事者であっても閲覧等をすることができないようにする規律を設けるものとする考え方がある。 【意見】  1(1) 1(1)から(3)までに賛成する。 (2) 同(注1)を引き続き検討することに賛成する。多様な記録媒体への複製を認める利便性を勘案しつつ,情報の拡散によりプライバシー,営業秘密が侵害される危険性を併せ考慮して,議論を進めるべきである。     同(注2)を引き続き検討することに賛成する。  同(注3)の考え方は,いずれも現時点で積極的に反対するものではないが,当事者が提出した電子文書の撤回,閲覧禁止との関係を整理する必要があり,引き続き検討すべきである。     同(注4)を引き続き検討することに賛成する。  2(1) 2(1)及び(2)に賛成する。   (2) 同(3)について,乙案に賛成する。   (3) 同(4)本文に賛成する。 (4) 同(注)を引き続き検討することに賛成する。訴訟記録が電子化されることにより記録の保存が容易になることから,現行の保存期間よりも伸長させる方向で検討するべきである。 3 3本文の方法に賛成する。ただし,電磁的方法での請求が不可能ないし困難な者がいるのだから,このような者のために従来の書面による請求を認め,それを裁判所が電子化する方法,裁判所において閲覧複写のための十分なサポート体制を構築する方法などを併せ検討すべきである。    (注)の規律の在り方を引き続き検討することに賛成する。 4(1) 4の本文に賛成する。ただし,相手方当事者に対し不服申立権を認めるなど,秘密保持義務を負う相手方当事者の手続保障をするべきである。  なお,秘密保護を徹底すると同時に,不服申立手続を整備する観点から,特許法第105条の4ないし第105条の6を参考として,営業秘密又は個人の私生活上の重大な秘密に関する秘密保持命令制度の創設についても併せて検討するべきである。   (2) (注1),(注2)のいずれの考え方にも賛成する。  ただし,(注2)の考え方の規律の創設を検討する場合には,武器対等の原則に鑑み,必要な限度を超えて閲覧不能を認めなくする,閲覧禁止の判断の適正を図る規律を設ける,相手方の不服申立手続を整備するなどを十分に検討する必要がある。 【理由】 1 裁判所に設置された端末による訴訟記録の閲覧等  (1) 裁判所においてする閲覧制度の維持  訴訟記録が電子化され,インターネットを用いてする訴訟記録の閲覧等が可能となった場合においても,インターネットや電子機器に不慣れな当事者や第三者に対し,訴訟記録の閲覧等の機会を保障する必要がある。  したがって,現行の法制に準じて,裁判所に設置された端末による訴訟記録の閲覧等を認めるべきである。 (2) 裁判所においてする訴訟記録の複製等 ア 当事者及び利害関係者が訴訟記録の複製を請求する場合,利便性の観点からは,多様な記録媒体への複製を認めることが望ましい。しかし,電磁的記録を提供することは,他方で,情報の拡散によりプライバシー,営業秘密が侵害される危険性を併せ持つ。そこで,立法上,弊害を防止する方法を検討するほか,技術的な観点で,再複製に歯止めをかけるといったことも検討をするべきである。 イ 補助参加の申出を濫用した訴訟記録の閲覧等については,それを立法で解決する程度の実害があり得るのか,また,当事者が異議を述べない限り,補助参加の許否の判断がなされないこと(法第44条第1項),補助参加不許の裁判が確定するまでの間,補助参加申出人の訴訟行為が許されること(法第47条第3項),さらに,当事者が異議を述べずに弁論等をしたときには,当事者の異議の申出そのものが許されなくなること(法第44条第2項)といった現行法との整合性をいかに図るかも検討する必要がある。 ウ 記録閲覧者に端末使用料を徴収するかは,閲覧請求の手数料との関係,利用者の利便性,端末の設置状況,裁判所の執務に対する影響等を総合的に判断すべきであり,引き続き検討することに賛成する。   (3) 裁判所における閲覧等ができない場合  訴訟記録の閲覧複製の請求に対し,その保存又は裁判所の執務に支障があるときに閲覧を禁じることに異論はない。  (注3)のうち,当事者以外の第三者に一定期間や期日を経ていない訴訟記録の閲覧を禁止する考え方は,当事者が提出した電子文書を一定の場合に撤回を認めるか,判決送達の効力の発生時期をいつの時点とするかにも関わる。また,和解を記載した調書にいわゆる口外禁止条項を定めたものの閲覧等の請求を禁じる考え方は,閲覧禁止との関係を整理する必要がある。いずれも現時点で積極的に反対するものではないが,引き続き検討すべきである。 2 裁判所外の端末による訴訟記録の閲覧及び複製  (1) 当事者及び利害関係を疎明した第三者によるインターネット閲覧等   当事者及び利害関係を疎明した第三者に対しては,その利便に資するとともに,裁判手続の迅速化や透明性の向上にも寄与することから,インターネットを通じた閲覧等を認めるべきである。   また,当事者については,事件管理システムへの登録時に本人確認がされていることから,その本人確認情報(IDパスワード等)によって事件管理システムへログインして閲覧等をする場合には,裁判所書記官に対する請求を経ることなく,直ちに訴訟記録の閲覧等ができるようにするべきである。  他方で,利害関係を有する第三者については,利害関係の有無を確認する必要があることから,現行制度と同様に,裁判所書記官に対する請求及びその審査を経た上で,閲覧等ができるようにするべきである。  なお,利害関係については時期の経過によって変化する場合もあり得ることから,利害関係を疎明した第三者によるインターネットを通じた閲覧等については,閲覧等が可能となる期間について合理的な制限が設けられるべきである。  (2) 利害関係のない第三者によるインターネット閲覧    現行法上,何人も訴訟記録の閲覧をすることができると定められており(法第91条第1項),利害関係のない第三者であっても,訴訟記録の閲覧をすることができる。他方で,訴訟記録の謄写については,利害関係のある第三者に限定されている(同条第3項)。    インターネットによる訴訟記録の閲覧は,閲覧者の利便に資する反面,パソコン等の電子端末の画面を通じて行われるという性質上,ファイルのダウンロードのほか,スクリーンショットや画面を写真撮影するなどの方法による複製が極めて容易であり,実質的には謄写と同様の効果を得ることが可能である。これに対しては,ダウンロードの制限や電子透かし等の技術的措置を講じることも考えられるが,当該訴訟記録に記録された情報の複製又は保存自体を物理的に防止することは技術的に困難である。    そして,このように電子的に複製された訴訟記録は,その性質上拡散が容易であり,当事者や訴訟関係者のプライバシーや営業秘密がインターネット上に漏洩される可能性が高く,それらによる損害の多くは事後的な損害賠償等によっても回復が困難である。    この点に関して甲案は,閲覧の対象から証拠書類等を除外し,閲覧の対象を主張書面や調書,判決書等に限定することにより,当事者や訴訟関係者のプライバシー等に対する配慮がされている。しかしながら,準備書面等においても,当事者や訴訟関係者のプライバシーや個人情報等が記載された証拠を引用して記載されるということは実務上通常行われていることである。誰もがインターネットを通じてこれらの書面を自由に閲覧することができることとなれば,訴訟当事者の自由な主張立証活動に萎縮効果を招くおそれがある。    また,現在も一部の判決については裁判所のウェブサイト等を通じて一般に公開されているが,それらは全て仮名処理がされており,匿名化されている。したがって,全ての判決について仮名処理のないまま一般の閲覧の対象とすることは,判決の公開原則の拡充に資する反面,当事者や訴訟関係者のプライバシー等の保護が後退するおそれがある。  以上のような利害関係のない第三者による訴訟記録のインターネット閲覧を許容することの弊害及び危険性に鑑みれば,利害関係のない第三者による訴訟記録の閲覧については,電子情報処理組織を用いてする訴訟記録の裁判所外における閲覧を認めず,現行の閲覧制度に準じて,裁判所職員の立会いの下,裁判所に設置した電子端末を通じて閲覧を行う方法に限定するのが相当である。 3 訴訟記録の保存期間に関する規律の在り方   電子化された訴訟記録については,書面による記録と比較して,保存のための物理的場所を節減することが可能であり,記録自体も劣化することなく保存が可能となる。これを受けて,海外においては,電子訴訟記録の保存期間を永久としている国もある。  そのため,訴訟記録の保存期間に関する規律を検討するに当たっては,事件管理システムの保存容量等を考慮しつつも,少なくとも現行制度よりも保存期間を伸長させる方向で検討されるべきである。  4 閲覧等の制限の決定に伴う当事者の義務 (1) 実効性の確保  中間試案は,法第92条1項の決定(秘密保持のための第三者に対する閲覧等の制限)があったときに,当事者等にも同項の秘密記載部分の開示を禁じるものであるが,秘密保護の徹底,実効性確保の観点から,当事者等に義務の発生を認識させるために決定を告知する手続を整備する必要がある。   (2) 当事者等の不服申立て手続  前記決定に伴い当事者等に公法上の義務を生じさせるのであれば,当事者等の手続保障を図る必要がある。この点について,当連合会は,秘密保持命令制度の創設を提言し(平成24年2月16日付け「文書提出命令及び当事者照会制度改正に関する民事訴訟法改正要綱試案」参照),その中で命令の方式,送達,効力発生時期,不服申立手続,命令の取消し等の試案を示したが,これらが参考にされるべきである。特に,中間試案は,「正当な理由」がある場合をもって義務の阻却事由と捉えるようであるが,その内容が明確ではなく,法的安定性の点で疑問なしとしない。今後,部会で検討されるべきものと考える。  5 相手方当事者であっても閲覧することができない情報について  例えば性被害事件やDV事件など,被害者保護の観点から,相手方当事者であっても閲覧することができない情報に関する規律を設けることが考えられるが,相手方の防御権を保障する観点からは,判決の事実認定の基礎となる情報について,かかる制限を設けることは相当ではない。また,判決の事実認定の基礎とならない情報については,例えば当該部分を黒塗り等により除外して抄本化した文書を書証として提出するなど,現在の実務においても利用されている運用上の工夫を通じて,被害者保護を図ることも可能である。  そのため,相手方当事者であっても閲覧することができない情報に関する規律の創設について検討する場合には,武器対等の原則に鑑み,必要な限度を超えて閲覧不能を認めなくする,閲覧禁止の判断の適正を図る規律を設ける,相手方の不服申立手続を整備するなどを十分に検討する必要がある。 第13 土地管轄    土地管轄については,現行法の規律を維持するものとする。 【意見】   賛成する。 【理由】  事件の性質や証人尋問,当事者尋問,和解といった手続の内容によっては,当事者,訴訟代理人等が裁判所に現実に出頭して行うことが必要となる場面が存在する。また,当事者が裁判所に現実に出頭して裁判官の面前で手続に参加したいという意向を有している場合も存在する。  これらの事情から,土地管轄については現行法の規律を維持するという本中間試案に賛成する。 第14 上訴,再審,手形・小切手訴訟  法第3編(上訴),第4編(再審)及び第5編(手形・小切手訴訟)に係る手続についても,第一審の訴訟手続と同様にIT化する(インターネットを用いてする申立て,記録の電子化,ウェブ会議等を利用した期日の参加等を認める。)こととするものとする。 【意見】   賛成する。 【理由】  第一審の訴訟手続だけでなく,法第3編(上訴),第4編(再審)及び第5編(手形・小切手訴訟)に係る手続についても,IT化しないと民事裁判手続のIT化の利便性を十分に生かせないと考えられる。   そこで,本試案に賛成する。 第15 簡易裁判所の手続  簡易裁判所の訴訟手続についても地方裁判所における第一審の訴訟手続と同様にIT化することを前提として,その具体的規律や,IT化に伴う特則を設けることについては,引き続き検討するものとする。   【意見】   賛成する。  IT化に伴う特則の要否については,現行の民事訴訟法第2編第8章を維持することで足りると考える。  なお,法第402条は削除すべきである。 【理由】  簡易裁判所の訴訟手続についても,地方裁判所における第一審の訴訟手続と同様にIT化すべきである。  その具体的規律についても,簡易な手続により迅速に紛争を解決する趣旨から定める現在の民事訴訟法第2編第8章の特則は,IT化に伴う特則として引き続き相当と考えられる。そこで,これとは別に新たにIT化に伴う特則を設ける必要はない。  なお,部会資料6の20頁以下で検討されているとおり,OCR方式による支払督促の申立て手続を定める法第402条は同条第1項に規定する電子情報処理組織を用いて取り扱う督促手続に関する細則(平成9年最高裁判所規則第8号)が廃止され,OCR方式による支払督促方式による支払督促手続の運用が終了しており,現在において法第402条の規定を維持する必要が失われていることから,削除することが相当である。 第16 手数料の電子納付 1 インターネットを用いてする申立てがされた場合における手数料等の電子納付への一本化  電子情報処理組織を用いてする申立てがされる場合には,手数料及び手数料以外の費用(3において「手数料等」という。)の納付方法について,ペイジーによる納付の方法に一本化するものとする。 (注)第三者が裁判所外の端末による訴訟記録の閲覧等を請求することができることとした場合(第12の2の(2)及び(3)参照)におけるその閲覧等その他の民事訴訟費用等に関する法律(昭和46年法律第40号。以下「費用法」という。)別表第二上欄に掲げる行為をインターネットを用いて請求した場合等の手数料の納付方法についても,同様に所要の整備を行うものとする。 【意見】  本文,(注)のいずれにも賛成する。  ただし,手数料等の電子納付は,オンライン申立てから相当な期間内に事後的に納付できるものとし,申立時点で手数料等の電子納付が完了していなくても,その時点でオンライン申立てが受理されたものとすべきである。  また,預金口座を持たない当事者等が現金等で還付を受けることが妨げられないよう,事前に還付先の預金口座を登録することを必要とする現行の運用を改めるべきである。 【理由】  手数料等の納付方法をペイジーによる納付の方法に一本化することは,裁判所の事務負担の観点から合理的である。また,ペイジーによる納付の方法は,払込手数料が原則不要であるし,インターネットバンキングや郵便局・金融機関等のATMでの納付が可能であるなど,訴訟当事者の利便性に資するものである。以上の利点は,本文の場合だけではなく,(注)の場合においても妥当する。したがって,本文及び(注)のいずれも賛成である。  ただし,訴額の算定困難な事件について裁判所と協議をした上で手数料等を納付したいというニーズがあるほか,訴額を明確に算定できる場合でも,金融機関等に設置されたATMを利用しなければ納付できない訴訟当事者もいることを考慮すると,オンライン申立ての時点で申立てが受理され,この時点が消滅時効の完成猶予効の基準時とされる必要がある。  なお,ペイジーによる納付の方法に加えて,クレジットカードを利用する方法等の導入については, @ 複数の納付方法を採用するとシステム構築の費用が増加する上,裁判所の事務処理も煩雑になること, A 国税をクレジットカードで納付する場合の決済手数料が当事者に転嫁されているように,オンライン申立ての手数料等についてもその可能性があること, B この転嫁をしない場合は裁判所がクレジットカードの決済手数料を負担することになること, C クレジットカードを利用して納付した手数料等の支払方法につき,事後的に高利の負担を伴うリボルビング払いにすることも可能であり,特に高額な手数料等の場合は,多重債務の温床となりかねないこと, D 裁判所のウェブサイトと酷似したウェブサイトが構築されるなどしてクレジットカード決済が詐欺的請求に悪用される可能性もあること,  などの弊害が考えられるので,反対である。 2 郵便費用の手数料への一本化  郵便費用を手数料として扱い,申立ての手数料に組み込み一本化し,郵便費用の予納の制度を廃止するものとする。 (注)その具体化として,各申立ての手数料へ郵便費用をどのように組込むかについては,現行制度の下での郵便利用の実情,システム送達の導入に伴う郵便利用の変化の見通しを踏まえて検討するものとする。また,仮にオンライン申立てと書面による申立てとが併存することとなった場合(第1の1乙案,丙案参照),オンライン申立てを促進する観点等から,両者の手数料の額に差異を設けてオンライン申立てに経済的インセンティブを付与することについても検討するものとする。 【意見】  本文及び(注)のいずれにも賛成する。  ただし,郵便費用を申立ての手数料に組み込み一本化する際は,申立ての手数料の大幅な低額化及び定額化を図るべきである。 【理由】 1 郵便費用の手数料への一本化と低額化及び定額化  本提案は,予納郵便費用の実額精算を廃止し,郵便費用を手数料に組み込んでこれを定額化するものであり,裁判所の事務負担の合理化や当事者の利便性に資する利点がある。他方,郵便費用は事件によって一律ではなく,これを定額化することにより当事者間に不公平感を抱かせる可能性がある上,申立ての手数料への郵便費用の組み込み方次第では,支払うことになる合計額が現状よりも増えることになり,訴訟当事者の立場からは受け入られない。  国民に実感を得られやすい民事裁判手続のIT化の成果の一つとして,当連合会の2010年3月18日付け「提訴手数料の低・定額化に関する立法提言」で述べたように,国民の裁判を受ける権利を実質的に保障する観点,国民に利用しやすい民事裁判を提供する観点から現行の申立ての手数料を見直し,申立ての手数料に上限を設けるプライスキャップ制を導入して,大幅な提訴手数料の低額化を図り,その上で郵便費用を申立ての手数料に組み込み一本化して,国民にとって申立ての手数料が簡明なものとなるよう定額化を図るべきである。 2 オンライン申立ての手数料と書面申立ての手数料の差異  オンライン申立てによる手数料を書面申立てによるそれよりも低額にすることによって,オンライン申立てに誘導する効果を期待できるので,両者の額に差異を設けるべきである。 3 書面による申立てが許容される場合における手数料等の納付方法  仮にオンライン申立てに加え,書面による申立てが一定の場合に許容されることとなった場合(第1の1参照)でも,書面による申立てについては,手数料及び手数料以外の費用の納付方法につき,やむを得ない事情があると認めるときを除き,ペイジーによる納付の方法によらなければならないものとする。  上記のやむを得ない事情があると認めるときの納付方法の規律については,現行の費用法第8条の規律を維持するものとする。 【意見】   賛成する。 【理由】  手数料等の納付方法をペイジーによる納付の方法に一本化することが裁判所の事務負担の観点から合理的であり,当事者の利便性に資するものであることは,書面による申立ての場合も同じことであるから,本中間試案に賛成する。  訴訟当事者が刑事施設被収容者である場合にも電子納付ができるような手当がされるべきであるが,そのような手当がなされないとすれば,やむを得ない事情があると認めて,現行の印紙を貼付して手数料を納付する方法を許容すべきである。  なお,「やむを得ない事情があると認めるとき」の判断については,個別具体的な事情に基づき,柔軟な解釈運用をすべきである。  4 民事裁判手続のIT化に伴う訴訟費用の範囲の整理等 (1) 費用法第2条所定の当事者等又は代理人が期日に出頭するための旅費,日当及び宿泊料(同条第4号及び第5号)について,次のいずれかの案によるものとする。 【甲案】  現行の規律を改め,当事者等又は代理人が期日に出頭するための旅費,日当及び宿泊料(同条第4号及び第5号)については,当事者その他の者が負担すべき民事訴訟の費用の対象としないものとする。 【乙案】    現行の規律を維持するものとする。 (2) 費用法第2条所定の訴状その他の申立書等の書類の作成及び提出の費用(同条第6号)について,次のいずれかの案によるものとする。 【甲案】  現行の規律を改め,訴状その他の申立書等の書類の作成及び提出の費用(同条第6号)については,当事者その他の者が負担すべき民事訴訟の費用の対象としないものとする。 【乙案】    現行の規律を維持するものとする。 (3) 過納手数料の還付等(費用法第9条第1項,第3項及び第4項)並びに証人等の旅費,日当及び宿泊料の支給(費用法第21条から第24条まで)については,裁判所の権限とする現行の規律を改め,裁判所書記官の権限とするものとする。 (注)本文の規律に加えて,訴訟費用等の負担の額を定める処分を求める申立てに一定の期限を設けるものとすることについて,引き続き検討するものとする。 【意見】  (1)及び(2)について,いずれも乙案に賛成する。   (3)は,裁判所の権限の一部を裁判所書記官の権限とすることに賛成する。  (注)の訴訟費用額確定申立てに期限を設けることについて,期限を設けること自体には賛成であるが,具体的な期間を10年間とすべきである。 【理由】  1 旅費,日当及び宿泊料について   旅費,日当及び宿泊料については,特に旅費や宿泊料については,確かに,民事訴訟手続のIT化によって,その必要性が減少すると予想される。   しかしながら,IT化によって,ウェブ会議の参加が強制されるわけではなく,出頭自体が妨げることはないし,証人尋問については,直接主義の原則,反対尋問権の有効な行使の観点から,引き続き法廷で双方当事者の対席のもとで行われる可能性が高いように思われる。このように当事者等が当事者権の行使として裁判所に出頭することがある以上,IT化によって旅費,日当及び宿泊料を不相当な費用と位置付けることはできない。   そうだとすれば,現実に発生したこれらの費用について,全面勝訴したにもかかわらず,敗訴者に負担させられないという結論は,妥当とは言い難い。特に,海外から当事者等を呼び出す場合もあり,旅費等が高額になることもある。訴訟の追行に不可欠であるならば,旅費,日当及び宿泊料について,訴訟費用の対象と認めるべきである。 2 書類作成及び提出費用について   訴状その他の申立書等の書類作成及び提出の費用についても,確かに,紙媒体に印刷して提出する機会は相当程度減少すると思われるが,今後もこれが全て消滅することはあり得ない。    そもそも,甲案が根拠とするところは,IT化によって書類作成及び提出の機会が減ることを想定しているのであろうが,現実に発生する費用を無視してよいという理由にはならず,支持できない。 3 過納手数料の還付等と裁判所書記官権限    民事裁判がIT化されて事件管理システムが構築されていくと,訴訟費用額は,自動的に計算できるシステムが構築されることが期待される。このようなシステムが実現すれば,過納付額についても,ほぼ自動的に計算できるはずであり,このような機械的な判断で済む事柄であれば,裁判所書記官の権限として差し支えない。  しかし,過大に納められたか否か,またその程度について実体判断を伴うこともないではないので,一部は裁判所の権限に残す方向で更に検討をするべきである。 4 訴訟費用額確定申立てに係る期限の制定    訴訟記録が電子化に伴い,裁判所としては,今後,訴訟費用額確定のための訴訟記録を長期にわたって閲覧できるのであるから,これを失権させるという合理的理由を見出せないが,裁判所の事務作業の軽減を図る観点から,訴訟費用額確定の申立てに期限を設けることには反対しない。    もっとも,訴訟記録の保管がされていなかったとしても,少なくとも債権の一般の消滅時効の原則的期間である10年間は,権利行使を認めるべきである。なお,民法改正に伴い,消滅時効が短縮されたものの,判決による債務名義の時効期間が10年であることを踏まえると,この程度の期間は申立て可能とすべきと考えられる。 第17 IT化に伴う書記官事務の見直し  民事裁判手続のIT化に伴う裁判所書記官の事務の最適化のために,所要の改正をするものとする。 (注)担保の取消しを裁判所書記官の権限とするものとする考え方,訴状の補正及び却下の一部(例えば,請求の趣旨が全く記載されていない場合や,訴え提起手数料を納付すべきであるのに一定期間を経過しても一切納付されない場合における訴状の補正及び却下)を裁判所書記官の権限とするものとする考え方,調書の更正に関する規律を創設し,これを裁判所書記官の権限とするものとする考え方がある。 【意見】 1 賛成する。  特に,期日調書の在り方を検討すべきである。また,裁判所書記官の事務の最適化に加え,裁判所書記官制度の更なる充実に資するような制度改正を求める。 2 (注)のうち,法第79条第2項及び第3項の担保取消しを裁判所書記官の権限とする考え方に賛成し,同条第1項の担保取消しを裁判所書記官の権限とする考え方に反対する。  訴状の補正命令及び却下の一部を裁判所書記官の権限とする考え方に反対する。  調書の更正に関する規律を創設し,これを裁判所書記官の権限とする考え方に基本的に賛成する。ただし,和解調書,請求の放棄認諾調書,調書判決など訴訟物に影響する調書の更正は,裁判所書記官の権限外とするべきであり,調書の誤記等であっても,実体判断を伴うものについて,裁判官に権限を留保するかにつき,引き続き検討すべきである。 【理由】 1 裁判所書記官事務の最適化のための制度   期日調書は裁判所書記官によって作成されるが,近時,裁判所書記官による期日の全件立会がなされなくなっている(後記第19参照)。そのため調書の内容に異議を申し出ても,裁判所書記官が十分に訂正をなし得ないことすら生じている。   そもそも裁判所書記官が適正に公証事務を行うには,期日への立会が不可欠であるが,仮にそれが難しいのであれば,例えば,期日の内容を全て録音録画するなど,ITを用いた立会の補完制度を検討すべきである。   もっとも,この問題は,本来的には裁判所書記官制度の充実によって解決していくべき問題であり,これに資するような制度改革が求められるべきである。  2 担保の取消権限について  法第79条第1項は,担保を立てた者が担保の事由が消滅したことを証明したときは,裁判所が担保取消しの決定をすると定めている。担保の事由が消滅したかどうかは,実体法上の債権の存否に関わるものであり,実体判断を伴うものであって,裁判所書記官が判断するのは相当ではない。  仮に,裁判所書記官の処分が不当であった場合には,異議申立てによりを裁判所の判断を求め得るが(法第121条参照),そもそも裁判所書記官が実体判断をすることに問題があるし,当事者が異議申立てを余儀なくされるのは迂遠である。  これに対し,法第79条第2項及び同第3項の担保取消し,同意の有無,権利行使催告といった形式的判断にとどまるので,裁判所書記官権限として差し支えない。  3 訴状の補正命令及び却下の一部の権限について  実務上,訴状審査は,当事者・法定代理人・請求の趣旨・請求の原因の記載の有無や明白な誤記のみならず,欠席判決ができる程度までの記載を求める観点でなされており,実質判断に踏み込んで行われている。裁判長の指揮下で裁判所書記官が補正の促しをするにとどまらず,自ら補正命令や却下をなし得るとするのは,裁判所書記官の本来的権限を逸脱している。実際に,裁判所書記官の関心事と裁判官のそれが異なることもあり,裁判所書記官と特定の問題点で延々と議論をした挙げ句,裁判官との議論では全く問題とならないこともあり,かえって迅速な訴訟追行が阻害される危険性もある。  なお,破産法第21条は,破産手続開始申立書に所定事項の記載がない場合に補正を命じる権限を裁判所書記官に付与しているが,実質的審査権を付与するものではない。  加えて,請求の趣旨が全く記載されていない場合であっても,何らかの記載はあるはずで,これを請求の趣旨と取り扱えるのかどうかの判断を裁判所書記官の権限とすべきではない。ちなみに,全くの白紙を提出された場合は,訴訟提起として受理できないはずであり,ここでは問題とならない。  訴え提起手数料を納付すべきであるのに一定期間を経過しても納付されない場合についても,そもそも納付しないことが適法かどうか,手数料の額の解釈の問題となるのであれば,裁判所書記官の権限で補正命令あるいは却下の対象とすべきではない。なお,訴訟救助を経ずに0円で提訴できる類型は現行法上存在しないが,納めていないかどうかについても,裁判官が判断すべきであり,裁判所書記官が判断すべきではない。 4 調書の更正に関する規律の創設等  現行法上,明白な誤謬がある場合に更正調書を作成することに明文の根拠がないので,実態に合わせて裁判所書記官の権限とすることは合理的である。  ただし,和解調書,請求の放棄認諾調書,調書判決など訴訟物に影響する調書の更正は,実体判断を伴うことが少なくないから,裁判官が行うものとすべきである。  さらに,調書の誤記等として処理できるかは,個々の事情によって異なることから,裁判官の権限として留保すべきかどうか,引き続き検討をすべきである。 第18 障害者に対する手続上の配慮  民事裁判手続のIT化に伴い,障害者に対する手続上の配慮に関する規律を設けることについては,引き続き検討するものとする。 【意見】   賛成する。  具体的検討項目としては,法改正を求める事項として下記@〜G,対応要領・ガイドライン等の制定や研修を求める事項として下記Hの各項目を検討すべきである。  また,今後の検討に際しては,障がいのある弁護士や障がいのある当事者又は関係団体からの意見を踏まえるべきである。  なお,ウェブアクセシビリティ(高齢者,障害者等がウェブで提供されている情報や機能を支障なく利用できること)に関する規格には,ISO/IEC40500:2012,JIS X8341−3:2016があるが,裁判所の電子情報処理組織では,JIS規格のレベルAAAを視野に入れた適切なシステム構築が図られるべきである。 (具体的検討項目)  @ 一般規定の新設  第1編第1章に,障がい者が手続上効果的な役割を果たすことを容易にするため, その障がいの状態に応じて,裁判所が手続上の配慮をするとの一般規定を新設する。  A 特別代理人の要件の見直し  未成年者,成年被後見人又は精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者が訴訟行為をしようとする場合又はした場合にも,訴訟法上の特別代理人(法第35条1項)の選任申立てを可能とする改正をする。  B 視覚障がい者等に対する送達等に係る配慮  視覚障害若しくは聴覚障害により文書又は電磁的記録(音声記録を含む。)の内容の認識が困難である旨の申出又は知的障害,精神障害(発達障害を含む。以下同じ)等によりこれらが伝達された事実の理解が困難である旨の申出を受けたときは,送達(システム送達を含む。),「システム直送」,電子メール,SMS又はSNSの送信等に当たり,裁判所又は裁判所書記官が通常の方法に加えて,障がい者が当該文書又は電磁的記録の内容を了知できる方法で伝えることができる旨の規定を新設する。  なお,具体的には,点字文書,アクセシブルな形式のPDFファイル,電話による通知,拡大読書器の貸与,手話通訳,るび付き文書等が考えられるが,障がい者の特性に応じて適宜の方法が選択されるべきである。  C 付添人の見直し等  付添人の選任要件として,当事者の弁論能力が不十分な場合に加え,陳述禁止を命じなくても付添人の選任を可能とする。また,弁護士代理人又は弁護士付添人とともに,弁護士資格を持たない意思疎通を支援する者を付添人として選任し得ることとし(同時に非弁活動抑止の規定を設ける必要がある。),このような付添人の権限として,当事者が聴覚障害,言語障害のみならず,視覚障害,知的障害,精神障害等により意思疎通が困難なときにその意思疎通支援を行うこと,視覚障害やその他の身体障害等により事件管理システムのアップロード,ダウンロード等が困難なときにこれを支援することを加える。さらに,当事者の意思疎通が困難なときに,裁判所が音声認識ソフト,要約筆記,電話,手話通訳,筆談,触手話,指点字等を利用して意思疎通支援をすることとし,以上の意思疎通その他の支援を行うため,法第155条,法第60条を含めた関係規定を新設ないし改正する。  D 障がい者に対する配慮に要した費用の国庫負担  前記@からCまでの措置(前記Aについては,障がい者のために特別代理人が選任された場合に限る。)を講じる費用を国庫負担とする。手続上の配慮に要する費用を国庫負担とすることは,障がい者が,障がいがない者と平等な立場で,民事裁判手続を利用するための前提条件を整えるために必要である。  E 音声変換可能データの提出の促し  当事者が視覚障害により相手方が事件管理システムに登録した情報を読み取ることができない旨申し出たときは,裁判所は,相手方に対し,音声情報に変換可能な情報を有する電子データ(ワード,エクセル等)の提出を促すことができる旨の規定を新設する(第1の2項(注1)参照)。    また,相手方が裁判所の促しに対し,任意の提出に応じない場合には,裁判所が障がい者に対する手続上の配慮として,音声変換可能な電子データを作成できるソフト等を準備し,申し出た障がい者に交付する措置についても併せて検討する。  F 付添い等における考慮要素の追加等  付添い(法第203条の2第1項),遮蔽(法第203条の3第1項)及び映像等の送受信による通話の方法による尋問(法第204条第2号)の可否を判断する際の考慮要素に「障害」を加える。付添いについては,障がい者である当事者が口頭弁論,争点整理手続及び和解に関与する場合に準用するものとする。  G 再審事由の追加と明文化  訴訟手続に関与する機会がなかった者に法第338条第1項第3号の再審事由があると認めた判例の趣旨を踏まえ,視覚障害,知的障害,精神障害等により訴訟係属を知らないまま又はその内容を理解しないまま判決を受け,その点につき当事者の責めに帰することができない場合の救済を可能とする再審事由の規定を新設する。  H 事件記録の閲覧・謄写に対する手続上の配慮  視覚障がい者又は聴覚障がい者等が事件記録の閲覧・謄写請求をするときは,裁判所において,対応要領,ガイドライン等の制定や研修を通じて,その手順の説明及び補助,手話通訳者等の意思疎通支援者の補助,音声支援システムの導入されているコンピュータの利用などの配慮が行われるようにする。 【理由】 1 憲法第32条,第14条,第21条によれば,民事裁判手続等における実質的な平等を実現するため,障がい者が差別を受けずに裁判を受け,自らの意見を表明して手続に参加する権利とその機会を保障すべきであり,その十分な予算措置を講じることも国の責務である。また,障害者基本法第29条によれば,国又は地方公共団体に対し,障がい者が民事事件の当事者その他関係人になった場合において,障がい者がその権利を円滑に行使できるようにするため,個々の障がい者の特性に応じた意思疎通の手段を確保するように配慮するとともに,関係職員に対する研修その他必要な措置を講じるべき旨規定されている。さらに,国際人権(自由権)規約第14条第1項が全ての者が裁判所の前に平等であると規定し,障がい者の権利に関する条約第13条が「障害者が他の者と平等に司法手続を効果的に利用することを確保する」ため,「手続上の配慮」を求めているのに,現在,これを実現するための国内法が整備されておらず,いわば法の未整備を解消する必要に迫られている。当連合会が実施した民事裁判手続のIT化に関する障がい当事者等団体アンケート結果においても,障がいの特性に応じた手続上の配慮義務を定めるべき旨の要望が強く示されている。  当連合会は,当連合会意見書の第14の3項に,「障がい者に対する手続上の配慮」として,「障がい者がそうでない者と同等の手続保障を得るため,手続上の配慮をしなければならない旨の配慮規定を法に設けるとともに,障がいのある弁護士や障がいのある当事者又は関係団体から意見聴取をし,これを踏まえてITの活用を前提とした法の規定の要否,内容等を検討すべきである」との意見を述べたところであるが, 現時点では,前記@からHまでの項目が考えられる。  そこで,今後,これらの項目の内容を踏まえ,障がい者に対する手続上の配慮に関する規律について,十分な検討を行われるべきである。 2 必要な施策を立案するに当たっては,障がい者から直接意見を聴き,これを尊重することが有用である。障害者基本法第10条2項,第11条第2項,障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律第6条第4項,第9条第2項等には,障がい者等からの意見聴取をすべき旨の規定が設けられるており,これらの法令の趣旨を踏まえ,法制審議会においても,障がいのある弁護士や障がいのある当事者又は関係団体からの意見を聴取して,前記項目の検討を行うべきである。 3 民事裁判手続のIT化に際しては,ウェブアクセシビリティに関する規格である ISO/IEC40500:2012,JIS X8341−3:2016 のような基準が存在し,総務省のガイドライン「公的機関に求められるホームページ等のアクセシビリティ対応」においては,2017年までにJIS X8341−3:2016のレベルAAまで達成すべきこととされていることにも留意し,人権保障の府である裁判所のアクセシビリティ対応としては同基準のレベルAAAの達成を視野に入れたシステム構築を図るべきである。 第19 その他に検討すべき論点 【意見】  期日の記録化の在り方について検討するべきである。 【理由】 1 裁判所書記官は,弁論の要領を明らかにするため,口頭弁論の期日ごとに調書を作成しなければならない(法第160条,規則第66条,第67条,第86条)。また,民事訴訟規則上,弁論準備手続期日(規則第88条),進行協議期日(同第96条第4項)で調書の作成が義務付けられており,書面による準備手続における協議(同第91条第2項,第93条)においても,調書が作成されることがある。  2 争点整理手続の経過の記録化の在り方について  ところが,口頭弁論以外の期日では,期日に立ち会わないにもかかわらず,裁判所書記官が調書を作成することが少なくなく,これでは裁判所書記官が公証機関としての職責を果たしたことにならない(当事者がその内容に異議を述べても,よくその当否を判断できない事態すら生じている。)。  この点,民事訴訟規則上,当事者等の陳述の録取が可能とされているものの(規則第76条,第88条4項),これまでほとんど活用されてこなかったが,民事訴訟手続のIT化に伴い,陳述等の録音録画が容易になる。そこで,裁判所が必要と判断する場合には,申立てにより又は職権で,調書の記載の正確性を確保する補助手段としての当事者の陳述の録音録画を可能とし(規則第76条参照),また,裁判所書記官が期日に立ち会わないときは,必ず録音録画しなければならないものとして,期日等の適正な記録化を検討するべきである。もっとも,争点整理手続の実質化・活性化の前提として必要な当事者双方の自由闊達な発言が阻害されることがないよう,調書の記載の正確性を確保する補助手段を超えて,録音録画を訴訟記録とすることは,当事者双方が同意している場合に限られる必要がある。  3 証人等尋問の記録化の在り方について  現在,証人尋問や当事者尋問では,証言等が録音テープに記録され(ただし,この録音テープは訴訟記録としては取り扱われていない。),その後に反訳調書が作成され,これに基づいて判決が起案されている。尋問に立ち会った裁判官が判決をするときは問題が少ないものの,尋問実施後に裁判官が交代した場合や控訴審に移審した場合には,裁判官は反訳調書を頼りに心証形成に努めることになるが,直接尋問等に接することができないため,正しい事実認定ができない可能性があった。直接主義の実質化の観点からは,証言等を録音・録画し,その後作成される反訳調書に加えて録音・録画データをも訴訟記録とすることを原則とすることにより,証人等の尋問に立ち会わなかった裁判官が必要に応じて録音録画のデータを視聴できることが望ましいのは言うまでもない。  そこで,証人等の尋問期日の録音録画のための手続を検討するべきである。 127