日弁連新聞 第533号

中央教育審議会大学分科会法科大学院等特別委員会
「法科大学院等の抜本的な教育の改善・充実に向けた基本的な方向性」公表される


法科大学院制度は、21世紀の司法を支えるのにふさわしい法曹を養成するため、法曹専門教育、司法試験、司法修習の有機的連携を図るものであり、法科大学院はプロセスの中核を支える。制度発足後、2万人を超える修了生が司法試験に合格し、次代を担う法曹として第一線で法の支配を支えている。
一方で、当初の想定と異なる司法試験合格率の低迷、時間的負担等から、抜本的な改革と法曹志望者数の回復が急務となっている。


政府の法曹養成制度改革推進会議は2015年6月、法科大学院の教育の質の向上と、在学期間の短縮による時間的負担の軽減等を求めた。
これを受け、中央教育審議会大学分科会法科大学院等特別委員会は本年5月14日、「法科大学院等の抜本的な教育の改善・充実に向けた基本的な方向性」(以下「基本的方向性」)を公表した。
そのポイントは、次のとおりである。
法科大学院と法学部等の連携を強化し、法科大学院教員の法学部兼務を認めることでその体制を整え、体系的・一貫的な教育課程を編成して、法曹志望が明確な学生に提供する。
具体的には、法学部に法曹コースを設置し、法曹志望が明確な学生に学部段階からより効果的な教育を行う。これと併せて、法学部4年と法科大学院2年の学修によって法曹になる途に加えて、早期卒業等により学部3年間で法科大学院に進学できる仕組みを明確化する。
改革の方策として、学校教育法の早期卒業制度が例外的措置とされている現行の在り方を検討し、早期卒業の枠を広げる。また、法科大学院への進学に際し、合格者の質の保証、選抜の公平性、地方における法曹養成に留意しつつ、法曹コース修了予定者を対象とする既修者コース選抜枠を設けることを認める。
もう一つの課題である、法学未修者教育の改善については、質保証のプロセスとして、純粋未修者等の入学割合を3割以上としている現行の文部科学省告示を見直し、共通到達度確認試験を導入する。
教育内容改善促進のための公的支援として、新しい法科大学院公的支援見直し強化・加算プログラムで未修者教育を効果的に行う法科大学院を重点支援し、優れた未修者教育の実例や手法の体系化と共有・連携を図れるよう、調査研究の場を設けて法科大学院教育に還元する。
基本的方向性の下、可能な施策が開始されるとともに、検討が深められていく。日弁連は、基本的方向性を分析評価し、法科大学院の理念と地域適正配置の観点にも留意しながら、法科大学院の改革に取り組んでいく。


(事務総長付特別嘱託 田村智幸)



年次報告書の提出期限迫る!
―未提出の方は速やかにご提出ください―

昨年12月の臨時総会で、マネー・ローンダリング対策およびFATF(金融活動作業部会)の第4次相互審査への対応のため、依頼者の本人特定事項の確認等の履行状況について、会員が所属弁護士会に年次報告書を提出することが義務付けられました。


提出期限は6月30日(土)

初回となる2017年度の年次報告書の提出期限は本年6月30日(土)です。
未提出の方は、期限までに必ずご提出ください。


全会員に提出義務があります

年次報告書は、弁護士・弁護士法人・外国法事務弁護士・外国法事務弁護士法人の全ての会員に提出義務があります。例えば、組織内弁護士や育児・疾病などで弁護士等の職務を行っていない会員にも年次報告書の提出義務がありますので、ご留意ください。


参考資料はウェブで

年次報告書の書式、依頼者の本人特定事項の確認等に関連する各種資料は、日弁連ウェブサイトのトップページ右下にあるバナー「依頼者の本人確認―年次報告書の提出を!―」のリンク先ページに掲載しています。総合研修サイトに掲載しているeラーニング「簡単!依頼者の本人確認と年次報告書の作成」とともに、年次報告書の作成・提出の際にご参照ください。

 

 

弁護人を取調べに立ち会わせる権利の明定を求める意見書を提出

arrow_blue_2.gif弁護人を取調べに立ち会わせる権利の明定を求める意見書


日弁連は本年4月13日、「弁護人を取調べに立ち会わせる権利の明定を求める意見書」(以下「意見書」)を取りまとめ、同月17日付で法務大臣に提出した。
日弁連はかねて、弁護人を取調べに立ち会わせる権利(弁護人立会権)の確立を求めてきた。意見書は、諸外国の状況等を踏まえ、その必要性を改めて示すとともに、弁護人の援助を受ける権利および黙秘権から導かれる弁護人立会権の具体的内容を明らかにしている。

 

諸外国では既に確立

国連自由権規約委員会はこれまで、日本政府に対し、逮捕時から弁護人を依頼する権利のほか、弁護人が取調べに立ち会う権利を全ての被疑者に保障するよう繰り返し勧告してきた。アメリカやEU諸国、日本と刑事手続が類似する韓国をはじめとする多くの国や地域では、判例や立法により弁護人立会権が既に確立されている。


弁護人立会権の具体的内容

意見書は、弁護人立会権の具体的内容として、①捜査機関は、取調べに先立ち、被疑者に対し、弁護人立会権があることを告げなければならず、②被疑者が弁護人の立会いを申し出た場合には、弁護人が現実に取調べに立ち会わない限り、取調べをすることが許されないこと、③取調べに立ち会う弁護人は、取調官の違法または不当な言動に対して意見を述べられることなどを挙げている。
被疑者が弁護人立会権を適切に行使するためには、速やかに弁護人を派遣するための対応態勢を整備する必要がある。意見書は、十分な予算措置を伴った公的弁護制度の質的・量的な拡充が図られるべきであることも併せて求めている。


(司法調査室刑事グループ嘱託 和田 恵)


◇    ◇
*意見書は日弁連ウェブサイトでご覧いただけます。

 


コーポレートガバナンス・コードの改訂にあたり
〜日弁連の意見取りまとめ

東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードは、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図ることを主眼として、2015年に策定された。今般、金融庁と東京証券取引所が事務局を務めるフォローアップ会議でさらなる充実に向けた検討が行われ、コーポレートガバナンス改革をより実質的なものへと深化させていくための提言がまとめられ、意見募集に付された。

 

日弁連は、意見募集に対し、本年4月13日付で「コーポレートガバナンス・コードの改訂案に関する意見書」を取りまとめた。
コーポレートガバナンス・コードの改訂案(以下「改訂案」)は、企業にとって最も重要な戦略的意思決定である最高経営責任者の選解任について、客観性・適時性・透明性のある手続を確立していくこと、取締役会が全体として適切な知識・経験・能力を備えることなどを企図している。
このように改訂案は、経営陣による積極的な経営判断を後押しし、また、企業と投資家との対話を実質的なものとし、ひいては日本企業の国際競争力の向上に資するものであることから、基本的に賛成した。ただし、政策保有株式(いわゆる持ち合い株式)については、合理的な場合も存在することから、一律に縮減を求めるものと受け取られないようにすべきなど、個別の論点に関して若干の意見を述べた。
なお、日弁連は、コーポレートガバナンスの強化に社外取締役が果たす役割を重視し、社外取締役に関する実務がより良きものとなるよう、2013年に社外取締役ガイドラインを策定し(2015年改訂)、以後毎年、弁護士および一般の方などを対象とした公開講座を企画・実施している。


(司法制度調査会委員 梅野晴一郎)


*改訂後のコーポレートガバナンス・コードは、本年6月1日に実施されました。

*意見書および社外取締役ガイドラインは、日弁連ウェブサイトでご覧いただけます。

 

 

新事務次長紹介

武内大徳事務次長5月31日付で、二川裕之事務次長(神奈川県)が退任し、後任には、武内大徳事務次長(神奈川県)が就任した。

 

武内 大徳 (神奈川県・49期)


日弁連では、主に犯罪被害者支援の分野で活動してきました。これからは、より広い視野を持って、さまざまな問題に関わっていかなければなりません。  

事務次長の職責を担いきれるものか、不安は小さくありませんが、市民の皆さんの日弁連に対する期待に応えられるよう、精一杯努力する所存です。  

よろしくご指導・ご鞭撻くださいますよう、お願いいたします。

 

 

 

院内学習会
民法改正…そんなに急いでどこへ行く!?
成年年齢が20歳から18歳に?…どうして!?どうなる!?
4月26日 衆議院第二議員会館

arrow_blue_2.gif院内学習会「民法改正・・・そんなに急いでどこへ行く!?成年年齢が20歳から18歳に?・・・どうして!?どうなる!?」 


成年年齢を20歳から18歳に引き下げる民法改正法案が国会で審議されている。法案の問題点を共有するため、院内学習会を開催した。学習会には、約130人が出席した(うち国会議員本人出席9人、代理出席17人)。


坂東俊矢教授(京都産業大学法学部)は、2009年の法制審議会の答申にあるとおり、成年年齢の引下げには、若者の自立を促す施策と消費者被害の拡大の恐れに対応する施策が必要であると問題提起した。
日弁連からは、消費者問題対策委員会の平澤慎一幹事(東京)と中村新造委員(第二東京)が、成年年齢引下げに関するチラシ「5つの疑問」(*)に沿って、そもそも成年年齢の引下げの必要性があるのか、引下げによって18歳・19歳の若者が未成年者取消権を失うが、現状の消費者契約法改正案ではつけ込み型勧誘への取消権が不十分であるなどの問題を報告した。また、子どもの権利委員会の金矢拓委員(第二東京)からは、養育費の支払終期の繰り上げ等、子どもの権利擁護の観点からも問題があるとの発言があった。
消費者団体や教育関係機関等からは、騙されやすい若者が少なくなく、消費者教育の充実が先決である、未成年者取消権の防波堤としての機能は重要であるなどの発言があった。
出席した国会議員からも、法案の問題点が指摘され、国会での慎重・丁寧な議論が必要であるとの意見が寄せられた。


(消費者問題対策委員会副委員長 江花史郎)


*成年年齢引下げに関するチラシ「5つの疑問」は、日弁連ウェブサイトでご覧いただけます。



日弁連短信
事務次長の日々はジェットコースターに乗って


前事務次長 二川裕之 2年5か月間、ジェットコースターに乗ってきた。かつて特急列車に喩えた事務次長がおられたが、私の実感では特急列車よりもスピードが速く、しかも激しく乱高下するジェットコースターに喩えざるを得ない。
私は、神奈川県弁護士会から初の事務次長となった。東京三会以外の弁護士会出身では、小川達雄会員(京都)、谷英樹会員(大阪)に続き、史上3人目と聞いている。また、事務次長の業務分担を見直し、2016年1月に1人増員して弁護士事務次長は6人となったが、その6人目として就任した。振り返れば、私は合格者が500人から600人に増員された年に司法試験に合格した。何か運命的なものを勝手に感じている。
運命的といえば、私の事務次長としての任期中は常に戦場にいたような気がする。しかも、ただの戦場ではなく、火を噴いている真っただ中にいた。就任あいさつの時に、総次長室は常在戦場と聞いているなどと余計なことを言ったからではないと信じたい。
2016年3月の臨時総会。同年10月の福井の人権擁護大会。いずれも、法曹養成、死刑廃止の担当として右往左往した。2017年8月に綱紀・懲戒の担当となった途端、比喩的に言えば突然に暴風が吹き荒れる状態となり、対応に追われた。さらに2018年2月ころからは財務・経理担当として予算編成に携わり、5月の定期総会当日まで気が抜けない日々が続いた。そして、就任から退任まで一貫して、法曹養成では議論の多い法曹人口を担当し、途中からは法科大学院関係の担当にもなった。さらに、民事司法改革を最重要課題と位置付けていた中本執行部の丸2年間は、民事司法改革グランドデザインの改訂や裁判手続等のIT化に関する議論に関与するなど、担当次長として会の内外を問わず精力的に活動し、印象的な出来事も多かった。
近年、日弁連が発する意見は注目を集め、その影響力はわれわれが思っているよりも大きいのではないかと感じる。私は5月末で飛び降りるが、日弁連という大きなジェットコースターはこれからもさらなるスピードで走り続け、その存在感を高めていくだろう。これまで私は、事務次長としてさまざまな得難い貴重な経験をさせてもらったが、今後は一会員として日弁連の活動を見守るとともに、その経験を活かして関わっていきたい。


(前事務次長 二川裕之)



パレード・院内学習会
カジノ解禁に反対する
5月9日 衆議院第二議員会館

arrow_blue_2.gif「カジノ解禁に反対する」パレードおよび院内学習会

 

日弁連はカジノ解禁に一貫して反対してきたが、4月27日、特定複合観光施設区域整備法案(以下「法案」)が今通常国会に上程された。そこで、カジノ解禁の問題点を改めて指摘し広くアピールするため、パレードを行い、院内学習会を開催した。


5月9日、小雨の降る中総勢約250人が参加し、日比谷公園から国会までカジノ解禁に反対するパレードを行った。途中、議員面会所において、野党5党の国会議員にカジノ解禁に反対する要請を行った。
パレード終了後は、院内学習会を開催し、約120人の出席を得た(うち国会議員本人出席13人、代理出席23人)。
パレードの様子 学習会では、カジノ・ギャンブル問題検討ワーキンググループの三上理事務局長(東京)が、法案の問題点について、①観光立国実現にカジノが不可欠とはいえない、②カジノ解禁により経済効果が見込まれるのか疑問であり、ギャンブル依存症や犯罪増加とそのために必要となる対策へのコストなどマイナスの経済効果の検討が不足しているなどの問題点を指摘した。さらに、③暴力団員等の入場規制に実効性がない、④7日間で3回、28日間で10回までとする入場回数制限が適切とはいえない、⑤入場料を6000円とすることで安易な入場を抑止できるか疑問であると問題提起を行った。
出席した国会議員からは、「法案はギャンブル依存症を生み出し国民を不幸にする」「地域振興につながらない」「カジノはギャンブル依存症を生み、その上に金儲けが成り立つことは不合理である」「世論も支持していない」などカジノ解禁に反対する意見が多数寄せられた。カジノ誘致が取り沙汰されている自治体出身の国会議員からも強い反対の意見が出された。
そのほか、日本司法書士会連合会、労働者福祉中央協議会、日本退職者連合などの代表者も登壇し、それぞれ反対の意見を表明した。



国際仲裁活性化への期待と日弁連の支援


国際仲裁を巡る状況はこの1年で目まぐるしい動きを見せている。
本年2月、仲裁機関に審問場所を提供したり、弁護士や企業に研修を行ったりする一般社団法人日本国際紛争解決センター(以下「センター」)が設立された。5月には、大阪中之島合同庁舎で、法務省の協力を得て、日本初の国際仲裁・ADR専門施設である「日本国際紛争解決センター(大阪)」が開業した。
国際仲裁は国際的な紛争解決に不可欠な制度であるが、日本は、シンガポールや香港等のアジア諸国と比べて、国際仲裁の利用件数が極めて少ない。その中で発足したセンターには、日本で国際仲裁を活性化させることが期待されている。
日弁連は、昨年2月に意見書を取りまとめ、国際仲裁の実施に適した仲裁審問設備等の物的整備を含め、国際仲裁の機能を強化するための施策を講じるよう政府に要望した。同年6月に閣議決定された政府の「骨太の方針」には「国際仲裁の活性化に向けた基盤整備のための取組」が盛り込まれ、9月に内閣官房に「国際仲裁の活性化に向けた関係府省連絡会議」が設置され、本年4月に各省庁の施策が中間的に取りまとめられた。
民間の動きとしては、昨年12月、日弁連が公益社団法人日本仲裁人協会と共同事務局を務める「日本国際仲裁センター(仮称)設立検討協議会」(現・日本国際紛争解決センター運営協議会)が設置された。センターの設立と大阪での開業は、この協議会での検討の成果といえる。
今後は、大阪と同様の仲裁専門施設を東京で立ち上げることが望まれている。日弁連は、これらの活動を支援するとともに、早急に法制度上・運用上の総合的な方策の検討を行い、国際仲裁の活性化のために尽力していく。


(事務次長小町谷育子)



子育てにまつわるお金のこと
子育て分野の社会保障を考える
4月28日 弁護士会館

arrow_blue_2.gif「子育てにまつわるお金のこと~子育て分野の社会保障を考える~」


子どもの貧困が重大な社会問題となっている。日本では子育ての費用は親が負担するとの考え方が一般的で、社会保障も手薄であることから、貧困の連鎖が解消されない状況にある。
子どもの各成長段階における課題を明確化し、必要な方策を検討した。


リレー報告~教育上の経済的問題は多岐にわたる

ジャーナリストの猪熊弘子氏は、施設ではなく親を支援し、就学前の子どもが安定、安心して質の良い教育を受けられる制度を実現すべきと説いた。
貧困問題対策本部の鈴木愛子委員(愛知県)は、保育料の額、減免制度の有無・対象・方法などが、必ずしも所得に応じたものになっていない実情を明らかにした。
植松直人氏(全国学校事務職員制度研究会)は、義務教育は無償でも保護者の負担金は別途必要であり、負担金の未払いによって教育を受ける権利を奪われている子どもがいることに危機感を示した。
県立高校の教諭は、偏差値があまり高くない高校の生徒ほど家庭の経済状況が厳しく、アルバイトに多くの時間を割いた結果、学業や大学受験に支障を来しているとの悪循環を指摘した。
柴田武男講師(聖学院大学)は、奨学金を利用して大学に進学したものの、卒業後も十分な収入が得られず、奨学金を返還できない者が存在するという問題を語った。
桜井啓太准教授(名古屋市立大学)は、生活保護世帯への学習支援費が定額から実費の支給に変更され、先払いを要する可能性があるなど、生活保護基準の見直しは貧困対策に逆行する側面があると指摘した。


教育の機会均等に向けて

大内裕和教授(中京大学)は講演の中で、教育費を親が負担するという現状が限界にきているものの、祖父母の支援、貧困や格差を容認する風潮の広がりゆえ、現状が打破されないと説いた。そして、教育の機会均等に向け、税の再分配機能の回復が重要であり、税における「応能負担原則」を目指すべきと訴えた。



次世代の国際交流・国際司法支援を担う弁護士養成研修
世界に広がっている日弁連の国際交流の窓口
~若手会員が活躍できる国際交流活動~
5月9日 弁護士会館

日弁連は、本年1月から国際交流・国際司法支援活動への理解を広めるため連続研修を開催してきた。今回はその第6回目(最終回)として、日弁連が参加している国際的な法曹団体の活動への参加の現状と、若手会員の活躍の可能性をテーマに研修を行った。

 

国際交流委員会の手塚裕之委員(第一東京)が、国際法曹協会(IBA)の組織の概要や活動目的、日弁連との関わりについて説明した。手塚委員は、IBAに関与した経緯や仲裁委員会での活動内容、人権問題等について日弁連の委員会と連携して活動したことに触れ、興味のある分野や得意分野を生かすこと、日本人としてのアイデンティティを持って世界を知ることが重要であると若手会員に期待を寄せた。
アジア太平洋法律家協会(LAWASIA)理事を務める国際交流委員会の高谷知佐子副委員長(第二東京)は、LAWASIAの概要や年次大会、分科会等の活動について説明した。LAWASIAには裁判官や学者なども参加しており、ビジネス法分野のみならず家族法関係、人権関係の活動も活発であると述べた。そして、自身の経験を基に、若手の会合に積極的に参加して仲間をつくり、会議に継続的に参加してスピーカーになるなど、若手会員が積極的に国際会議に関わることを勧めた。
若手法曹国際協会(AIJA)日本代表を務める国際交流委員会の樋口一磨幹事(東京)は、45歳までの若手法曹で構成されるAIJAについて、欧州の会員の比率が特に高く、欧州の法曹と交流するのに適していると説明した。また、若い参加者が主体的に参加しており、交流を深めるためのイベントも数多く開催されているなどの特徴を挙げた。
質疑応答では参加者から活発な質問がなされ、3人の講師は、国際交流には費用がかかるが、世界的な視点で問題点を認識できること、国際会議で発表する機会を得られること、外国法曹と交流できることなどから、自己投資として有意義であると語った。


 

市民後見人・親族後見人の支援
成年後見制度利用促進基本計画に関する連続学習会(第6回)
5月9日 弁護士会館

arrow_blue_2.gif成年後見制度利用促進基本計画に関する連続学習会(第6回)「市民後見人・親族後見人の支援」


2017年3月に閣議決定された「成年後見制度利用促進基本計画」(以下「基本計画」)を受け、日弁連では、専門家等を講師として連続学習会を開催している。
第6回目は、基本計画に明記された、中核機関が担うべき後見人支援機能をテーマに取り上げた。


裁判所の対応と各地の取り組みについて報告

西岡慶記氏(最高裁判所事務総局家庭局付)は、家裁には後見人等から様々な質問が寄せられているが、家裁が福祉的な助言を行うことは難しい。今後中核機関ができたとしても、家裁が監督を行うことに変わりはなく、後見人支援を行う中核機関と連携し、本人がメリットを実感できる運用を目指すと述べた。
伊関玉恵氏(大阪市社会福祉協議会大阪市社会福祉研修・情報センター副所長兼企画研修担当主幹/大阪市成年後見支援センター前所長)は、大阪市成年後見支援センターで取り組んでいる市民後見人支援等の活動について報告した。きめ細やかな活動により密な見守りや支援ができ、ボランティア精神に基づく市民活動が可能になっていると利点を挙げ、今後は、市民後見人をバックアップする体制のさらなる充実が求められると指摘した。
市川しのぶ氏(伊賀市社会福祉協議会)は、三重県伊賀市と名張市の取り組みを紹介した。両市は、伊賀地域福祉後見サポートセンターを設立して成年後見制度利用支援などを委託している。親族後見人同士の交流を促すため、「後見人のつどい」を年2回開催し、孤独になりがちな後見業務の不安を少しでも軽くするよう心掛けていると語った。


意見交換

続いて、中核機関における親族後見人支援の在り方と課題について意見交換を行い、日弁連高齢者・障害者権利支援センターの八杖友一事務局次長(第二東京)は、親族後見人の支援は、相談会の実施や経験交流会の開催など、ケースバイケースで適切に行うべきであり、支援に必要なマンパワーと予算を確保しなければならないと指摘した。



事業再生シンポジウム
経営者保証に関するガイドラインの多様な展開と特定調停による活用
4月16日 弁護士会館

arrow_blue_2.gif事業再生シンポジウム「経営者保証に関するガイドラインの多様な展開と特定調停による活用」


2013年12月、中小事業者の抜本的な再生スキームとして「経営者保証に関するガイドライン」(以下「GL」)が公表され、2014年12月にはGLに基づく保証債務の整理のための特定調停手続(以下「本スキーム」)の運用が開始された。本スキームにより中小事業者の再生や経営者保証人の債務整理が実現される事例が徐々に増えている。
事業再生の多様な在り方を紹介し、関係者に問題意識を高めてもらうため、シンポジウムを開催した。


事業再生の早期決断が重要

 

基調講演を行う家森教授家森信善教授(神戸大学経済経営研究所)が基調講演を行った。経営者の個人保証は、事業再生や廃業を決断する足かせとなっているが、早期に決断ができれば、経営者は再チャレンジの可能性を高められるし、金融機関も債権回収額を大きくできるメリットがある。GLや本スキームを活用した早期対応が重要であり、弁護士は税理士をはじめとする他士業と連携して関与していくべきと語った。


GLの活用事例


日弁連中小企業法律支援センターの委員らが、GLの活用事例を分析・紹介した。会社と保証人の双方が特定調停を利用する一体型のみならず、最近では、会社は破産し、保証人のみが特定調停を利用する単独型の活用が進んでいることや、GLに基づき「華美でない」自宅を保証人の残存資産とした再生事例などが報告された。


債務者・金融機関 いずれにもメリット

 

パネルディスカッションで黒木正人氏(飛騨信用組合専務理事)は、本スキームについて、手続コストが低廉で使いやすい、信用情報への登録がされないなど、債務者にとってメリットがあり、他方、裁判所と弁護士の関与によって公平性が担保され、金融機関にとってもメリットがあると評価した。
佐々木宏之氏(北海道銀行融資部債権管理室上席融資役)は、GLを活用した廃業支援は、経営資源の再活用、ひいては地域経済の活性化につながると指摘し、金融機関としても、残存資産について適切な譲歩をしていく必要があると述べた。



シンポジウム
核燃料サイクル問題を考える
私たちは原発、再処理・プルトニウムとどう向き合うのか
4月19日 弁護士会館

arrow_blue_2.gifシンポジウム「核燃料サイクル問題を考える~私たちは原発、再処理・プルトニウムとどう向き合うのか~」


操業開始の見通しが立たない六ヶ所再処理工場の総事業費は、当初の見込みの9400億円から13.9兆円にのぼり、これが国民負担となっていく。福島第一原子力発電所事故により原発の安全神話が崩壊するなど、核燃料サイクルは実質的に破綻している。
今後、核燃料サイクル問題にどのように向き合うべきかを考えるためシンポジウムを開催した。


核燃料サイクル政策の課題

 

鈴木達治郎教授(長崎大学核兵器廃絶研究センター/前内閣府原子力委員会委員長代理)が基調報告を行い、経済性・安全性からも使用済み核燃料の全量再処理路線からの脱却が必要であると訴えた。さらに、核燃料サイクル政策を再検討して次の「エネルギー基本計画」の策定に向けて議論を開始する時期が来ていると述べた。
伊原智人氏(元国家戦略室企画調整官)は、当時、策定に深く関与した「革新的エネルギー・環境戦略」(2012年9月14日/内閣官房エネルギー・環境会議)について、2030年代に原発稼働ゼロを可能とするようあらゆる政策資源を投入するとある一方、従来の方針に従い再処理事業に取り組むとあり、一見矛盾しているように読めるが、関係自治体との協議等を通じて将来的に再処理事業への取り組みを見直すことにより矛盾を解消できると考えていたと述べた。


なぜやめられないのか

 

青森県弁護士会公害対策委員会の浅石紘爾委員長は、逆風下においても再処理政策をやめられない理由として、青森県がいわゆる原子力マネーを受け取り、多数の雇用が創出されている現状や、再処理政策を変更した場合に、使用済み核燃料の受け入れ先が存在しない問題などを指摘した。


アメリカはすでに廃止

 

逢坂誠二衆議院議員(立憲民主党)は、アメリカがコスト高を理由に核燃料サイクルを廃止したことに触れ、これ以上続ける意味はないと訴えた。
参加した他の国会議員からも核燃料サイクルへの疑問点が指摘された。



JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.132

宮崎最高裁判事を訪ねて

本年1月9日付で就任した宮崎裕子最高裁判事を訪ね、現在の執務状況や今後の抱負などを伺いました。

(広報室嘱託 本多基記)


法曹を目指した動機は

宮崎判事 私が大学を卒業する頃は、男女雇用機会均等法が制定される前で大卒女子の就職先が少なく、民間企業に就職することは難しい時代でした。そのような時代背景もあって、資格を取得して仕事をしたいと考えていました。高校生の頃までは、進路として医師など理系の仕事も考えていましたが、父が裁判官で法曹という職業になじみがあったため、法学部に進学しました。勉強するうちに裁判官になりたいと思うようになり、司法試験を受験しました。修習生になってしばらくして結婚することになり、転勤のない弁護士を選びました。


最高裁判事就任前の仕事の内容は

司法修習終了後、渉外事件を扱う都内の法律事務所に入所しました。入所4年後にハーバード・ロー・スクールに留学し、修了後は世界銀行に2年間勤務して東南アジアや中国などへの貸付案件に携わりました。その後日本に戻り、弁護士として活動しながら、通商産業省(当時)の審議会の委員や東京大学法科大学院の客員教授、日弁連税制委員会委員、新司法試験考査委員(租税法)などを務めました。弁護士としてのキャリアの前半は主にM&Aなど企業法務に携わりましたが、徐々に税務関連の仕事の割合が増え、2000年前後頃からは税務関係の紛争案件を扱うようになり、法廷経験も増えました。


現在の執務状況や1日の過ごし方は

現在は、審議に加わるほか、記録を検討する日々で、就任して3か月(取材当時)ですが、まだ経験できていないことも多く、法廷経験もこれからです。波はあるものの、1日に検討しなければならない事件数がかなり多いことから、弁護士時代には外出しない日はほとんどなかったのですが、判事就任後は外出する機会が減りました。昼食で外出するのも週2回程度しかありません。


趣味を教えてください

歌舞伎は好きで月に1回ぐらい観劇をします。ゴスペルや読書も好きですが、判事就任後はなかなか時間が取れません。特に推理小説が好きで、小学生の頃からエラリー・クイーンの作品をよく読みました。少し落ち着いたら、読書もしたいと思っています。


職務にあたり心掛けていることは

弁護士になった頃から「木を見て森を見ず」にならないように心掛けています。多角的に物事を検討するということです。依頼者の言い分のみにとらわれず、相手方からの反論や裁判所の判断を見据えた多角的な視点を持って業務に臨むように心掛けていました。判事就任後もそのスタンスは変わらず、事件全体を多角的な視点で捉え、検討するように心掛けています。最高裁にはさまざまなバックグラウンドを持った判事がいますので、多角的な視点から議論がなされます。物事を多角的な視点で検討するという点において、これまでのあらゆる経験が生きると思っています。


最高裁判事として意識していることは

最高裁は、最終判断を任されているのもさることながら、その判断内容が事例を超えた普遍的な判断として影響を持つことがあります。判決が実務に与える影響は非常に大きく、重大な責任を負っていると感じています。また、国民から理解され信頼される司法の実現が民主主義の実現につながることから、判決には分かりやすい表現を用いなければならないと考えています。


弁護士に対するメッセージをお願いします

訴訟において事案の争点を捉えて主張をし、提出すべき証拠を提出するのは弁護士の重要な役割です。的確な主張立証ができなければ、それを前提に裁判が行われてしまいます。上告審では事実認定はできないので取り返しがつかないこともあります。
代理人が提出する上告・上告受理申立理由書には簡にして要を得ているものもありますが、原審までの事実主張の単なる繰り返しに多くの紙面を割いてしまっているものもあります。上告審は法律審であることを意識して、的確な法律論を展開することが求められると思います。


弁護士会に期待することは

弁護士が扱う個別の事件からではアプローチできない制度論や法改正の問題などについて適切に問題提起・提言されることを期待しています。国民にとって法制度がより良いものになるよう取り組んでほしいと思います。



宮崎裕子最高裁判事のプロフィール

1976年
東京大学法学部卒業
1977年
司法修習生
1979年
弁護士登録(第一東京弁護士会)
1984年
ハーバード・ロー・スクール修了
1984年
世界銀行法務部カウンセル
1993年
通商産業省産業構造審議会委員
2004年
東京大学法科大学院客員教授
2007年
日本弁護士連合会税制委員会委員
2011年
新司法試験考査委員
2018年
最高裁判所判事


日弁連委員会めぐり95


国際人権条約(自由権・拷問等禁止・強制失踪)に関するワーキンググループ

 

今回の委員会めぐりは、市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」)等に関する日本政府報告の審査への対応等を行っている国際人権条約(自由権・拷問等禁止・強制失踪)に関するワーキンググループです。
活動内容等について、海渡雄一座長(第二東京)、石田真美事務局長(兵庫県)にお話を伺いました。

(広報室嘱託 柗田由貴)


WG設置の経緯

2017年4月、国際人権(自由権)規約問題WGと、拷問等禁止条約に関するWGは、取り扱う人権課題の多くを共通にすることから統合されました。また、強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約(以下「強制失踪条約」)に関する人権課題も多数重複していることに鑑み、同条約も守備範囲に含めることとし、本年1月に当WGが発足しました。
従前は、日本政府報告の審査の度にWGの設置と解散を繰り返してきましたが、対応すべき条約が増えたため、現在はほぼ常設のWGとなっています。


活動内容

海渡座長(左)と石田事務局長 過去の審査を記録として取りまとめた書籍を手に国連自由権規約委員会では、第7回審査の手続が始まっています。今回から簡易報告審査制度が適用され、日本政府は同委員会が採択した事前質問リストに従って報告することとなったため、このリストに取り上げられるか否かが重要です。そこで昨年は、同委員会に事前質問リスト作成のための日弁連報告書を提出し、ジュネーブにてロビー活動を行いました。リスト採択後の現在は、日本政府報告に対応する日弁連報告書を作成するための準備を進めています。
また、国連強制失踪委員会では、本年11月に第1回審査が行われる予定であり、この審査に向けた日弁連報告書の作成を現在行っています。
拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約(拷問等禁止条約)についても、今後日本政府報告に対応する日弁連報告書を作成する予定です。


会員へのメッセージ

強制不妊の対象となった人の補償を受ける権利の問題は、1998年の自由権規約第4回審査で既に勧告されていました。他にも光を当てるべき人権課題が残っており、皆さんにもぜひ国際人権活動に関心を持っていただきたいです。
また、日弁連の各報告書等の考え方や表現には、通常の弁護士業務でも利用できるものが多数あります。身近な事件の中でもぜひWGの成果等を活用してください。


*日弁連のウェブサイト(HOME>日弁連の活動>国際人権・国際交流のための活動>国際人権ライブラリー)もご覧ください。



ブックセンターベストセラー
(2018年3月・手帳は除く) 協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名
1 一問一答 民法(債権関係)改正 筒井健夫・村松秀樹 編著 商事法務
2 六法全書 平成30年版 山下友信・宇賀克也・中里実 編集代表 有斐閣
3 金融六法 平成30年版 金融法規研究会 編 学陽書房
4 超早わかり・「標準算定表」だけでは導けない 婚姻費用・養育費等計算事例集(中・上級編)[新装版] 婚姻費用養育費問題研究会 編 婚姻費用養育費問題研究会
裁判官!当職そこが知りたかったのです。-民事訴訟がはかどる本- 岡口基一・中村真 著 学陽書房
6 難しい依頼者と出会った法律家へ -パーソナリティ障害の理解と支援- 岡田裕子 編著 日本加除出版
7 別冊ジュリストNo.238 民法判例百選Ⅱ 債権[第8版] 窪田充見・森田宏樹 編 有斐閣
8


別冊ジュリストNo.237 民法判例百選Ⅰ 総則・物権
[第8版]
潮見佳男・道垣内弘人 編 有斐閣

事業承継法務のすべて

日本弁護士連合会日弁連中小企業法律支援センター 編 きんざい
10 後遺障害の認定と異議申立 -むち打ち損傷事案を中心として- 加藤久道 著 保険毎日新聞社


海外情報紹介コーナー①
Japan Federation of Bar Associations


早朝夜間法廷をめぐる攻防


2016年秋、イングランドで、一部の裁判所において早朝や夜間に開廷する試験プログラムが提案された。働く人も裁判所を利用しやすくなることや、一期日当たりの時間を長く取って充実した審理を行うことができるようになることなどが理由である。これに対して、早朝や夜間の開廷に対応できない一部の女性法曹を裁判関連業務から締め出す可能性が指摘された。バリスター・ソリシターの諸団体がプログラムに反対した結果、司法省は、2017年秋に、プログラムを修正するためその実施を延期すると発表した。なお、米国やオーストラリアの一部では、既に曜日や事件を限定して夜間法廷が行われている。


(国際室嘱託 片山有里子)