障がい者グループホームの夜間支援体制等に関する意見書 2016年(平成28年)12月15日 日本弁護士連合会 第1 意見の趣旨 1 国は,障がい者グループホームでの夜間及び深夜の時間帯(注1)の支援の必要性及び重要性に照らし,夜勤を行うスタッフ(注2)を配置し,利用者に対して夜間及び深夜の時間帯を通じて必要な介護等の支援を提供できる人的体制を確保することを義務化し,夜間及び深夜の時間帯におけるスタッフの最低配置基準を設定するべきである。 2 国は,障がい者グループホームがその業務に従事するスタッフを十分配置できるに足る賃金水準を確保できるように報酬基準を設定し,そのために必要な予算措置を講ずるべきである。 3 国は,障がい者グループホーム運営事業者に対し,その業務に従事するスタッフを対象とした,障がい者の障がい特性理解,支援に関する専門的知識・技能,人権意識等の向上を図るための研修を義務化し,当該研修の受講を世話人・生活支援員への従事要件とするべきである。 第2 意見の理由 1 本意見書発出の経緯 2013年8月,当連合会に対して知的障がい者グループホームの運営に関する人権救済申立てがなされた。 同事件に関する当連合会の調査の過程において,知的障がい者の利用するグループホームの夜間及び深夜の時間帯に,スタッフの最低配置基準が何ら存在しておらず,このことが利用者の夜間及び深夜の時間帯の生活の安全等に支障を及ぼしかねない現状にあること,またグループホームのスタッフの質の確保が焦眉の課題であることを確認できたので,声を挙げにくい障がい者の権利擁護のために,国に対して,それらの点の改善を求めるものである。 2 グループホームの現状 (1) グループホームとは 障がい者グループホーム(障害者総合支援法により,2014年4月から,グループホームとケアホームが一元化されたため,以下併せて「グループホーム」という。)とは,障がい者が施設ではなく家庭的な雰囲気の住居で,地域の中で豊かに暮らすこと(地域生活)を目的に運営される障害福祉サービスである。利用者(原則2〜10名を定員とし,多くが5〜6名程度)は,独立した建物でスタッフ(管理者・サービス管理責任者・世話人・生活支援員)の支援を受けながら,障がいのない人と同様に,朝起床し,日中は,就労支援事業所に通所したり,多様な形態で就労するなどし,夕方にはグループホームに帰宅するという生活を送っている。 グループホームが目的とする「地域生活」とは,利用者が,物理的に住宅地や地元に密着する形で居住することにとどまらず,地域社会において,人とのつながりの中で,自分らしい生き方を実現するための生活である。自分らしい生活を送るために,グループホームという障害福祉サービスを利用するのである。 (2) グループホームの成り立ち もともと,障がい者グループホームは,1989年の精神薄弱者地域生活援助事業(現在の知的障がい者のグループホーム)に始まる。戦後の日本の障がい者政策は障害者入所施設に入居することが中心であったが,1980年代以降,障がい者も地域で豊かに暮らしていくことを当然とするノーマライゼーションの考えが日本でも浸透してきた。その結果,「地域生活」への移行を目的とする,グループホームという居住の場が誕生した。グループホームをケアホームと共に福祉サービス(前者を「共同生活援助」,後者を「共同生活介護」と定義)として法的に位置づけたのは,2006年施行の障害者自立支援法(現障害者総合支援法)であった。 グループホーム・ケアホームの利用者数は,障害者自立支援法施行前の2005年の約3.4万人から毎年増加を続け,2015年10月の時点で約10.0万人となっている。他方,障害者入所施設利用者は,2005年の約14万人から,2014年3月には約13万人へと緩慢ながら減少を続けている。 (3) 障がい者の権利からみたグループホーム @ 障がい者が地域で自立する権利 障害者基本法第3条では,全ての障がい者が,障がいのない者と等しく,基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ,その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を規定している。さらに,障害者の権利に関する条約第19条では,全ての障がい者が他の者と平等の選択の機会をもって地域社会で生活する平等の権利を有するとされている。 本来地域社会で暮らすことは,障がいの有無にかかわらず全ての人に生来保障されている基本的人権である。しかし,障がい者の多くは郊外の大規模入所施設等で社会から隔離された生活を余儀なくされてきた。誰もが生来保障されている地域生活は,共同社会に参加して地域の人と交流し,他の人々と同様に自分らしく生活することなのである。 このように,地域生活とは,「障がいのない者」がそうであるように,障がい者も一人一人異なり多様なはずである。しかし,現状の利用者の地域生活は,あらかじめ事業所から用意されたサービスの有無やその提供内容の中でしか組み立てることができない。グループホームの目的(利用者の地域生活)実現のためには,制度ありき,仕組みありきではなく,あくまで本人の希望とニーズに基づいて本人本位の生活を支援していくことが重要となる。そのために,障がい者の地域生活においては,そのニーズに応えるためのサポート体制が十分に検討されなければならない。 A 障がい者が社会生活上の自由を享受する権利 また,グループホームの支援内容は,いわゆる介護的な側面のみではない。地域社会で普通に暮らすためには,日中の就業後,買い物をしたり,外食したり,散歩に行ったり,趣味のために外出したりする等,自らの自由意思に基づく行動のための支援も必要となる。これらの権利は,日中のみならず夜間及び深夜の時間帯にも保障されるべきである。利用者が全員,夜間及び深夜の時間帯にグループホーム内で寝ているだけではない。 このように,グループホームの支援(ここでは特に夜間支援)には,いわゆる障がい故に必要な「介護」の側面と,他の者と平等に(憲法第14条「平等権」)誰もが当たり前の日常を送る自由を享受する(憲法第13条「幸福追求権」・障害者の権利に関する条約第19条「地域社会で生活する平等の権利」)ための「支援」という要素が含まれている。前者は,生命・身体・健康を維持するため必要なものであり,後者は,誰もが平等の地域生活を送るために必要なものである。 3 グループホームにおける問題点 グループホームは,障がい者の日常生活,地域生活を支える重要な事業であり,2014年の一元化をはじめ,支援体制,報酬,人員配置基準等多岐にわたる問題が議論されてきたが,本意見書では,発出の経緯(上記1)と調査結果を踏まえて,それらグループホームにおける諸問題のうち,夜間支援体制及び世話人・生活支援員等スタッフの質の確保について,以下の問題点を指摘し,それに対する提言を述べるものである。 (1) 夜間支援体制の不備 @ グループホームの設置・運営基準と夜間支援の現状 グループホームの設置・運営基準では,居住スペースの面積や入居定員等が定められ,日中(サービス提供時間帯で,具体的には,起床時から外出時及び帰宅時から就寝時を指す)の人員配置基準は利用者の障害支援区分に応じて定められている。 ところが,夜間及び深夜の時間帯での人員配置基準(配置義務)が定められていない。 その結果,夜間及び深夜の時間帯にスタッフを配置するかどうかは,各事業所の判断に委ねられているため,夜間及び深夜の時間帯にスタッフが不在のグループホームも珍しくはなく,配置されていてもスタッフ1名だけの場合が多いとされている(後述の「平成24年度グループホーム及びケアホームにおける支援に関する実態調査」に基づく)。 しかしながら,前述したとおりグループホーム利用者の多くが日中多様な形態でホーム外において過ごし,日中不在にしていることから,利用者の全滞在時間のうち夜間及び深夜の時間帯の占める割合は非常に高く,多くのグループホームでは夜間及び深夜の時間帯でもスタッフによる支援が必要とされていることが明らかとなっている。 この点,厚生労働省2012年度障害者総合福祉事業「平成24年度グループホーム及びケアホームにおける支援に関する実態調査」(以下「実態調査」という。)によれば,夜間及び深夜の時間帯に支援が必要ないと判断された利用者は全利用者の7.7%にすぎない。必要な夜間支援の内容も,「共同生活住居内のスタッフ室等の部屋に,常時スタッフがいる必要がある」(24.3%),「共同生活住居内のリビング等に,物音等に気を配りながら常時スタッフがいる必要がある」(10.9%),「共同生活住居内に常時スタッフがいる必要はないが,定期的な見守り・声掛け等が必要である」(17.6%),「入居者からの電話に対応でき,何かあればすぐに駆けつけられるところにスタッフがいる必要がある」(22%)というもので,その合計は74.8%にのぼり,「緊急通報システム等があれば,常時対応が必要なスタッフは必要ない」及び「入居者からの電話に対応できるスタッフがいる必要がある(駆けつける必要はない)」というのは,合計14.4%にすぎない。さらに,当然のことながら障害程度区分(注3)が高くなるに従って,より高い支援が必要となり,区分6(最も重い障がい者)では「常時スタッフがいる必要がある」のは9割に達している。 しかも,制度の創設当初,障がい者グループホームは比較的障がいが軽度の人を利用者として想定してきたが,近年は,どんなに重い障がいを持っていても地域で暮らすことが当然という理念(ノーマライゼーション)が浸透したことと利用者全体の高齢化から,利用者の重度化が進んでおり,一層,夜間支援の必要性が高まっている。 A 「利用者が安全に暮らす権利」が侵害されている実態 グループホームで夜間支援が必要な具体的な事象は障がい特性により異なるが,実態調査及び当連合会が行ったグループホームへのヒアリングでも,次のような事例が挙げられている。 ア 夜間に気持ちが不安定になり自傷他害行為に及ぶ(壁に頭を打ち付ける,自ら頬を平手打ちする,機械を壊す等)。 イ 夜間に突発的にグループホームを飛び出す。 ウ 夜間にてんかんの発作が起こる。 エ 行動障がいにより夜間にパニックに陥り,大声を出す,飛び跳ねる,TVの音声や音楽を大音量で流す。 オ スケジュールへの強いこだわりがあり,生活がスムーズに進まず,深夜まで対応が必要となる。 カ 特定の現象により興奮状態が継続し,睡眠をとることができず,夜間に起きてしまう。 キ 障がいの程度が軽い場合,日中活動で生じた人間関係に悩み深夜まで相談が必要となる。 ク 失禁を繰り返して,衣類を汚す。 ケ トイレ介助・体位変換・投薬介助が必要となる。 これらの事象は,複数の利用者に同時に生じる場合もある。障がい特性によっては,一人の利用者の上記事象が,他の利用者へ派生し影響することも非常に多いからである。そのため,スタッフが一人配置されていても,一人の利用者の介護に当たっている間,他の利用者への支援が放置されることになり,利用者の支援に重大な支障が生じかねないことになる。 このような事態を放置する場合,利用者が安全に安心して暮らす権利が損なわれることになるが,障がいのある人の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利すなわち生存権(憲法第25条)が保障されなければならないことからすると,このような事態を未然に防ぐ支援体制が必要である。 B 現行制度の問題点 現行制度では,夜間支援を,「夜勤」(注4),「宿直」(注5),「夜間防犯体制又は常時の連絡体制を確保している」(注6)の三類型に区分し,類型ごとに報酬を加算するというシステムを採用している。「障害者のグループホーム・ケアホームにおける防火安全体制等に関する実態調査」(2013年2月厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部)によれば,調査回答対象15,323住居のうち配置割合は,「連絡体制」が72.2%,「宿直」が30.4%,「夜勤」は13.6%であった。 加算については,夜間及び深夜の時間帯の支援対象者の支援区分の重さと人数に応じた段階的な加算単位数の設定となっており,加算単位の設定は行うものの,そもそもその対象となる夜間帯の支援対象者の人数等に応じたスタッフの配置人数については,規定がなく,各事業所の裁量に委ねられており,さらに,スタッフを増員しても加算の対象とならず,必要に応じて夜勤を行うスタッフを増員することの妨げとなっている。 しかし,上記のようにグループホーム利用者のうち,夜間及び深夜の時間帯の支援が必要ないとされるのはわずか7.7%であり,利用者の7割以上が実際にスタッフの直接的な介護を必要としている。さらに具体例として挙げた上記Aア〜ケの場合のように,一人のスタッフだけでは,複数の利用者への対応ができないことになる場合も多い。 つまり,グループホームでの夜間支援における人的サービスの確保は必須であるのにもかかわらず,現行の制度は,最低限の人員配置基準すら定めず,各事業所の判断に任せているのである。 グループホームでは,利用者の安全確保の観点から夜間は玄関が施錠されている場合がほとんどと思われる。スタッフの気付かない夜間外出による事故防止や防犯等の観点から夜間施錠の必要性は理解できる。ただし,スタッフが夜間常駐していて何時でも利用者が外出可能な状態にあれば問題ないが,スタッフが不在で利用者だけでは事実上開錠できない状態であれば,それは「障がい者虐待」にあたる可能性も否定できない。また,そのような状態において火災等が発生した場合に取り返しのつかない甚大な被害が発生する危険がある。 このような制度設計には,利用者が一人の市民として,自分らしい地域生活を送るというグループホームの本来の視点(幸福追求権・地域社会で生活する平等の権利)はなく,それどころか夜間及び深夜の時間帯に利用者への介護が十分になされず,障がい者の人権(生存権・平等権等)が侵害される危険性が常にあるという根本的な欠陥が存在していると言わざるを得ない。 このような欠陥を改善するためには,夜間及び深夜の時間帯を通じて,スタッフが常駐する体制を義務付ける必要がある。ところで,現行の加算制度における「宿直」とは定時的な居室の巡回や緊急時の支援等を提供できる体制を確保している場合であり,「常態としてほとんど労働する必要のない勤務」,「少数の入所児者に対して行う夜尿起こし,おむつ取替え,検温等の介助作業であって,軽度かつ短時間の作業」である。 すなわち「宿直」は,重度の障がいのある人への介護や長時間の支援は想定されておらず,頻繁な支援が必要な状態におよそ対応できない。また,宿直スタッフの賃金設定は「仮眠」等を想定して低廉であるにもかかわらず,現実には頻繁な支援や重労働を強いられる場合も多く,宿直体制を認めることは勤務実態と乖離するおそれが大きいからである。 したがって,障がいのある人の人権・安心した生活を保障するためには,夜間及び深夜の時間帯の支援は「宿直」では足りず,「夜勤」を行う夜間支援従事者を必ず配置し,利用者に対して同帯を通じて必要な介護等の支援を提供できる人的体制を確保することを義務化し,夜間及び深夜の時間帯におけるスタッフの最低配置基準を定めるべきである。 (2)報酬基準が低いこと     国から運営事業者に支払われている報酬基準が低いため,運営事業者は,グループホームのスタッフに対する十分な給与を支払うことができない。具体的には,平成28年度の報酬基準では,障がい者グループホームの報酬は,利用者4名に対しスタッフ1名の体制で,最も障害支援区分の高い区分6の人を前提としても,一人1日あたり668単位(1単位10円であり,地域によって加算がある。)に過ぎず,夜間支援等体制加算も「夜勤」が336単位,「宿直」が112単位,「連絡体制」が人数にかかわらず10単位と低廉である。平成27年度の報酬改定で3人以下の利用者を夜間支援した場合の新たな支援区分が創設されたものの,依然として最低配置基準は設けられていない。自治体によっては,これら国からの報酬が不十分であることから,グループホーム夜間世話人等配置事業により補助金事業を行っているところもある。 その結果,運営事業者は十分な人数のスタッフを雇えず,また,常勤スタッフではなく,非常勤スタッフを増やして対応せざるを得ないという構造的問題がある。専門家も障がい者グループホームスタッフの低賃金が支援の質の低下をもたらしていることについて警鐘を鳴らしている。 このような構造的な低賃金状態を改善するためには,国は,障がい者グループホーム業務に従事するスタッフを十分配置できるに足る賃金水準を確保できるように報酬単価を設定し,そのために必要な予算措置を講ずるべきである。 また,夜間及び深夜の時間帯におけるスタッフの最低配置基準を上回るスタッフを配置する必要が生じたときには,スタッフの増員に伴う報酬を加算することで,運営事業者が積極的にスタッフを配置できるようにすべきであり,そのための予算措置も併せて講じるべきである。 (3) 障がい者支援に従事するスタッフの研修が義務化されていないこと @ 介護・支援というのは,声掛けの方法・身体への触れ方・支援の手順等の一つ一つが障がい特性や個人により異なり,その配慮を間違うと,障がいを悪化させる等,経験と専門的な技術が要求される分野である。  また,昨今の施設内でのスタッフによる虐待事件にみられるとおり,障がい者に対する障がい特性の理解・介護方法の習熟・人権意識等については,専門職とそれ以外では,習得の機会という意味で差異が生じるのは避けられない。 A しかし,現在のグループホームでは,実際に利用者の支援を行う世話人及び生活支援員について,特に福祉専門職の資格を要しない。仮に世話人・生活支援員等が特定の資格(社会福祉士・介護福祉士・精神保健福祉士)を有している場合でも,専門職としての加算があるだけで,有資格者の配置自体が義務化されていない。  夜間支援について言えば,夜間勤務という労働条件の厳しさから担い手が不足しがちである上,配置自体が義務化されていないことから,日中介護に就いたことのない者,非常勤で介護経験が浅い者等が担うことが多いのが現状である。 B 厚生労働省も,2011年に成立した「障害者虐待の防止,障害者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づき,「障害者虐待防止・権利擁護指導者養成研修」(委託事業)を実施するなど,障がい者支援のための研修の重要性を認めている。  また,サービス管理責任者の多くからも,世話人・生活支援員に受けてほしい研修として挙げられているのは,「知的障がい・精神障がい(行動障がい含む)についての理解」,「感染症対策」,「虐待防止法」,「コミュニケーション技術の向上」,「介護技術」等である。つまり,グループホームの現場では,障がい特性に基づく研修等の必要性が顕著に表れているのである。  しかしながら,現行制度上は,グループホームの世話人・生活支援員等スタッフへの研修は義務化されていない。支援スタッフの支援の質の向上のための研修を義務化する必要がある。 C また,夜間支援においては,一人だけの勤務時間が長い上,勤務が夜間及び深夜の時間帯のみというスタッフが少なくないため,他の世話人・生活支援員とのコミュニケーションの機会が不足し,スタッフ会議への出席等も難しい。その結果,利用者の夜間状況の正確な把握,必要な支援の正確な理解がされないことが起こりやすい構造がある。このように,情報の共有も含め,スタッフの研修を進めることにより,グループホームの夜間支援の問題を少しでも減らすことが期待できる。 4 結論 (1) 夜間及び深夜の時間帯の人員配置基準を設定すべきである。 実態調査の結果等からも明らかなように,また,近年の利用者の高齢化・障    がいの重度化に伴い,グループホームにおける夜間支援の必要性は非常に高い。この場合,夜間支援の具体的要請があるにもかかわらず,スタッフ不足により適切な介護・支援が行われないことは,障がい者の尊厳(憲法第13条),生存権(同第25条),障がい者の地域社会で生きる平等の権利(障害者の権利に関する条約第1条及び第19条,障害者基本法第1条,第3条及び第4条)そのものが保障されていないことを意味する。    人員配置基準を定めず,支援対象者の数に応じて報酬を加算するという現在の制度では,配置人数そのものがすべて各事業所の裁量となり,適切な介護・支援が行われなくなるおそれがある。そのため,支援対象者の人数等に応じた人員配置基準を定めることが必要である。 そして,夜間の支援こそ,グループホームに必要とされている障害福祉サ ービスであることから,夜間及び深夜の時間帯においては夜間支援従事者を必ず配置し,利用者に対して十分な介護等の支援を提供できるようにすることを義務化すべきである。 (2) 十分な人数のスタッフを配置できるに足る報酬体系にすべきである。 グループホームスタッフの構造的な低賃金状態を改善するために,国は,障がい者グループホーム業務に従事するスタッフを十分配置できるに足る賃金水準を確保できるように報酬基準を設定し,さらに,夜間支援のために配置基準を上回るスタッフを配置する必要が生じた場合には,その超過人数に応じて報酬加算を実施する仕組みとし,そのために必要な予算措置を講ずるべきである。 これらは障がい者の健康で文化的な最低限度の生活の保障(憲法第25条)と個人の尊厳を保障する(同第13条)施策に他ならず,そのために必要な予算措置は国の義務というべきである。 (3) スタッフの研修を義務化すべきである。 障がい者支援業務における研修制度のメリットは,受講者である世話人・生活支援員等のスタッフが障がい特性及び介護・支援についての基礎知識の習得,障がい者の権利擁護に関する理解,障がい者虐待に関する知識を習得することによって,障がい者の権利擁護者になることである。したがって,より質の高い支援を確保するため,グループホーム運営事業者に対し,世話人・生活支援員等のスタッフを対象とする障がい特性に応じた研修・虐待防止研修等の人権研修を義務化すべきである。 なお,当該研修の内容については,グループホームの現場に従事している者への調査を実施し,世話人・生活支援員に必要な研修内容を精査し,実践的な研修内容を策定すべきである。そして,当該研修をより実効的なものとするため,当該研修の受講を世話人・生活支援員への従事要件とするべきである。 以 上 注1 一日の活動終了から開始まで(平成18年12月6日障発第1206001号通知) 注2 グループホームに配置されるスタッフは,@管理者,Aサービス管理責任者,B世話人,C生活支援員である。 注3 「障害程度区分」(障害者等に対する障害福祉サービスの必要性を明らかにするため当該障害者等の心身の状態を総合的に示すものとして厚生労働省令で定める区分)は,2014年4月1日から「障害支援区分」と変更された。「障害支援区分」とは,「障害者等の障害の多様な特性その他の心身の状態に応じて必要とされる標準的な支援の度合を総合的に示すものとして厚生労働省令で定める区分」をいう(障害者総合支援法第4条第4項)。 注4 「夜間支援従事者を配置し利用者に対して夜間及び深夜の時間帯を通じて必要な介護等の支援を提供できる体制を確保しているもの」(平成27年厚生労働省告示第153号) 注5 「夜間支援従事者を配置し利用者に対して夜間及び深夜の時間帯を通じて定時的な居室の巡回や緊急時の支援等を提供できる体制を確保しているもの」(上記脚注4告示),昭和49年7月26日基発387号及び同日付基監発第27号通知等 注6 「利用者に病状の急変その他の緊急の事態が生じた時に利用者の呼び出し等に速やかに対応できるよう常時の連絡体制又は防災体制を確保しているもの」(上記脚注4告示)