海外視察報告編 海外視察報告編・目次 第1章 ジュネーブ 275 T はじめに−視察の目的 275 U 障害者権利委員会の概要 275 1 国際障害同盟(IDA)ヴィクトリア・リー氏ヒアリング 275 2 マリア・ソリダード委員長ヒアリング 278 3 ロン・マッカラム副委員長ヒアリング 280 4 テレジア・デゲナー副委員長ヒアリング 283 V 障害者権利委員会の審議状況 285 1 オープニングでのあいさつ及び各意見から 285 2 スウェーデンNGOからの発言(ランチ・タイム・ブリーフィング) 287 3 スウェーデンとの建設的対話から 289 W まとめ 303 1 予測される日本の審議日程 303 2 すでに出された一般的意見及び今後予想される一般的意見 303 3 パラレルレポート作成にあたっての留意点 303 4 最後に 303 第2章 イタリア 305 T はじめに−視察の目的 305 U 総論 306 1 イタリアの障がいのある人の権利法制の流れ 306 2 社会的協同組合の存在 307 3 イタリア差別禁止法の概要 309 4 代理人から意思決定支援へ −ボローニャ大学ミーティング 311 V 教育 314 1 インクルーシブ教育制度の歴史と概要 314 2 インクルーシブ教育の現状−学校教育局のヒアリングから 322 3 学校の教育内容を変更する取組の経緯 328 4 教育現場の視察内容 332 (1)学区責任者からのヒアリング 332 (2)幼稚園 333 (3)小学校 334 (4)中学校 336 (5)特別学校(ミラノ) 338 (6)感想 339 5 まとめ−障がいのある子どもの親の会の方からのインタビューを踏まえ 340 W 精神 341 1 イタリア精神科病院の歴史と概要 341 (1)イタリアの精神保健制度の歴史 341 (2)制度改革の歴史−バザーリア医師の関わり 342 (3)法律180号に基づく精神保健医療 344 (4)イタリアの精神保健サービス 344 2 トリエステ精神保健局からヒアリング 345 3 各現場の現状と取組 350 (1)リハビリテーション・レジデンス・サービス(SAR) 350 (2)バルコラ精神保健センター 353 (3)マジョーレ病院 357 (4)知的・発達障がいデイケアセンター 359 4 まとめ 360 X 司法 361 1 イタリアにおける刑事司法と福祉 361 (1)イタリア刑事司法の特徴 361 (2)矯正処分監督裁判所(TDS) 362 (3)社会内刑執行支援事務所(UEPE) 362 (4)今回の視察にあたって 363 2 各現場の現状と取組 364 (1)カリスティローネ司法精神科病院(CASTIGLIONE DELLE STIVIERE) 364 (2)ボローニャ社会内刑執行支援事務所(UEPE) 368 3 まとめ(感想にかえて) 376 第3章 韓国 378 T はじめに−視察の目的 378 1 概要 378 2 韓国における調査の必要性 378 3 視察先 379 U 韓国における権利条約の実施状況 379 1 権利条約の批准 379 2 権利条約の実施状況 379 (1)韓国国内での障がいのある人に対する施策の状況 379 (2)権利条約実施の機関とその役割について 380 3 国内モニタリングの状況 381 V 視察先団体報告 382 1 報告書連帯(The Korean DPO And NGO Coalition For UN CRPD Parallel Report) 382 (1)パラレルレポート作成経緯 382 (2)ワーキンググループ等の説明 382 (3)各論説明 383 (4)報告書連帯の紹介文(崔栄繁氏仮訳) 388 (5)感想 390 2 保健福祉部障害者政策局 391 (1)はじめに(チャ氏より) 391 (2)生活の向上に関する政策 391 (3)具体的施策 392 (4)感想 394 3 障害者差別禁止推進連帯(Disability Discrimination Act of Solidarity in Korea) 395 (1)団体の概要と活動内容 395 (2)実際の取組 395 (3)感想 396 4 国家人権委員会 396 (1)国家人権委員会の差別禁止に関する関わり 396 (2)国家人権委員会の組織 397 (3)権利条約報告書関連について 397 (4)国家人権委員会への申立てと判断について 398 (5)感想 398 5 障害者法研究会(Korea Disability Law Association :KDLA) 399 (1)KDLAの設立目的 399 (2)主な事業 399 (3)メンバーについて 399 (4)沿革及び経過報告 399 (5)2014年主要事業 400 6 ソウル市障害者人権センター(SEOUL center for the rights of persons with disabilities) 400 (1)ソウル市障害者人権センターとは 400 (2)特色 401 (3)救済について 401 (4)教育事業 401 (5)その他 401 (6)最後に 401 W 結び 402 第1章 ジュネーブ T はじめに−視察の目的 第57回人権擁護大会シンポジウム第2分科会で障害者権利条約をテーマに取り上げることが決まってすぐ,障害者権利委員会第11回会期が3月末から1週間ジュネーブで開かれるので,その傍聴に行くことが決まった。 その目的は,その時点で日本の批准手続の真っ最中であり,2年後には日本が政府レポートを提出し,障害者権利委員会の審査対象になっていくことがわかっていたため,障害者権利委員会における審査というものを一度見ておこうということが第一だった。さらに,障害学を専門とする長瀬修氏(立命館大学客員教授)のコーディネートにより,障害者権利委員会及び国際NGOの要人とお会いし,障害者権利条約及び障害者権利委員会による監視(モニタリング)プロセスを深く学んでくることだった。 長瀬修氏の大きな貢献により,ジュネーブ視察日程は以下のとおり,大変充実したものとなった。 <ヒアリング> 3月30日(日) 午前10時から正午 国際障害同盟(IDA) ヴィクトリア・リー氏 同日       午後5時から午後6時 障害者権利委員会副委員長(前委員長) ロン・マッカラム氏 同日       午後8時から午後9時 同委員会副委員長 テレジア・デゲナー氏 3月31日(月) 午後6時から午後6時45分 同委員会委員長 マリア・ソリダード・システナス・ライエス氏 <傍聴> 3月31日(月) 午前10時から正午 障害者権利委員会 オープニング 同日       午後1時45分から午後2時45分 サイドイベント ランチ・タイム・ブリーフィング 同日       午後3時から午後6時 スウェーデンとの建設的対話 4月1日(火)  午前10時から午後1時 スウェーデンとの建設的対話 U 障害者権利委員会の概要 1 国際障害同盟(IDA)ヴィクトリア・リー氏ヒアリング (1)期日 2014年3月30日(日)午前10時から正午 (2)国際障害同盟(IDA) 1999年設立。現在,会員は12団体で,8団体の国際会員(ダウン症インターナショナル,国際育成会連盟(インクルージョン・インターナショナル),障害者インターナショナル,世界盲人連合,世界精神医療ユーザー・サバイバーネットワーク,世界ろう連盟,世界盲ろう者連盟,国際難聴者連盟)と4団体の地域会員(欧州障害フォーラム,太平洋障害フォーラム,アラブ障害機構,ラテンアメリカ障害者団体ネットワーク)から構成されている。 障害者権利条約と,人権に関するその他の文書を,障がい者団体の声をまとめたものとして活用し,障がいのある人の人権を促進することを使命としている。 締約国によっては,種々の事情により,障がい者団体等のNGOが十分活動できない国もあり,そのような場合は,パラレルレポート等の作成の支援のほか,代理して作成することもあるとのことである。 また,IDAは,障がい者団体の提言活動に資することを目的に,現在,障害者権利条約からの分析の観点に立って,グローバルな判例のデータベースを作成しようとしている。既に経済,社会,女性,子どものデータベースができているとのことである。 (3)ヴィクトリア・リー氏 IDAジュネーブ事務局のヒューマンライツ・オフィサー (4)ヒアリングの内容 (写真挿入) ヴィクトリア・リー氏がパソコンの前に座ってレクチャーしている様子の写真が挿入れている。 a 締約国による政府レポートに対する国連障害者権利委員会の審査のサイクル 締約国の政府が報告書を提出すると障がい者団体等のNGOのパラレルレポートを参考にして,障害者権利委員会から任命された委員1人が報告者となり質問事項(リストオブイシュー)案を作成し,障害者権利委員会で採択する。締約国は,この質問事項に対して,2か月以内に回答しなければならない。なお,障がい者団体もこの質問事項に対して回答することができ,障害者権利委員会は双方の回答を比較して検討するとのことである。 障がい者団体などのNGOはパラレルレポートの作成も重要であるが,政府レポートそのものに障がい者団体が関与することが重要(権利条約35条4項,4条3項)。また,質問事項について,パラレルレポート等で課題を提案することができる。IDAは質問事項について意見を出すこともある。 また,障害者権利委員会の初日の午前中に行われるオープニングの最後に,政府代表が加わらない席で,障がい者団体などのNGOは直接委員会に情報発信をする時間が持たれる。これをプライベート・フォーマル・ブリーフィングといい,1時間で3か国のNGOが発表を行うので,1か国について20分しかない。 建設的対話の直前の昼食時間に,サイドイベントの一環として,1時間のランチ・タイム・ブリーフィングを行う。ここでNGOは,障害者権利委員会の委員と直接のやり取りができる。 障害者権利委員会は締約国との建設的対話の後,非公開で協議し,総括所見と勧告を採択する。障がい者団体はそれを受けて,その勧告内容が実行されるよう,監視することが重要である。 障害者権利委員会において,障がい者団体やIDAの意見は,優先的に取り扱われる。 弁護士会がパラレルレポートを提出する際には,障がい者団体と整合性を共有しておくことも重要と考える。障がい当事者は自ら体験を有しているし,弁護士は裁判等を通じて法的な見識を有しているので,双方はパラレルレポート作成に当たって,いいパートナーシップを形成できると思う。なお私達が視察に赴いた時点で,障害者権利条約に関し,10か国の審査が終了していたが,弁護士会からのパラレルレポートの提出はその10か国にはなかったとのことである。 b 締約国が政府レポートの提出を遅らせる場合の対処 障害者権利委員会は書簡を送って提出を促すこともある。それでも提出がない場合は,政府報告がない段階で建設的対話を始める可能性もある。 なお,ハンガリーの例では,障がい者団体がパラレルレポートを先に提出してしまい,政府レポートの提出が促されたということもあった。 c 日本に対する審査時期の見込み 現段階で40か国の政府レポートが提出されている。昨年は4か国,今年は10か国審査するとのことであり,今後は更に毎年の審査国数を増加させたいとのことであるが,この状況から考えると,他国の審査が順調に進んだとしても,日本政府が政府レポートを提出してから審査までには1〜2年くらいはかかるのではないか,とのことであった。 d 建設的対話の視察を予定しているスウェーデンについて 障害者権利委員会は人権を重視してきたスウェーデンに対し,期待するところが大きいとのことであった。最近予算が減らされていることについて懸念しているが,世界的な金融危機は障害者権利条約との関係で予算削減の言いわけとはならない。 (写真挿入) ヴィクトリア・リー氏がホワイトボードの前に立ってレクチャーしている様子を写した写真が挿入されている。 e 今まで採択された総括所見(勧告)の内容 ア 非差別 複合差別。合理的配慮の否定は差別にあたることを法律で明確に定めること。合理的配慮の理解に関する訓練や適切な予算配分についても勧告。胎児に障がいがあると分かった場合のみ,中絶期間を長くすることを認める法律は差別。 イ 法的能力 支援付意思決定の促進。 ウ 施設収容 障がいのために自由を拘束する法律の撤廃。地域社会の一員として生活する権利に関して,提供されるコミュニケーションサービスの質の向上を求めた。 エ 強制不妊手術 締約国からしばしばデータに表れないと主張されるが,データに表れない慣行を許容する結果となる上記手術を定める法律の撤廃を求めた。 オ 国内モニタリング 監視機関の設置。障がい者団体の参画。 カ 手続的側面 障がい者団体の参加。研修。データ収集の向上。人的・財政的資源の確保及び適切な配分。 f 障害者権利委員会による国際的モニタリングの成果 総括所見(勧告)を出した例が10か国とまだ少ないことや,情報のフィードバックが十分ではない点はあるが,ペルーの例で質問事項の採択段階で障がい者団体が知的障がいのある人の選挙権剥奪を指摘したところ,建設的対話に至る前に選挙権が回復した。ペルーに対する勧告の一つに,強制入院に関する法律の撤廃の勧告があったが,その結果,その法律は撤廃されたと聞いているが,この点は正確に確認できていないとのことであった。 チュニジアは障害者権利委員会が最初に総括所見(勧告)をした国であるが,アラブの春の革命直後であったところ,新しい憲法の制定や選挙の手順を決めるにあたり,障がいのある人の観点から様々な勧告をした結果,実際の選挙でアクセシビリティについての配慮がなされたという成果があった。新憲法の条文にも障がいのある人は差別から保護されなければならないとの規定が設けられた。 (5)感想 IDAは,障害者権利条約を通じて,障がいのある人の人権擁護の最前線基地となっていることを実感した。私達のヒアリング後,その会場で今回の審査対象国となっているスウェーデンの障がい者団体とIDAとの打ち合わせが予定されていた。 障害者権利委員会による会議を目前に控えて多忙な折に,私達のために時間をとっていただき,大変貴重な情報を伝えていただいたことに大変感謝している。その上,IDAには,私達の障害者権利委員会の建設的対話の傍聴に際しての同時通訳確保のためのブースの使用などについて,仲介の労をとっていただいた。深謝するばかりである。 日本の審査の際には,日弁連としてもIDAと連絡を取り合いたいものである。 2 マリア・ソリダード委員長ヒアリング (1)期日 2014年3月31日(月)午後6時15分から午後6時45分 (2)マリア・ソリダード氏略歴 チリ出身。女性。弁護士。自身も視覚障がいがある。 現在,障害者権利委員会第3代委員長。 (3)ヒアリングの内容 (写真挿入) 机を囲んで,マリア・ソリダード委員長と,委員長にインタビューをする当会委員達を写した写真が挿入されている。 a 障害者権利委員会の主な成果及び課題について ア 主な成果 私は,委員長に就任して以降,特に建設的対話に注力してきた。また,委員会としての総括所見についても内容の深いものが出てきた点は評価できる。 イ 今後取り組むべき課題 特に私が興味を持っているテーマは,障害者権利条約9条のアクセシビリティ,12条の法的能力の問題,その他障がいのある女性や子どもの権利の問題などである。今後も特にこのような課題に取り組んでいきたい。 また,これまで障害者権利条約は多くの国の批准を得てきたが,その道のりは大変なものであったことは理解してもらえると思う。その中で私たちが対面しているのは,障害者権利条約と,ミレニアム開発目標(*1),また,2015年以降の開発目標との間に,非常に密接な関係があるということである。それを念頭に置いて,私たちは,今後どうすれば持続的でインクルーシブな社会を発展させていけるのか,特に,人権擁護に重点を置いて社会を発展させていけるのかということを考えながら,様々な課題に取り組んでいきたいと考えている。そうした中で締約国間の会話,締約国会議の重要性についてひしひしと感じている。 b 今後の障害者権利委員会の担う役割 また,国際的に障がいのある人の権利を擁護し,促進していく中で,障害者権利委員会がいかに重要な位置を占めているかを踏まえた上で,国連の内外で,この委員会が発信していくことが大きな意味を持つと思う。国際社会の様々な面を通じて,縦断するように,委員会が関与していかなければならない。それを可能にするためには委員会が常に自立性と独立性を維持する必要がある。そういった課題をしっかり踏まえて取り組んでいきたい。 c 権利条約実施に向けて 私が特に強調したいのは,権利条約が実際に実行されるためには,政府当局と社会,そして市民団体との対話を通じて,密接な関係を築いていくことが必要であるということである。そうした中で市民社会・団体などの意見を総括所見などにも反映させながら,条約の完全な実行に結びつけていきたい。 d 日本の政府報告の審査に関して 今後提出される日本政府の報告の検証の際に,報告官が日本に伺う可能性がある。また,障害者権利委員会において,日本の政府報告の審査がある際には,日弁連の障害者関係委員会の他,日本の障害者関係団体の方々にも参加して欲しい。 (4)感想 (写真挿入) マリア・ソリダード委員長と視察メンバーの集合写真が挿入されている。 マリア・ソリダード委員長には,障害者権利委員会の長時間の審理の後,わざわざ時間をとって頂き,私たちのヒアリングに応じていただいた。そのご厚意に厚く御礼申し上げたい。また,障害者権利条約の精神を広く世界に普及させようとする熱意には,心から尊敬の念を抱かずにはいられなかった。今後,日本が障害者権利委員会の審査を受けることになるが,日本の障がい当事者,障がい者団体と歩調を合わせ,私たち弁護士もできる限り,この障害者権利条約の精神を日本に根付かせることができるように日々努力を積み重ねていきたい。 *1 ミレニアム開発目標 (以下は国連開発計画HP http://www.undp.or.jp/aboutundp/mdg/ より抜粋)  2000年9月,ニューヨークの国連本部で開催された国連ミレニアム・サミットに参加した147の国家元首を含む189の国連加盟国代表が,21世紀の国際社会の目標として,より安全で豊かな世界づくりへの協力を約束する「国連ミレニアム宣言」を採択した。この宣言と1990年代に開催された主要な国際会議やサミットでの開発目標をまとめたものが「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)」である。MDGsは国際社会の支援を必要とする課題に対して2015年までに達成するという期限付きの8つの目標,21のターゲット,60の指標を掲げている。 2013年には,国連総会議長主催のMDGs特別イベントが開催され,2015年の達成期限に向けてMDGs進捗を加速することを確認するとともに,2015年9月に首脳級サミットを開催して「ポスト2015開発アジェンダ」(2015年以降の開発目標)を採択することが合意された。 3 ロン・マッカラム副委員長ヒアリング (1)期日 2014年3月30日(日)午後5時から午後6時 (2)ロン・マッカラム氏略歴 オーストラリア出身。シドニー大学名誉教授(労働法)。全盲。 2006年からオーストラリア最大の視覚障がい者団体「ヴィジョン・オーストラリア」の副理事長。 2008年11月に障害者権利委員会委員に就任。2010年2月から3年間,第2代委員長を務め,その後は現在まで副委員長。 オーストラリア政府から,2003年にセンテナリー勲章を,2006年にオーストラリア名誉勲章を受章。2011年には,平等な権利のための活躍,とりわけ障がいのある人のための活動を評価され,「2011年の高齢オーストラリア人」に選出された。 (写真挿入) ロン・マッカラム副委員長と付添の娘さんがソファに座って微笑んでいる様子を写した写真が挿入されている。 (3)ヒアリングの内容 a 日本の批准と今後の手続 日本の障害者権利条約批准を歓迎する。 現在,50か国が政府レポートの審査を待っている状況で,2014年に内 10か国の審査を行う予定である。審査のペースを上げないと間に合わないため,2015年以降は15か国ずつ審査対象にあげたいと考えており,国連総会の許可を取る手続をしている。 日本の政府レポートは2016年1月くらいに提出される予定だろう。日本との対話は,2018年か2019年に行うことができる可能性がある。 私が2012年12月に訪日した時,日本では差別禁止法を作る過程にあったが,その後制定されたとのことで喜ばしいことである。 また去年日本で,知的障がいのある人の投票権に関する判決があった。この裁判は世界中が注意深く見守っていて,判決が出た時は皆でお祝いをした。 2016年には障害者権利委員会の委員の選挙が行われるので,是非,日本からも候補を立てていただきたい。 日本政府レポートが出されると,障害者権利委員会で建設的対話を行うことになる。我々は政府からの報告だけでなく日本の障がい者団体からもパラレルレポートを受け取る。日本の障がい者団体はよく組織されているので,非常に価値ある情報を得られると確信している。例えば,中国との対話の時は,中国の障がい者団体から情報を得るのが非常に困難だった。 対話では,国によって政治状況などが違うため,個別に成果と課題を評価していく。経済的に発展している国に対しては,期待も高くなる。日本のような国に対しては,期待が高い。 対話が終わると,5頁程の総括所見を出す。そこでは良かった点も書くし,課題も指摘する。先進国では,27条雇用,24条教育,19条地域生活などの分野で課題が多い。 b 審査の実際 我々委員は,18名の内17名が障がい当事者である。 我々との対話では,政府関係者からこんなに精査するのかと驚かれる。発展途上国の閣僚級は,生まれて一度も障がいのある人に接したことがない人が多いため,公式の場で,障がいのある学者などから質問を受けることが,彼らにとって新しい経験である。 我々は,障がい者団体(DPO)の助けなくしては,仕事ができない。障がい者団体は,その国での障がいのある人の本当の生活を語ることができる。日本の障がい者団体も,審査の時に委員会に来て,東京,横浜,大阪で障がいのある人が生活するということがどういうことかを伝えてくれるだろうと思っている。 c 権利委員会のこれまでの活動 障害者権利委員会が設立されてから2年間,政府から報告が上がってくるのを待つ間,手続に関する規則を策定し,また報告のガイドラインを作るなどした。 初めての審査はチュニジアだったが,対話を控えた時期に「アラブの春」が始まり,内戦状態に突入したチュニジアの暫定政権と行った対話は思い出深いものだった。また中国の審査では,中国政府が審査のインターネット中継に反対し,議論の末,これを実施したことも重要だった。 2012年4月,障害者権利条約選択議定書に基づく初めての苦情申立を取り扱った。スウェーデンで,住宅地に住む身体障がいのある人が,リハビリのために自宅敷地内にプールを作ろうとしたら,都市計画によりプールを作ってはいけない規制がある地域だったため,建築許可が下りなかったというケースで,苦情申立の結果,最終的にプールの設置が認められることになり解決した。 2009年と2010年には,9条アクセシビリティ,12条法的能力についての一般的意見のドラフトを作成し,2013年9月にインターネットにアップロードした。これらについてのコメントや批判が世界中から寄せられている。二つの一般的意見は,今回の障害者権利委員会で締約国から意見をもらうなどして,確定する予定だ。 d 一般的意見について 9条と12条の次は,6条障がいのある女性が予定されている。 どの条文から一般的意見をまとめていくかという基準はない。 車いすに乗っている人にとってアクセシビリティは喫緊の問題だ。アクセシビリティが保障されていないとどこに行くことも,どのような活動に参加することもできない。そこで,これを優先して最初に取り上げた。ヨルダンのモハメド・アルトラーダ氏という車いすの委員が作業部会の議長を務めている。 我々の委員会には,二人,精神的社会的障がいのある人がいる。彼らが12条の法的能力を取り上げる提案をした。委員会でも,もっとも差別の対象となりやすいのが精神障がいのある人であると認識している。 次の6条障がいのある女性は,女性の委員がリードした。 次に取り上げる一般的意見については,火曜日の役員会で議論することになっている。個人的には24条教育をおしたい。他に33条モニタリングや27条雇用を提案する意見もある。 e NGOのパラレルレポートについて 政府報告が出ると,委員の中で報告者(担当者)を決めるが,その報告者は,政府報告が出ている地域から選ばれることになっている。例えば韓国との対話では,タイのモンティエン・ブンタン委員が報告者を務める。同委員は日本の報告者にもなるかもしれない。報告者が対象国を訪れることはよく行われる。 日本で弁護士会がパラレルレポートを作る場合,日本で制定された障害者差別解消法が効果的な内容であるか,同法に基づく苦情申立が何件出ているか,どのように解決されたのか,などが障害者権利委員会としては知りたい事項だ。また12条について,日本では知的精神的障がいのある人がどのように取り扱われているか,成年後見制度がどのような内容になっているか,あるいは29条投票権について,精神障がい,知的障がいのある人々が投票権を持つことができているか,さらに27条雇用について,障がいのある人の何%が雇用についているか,雇用に関する裁判の動向,などを弁護士会として調査して,報告書を作成していただきたい。 (4)感想 翌日からの障害者権利委員会会期のために,オーストラリアからジュネーブ入りしたその日に,娘さんの付添いでインタビューを引き受けていただいた氏に頭が下がる。終始にこやかな表情で温和な人柄がにじみ出るインタビューだった。 障害者権利委員会の委員の任期は2期までなので,氏は2014年いっぱいで任期を終えると再選はないということである。氏の貢献に深く謝意を表したい。 4 テレジア・デゲナー副委員長ヒアリング (1)期日 2014年3月30日(日)午後8時から午後9時 (2)テレジア・デゲナー氏略歴 ドイツ出身。女性。弁護士。自身も両腕欠損という障がいを持つ。 障害者権利委員会副委員長。障がいのある女性の権利に尽力。 (3)ヒアリングの内容 a 批准前の障害者権利条約の活用 障害者権利条約批准前の活用例として,日本の選挙裁判の例をいろいろな会議で挙げている。批准前に障害者権利条約が法律にいかに役立つかという例として使っている。 日弁連が特に積極的に差別法にかかわってきたというのは,他の国の弁護士協会にとっても参考になると思う。 b パラダイムシフト 医学(医療)モデルから社会(人権)モデルというパラダイムシフトが起こった又は起こりつつある,と紹介されていることはよく知っていると思う。しかし,私の委員としての経験としては,パラダイムシフトが起こった又は起こりつつあるとしても,実際に,障がいのある人の社会(人権)モデルは何か,実際に理解している国はほとんどないのではないか,と感じている。 障害者権利条約のいくつかの条項は,パラダイムシフトを示すものである。我々が,パラダイムシフトとして国に要求しているものの例を挙げたい。 まず,12条の例を挙げる。12条は,その国で生活する様々な障がいのある人に関する規定であるが,特に,法的能力に関する事項,すなわち,12条は,代理人による意思決定をなくして,支援付意思決定に移行しなければならない旨定めている。 12条が,人権上重要であるのは,12条が,人権法をさらに一歩発展させたものであるからだ。新たな人権が作られたというわけではないが,新しい世代の人権が作られたといえる。 12条は,法の下の平等に関連した規定であるが,そのことがまさに,法的能力・権利を行使するということに関わるのである。法的能力とは,生まれたと同時に発生していて,精神的な能力にかかわらず,平等に発生するものなのである。 次に,19条の例を挙げる。19条は,国に対して,施設から障がいのある人を出すことを要求している。国は,施設というものをなくして,地域社会での生活のための社会サービスを改革しなければならない。この規定も,医学(医療)モデルから社会(人権)モデルというパラダイムシフトを反映する内容といえる。 これらの条文が,我々がパラダイムシフトとして国に要求しているものの例である。委員会では,多くのことを政府や国に要求しているが,世界のどの国を見ても,「やりつくした」,「よくやった」という国は1つもない。全ての国は,この条約に適合するために,まだまだ多くの課題に取り組んでいかねばならない。 (写真挿入) テレジア・デゲナー副委員長がソファーに座って話をしている様子を写した写真が挿入されている。 c 6条「障害のある女性」について 初めての作業部会で第1草案を作った時に,障がいのある女性についての規定は忘れられてしまっていた。韓国やドイツの市民団体から不満が出て,彼らはキャンペーンを張り,私もそれに参加した。私にとっては,障がいのある女性を条項に入れることが重要だということは明らかだったからである。 障がいのある女性について言及されなければならないのは明確だったが,どのように言及するかという点は非常に難しかった。考えられる方法は2つあった。1つ目は,障がいのある女性に対する特別の条項を作ること。2つ目は,障害者権利条約全体を通して,ジェンダーメインストリーミングとして取り入れること。私は当初から,どちらもやらなければならないと思っていた。 障がいのある女性について障害者権利条約で言及しようとなると,他の障がい者団体からも,ぜひ条約で言及してほしいとの要望が出た。これは,アドホック委員会の問題であった。「障がいのある女性」に言及すると,「他のグループはどうなるのか」とかなりの抵抗が認められた。その結果として,「障がいのある子どもの権利」についても,触れられることとなった。大変な道のりであったが,6条,また結果的には全ての条項で,女性に関して触れることに成功したのである。 d パラレルレポートについて 我々は,パラレルレポートを非常に重要視している。ただ,1会期ごとに様々なレポートを読まなければならないため,直接的に政府レポートと関連したものや,条約を参照しているレポートが有用である。政府に対する質問事項(リストオブイシューズ)に対して回答をしたり,委員会の勧告に対して提案するという方法も有用である。委員会としては,それをカット&ペーストで文書に反映できるからだ。 障がいのある女性についてのパラレルレポートとしては,例えば,性的暴力,強制不妊,家庭内暴力のデータがあれば,委員会としては非常に役立つ。もし,政府が具体的に何か活動しているのであれば,何をしているのか,障がいのある女性が何を求めているのか,といったコメントを示してもらえると,具体的な勧告をすることができる。具体的な報告をしてもらえれば,それだけ,委員会からの勧告も具体的なものにできるのである。 障がいのある女性についてのパラレルレポートとしては,オーストラリアの障がい女性関係の団体が出しているレポートがとても良いので,参考になると思う。 e 障がいのある女性のリーダーとして リーダーとなるためには,人の2倍も3倍もできなければならない。それに加え,自分を支援してくれる人に囲まれていることが大事である。信頼してくれる友人に囲まれている,ということは,女性として成功する,特に「障がい女性」として成功するためには重要である。 私は,幸い,分離教育を受けることもなく,普通学校へ行くことができて,両親もサポートしてくれた。5人姉がいるが,彼女たちも私が取り残されないように努力してくれた。自分の能力を信じてくれる人の助けを借りることは,とても重要なことだと思う。 f 6条の一般的意見 まだ作業部会が立ち上がったばかりなので,いつ草案ができるかいうことはできない。問題は,本委員会での審査に割かれる時間が多く,今の状況では,一般的意見に取り組む時間がないことだ。今回のジュネーブの会期で,このことについて話し合う予定なので,解決策が見出せたらいいと思っている。 現在,障がいのある女性が抱える大きな問題は,複合差別に対してどう取り組むかである。障がいのある女性の複合差別に関する調査結果は,まだ世界中のどこにもない。もっとリサーチをしていく必要がある。 (4)感想 テゲナー氏は本当に素敵な女性だった。副委員長としての自信とリーダーシップはもとよりのこと、話しの論旨の明快さ、そして何より圧倒されたのは立ち居振る舞いの物腰の柔らかさである。彼女の両足は両腕であり、柔らかく美しく、そのあまりの自在な動きに「障がいとは何か」ということを思い知らされた。  日本の障がい者運動・団体を見ても、まだまだ障がい女性のリーダーは少ない。内閣府の政策委員会においても、制度改革に「障がい女性」をもっと明確に取り上げるべきだとの意見が再三出されたが、時に、特定の委員からの意見とみなされ、あるいは障がいのある人全体の問題ではないのではないかとの雰囲気が漂った。女性への差別を指摘する発言は、無視・軽視され、主たる問題ではないとして退けられてしまうことにも表れる。複合差別の根深さに、とりあえずは全体からと安易な気持ちになりやすいが、テゲナー氏の力強いメッセージに思いを新たにすることができた。*2 *2 成年被後見人が選挙権を有しないと規定する公職選挙法の規定が憲法15条1項及び3項等に反し,違憲であるとした東京地裁平成25年3月14日判決を指す。右判決において,裁判所は,障害者権利条約の署名以降,国際的な動向に応じ,国内でも成年被後見人の政治参加につき見直す動きが起きていることに言及している。 V 障害者権利委員会の審議状況 1 オープニングでのあいさつ及び各意見から (写真挿入) 国連障害者権利委員会において正面壇上にマリア・ソリダード委員長が座っている場面を写した写真が挿入されている。 (1)開会のあいさつ(人権高等弁務官事務所・副高等弁務官ら) a 初めに 全ての人権条約の中で,障害者権利条約は,批准国の数が最も多く,合計143か国になる。 人権は障がいのある人が生まれながらに持っているものである。年齢,居住地域,性別,年齢にかかわらず,全ての人々が持っている人権という概念への理解をより強化していく必要がある。 b 障害者開発会議 障害者開発会議が2013年9月に実施され,下記の重要な勧告をした。 ア 締約国の障がいと開発 障がいのある人は,受益者でなく参加者として,開発目標に含まれなければならない。普遍的で持続可能な障がいのある人たちのコミュニティーへの完全な参加が重要であり,インクルーシブな目標や指標,アクセシビリティへの考慮が必要である。 イ 教育に対する権利 全てのインクルーシブ教育及び質の高い教育を受ける権利を実現させる必要がある。インクルーシブ教育については,入学できるだけでなく,障がいのある子どもが歓迎され,尊重される環境作りが重要である。 c 事務局から 事務局は,各国家における障がいのある人の権利の促進,意識向上,非差別法と条約の整合,条約の批准,実施を促進,報告の義務等についての手助けをしている。 障害者権利条約体の強化については,@条約体のシステム保護の強化,A包括的,持続的開発,Bコスト削減及び成果の条約体の強化への再投資,C人権機関の独立性,D全員へのアクセシビリティの担保が必要である。国際的な協力が必要であり,NGOと協働して,インクルーシブで持続可能な発展を望む。 (2)市民団体からの発言 a 国際テレコミュニケーション連盟 特に9条(アクセシビリティ)に関わり,ITサービスが障がいのある人にとってアクセシブルになるように活動している。 b 国際障害同盟(IDA) 市民社会において,様々な障がい者団体と共に,アフリカの各関係団体との会議,9条(アクセシビリティ),12条(法的能力)に基づいた支援方法,ジェンダーと児童の問題,意思決定過程における障がいのある人の関与について,障害者権利条約4条3項(意思決定過程における障がいのある人の関与)に基づいたガイドラインの作成などの課題に取り組んできた。障がいのある人の人権擁護の持続可能な進展を促進していきたい。 c 世界精神医療ユーザー・サバイバーネットワーク 12条(法的能力)に重点を置き,本人の意思が反映されるような形で意思決定及び社会に関与することが重要である。また,患者の意思に基づかない医療の措置,電気ショックなどの拷問治療を禁止しなければならない。 d 世界ろう連盟 聴覚障がいのある人の情報へのフルアクセスは達成できていないが,聴覚障がいのある人の能力向上のため,手話通訳を通して,教育へのインクルージョンを促進してきた。 e 精神障がいの人権保護に関する会議 障害者権利条約は未だ欧州全土に浸透しているわけではない。欧州レベルの条約を作ろうとしている。麻薬常習者についても,障害者権利条約5条1項(平等)に基づいて取り上げるべきである。 f スウェーデン障がい者団体代表 障がいのある人の代表として,連帯性をもって活動している。知的障がいのある人が自己の意思を反映して自立していくための支援,支援者への教育も課題である。建設的対話の中で是非扱っていきたい。 g 国際難聴者連盟 難聴者である親の支援から始め,子どもの自立した生活が目標である。手話訓練所,自立生活センターを設立した。 h ヒューマンライツウォッチ IDAの活動に同意している。国際的に,ロシアの地域でのソチオリンピックの事例,ガーナの地域,シリアの移民の事例などに取り組んだ。また,精神障がいのある人へ医療,HIV患者への差別問題,アクセシビリティ,支援付き意思決定支援システム構築の必要について注力している。 (写真挿入) 国連障害者権利委員会に大勢の関係者が集って議論をしている様子。手前に車いすの人が2人見える。奥の方には手話通訳者が見える様子を写した写真が挿入されている。 2 スウェーデンNGOからの発言(ランチ・タイム・ブリーフィング) (1)位置づけ 昼休みの時間を利用して,委員が国内の状況を把握するため,参加している団体から聞き取りを行うNGO主催のサイドイベントである(前記U1リー氏ヒアリング参照)。 (2)主たる参加団体 ・Equally Unique(スウェーデンの障がいのある人の権利に関する連合体) ・Forum-Women and Disability-Sweden(障がいと女性スウェーデンフォーラム) ・International Disability Alliance(IDA国際障害同盟) ・Sweden Disability Federation(スウェーデン障がい連合) ・Swedish Disability Federation on Guardianship(スウェーデン後見人 障がい連合) ・スウェーデン失語症協会 ・世界精神医療ユーザー・サバイバーネットワーク(国際団体) (3)発言内容 発言は,最初は各団体の代表からの発表方式で行われた。その後,関心のある事項について委員から質問があり,さらにNGO代表者の側がそれに答える形で進められた。以下では発言内容を項目ごとに整理することで,スウェーデンの現状と当事者団体の問題意識を明らかにする。 a 国内状況 障害者権利条約の下で,障がいについて医療モデルから人権モデルへの転換がなされたが(本文第2章第1節U参照),政府にはまだそのような視点がみられない。障がい者政策についての管轄庁を変更するように政府に申し入れたが,いまだに社会福祉省が政府との協議の窓口になっている。  技術補助(technical aid)についての自己負担割合が増加する動きが出てきている。  非差別法の制定の動きがあるが,小規模企業は対象に含まれないという条項案があり,問題である。 b 雇用 1987年には56%あった障がい者雇用率が現在44%まで低下し,格差が拡大している。  また,雇用に関して,通訳サービスが会社負担とされているために,聴覚障がいのある人が雇用を見つけることが困難になっている。 c 教育 視覚障がいや聴覚障がいのある児童は特別な学校へ入れられており,インクルーシブではない。また,手話についても,母国語の一つであるという理解がされていない。  さらに,新たな教育法の下では,障がいのある子どもの教育は最低限のレベルまでしか保障されないと解釈される余地がある。 d 医療(精神医療) 障害者権利条約批准後の新法のもとで,精神障がいのある人に対する強制入院が拡大している。また,電気ショック療法や身体拘束もかなり広範囲に行われている。もっとも,どの程度されているかについて統計はとられていない。 e 地方自治 技術支援(technical aid)は中央政府ではなく地方政府の責任となっているが,地域間で受けられる支援の格差が大きい。これは地方自治体の力が大きいことに原因がある。国は,条約の実施状況について地方に報告するようにとしているが,あくまで自己申告制で,義務ではない。よって,問題のある地方の状況が把握できなくなっている。 f 避妊の問題 2013年まで,障がいのある人に対する強制避妊が認められていた。これには,性転換を求めていた人も含まれる。しかし,2013年以降は強制避妊の報告はない。 (4)まとめ  ランチ・タイム・ブリーフィングは,国内の現状を直接的に委員に伝え,委員が重点を置いている点について相互にやり取りができるという点でとても重要な機会である。  日弁連としても,パラレルレポートのみでなく,現地に足を運び,国内の障がいのある人の人権状況について委員に直接的に伝える機会を是非とも持つべきである。 3 スウェーデンとの建設的対話から 今回のジュネーブ視察では,限られた視察日程の中で,スウェーデンとの建設的対話についてはほぼ全体を傍聴し,記録することができた。日本で福祉の先進国と評価されるスウェーデンが,障害者権利委員会との間でどのような「対話」を展開したかについて,来たる日本審査の参考になると考え,以下では詳しく紹介する。 (1)期日 2014年3月31日(月) 午後3時から午後6時 2014年4月 1日(火) 午前10時から正午 (2)建設的対話の概要   障害者権利条約に従った批准後の手続は,@権利委員会へ2年以内に政府による報告の提出,A報告への委員会による質問事項(リストオブイシュー)の準備(委員会は障がい者組織と市民社会組織からのレポートを重視する),B質問事項への政府からの回答,C委員会での「建設的対話(政府代表と委員)の実施,D委員会より総括所見と呼ばれる勧告の発出,E勧告を受けての国内実施,F4年後の次回報告の提出というサイクルで行われる。   スウェーデンは,2009年に障害者権利条約を批准し,2年後の2011年に報告書が提出されている。2013年9月にリストオブイシューが採択され,2か月以内に政府は回答を提出していることになるが,建設的対話の実施については多数の待機国が存在し,実施に至ったのが今回の2014年3月である。   建設的対話は,政府の代表がジュネーブを訪れ,権利委員会と公開で行う会議をいう。まず,政府が発言権を持ち,15分間から20分間で報告を発表し,その後,その国を担当する報告者が事前審査(リストオブイシューの採択に当たっての審査)の所見を一部伝え,質問を開始し,次に他の委員が各自追加質問を行う。質問は1回目のラウンドで障害者権利条約の1条から10条に関する質問がまとめてなされ,通常,政府が回答を準備するための短い休憩があり,政府が回答し,委員から追加の質問があることもあるが,その後,次のラウンドへと進んでいく。1日目で終了しなかった対話(質問及び回答)については,2日目に持ち越される。 2日目の対話の後,障害者権利委員会は非公開会議で総括所見を作成し,採択を行う。   今回の視察の目的はスウェーデンにおける権利条約の実施状況というよりも,日本の2年後の報告に基づく建設的対話の流れと民間組織の関与を知ることに重きを置いたものであるため,以下に述べるスウェーデンの建設的対話の報告は,手続の流れを知るに足りる部分の概要報告にとどめるものとする(そのため発言者及び発言内容についても適宜省略するものである)。 (3)スウェーデン(以下「SW」)との建設的対話 a 1日目 【議長:マリア・ソリダード委員長】(イントロダクション) 人権の保護・促進というものはSW政府の国,国際政策にとって非常に重要である。 障がい者政策は非常に多岐に渡っており,代表団のメンバーとして7つの省庁の代表者を連れてきた。人権,自由の享受は継続的プロセスであり,対話,継続的な精査により効果を担保することができる。SWは国連総会において指導的役割を果たしてきた。 障がいのある人を代表する団体はキーステークホルダーであり,障害者権利条約の実施をモニタリングしているので,SWの障がい者団体を歓迎する。 SWは障害者権利条約の条件を満たしている部分もあるが,課題もある。 (中略) SW政府を代表してこの障害者権利委員会から得られた様々な意見,報告は重要であり,これらを持ち帰り,障害者権利条約が今後も国内法に反映され,障がいのある人に対し様々な支援ができるよう努力を続けていきたい。 【議長】 つぎに,まず障害者権利条約1条〜10条に関するコメントを順番にお願いします。(以下,概略を記載) 【ロン・マッカラム】 特に差別に関するもの,平等及び非差別について扱っている5条についてお話を聞きたい。 【ダイアン・ムリガン】 私の質問もやはり5条(平等,差別)について,特に複合差別がある場合,少数民族の障がいのある人への差別について伺いたい。 【テレジア・デゲナー】 6条について,SW政府レポートにも女性について触れられている。その中で,特に,複合差別を受けている障がいのある女性についてもう少し報告が欲しい。 6条は,締結国(SW含む)が,障がいのある女性の人権擁護についての処置をとらなければならないことを求めている。これはどうなっているか。 7条は,障がいのある子どもが6〜15歳で義務教育を受けているが,彼らに対して新しい2011年発行のSWの教育法が,ある種の障がいを持った子ども,ある種の経済的背景を持った子どもが,一般教育を受けることを求めないあるいは拒否している,と聞いたことがあるが,如何か。 【マンティン・ブンタン】 地方分権プロセスというものにおいて,SWでは,法律や政策と整合性をとるための動きが矛盾しているのではないかという意見が出された。 私からは,特に4条,一般的義務について聞きたい。SW政府は,様々な障がいのある人に対するサービスの質が地域ごとに差があるという問題を是正しているのか。是正されていないなら,どのように解決できるのか,それを地方分権が進む中で,どのように行っているのか。 【モハメッド・アルトラナ】 雇用において差別的状況がみられるのではないか。「疾病保険」はどちらかというと,慈善の方向に動いているのではないか。 【議長】 10条について,障がいのある人の自殺率が増えている。その原因を分析したか。改善措置はどのようなものをとっているか。 【ムサファク・タベ】 報告者であるスティーグ・ランバードが病気のため,ロバシーと私が共同報告者として発言する。 4条に関係すること。条約のモニタリングのインディケーターが欠如しているようだ。 地方自治体が自主的なレポーティングをしているか。個別の裁判所や自治体に任せきりではないか。 教育分野における意思決定における認識が足りないと思う。 【議長】 これで,1から10条までの質問を聞き終えたことになります。 これから10分間,SW政府が時間を取って回答を用意します。政府代表団は退室して検討して下さい。                                       【政府代表団団長】 1から10条に関する質問に対する回答を行う。 障がいに関しては非常に広いコンセプトを有している。唯一の制限というのは,慢性の障がいでなければならないということ。 少数民族に関する質問について,SWには今のところ少数民族の障がいのある人に関する統計はないが,少数民族の権利を促進する動きはSWの少数民族施策の中で取り上げられている。少数民族施策には,少数民族,歴史的少数言語の保護が含まれる。SW政府は少数民族と定期的に会議を行っており,特に障がいのある人に関し問題があるとはいわれていない。 【議長】 障がいのある人に関する措置についてどのような戦略ツールがあるか,政策立案においてどのように反映していくかという点について回答を。 【代表団】 SW政府は2011年7月に政策立案の中に障がいのある人への措置を含めることを決めた。2011年から2016年にかけて様々な戦略を構築していくことになっている。戦略では,労働市場,教育,社会,透明性,情報技術,アクセシビリティ,公共ケア,文化,運動,メディアという9つの面においてイニシアティブを構築する。 障がいのある人に対する政策立案の過程においてこのような戦略を使っていきたいと思う。 【代表団】 アクセシビリティ環境について,どのような取組がなされているか,またモニタリングについての回答を行う。 この問題については,様々な公共施設での障壁を除去することが必要となった。要件を満たさない施設があれば相応の対応をしていく。現在の法規は,法規自体は正しいが,実行に移しにくいという問題がある。例えば建設法との関係などもある。 アクセシビリティに関する法規が,効果を持って以来,地方自治体でなかなか実行に移せていない,履行されていないことが報告された。そういった,地方自治体でのモニタリングを行うため,様々な宅地法で,こういった内容を盛り込んでいくための様々な措置が考えられている。 【代表団】 教育について,障がいのある子どもも障がいのない子どもと同じように教育機会を受けるべきである。しかし,地方自治体では,様々な経済的・社会的理由から拒否することがある。また,私立学校では,補助のニーズのある障がいのある子どもの入学を拒否することがある。それらについては,各地方自治体のそれぞれの意思決定がなされている。 そこで,教育法を改訂した。教育法では,様々なニーズのある子どもについて,各地方自治体が支援する場合,各学校は入学を拒否することができないということになっている。児童たちは,自分の能力を最大に開花させるためにサポートを受けなければならない。障がいのある子どもも同じである。 その中で,障がいのある子どもが,最低限の能力を身に着けるために,特別の支援を与え,その子どもたちが参加したい,と思えるような形でサポートしていく。問題がある場合は,教育委員会に報告し,教育委員会がフォローしていく。これらは教育法の中で規定されており,2013年から実施されている。例えば,聴覚,視覚障がいのある子どもたちに対して,ナショナルコーディネーターを任命して対応することになっている。ナショナルコーディネーターとは,補助を,均等に,ニーズに合わせて,供給していく役割である。2014年までには,各校長に対して,そうした子どもたちの読解力支援についても補助を与えることになっている。各障がいのある子どものニーズを満たせられると思っている。 【議長】 自殺率などについて回答いただけますか。 【代表団】 自殺があれば,事例一つ一つが社会,当局の政策実行の失敗例と理解すべきである。特に精神障がいのある子ども,成人(特に若年層の成人)の自殺率が高まっている。自殺者の90%が,適切な処置がなされないまま自殺に至ったと報告されている。精神障がいのある,特に若年層については,薬物の乱用,社会的な様々な問題,認知的障がいの問題,社会精神的問題について調査が必要。実例を検討することで社会の中でも問題意識を高めていく必要。様々な事例を比較し,医療的な処置法と自殺率についての関係についても調査している。 【代表団】 SWの地方分権化,これにより起こる様々な問題について言及する。政府は地方自治体の意思決定について責任を持って関与する。つまり,地方自治体は,それぞれの地域での税の徴収・使い方に対し自治体としての意思決定権限が与えられているが,それらに対するコントロールについての政府の責任の範囲が大きな課題となっており,コントロールする法規に関しても詳細の定義について解釈の差異がある。規定,通例について,どのように実行されているのか,指標をつけることにより監督できると考えている。 【代表団】 いくつか疾病保険についての質問があったと思う。明日,疾病保険と労働市場に関連して回答したいと思う。 【議長】 皆様の質問に対し,このような透明でオープンな形でご回答いただきありがとうございました。課題も残っているため,明日また細かくお話をしていただい。 (休憩)                                       【議長】 続いて,11〜20条について質問をさせて頂きたい。 【ロン・マッカラム】 SWの後見人制度について聞きたい。 政府報告書の,12条の9段落と10段落の部分について,後見人制度については全く触れられていなかった。リストオブイシューで質問し,回答を受けた。支援付意思決定については,複雑であることは分かっている。 しかし,これが12条により沿ったものになると考えているのか,教えてほしい。 【ダイアン・ムリガン】 12条について聞きたい。現在の,能力の欠如に関する法に対応(レビュー)する計画があるのか。 【カルロス・エスピノッサ】 リストオブイシューの13条86段落の回答について質問したい。 合理的配慮を実施して障がいのある人が陪審員として参加できた例があれば教えて欲しい。 14条の87〜89段落について。障がいのために自由をはく奪されることが「ある」という記載があるが,障がいのある人が,自由を束縛された時,生涯的に剥奪されるのか。そういう例があれば教えて欲しい。 【ダミアン・タチ】 2つの追加の質問をしたい。それから,19条に関する具体的質問をしたい。 アクセシビリティについて,法によると,現在,建築基準はアクセシビリティ基準を満たさなければならない,とのこと。それは,どのように実践されているのか。例えば建物が,建築許可を得られなかったという事例はどれくらいあるのか。また,教育について,自治体・学校が,障がいのある人にサポートを提供することが困難と感じるということであれば入学を拒否することができるとのことであるが,SWにおける「困難」というのはどの程度のものか。SWでは,財政的困難という理由があるのか。 また,19条は喫緊の課題と思われるので,説明してほしい。 2008年から,質問事項に対する回答の,120〜126段落で,拒否された列が挙がっているとのこと。緊縮政策が影響を与えている,と聞いている。SWは,欧州でもパーソナルアシスタンス制度でも先頭をきっていた。金融危機後,緊縮政策の中でどのようになっているのか。19条に従い,障がいのある人が自立した生活を送れるようにどうなっているのか,教えてほしい。 【ラスロー・ロバシー】 EUでは,金融危機が始まったが,SWは経済的に安定して障がい者分野で先頭的立場をとってきたと思う。 私からは,12条,13条について質問がある。 SWの法では,代理的意思決定について,アドミニストレータとデピュティーの2つの制度がある。裁判所は,「デピュティーシップ制度の下にある人を,アドミニストレータシップの下に置くのか」の判断について,基準を設けているとのこと。両者の法的違い,行政的能力の違いはどのようなものか。これらの制度を終了する予定があるか。あれば,どのようなものか,教えて欲しい。 手話通訳が必要な場合は,手話通訳の必要性について裁判所へ申請する。そのニーズを裁判所へ要求できる,とのこと。それについてもう少し説明してほしい。例えば,裁判官は拒否できるのか。 【アナ・ペラス・ネバズ】 政府報告,市民団体からの報告にも書かれているように,障がいのある女性に対する暴力の件数が非常に増加している。障がいのある女性は,暴力の被害を受けたときに,どのような法的又はそれ以外のサポートを受けられるのか。SW当局と,こうした人たちとの間に双方向的な対話は持たれているか。暴力という問題を,女性に対する問題の重要課題として扱っているのか。 障がいのある女児に対する暴力はどのように扱われているのか。何年か前に報告があり,障がいのある子どもに対する暴力についてだったと思うが,その中に女児に関する特別な報告はあるか。障がいのある女児,女性への暴力に対する取組や,状況の改善につながった事例はあるか。 障がいのある女性,女児がどのくらいの暴力の犠牲になっているかという統計的資料の有無について,委員会は報告を受けているか。障がいのある女性がこのような問題に直面している場合に,どの程度まで状況が改善されているかについて委員会に報告はあるか。SW全体の女性の中で,障がいのある女性の割合は。暴力に特化した統計資料はあるか。また障がいのある女性が避妊処置を強制された場合,それらに対しどのような処置がなされているか,またこれに関する統計報告の有無について教えて欲しい。 【キム】 19条,第15段落についての質問。最近障がいのある人々のインクルージョンに関するサービスが低下している。パーソナルアシスタント(ケアを与える人)を得られる補助も減少しているといわれている。これらについて現状の報告はあるか。 【マンティン・ブンタン】 11条に関し,人道上の緊急事態においてとられる障がいのある人に対する措置について,SW政府は具体的政策があるか。自然災害など含めた緊急事態が増える中で,障がいのある人に対する措置がどうなっているのか知りたい。 強制的な医療措置,例えば電気ショック療法を精神社会的な障がいのある患者に与えていることの現状について報告を願いたい。 また,障がいのある人が上級最高裁でどのような扱いを受けているか。各国で,障がいのない人とは異なる扱いを受けていると報告されているが,SWではどうか。特に障がいがありながらも社会において自立した生活をしたい人々が,行政裁判所等にアクセスする場合のシステム,状況について教えて欲しい。 【議長】 15条,16条,17条について,精神障がいのある患者に対する医療施設において,どのような措置が行われているのか,どのような医療が行われているのか詳しく説明をいただきたい。 最初の1条から10条の中で,追加質問をしたいと思う。特に地方自治体の公共調達について指標の話をしたと思うが,これについてもう少し詳しく教えていただきたい。どのような自主的指標づくりがなされ,どのような自主的報告がなされているのか,そのような指標が使われているのか,公的なものが与えられているのかも含め説明をいただきたい。 ここで会議を中断し,SW政府関係者に回答を用意していただきたい。 (休憩)                                       【代表団】 LLS法における介助手当についてまず説明したい。 介助手当については,何時間必要かということに基づき支給される。上限はない。重度な怪我を負っている人についてはそれだけ必要。介助は自分で雇用若しくは自治体又は会社から派遣される。個人で選べる。コストは自治体と中央政府で分担することになっている。社会保障局が,基本的なニーズに関し一週間20時間以上のコスト部分を持つ。最初の20時間は自治体がもつ。自治体ができるだけ,社会保障局にコストを回さないようにするのが目的である。最近の傾向は,質問事項の回答にも書いたが,2006年から2010年に増加傾向にある。利用者は1万6000人でその後は頭うちになっている。平均的な介助時間は2008年から上がっている。89時間から118時間まで上がっている。さらに増加するだろうと考えられている。政府としてもこれについて作業を行っている。この分野の調査を行わせ,よりたくさん知識を得て,取り組む予定である。検査員は,2001年から2012年までをカバーしている。しかし2008年から大きく変わった。申請人の数が上がった。一方で拒否が50%に上がった。ある情報源によると,1000人の人が介助手当を失い,同じ数が新たに介助手当を受けるに至っている。その原因を検査員が考えるに,2006年から定義が明確化してきたことが原因である。また,基準を満たさない人が介助を受けていたことが考えられる。さらに,社会保障局の組織的な改革があったことが考えられる。しかしこの調査結果の報告は2014年に出るといわれている。 パーソナルアシスタンスは自治体が提供することもできる。LLS法に基づき,介助手当の他に,自治体が提供できる。LLS法に基づきパーソナルアシスタンスを提供できる者は,3400人から3900人に上昇している。 【代表団】 移民について,移民局に指示を与え,特に脆弱なグループに留意せよと指示している。避難民の受入れとしては,心理的・物理的な配慮をしなければならない。また,適切な宿泊の提供も必要。局は一時的な宿泊所を難民に提供している。また,SWはたくさんの難民を割当制度の下で受け入れている。障がいがあるからといって受け入れていないことはない。外国人法は,保護が必要な人などということを盛り込んでいる。居住許可証は,外国人の全体的な状況,特に大変な状況にあることがわかった場合に提供される。そして,子どもは特に居住許可証が提供される。例えば,大人と同じほど深刻な状況ではなくても提供される。そして健康なども考慮される。障がいの程度,適切なケアをもともとの国で受け入れられる可能性があるかも含まれ得る。心理的・社会的発展,SWと比べた社会的レベルも考慮に入れられる。継続的な法的なプロセスがある。特に深刻な状況にある人間,特に子どもは居住許可証を提供される。入局審査,国外退出,特に子どものルート改築も見られる。それにより子どもの権利を守り,簡易化することでたくさんの移民を認める動きである。 【代表団】 代理的意思決定には,基本的自由及び尊厳を尊重しなければならない。子どもの権利条約によると,両親と再会する権利がある。子どもは優先的に本国での両親とできるだけ早く再会しなければならないことになっている。そのため親や保護者をできるだけ迅速に追跡する。そして本国若しくは受け入れる国との調整を行う。子どもの権利条約に従い,両親の元に戻せない場合には,保護者を任命する。 【代表団】 強制避妊の質問に対して答える。強制的に避妊させられた人は20世紀であれば175クローネの賠償を受ける。今でもそのようなことが発生している。 他の回答も用意したが,今日は時間がないためこれで終わりたいと思う。 【議長】 ありがとうございました。 明日は21条から30条に入ります。 b 2日目 【代表団】 まず,昨日の学校教育に関する質問について,例えば自治体が入学を拒否した場合,自治体の上訴委員会に上訴することができる。包括的なニーズがある場合は地方裁判所に訴えることができる。金銭的な困難があるか等が考慮される。例としてはない。 建物に関し,建築許可が却下された場合はあるが,統計はない。宅地法に関し,アクセシビリティは建築許可についてトイレが大きいか,ドアが広いか等の要素で検討する。その他は建築許可の後で検討される。 手話通訳について,作業部会はさまざまな協議をすることになっている。通訳のサービスは,保険・社会保障局で考えている。当局としては,入手可能性を改善しようとしている。職場で受けられること,ユーザーにとってのシングルエントリーができるようにしている。郵政局では電子通信又は郵便で基礎的な保障をしている。ビデオテレフォンの導入を可能にしている。また,テレトークというサービスを提供している。通訳がサポートして,ノートを取るなどの作業をする。 【代表団】 11条から20条に関連して,法的制度,司法制度,後見人制度,特別代表,管理人などについて回答する。能力がないという宣言は89年に廃止された。法的な能力ということはその自分の個人的なこと財政的なこと,アドバイスについて代理人を選任することができる。病気,精神的な疾病で権利主張ができない,管理ができない人は代理人を指名することができる。本人は法的能力を持つが,特別代理人にとってかわる。特別代理人は合意に基づく者である。特別代理に基づく法は一般的な法であり,障がいに関するものではない。特別なニーズにフォーカスしている。管理人についても同様のことがいえる。管理人の下に置くか否かは裁判所が決める。管理人は病気,精神疾患等で管理ができない場合に,指定される。ただ,特別代理に援助される,又は親族に援助されるのがいいという場合は援助されない。個人は管理人,特別代理人より介入度が低い方が選ばれる。様々な措置は個人の意思に委ねられる。特別代理人は特別なタスクにのみ専任される。必要ない場合は,特別代理人又は管理人が終了する。個人が申請することにより行うことができる。後見人委員会は全ての後見人をモニタリングしている。最終的に12条に関して特別な調査員が任命され,どのように意思決定の能力が社会,保健などの分野で発揮されるか,意思決定能力が低い人たちの能力をどのように高めるかを見ている。SWでは審判人が8000人くらいいる。 陪審員のシステムに関しては,社会全体を代表する必要がある。障がいのある人も統計はないが審判員になれる。実際にその例がある。 後に,裁判所における通訳について話をしたい。法では,聴覚障がいのある人若しくは失語症等の発語障がいがある場合,補助機器を通訳の代わりに使うことができる。裁判事件の場合には通訳が提供される。刑事事件の場合,聴覚障がい又は発語障がいの場合,通訳が必ず提供される。 【代表団】 委員会から,特に精神障がいの場合に生活上意思決定に問題があるか,という話があった。精神的なケアは最大6か月。現在の強制精神医療ケア法によれば,重篤な精神上の問題がある場合,アシスタントの前に審査がある。社会的な危害を加える可能性があるかどうか等について判断がなされる。本人が自主的にケアをうけることができるかについても判断される。 【代表団】 障がいのある子どもと女性に関する統計は出されていない。国際的な統計に比べると自国の統計は満足なものではない。もっとも様々な調査により,尺度を求めている。障がいのある子どもに対する暴力の率が高くなっているという統計はある。子どもが障がいをもつことでしつけがしにくいために両親から受ける暴力が増えるという情報もある。 【代表団】 パーソナルアシスタントについて,経済的な補助又は雇用者に対する補助,実質的な補助がある。例えば読み書きの補助を与えるための雇用者への経済的な補助がある。職業訓練をどのように与えるかについてのガイダンスを与えることができる。6万クローネほどの補助を考慮してきたが,将来的に2倍にしていきたい。様々な職場の職務内容に対応していけるように十分な訓練を供与できるように考えている。昨年は9000人以上がサポートをうけている。2007年には6000人の障がいのある人が受けている。また,パーソナルアシスタンスをどのように受けていくかについてさまざまなアシスタントと組み合わせて考えている。 【代表団】 重大な災害時の機器などにおける障がいのある人のサポートについて,人道的な支援が必要な場合,市民社会と共同しながら,一般人と共に,災害時の補助を与えることができる。スウェーダという災害機構により,人道上の300人のスタッフがおり,救助訓練なども行っている。 【議長】 続いて21条から33条について,委員の方から意見を。 【ロン・マッカラム】 雇用に関連して,SWでは障がいのある人に対する疾病手当がどうなっているか。諸国で対話を持ちながら聞いてきたが,疾病手当がどうなっているか等についてはいろいろな問題がある。そのために障がいのある人が雇用されることが難しいといわれている。これを改善することにより雇用を改善できるかと思う。 【ダイアン・ムリガン】 昨日の政府からの報告において,障がいがあり強制避妊を受けた人に対し,金銭的補助が払われていると聞いたが,金銭的補助で埋め合わせができるものではないと思う。もう少し深く考えていただきたい。 また,31条に関し,統計及びデータの収集について質問。報告によるとSWでは障がいのある人々に対する犯罪の場合に十分な統計資料がないといわれていたと思うが,障がいのある人は犯罪の被害届をするときに特定の分類として扱われているか。英国ではさまざまな民族に関し分類し統計資料をとっている。 また,様々なモニタリングと査定評価についても質問がある。自治体や委員会における条約の意識向上に関する会議で,機会を使って意識向上のための取組は行われているか。そして,成果は得られているか。 【カルロス・エスピノッサ】 身体の自由及び安全について,6か月以上の拘束はできないこと,拘束する場合も医療上の必要に応じて行うことの報告があった。それはすばらしいことだと思う。これに関連して,例えば精神障がいのある人が社会的に危害を加える可能性があるかについて,どのように法規上で定義がされているか。 【ラスロー・ロバシー】 33条に関し,国内的な実施又はモニタリングについて,SWでは独立した実施,監視機関がないと理解しているがどうか。国レベルの独立した実施及び監視機関を設置していく予定か。これを設置するにあたり,市民社会の声を反映していくことができるか。 【アナ・ペラス・ネバズ】 パーソナルアシスタンスの申請があった場合に却下される場合がなぜあるのか。 24条と23条に関して,若年層の障がいのある人の場合,政府から彼らが障がいのない人と同じように扱われるように権利を担保しているか。また,個人の独自性が尊重されているか。また,当局はさまざまな方策,とくにインクルーシブ教育に対する施策が担保されるようにしているか。 補助器具を使用するに際し,料金を徴収すると聞いたが,本当か。これは非常に問題があると考える。教育のための補助器具を使用するために料金を徴収することは問題がある。特に低所得者の場合。国レベルの責任ではないか。個人レベルの問題ではない。アクセシビリティを保障するために器具を使えることは非常に重要である。 32条aというのは,国際開発プロジェクトが,インクルーシブかつアクセシブルなものである必要があるとしているが,政府はどのような措置をとっているのか。 【ダミアン・タチ】 31条に関し,調査についてアクセシビリティがどのように満たされているか,そして,もう少しこのようなデータを見れば有用と思われる,観光に関するアクセシビリティなどのデータ,調査結果があるか。 パーソナルアシスタンスについて,最高額が6万クローネと聞いたが,どのくらいの時間になるのか。 【ムサファク・タベ】 24条に関し,先進国として教育の質に関するどのような指標を作っているのか。とくに障がいのある人の教育に関して教えていただきたい。 司法アクセスに関し,コストについて教えてほしい。例えば手話通訳のコストは裁判所が持つのか,司法制度が持つのか,それとも個人が持つのか。 23条の家庭に関し,特に社会サービスが扱う基準で,障がいのある人が養子を要請するのに特別の基準があるか。 国内法で,非差別原則,普遍的な投票権というのがどのように反映されているのか。例えば,意思決定を行う公的な職に関しては,障がいのある人があまり関わっていないが,これをどのように改善していこうと思っているのか。投票所におけるアクセシビリティに関し,全ての障がいのある人について改善が検討されているか。 【ラスロー・ロバシー】 24条に関し,1.5%の児童だけが特別教育を受けているとのことである。最低の教育を受けることが困難という児童のみとのことだった。2011年に新しい教育法が制定されている。特別ニーズに対し特別な教育を与えない理由は何か。 政府はいくつかの改革を行い労働市場における障がいのある人の可能性を改善しようとしている。このことには感謝したい。この点,補助金は上がっているが,雇用水準は変わっていないようである。どのくらい雇用は改善しているのか。民間企業にどのような補助を考えているのか。 以上である。昨日と今日の回答により,総括所見を作りたいと考えている。 (休憩)                                       【代表団】 職場に復帰できる場合,リハビリテーション等を提供する。復帰できない場合,疾病手当等でサポートをうけることができる。毎年7億3000万円の金額をかけ,疾病休暇後の復帰ができるようにさまざまなサポートをしている。 公共サービスはさまざまなリハビリテーションによりどのような効果が得られたかの調査をしている。今年の4月に報告があることになっている。 賃金に関してもサポートがなされている。例えば賃金の補助があるケースは2009年から増加している。2009年には8万5000,2013年には99万5000の職業が賃金補助を受けている。パーソナルアシスタンスの補助もある。特に若年層の障がいのある人に対して就職支援,就職後のフォローアップ支援もある。彼らの就労について政府のサポートだけではなく,専門的な雇用担当員を設け,職場で支援できるようにするプログラムもある。去年は9300人の障がいのある人がフォローアップ支援を受けた。2009年には3200人だったので,この4年で3倍に増えている。 また,労働市場では男女に格差がある。性格差に関する調査もなされており,改善を模索している。男女に平等な雇用機会を与えながら,これまでのところ男性に対する様々な補助が目立ってきたが,女性進出ができるように政府がサポートするための一つのステップとして起業支援も行っている。 【代表団】 SWの教育について,まず最初にどのように盲ろうの児童に対しインクルーシブな教育を提供できるかについて,法規の中で,一般の教育システムにおいて十分な教育を受ける権利があることを盛り込んでいる。あらゆる教育機関にそのサポートを義務化している。特別ニーズの教育機関があるが,そこが先導して,様々な学校機関に特別な補助器具についてアドバイスしている。3億クローネを予算化している。学習環境において,こういった特別支援を必要とする盲ろうの児童に対してはどのような補助を与えられるかについて調査をしている。また,教育当局においては,スタッフについても2013年に600ほどの意識向上の訓練の構想を与えている。その中に2万2000名以上の教育スタッフが加わり,必要な訓練を受けている。特例があった場合,校長や担当教員が教育当局にコンタクトを取り,特定の障がいのある子どもに対し,必要なニーズについてガイダンスを受けることができる。また,毎年,なるべく多くの教育機関の校長などとインクルーシブ教育について話をもっている。 2013年に教育当局は統計を用意した。約14%の障がいのある子どもに特別なアクション計画がなされている。その子どものうち,1〜4%の子どもが十分なニーズに見合ったサポートをうけている。その場合は当局に報告がなされるようになっている。そういった教育機関に対する監視,モニタリングも行っている。このモニタリングに関し,教育法,さまざまな教育ガイドライン,指導要綱などにも報告の義務が明記されている。 【代表団】 独立した監視機関について,十分な報告はないが,ハンディサムという機関がある。平等に関するオンブズマンである。条約の実行,適切な履行についてモニタリングしている。それはパリ原則に則って,国内の地位についても監視している。 統計について,SWの障がいのある人というのはまとまった統計はない。どのような措置を自治体に提供したかという点について統計はある。 【代表団】 強制避妊又は不妊について,SWの不妊法によると1975年から不妊手術は禁止されている。これは個人の申請に基づき,福祉局による承認により初めて容認される。1934年から1975年まで,政府として強制避妊を承認していた。特に精神障がいのある人について。特別委員会はこの制度を調査した。誰が被害を受けているか。約6万3000人の方が不妊手術を受けたことがわかり,そのうち約半数,特に女性が強制的に不妊手術を受けたことがわかった。委員会は勧告を行った。政府は対策として,強制手術を受けた人について補償金(17万5000クローネ)を支払うこととなった。かなりの人は賠償金を受けたが,まだ申請は続いている。 【代表団】 司法システムや統計について,特に障がいのある人が刑事事件の被害者である場合(盗難,スリ,自転車盗,アパートの盗難,詐欺など),様々な障がいのある人に補助システムを置いている。2008年から2012年までの間,年齢層を横断して,7.8%の人が1年のうち被害者になっている。障がいのない人は6.6%。女性は8.1%,男性は5.9%。暴力に関しては,様々な被害にあった事例が報告されている。被害者になった場合の司法へのアクセスについては,通訳を含むサポートがある。被害者,目撃者,証人に対するサポート,訴訟費用のサポートなど様々なサポートがある。 【代表団】 投票権に関し,投票権をもつ障がいのある人は,その投票所にアクセスできるようになっている。その場合,アシスタントを申請することができる。投票の秘密も保護される。2015年1月改正の選挙法の中で,障がいのある人が自主的に,また,個人でも支援をうけながら投票を自由にできるようなサポートが定義されている。投票所におけるアクセシビリティも改善されることになっている。また,規定の投票所以外の場所でも投票できるような措置もなされている。また,全ての投票所においてエレベーターなどの施設の準備がなされるようになっている。これらも2015年1月の法改正に盛り込まれている。様々な障がいにより投票所に行けない場合は,特別な仲介者により投票ができるようになっている。投票者が例えば家庭にいながら投票することができるようになっている。このような法改正の内容が実行されることになると,投票内容の秘密保持の問題が出てくる。そのためボートレシーバー(投票受取人)という特別な担当員を設けることになっている。また,現在SWの投票においては,一つの投票方法しかない。今後は視覚障がいのある人のために特別な投票用紙を設けることになる。読解が困難な人に対するアシスタンスも検討することになっている。これも1月の改正法に盛り込まれる。今後は電子投票においてもサポートがなされる。これについては,Eボート(電子投票)を検討する委員会でも障がいのある人の投票について検討することになっている。なお2018年の投票ではじめての電子投票が使われることになっている。 (時間切れにより視察終了) (4)感想   スウェーデンの質問事項については,当事者団体が大きく関わって作成されたものと聞いていたが,建設的対話においても同国の課題を網羅的に盛り込んだ質問と課題の提起がなされているという印象を受けた。   また,10条まで,20条まで,という流れで対話が行われるが,各委員が条項ごとに細かな質問を投げかけるため,日本においても各条項について課題の抽出が必要であると感じた。   全体を通じて,障害者権利条約の実施状況を確認するためには各種統計を集積することが重要であること(政府に統計を要請することが重要)や,政府報告以降,建設的対話までの社会情勢や法改正の変化についても実施状況にあたり考慮されること(政府報告終了後も粘り強く各種要請をすることが必要),一方で建設的対話は課題の確認の場でありそれまでの意見交換や議論の機会が極めて重要であること(サイドイベント等における意見交換が重要)が確認できた。 W まとめ 1 予測される日本の審議日程 日本は2014年1月20日に権利条約を批准しているため,そこから2年以内に政府レポートが出されることになる。政府レポート提出から審査までの期間は,審査を待つ国の数が多く,審査日程が立て込んでいることから,およそ3年ほどかかると見込まれている。審査日程の延長によりこの期間が短くなる可能性があるが,長くなる可能性もあり,読みきれないところである。 2 すでに出された一般的意見及び今後予想される一般的意見 障害者権利委員会は,今回の第11回会期中に,それまでドラフト段階で各界からの意見を集めていた9条アクセシビリティと12条法的能力について,一般的意見を確定させた。次に予定されている一般的意見は6条障がいのある女性である。 同委員会がどのような基準で,一般的意見を出す順番を決めていくのか興味深いところであるが,上記のとおり,ロン・マッカラム副委員長によれば,一定の基準というものがあるわけではないようである。各国の政府レポートに見られる共通する懸念事項をベースにしつつ,各委員の障がい種別や性別,活動領域,その他さまざまな要因から議論を尽くして決定しているものと考えられる。 第11回会期において,2015年春に行われる第13回会期にて19条(地域生活)と24条(教育)に関して一般的討論を行うことが正式に決定したとのことである。これは,6条の後,19条と24条に関する一般的意見を策定する方針が決定したことを意味する。いずれも重要な条文であり,一般的意見の確定により各国の目指すべき水準が明確になるのは喜ばしいことである。 3 パラレルレポート作成にあたっての留意点 ジュネーブでお会いしたNGO及び障害者権利委員会の要人からは,繰り返しパラレルレポート作成の留意点を聴取してきた。 重要な点をまとめると以下のようになるであろう。 ・NGO間でばらばらにパラレルレポートを出すのではなく,整合性を持たせること,可能ならば,主要なNGOがパラレルレポートを1本にまとめること。障害者権利委員会の委員の読む負担を軽減させつつ,ポイントを確実に伝えること。 ・障害者権利条約のどの条文に関する意見であるか,また,政府レポートのどの部分に対応する意見であるかを明示し,わかりやすい内容と構成に努めること。 ・統計資料に基づく意見が出せること。 ・障害者権利委員会が出すべき質問事項や,建設的対話を踏まえての総括所見について,具体的な文案まで提案できることがベスト。 4 最後に 障害者権利条約の完全実施のために障害者権利委員会の果たす役割と,それを促進するために各国のNGOがどれ程大きな貢献をしているかが,熱く伝わってくるジュネーブ視察だった。 日本でも2年後に予定される政府レポートに対し,日弁連として効果的なパラレルレポートを作成していかなければならない。そのための道程が示された貴重な機会だったといえる。