日弁連新聞 第545号

民事裁判手続のIT化の検討状況
2020年2月、ウェブを活用した争点整理を開始


内閣官房に設置された裁判手続等のIT化検討会が2018年3月に公表した取りまとめでは、民事裁判手続のIT化を3つの段階(フェーズ)を経て実現することとされている。このうちフェーズ1の開始時期、試行する特定庁その他の概要を報告する。


取りまとめでは、民事裁判手続のIT化実現に向けたフェーズ1として、2019年度中に特定庁において、現行民事訴訟法の下でウェブ会議等のITツールを積極的に利用した、より効果的・効率的な争点整理の試行・運用を開始することとされている。


最高裁判所は、ウェブ会議等を活用した争点整理手続の運用(フェーズ1)を2020年2月頃から特定庁で開始することとし、その特定庁を公表した。


具体的には、知財高等裁判所に全国8つの高裁所在地の地方裁判所を加えた9庁である。このうち東京地裁は21か部、大阪地裁は12か部に限られる。2020年5月からは、横浜、さいたま、千葉、京都、神戸の各地裁でも試行される予定である。


初めての取り組みであるため、問題が発生しても速やかに対処できるよう、当面はこれらの裁判所に限られるが、運用状況を見ながらさらに拡大することも予定されている。


フェーズ1で予定されている争点整理手続は、現行法を前提とすることから、具体的には次のことが予定されている。まず、現在行われている電話会議による弁論準備手続(民訴法168条・170条3項)がウェブ会議でも実施されることになる。進行協議期日(民訴規則95条・96条1項)も同様である。さらに、当事者双方が裁判所に出頭せずに争点整理を行う場合として、書面による準備手続(民訴法176条)が活用される。書面による準備手続では、和解や人証調べを行うことはできないなどの制約がある。ただし、成立前の和解の協議は、書面による準備手続としてウェブ会議でも許容される。さらに具体的な内容は、各事件での運用に委ねられる。


ウェブ会議ではマイクロソフトの「Teams(チームズ)」というアプリケーションソフトが使用される。


肝心の争点整理のやり方自体は、従来から議論のある点であり、ブロックダイアグラムなどのツールの活用などが想定されている。


なお、民事裁判手続のIT化の検討状況については、Q&Aを作成し、日弁連ウェブサイト内会員専用ページに掲載しているので参照されたい。



◇    ◇


(事務次長 大坪和敏)



年次報告書の提出期限迫る!
―未提出の方は速やかにご提出を―

弁護士業務におけるマネー・ローンダリング対策の観点から、会員には、依頼者の本人特定事項の確認・記録の保存義務等の履行状況について、所属する弁護士会に年次報告書を提出することが義務付けられています(依頼者の本人特定事項の確認及び記録保存等に関する規程11条1項)。


提出期限は6月30日

2019年度の年次報告書の提出期限は本年6月30日です。


未提出の方は、所属する弁護士会に期限までにご提出をお願いします。


全会員に提出義務があります

年次報告書は、弁護士・弁護士法人・外国法事務弁護士・外国法事務弁護士法人の全ての会員に提出義務があります。例えば、組織内弁護士や高齢・育児・疾病などで弁護士等の職務を行っていない会員にも年次報告書の提出義務がありますので、ご注意ください。


年次報告書の書式

2019年度の年次報告書の書式は、昨年度の年次報告書の書式から一部変更されています。


2019年度の年次報告書の書式と変更点は、日弁連ウェブサイトの依頼者の本人確認―年次報告書の提出を!―」のページで確認することができます。


(東京三会は独自の書式を設けていますので、各会にお問い合わせください。)


参考資料はウェブで

依頼者の本人特定事項の確認・記録の保存等に関連する各種資料は、上記で紹介したバナーのリンク先ページで確認できます。年次報告書の作成・提出の際にご参照ください。


また、総合研修サイトではeラーニング「簡単!依頼者の本人確認と年次報告書の作成」を公開しています。視聴しながら年次報告書を作成することができるようになっていますので、ぜひご活用ください。

改正民事執行法成立


5月10日、「民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律」が成立した。改正民事執行法(以下「法」)の概要を紹介する。


【債務者財産の調査】

財産開示手続の申立てに必要な債務名義の種類が拡大され、公正証書等に基づく申立てが可能となった(法197条1項)。また、開示の実効性確保のため制裁が強化された(6月以下の懲役または50万円以下の罰金。法213条1項5号、6号)。さらに、第三者から債務者財産情報を得る制度が新設され(法204条以下)、銀行等から預貯金債権等、振替機関等から振替社債等に関する情報(法207条)が、いずれも財産開示手続を経ずに入手できる。登記所から不動産情報(法205条)、市町村・日本年金機構等から給与債権情報も入手できる(法206条)。その申立てには財産開示手続の先行が必要であり、給与債権情報の申立権者は、養育費等や人の生命身体に係る損害賠償請求権の債権者に限られる。


【不動産競売における暴力団員等の排除】

不動産の買受申出人に暴力団員等でない旨の陳述が義務付けられ(法65条の2)、虚偽陳述には罰則が設けられた(法213条1項3号)。裁判所は警察に対し、最高価買受申出人や自己の計算で最高価買受申出をさせた者が暴力団員等に該当するか否かの調査嘱託を行い(法68条の4)、暴力団員等と認められるときは売却不許可決定をする(法71条5号)。


【子の引渡し強制執行】

子の引渡しの執行方法として、裁判所の決定で執行官に引渡しを実施させる方法と間接強制の方法が定められた(法174条1項)。前者は、間接強制を先行させる場合のほか、間接強制の実施では奏功の見込みがあると認められない場合、子の急迫の危険防止に必要な場合も申立て可能となる(同条2項)。実施決定に当たっては原則として債務者審尋が行われる(同条3項)。執行官は、相当な場合に債務者の非住居等で執行ができ、また、執行に当たり、子と債務者が同じ場所にいない場合でも執行が可能であるが(法175条2項)、それには債権者の出頭が必要とされる(同条5項)。


これらの内容を踏まえ、ハーグ条約国内実施法も同趣旨の内容で改正された。


いずれの法改正も、最高裁判所規則に細目が委ねられる事項があり、本年中に最高裁判所民事規則制定諮問委員会において内容が検討される予定である。


◇    ◇
 


(事務次長 大坪和敏)



育児期間中の会費免除制度改正
施行日および適用日が本年10月1日に決定

arrow_blue_2.gif出産時・育児期間中の会費等免除


3月1日の臨時総会で育児期間中の会費免除に関する規程の一部改正が可決され、4月18日の理事会で改正規定の施行日および適用日を「2019年10月1日」とすることが承認された。これにより、免除期間は子の出生日によって以下のとおり異なることとなる。


また、同理事会で会費免除の手続に関する規則などの一部改正も承認され、育児実績書の提出回数、提出方法等も本年10月1日から変更される。


今後、制度の詳細等を日弁連ウェブサイト内会員専用ページ(HOME≫届出・手続≫出産時・育児期間中の会費等免除)に掲載するので、確認の上、所属弁護士会に申請されたい。
  

 

■育児期間中の会費等免除期間

2019年10月1日以降に出生した子

→【改正規定を適用】12か月以内の免除(多胎妊娠は18か月以内)
 ※ただし、出産時における会費等の免除を受けた場合は10か月以内の免除(多胎妊娠は15か月以内)


2019年9月30日までに出生した子

→【現行規定を適用】6か月以内の免除(多胎妊娠は9か月以内)



ひまわり


表記上、「子供」と「子ども」、いずれが正しいかをネットで調べると、膨大な議論がなされていることに驚かされる。公用文では「子供」とされているが、今は法律にも「子ども」が使われているものがある。今考えると、いささか過剰な反応だったような気がしないでもない。ちなみに民法上は「子」である


▼差別や人権侵害に敏感で、この手の話題の先進国アメリカでは、使えない言葉が徐々に多くなり、今では「若い」も対象になっているそうである。「若手」「両性」「谷間」など日弁連で頻繁に使用されている言葉にも微妙な表現が存在している。時代とともに柔軟に見直していくことが求められるのかもしれない


▼夏の参議院選挙を前にして、ある政党が所属議員らに「失言防止マニュアル」を配布したとのことである。震災・災害に関連しての失言が問題となることが多い。無理な受け狙いは禁物である


▼公の場でのスピーチに限らず、日常会話の失言も気を付けたい。友達感覚での何気ない男女の話題なども、自らの立場、会話の状況により、相手に不快な念を与えるだけでなく、周りで聞いて不快に思っている人から問題とされることもある。ネット社会で監視の目が世界中に広がっている現代、これまで以上の注意が必要とされている。

 

(K・O)



民事司法制度改革推進に関する関係府省庁連絡会議開催


4月12日、内閣総理大臣補佐官を議長とする標記連絡会議(以下「連絡会議」)および同幹事会(以下「幹事会」)が開催された。会議の趣旨と概要について報告する。


目的と検討課題

連絡会議は、2018年6月に閣議決定されたいわゆる「骨太の方針2018」を受けて開催されたものである。国際化、情報化、専門分化の動きの中で現在の民事司法制度が十分に対応できていないとの問題意識の下、関係行政機関等が連携・協力して、民事司法制度改革に向けた喫緊の課題を整理し、その対応を検討することを目的とする。


喫緊の課題として、①裁判手続IT化、②知財紛争における既存のADR機関や裁判所等の紛争解決能力の強化、さらに③国際取引における紛争解決のグローバルスタンダードである国際仲裁の活性化が挙げられている。


当日は、主要な検討課題に関する取組状況の報告として、①法務省から裁判手続等のIT化について、②特許庁から特許訴訟制度の見直しについて、③法務省から国際仲裁をめぐる現状と課題についてそれぞれ報告があった。


他に議論すべき課題についても積極的に検討することが予定されている。


各課題の具体的な検討は、内閣官房内閣審議官を議長とする幹事会で行われる。幹事会では各課題について有識者のヒアリングを実施するほか、議論すべき課題に関する検討も行う予定である。


連絡会議および幹事会には日弁連もオブザーバーとして参加している。
 


今後の予定

幹事会では、本年度中に3つの課題と別途挙げられた課題について有識者のヒアリングが実施され、取りまとめに向けた議論がなされる。


民事司法改革については、日弁連はこれまでさまざまな取り組みを行い、「民事司法改革グランドデザイン」(2018年1月)として取りまとめている。また、前記骨太の方針を受けて昨年設けられた最高裁、法務省との「民事司法の在り方に関する法曹三者連絡協議会」では、現在も主として民事訴訟法改正に向けた民事裁判の証拠・情報収集の拡充のための協議が進められているところである。


今後は、これらに加え、連絡会議および幹事会のオブザーバーとして、連絡会議で取り上げ、立案すべき改革課題について適時に意見を述べ、国民の期待に応える民事司法改革の速やかな実現を目指していくことになる。


(事務次長 大坪和敏)



日弁連短信
平成と共に去りぬ

545_07.jpg 令和元年5月末日をもって事務次長を退任しました。平成29年2月に就任してから2年4か月間、会長・副会長・事務総長のご指導と、担当した委員会の先生方や誠実かつ優秀な事務局職員に支えられて、何とか無事に任期を終えることができ、ほっとしています。この場を借りて、お世話になった皆様に心より御礼を申し上げます。

事務次長の仕事を一言で言えば「根回し、調整、取りまとめ」です。会内では、総会・理事会・正副会長会に向けて、会長・副会長・事務総長・委員会・事務局・弁護士会連合会・弁護士会・会員の中で、対外的には、最高裁・法務省を中心に多岐にわたる外部組織との間で、「根回し、調整、取りまとめ」の日々でした。

担当した業務で、会員の皆様にご紹介したいのは、男女共同参画の推進に向けた取り組みです。

日弁連は昨年度から、副会長のうち2人以上は女性が選任されなければならないとする女性副会長クオータ制を導入しました。今年10月からは育児期間中の会員の会費免除期間を延長します(6か月から1年に)。会務や研修に参加する場合のベビーシッター代や延長保育料等の補助も実施しています(子一人当たり年間1万5千円が上限)。今後もさまざまな環境整備が必要ですが、日弁連の女性会員の比率は18,6%(2018年3月31日現在)で、うち約60%を60期以降が占めているため、女性会員が会務で活躍する場面は飛躍的に増えていくはずです。

また、日弁連事務局は、男女共同参画がとても進んだ職場です。数多くの女性職員が働いており、女性比率の高さが特徴です。毎年、産休・育休を取得する職員や時短勤務を選択する職員が20人前後います。管理職が中心となって、業務をカバーする方策や、時短勤務をしやすくするための業務の見直し等、さまざまな検討や試みを実施しています。

少子高齢化と人口減少が進んでいく日本において、男女共同参画は中長期的に極めて重要な課題であり、女性が社会のさまざまな場で活躍することは個人や社会の利益そのものです。事務次長として男女共同参画を担当し、社会の価値観の大きな変化を垣間見る経験ができたことは、大変貴重な財産となりました。


(前事務次長 髙﨑玄太朗)



院内集会
権利性が明確な「生活保障法」の制定を!
〜日弁連「生活保護法改正要綱案(改訂版)」を題材に〜
5月15日 衆議院第二議員会館

生活保護基準の引下げや不正受給対策を強化する法改正等が相次いでいる。日弁連は2008年11月、生存権保障を強化する観点から作成した生活保護法改正要綱案を公表した。今般、生活保護法改正要綱案の改訂版(以下「改訂版」)を作成したことを契機に、あるべき法制度について考えるため院内集会を開催した。集会には約90人が参加した(うち国会議員本人出席4人、代理出席8人)。


貧困問題対策本部の森弘典事務局次長(愛知県)は、本年2月に公表した改訂版の5本柱が、「生活保障法」への名称変更等による権利性の明確化、水際作戦を不可能にする制度的保障、生活保護基準の決定に対する民主的コントロール、生活保護一歩手前の生活困窮層に対する積極的支援、ケースワーカーの増員と専門性の確保であると説明した。


五石敬路准教授(大阪市立大学大学院都市経営研究科)は、貧困層であるにもかかわらず給付を受けていない、いわゆる「死角地帯」と呼ばれる人たちをなくすことを目指す韓国の取り組みとして、支援対象者を発見し必要とする社会保障給付を適切に提供すべき努力義務を法律で明文化していることなどを紹介した。


桜井啓太准教授(立命館大学産業社会学部)は、現状ではケースワーカーの適正な人員配置が行われずに一人当たりの負担が過大になっていることや、社会福祉主事資格を持たない者によりケースワーク業務が行われていることなどの問題点を指摘した。その上で、ケースワーカー一人当たりの担当世帯数を標準数から法定数に再転換すること、継続的な実態調査と情報公開を行うことなどの改善策を早急に講じる必要があると訴えた。


出席した国会議員からは、相次ぐ生活保護基準の引下げに対する防戦一方ではなく前向きの対案を示した改訂版に賛同する趣旨の発言が多く寄せられた。



菊地会長、経済同友会代表幹事と対談
グローバル化の中での経済と司法のあり方を考える

545_09.jpg 4月8日、グローバル化、デジタル化(AI化)の中で、日本の司法はどうあるべきか、弁護士や弁護士会の役割は何かなどをテーマとして、経済同友会代表幹事(当時)の小林喜光氏(三菱ケミカルホールディングス取締役会長)と菊地会長による対談が行われた。

小林氏からは、グローバル経済の中で日本企業を守っていく役割を果たす弁護士の重要性が指摘され、グローバル化、IT化で後れを取っている日本の司法は世界で戦っていくことができるのかとの問題提起があった。これに対し菊地会長は、SDGsやESG投資が注目される中、産業、経済の発展には司法の力が欠かせないものであり、日弁連としても後れを取らないよう積極的に活動を強めていると述べた。また、人権を守ることが社会や経済の成長のベースであるとの認識の下、さまざまな人権擁護活動に取り組んでいると語るなど、建設的かつ忌憚のない議論が交わされた。



対談内容は経済同友会広報誌「経済同友2019年5月号」に掲載されています。ウェブサイトでもご覧いただけます。


「遺言の日」記念行事を実施


「遺言の日」は、「良(4)い、遺言(15)」の語呂合わせから、近畿弁護士会連合会が1998年4月15日に開催した記念行事が始まりである。


「遺言の日」の認知度を全国的に高め、市民の法的ニーズに応えるため、日弁連は2004年度から全国の弁護士会に遺言・相続に関連する企画の実施を呼びかけている。前回の2018年度は全国で1600人を超える参加を得た。


第15回目の実施となった本年度は、51の弁護士会で遺言・相続に関する講演会や面談相談・電話相談を実施したほか、プロの落語家による遺言・相続を題材とした落語など、弁護士会独自の企画も実施された。


約40年ぶりに改正された相続法が、一部を除き本年7月から施行される。超高齢社会を迎えた日本では、遺言・相続問題を巡る市民の法的ニーズはより一層高まるものと思われる。今後も市民の不安を解消すべく、法的ニーズに合った企画を実施していきたい。



新事務次長紹介


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柳楽〈なぎら〉 久司〈ひさし〉
(第二東京・54期)
髙﨑玄太朗事務次長(第二東京)が退任し、後任には、6月1日付で柳楽久司事務次長(第二東京)が就任した。
第二東京弁護士会で2015年度に副会長を経験させていただき、会内各部署の調整や弁護士会と日弁連の連携の大切さを学びました。関係各方面とのコミュニケーションを密にとりながら円滑な会務運営に努めたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 

 


シンポジウム
日米地位協定を検証する! ~ドイツ・イタリアと比較して~
5月11日 弁護士会館


日米安全保障条約に基づき日本とアメリカとの間で結ばれた日米地位協定では、米軍の活動に日本の法令が適用されないことを前提に、さまざまな特権が米軍に付与されている。そのため、米軍の訓練内容や事件・事故、騒音被害、環境汚染、軍人・軍属による刑事事犯などの問題について、日本による十分な関与や調査などがないまま、地元住民らに対する重大な人権侵害が繰り返されている。


日弁連は昨年4月にドイツ・イタリアの調査を実施した。沖縄県は広範な国際調査に着手して既にドイツ・イタリア・ベルギー・イギリスの調査を終了し、琉球新報社も「駐留の実像」というテーマで精力的な調査報道を行った。


今回のシンポジウムは、アメリカが他国と結ぶ地位協定との比較という視点から日米地位協定の問題点を俎上に載せたものである。沖縄や岩国の米軍基地の実情報告、島袋良太氏(琉球新報社)、池田竹州氏(沖縄県知事公室長)、人権擁護委員会基地問題に関する調査研究特別部会の福田護副部会長(神奈川県)による外国調査結果の報告のほか、伊勢﨑賢治教授(東京外国語大学大学院/元国連PKO幹部)の講演をもとに問題の分析と解決策についての討論が展開された。


そこから見えてきたものは、他国の地位協定は日本ほど自国の主権を制限する内容ではなく、日米地位協定は他国の地位協定に比較して、特異ともいえる内容であるということであった。


既に日弁連をはじめ沖縄県、全国知事会、複数の政党が日米地位協定の改定を訴え、これが国民共通の認識、課題となりつつある。


シンポジウム当日は、予想をはるかに超える約440人の市民が参加し、国内法の適用、基地への立ち入り調査など日本の主権を回復すべく速やかな改定交渉を日米両政府に求める意見が多く出された。日弁連に求められる課題は大きく、多い。


(人権擁護委員会特別委嘱委員 光前幸一)


*日弁連のドイツ・イタリア調査報告は、日弁連ウェブサイトでご覧いただけます。



公開講座
改めて考える社外取締役の役割と責任
改訂後の社外取締役ガイドラインを参考に
4月12日 弁護士会館


コーポレートガバナンス・コードの普及等により東証一部上場会社の約99.9%が社外取締役を選任するなど、上場企業における社外取締役の選任は事実上の標準となっている。 会社は社外取締役をどう活用すべきか、社外取締役は自ら何をなすべきかについて、現役の社外取締役や機関投資家の運用責任者を招いて議論した。(共催:東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会)


司法制度調査会社外取締役ガイドライン検討チームの中込一洋委員(東京)は基調講演で、2019年3月の社外取締役ガイドラインの改訂はコーポレートガバナンスをめぐる昨今の状況を踏まえたものであると報告した。その上で、社外取締役就任時に検討すべき事項、社外取締役の法的責任、社外取締役を生かすための仕組みに関する記載をそれぞれ見直したことなど、改訂の要点を説明した。


続いて、上場企業の社長経験を持つ松田譲氏、海外を中心とした事業経験の豊富な中島好美氏および山口利昭会員(大阪)の3人が現役の社外取締役として、小野塚恵美氏が機関投資家の運用責任者として登壇し、パネルディスカッションを行った。


社外取締役が果たすべき役割や取締役会をどのように活性化するかなどのテーマに関し、現役の社外取締役からは「社内の立場では言いにくいことをきちんと指摘することが重要である」「会社の中にいてはなかなか気が付かない自社の強みを外部の視点で指摘することも大切な役割の一つである」「自ら子会社や各事業所に赴き、気が付いたことを取締役会にフィードバックする活動にも多くの時間を費やしている」「弁護士や公認会計士などの専門家を社外取締役に迎えたいというニーズは多い。ディスクロージャーという点で弁護士の能力が期待されている」などの意見があった。機関投資家からは「社外取締役の選任に際しては、事業戦略に即した多様な発想のベースを確保することが望ましい。もっとも、多様性という言葉にとらわれるあまり本質を見失うべきではない」などの意見があり、活発な意見交換が行われた。


*社外取締役ガイドラインは、日弁連ウェブサイトでご覧いただけます。



シンポジウム
若者の自立を保障する社会へ
~すべての若者が未来に希望を抱くことができる社会保障の実現~
4月20日 弁護士会館


日弁連は、2018年10月の第61回人権擁護大会で「若者が未来に希望を抱くことができる社会の実現を求める決議」を採択し、若者が未来に希望を抱くことができる社会保障制度の実現に向け取り組んでいる。本シンポジウムでは、若者のための社会保障実現に向けた課題や方策を検討した。


545_14.jpg 実際に支援を受けた若者3人がその経験や直面する現実を語った。就職先でのパワハラが原因で長期間引きこもっていた男性は、同様の境遇の若者と接することで勇気を持てたと語り、レールから外れた若者を支える制度が必要だと訴えた。就労訓練中に褒められたことで自信が付き就職できた女性や、中学時代に生活支援施設で保護を受け、高校時代には不登校になりながら、奨学金を借りて大学に入学した女性は、現在の支援は親元での生活を前提とするものであり、親の助けがない場合には困難な状況に追い込まれると制度の問題点を指摘した。

貧困問題対策本部の久野由詠委員(愛知県)は、学ぶ、働く、住む、家族を形成するというそれぞれの観点から若者が置かれている状況を分析し、教育や社会保障に対する公的支出が少ないことを問題視した。

宮本みち子氏(放送大学客員教授/千葉大学名誉教授)は、若者が直面する困難の多様化や、早期離学者など支援を必要とする若者の捕捉率の低さを指摘した。若者への投資は社会の発展のために不可欠であり、若者を総合的に支援するため、関係機関の情報を一元化し、公的責任で若者の自立を保障する制度を期待すると力を込めた。

宮本氏、佐藤洋作氏(認定NPO法人文化学習協同ネットワーク代表理事)、高橋亜美氏(アフターケア相談所ゆずりは所長)、村尾政樹氏(公益財団法人あすのば事務局長)、室橋祐貴氏(日本若者協議会代表理事)によるパネルディスカッションでは、今後の支援の在り方などについて議論した。高橋氏は、支援を必要とする若者が早期に相談しない要因について、簡単に助けを求めないという育ち方もあるのではないかと分析した。村尾氏は、充実した支援のためには大人がどれだけ覚悟を持てるかが大事だと述べた。

奨学金を借りている大学生からは、若者が諦めることなく学ぶことができる社会を望むとの声が上がった。



事業再生シンポジウム
事業承継と事業再生を一体で進めるために
4月16日 弁護士会館


近時、後継者不足などから中小企業の事業承継が喫緊の課題として注目されている。過剰な負債を抱える中小企業にとって、事業承継は経営者保証債務の整理を含む事業再生を実行する機会でもある。本シンポジウムでは、金融機関や各種士業等を対象に、事業承継と事業再生を実現するための方策について実例を交え議論と検討を行った。


事業承継の実現手法と早期着手の重要性

545_15.jpg 日弁連中小企業法律支援センターの大宅達郎事務局次長(東京)が、債務超過企業の事業承継の実現手法について、①自社の将来の収益によって債務の返済が可能な場合、②M&Aを通じて債務の返済が可能な場合、③M&Aおよび保証の一部履行を通じて債務の返済が可能な場合、④債務整理をすれば事業承継可能な場合の4類型に分けて事例を交え解説した。事業再生と比較すると、対象企業が緩やかに衰退していく事業承継のケースでは弁護士への相談が遅れがちであるが、早期に着手し金融機関や各種士業と連携することで、多様な選択肢が生まれ、丁寧な金融調整プロセスを取れるようになり、債務超過企業の円滑な事業承継を実現できると強調した。


事業再生と事業承継の現場から


賀須井章人氏(中小企業再生支援全国本部統括プロジェクトマネージャー)と竹山智穂会員(東京/地域経済活性化支援機構(REVIC)執行役員)が、事業再生における金融調整業務の経験を語り、債務超過企業に対して事業承継・事業譲渡・廃業の支援を行うとともに、「経営者保証に関するガイドライン」を活用して経営者個人の保証債務の整理を一体で行う再チャレンジ支援業務について検討した。森智幸会員(岡山)は、債務者代理人として特定調停を活用した実例を紹介し、事業再生と事業承継を一体で進めるためのポイントや留意点を解説した。



JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.142

自然災害発生を見据えて
―東日本大震災・自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関の取り組み―


東日本大震災後、対象を異にした2種類のガイドラインを運営する2つの機関が設立され、いわゆる二重債務問題への対応が進められてきました。これらの機関が4月1日に合併し、一般社団法人東日本大震災・自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関(以下「運営機関」)となりました。運営機関や被災者支援の状況について、運営機関副局長の寺嶋智哉氏と、調査役の小山光昭氏にお話を伺いました。

(広報室嘱託 柗田由貴)


前身となる機関の設置

545_16.jpg 寺嶋 「個人債務者の私的整理に関するガイドライン(以下「個人版ガイドライン」)は、東日本大震災の影響で、住宅ローンや自動車ローン、事業資金等の返済が困難な、または将来困難となる個人に対し、債務の減額や免除を行うため、2011年7月に公表された自主的ルールです。一般社団法人個人版私的整理ガイドライン運営委員会(以下「運営委員会」)は、債務整理の申出や必要書類の提出、弁済計画案の作成などについて、弁護士等の『登録専門家』を紹介して支援したり、弁済計画案を確認したりしていました。
 
このような取り組みを他の自然災害にも広げるため作られたのが、自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン(以下「自然災害ガイドライン」)で、2015年9月2日以降災害救助法の適用を受けた自然災害を対象にしています。一般社団法人自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関は、業務のスリム化を目指し、特定調停の利用を前提に、弁護士等の『登録支援専門家』(*)の委嘱を中心とした業務を担うこととしました。」

*破産管財人の経験、3年以上の職務経験などの要件を満たし、各弁護士会に登録することが必要です(自然災害ガイドライン第4項(1)の各団体における登録支援専門家の登録及び委嘱手続の実施要綱)。


両機関合併の経緯

寺嶋 「両機関とも、再スタート時に新たな借り入れが困難となる、いわゆる二重債務問題の解決を目的に設置され、所在地も業務を支えるスタッフも共通していました。また、運営委員会では、各種問い合わせはあるものの、係属事件が0ないし数件の状況が続いていました。そのため、両機関を別に運営する必要性が乏しいとして、合併されることになりました。」


運営機関の体制・業務内容

寺嶋 「運営機関には、弁護士である理事長、一般社団法人全国銀行協会関係者である副理事長、理事、監事の計4人の他、通常業務を担う7人が所属しています。7人は、事務局長、副局長、調査役3人、経理・総務などの事務2人で構成されます。」


小山 「調査役は、弁護士に対する委嘱、事案の進捗確認、報酬対応など日頃から弁護士と関わっています。他にも、主に金融機関を対象とした自然災害発生時の勉強会の開催、問い合わせ対応、個人版ガイドラインの手続における弁済計画案の確認などを行います。問い合わせ対応については、事務局長と副局長も担当して5人で情報を共有し、知識の平準化を図っています。」


自然災害発生時の対応・課題

小山 「自然災害発生当初は生命身体や衣食住を含む生活自体に関心が向けられるのが通常であり、二重債務問題に関心が移るのは、災害発生から1〜2か月経った頃です。その1〜2か月の間に、金融機関など、債権者が所属する中央団体を通じて周知するとともに、状況に応じて金融機関担当者を対象とする勉強会や、該当地域の登録支援専門家の方々にもご参加いただき、意見交換会を実施しています。」


寺嶋「弁護士会も、熊本地震の際に自然災害ガイドラインを利用した弁護士が、以後の被災地所在の弁護士会の勉強会で講師を務めるなど各種連携を図っているとのことです。自然災害ガイドラインを利用した債務整理成立件数319件(本年3月末時点)の大半が熊本地震によるもので、そのノウハウが全国に広がっています。
 

ただ、災害発生後に勉強会を開催し準備する余裕が常にあるとは限りません。自然災害ガイドラインの適用開始後自然災害が続き、個別対応に注力してきましたが、今後は平時から金融機関に対する継続的な周知にも努めたいと考えています。」


弁護士・弁護士会へのメッセージ

小山 「各ガイドライン対象の債務者は、法的倒産手続の要件に該当するなど一定の要件を満たす必要があります。登録専門家・登録支援専門家の弁護士は、中立かつ公正な立場で各ガイドラインの利用を支援する必要があります。債務者に各ガイドラインが適用されるよう支援するのはもちろん、適用されない場合を早期に見極めしっかりフォローし、全体的な視点から債務整理を進めていただくことができればと思います。」



続・ご異見拝聴❻
中川英彦 日弁連市民会議委員


今回は、2003年12月から日弁連市民会議の委員を務めていただいている中川英彦氏にお話を伺いました。中川氏は総合商社の法務部門で長年活躍されたほか、司法制度改革推進本部法曹制度検討会メンバーとして司法制度改革や法曹養成に関わられた経験をお持ちです。

(広報室嘱託 木南麻浦)


企業法務マンとして

545_17.jpg 昭和37年に住友商事株式会社に入社すると同時に法務部門に配属され、途中8年ほどアメリカに駐在しました。現地の法律事務所とやりとりし、現地のローヤーたちと仕事をした経験が財産になりました。帰国後、数十人いた法務部員の大半が各事業部門の法務担当者として異動し、法務部が事実上解体している状態を目の当たりにし驚きました。「これでは戦略的な採用や教育を行えない、情報の集約も行えない。会社にとって大きなマイナスだ」と上層部に直談判し、法務部の再編に取り組みました。

「法務部は社内の法律事務所、企業の良心として存在すべきである」

私を突き動かしたのは駐在中に実感したこの思いでした。



市民会議委員として

日本企業の海外進出に伴い、海外展開支援や国際紛争の解決などの分野で弁護士に対するニーズが大きく増えていますが、対応できる弁護士は少ないのが実情です。その最大のネックは「言葉の壁」だと思っています。AIを活用した同時通訳のシステムを構築すれば、もっと多くの日本の弁護士が国際的な分野で活躍できるはずです。日弁連が中心になり、法律用語を正確に通訳するシステム作りに取り組むべきだと考えています。



日弁連や弁護士会、弁護士に期待すること

「弁護」という言葉のイメージが強いのか、弁護士というと多くの人が敵味方に分かれて争う法廷での弁護活動をイメージすると思います。しかし、弁護士の活動はそれだけではないはずです。災害復興支援の分野、国際的活動、立法に関わる活動その他社会のあらゆる場面で弁護士が活躍していることをもっと広報すべきではないでしょうか。「弁護士はこんな活動もしています」という日弁連のパンフレットも活用できると思います。


60期代以降が弁護士全体の半分を占め、弁護士数自体も4万人を超えました。組織としての一体性や継続性を意識していく必要が増した今、会員とりわけ若手会員に日弁連や弁護士会の存在意義、課題やそれに対する解決策などをPRしていくことも重要だと考えています。



ブックセンターベストセラー
(2019年3月・手帳は除く) 協力:弁護士会館ブックセンター


順位 書名 著者名・編者名 出版社名
1 一問一答 新しい相続法 堂薗幹一郎・野口宣大 編著 商事法務
2 六法全書 平成31年版 宇賀克也・中里 実・佐伯仁志 編集代表 有斐閣
3 裁判官は劣化しているのか 岡口基一 著 羽鳥書店
4 最高裁判所判例解説 民事篇 平成28年度 法曹会 編 法曹会
5 別冊ジュリストNo.242 著作権判例百選[第6版] 小泉直樹・田村善之・駒田泰土・
上野達弘 編
有斐閣
6 模範六法2019 平成31年版 判例六法編修委員会 編 三省堂
7 民事反対尋問のスキル いつ、何を、どう聞くか? 京野哲也 編著 ぎょうせい
8 国会便覧 平成31年2月新版 146版 シュハリ・イニシアティブ
9 金融六法 2019年版 金融法規研究会 編 学陽書房
10 新制度がこれ1冊でわかる Q&A 改正相続法の実務 東京弁護士会法友会 編 ぎょうせい
最高裁に告ぐ 岡口基一 著 岩波書店



海外情報紹介コーナー⑤
Japan Federation of Bar Associations


現代奴隷法


本年1月、オーストラリアで現代奴隷法(Modern Slavery Act 2018)が施行された。企業などに対し、その活動やサプライチェーンの中で人身取引や強制労働が発生しないよう対策を求めている。


すでにイギリスやアメリカ・カリフォルニア州、フランスに同様の法律があり、日本企業が対象になるものもある。


「現代奴隷」は日本では馴染みの薄い言葉だが、奴隷労働の存在を正面から認めて対策に乗り出した各国の取り組みは、労働搾取や人身取引の存在が指摘される日本でも参考になる。


◇   ◇


(国際室嘱託 尾家康介)