日弁連新聞 第542号

「憲法改正手続法における広告放送及び最低投票率に関する意見書」を公表


日弁連は2月6日、「憲法改正手続法における広告放送及び最低投票率に関する意見書」(以下「本意見書」)を公表した。
本意見書は、憲法改正手続法成立時の参議院附帯決議で、施行までに必要な検討を加えることが求められていた、テレビ・ラジオによる有料広告放送および最低投票率の問題を中心に意見を表明したものである。  



有料広告放送の法的規制の必要性の検討

本意見書は、テレビ・ラジオを使用した有料広告放送について、①勧誘CMの国民投票期日前14日間の禁止期間を延長すること、②意見表明CMを勧誘CMと同様の期間、禁止することの2点について、憲法改正の賛否双方の意見の公平性を確保する観点から問題点を整理した。その上で、これらの法的規制の必要性を検討し、必要性を認めるときには法改正をすべきであるとした。
日弁連は従前から放送の自由を尊重する立場を採っている。本意見書はこれを踏襲し、法的規制の検討に当たっては放送事業者の自主的な規律を尊重すべきことを明示した。
日本民間放送連盟は、昨年12月に基本姿勢を公表し、引き続き国民投票運動CMなどの取り扱いに関する考査上の「ガイドライン」を検討するとしている。こうした対応を踏まえて法的規制の必要性が国会で議論されるべきである。


テレビ・ラジオを使用した公費による放送の確保

憲法改正案の広報のために、テレビ・ラジオを使用した公費による放送が予定されている。本意見書は、国民に公平な判断材料を提供するため、国民が視聴しやすい時間帯に必要かつ十分な量の放送枠を確保する規定を設けるべきであるとした。


最低投票率の規定の新設

日弁連は従前の意見書等で、国民投票の成立要件として最低投票率の規定を憲法改正手続法に新設すべきであり、その割合は、全国民の意思が十分に反映されたと評価できるに足りるものとすべきであると提案している。本意見書は、最低投票率の設定に否定的な意見の根拠を紹介し、それに対する反論を詳細に展開している。
現在開会中の通常国会において、憲法改正手続法改正案の審議が始まることが予想される。今後、憲法改正案の内容の議論が進んでいく可能性もある。法律家団体として国民に課題や問題点を伝える活動を続けていきたい。


(事務次長 小町谷育子)

 

死刑制度の廃止に際して検討されるべき代替刑の基本的方向性を確認


日弁連は2016年10月の第59回人権擁護大会で「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し、代替刑について、「仮釈放の可能性がない終身刑制度」あるいは「重無期刑制度」の導入を検討すること、ただし終身刑を導入する場合も、時間の経過によって本人の更生が進んだときには、無期刑への減刑や恩赦等の適用による刑の変更を可能とする制度設計が検討されるべきことを提言している。今般、理事会の討議を経て、以下の基本的方向性の下に具体的な検討をしていくことを確認した。
―死刑制度を廃止するに際して、死刑が科されてきたような凶悪犯罪に対する代替刑として、仮釈放の可能性がない終身刑制度を導入するべきである。ただし、例外的に一定の時間の経過に加えて本人の更生が進んだときには、恩赦の適用とともに、主として裁判所の新たな判断による無期刑への減刑などを可能とする制度を併せて採用するべきである。そのために、刑の変更の可否を審理する制度設計や、無期刑に減刑するための要件について、更に検討すべきである。


(死刑廃止及び関連する刑罰制度改革実現本部  事務局長 小川原優之)


専門職後見人の選任と後見事務の在り方について
~成年後見制度利用促進基本計画を踏まえて


1月24日、最高裁から各地の家裁に対し、①後見人選任の在り方、②第三者後見人の報酬の在り方について、専門職団体との議論の状況に関する書簡が出された。
①に関し、最高裁からは、財産管理面や身上監護面に大きな課題がなく、親族等においても対応可能な事案であって、かつ、適切な親族等が身近にいるときには、管理財産が多額の場合であっても親族等を後見人に選任するとの方向性が具体的なフローチャートで示されている。
基本的な方向性は理解できるとしても、専門職と親族等のいずれが適切であるかについて、具体的な事案に即してどのような視点でどのように判断するか、親族等の適格性の有無をどのように判断するか、親族等後見人をどのように支援していくかなどの課題は残っている。
②に関し、これまで後見人等の報酬は管理財産額を基礎に定められることが多かったが、最高裁からは、今後は管理財産額の多寡ではなく、後見事務の具体的な内容を評価して定めるとの方向性が示され、評価の対象となる後見事務の一覧表が提示されている。
これに対して日弁連からは、管理財産額が少額で本人の財産から報酬を付与することが困難な事案への対応として、成年後見制度利用支援事業の拡充が喫緊の課題であること、後見事務を適正に評価するのは容易ではなく、最高裁が作成した後見事務の一覧表だけでは不十分であることなどを内容とする意見を最高裁に提出した。
今後は、各地で具体的な運用について家裁と弁護士会など専門職団体との間で協議が進められることになる。最高裁の書簡および報酬に関する日弁連の意見については1月29日付で各弁護士会に情報提供したところであり、今後各地で進められる協議の参考にしていただきたい。


(日弁連高齢者・障害者権利支援センター  事務局長 矢野和雄)


日本法令の国際発信に向けて
将来ビジョンに関する意見書を公表


日弁連は1月18日、「日本法令の国際発信に向けた将来ビジョンに関する意見書」を取りまとめ、23日に法務大臣と「日本法令の国際発信に向けた将来ビジョン会議」座長に提出した。


意見書は、企業や個人の活動の急速な国際化を受け、①法令外国語訳に従事する人員の増強やAI翻訳の活用により、特に重要法令の英訳を迅速に公開すべきこと、②法令の内容・法改正情報を簡潔にまとめたアウトラインおよび重要な裁判例の英訳の拡充や、中国語による法情報の提供を検討すべきこと、③日本法令外国語訳データベースのウェブサイトをポータル化し、各省庁や民間のサイトと相互にリンクさせるなどにより、知名度を高め利用を増やすべきことを提言した。
さらに、④外国語訳の前提となる日本語の法令自体の文章表現を分かりやすくすべきであることを提言した上で、日弁連が取り組むさまざまな国際活動を通じて日本の法曹の国際法務への関与を増やすことも、間接的に日本法令の国際発信に資すると付言した。


(国際室嘱託 坂野維子)


ひまわり


映画やドラマを家で見放題。すごい時代になったものだ。英語の勉強用に、セールを狙って海外の映画DVDを買っていた時代が懐かしい。ヒアリングの向上に見放題が役に立つかも…ということで今夜も海外ドラマに逃避▼自民党の司法制度調査会が始まった。テーマの一つは司法外交だ。国際的に活躍する人材の育成があげられている。英語の鍛錬に加えて、若手弁護士には、日弁連の提供する研修、セミナーのほか、留学制度、インターンシップ、国際会議への援助などの機会をぜひ利用してほしい。2018年のLAWASIA年次大会の出席者数は日本が1位。弁護士、とりわけ若手弁護士の国際化は急速に進展しており、 人材の育成の実は上がっている▼国際交流もますます盛んだ。マレーシア弁護士会と日弁連は2月19日に友好協定を締結。臨時代理大使も式典にご出席。マレーシアは、連邦制の立憲民主国家で、イスラム教徒に適用されるシャリア法を持つ。国際仲裁にも力を入れている。これで海外の弁護士会との友好協定は計14。協定を結んだ弁護士会と、セミナーの共催や国際会議の際に実施する二者間会合(バイ会合)などで親交を深めている▼関係団体や全国の弁護士会と密に連携し、司法の国際化へさらなる飛躍の1年へGO。


 (I・K)


2018年懲戒請求事案集計報告


日弁連は、2018年(暦年)中の各弁護士会における懲戒請求事案ならびに日弁連における審査請求事案、異議申出事案および綱紀審査申出事案の概況を集計して取りまとめた。
弁護士会が2018年に懲戒手続に付した事案の総数は12684件であった。
懲戒処分の件数は88件であり、昨年と比べると18件減っているが、会員数との比では0.21%で、ここ10年間の値との間に大きな差はない。
懲戒処分を受けた弁護士からの審査請求は27件であり、2018年中に日弁連がした裁決内容は、棄却が24件、処分取消が6件、軽い処分への変更が4件であった。
弁護士会懲戒委員会の審査に関する懲戒請求者からの異議申出は27件であり、2018年中に日弁連がした決定内容は、棄却が42件、決定取消が1件、重い処分への変更が1件であった。
弁護士会綱紀委員会の調査に関する懲戒請求者からの異議申出は2036件、綱紀審査申出は398件であった。日弁連綱紀委員会および綱紀審査会が懲戒審査相当と議決し、弁護士会に送付した事案は、それぞれ5件、3件であった。


  • *一事案について複数の議決・決定(例:請求理由中一部懲戒審査相当、一部不相当など)がなされたものについてはそれぞれ該当の項目に計上した。
  • *終了は、弁護士の資格喪失・死亡により終了したもの。日弁連においては、異議申出および綱紀審査申出を取り下げた場合も終了となるためここに含む。

 

表1:懲戒請求事案処理の内訳(弁護士会)

新受 既済
懲戒処分 懲戒しない 終了 懲戒審査開始件数
戒告 業務停止 退会命令 除名
1年未満 1~2年
2009 1402 40 27 3 5 1 76 1140 20 132
2010 1849 43 24 5 7 1 80 1164 31 132
2011 1855 38 26 9 2 5 80 1535 21 137
2012 3898 54 17 6 2 0 79 2189 25 134
2013 3347 61 26 3 6 2 98 4432 33 177
2014 2348 55 31 6 3 6 101 2060 37 182
2015 2681 59 27 3 5 3 97 2191 54 186
2016 3480 60 43 4 3 4 114 2972 49 191
2017 2864 68 22 9 4 3 106 2347

42

211
2018 12684 45 35 4 1 3 88 3633 21 172


  • ※日弁連による懲戒処分・決定の取消し・変更は含まれていない。
    ※新受事案は、各弁護士会宛てになされた懲戒請求事案に弁護士会立件事案を加えた数とし、懲戒しない及び終了事案数等は綱紀・懲戒両委員会における数とした。
    ※2012年の新受事案が前年の2倍となったのは、一人で100件以上の懲戒請求をした事案が5例(5例の合計1899件)あったこと等による。
    ※2013年の新受事案が前年に引き続き3000件を超えたのは、一人で100件以上の懲戒請求をした事案が5例(5例の合計1701件)あったこと等による。
    ※2016年の新受事案が3000件を超えたのは、一人で100件以上の懲戒請求をした事案が5例(5例の合計1511件)あったこと等による。
    ※2018年の新受事案が前年の4倍となったのは、一人で100件以上の懲戒請求をした事案が4例(4例の合計1777件)あったこと、特定の会員に対する同一内容の懲戒請求が8640件あったこと等による。

表2:審査請求事案の内訳(日弁連懲戒委員会)

新受(原処分の内訳別) 既済 未済
戒告 業務
停止
退会
命令
除名 棄却 原処分
取消
原処分
変更
却下・終了
2016 15 13 2 1 31 26 1 2 4 33 27
2017 23 15 0 1 39 22 3 2 2 29 37
2018 14 12 1 0 27 24 6 4 3 37 27


  • ※原処分取消の内訳
  • 【2016年〜2018年:戒告→懲戒しない(10)】
    ※原処分変更の内訳
    【2016年:業務停止2月→業務停止1月(1)、退会命令→業務停止2年(1)】
    【2017年:業務停止3月→業務停止2月(2)】
    【2018年:業務停止1年6月→業務停止9月(1)、業務停止1年→業務停止9月(1)、業務停止
  •                 6月→業務停止4月(1)、業務停止3月→業務停止2月(1)】

表3:異議申出事案の内訳(日弁連懲戒委員会)

新受 既済 未済
棄却 取消 変更 却下 終了 速やかに終了せよ
2016 55 29 1 1 2 1 2 36 49
2017 42 41 0 2 1 2 0 46 45
2018 27 42 1 1 4 1 0 49 23


  • ※取消の内訳
     【2016〜2018年:懲戒しない→戒告(2)】
    ※変更の内訳
    【2016年:戒告→業務停止1月(1)】
    【2017年:業務停止3月→業務停止6月(1)、業務停止6月→業務停止1年(1)】
    【2018年:戒告→業務停止1月(1)】

表4:異議申出事案の内訳(日弁連綱紀委員会)

新受 既済 未済
審査相当 棄却 却下 終了 速やかに終了せよ
2016 1103 8 929 25 9 241 1212 200
2017 904 1 824 20 8 39 892 174
2018 2036 5 1179 41 2 102 1329 918


  • ※2016年の新受事案のうち、同一の異議申出人による計305件の異議申出事案を含む。
    ※2018年の新受事案のうち、同一の異議申出人による計1200件の異議申出事案を含む。

表5:綱紀審査申出事案処理の内訳(日弁連綱紀審査会)

新受 既済 未済
審査相当 審査不相当 却下 終了
2016 332 0 399 4 3 406 72
2017 376 35 246 6 0 287 161
2018 398 3 325 6 0 334 225


  • ※2017年の審査相当事案のうち、同種事案に関する議決32件を含む。

弁護士後見人等の不正に関する保証機関型信用保険制度の創設に向けて


日弁連は2月14日の理事会で、弁護士後見人等の不正に関する保証機関型信用保険制度の創設に向けた方針を確認した。


想定している保険制度は、後見人等を受任する弁護士を第三者機関が保証し、弁護士後見人等による横領があった場合に、第三者機関が被害者に保証限度額の範囲内で損害を弁済し、弁済額について保険会社から保険給付を受ける新しい仕組みである。
最高裁によれば2011年以降の弁護士後見人等の不正は、横領事案だけでも合計42件、被害額も約4億5300万円に上る。日弁連は各弁護士会に対し、2014年と2017年の2度にわたり事前対応策を中心とする5項目の後見人等不祥事対策の実施を要請し、既に各弁護士会では相応の対策がとられているところである。しかしながら、2016年に施行された「成年後見制度の利用の促進に関する法律」に基づき制度利用の増加が予想される中、事前対応策によっても防ぐことが困難なケースについて、被害者の救済を図り、人権保障の最後の砦である弁護士後見人に対する信頼を確実なものとする必要から、本保険制度の創設を目指すこととした。
日弁連は、弁護士後見人等の不正防止のため、各弁護士会・弁護士をあらゆる面で引き続きバックアップしていく所存である。本保険制度の創設と円滑な実施に向けて、ご理解・ご協力をお願いしたい。


(事務次長 奥 国範)

若手法曹のより積極的なチャレンジを応援する院内意見交換会
 2月7日 衆議院第一議員会館


2017年の裁判所法改正により修習給付金の支給が始まった。一方で、給付を受けなかったいわゆる谷間世代が存在する現状等を踏まえ、若手法曹が今後多様な分野に挑戦するための課題や施策に関する意見交換会を開催した。修習給付金を受けた71期の会員や貸与金返済が始まった新65期の会員の現状、谷間世代の公益分野における活躍などについて当事者から報告があり、出席した国会議員からは、若手法曹に対する期待と応援、谷間世代の救済など残された課題の解消のための努力について言及があった。
意見交換会には232人が出席した(うち国会議員本人出席26人、代理出席74人)。



シンポジウム
雇用形態による不合理な待遇を禁止する法律改正の概要と実務対応
 1月11日 弁護士会館


昨年の通常国会で、いわゆる働き方改革推進法が成立し、労働基準法を含む労働関連法が改正された。労働事件を扱う弁護士が、改正法の理解を深め、労働者や使用者に適切な助言ができるよう、雇用形態による不合理な待遇を禁止する法改正に焦点を当て、シンポジウムを開催した。


 神吉知郁子准教授(立教大学)は、働き方改革推進法の審議にあたり喧伝された「同一労働同一賃金」はスローガンに過ぎず、実際には、非正規労働者の不合理な待遇の禁止を意味する概念であることなどを解説した上で、残講演をする神吉准教授業時間の上限規制などの法改正の概要を説明した。
パネルディスカッションでは、まず、最高裁が2018年6月1日に出した労働契約法20条に関する2つの重要判例(ハマキョウレックス事件・長澤運輸事件)の内容を共有し、最高裁が、同条の「不合理と認められるもの」の認定に当たり、賃金総額ではなく個別の項目ごとに比較する手法を示したこと、定年後の再雇用は「その他の事情」として考慮されると明確に示したことを確認した。
水口洋介会員(第二東京)は、労働者側弁護士の立場から、不合理な待遇を主張する労働者としては、不合理性の判断の前提となる比較対象をどのように設定・主張するかが極めて重要だと述べた。基本的には正社員一般との比較を行うべきであるが、例えば形式的には同じく正社員でも、その中にほとんど配置転換がないグループが存在する場合には、そのようなグループとの比較・対照を行うべきだと指摘した。
木下潮音会員(第一東京)は、2つの最高裁判例は、いずれも運送業務に関する事例であり、正社員と非正規社員の職務内容の差が小さい業務に関するものであると指摘した。他方で、多くのホワイトカラーは、正社員と非正規社員とで業務内容やその責任の程度に大きな差があるため、労働契約法20条の不合理を認定するには困難を伴うはずであると使用者側弁護士の立場から述べた。



企業内弁護士最前線
 1月17日 弁護士会館


世界のforefrontから

 ~現場主義のサバイバルスキル~


法律事務所での勤務や海外留学を経て、2013年から伊藤忠商事株式会社法務部で活躍する渡部兼尚会員(第一東京/ニューヨーク州弁護士)を講師に迎え、本年度第4回目の企業内弁護士研修会を開催した。


渡部会員は、世界中のビジネスの現場で直面した問題に日々悩みつつ解決してきた経験を交えながら、企業内弁護士の醍醐味を語った。
―法務を担当する企業内弁護士は、当該企業が違法・不当な行為をしないように防ぐ「ガーディアン」としての役割がある一方、企業の営業部隊の思いを実現する手助けをする「パートナー」としての役割も期待されている。時には、営業部隊の方針が重大な法的リスクを含む場合など、2つの役割の両立が難しい場面に直面することもある。このような場合に、単にYes/Noを言うのではなく、冷静なFact Findingによる状況分析を行い、営業部隊と共に最前線で戦う心をもって、バランスの取れた解決策を模索していくことにこそ、この仕事の難しさと楽しさがある。また、時には判断材料が不足する中で方針を出すことが求められるが、霧の中でも進むべき道を照らすような役割が求められている。
法律事務所の弁護士と企業内弁護士との違いの一つは、法律事務所では、依頼者から提供された事実関係を前提として、それに依拠して意見を提供することが多いが、企業内弁護士は、多くの場合このような前提事実の限定はできず、自社に不利な内容を含め事実関係を漏れなく営業部隊から聴取して、最善の結果を求める必要がある点にある。また、企業内弁護士は、法律解釈の提供のみならず、自社の目的や文化、相手方との関係、社会環境を踏まえた戦略的アドバイスを提供することも必要である。―
質疑応答では、英文契約の研鑚方法や留学に対する考え方など、企業内弁護士としてのスキルや能力を上げるうえで有用な助言が多数なされた。



会員向け講習会
使える!法律扶助制度~活用のノウハウ~
 2月5日 弁護士会館


日本司法支援センター(以下「法テラス」)による民事法律扶助と日弁連委託援助事業について、それぞれの概要や利用手順、活用方法に関する会員の理解を深めるため、講習会を開催した。


法テラス本部民事法律扶助第一課長の杉岡麻子会員(東京)は、法テラスと民事法律扶助の概要のほか、2018年1月24日から始まった新たな援助の内容を説明した。(1)認知機能が十分でないため、自ら法的支援を求めることができないと思われる人(特定援助対象者)を対象とした①出張法律相談(法律相談援助)および②弁護士費用立替援助の対象の一部行政不服申立手続への拡大、(2)DV・ストーカー・児童虐待の被害者を対象とした法律相談援助の概要を説明し、(1)①の出張法律相談を実施するには福祉機関等からの申し込みが必要であることなどのポイントを解説した。
総合法律支援本部の亀井時子委員(東京)は、一定の要件を満たす場合の出張相談や相談時間内に本人名義の簡易な法的文書の作成を行う簡易援助など、市民にとって有用な制度を積極的に活用するよう訴えた。また、処理が困難な事件には弁護士費用の加算が認められる場合があるので、加算を要する事情を説明する意見書を添付するなどの工夫をしてほしいと述べた。
日本司法支援センター対応室の髙橋太郎室長(東京)は、日弁連委託援助事業の対象となる活動には、刑事被疑者弁護援助、少年保護事件付添援助のほかにも、犯罪被害者、外国人、子ども、高齢者・障害者・ホームレスなどさまざまな人を対象とする法律援助があるのでぜひ利用してほしいと訴えた。また、弁護士会によっては日弁連の援助費用に上乗せ等の加算をしている場合があるため、所属弁護士会のウェブサイトなども確認するよう呼びかけた。



国際活動に関する交流会
「今、地方で国際化 part2」~
 2月2日 弁護士会館


弁護士・弁護士会の国際化やそのための支援方策の在り方、課題等を検討するため、日弁連は昨年に引き続き国際活動に関する交流会を開催した。交流会には38弁護士会からの代表者など52人が参加し、テーマごとに実施したグループセッションでは、参加者同士が活発な意見交換を行った。


国際人権問題委員会の稲森幸一副委員長(福岡県)は、全国各地の弁護士が国際人権活動に取り組む必要性を訴え、外国人労働者に対する差別などの問題を扱うためにはILO諸規約や社会権規約など国際人権に関する知識や理解が必要であると述べた。グループセッションは5つのグループに分かれて行われた
中小企業の海外展開業務の法的支援に関するワーキンググループの和田圭介委員(愛知県)は、海外投資の増加に伴う英文契約書の作成や取引紛争に関する法的サービス、在留外国人の増加に伴う外国人からの相談や外国人労働者の労務管理など、中小企業の海外展開業務に対する法的支援の需要が高まっていると指摘した。また、愛知県の海外展開支援機関を紹介し、支援機関との連携は個々の弁護士ではできず、弁護士会がその役割を担うべきだと述べた。
国際交流委員会の小川晶露副委員長(愛知県)は、国際交流の効果と会員への還元をテーマに報告を行った。弁護士会による外国の法曹団体との交流や、国際業務支援団体との連携を通じて地域における国際業務の需要を喚起し、会員向け研修等の実施により需要に対応できるスキルの共有を図っていることを指摘した。
国際交流委員会の大塚芳典委員(福岡県)が釜山地方弁護士会(韓国)や大連市律師協会(中国)との交流協定を、菅野高雄委員(仙台)が桃園律師公會(台湾)との友好協定をそれぞれ報告し、国際交流活動をより充実させるため、日弁連や他の弁護士会、関係諸機関の協力や支援が不可欠だと強調した。
国際活動に関する協議会の鈴木五十三議長(第二東京)は、自身の経験を踏まえて地方弁護士会の今後の国際活動について講演し、交流会を締めくくった。



シンポジウム
医療の現場からみた「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの現状と課題」
1月26日 弁護士会館


日弁連は2017年10月の人権擁護大会で、性犯罪・性暴力被害者に総合的な支援を提供する病院拠点型ワンストップ支援センター(以下「病院拠点型」)を各都道府県に最低1か所設立すること等を求める決議を行った。2018年10月には全都道府県にワンストップ支援センターが設置されたが、病院拠点型は4分の1程度にとどまる。医療の現場からみたワンストップ支援センターの現状と課題を明らかにするため、シンポジウムを開催した。


病院拠点型である「性暴力救援センター・大阪(SACHICO)」の代表を務める加藤治子氏(産婦人科医師)は、基調報告で、被害直後の緊急避妊対策、性感染症の継続的検査と予防的投薬、証拠の採取と保管、精神科・外科・整形外科との連携などの性暴力被害者の支援は、産婦人科が中心になってこそ実効性が高まると、病院拠点型の意義を強調した。一方で病院拠点型の開設が困難な理由として病院の負担が大きいことを挙げ、拠点病院の要件、国の設置義務、財政的措置などを定めた性暴力被害者支援法の制定が不可欠であると訴えた。
続いて、全国54か所のワンストップ支援センターを対象に行ったアンケートの結果が報告された。病院拠点型は、治療やカウンセリングとの円滑な連携など被害者にとって利便性が高いが、拠点病院となる医療機関や産婦人科医の確保、資金面などの課題もあることが浮き彫りになった。
パネルディスカッションでは、加藤氏、宮地尚子氏(精神科医師/一橋大学大学院社会学研究科教授)、山本潤氏(性暴力被害者支援看護師/保健師/一般社団法人Spring代表理事)、望月晶子会員(東京)が登壇し、全都道府県に病院拠点型を設置する必要性、女性の医師や弁護士だけではなく男性も積極的にこのテーマに関わっていくことの重要性、克服すべき経済的な課題等について議論を行った。


JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.140

2018年度 日弁連の広報
「伝わる広報」を目指して


日弁連は2013年度から市民向け広報活動の充実・強化に努めており、会務執行方針でも「広報の充実」が重要課題に挙げられています。
2018年度は、新たな全国統一ポスター・クリアファイルの制作、タイアップ広告を含む雑誌広告の掲載、仕事体験テーマパーク「カンドゥー」への協賛、広報キャラクター「ジャフバ」の活用などを中核に据え、広報活動を展開しました。
本稿では、2018年度に日弁連が実施した広報活動を紹介します。
(広報室)



全国統一ポスター・クリアファイルの制作


武井咲さんのクリアファイルもリニューアル

武井咲さんを起用した全国統一ポスターの制作から3年が経過したことを受け、武井さんの新たなポスターを制作しました。2018年2月に策定した広報中長期戦略は、弁護士の敷居の高さを払拭し、弁護士の業務の増大を目指す基本方針を掲げています。この基本方針に沿って、キャッチコピーを「いつでも、どんなことでも、弁護士。」とし、弁護士がさまざまな場面で気軽に頼れる存在であることをアピールしています。鮮やかな暖色系のバックに日弁連のコーポレートカラーである青色の衣装をまとった武井さんがほほ笑むデザインには、人目を引く強い印象があります(1面PhoTopics参照)。
日弁連は、全国の都道府県庁・市区町村役場・公立図書館にポスターの掲出を要請しており、承諾を得られた施設に対しては順次、ポスターを送付しています。同時に、弁護士会の協力を得て、全国の裁判所、法務局、警察署、法テラス等の公的施設や、市民が利用するさまざまな施設にも、このポスターを掲出します。掲出期限は2019年12月31日です。
また、ポスターとは異なるポーズの武井さんの画像を使用したクリアファイルも制作しました。日弁連や弁護士会のイベント等での配布を予定しています。
さらに今回は、ポスターの制作に合わせて、日弁連ウェブサイト内にスペシャルサイトを設けました。弁護士が、学校・職場・家庭・経営・老後など、さまざまなライフステージで頼れる存在であることを伝え、弁護士への相談の契機となることを目指しています。



CM動画広告の継続


2016年度に制作した武井さんのCM動画を引き続き活用し、JR東日本・JR西日本・東京メトロの電車内ビジョンとYouTube TrueⅤiewで、それぞれ広告を実施しました。



中小企業経営者向け雑誌広告の掲載


雑誌広告(ひまわりほっとダイヤル)

全国で発売されているビジネス誌「プレジデント」「日経ビジネス」「日経トップリーダー」にタイアップ広告(記事風の広告)を掲載しました。事業承継、社内人材の活用、経営改善など中小企業経営者に身近な法律問題を取り上げ、弁護士への相談の必要性や有用性をアピールしました。
また、武井さんを起用した広告を「週刊東洋経済」「日経トップリーダー」に掲載し、「ひまわりほっとダイヤル」の周知を図りました。






仕事体験テーマパーク「カンドゥー」への協賛


カンドゥーで参加者に配る弁護士手帳と缶バッチ(ジャフバはつきません)

仕事体験テーマパーク「カンドゥー」に協賛し、2019年3月、子どもたちが弁護士の仕事を体験できるアクティビティを開設しました。「カンドゥー」は、千葉県のイオンモール幕張内にあり、3歳から中学生までの子どもやその保護者が、さまざまな職業を体験できる施設です。完全バリアフリーですので、祖父母も含めた3世代での来場が多く、特別支援学校の修学旅行先に選ばれることも多いそうです。
アクティビティでは、犯罪の疑いをかけられた被疑者・被告人を救うべく、証拠を収集したり刑事裁判で弁護人として活動したりします。ここでの体験を通して、多くの子どもたちに弁護士の社会的役割を理解してもらい、弁護士を将来の職業選択の候補にしてもらうことを目指しています。


 

ウェブサイト改修の着手


日弁連のウェブサイトは、現状、複雑な階層の中に膨大な情報が掲載され、必ずしも利用者が求める情報に容易にたどりつける構造にはなっていません。
ウェブサイトの情報発信手段としての重要性に鑑み、2019年度に一般ページの大規模なリニューアルを予定しています。2018年度は、リニューアル方針の確定と改修を担う業者の選定を行いました。



弁護士会との連携強化


2018年度も、弁護士会の広報担当者が一堂に会する全国広報担当者連絡会議を開催しました。
今回は、外部講師を招いてSNSを活用した広報に関する研修を実施した後、弁護士会を規模別に4つのブロックに分け、マンパワーや予算などの実情を踏まえた情報共有・意見交換を行いました。
今後も弁護士会の意見に耳を傾け、弁護士会と連携して、よりよい広報活動につなげていきます。



マスメディアとの交流


2018年度も、司法・法曹記者クラブとの定期的な懇親会(通称「居酒屋日弁連」)を開催しました。旧優生保護法国賠訴訟、新しい外国人労働者の受入れ制度、人質司法をテーマに取り上げ、各テーマに取り組む会員をゲスト講師に迎えました。毎回多くの報道関係者の参加を得て、弁護士や日弁連・弁護士会の活動への理解を深めてもらう貴重な機会となりました。



日弁連広報キャラクター「ジャフバ」の活用


2017年度末、日弁連広報キャラクター「ジャフバ」のツイッターとインスタグラムのアカウントを開設しました。2018年度は、これらを本格運用し、毎日情報を発信しています。
また、2017年度にリニューアルして軽く扱いやすくなった「ジャフバ」の着ぐるみは、人権擁護大会をはじめとする日弁連・弁護士会のさまざまなイベントに参加しました。全国各地でたくさんの市民と触れ合い、「えがお推進部長」の職責を果たしています。



「ひまわりお悩み110番」「ひまわり相談ネット」の広報
(日弁連公設事務所・法律相談センター)


「法律相談ムービー ハラスメントA面・B面」と題し、2017年度に引き続き法律相談センターにおける相談件数の増加を目標に、ウェブ動画を制作しました。
時短勤務者と中間管理職との間で起きた出来事を双方の視点で描いており、2018年12月5日から1年間限定で、日弁連ウェブサイトで公開しています。
さらに、PR会社と連携して、ウェブ広告やPRで動画を拡散することで、法律相談センターの広報・周知を行っています。



「ひまわりほっとダイヤル」の広報 (日弁連中小企業法律支援センター)


事業再生や創業等の分野に特化した市民向けパンフレットを作成し、「ひまわりほっとダイヤル」のチラシとともに配布しているほか、フェイスブックで弁護士の中小企業支援に関する広報を行っています。
また、「ひまわりほっとダイヤル」の知名度と相談数の向上に向けて、相談が多い売掛金回収の特設ページを制作し、リスティング広告を実施したほか、広報室と連携して雑誌広告を実施しました(掲載終了翌月は、前年同月比で約20%相談数が増加)。



ブックセンターベストセラー
(2018年12月・手帳は除く) 協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名・発行元名
1 民事反対尋問のスキル−いつ、何を、どう聞くか? 京野哲也 編著 ぎょうせい
2 有斐閣判例六法Professional 平成31年版 宇賀克也・中里 実・長谷部恭男・佐伯仁志・酒巻 匡 編集代表 有斐閣
3 詳解 相続法 潮見佳男 著 弘文堂
4 相続道の歩き方 中村 真 著 清文社
5 Q&A 改正相続法のポイント 日本弁護士連合会 編 新日本法規出版

6

模範六法2019 平成31年版ガイド 判例六法編修委員会 編 三省堂

7

新制度がこれ1冊でわかる Q&A 改正相続法の実務 東京弁護士会法友会 編 ぎょうせい
8 裁判員裁判において公判準備に困難を来した事件に関する実証的研究 司法研修所 編 法曹会
9 こんなところでつまずかない!破産事件21のメソッド 東京弁護士会親和全期会 編著 第一法規
10 残業代請求の理論と実務 渡辺輝人 著 旬報社



海外情報紹介コーナー④
Japan Federation of Bar Associations

報酬開示による透明性向上


英国の事務弁護士(ソリシター)を管理するソリシター規制局は2018年10月、法律サービスの透明性を高めるため、ソリシターに対して、ウェブサイト等に一部業務の報酬額を明示するよう求める規則改正を行った(2018年12月施行)。
対象は、不動産譲渡、交通事故、労働審判、入国管理、債権回収(10万ポンド以下)などの業務である。情報はウェブサイトの目立つ場所に掲載するものとされ、ウェブサイトがない場合には依頼者のリクエストに応じて書面などで提供する。
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(国際室嘱託 津田顕一郎)