日弁連新聞 第534号

第69回定期総会
憲法9条の改正議論に関する決議など6議案を可決
5月25日高松市


高松市では1962年以来2度目となる定期総会が開催された。2018年度予算が議決されたほか、「憲法9条の改正議論に対し、立憲主義を堅持し、恒久平和主義の尊重を求める立場から課題ないしは問題を提起するとともに、憲法改正手続法の見直しを求める決議」および「安心して修習に専念するための環境整備を更に進め、いわゆる谷間世代に対する施策を早期に実現することに力を尽くす決議」が採択された。
なお、来年の第70回定期総会は東京都で開催することを決定した。


決算報告承認・予算議決

2017年度の一般会計決算は、収入55億5743万円および前年度からの繰越金42億888万円に対し、53億6206万円を支出し、次年度への繰越金は44億425万円となったことが報告され、賛成多数で承認された。
2018年度の一般会計予算は、事業活動収入57億2515万円に対し、事業活動支出59億9505万円、予備費1億4500万円などを計上し、単年度では4億3090万円の赤字予算となっている。
事業活動支出のうち、特別委員会費支出などについて質疑や意見が出されたが、採決の結果、賛成多数で可決された。


「憲法9条の改正議論に対し、立憲主義を堅持し、恒久平和主義の尊重を求める立場から課題ないしは問題を提起するとともに、憲法改正手続法の見直しを求める決議」を採択

憲法9条の改正議論で示されている自衛隊等明記案には立憲主義、恒久平和主義など憲法の理念や基本原理に深く関わり、国の在り方の基本を左右する課題ないしは問題が含まれていることに鑑み、これらの情報が国民に対し多面的かつ豊富に提供され、十分な検討時間が確保されるなど、国民が熟慮できる機会が保障されなければならないとするもの。あわせて、有料意見広告放送や最低投票率などに関し、憲法改正手続法の見直しを求めるもの。
討論では、時宜にかなった的確な決議であるとの賛成意見のほか、自衛隊等明記案に明確に反対すべきとの立場や改憲推進の立場からの反対意見などさまざまな意見が出されたが、採決の結果、賛成多数で可決された。


「安心して修習に専念するための環境整備を更に進め、いわゆる谷間世代に対する施策を早期に実現することに力を尽くす決議」を採択

司法修習生に対する新たな給付制度の安定的かつ継続的な運用を図り、採決時の様子安心して修習に専念できる環境の整備を更に進めるとともに、いわゆる谷間世代の者が経済的負担や不平等感によって法曹としての活動に支障が生ずることのないよう、引き続き国による是正措置の実現を目指し、会内で可能な施策を早期に実現することに力を尽くすとするもの(以下「執行部案」)。会員から発議された新65期から70期の司法修習生に対する修習資金返還請求の撤回を求める決議案(以下「会員発議案」)も併せて審議された。
討論では、谷間世代全員の救済が必要であるとして執行部案に賛成する意見のほか、会員発議案についても賛否両論の意見があり、採決の結果、会員発議案は否決され(賛成1624・反対8546・棄権667)、執行部案が賛成多数で可決された。



法務省「登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究会」中間取りまとめ

検討事項の整理進む


所有者不明土地の解消が重要な政策課題となっており、所有権を巡る基本法制の見直しが求められている。相続登記が未了のまま放置される土地が増加し、不動産登記制度の公示機能が低下している、土地所有権等に関する民法の規律が社会の変化に適合していないなどの指摘を受けて、2017年10月、法務省に標記研究会が設置され、2018年6月1日に「中間取りまとめ」が公表された。


登記制度の在り方

「中間取りまとめ」では、①相続等の発生を登記に反映させる仕組みとして相続登記等の義務化の是非、②表題部に所有者の氏名や住所が登記されていない変則型登記の解消方法、③相続による登記手続と時効取得を原因とする登記手続及び放置された権利に関する登記の抹消登記手続の簡略化、④登記簿と戸籍等との情報連携を視野に入れた登記事項の在り方などが検討事項として挙げられている。


土地所有権の在り方

土地所有権の在り方としては、⑤所有者不明土地の有効利用の障害となっている土地所有権の強大性、⑥土地所有権の放棄の是非や放棄された土地の帰属先、⑦土地利用の円滑化を図る仕組みとして、相隣関係、共有地の管理等や財産管理制度の在り方などが検討事項として整理されている。


今後の予定

このように所有者不明土地問題を契機に、登記制度と土地所有権全般にわたる重要論点が提示され、法律改正の内容次第では、土地という重要な財産権に対して重大な影響を及ぼす可能性がある。来年早々には、研究会の最終報告が公表され、法制審議会部会が設置される見込みであり、引き続き注視する必要がある。


(所有者不明土地問題等に関するWG座長 中井康之)


*なお、土地の利活用に関しては「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が6月6日に成立した。

 

 

憲法記念行事シンポジウム
憲法改正と国民投票
私たちの責任を考える
5月12日 弁護士会館

arrow_blue_2.gif憲法記念行事シンポジウム「憲法改正と国民投票~私たちの責任を考える」


自衛隊の明文化をはじめとする憲法改正および憲法改正のための国民投票が現実味を帯びてきているが、恒久平和主義や私たちの人権、生活への影響が懸念される。国民投票が行われる場合、私たちは何をもとに考え判断すべきであり、どのような責任を負うのか。憲法改正と国民投票について一主権者としての責任を考えるためシンポジウムを開催した。(共催:東京三弁護士会)

 

対案ではなく改正案の議論が必要

愛敬浩二教授(名古屋大学大学院法学研究科)が基調講演を行い、憲法改正の発議には衆参両議院でそれぞれ総議員の3分の2以上の賛成が必要であるから、発議できない対案を示すのではなく、改正案そのものについて議論すべきと説いた。国民は憲法を変える権利だけでなく、変えない権利や変えさせない権利も有しており、しっかり議論して責任ある選択をする必要があると語った。


改正議論や国民投票の問題点

パネルディスカッションの中で愛敬教授は、9条改正案のよりどころとされる政府解釈自体が20年前から変わっていることを指摘し、いつの時点の政府解釈を根拠としているかが明確にされるべきと述べた。
本間龍氏(ノンフィクション作家)は、憲法改正に関する広告について、発議する側は、改正スケジュールを決定できる関係であらかじめ広告枠を確保しやすく、経済的にも優位にあるため、広告の内容が偏るおそれがあると危惧した。公職選挙法のような規制が少ないため、賛否いずれかの立場の広告が集中しないよう、放送局などの自主的な規制も必要であると主張した。
憲法問題対策本部の伊藤真副本部長(東京)は、憲法に自衛隊が明記されれば、自衛隊は憲法上の国家機関として強い民主的正当性を与えられ、国防名目で人権が制約される危険性があると述べた。また、国民投票法は、最低投票率や絶対得票率の定めがなく、国民投票運動も原則自由にできるなど手続的にも問題が多いと指摘した。



袴田事件
東京高裁 再審開始決定を取り消す

東京高裁は6月11日、いわゆる袴田事件第2次再審請求事件について、静岡地裁の再審開始決定を取り消し、再審請求を棄却した。
袴田事件は、1966年6月30日未明、袴田巖氏が、勤務先である味噌製造販売会社の専務宅に侵入し、一家4人を殺害、金員を強取した後放火したとされる事件である。第2次再審請求審の静岡地裁は2014年3月に再審開始を決定し、死刑の執行と拘置の停止を認めたが、検察官が即時抗告を申し立てていた。
本決定は、DNA鑑定にことさら限局して新証拠の明白性を論じ、弁護側が袴田氏と犯行を結び付ける証拠のぜい弱さを指摘し、新旧証拠を総合評価して確定判決の誤りを明らかにしたにもかかわらず前記結論を導いたものであり、再審の判断方法についての白鳥・財田川決定に反する。
また、一審以来争われてきたズボンが袴田氏には履けない点も、サイズに関する反対証拠が原審で追加されていたのに履けたと断定するなど、およそ審理経過を無視した結論ありきの決定と言わざるを得ない。
他方で、本決定は、死刑の執行と拘置の停止を取り消すことはなかった。
再審無罪を勝ち取るまで、引き続き全力で支援していく。


(袴田再審請求事件主任弁護人 西嶋勝彦)


*日弁連は6月11日、arrow_blue_2.gif「『袴田事件』第2次再審請求即時抗告審決定に対する会長声明」を公表しました。

 


谷間世代への施策について考える院内意見交換会
6月5日 衆議院第一議員会館

arrow_blue_2.gif谷間世代への施策について考える院内意見交換会 


第71期司法修習生に対する修習給付金の支給が昨年11月に開始された。一方で、新65期司法修習終了者が受けていた貸与金の第1回目の返還期限が7月25日に迫っている。
日弁連は、本年5月の定期総会で「安心して修習に専念するための環境整備を更に進め、いわゆる谷間世代に対する施策を早期に実現することに力を尽くす決議」を採択した。これを受け、谷間世代への施策の実現を目指して、院内意見交換会を開催した。


正木靖子副会長が、修習給付金の支給が開始されたことに関し、国会議員の方々をはじめ尽力いただいた方々に感謝の意と、この給付制度の安定的かつ継続的な運用を図り安心して修習に専念できる環境の整備をさらに進めていきたいとの決意を表した。一方で、修習給付金の支給対象とならなかった谷間世代に不利益・不公平が生じていると述べ、日弁連は、本年5月の定期総会決議にのっとり、会内施策の実現に向け努力しているが、谷間世代全員に対する施策に関しては、その問題点や解決に向けて取り組むための視点、具体的方法等について、ご意見を賜りたいと発言した。
ビギナーズ・ネットからは、これまでに谷間世代から3372通の署名を集めたとの報告があった。
新64期の会員は、「福祉分野で活動しているが、ボランティアになることも多い。谷間世代の弁護士にも担ってほしいが、このような市場の成り立ちにくい新しい領域や、地方での業務に取り組むためには基盤を支える必要がある」と訴えた。
意見交換会には、超党派の国会議員が多数出席し(本人出席30人、代理出席63人)、数多くの応援メッセージが寄せられた。




日弁連短信
大韓弁護士協会との交流は連綿と


事務総長 菰田 優第8回日韓バーリーダーズ会議の概要は別稿をご参照いただくとして、本稿では事務総長の目で見た会議を紹介します。
実は、私は2007年9月の定期交流会に事務次長として訪韓しています。そのときの大韓弁護士協会(以下「KBA」)の事務総長が現協会長の金炫さんで、約10年ぶりに旧交を温めることができました。
会議では、会務報告の後に質問を受けて日弁連広報中長期戦略の内容について説明しました。また、セッションでは別稿のとおり2つのテーマについて双方から報告と質疑がありました。
「市民の司法アクセスへの拡充について」のテーマに関連して説明した被疑者国選弁護の拡大に関して、韓国側から逮捕前の弁護について質問がありましたが、どうも話がかみ合っていないように感じました。昼食を取りながら金協会長と話をして理由が分かりました。韓国では被疑者に対する捜査は非拘束状態で行うことが原則で、逮捕状・拘束令状が請求された段階で裁判所による実質審査がなされ、この段階で被疑者には国選弁護人が付されて、弁護人は審査に立ち会うことができるとのことでした。したがって、韓国の被疑者段階の国選弁護は逮捕・拘束の適法性自体を争うことから始まるようです。またそれ以前には国選弁護人が付かないため、逮捕前捜査段階の弁護は全て私選とのことです。
また、このテーマの資料に「贖罪寄付は弁護士会へ」と題するチラシがあったことから、日本では贖罪寄付が有効に機能しているのかなどの質問が相次ぎました。韓国には、被害金の供託制度があるものの、被害者の個人情報を提供しなければ供託ができないため、性犯罪等では十分に機能していないようでした。さらに、贖罪寄付証明書について、罪を軽くするための制度なのに、なぜ最高裁判所と最高検察庁が関係機関への周知に協力したのか尋ねられました。日本では、法律扶助協会の時代に既に一般化していたため協力を得られたと説明しましたが、歴史の重みを感じました。
今後は隔年開催になりますが、KBAと日弁連の役員の就任時期が1年違いなので、来年KBAの役員が交替したら、表敬訪問や各種国際会議での会合を積極的に行うなどの交流を検討したいと考えています。
最後に食事や移動の時の通訳などでご協力いただいた在日コリアン弁護士協会の皆さまに感謝の意を表したいと思います。


(事務総長 菰田 優)


少年法の適用年齢引下げに反対する院内学習会
6月12日 衆議院第二議員会館

arrow_blue_2.gif少年法の適用年齢引下げに反対する院内学習会

 

成年年齢を18歳に引き下げる民法改正法が今国会で成立した。他方、少年法に関しては、法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会において、適用年齢を18歳未満に引き下げることの是非が議論されようとしている。法制審部会の議論状況や少年法の適用年齢引下げの問題点について検討するため院内学習会を開催した。
学習会には、146人が出席した(うち国会議員本人出席12人、代理出席11人)。


少年法と民法の立法趣旨や目的は異なる

羽生香織教授(上智大学法学部)が基調報告で、民法は未成年者をトラブルから未然に守ったり救済したりする意義を持つが、少年法は非行少年に教育的処分を施すことで健全な成長を促し、再非行を防止することを目的としており、これらの法律は立法趣旨や目的を異にすると説明した。そして、少年法の適用年齢の引下げは、少年の立ち直りや成長支援の機会を阻害する結果をもたらしかねないと述べた。


少年事件の当事者と被害者の立場から

女子少年院の在院経験のある中村すえこ氏は、母親との関わりや信頼できる大人との出会いにより立ち直った自己の経験を語った。そして、現在取り組んでいる少年院出院者の支援活動などを踏まえ、教育や人との関わりこそが少年を変えると力説した。
西鉄高速バスジャック事件の被害者である山口由美子氏は、少年が再非行に及ばないためには、少年自身が事件を起こした理由を考える力を育む必要があり、少年法の適用年齢を引き下げて少年が変わる機会を奪わないでほしいと訴えた。


少年事件は減少している

子どもの権利委員会少年法・裁判員裁判対策チームの金矢拓座長(第二東京)は、少年事件の数は減少し、凶悪事件も減少傾向にあること、少年事件の年齢構成は18〜19歳が過半数であることなどの統計情報を紹介した。



第8回 日韓バーリーダーズ会議
6月1日/2日 東京


本年度の日韓バーリーダーズ会議が東京で開催された。この会議は、1987年以降両国の弁護士会間で毎年行われてきた交流会を前身とし、2011年から開催されている。日弁連や大韓弁護士協会、日韓の弁護士会連合会の代表ら総勢約100人の「リーダー」が一堂に会した。


大韓弁護士協会の金炫協会長(左)と記念品の交換をする菊地会長1日目は韓国からの参加者を司法研修所に案内し、日本の司法修習制度や同所での裁判官の研修などについて説明を行った。
2日目に行われた会議は2つのセッションに分かれ、セッション1では「若手弁護士を取り巻く状況と弁護士会による支援」をテーマに取り上げた。日本からは就業・開業支援、業務支援、研修コンテンツの制作、国際活動支援の取り組みについて報告し、韓国からは就職情報を一元的に取り扱う「弁護士就職情報センター」、若手向けの特別研修プログラムなどについて説明があった。ともに法曹養成制度の改革を行ってきた両国では、若手弁護士を巡る状況に共通点が多く、熱心な質疑が行われた。
セッション2では「市民の司法アクセスへの拡充について」をテーマに、日本からは権利保護保険や日弁連リーガル・アクセス・センター、日弁連委託援助事業について報告した。韓国からは法律扶助事業を行う「法律扶助財団」、弁護士ゼロワン地域の解消を目指す「まち弁護士制度」などについて説明があった。韓国からの参加者は、弁護士会が贖罪寄付を受け付ける制度が自国にないことから、日弁連委託援助事業の財源の一部が贖罪寄付であることに特に強い関心を示し、その沿革や運用方法について熱心に質問した。
次回は2年後の2020年に韓国で行われる予定である。


(国際室嘱託 津田顕一郎)



特別講演
憲法改正問題と人権・平和を考える
本当に「何も変わらない」か?
5月29日 弁護士会館

arrow_blue_2.gif特別講演会「憲法改正問題と人権・平和を考える~本当に『何も変わらない』か?~」

 

憲法9条、緊急事態条項、参院選合区解消、教育の充実という改憲4項目を自民党が取りまとめるなど改憲議論が具体化しつつある。
戦争放棄と戦力の不保持を規定し、先駆的な恒久平和主義を基本原理としてきた憲法に「自衛隊」が書き込まれることで、国の基本的な在り方や私たちの人権と平和な生活にどのような影響がもたらされるか、東京大学の石川健治教授に講演いただいた。

 

石川健治教授石川教授は、「財政」の観点から憲法9条の改正について解説した。
―財の中には、市場では供給されず、国家から供給されるべき公共財が存在するが、その最たるものが「安全」である。国家には国民に安全を供給する義務があり、ここに国民が税金を支払う理由がある。だからこそ、財政民主主義の下でも、多数決ばかりではなく立憲的な歯止めが必要である。
現行憲法は、明治憲法の「天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス」「天皇ハ陸海軍ノ編成及常備兵額ヲ定ム」などの規定を削除し、天皇の統帥権をはく奪して、軍事力に財政面でも立憲的コントロールが及ぶようにしたところに意義がある。
今回、自由民主党憲法改正推進本部が自衛隊の明記について方向性を示した条文イメージ(たたき台素案)の9条の2には「内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する」とあり、これはまさに統帥権条項の復活に他ならない。現在の9条の規定は、個々の自衛官を守る働きをしているが、「9条の2」ができると、自衛官は統帥権を握る内閣総理大臣の「駒」となってしまい、自衛官の個人の尊厳が奪われる。―
石川教授は、現行の日本国憲法について、戦後70年、これほど優秀な軍事力統制メカニズムは世界でも他に例がない、改憲が問われる今、国民として、安全な選択をしてほしいと聴衆に呼びかけた。



行政不服審査法シンポジウム
審理員による審理手続のあるべき形と、行政不服審査会等をめぐる諸課題
5月19日 弁護士会館

arrow_blue_2.gif行政不服審査法シンポジウム-審理員審理のベストプラクティスと、行政不服審査会をめぐる諸課題-


2016年4月に施行された改正行政不服審査法(以下「改正法」)は、簡易迅速という行政不服審査の利点を維持しつつ、公正さを担保するため、審理員による審理手続と行政不服審査会等への諮問手続の2つの制度を導入した。導入後の利用実態の把握、運用事例の共有、諸課題の解決策について検討するためシンポジウムを開催した。

 

改正法施行後の状況

総務省行政管理局から、改正法施行1年目となる2016年度の施行状況が報告された。
行政訴訟センターの水野泰孝事務局長(東京)は、実際の運用事例等を踏まえ、審査請求書の記載事項が不分明でも、審査請求に係る処分内容が特定できるなら審理員の指名手続に入るべきであり、いたずらに行政不服審査会に諮問せず遅滞なく裁決をなすべきであるなどと語った。
木佐茂男名誉教授(九州大学・北海道大学/前福岡県行政不服審査会会長)は、弁明書に対する審査請求人の反論書の提出期間が短く定められた事案を例に挙げ、そのような方法で迅速審理を実現することには問題があるなど、改正法や運用上の諸課題を指摘した。


審理手続のあるべき形

嶋原誠逸氏(東京都中央区総務部副参事/前大阪府寝屋川市総務課課長)は、処分庁の立場から、弁明書では適用法令や事実の当てはめを明確に記載するよう心掛けていると述べた。
湯川二朗副委員長(京都)は、審査請求人の権利救済と行政の適正な運営確保の観点から、請求がなくても審査請求人に書面の写しが交付されるべきと主張した。
中村真由美副委員長(神奈川県)は、審理員を務めた際の経験に基づき、児童福祉等の観点から審査請求人に見せるべきでない書面もあるため、処分庁は交付請求を見越して不要な部分を黒塗りするなどの対応が必要であると述べた。


 

シンポジウム
銀行カードローン問題を考える
6月7日 弁護士会館

arrow_blue_2.gifシンポジウム「銀行カードローン問題を考える」


2010年6月に完全施行された改正貸金業法により、借入残高が年収の3分の1を超える場合に新規借り入れが制限される総量規制が導入されたが、銀行カードローンは総量規制の対象外とされている。日弁連が実施したアンケート調査や破産事件及び個人再生事件記録調査(以下「破産等記録調査」)によれば、銀行カードローンによる過剰融資が新たな多重債務問題の原因とも考えられる。あるべき銀行カードローン規制を検討するためシンポジウムを開催した。

 

アンケートと破産等記録調査から見た銀行カードローンの実態

消費者問題対策委員会の北後政彦委員(第一東京)が基調報告を行い、債務整理案件を扱う会員を対象に実施したアンケート結果に基づき、総量規制を超える貸し付けが広く行われている銀行カードローンの実態を明らかにした。また、昨年実施した「全国一斉銀行カードローン問題ホットライン」では、借り入れの際に収入証明書の提出が求められなかったケース、借入時の債務額が年収の3分の1を超えていたケースが、いずれも50%以上あった。さらに、最新の破産等記録調査からは、①失業等の経済不況を理由とする破産の減少と、ギャンブルや遊興費による破産の増加、②負債額1000万円未満の破産の増加、③借り入れから破産申し立てに至る期間の短期化の傾向が見られ、多数の消費者向け貸し付けの利用者が収入に見合わない借り入れにより破産に至っていると考察した。


パネルディスカッション~改正貸金業法の問題点

木村裕二氏(聖学院大学特任講師)は、改正前後の貸金業法の内容について説明し、銀行による貸し付けを貸金業者が保証した場合は総量規制の対象外となることなどの改正貸金業法の問題点を指摘した。
藤田知也氏(朝日新聞特別報道部記者)は、銀行120行に対するアンケート結果を踏まえ、銀行に対して、目的が不明確な融資の上限を原則年収の3分の1とし、多重債務者向けサービスを用意するなど利用者に密着すべきと提言した。



法律相談センター全国協議会
弁護士会の広報の在り方と、法律相談担当弁護士の質の確保について
5月28日 弁護士会館


日弁連公設事務所・法律相談センター(以下「センター」)では、全国の弁護士会の法律相談担当者が一堂に会する全国協議会を定期的に開催している。今回は、弁護士会の広報の在り方と法律相談担当弁護士の質の確保等について意見交換を行った。


効果的な広報を目指して

センター広報PTの上椙裕章座長(広島)が、2017年度に実施した広報施策に関し、法律相談センターの認知度向上や相談件数増加という目標を設定し、①動画の制作とWEB上での公開、②相談予約につなげるためのWEB広告の実施、③相談予約ページへ誘導するランディングページの改訂、④ネット予約システムの改修を行ったと報告した。今後の課題として、アクセス件数の増加に加え、法律相談に直結する取り組みの必要性を訴えた。
センターの広報アドバイザーを務める國枝宏之氏(+Marketing代表)が講演し、効果的な広報のため、情報の受け手の視点で伝える重要性や、受け手が不安に感じる点を予め解消する必要性を指摘した。一般的に読みやすいとされる一行当たりの文字数(縦書きで20~40文字、横書きで15~35文字程度)など技術的な解説もあり、出席者は興味深く聴いた。國枝氏(中央奥)の講演に耳を傾ける出席者


市民アンケートに見る法律相談センターの認知度

角田崇彦事務局員(千葉県)が、市民アンケートの結果、法律相談センターの認知率が18.3%で、前回調査(2015年)から5.8%増加したと報告した。認知率の低い若年層には認知率向上のための施策、認知率の高い高齢者層には利用まで誘引できる施策が必要であり、認知が進んでいないネット予約は広報を充実させて改善する必要があると語った。


法律相談担当弁護士の質を確保するために

遅刻を頻繁にする相談担当者や、相談者から苦情が寄せられる相談担当者の例が報告された。その上で、担当者名簿からの抹消要件や、研修によるスキル向上など、相談担当者の質を確保して法律相談センターの信頼を確保するための方策等について協議した。



ESG(環境・社会・ガバナンス)基礎講座 第1回
企業の環境・社会対応と弁護士の役割
持続可能な社会に向けた取組をどう具体化するか
5月23日 弁護士会館


世界各地で起きている環境汚染、生態系の破壊、温暖化の進行の中で、企業は持続可能な社会に向けた取り組みを強く求められている。企業・投資家・社会において関心の高まっているESG(環境・社会・ガバナンス)の各分野における、弁護士の企業への関わり方や法的助言に関する基本的な考え方を学習する連続講座の2018年度第1回目を開催した。


佐藤泉会員(第一東京)は、日本や世界の環境問題への取り組みの歴史を概括し、国連が採択したSDGs(持続可能な開発目標)が掲げる17の目標が、企業目線ではない、人類の共通目標を示したものであると解説した。そして、金融・証券業界がSDGsに基づく企業評価を始める中で、企業が、取引先との契約で人権・環境等に配慮しているか、従業員との関係でジェンダーやダイバーシティに配慮できているかなどが重視されており、ここに弁護士が関わることは極めて重要であり、弁護士には大きな参画のチャンスがあると語った。
笹谷秀光氏(株式会社伊藤園顧問)は、ESG投資が世界中の機関投資家に波及しているが、そこで意識されるのは、経済価値と社会価値の同時実現であって、いわば近江商人の「三方よし」と同じ考え方だと指摘した。日本には、利潤を追求しながら社会価値を実現しようとする考え方は古くから存在していたのであり、日本企業が世界のESG投資の流れから取り残されないためには、現に行ってきたさまざまな取り組みをSDGsに引き直して自ら情報発信することが重要だと述べた。
後半のパネルディスカッションでは、日本企業の非財務情報の開示がEU諸国等に比べ遅れていることなどについて議論がなされ、笹谷氏は、企業は自社の取り組みを可能な限り詳しく開示して投資家にアピールしていく必要があると発言した。



JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.133

インタビュー
村木厚子さん

共生社会の実現に向けた取り組み


今回は村木厚子さんのインタビューです。村木さんは、いわゆる郵便不正事件(以下「あの事件」)を闘い、無罪を勝ち取った方として著名ですが、行政官として、障害者や女性を巡るさまざまな問題の解決に向き合ってきました。

(広報室嘱託 大藏隆子)


障害者問題との関わり

「(弁護士には)積極的に累犯障害者支援に関わってほしい」と語る村木さん労働省(現・厚生労働省)に入省して20年近く経ち、障害者雇用対策課の課長になった時、初めて障害者問題に取り組みました。各地を視察する中で、この問題が「誰もが力を発揮できる社会」という私のかねてからの思いにつながる課題であることを理解し、がぜん仕事が面白くなりました。


障害者トライアル雇用制度の創設

行政官として携わった障害者政策の一つが、知的障害者の雇用義務化です。身体障害者だけが算定基礎とされていた法定雇用率に、知的障害者を含める制度改正を行いました。
しかし、企業にいきなり知的障害者を雇ってもらうのはハードルが高い。そこで、3か月の試行雇用の後、本採用に進むか否かの選択ができるトライアル雇用制度を設けました。3か月雇ってもらえれば彼らの価値を分かってもらえる確信がありました。当初、3か月で首にしていい制度なんてと反対もありましたが、蓋を開けてみると、約9割もの企業が本採用に進みました。「知的障害者は働けない」は思い込みだったのです。


障害者基本法の改正作業

あの事件の後、内閣府で、障害者基本法の改正作業に携わりました。このとき、障害者側から、「障害者福祉の増進」という従前の法の主要概念を削除すべきだという声が上がりました。「福祉の増進」というと障害者が福祉の助けを借りて生きる人だという印象を与える、自分たちは障害のない人とともに社会を支えるメンバーだという主張を受け、改正法には「共生社会」という概念を明確に盛り込みました。
あの事件の前まで、私はどこかで、自分が社会を支える側にいると思っていました。しかし、身柄拘束中、私は自分では何もできず、弁護士や家族、同僚、友人に支えてもらう日々を送りました。誰もが、支えてもらわなければならない人間であり、他方で、社会を支えることができる人間なのだと思います。


誰もが働くことの意義

人生を90年とすれば、生まれて社会に出るまでの約20年間と、仕事を終えてから寿命を全うするまでの約25年間は、誰かに養ってもらう期間です。人が働く期間は残りの半分。夫婦を単位にしたとき、1人の45年間の労働だけで、2人分の人生を支えるのは無理があります。人間らしいゆとりある暮らしを営むには、男女それぞれが仕事をして、自分の足で立たなければなりません。
また、誰かの役に立つからこそ、もっといい仕事をしたいと思い、仕事を通じて成長し、人とつながる。働くことにはいろいろな要素があります。仕事を通じて、人生の幸せの濃度が高まるのだと思います。


女性の働き方を巡る課題

行政官として、在職中、女性の働き方を巡る諸課題を多く担当しました。30年前に男女雇用機会均等法ができ、それだけでは仕事と育児の両立はできないと分かって、育児・介護休業法ができましたが、私を含めた政策担当者は皆、女性の労働を巡る問題の根底には、男性の働き方の問題があると認識していました。しかし、この認識が政策担当者以外の人には広がらなかった。ここ数年、ようやく、社会一般に男性の働き方にこそ問題の根があるとの理解が進んできました。保育所不足、働き方改革、こうした問題の解決は、この国のトッププライオリティーだと思っています。


若年女性に対する支援

拘置所で、いつもラジオのニュースを聞いていて、強く気にかかったのが児童虐待の問題でした。さまざまな行政機関がこの問題に取り組んでいます。けれども、現実には取りこぼしが起きてしまっている。
大谷恭子弁護士をはじめとする方々との出会いの中で、自分たちで何かやれないかということになり、2年ほど前から「若草プロジェクト」という取り組みを始めました。①つなぐ、②ひろめる、③まなぶ、という3つの事業を柱にしています。①若い女性や少女たちを支援する人たちのネットワークを構築し、女性たちのSOSを受け止めて必要な支援につなぐ、②広報活動を通じて、女性たちに支援者の存在を伝え、社会にも問題提起をする、③女性たちの問題について大人に学んでもらうべく、研修会やシンポジウムを開催するということに取り組んでいます。


弁護士・弁護士会へのメッセージ

あの事件の後に得た国家賠償金を元に「共生社会を創る愛の基金」を創設し、累犯障害者支援に取り組んでいます。刑事裁判のみならず、起訴前や刑務所出所後に、いかにして再犯防止を図っていくかという場面で、弁護士の皆さんには積極的に累犯障害者支援に関わっていただきたいです。
また、あの事件で強く実感しましたが、助けを求める人にとって、弁護士は唯一の味方です。誰もが、どの弁護士にも、巨大組織である検察庁や裁判所と対峙するだけの能力があることを期待しています。「いい弁護士に当たってよかったね」では困りますので、弁護士会には、個々の弁護士の活動のバックアップとなるような、研修や教育をお願いしたいです。



第28回司法シンポジウム
司法における国民的基盤の確立をめざして
−司法を強くする4つの取組から考える−

日時 2018年9月29日(土)10時30分〜17時30分
会場 弁護士会館2階講堂「クレオ」
内容 [はじめに]なぜ、いま「司法における国民的基盤」を取り上げるのか
    [第1部]具体的な取組から考える−市民と司法がつながる取組−
     <午前10時50分開始>
       1 弁護士任官を進める 2 司法参加を広げる(裁判員の経験など)
     <午後1時30分開始>
       3 法教育に取り組む 4 市民と司法をつなぐ(マスメディアの役割など)
    [第2部]パネルディスカッション「市民が支える司法をめざして」
     <午後3時40分開始>


前回のシンポジウムでは、立憲主義・法の支配の理念が危機的状況に至っている下で司法の独立と機能を強化する検討がなされ、その成果として「司法における国民的基盤の確立の必要性」が提言されました。今回のシンポジウムは、今まで日弁連・弁護士会が取り組んできた4つの課題を通して上記提言をさらに推し進めるための運動論的・実践的内容としました。具体的には、第1部では以下の4つを柱にします。


① 裁判所の多様性を高め、より良い裁判を実現し市民の信頼強化につなげるための弁護士任官に関して、その意義の再確認と一層の推進に向けた運動論
② 市民の司法参加を拡充し裁判所の多様性を高める司法参加の在り方や、裁判員経験者の経験を広げ、同制度がより社会に根付くための取組
③ 次世代の主権者としての意識・価値の育成を目的とする法教育について、高校生模擬裁判選手権の映像の放映と、今後の在り方の検討
④ 市民が主体的に司法に関わるための環境整備に向けた、市民団体の取組とマスメディアの役割等
これらの取組を深掘りし、第2部でパネルディスカッションを行う予定です。
当日は活発な議論が行われるように工夫いたしますので、是非ともご参加ください。


(第28回司法シンポジウム運営委員会委員長 中村 隆)


*事前申込方法やプログラム等の詳細は、日弁連ウェブサイトのイベント情報をご覧ください。
HOME>イベント>2018年>arrow_blue_2.gif9月29日第28回司法シンポジウム


お問い合わせ先:日弁連法制部法制第一課(TEL:03−3580−9978)



ブックセンターベストセラー
(2018年4月・手帳は除く) 協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名
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2 一問一答 民法(債権関係)改正  筒井健夫・村松秀樹 編著 商事法務
3 量刑調査報告集5 第一東京弁護士会刑事弁護委員会 編 第一東京弁護士会
4 我妻・有泉コンメンタール民法[第5版]―総則・物権・債権― 我妻榮・有泉亨・清水誠・田山輝明 著 日本評論社
5 事業承継法務のすべて 日本弁護士連合会日弁連中小企業法律支援センター 編 きんざい
6 法律事務職員研修「基礎講座」テキスト 2018年度 東京弁護士会弁護士業務改革委員会 東京弁護士会
超早わかり・「標準算定表」だけでは導けない 婚姻費用・養育費等計算事例集(中・上級編)[新装版] 婚姻費用養育費問題研究会 編 婚姻費用養育費問題研究会
8 後遺障害の認定と異議申立―むち打ち損傷事案を中心として― 加藤久道 著 保険毎日新聞社
9 婚姻費用・養育費の算定―裁判官の視点にみる算定の実務― 松本哲泓 著 新日本法規出版
10 裁判官!当職そこが知りたかったのです。―民事訴訟がはかどる本― 岡口基一・中村真 著 学陽書房



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2

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3

成年後見実務(全5回)

4

労働問題の実務対応(全5回)

5 コーポレート・ガバナンス(基礎編)(全3回)
6

English for Lawyers(会話編)(全4回)

7 2013年度ツアー研修 相続分野(全4回)
8 2014年度ツアー研修 実務家のための民事弁護講義(全4回)
9 コーポレート・ガバナンス(上級編)(全3回)
10 破産申立・管財(全5回)

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