日弁連新聞 第516号

新年会長インタビュー
利用しやすく頼りがいのある司法を築く

新年明けましておめでとうございます。本年が皆さまにとって素晴らしい年となりますようお祈りいたします。

 

就任から9か月もっとも力を入れてきた課題は

民事司法の改革に特に力を入れました。
市民にとって民事司法を利用しやすく頼りがいのあるものにするために、民事司法の運用の改善とともに、司法予算の確保や法律の改正が必要です。このような取り組みは、同時に弁護士の活動基盤の強化につながります。
運用で改善できる改革課題について、日弁連としては、最高裁と協議をすることも視野に入れ、家庭裁判所の機能拡充、IT技術の活用による裁判の利便性の促進、利用者視点でのアクセス改善、簡易裁判所の機能拡充等について、議論をしていきたいと考えています。
また、2016年9月には、法制審議会に民事執行法部会が設置され、執行力の強化を目指した民事執行法制改正の審議が同年11月から始まりました。
急速なグローバル化の進展により、司法および弁護士の国際化も極めて重要な課題となっています。日弁連としては、日本の司法制度を国際標準に近付ける立法提言や、国際仲裁の重要性の発信、グローバル化に対応する人材養成など、さまざまな取り組みを進めていきたいと考えています。

 

2016年5月には、弁護士の活動や業務に影響を与える法律がいくつか成立しました

刑事訴訟法等の一部改正法がその一つです。一部の事件について取調べの全過程の録音・録画を義務付けた一方、通信傍受の拡大や捜査・公判協力型協議・合意制度も盛り込まれました。通信傍受の拡大については、該当要件の運用が厳格になされているかを注視しなければなりませんし、捜査・公判協力型協議・合意制度については、引き込みの危険等に留意しつつ、新たな制度が誤判原因とならないよう慎重に対応する必要があります。今回の改正は、実務への影響が大きいことから、全国共通のテキストを作成し、講師を派遣するなどして、すべての弁護士会で研修会を開催しました。
また、総合法律支援法の一部改正法も成立しました。これによって認知能力の不十分な高齢者・障がい者、DV・ストーカー、児童虐待等の被害者について、資力を問わない法律相談が制度化されました。2016年7月からは、平成28年熊本地震の被災者への無料法律相談(災害発生日から1年間)も始まっています。
さらに、全国の自治体に児童相談所への弁護士の配置等を義務付ける児童福祉法の一部改正法も成立し、2016年10月に施行されました。各弁護士会では、自治体および児童相談所と協議を行い、可能な限りの配置などに取り組みました。

 

「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」について

2016年10月の人権擁護大会で採択した「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」は、過去の死刑確定事件で再審無罪が相次いだことや死刑廃止国の増加などを理由に挙げ、国に対し、刑罰制度全体を改革する中で、死刑制度とその代替刑についても検討することを求め、「2020年までに死刑制度の廃止を目指すべきである」としています。

人権擁護大会では、犯罪被害者・遺族の方々の権利擁護や支援に取り組んでいる会員各位からも、貴重なご意見をいただきました。より一層、犯罪被害者・遺族の方々の声に耳を傾け、十分な支援を行うとともに、国民の中で死刑廃止等についての議論が深まるよう努力をし、宣言の実現に全力を尽くします。

 

司法修習生への経済的支援は

2016年12月19日、法務省は、司法修習生の経済的支援策に関し、法曹三者での協議を踏まえ、第71期以降の司法修習生(2017年度以降に採用される予定)に対する新たな給付制度を新設する制度方針を発表しました。

この間、453人の国会議員から、司法修習生への経済的支援の創設に賛同するメッセージが寄せられ(2016年11月末日現在)、また、国民からも多数の署名が寄せられるなど、新たな経済的支援策の実現を求める声が高まっていました。

このような状況を踏まえ、法務省が新たな経済的支援策についての制度方針を発表した意義は大きいと思います。裁判所法の改正を可能な限り早期に実現したいと考えています。

 

今後の課題は

会務執行方針の第1として「平和と人権を守る」を掲げています

2016年5月の定期総会では「安保法制に反対し、立憲主義・民主主義を回復するための宣言」を、同年10月の人権擁護大会では「憲法の恒久平和主義を堅持し、立憲主義・民主主義を回復するための宣言」を採択しました。日本国憲法の基本理念である立憲主義ならびに基本原理である国民主権および恒久平和主義を堅持する立場から、安保法制の憲法上の問題点を広く国民と共有し、全国の弁護士会とともに、その適用・運用に反対し、廃止・改正に向けたさまざまな取り組みをしていきます。

 

不祥事への対策は

事前の防止策として、預り金口座の開設に加えて、弁護士会への口座の届け出を義務付けることや、弁護士会が調査権を発動する端緒について明文化することを検討しています。

事後の対応策としては、依頼者見舞金制度(仮称)の創設を検討しています。会員が預り金を横領した場合、個人の被害者に対して、被害者1人につき500万円を上限として見舞金を支給することができるというものです(ただし、加害弁護士1人当たりに関して給付される上限は2000万円)。

理事会で議案承認後、3月の臨時総会で、これらの導入の是非をご審議いただく予定です。

 

会員へのメッセージ

インタビューに応じる中本会長今日、日弁連の会員数は約3万9000人となり、その約半数はここ10年で弁護士登録をした会員です。会員の増加に伴い、世代間や地域間で、弁護士会に対する意識や要求が異なってきているように感じられます。そのため、テーマによっては、会内合意形成が大変困難になってきています。

しかし、私たち弁護士は、強制加入制度の下で、自治権を有し、法律事務を独占的に行うことができる弁護士制度の中にあります。すべての弁護士は同じ船に乗り、人権擁護と社会正義の実現という使命を担っているのです。

日弁連は、平和と人権を守る取り組み、民事・刑事司法改革、法曹養成制度改革、弁護士自治の維持・強化、弁護士の国際活動の拡大など、多くの課題を抱えています。

また、社会の変化に伴い、市民の法的ニーズも日々変容し、拡がっており、そうした動きに応えられるよう、弁護士の業務拡充・活動領域の拡大をより一層進める必要があります。

今こそ、会内のさまざまな意見を集約し、合意形成を図って、弁護士の活動基盤を強固なものにするとともに、これらの課題を一つ一つ改善・改革していかなければなりません。加えて、これまで諸先輩方が形成・培ってきた今日の弁護士制度を維持し、さらに発展させる必要があります。そして、利用しやすく頼りがいのある司法を築き、法の支配を社会の隅々に行き渡らせるという目的に取り組み、希望と活力にあふれる司法の実現を目指していきたいと考えています。

本年1年間も、会員の皆さまのご支援、ご協力を心からお願い申し上げます。

(インタビュアー・広報室長 佐熊真紀子)

 

 

  2017年の広報施策

武井咲さんを起用したCM動画を放映します!

 

日弁連では、女優の武井咲さんを起用したCM動画を制作しました。昨年に引き続き、弁護士会でもご活用いただけます。

本CM動画は、テレビ番組(地上波・BS)、交通系広告(JR東日本、JR西日本、東京メトロ)、YouTube上の広告で放映します。

放映先と放映時期の詳細は、日弁連ホームページでご確認ください。(HOME>お知らせ>2017年>1月5日付お知らせ欄)

なお、CM動画は日弁連ホームページの「CMギャラリー」と「NICHIBENREN TV」に掲載しています。ぜひご覧ください。

 

ポスター等も引き続き活用!

2016年から活用中の武井咲さんを起用したポスター等について、使用期間が延長されました(本年12月末日まで)。こちらも、引き続きご活用ください。

 

 

女性副会長クオータ制の導入に向けて
会則改正案等を弁護士会・弁連に意見照会

「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する」との政府目標を受け、日弁連は、「日弁連の理事者(会長、副会長、理事)に占める女性会員の割合を、2017年度までの5年間で15%程度に増えるよう期待し、そのための条件整備等の取組を推進する」(第二次日本弁護士連合会男女共同参画推進基本計画、2013年3月策定)と定めている。

副会長については、2013年度に2人(副会長における女性割合15.38%)、2014年度に3人(23.08%)の女性会員が就任し、目標割合をいったんは達成した。

しかし、その後、2015年度は0人(0%)、2016年度は1人(7.69%)と、目標割合を大幅に下回り、安定的・継続的に女性副会長の割合を確保するには至っていない。

そこで、「日弁連の理事者に占める女性会員の割合を高めるための方策実現ワーキンググループ」(2016年2月設置)で検討した結果、まずは副会長の人数を2人増員した上で、その2人の副会長を女性とする内容の会則改正を行い、クオータ制による積極的改善措置を実施していくことを提案した。

本提案については、現在、弁護士会および弁護士会連合会に対し、意見照会中である。

人権擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の団体である日弁連の政策方針決定過程において、女性会員の参画は非常に重要である。また、本提案が実現すれば、男女共同参画推進へ向けた、日弁連および弁護士の真摯な姿勢を社会に表明することにもなる。

本提案の前向きなご検討をお願いしたい。

(日弁連の理事者に占める女性会員の割合を高めるための方策実現ワーキンググループ座長 山田秀雄)

 

日弁連短信

民事執行法改正の議論にご注目を

 

民事司法の改革は、弁護士の活躍の場を拡げるとともに、市民にとって身近で利用しやすい司法を実現するために重要な課題ですが、まだまだ十分な改革が進んでいるとはいえません。そこで、今年度執行部は、民事司法改革を重点課題の一つと位置付け、各種取り組みを進めているところです。

法改正によって実現すべき改革課題である民事執行法の改正については、2016年11月から法制審議会民事執行法部会において検討が始まりました。具体的には、①債務者財産の開示制度の実効性の向上、②不動産競売における暴力団員の買受け防止の方策、③子の引渡しの強制執行に関する規律の明確化という3つの項目について、今後約1年から1年半の検討を重ねて、法案化される予定となっています。

①では、従前の財産開示制度の実効性を高めるための見直しの議論に加え、新たな制度として、第三者から債務者財産に関する情報を取得する制度の創設がホットな議論になると思われます。②では、暴力団員に該当する旨の回答が寄せられた場面でのみ執行裁判所は必要に応じて証拠調べを行った上で売却の許可・不許可の実質的な判断をすることとし、暴力団員に該当しない旨の回答が寄せられた場面では直ちに売却許可の判断をするという片面的な審査枠組みの導入の是非が議論されます。事務次長 二川 裕之③では、間接強制前置、債務者との同時存在、執行場所、執行機関などの各論点において、いわゆるハーグ条約実施法との対比で、国内における子の引渡しの強制執行制度をどのように整備していくのかが議論されます。

上記3項目以外にも、裁判所からの問題提起により、債権執行事件の終了をめぐる規律の見直しが議論される予定であり、日弁連としても新たな改正項目の問題提起をしていくか否かを早急に検討する必要があります。

日弁連では、関連委員会により構成されるバックアップ会議において急ピッチで法制審議会への対応・検討を重ねています。今後、会内議論を深めて意見集約を図っていきますが、何よりも実務に大きな影響を与える基本的な手続法の改正であることから、検討の議論経過に継続的にご注目いただきたいと思います。

なお、各論点に関するこれまでの議論の詳細については、2016年6月に発表された「民事執行手続に関する研究会報告書」(一般社団法人金融財政事情研究会取りまとめ)をご参照ください。同報告書は、法制審議会民事執行法部会の議論状況等とともに法務省のホームページでご覧いただけます。

(事務次長 二川裕之)

 

 

住民訴訟における首長等の軽過失免責を認める改正案の是正を求める院内集会
11月17日 衆議院第一議員会館

2016年3月に出された地方制度調査会の答申では、地方公共団体の長などの軽過失を免責する方向での住民訴訟制度の見直し(以下「改正案」)について言及している。このような改正案が認められると、違法な財務会計行為の是正・抑止といった住民訴訟の機能が失われかねない。
改正案に反対の立場から、院内集会を開催した。

 

冒頭、行政訴訟センターの山下清兵衛委員長(第二東京)が、増税は税金の無駄遣い防止とセットで議論・実施しなければならないところ、税金の無駄遣いを防止するための住民訴訟制度を後退させる法改正を行ってよいのか、国会で問い掛けなければならないと述べた。

続いて、八木正雄事務局次長(大阪)は、改正案によれば、談合や収賄など、刑事事件として摘発され有罪となるような事案以外は重過失がないとして免責されるおそれがあると、問題点を指摘した。

さらに、畠田健治副委員長(大阪)は、現法下における過失立証の困難さから推し量れば、改正案での重過失立証のハードルの高さは容易に予想できると付言した。

また、内田隆氏(全国市民オンブズマン連絡会議事務局)からは、市民オンブズマンの総意として、改正案に断固反対との意見が表明された。

本院内集会に参加した元八女市長である野田国義参議院議員(民進党)は、首長経験者の立場から、本改正案により首長等の免責の幅が広がれば、行政に対する市民の信頼を失いかねないと、強い危機感を示した。

 

第69期 司法修習修了者
1198人が一斉登録 200人余りが就職未定の状況(推計)

2016年12月15日、二回試験に合格した司法修習終了者のうち1198人が日弁連に一斉登録した。

同日時点での未登録者数は416人であり、終了者全体の約23.6%を占め、前年同時期よりも未登録者の割合はやや低下した。

本年1月の登録予定者や、当初より登録を予定していない人数を差し引くと、200人余りの終了者が就職未定の状況にあると推計される。

引き続き、若手弁護士サポートセンターを中心に、未登録者への採用情報提供、即時独立支援、さらには登録後のフォローアップを続けるとともに、今後の法曹養成・法曹人口の議論において、かかる就職難の状況も踏まえた検討がなされるよう働き掛けていきたい。

修習終了者数 登録者数 未登録者数
新62期 1,992 1,693 133
新63期 1,949 1,571 214
新64期 1,991 1,423 400
現新65期 2,080 1,370 546
66期 2,034 1,286 570
67期 1,973 1,248 550
68期 1,766 1,131 468
69期 1,762 1,198 416

※登録者数・未登録者数は各期一斉登録日時点

 

いわゆる共謀罪に関する法案の上程に反対する院内学習会
11月29日 衆議院第二議員会館

いわゆる共謀罪法案に関するこれまでの経緯と現状を踏まえ、本年の通常国会における法案提出反対の認識を共有するため、院内学習会を開催した。

当日は、国会議員12人(本人3人、代理9人)を含む約65人が出席した。

 

共謀罪法案対策本部の海渡雄一副本部長(第二東京)が基調報告を行った。現在の日本の刑事法体系では、極めて重大な72の犯罪についてのみ、未遂以前の行為(予備、準備、共謀および陰謀)を処罰対象としているところ、共謀罪法案では、600以上の犯罪を処罰対象としている点を踏まえ、同法案の本質的危険性は、対象となる犯罪の成立要件のレベルを大幅に引き下げ、犯罪構成要件の人権保障機能を破壊してしまう点にあると指摘した。

足立昌勝名誉教授(関東学院大学)は、刑事法学者の視点から、共謀罪の問題点を解説した。法案名はテロ等組織犯罪準備罪に変わったが、その実態は、「計画」しただけで犯罪が成立するという点において、内容的にはほとんど変更がないことを説明した。また、「計画」とは、「ものごとを行うために、あらかじめ、その方法、手順などを考えること、および、その考えた方法や手順のこと」であり、計画処罰の実質は思想処罰にほかならないと力説した。

 

女子中高生向けシンポジウム
女性の裁判官・検察官・弁護士の仕事や働き方ってどんなかな?
11月23日 早稲田大学

-国・地方連携会議ネットワークを活用した男女共同参画推進事業-

日本政府は、法曹関係者を含めた指導的地位において、女性が占める割合を2020年までに30%にするとの目標を掲げているが、現状、法曹に占める女性は2割程度で、女性志望者そのものも減少傾向が見られ、全体の26%程度にとどまっている。

そこで、一人でも多くの女性に法曹の魅力を伝え、女性の法曹志望者増につなげるよう、女子中高生向けのシンポジウムを開催した。

(共催:内閣府、男女共同参画推進連携会議、早稲田大学、日本女性法律家協会)

 

第1部
 基調講演 「女性法律家の魅力〜そのやりがいを語る〜」 大谷美紀子会員

大谷美紀子会員(東京)が、あらゆる問題の解決にかかわる法律の専門家になろうと決意して司法試験を受験したこと、人権侵害をなくしたいとの思いから弁護士会で活動を続けたこと、その結果、2017年3月から国連子どもの権利委員会委員に就任することになったことなど、自らの経験を基に、弁護士の仕事の拡がり・可能性について紹介し、一人でも多くの女性に法曹になってほしいと呼び掛けた。

第2部
 パネルディスカッション 「女性法律家のさまざまな働き方」

法曹三者からパネリストを招き、それぞれのやりがいなどについて紹介した。

矢尾和子判事(東京地裁)は、中立公平な立場で判断を下す裁判官の仕事の魅力や、和解成立による解決の醍醐味などを語った。

鈴木朋子検事(東京地検)は、自分の良心に素直に従って起訴・不起訴等を判断できる魅力や真相に迫る捜査の醍醐味のほか、さまざまな分野で活躍できることなどを紹介した。

佐藤倫子会員(香川県)は、社会的弱者に寄り添い、共に問題を乗り越えていく際のやりがいや、自ら仕事のスタイルを決め得る自由業ならではの利点を語った。

 

第3部

 グループセッション・説明会

学生たちは、興味がある分野を選び、その分野で活躍する女性法曹から話を聞くグループセッションに参加した。

保護者や教員向けには、司法試験制度や法曹三者の仕事内容・労働条件、女性法曹の活躍の場の拡がりなどに関する説明会を開催した。

当日は、定員300人の大隈記念講堂小講堂が多くの女子中高生で埋め尽くされる盛況ぶりであった。

家事法制シンポジウム
法的実親子関係の成立ルールを考える
11月26日 弁護士会館

民法上の嫡出推定・否認制度を分析するとともに、近年の家族観の変遷、子どもの権利保障の必要性などに照らし、立法課題と法的実親子関係の成立ルールについて考えるためシンポジウムを開催した。

 

基調報告では、まず、家事法制委員会の山本健太郎委員(大阪)が、嫡出推定・否認の規定や最高裁判例など法的実親子関係に関する基礎知識を概説した。

続いて、小池泰教授(九州大学法学研究院)が「嫡出推定・否認制度の現状と課題」と題し講演を行った。現行制度下の①婚姻成立から200日経過前の出生子、②推定の及ばない子、③離婚後300日以内出生子の各問題について、その具体的内容と現在の実務上の取り扱いを解説した。また、②の問題については、形式的に民法第772条に該当する場合に、現行の嫡出否認制度が極めて厳格であることを回避するために最高裁の採る外観説(前夫等と母親が性的関係を持つ機会がなかったことが外観上明白である場合に同条の嫡出推定が及ばないとする説)のような不明確な基準に拠るのではなく、端的に嫡出否認の主張権者・主張期間の制限を緩和する等の法改正で対応すべきと指摘した。

パネルディスカッションでは、村岡泰行会員(大阪)が、嫡出推定が争点となった最高裁平成26年7月17日判決の事件で代理人を務めた経験に基づき、子どもの利益・視点の重要性を指摘した。そして、上記判決を踏まえ、外観説を硬直的に用いれば子どもの利益が損なわれると述べた。

井戸まさえ氏(NPO法人親子法改正研究会代表理事)は、嫡出推定・否認制度が子どもの無戸籍問題の一因となっていること等を指摘し、無戸籍問題を解消するための法改正や戸籍実務の変更が必要であると主張した。

小池教授は、ドイツの法改正で否認権が拡大されたことなどに触れ、日本の嫡出否認制度についても、子や母に否認主張を認め、主張権者ごとに主張期間を検討する方向での法改正が考えられると指摘した。

また、鈴木朋絵委員(山口県)も、嫡出否認の制限を緩和することに賛意を示した。その上で、子どもについては子どもの自己決定の見地から、母については育児の負担などの見地から、それぞれ否認主張を認めるべき適切な期間を検討すべきであるとの意見を述べた。

 

経験交流会
退院・処遇改善請求手続における弁護士の活動
12月3日 弁護士会館

退院請求代理人/精神医療審査会委員として

精神保健福祉法は、精神科病院に入院中の患者や家族等が、退院や処遇改善の措置を求めることができると規定している(第38条の4)。

退院請求等の代理人活動を普及することなどを目的として、具体的な代理人活動例を示す経験交流会を開催した。

 

前半では、阿部泰会員(札幌)ほか2会員が、活動事例を報告した。

阿部会員は、統合失調症の患者について、1回目の退院請求が認められなかった後も再度相談を受けて受任し、基幹相談支援センター等と連携して退院先を見つけ、ようやく退院にこぎつけた事例を紹介し、退院先の選定等に当たり福祉関係者と連携することの重要性を指摘した。

ワークショップの様子後半では、モデルケースを前提としたワークショップを実施した。

ワークショップでは、日ごろの悩みや疑問についても活発に意見交換された。

助言者として参加した伊藤順一郎氏(精神科医/メンタルヘルス診療所しっぽふぁーれ院長)は、統合失調症と診断されても即座に医療保護入院の要件に該当するわけではなく、周囲のサポートにより問題なく生活できるので、統合失調症患者が危険という意識を変えてほしいと訴えた。

金川洋輔氏(精神保健福祉士/サポートセンターきぬた)は、退院請求の際に病院の精神保健福祉士の協力が得られないときは、基幹相談支援センターなど行政機関の福祉担当者に相談してほしいと要望した。

森豊会員(福岡県/九州弁護士会連合会精神保健に関する連絡協議会委員長)は、退院・処遇改善請求を審査する精神医療審査会は、入院の必要性なしに入院継続の判断をすることが人権侵害に当たることを、強く認識すべきであると強調した。

 

第89回 国際人権に関する研究会
国際人道法の発展と現代的課題
11月15日 弁護士会館

日弁連では、国際人権諸問題に関する基礎的な調査・研究および情報交換を行うことを目的に、定期的に「国際人権に関する研究会」を開催している。

今回は、近年、世界各地で市民が戦争に巻き込まれる事態が頻発していることを受け、「国際人道法」について、石井由梨佳講師(防衛大学校人文社会科学群国際関係学科)による講演を行った。

なお、日弁連では、大学生・大学院生を対象とした「国際人道法模擬裁判アジア・太平洋州大会」(赤十字国際委員会等主催)に裁判官役を派遣するなどして、国際人道法への理解を市民に広げるための活動を行っている。

 

司法試験シンポジウム
司法試験の更なる改善と改革に向けて
11月26日 弘済会館

司法試験の内容、実施方法および制度の在り方について議論を行うためシンポジウムを開催した。

 

法科大学院センター委員・幹事等による報告

冒頭、2016年の司法試験の傾向分析結果や、法務省の「司法試験出題内容漏えい問題に関する原因究明・再発防止検討ワーキングチーム」による提言などについて報告があった。

 

パネルディスカッション

各報告を受けて、司法試験の出題内容や考査委員の選任体制、司法試験制度の改革方向について、井田良教授(中央大学大学院法務研究科)、山本和彦教授(一橋大学大学院法学研究科)、山﨑雄一郎会員(東京/元明治大学法科大学院特任教授、元司法研修所教官)らをパネリストとして迎え、ディスカッションを行った。

 

 

JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.118

東住吉事件を振り返って
東住吉事件再審弁護団インタビュー

かつては「開かずの扉」と言われた再審ですが、近年、大きな動きがあり、2014年3月に袴田事件、2016年6月に松橋事件において再審開始決定が出されました(いずれも即時抗告審係属中)。

今回は、2016年8月に再審無罪判決が言い渡された東住吉事件の青木惠子氏の主任弁護人である齋藤ともよ会員(大阪)、朴龍晧氏の主任弁護人である乘井弥生会員(大阪)からお話を伺いました。

(広報室嘱託 神田友輔)

 

乘井弥生会員(右)と齋藤ともよ会員(左)

事件の概要

1995年7月、大阪市東住吉区内の家屋で火災が発生し、同家屋に居住する小学6年生の女児が亡くなった。女児の母親である青木氏とその内縁の夫である朴氏が保険金目的による放火殺人の被疑者として逮捕・起訴され、2006年に両名についていずれも現住建造物等放火、殺人、詐欺未遂の罪で無期懲役の判決が確定した。 

これに対し、青木氏、朴氏の両名は、本件火災は放火ではなく火災事故によるものであるとして、事件性を争い、2009年に再審請求を行っていたところ、2012年3月に大阪地裁が再審開始を決定し、2015年10月には、大阪高裁が、大阪地裁の再審開始決定に対する検察官の即時抗告を棄却した。

なお、日弁連は2012年7月、本件再審請求の支援を開始した。

 

無実を確信した時期など

齋藤主任弁護人は、逮捕の翌日に当番弁護士として接見し、青木氏から「やっていない」と聞いたときに無罪の感触を得たが、検察が提出した有罪立証の証拠を見て(直接証拠が自白しかなかった)、それが確信に変わったという。

乘井主任弁護人は、第一審公判途中で国選弁護人に選任されたが、自白が不自然で秘密の暴露がなく、客観的な裏付けもなかったことから、無実であることを確信したという。

青木氏および朴氏が、第三者に罪をなすりつけるなど、犯人であれば通常行うであろう言動を示さなかったことも、両主任弁護人が両者の無実を信じる後押しとなったと振り返った。

 

争点は自白の任意性・信用性と火災原因

事件の争点は、①自白の任意性・信用性、②火災原因にあったという。

乘井主任弁護人は、火災原因について、事実上、立証責任が被告人側に課され、無罪推定の原則が絵に描いた餅になってしまっていたと指摘した。弁護人には、科捜研などの組織がないことから、再現実験などを行うことが非常に困難だったが、そのような状況の中、火災原因が車から漏れたガソリンにあったと実証できたことが無罪判決につながったと分析した。

 

事件を振り返って

乘井主任弁護人は、そもそも起訴すべき事件であったのか、なぜ自白について疑問を持たなかったのかなどについて、再審無罪判決で終わりにすることなく、ぜひ検証を続けてほしいと語った。

また、齋藤主任弁護人は、日弁連、弁護士会、マスコミなどの協力をもとに、粘り強く真実を社会に訴え続けたことが再審無罪判決につながったと振り返った。

 

人権擁護委員会
第一部会(再審部会)部会長インタビュー

泉澤章部会長(東京)日弁連の支援とは

日弁連は、現在、10件の再審請求事件を支援しています。

日弁連で支援を決定すると、人権擁護委員会内に当該事件の再審事件委員会を設置し、弁護人を派遣したり、必要な費用の援助を行ったりします。

 

えん罪が起こる背景は

長期間の勾留が、えん罪発生の一因と分析しています。弁護士の立ち会いなしに厳しい取り調べを受け続ければ、その場を逃れたい一心で虚偽の自白をしてしまうことは避け難い。たとえDNA鑑定などの科学捜査が発達しても、自白に頼っている以上、えん罪を撲滅することは難しいと思います。

 

会員へのメッセージ

第一部会(再審部会)や再審弁護団にぜひ入ってほしいと思います。再審請求では、刑事弁護に精通した弁護士と一緒に確定審の記録を確認し、どこに問題があったかを検討するので、非常に勉強になります。難しい議論をやっていると敬遠せずに、ぜひ手を挙げてください。

 

続・ご異見拝聴 (2)

井田 香奈子 日弁連市民会議副議長

 

今回は、朝日新聞社でブリュッセル支局長・論説委員などを経て、現在はオピニオン編集部次長をされている井田香奈子氏にお話を伺いました。

井田氏には、2014年8月から日弁連の市民会議委員を、同年9月から市民会議副議長を務めていただいています。

(広報室嘱託 佐内 俊之)

 

井田香奈子副議長

司法とのかかわり―市民会議委員就任の経緯

2001年から約3年半、法務省の担当として司法制度改革を間近で取材する機会を得ました。その後の米国留学では、裁判長に付いて陪審の選任や審理を法廷の内側から見る機会を得て、陪審制に触れました。司法制度改革については、記事を書いた者の責任として実施状況をフォローしてきました。
これら司法とのかかわりもあって、市民会議委員に就任することになりました。

 

弁護士への理解を―法曹志望者減の背景

 

法曹志望者減の問題では、法曹志望のコスト面と心理面のハードルを下げる必要があると思います。
ロースクールの学生と話すと、初期投資の大きさが志望者減の背景にあると感じさせられます。法曹の育成は法的サービスを受ける市民全体の問題であり、コストを分担する仕組みが必要です。
心理面では、弁護士の仕事が十分に理解されていない問題があるように思います。弁護士は誰かの生き方を良い方向に変え、社会に価値をもたらす喜びのある仕事です。それを弁護士の活動等を通じて浸透させれば、意欲と能力のある若者が法曹を目指すようになるのではないでしょうか。

 

弁護士から市民へ―情報発信の問題点や在り方

 

日弁連や弁護士会は有益なイベントを開催し、社会のためになる活動をしていますが、それを社会にしっかり伝えられていないように感じます。
例えば、日弁連や弁護士会に興味・関心がある人、接点を持ったことがある人にターゲットを絞り、情報を継続的に発信していくことを試みてはいかがでしょうか。有意義な活動と情報発信を地道に続けることで、市民が法的問題に直面したときに弁護士に頼る素地が作られることが最善の道だと思います。

 

市民や社会のために―弁護士に望むこと

 

市民は法律の専門家である弁護士の指摘を受けて初めて問題点に気付くことがあります。また、世の中には、私たちマスメディアが社会的議論を呼び起こすのに苦労する問題も多数存在しています。
日弁連や弁護士会が発言することで、潮目が変わることも安保法制の議論のときなどに感じました。人権や憲法などの重要課題について、市民の利益のため、社会を良くするための取り組みを続けてほしいです。今後も、弁護士が「在野の法曹」としての役割や責任を果たされることを期待しています。

 

 

ブックセンターベストセラー
(2016年10月・六法、手帳は除く) 協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名
1 会社法 CORPORATE LAW 田中 亘 著  東京大学出版会
2 交通関係訴訟の実務[裁判実務シリーズ9] 森冨義明・村主隆行 編著 商事法務
3 企業法務のための民事訴訟の実務解説 圓道至剛 著 レクシスネクシス・ジャパン
4 立証の実務―証拠収集とその活用の手引―改訂版

群馬弁護士会 編

ぎょうせい
5 法人破産申立て実践マニュアル 野村剛司 編著 青林書院
6 事例に学ぶ交通事故事件入門―事件対応の思考と実務 交通事故事件研究会 編 民事法研究会
7 弁護士のための家事事件税務の基本―相続・離婚をめぐる税法実務― 馬渕泰至 著 学陽書房
事件類型別依頼者対応の勘所―選ばれる弁護士になるために― 官澤里美 著 第一法規
9 別冊ジュリストNo.229 会社法判例百選[第3版] 岩原紳作・神作裕之・藤田友敬 編 有斐閣
10 相続・遺言ガイドブック 第二東京弁護士会法律相談センター運営委員会 編著 LABO

 

編集後記

今回、東住吉事件の弁護人からお話を伺う、貴重な機会に恵まれた。

再審事件には、国選弁護の制度がないため、弁護人の活動は手弁当。日弁連の支援が決定するまでは、火災の再現実験なども含め、すべての費用を弁護人らが立て替えて賄ったとのことである。

弁護活動を長期間続けるに至った原動力が、青木さん・朴さん両名で合計6度の有罪判決を受けた時に感じた悔しさにあると伺ったことは、非常に印象的であった。弁護団や支援者の方々の20年以上にわたる活動と、その信念の強さに頭が下がる。

今回の取材で、再審事件の根幹は、一般的な刑事弁護と変わらないと伺った。刑事弁護への興味がきっかけで法曹を目指した初心に返り、再審事件にも積極的にチャレンジしてみようと決意を新たにした。

(Y・K)