日弁連新聞 第538号

第61回 人権擁護大会開催
10月4日・5日  青森市

10月5日、青森市において、第61回人権擁護大会を開催した。約1100人の会員が参加し、「新しい外国人労働者受入れ制度を確立し、外国にルーツを持つ人々と共生する社会を構築することを求める宣言」、「特殊詐欺を典型とする社会的弱者等を標的にした組織的犯罪に係る被害の防止及び回復並びに被害者支援の推進を目指す決議」、「若者が未来に希望を抱くことができる社会の実現を求める決議」を採択した。
大会前日には、これらに関連して3つのシンポジウムを開催し、計1400人を超える会員・市民の参加を得た。次回大会は、徳島県で開催される。

(2面に各シンポジウムの記事)



新しい外国人労働者受入れ制度を確立し、外国にルーツを持つ人々と共生する社会を構築することを求める宣言

大会の様子人権保障に適った外国人受入れ制度と多文化の共生する社会を構築するため、国や地方自治体に対し、①技能実習制度を直ちに廃止し、非熟練労働者受入れのための制度を構築するに際しては、職場移転の自由を認めるなど人権保障に適ったものとし、差別の禁止を徹底するなどして外国人労働者全般の権利を保障すること、②日本語教育、医療、社会保障等のサービスや法律扶助制度等へのアクセス改善、長期の在留資格や在留特別許可に係る法令の要件の緩和と明確化、差別禁止の法整備などを行うこと、③これらのための基本方針を定める法律や地方自治体・所管省庁の体制を整備することを求め、日弁連も、これらの施策の実現に向けて全力で取り組むと宣言した。


特殊詐欺を典型とする社会的弱者等を標的にした組織的犯罪に係る被害の防止及び回復並びに被害者支援の推進を目指す決議

特殊詐欺被害者が享有すべき「個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利」(犯罪被害者等基本法第3条)を実質的に保障するため、国・地方自治体や企業その他の関係諸団体に対し、①特殊詐欺被害の防止のための取組強化、②捜査態勢の拡充と、適正な捜査手続に基づく可能な限りの捜査・取締りの推進、③実効性のある被害回復制度の構築、④被害者が実効的に被害回復を行うことができる法制度の導入の検討、⑤被害回復のための国際的連携の強化、⑥特殊詐欺に係る対策の基本計画の策定と、官民一体の対策推進を求めることを決議した。
また、日弁連も、関係各所と協働し、被害の防止・回復や被害者支援に全力を尽くすとした。


若者が未来に希望を抱くことができる社会の実現を求める決議

若者が自分の人生や生き方を自己決定できる機会を保障し、未来に明るい希望を抱ける社会を実現するため、国や地方公共団体に対し、①高等教育までの全ての教育の無償化、給付の拡充、最低賃金水準の引き上げや同一価値労働同一賃金の実現、失業時の所得保障および職業訓練制度の抜本的充実、公営住宅の増設と家賃補助制度の新設、窓口負担のない税方式による医療・介護・障害福祉サービスや最低保障年金制度の構築により普遍主義の社会保障制度・人間らしい労働と公正な分配を実現すること、②互いに租税を負担し連帯して支え合うことへの国民的合意を形成した上で、租税負担の公平性を高めつつ、社会保障制度の税財源を強化することなどを求めると決議した。
また、日弁連は、これらの実現に向けて積極的に関与していくとした。


事業活動報告と特別報告

本年7月の豪雨災害に対する支援、少年法適用年齢引下げへの反対など、2017年度下期から2018年度上期までの人権擁護活動について報告した。
また、再審事件の動向と支援活動について特別報告を行った。



 

IBA年次大会
10月7日〜12日 イタリア・ローマ

IBA(国際法曹協会)は1947年に設立され、160以上の国と法域の190を超える弁護士会、8万人超の個人会員を擁する世界最大の国際法曹団体である。年次大会の期間中は、人権、公益活動、ビジネス法、弁護士業務等の幅広い分野のセッションと数多くのレセプションが実施され、参加者の研さんや交流が活発に行われた。


若林茂雄副会長をはじめとする日弁連の代表団は、各種会議への出席のほか、英国やドイツの弁護士会、LAWASIA(アジア太平洋法律家協会)やPOLA(アジア弁護士会会長会議)などの国際法曹団体との間で、通信秘密の保護に関する各国の情勢や法の支配に対する脅威との闘いに関する活動などについて情報・意見交換を行った。
10月10日には在イタリア日本大使館との共催でレセプションを開催し、外国弁護士会や国際法曹団体などの代表者に臨席いただいた。
IBAでは、法律業務、弁護士会や法曹の在り方に関するさまざまなガイドラインを策定し、ベスト・プラクティスを提供することも活発に行われている。今年の理事会では2011年に制定された「法曹のための国際的行動原則」の改訂が決議された。
来年2月には東京でIBAアジア・パシフィック・フォーラムの大会が、9月には韓国のソウルで年次大会が開催される。会員の皆さまにはぜひ積極的に参加いただき、国際交流を身近に感じていただきたい。


(国際室室長 松井敦子)



第9回
人権関連委員会委員長会議
10月3日 青森市

本会議は、日弁連の人権関連の委員会・ワーキンググループ(WG)の代表者が「人権のための行動宣言2014」に掲げられている人権諸課題への各委員会・WGの取り組み状況を確認し、情報共有と意見交換を行い、日弁連の人権擁護活動を推進することを目的としている。
2010年から人権擁護大会に合わせて開催されており、今回は46の委員会・WGの代表者と日弁連執行部を含む計66人が出席した。


会議当日は、人権諸課題への各委員会・WGの取り組み状況に関する事務局からの報告が行われたほか、民事裁判手続等のIT化に関する検討WGから民事裁判手続のIT化に関する検討状況と課題が、憲法問題対策本部から憲法改正問題の状況が報告された。
また、今回も分科会に分かれて議論・意見交換が行われた。
第1分科会では「LGBTの問題への取組み」をテーマに、性的マイノリティに関する多岐にわたる人権問題について、日弁連の関連委員会の取り組み状況の確認と意見交換を行った。
第2分科会では「刑事弁護の現代的課題〜改正刑事訴訟法を踏まえて」をテーマに、刑事弁護における現在の課題を確認し、改正刑事訴訟法施行後の刑事弁護の在り方や刑事関連委員会の連携について検討した。
第3分科会では「条約機関の勧告と人権諸課題の実現への日弁連の取組み」をテーマに、条約機関等の勧告に関して、日弁連から条約機関等に効果的・効率的な意見提供を行うための具体的方策や勧告内容を実現するための活動について検討した。

◇    ◇


(人権行動宣言推進会議 事務局長 秋山 淳)

 


ひまわり

日本女性法律家協会(女法協)は、1950年に女性法律家(法曹三者と法律学の学者)で構成される団体として設立され、現在の会員数は約900人になるそうだ▼日本で初めて女性弁護士3人が誕生したのは1940年(昭和15年)に遡るが、現在の弁護士総数に対する女性の割合は、約18.7%に過ぎない。今後の展望を見ても、今年の司法試験合格者の女性割合は、24.59%と多くない▼日弁連と女法協共催の「女性弁護士交流Party」が人権擁護大会の前日に青森市で開催され、参加する機会を得た。交流は和やかに進み楽しく過ごすことができたが、圧倒的に女性が多い中、男性参加者として、仮にセクシュアル・ハラスメント(セクハラ)があれば、これに対して拒絶的な対応をとることが容易ではない人の気持ちが少しだけ理解できたような気がした▼日弁連は毎年、司法修習生の就職活動において、弁護士がセクハラをしないよう要請している。セクハラの原因の一つには「アンコンシャス・バイアス」(無意識の偏見)があると思われ、要請や研修を受けても自分は無関係と思いがちだ▼自分がどのようなバイアスを持っているかは分かり難い。まず自らにあるバイアスを探り、それを払拭する努力から始めることとしよう。

(M・K)

 


人権擁護大会シンポジウム
10月4日 青森市

第1分科会
 「外国人労働者100万人時代」の日本の未来
 人権保障に適った外国人受入れ制度と多文化共生社会の確立を目指して


日本の外国人労働者は昨年10月には127万人を超え、増加の一途をたどっているが、外国人の受入れ制度や人権保障などには課題が山積している。
本分科会では、さらなる外国人労働者の増加を見据え、あるべき外国人受入れ政策と多文化共生のための施策について議論した。


外国人労働者を「人」として受け入れる

宮島喬名誉教授(お茶の水女子大学)が基調講演を行い、欧州の外国人受入れ政策に触れつつ、日本でも正面から外国人労働者を受け入れる必要があると指摘した。また、外国人労働者を「人」として受け入れるため、民事的権利や教育・医療などの社会的権利を保障し、国の予算で統合政策を実現すべきと訴えた。


人権保障に適った外国人受入れ制度とは

技能実習制度に関し、法令違反や人権侵害を生む構造、中間搾取などの問題点が解説された。基調講演を行う宮島名誉教授技能実習生のビデオレターや鳥井一平氏(NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク代表)による強制帰国等の報告では、技能実習生が直面する人権侵害の実態が明らかにされた。日本政府が「骨太の方針2018」で示した新たな外国人受入れ制度の概要や問題点も報告された。
パネルディスカッションでは、木村義雄参議院議員(自由民主党外国人労働者等特別委員会委員長)と井上隆氏(経団連常務理事)が、労働力不足や世界の人材獲得競争への対応が不可欠だと述べた。人権保障に適った受入れのため、石橋通宏参議院議員(立憲民主党・同外国人受け入れ制度及び多文化共生社会のあり方に関する検討PT座長)は二国間条約や日本側のコスト負担が必要だと指摘し、村上陽子氏(日本労働組合総連合会総合労働局長)は政府による賃金基準の策定が必要だと指摘した。佐々木聖子氏(法務省大臣官房審議官)、木村議員、鳥井氏はそろってブローカー排除の必要性を指摘した。


多文化共生社会の確立に向けた取り組みを広げる

ドイツやスウェーデンの調査結果、差別や国籍・在留など日本国内の政策課題が報告されたほか、長南さや佳氏(マルメ大学移民政策研究所)からはスウェーデンの移民社会統合政策が報告された。外国につながる子どもの教育に関連して、渡辺マルセロ氏(行政書士)らが来日外国人の悩みなどを語るビデオレターが上映された後、北川裕子氏(のしろ日本語学習会代表/秋田県地域外国人相談員)が日本語教育の実践を、松岡真理恵氏(公益財団法人浜松国際交流協会主幹)が不就学ゼロを目指す取り組みを、角田仁氏(東京都立一橋高等学校定時制教員)が高校教育における課題と対応状況をそれぞれ報告した。
パネルディスカッション「共生のためにどのような施策・活動が必要か」では、これらの報告者と宮島名誉教授の6人が登壇し、国の財政負担で各取り組みを進めるべきことなどについて活発な議論を行った。



第2分科会
 組織犯罪からの被害回復
 特殊詐欺事犯の違法収益を被害者の手に


特殊詐欺が社会に甚大な被害をもたらしているが、特殊詐欺は手口が巧妙で被害回復も困難な場合が多い。
本分科会では、特殊詐欺の被害者を救済するために何をすべきか、被害者の人権擁護のために弁護士は何をなすべきかについて議論した。


特殊詐欺の深刻な被害実態

第1部のパネルディスカッションでは特殊詐欺の被害実態が明らかになった 辰野文理教授(国士舘大学法学部)が基調講演を行い、栗田政彦氏(青森県警察生活安全企画課犯罪抑止対策係警部)、名越陽子会員(愛知県)らが加わりパネルディスカッションを行った。特殊詐欺被害は、認知件数1万8212件、被害総額約394.7億円(いずれも2017年)と依然高い水準にあり、被害者のうち65歳以上の割合が多いとの実態が示された。被害に遭っても家族に知られたくないと被害を申告しない例も多く、実際の被害はさらに多いと推測される。犯行グループは徹底した分業制をとり、さまざまなツールを駆使するなど巧妙化する手口により被害の防止や回復が困難になっているとの説明があった。また、家族から責められることを恐れ、自分自身を責める被害者の声も紹介された。これらの特殊詐欺被害の防止のために家族や地域社会全体で見守る体制が必要であるとの意見が述べられた。


行政・民間企業の各種取り組み

被害防止のための活動として、①留守番電話の活用、②防犯機能を備えた電話用機器の活用、③広報・啓発、④金融機関による声掛けや警察への通報、⑤金融機関によるATMの利用制限、⑥地域における見守り活動などの対策を講ずる必要性が指摘された。被害防止には、民間企業の自助、業界団体の共助、行政の公助が必要であり、犯行手口の進化に応じた対策が必要であるとの指摘もあった。


特殊詐欺に対する捜査の現状

特殊詐欺の捜査手法の一つであるいわゆる「騙された振り作戦」による検挙は、特殊詐欺犯の全検挙人数の約40%を占め、大きな効果を上げていることが報告された。一方で、首謀者の検挙に至る例が少ないとの問題に関し、検挙者を端緒とした突き上げ捜査や資金の流れを追及する金融捜査の重要性が指摘された。


有効な被害回復方法の検討

樋口亮介教授(東京大学大学院法学政治学研究科)らによるパネルディスカッションでは、特殊詐欺の被害回復の方法について、スイス・米国・ドイツが採用している被害者の民事上の請求権の行使を国家が援助する方法、国家が犯人から違法収益を没収して被害者に分配する方法が紹介された。日本では被害回復給付金制度などの現行制度で被害が回復されるケースは少なく、より有効な被害回復方法を検討する必要があるとの意見が述べられた。



第3分科会

 日本の社会保障の崩壊と再生
 若者に未来を


2012年の社会保障制度改革推進法の制定以後、社会保障抑制策が矢継ぎ早に行われている。
本分科会では、日本の社会保障制度の在り方について国民的議論を展開するため、日弁連として若者のニーズに応じた給付の保障を含めた社会保障のグランドデザインを示し、若者が未来に希望を抱くことができる社会を実現するための議論を行った。


日本社会の課題にどう立ち向かうか

本田由紀教授(東京大学大学院教育学研究科)は基調講演の中で、貧困と格差が広がる状況や、家庭の経済力が進学率に反映し、格差が世代を越えて温存されてしまう問題を明らかにした。社会保障も経済も教育も破綻だらけであり、日本社会のシステムを抜本的に変えることが求められていると熱く論じた。
阪田健夫会員(兵庫県)は基調報告で、基本的人権の理念に立ち返り、本人の拠出を要件とせず対象を低所得者に限定しない、必要な人に必要な給付(現物・現金)を普遍的に行う「普遍主義」をベースとした社会保障と労働のグランドデザインを示した。財源は、所得再分配機能を果たす税制によるべきと提言した。


「学費は大学まで無償、進路は何度でも選び直しができる」と語るスウェーデンの若者
若者未来サミットin青森

若者たちによるパネルディスカッションで、日本の若者からは、多くの大学生が生活費の不足を補うため平日もアルバイトに追われる現実、受験や就職活動はチャンスが一度きりで「絶対に失敗できない」思いが強く働き、興味・関心より安定を求めて進路を選択してしまう悩みなどが語られた。スウェーデンの若者からは、学費は大学まで無償であり、進路についても何度でも選び直しができるとの発言があり、社会保障制度の違いによって、若者のありようにも大きな違いが生じることが浮き彫りとなった。


社会保障と労働のグランドデザインを考える

パネルディスカッションで、諏訪原健氏(元SEALDsメンバー)は、自身の経験を踏まえ、若者が社会の入口でつまずかないよう給付を充実させることが必要だと述べた。
普遍主義的社会保障政策実施のための財源について、後藤道夫名誉教授(都留文科大学)は、社会保険料に対する雇用主や政府の負担をEU諸国並みに引き上げる必要性を指摘した。井出英策教授(慶應義塾大学経済学部)は、大学・医療・介護・障害者福祉などを完全無償化するには7%強の消費税増税が必要になるが、この7%を負担することで、何があっても安心して暮らせる社会を作ることができるとの視座を示した。




第28回司法シンポジウム
司法における国民的基盤の確立をめざして
司法を強くする4つの取組から考える
9月29日 弁護士会館

法の支配をテーマとした前回の司法シンポジウムでは、「司法の国民的基盤」の重要性が浮き彫りになった。これを踏まえた今回は、司法の国民的基盤を強くするための具体的な4つのテーマを取り上げて議論を行い、約370人の参加を得た。


第1部 具体的な取組から考える
―市民と司法がつながる取組―


弁護士任官を進める

第28回司法シンポジウム運営委員会の河野匡志事務局次長(東京)から、弁護士任官者の活躍を紹介する映像の上映とともに、制度の概要について報告があった。水野邦夫委員(東京)は、自らの任官経験を踏まえ、日々の事件に一つ一つ誠実に取り組んでいる弁護士ならば裁判官として活躍できる、そのような人にぜひ手を挙げてほしいと語った。湯川二朗委員(京都)と中村元弥事務局次長(旭川)は、常勤裁判官への任官が進まない現状を指摘し、任官支援事務所の拡充など環境整備の重要性を訴えた。


司法参加を広げる

森岡かおり事務局次長(第一東京)の基調報告に続いて、裁判員経験者らによるパネルディスカッションを行った。高橋博信氏(裁判員経験者)は、人の人生を左右することの重さを痛感したと振り返った。小野麻由美氏(裁判員経験者)は、裁判員の辞退率が高い理由の一つに知らないことへの不安があると指摘し、経験者が積極的に情報を発信することの重要性を訴えた。飯考行教授(専修大学法学部)は、守秘義務の緩和・範囲の明確化が今後の課題であるとした。


法教育に取り組む

市民のための法教育委員会の野坂佳生委員長(福井)が高校生模擬裁判選手権(以下「模擬裁判」)の概要を説明した後、模擬裁判参加経験者によるパネルディスカッションを行った。谷嶋弘修氏(内閣官房副長官補付主査)は、模擬裁判での経験は現在の仕事にも通じる部分があると述べた。石川夏子氏(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻博士課程)は、一つの事件の弁護側と検察側双方の立場に立ったことは貴重な経験だったと語った。また青木佑馬会員(大阪)は、模擬裁判への参加を通じ仕事の内容を具体的にイメージできたと述べた。


市民と司法をつなぐ

平野潔教授(弘前大学人文社会科学部)は、司法実務を調査しその結果を市民に発表する授業等を通じ、学生が司法を身近に感じるようになっていく過程を語った。水無保乃香氏(弘前大学学生)は、シドニーでの市民の司法アクセスに関する研究等に基づき、日豪の司法アクセスへの法的支援等の違いを指摘した。川名壮志氏(毎日新聞社編集編成局社会部記者)は、市民と司法をつなぐには司法手続を市民に浸透させる必要があると述べた。その上で、地方支局の記者の減少や弁護士の増加に伴い、弁護士とマスメディアが信頼関係を築くことが難しくなり、司法について報道されにくい状況が生じていると問題点を突いた。



第2部 市民が支える司法をめざして

パネルディスカッション(第2部)の様子パネルディスカッションで曽我部真裕教授(京都大学大学院法学研究科)は、司法が国民的基盤を有するためには、司法の役割に対する国民の理解と支持が重要だが、これらが十分には得られていないと問題を提起した。裁判所が批判を恐れて判断に消極的になれば、国民の司法への関心が失われ、国民的基盤の構築を阻む要因となり得ると訴えた。
宮川光治会員(東京/元最高裁判所判事)は、法廷でのカメラ取材は極めて短時間に制限されているが、特に価値判断が問われるような裁判をテレビやインターネットを通じて公表し、国民に議論の場を提供することが、司法の国民的基盤構築に資するのではないかと提案した。
豊秀一氏(朝日新聞編集委員)は、国民的基盤の観点から司法の位置付けを考えるに当たり、政治と司法は切り離せないにもかかわらず、政治部でなく社会部が最高裁判所を担当する理由を問われハッとしたことがある。今後も法曹の論理に拘泥しないよう自覚して報道に携わりたいと述べた。

 



シンポジウム
なぜ、女性差別撤廃条約選択議定書の批准は必要か
パトリシア・シュルツ国連女性差別撤廃委員会
個人通報作業部会長と考える
10月2日 弁護士会館

女性差別撤廃条約選択議定書(以下「選択議定書」)は2000年に発効し、現在109か国が批准しているが、日本はいまだ署名も批准もしていない。パトリシア・シュルツ氏(国連女性差別撤廃委員会個人通報作業部会長)を招き、選択議定書批准の必要性や日本の現状等について考えた。


シュルツ氏は講演の中で、女性差別撤廃条約違反による権利侵害について条約機関に直接通報し、救済措置を求める手続(個人通報制度)は、本体条約ではなく選択議定書に定められている、権利を侵害された者に救済手段がなければ条約の実効性はおぼつかないと指摘した。また、国連女性差別撤廃委員会(以下「委員会」)の批准勧告に対して、日本が司法権の独立等を理由に慎重な態度をとっていることに関し、選択議定書を批准して委員会が司法の行為を事後的に審査する可能性を受け入れることは司法権の独立の侵害にはつながらないと述べた。その上で、日本が人権保障のため必要であるとして司法の行為の外部審査を認める決意を表明することは、日本だけでなくアジア地域全体にとって非常に重要であり、国際社会に対する強いメッセージになると訴えた。
パネルディスカッションでは、コーディネーターの山下泰子名誉教授(文京学院大学)が、委員会での議論を中心に日本の選択議定書批准に向けた動きを説明した。自由権規約個人通報制度等実現委員会の大川秀史事務局次長(東京)は個人通報制度実現に向けた日弁連の活動状況を、柚木康子氏(日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク共同代表世話人)は選択議定書批准に向けたNGOの活動を報告した。その後、会場で参加していた林陽子委員会委員(第二東京)が山下名誉教授の求めに応じて日本が選択議定書を批准した場合に救済可能性があると考えられる事例についてコメントしたほか、他の参加者からも既に批准している国の状況や個別の通報事例に関する質問があり、活発な討論が行われた。

 



第4回
いじめ問題第三者機関委員経験交流集会
10月12日 弁護士会館

2013年9月のいじめ防止対策推進法施行から5年が経過し、いじめの重大事態調査のための第三者委員会が設置される例が増えている。いじめの認定や調査報告書の取りまとめについて、弁護士の役割に大きな期待が寄せられ、自治体等から日弁連・弁護士会に委員の推薦依頼も多数なされるようになった。今後も社会の要請に一層応えていくため、第三者委員会委員の経験者や候補者による経験交流・意見交換の場として、本集会を開催した。


子どもの権利委員会いじめ問題対策チームの委員から、本年9月に公表した「いじめの重大事態の調査に係る第三者委員会委員等の推薦依頼ガイドライン」に関し、適正な報酬の確保など自治体等が推薦を依頼する際に考慮されたい事項を示したことなどが説明された。第三者委員会の運営・調査上の問題点についても、過去3回の集会で議論された論点を整理して報告された。
基調報告では、中学生の自殺事案の第三者委員会に関わった会員から報告がなされた。いじめによる心身の苦痛の評価は精神科医や心理士が行うなど、各委員の専門性に沿った効果的な協働を図るべきこと、公表後の調査報告書を活用した、加害者がいじめに向き合うための教育的な働きかけが大切であることなどが指摘された。
パネルディスカッションでは、自殺事案や不登校事案の第三者委員会委員を経験した3人の会員がパネリストに加わり議論した。「中立性・公平性」とともに被害者に寄り添うことも求められる第三者委員会における、遺族に対する委員会の調査等の進捗状況報告や報告書の事前開示等の工夫など、信頼関係を形成するための努力について報告や意見交換がなされた。また、長期間が経過した事案では生徒への聴取ができないなど調査に限界があるため、早期に第三者委員会を立ち上げる必要性が指摘された。いじめの認定の仕方、いじめと自殺の因果関係の判断の在り方、さらには調査報告書に聴取結果をどこまで記載すべきかなど、実践的な課題について意見交換がなされた。

 



取調べの全件可視化を求める市民集会
もっと早く可視化されていれば…
なぜ彼らは問題の自白をしたか
9月25日 弁護士会館

2016年の刑事訴訟法改正により、来年6月までに取調べの録音・録画が義務化される。しかし、その対象事件は公判請求全事件の3%弱に過ぎない。改正法の対象事件だけでなく、全事件での可視化が必要であることを明らかにするため、市民集会を開催した。


当事者が語る取調べの実態

足利事件の当事者である菅家利和氏が、同事件で再審弁護人を務めた泉澤章会員(東京)のインタビューに答える形で、虚偽自白に追い込まれた日の様子を語った。ある朝突然、家を訪ねて来た刑事から犯人だと決めつけられ、否定したら突き飛ばされたこと。そのまま警察署に連れて行かれ、狭い取調室の中で、刑事から蹴飛ばされたり、髪を引っ張られたり、耳元で叫ばれたりと暴力的な取調べを受けたこと。休みなく続く取調べに、ついに「私がやりました」と応じたら逮捕され、その後は暴力を振るわれなくなったこと。
菅家氏は、「本当はやっていない」と言えば再び暴力を振るわれるのではないかとの恐怖から、なかなか本当のことを言い出せなかったと語った。


全件・全過程の可視化が必要

菅家氏は虚偽自白に追い込まれた日の様子を語ったパネルディスカッションで浜田寿美男名誉教授(奈良女子大学)は、取調官が、目の前の被疑者を有罪だと決めつけて取調べをしてしまうことに大きな問題があると指摘した。被疑者は、取調官が全く聞く耳を持たないと、大きな心理的ダメージを受け、虚偽自白に陥ってしまう。取調べの可視化は、被疑者が無実である可能性を踏まえた取調べが行われているかどうかの検証に役立つと語った。
小坂井久会員(大阪)は、検察官・警察官の取調べにおける録音・録画の実施状況を報告して、未実施の事件が大多数に上ることを明らかにし、全件可視化の必要性を訴えた。さらに、取調べの全過程ではなく一部を録画しただけでは、その場面の印象だけが独り歩きするリスクがあると指摘し、取調べの全過程が可視化されることは、最低限のセーフガードになると強調した。



 

JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.137

もっと知りたい!
弁護士国民年金基金

日本弁護士国民年金基金は、本年8月に設立28年目を迎えました。弁護士や法律事務所で働く方にとってメリットの多い弁護士国民年金基金(以下「年金基金」)の制度について、小田修司理事長(第一東京)と柳志郎常務理事(第二東京)にお話を伺いました。

(広報室嘱託 木南麻浦)

 


制度の概要やメリットは

年金基金は、国民年金の第1号被保険者である弁護士と弁護士の業務を補助する方のための年金制度で、国民年金に上乗せする確定給付型の公的な年金制度です。確定給付型とは、将来受け取る年金額が確定しているという意味です。ちなみに、確定拠出型とは、現在払い込む掛金が確定していて、将来受け取る年金額は確定していないという意味です。
国民年金法に基づき運営されている年金で、公的年金制度と同様に、掛金は社会保険料控除、年金は公的年金等控除の対象となるのが大きなメリットです。
また、終身で年金を受け取れるのもポイントです。超高齢化社会に突入する日本社会にあって、終身で受け取れるタイプの公的な年金制度は非常に少ないのです。


加入者層や加入率は

30〜40代で新規加入される方が多いです。弁護士経験年数でいうと10〜15年程度で加入を検討するイメージでしょうか。
20代の加入率は10%未満です。弁護士登録間もない時期は、老後の心配よりも今の生活が優先で、なかなか年金基金までは意識が回らないようです。収入がそれほど多くなければ、払った掛金が全額社会保険料控除の対象になると言われてもぴんとこないのかも知れません。
全体の加入率としては60歳未満の弁護士登録者数全体の約30%とまだまだ低いです。加入率をアップすべく、皆さまに年金基金の良さをアピールしていきたいと思っています。


おすすめの活用方法は

柳志郎常務理事 若手世代の方々には、まずは1口でいいので1日でも早く加入していただきたいです。早く加入すればそれだけ低い掛金で充実した給付が受けられることになります。増口は後でも可能です。いつかはやってくる将来のために早めの加入をおすすめします。
中堅世代の方々には、実はこの世代で加入される方が一番多いので、加入を躊躇されている方がいらしたら「今からでもまったく遅くありません」と申し上げたいです。1口目を減口することはできませんが、2口目以降の増減口は自由です。手続を完了した2か月後から掛金が変更になりますので、大きな案件が解決して収入が多くなることが分かっている年には増口し、翌年以降は減口するといった使い方も可能です。生計を一にする配偶者の掛金全額が支払った方の社会保険料控除の対象になる点も見逃せません。
ベテラン世代の方々には、平成25年4月に新設された60歳以上65歳未満の国民年金の任意加入被保険者が加入できる特定加入員制度をご案内したいと思います。こちらも掛金全額が社会保険料控除の対象になる点に魅力を感じていらっしゃる方が多いようです。


他の年金制度との違いは

小田修司理事長

弁護士が加入できる年金制度には、弁護士特有の制度として年金基金のほか弁護士互助年金がありますし、一般の制度としては確定拠出年金(iDeCo)、小規模企業共済、その他の個人年金があります。年金基金では、加入資格・受給期間・途中解約の可否・加入限度額・所得控除の種別や限度額の異同を一覧表にしたパンフレットを作成していますので、ぜひ参考にしてください。
他の制度と比較してみると年金基金のメリットをよく分かっていただけるのではないでしょうか。


会員の皆さまへ

年金基金は、皆さまからお預かりした掛金をできる限り年金会計に組み入れるため、費用をかけての広報・宣伝や生命保険会社を窓口としたご案内を行わず、口コミで広めていただいているのが実情です。若手会員が急速に増加する中で、効果的な広報活動を行って年金基金の良さを多くの方に知っていただくことは今後の重要課題と考えています。
今年度は、国民年金基金連合会において5年に一度の財政再計算が行われており、平成31年4月1日以降は掛金が変更になる可能性が高いです。会員の皆さまには、この機会にぜひ年金基金への加入をご検討いただきたいと思います。



 

続・ご異見拝聴 (5)

■ 清原慶子 日弁連市民会議委員 ■


今回は、2003年12月から日弁連市民会議の委員を務めていただいている清原慶子氏にお話を伺いました。
清原氏はメディア学の研究者であり、2003年4月から東京都三鷹市長を務められています。

(広報室嘱託 大藏隆子)

 


国民の代表として司法に関わる

清原慶子委員


私は2002年2月から、司法制度改革推進本部の裁判員制度・刑事検討会の委員を務めていました。裁判員裁判の骨格について、「裁判官3人・裁判員4人」案や「裁判官1人・裁判員11人」などの案が議論される中、私はひとり「裁判官3人・裁判員6人」案を提案しました。法律の素人である裁判員が裁判官と対等に議論するには倍の人数が必要だろう、しかし11人では多すぎると考えたからです。検討会のメンバーはほとんどが学者・実務家など法律の専門家でしたが、私は法律に関しては素人でした。だからこそ、国民の代表として意見を述べようと意識して検討会に参加していました。日弁連市民会議の設置にあたり、私にお声が掛かったのも、そのような姿勢が求められたものと想像しています。

 

市職員の政策法務能力を向上させる取り組み


私が市長になった当時、当市で条例や規則を扱っていたのは、総務部「文書課」でした。2004年にこれを「政策法務課」へと改編し、自治体法務の重要性を可視化するとともに、職員の政策法務能力を高める取り組みを進めています。その柱は、弁護士を講師として実施している、全職員対象の政策法務研修です。当市では、条例を作るとき、政策法務課に任せきりにするのではなく、市長・副市長と条例に関わる事務等の担当部署の職員とが協議して内容を詰めています。担当部署が自分たちの問題意識を反映させることで初めて、よい条例作りができるのです。

 

弁護士・弁護士会に対する期待


基礎自治体の首長は、災害対策本部長を兼ねており、私もその一人です。本年も大規模災害が続いていますが、その都度、弁護士・弁護士会が被災者支援に尽力されていることに、心から感謝しています。復興には時間がかかります。今後も被災者に寄り添い続けていただきたいです。
また、犯罪被害者をはじめ、人権侵害に苦慮されている方々が数多くおられます。弁護士・弁護士会が、一貫して社会的弱者に寄り添い、被害救済のため、現場感覚に基づいた立法提言をしてくださることに期待しています。

 

 

 

ブックセンターベストセラー
(2018年8月・手帳は除く) 協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名・発行元名
1 弁護士職務便覧 平成30年度版 東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会 編 日本加除出版
2 携帯実務六法2018年度版 「携帯実務六法」編集プロジェクトチーム 編 東京都弁護士協同組合
3 相続法改正のポイントと実務への影響 山川一陽・松嶋隆弘 編著 日本加除出版
4 国会便覧 平成30年8月新版145版


シュハリ・イニシアティブ
5 量刑調査報告集Ⅴ 第一東京弁護士会刑事弁護委員会 編 第一東京弁護士会
6 交通事故事件対応のための保険の基本と実務 大塚英明・古笛恵子 編著 学陽書房
7 流通・取引慣行ガイドライン 佐久間正哉 編著 商事法務
8 労災民事賠償マニュアル 申請、認定から訴訟まで 岩出 誠 編集代表/ロア・ユナイテッド法律事務所 編 ぎょうせい
婚姻費用・養育費の算定−裁判官の視点にみる算定の実務− 松本哲泓 著 新日本法規出版
10 大コンメンタール刑法[第三版]第13巻[第246条〜第264条] 大塚仁・河上和雄・中山善房・古田佑紀 編 青林書院


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必見!裁判員裁判 A to Z

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10 医療観察法の制度趣旨と手続の流れ-付添人弁護士マニュアル- 94分

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