日弁連新聞 第482号

東日本大震災から3年を迎えて
日本弁護士連合会 会長 山岸 憲司

山岸会長

東日本大震災および福島第一原子力発電所事故の発生から、早くも3年を迎えました。

残念ながら、沿岸部を中心とした被災地の復興は思うように進まず、原発事故の収束の目途も立たないなか、約26万7000人もの避難者を含めた膨大な数の被災者・被害者が不自由な生活を余儀なくされており、避難中に亡くなられた方も含め約2900人の方々が震災関連死と認定されるなど、あらためて大災害による被害が重大な人権問題であるという実態が浮き彫りになっています。

日弁連は、震災発生直後に対策本部を設置し、被災地弁護士会をはじめとする全国の弁護士会の協力の下、無料法律相談の実施やさまざまな政策提言等の被災者・被害者支援のための活動に取り組んできました。

その結果、相続放棄等の熟慮期間の延長に関する特例法、東日本大震災被災者援助特例法、原発事故子ども・被災者支援法等の立法を実現し、また、被災ローン減免制度、東日本大震災事業者再生支援機構、原子力損害賠償紛争解決センター等の新たな制度の構築にも深く関与してきました。さらには、被災地自治体に9人の弁護士が任期付職員として赴任するなど人的支援にも取り組んできました。

特に今年度、日弁連を挙げて取り組んだ原発事故による損害賠償請求権の消滅時効問題については、多くの関係者の協力を得て、昨年12月4日に、時効期間を10年とする特例法が成立するに至りました。

その一方で、実現に至らなかった政策提言や実現したものの運用面で問題を抱えている制度も存在しており、さらに、日々新たな課題も発生しています。

これらの課題の克服のために、日弁連は、被災者・被害者に寄り添い、その被害の完全回復のために、引き続き全力で取り組んでいきたいと考えます。

3面~6面は震災3周年特別号


 

法制審刑事特別部会
最終取りまとめへの議論始まる

法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会は、2月14日、21日に第23、24回の特別部会を開催した。各10回開催された2つの作業分科会における検討結果である制度設計に関するたたき台(以下「たたき台」)に基づき、最終的な取りまとめに向けて議論が始まった。

 

取調べの録音・録画制度に関し、対象事件については弁護士委員、複数の有識者委員が、裁判員裁判対象事件にとどまらず、全件の可視化が必要だが、制度開始時は検察全件を対象とし、期限を設定したうえで段階的に警察全件まで広げるべきとした。可視化の例外については、全過程の録音・録画を義務付け一定の例外を設ける案と取調官の裁量で一定の場面について録音・録画を義務付ける案が対立している。

通信傍受の対象犯罪として、たたき台では従来の窃盗・強盗・詐欺・恐喝等に加え、新たに現住建造物等放火、傷害、傷害致死などが加わった。弁護士委員は通信傍受には組織性・団体性が必要であること、対象犯罪を新たに付け加えることには反対であるが組織犯罪については少なくとも暴力団要件が必要であるとした。有識者委員は録音・録画の対象範囲が広がることが前提ではあるとしながらも通信傍受の拡大に一定の理解を示している。

証拠開示については、証拠の一覧表の交付制度や公判前整理手続の請求権の導入、類型証拠開示の対象拡大等について議論され、弁護士委員が再審における証拠開示の必要性を述べた。

被疑者国選弁護制度は勾留全件への拡大に概ね異論がない。逮捕段階への拡大については弁護士委員が当番弁護型の制度を提案し、理解を求めた。

犯罪被害者等および証人を支援・保護するための方策の拡充、公判廷に検出される証拠が真正なものであることを担保するための方策等についても議論された。

第25回特別部会(3月7日)では被疑者・被告人の身体拘束の在り方等の課題が議論されるほか、全体的な制度の在り方についても議論される予定である。

特別部会への対応については、各弁護士会、委員会への意見照会結果を踏まえ、主として刑事系の各委員会から選出されている刑事司法改革戦略会議で検討している。加速する取りまとめに対しても同会議を中心に対応する予定である。特別部会での議論については理事会、FAXニュース等で随時情報を提供していく。

(事務次長 兼川真紀)


 

弁護士後見人の不祥事
防止・対応策取りまとめ
弁護士会に要請

一昨年以降、成年後見人に選任された会員による重大な不祥事が相次いで明らかになり、弁護士後見人に対する市民の信頼を揺るがす事態となっている。この度、日弁連は、弁護士後見人の不祥事防止・対応策を取りまとめ、各弁護士会において、実情を踏まえて対応策を検討するよう、1月31日付けで要請を行った。

 

要請に至る経緯

今後とも増大する成年後見制度利用の中で、弁護士が専門職後見人の一翼を担うことは、国民の期待するところであり、また今後の弁護士業務の位置づけとしても重要である。後見人の監督権が法律上は各家庭裁判所にあること、会員の業務に過干渉にならないようにすることに配慮しつつも、被後見人らが自ら苦情等の声をあげることが困難であるとの特殊性を踏まえると、昨今の弁護士後見人不祥事の状況に鑑み、弁護士会として、組織的に一定の関与をなさざるを得ないものと考えられる。

 

提案の内容

弁護士会として取り組みを検討するよう要請した項目は、以下の5点を柱とする。

(1)一定の質が確保された適格な人材を登載した後見人推薦名簿(研修の受講義務、一定の弁護士職務経験年数、定期的な登載の更新等が考えられる)の整備。

(2)後見人の職務の適正に疑いが生じた場合に、効果的な対応を行えるよう、定期的な協議会の開催などを通じて、必要な場合に家庭裁判所と情報共有や早期対応ができるよう各地の実情に応じて体制を整備すること。

(3)弁護士後見人不祥事の徴表として定期報告書提出の遅滞が明らかになっていることから、会として、報告の遅滞のチェック等を通じ、必要な助言、支援を図る体制を構築すること。

(4)具体的事案の状況に応じ、家庭裁判所が適切な後見人の選任を行いうるよう現在の推薦方式の見直しを検討すること。

(5)弁護士後見人の職務ガイドラインを基準化するとともに、後見人業務に精通した会員による相談・助言のための相談窓口の開設等バックアップ体制の整備。

以上の提案の実現のためには、例えば(3)について、定期報告書の遅滞のチェックのための人的体制整備等の懸案事項が多々あるが、他の専門職団体が一応の関与体制を整えている等の事情を踏まえると喫緊の課題であり、各弁護士会が早期に検討に着手することが求められる。

(高齢者・障害者の権利に関する委員会委員長 熊田 均)


 

具体的対応策の検討 5つの柱

  1. 質が担保された後見人等推薦名簿のあり方について
  2. 早期発見・早期対応のための家庭裁判所との対応・調整関係の検討
  3. 弁護士会による早期発見・早期対応のためのチェック・助言態勢の検討
  4. 家庭裁判所への後見人等候補者の推薦方式のあり方について
  5. 弁護士後見人の研修体制・OJT・相談支援体制等の強化について

 

ひまわり

経営者保証に関するガイドラインが2月1日に施行された。中小企業への融資時に当然のようになされてきた経営者保証の在り方を示し、経営者保証の弊害を解消することが目的だ▼既存の保証契約の見直しや保証債務の整理方法の準則が定められており、実務に与える影響は小さくなさそうだ。特に債権者である金融機関に対し、主債務者と保証人から経営改善等を理由に保証契約の見直しを求められたときは、保証の必要性や保証対象金額を再検討することと、その検討結果を丁寧かつ具体的に説明することを求める定めは、金融機関と中小企業経営者や保証人の関係に一石を投じるかもしれない▼立法化の難しい課題に政府関与の下でガイドラインが策定され、関係当事者の自発的な尊重と誠実な履行に期待するという手法は近時よくみられる▼東日本大震災の二重ローン問題対策でも同様の方法がとられたが、残念ながら期待には程遠い成果しかあげられていない。この失敗が震災復興全体に与えている影響は大きく、被災者の住まいの再建に暗い影を落としている▼ガイドラインが期待された成果をあげられないときは、その一部が迅速に立法化される、そんな政治の力による緊張感があってこそ、ガイドラインは遵守されるのではないだろうか。(Y・O)

 

「少年法の一部を改正する法律案」国会提出
3月中に審議入り予定

家庭裁判所の裁量による国選付添人制度および検察官関与制度の対象事件の範囲を拡大するほか、少年に対する有期刑の上限引上げ等の措置を講ずる「少年法の一部を改正する法律案」が2月7日に閣議決定され、同日午後、衆議院に提出された。第186回国会において平成26年度予算成立後、予算関連法案として速やかに審議入り予定である。

(事務次長 鈴木啓文)


 

第40回市民会議
被災自治体における弁護士職員の活動状況等について議論
1月23日 弁護士会館

今回は、預り金をめぐる弁護士倫理に関する最近の問題(継続議題)および被災自治体における弁護士職員の活動状況について議論した。

 

実効性ある不祥事防止策の在り方

日弁連から、2013年度に行った不祥事対策の取組状況、特に昨年12月に非行防止策に関する提言「不祥事の根絶をめざして2」を取りまとめ、各弁護士会に対応を要請する予定であることを説明したのに対し、委員からは、概ね日弁連の取組への評価と期待が示された。清原委員は、昨年制定した「預り金等の取扱いに関する規程」について、その存在を市民に周知することにより実効性を高められるのではないかとの意見を述べた。湯浅委員は、税金を滞納する市民に納税相談を実施したところ多重債務問題が発覚し、福祉サービスや生活保護申請へとつながった事案を紹介し、弁護士業界においても、会費の滞納等の端緒を非行の防止に効果的に結びつける仕組みを構築すべきではないかとの提言がなされた。

 

被災自治体における弁護士職員の活動状況

日弁連の推薦により、昨年5月1日から石巻市役所の任期付公務員として勤務する野村裕会員(仙台)が、赴任の経緯、具体的な職務内容や約8カ月勤務しての感想等について報告し、委員は熱心に聞き入った(6面に関連記事)。

中川委員からは、かつて企業が弁護士を社内に置くことの価値を十分認識していない時代もあったが、今や社内弁護士の存在が珍しくなくなったように、弁護士を政策立案の中心に携わらせることの価値を自治体が理解するようになることへの期待が述べられた。その他の委員からも、「野村弁護士の活躍ぶりが、社会的意義のある仕事を請け負いたいという意欲を有する若手弁護士への刺激になるのでは」との感想が相次ぎ、例えば上司や同僚等、自治体内部から、弁護士を登用することの有用性をアピールすることが効果的ではないかとの声があがった。

 

市民会議委員(2014年1月23日現在)

  • 長見萬里野(全国消費者協会連合会会長)
  • 北川正恭(議長・早稲田大学公共経営大学院教授)
  • 清原慶子(三鷹市長)
  • 古賀伸明(日本労働組合総連合会会長)
  • ダニエル・フット(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
  • 中川英彦(前京都大学大学院教授、駿河台大学法科大学院講師)
  • 松永真理(テルモ株式会社社外取締役)
  • 湯浅 誠(反貧困ネットワーク事務局長)
  • 豊 秀一(副議長・朝日新聞東京本社社会部次長)
  • (以上、50音順)

 

日弁連短信
進む家事事件の国際化
~4月1日ハーグ条約発効

 

昨年5月、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」(ハーグ条約)の締結が国会承認され、本年4月1日からわが国でも実施される。「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」(実施法)も同日施行となる。

それに伴い、①外務省が「中央当局」として、申請のあったハーグ条約事件当事者に対する援助(子の所在特定、協議のあっせん等問題の友好的解決に向けた援助、弁護士紹介等)を行うこと、②「子の返還申立事件」という新しい裁判手続きが始まること(東京・大阪)、③日弁連も中央当局を通じた弁護士紹介を行うこと、となる。

また、①の1つとして、外務省の委託事業であるハーグ条約事件のためのADRも東京、大阪、沖縄で開始される。このADRは、eメールでの受付やスカイプの利用など、海外にいる当事者にも参加しやすいように工夫され、翻訳・通訳費用等も上限はあるが国費で賄われる予定である。

 

会員の中には、ハーグ条約事件は自分には関係がないと考えている方もおられるかもしれない。しかし、東京・大阪のみが管轄となる子の返還申立事件はともかく、面会交流に関する事件は子の住所地の家庭裁判所に申し立てられる可能性が高く、各地の弁護士の関与が必要である。特に、ハーグ条約の実施により、これまで子の住所が分からずに面会交流を求められなかった親が、日本の中央当局の援助によって子の住所を知り、面会を求めてくることが予想される。実際に、アメリカでは相当数のLBP(子を連れていかれた親)が日本の中央当局に面会交流の援助申請を行うべく準備中であるという情報もあり、このようなケースが全国各地で増えていくことが見込まれる。

各弁護士会にも窓口の設置等の対応を要請しているが、会員各位にも研修の受講や情報収集等の準備をお願いしたい。

日弁連総合研修サイトでは、eラーニング「これでわかるハーグ条約~実務と実施法の解説」を掲載している。また、3月下旬までには会員専用ページにハーグ条約事件の書式等の情報の掲載を予定しているので、併せてご利用いただきたい。

今後、人事訴訟・家事事件の国際裁判管轄に関する法整備の検討が法制審で開始されるなど、家事事件においても国際的な対応が一層進められる。

(事務次長 菅沼友子)


 

院内学習会
共謀罪の創設に反対
2月12日 衆議院第二議員会館

  • 共謀罪創設反対を求める院内学習会

政府が導入を検討している「共謀罪」の規定は、行為ではなく合意だけで処罰できるという点で、我が国の刑事法体系の基本原則に矛盾し、基本的人権の保障と深刻な対立を引き起こすおそれがある。これまで三度にわたり廃案となった共謀罪を創設する法案が秋の臨時国会に再び提出される危険が高まる中、同法案の危険性について改めて理解を求めるため、院内学習会を開催した。

 

室内盗聴の危険が現実に

共謀罪等立法対策ワーキンググループの山下幸夫副座長(東京)は、「共謀罪に関する規定を含む特定秘密保護法は、共謀罪の要否を含め議論がなされることなく成立してしまった。同法の成立を機に『共謀罪』の創設を含む法案提出がなされる可能性があるが、過去に廃案となった経緯を知らない議員も多く、これまでよりも議員の抵抗が小さくなっているのでは」と懸念を示した。

実際に法制審議会刑事特別部会における議論では、捜査機関から通信傍受の拡大と会話傍受(室内盗聴)の新設を求められている。会話傍受については、裁判所から令状が出れば、対象者に示すことなく室内に盗聴器を設置できる案となっているという。

 

刑事の基本原則守って

続く講演で、足立昌勝教授(関東学院大学法学部法学科)は、「考えていたとしても行動に出なければ処罰されないのが刑事の基本原則。国連跨国組織犯罪条約(パレルモ条約)に基づけば、長期4年以上の自由刑が定められた犯罪はすべて共謀だけで処罰されてしまうが、それでは刑法の未遂罪や予備罪の範囲との整合性を欠く」として、共謀罪の刑事原則上の問題点を指摘した。さらに、足立教授は「自宅での盗聴が認められることにより憲法三五条が空文化するのでは」と共謀罪の捜査の過程で人権侵害が行われる危険性を述べた。会場からは「共謀罪が成立したら、インターネットでも自由に意見が言えなくなるのでは」との不安の声が聞こえた。

 

司法修習生に対する給費の実現と司法修習の充実について考える集い
1月30日 衆議院第二議員会館

  • 司法修習生に対する給費の実現と司法修習の充実について考える集い

司法修習生に対する給費が貸与制に移行したことによる弊害が多く聞かれる中、日弁連は、修習生が安心して司法修習に専念できるよう、給費の実現と司法修習の充実を求める運動に取り組んでいる。多くの国会議員の他、日本医師会、日本公認会計士協会からの参加を得て開催した本集いでは、日弁連の取組状況を報告するとともに活発な議論が交わされた。

 

政府の下での検討状況

冒頭、司法修習65期の会員から、定期収入がなく、地方修習時に自分で家を借りられない人がいたなど、貸与制の下での修習の現状が赤裸々に語られた。

続いて、司法修習費用給費制存続緊急対策本部の新里宏二本部長代行(仙台)から、政府の下での検討状況として、67期からようやく居住地から実務修習地への移転料(引越料相当額)や集合修習期間中の寮の確保等の措置がとられることとなった旨報告されたが、これのみでは抜本的な問題解決には至らない。また、兼業規制が一部緩和されたが、短期間で充実した修習を行うのにむしろ妨げになると考えられる。

 

弁護士は社会のインフラ

日弁連では、昨年から司法修習生に対する給費の実現と充実した司法修習を求める団体署名活動を行っており、民間企業、消費者団体を含め1月30日の時点で855もの団体から賛同を得たことが報告された。

賛同団体の1つである日本医師会は、横倉義武会長のメッセージ「医師と等しく、人権と生命、健康を守るプロ集団として環境整備の必要性を感じる」を代理の今村聡副会長が代読した。また、日本公認会計士協会の山田治彦副会長は、「当初は賛同について会内に議論があったが、弁護士が社会のインフラであるという点で意見が一致した」として賛同の経緯を語り、社会的インフラとしての弁護士の重要性を指摘した。

 

震災3周年特別号

 

東日本大震災から3年を経て

岩手からの報告
岩手弁護士会 会長 村井 三郎

岩手弁護士会 会長 村井 三郎

東日本大震災から3年が経過しました。未だに多くの方が仮設住宅での避難生活を余儀なくされていますが、災害公営住宅の建設、防災集団移転促進事業の移転先の造成等は進んでいないのが現実です。被災者の方々は先の見えない状況に不安を感じています。

当会では、こうした被災者の方々の法的問題や今後の住宅再建への不安を少しでも解消するため、各地での法律相談等を継続しています。

山田町には自前で法律相談センターを設置し、2014年度の継続も決定しております。最近相談件数が減少しているので、町の広報を利用するなどして、潜在的なニーズの掘り起こしに励みたいと思います。また、法テラスの気仙事務所、大槌事務所への会員派遣についても継続を決定しました。その他、県が主催する法律相談支援センターとの連携による相談活動等、被災者のニーズに十分応えられるよう努めて参ります。

陸前高田市においては、市と協力して、仮設住宅での相談活動を継続しています。沿岸被災地は復興期にさしかかり、住宅再建に対する支援策への関心が高く、仮設住宅を回り、紙芝居を使って再建支援策について説明をするなどしております。住民の方々にも大変喜んでいただいていると感じています。

もっとも、実際に公営住宅に入居し、あるいは、住宅再建に着手して、新たな生活を送ることができるのは数年先のことです。用地の確保などで県や市町村は大変に苦労しており、復興事業が思うように進んでいないというのが実情です。被災市町村の首長の方々(沿岸市町村復興期成同盟会)からも、用地取得を迅速化できるような新制度の創設を国に働きかけるよう要請を受けました。そこで、当会は、岩手県と協力して研究を進め、復興用地取得の迅速化に関する要望書を発表しました。これについては、1日も早く復興が進むよう、日弁連や各単位弁護士会のご協力をいただきながら、実現に向けて努力していきたいと思います。

一方で、復興事業について住民の意思が反映されているかという点も、しっかりと見据えて、必要があれば県や市町村に働きかけていきたいと考えています。住民の意思に基づく復興事業を1日も早く進められるように、逆に、住民の意思に反する復興事業が拙速に進められないように、地元の法律家集団として、被災者目線で、被災者に寄り添った活動を続けていきたいと考えています。

 

被災地会責任を果たすために
仙台弁護士会 会長 内田 正之

仙台弁護士会 会長 内田 正之

 

相談等の多機能性

震災直後から当会は、日本司法支援センター等関係機関と連携し、無料電話相談や県内全域にわたる無料巡回相談を実施し、多くの相談に対応してきました。その後もいわゆる震災特例法のもと、法律相談センターや法テラス臨時出張所等において多くの無料法律相談を実施しています。また、震災直後に創設した震災ADR制度も利用件数は500件を超え、震災に起因する多数の紛争を短期間で解決に導くことができました。

これらの震災直後からの当会の相談活動等は、被災者の精神的支援、被災者への情報提供、被災者間の迅速な紛争解決の機能はもとより、被災者支援に関する立法事実の収集といった側面も有するものでした。

 

制度運用・立法提言へ

当会は日弁連その他関係機関とともに、前記相談活動等で得られた情報を立法事実として、被災者の生活再建等震災の復旧・復興に関し、多くの提言や意見表明を行ってきました。その結果は、相続放棄の熟慮期間の延長、罹災法の不適用、被災マンション法改正、いわゆる被災ローン減免制度等々、これまでの大規模災害にはないほどの多くの制度の創設や立法の成立等につながっています。

 

法制度の抜本的検証

しかしながら、多くの制度・立法の成立等にかかわらず、被災地の復旧・復興の事業は、既存の法制度の枠組み・行政機能にとらわれており、なお事業ごとの縦割りの弊害等が生じ、各被災自治体において柔軟かつ迅速な復旧・復興活動ができていない、ゆえに被災者・被災事業者の再建が遅々として進まないという現状があります。そこで当会では、災害特区をはじめとする災害法制全般について、①復興に関する予算の確保と配分方法②自治体における復興計画策定とそれに関する住民合意形成の在り方③自治体のマンパワーの確保と自治体相互間の支援の方策④被災住宅の移転と再建方法⑤防災と復興等の5つの観点から、現在・将来にわたり改善すべき点を具体的事実に即して検証するとともに、今後の大災害の備えに足りる十分な法制度整備の提言に向けた活動に着手しています。これら検証作業等は被災地弁護士会である当会に課せられた使命・責任ともいうべきものであり、今後、この重要課題に全力を注ぐ決意です。


「感謝と願い」
福島県弁護士会 会長 小池 達哉

 

福島県弁護士会 会長 小池 達哉
継続する被害と風化

原発事故のため、未だ福島県内で8万8800人あまり、福島県外に4万8000人あまりの被害者が避難を強いられ、当会会員を含む滞在者も風評被害や放射線への不安を抱えながらの生活を強いられています。避難者、滞在者、帰還者間の軋轢も時の経過とともに深化および顕在化していくおそれもあります。他方で、汚染水問題は日常化して関心を集めず、原発事故の原因究明が未了であるにもかかわらず再稼働が論じられるなど、原発事故の風化の感が否めません。

 

感謝

このような中、日弁連、各弁護士会および弁護団を中心とした各地の皆さまに被災者被害者救済にご尽力いただいておりますこと、厚く御礼申し上げます。特に、日弁連執行部と日弁連消滅時効対策チームの皆さまの献身的なご尽力を中心に、全国各地で消滅時効特例法立法のためご協力いただきましたことについては感謝の言葉もございません。当会会員も含む被害者の不安がどれだけ払拭されたことでしょうか。

 

課題

元通りの生活がかなわない被害者の望みは将来の生活設計・人としての復興であり、賠償から復興への結びつけが重要と感じます。賠償関係では、全国の弁護団の皆さまを中心にご支援いただき、相当な成果が得られています。賠償対象・賠償額の一層の拡充へ向け、①原子力損害賠償紛争解決センターのさらなる機能充実と有効事例の集積、②舞台が裁判所に移った後の情報共有・支援体制の充実、③未だ賠償請求していない被害者の救済等が必要と思われます。

復興関係では、①避難・滞在・帰還・定住それぞれの選択に応じた支援、②借上住宅期限を含む住宅問題、③汚染水問題、④健康被害、⑤除染、⑥生活環境・就労場所を含むインフラ整備、⑦中間貯蔵設備それぞれに対する適時適切な対応が必要です。

 

願い

少なくとも福島県民にとって最大の人権侵害と言っても過言でない原発事故被害が風化し、世論が経済性を優先し、被害者も疲弊して声を上げられなくなっていく中、人権団体としての日弁連や弁護士会に声を上げていただくだけで、被害者は心強く思うはずです。

今後とも、震災・原発事故被害を忘れることなく、寄り添っていただきますよう、お願い申し上げます。


シンポジウム 災害時における個人情報の適切な取扱い
高齢者・障がい者等の安否確認、支援、情報伝達のために
1月20日札幌市

  • シンポジウム「災害時における個人情報の適切な取扱い~高齢者・障がい者等の安否確認、支援、情報伝達のために~」(札幌)

東日本大震災後に改正された災害対策基本法には、高齢者・障がい者等の要援護者に対する避難支援を実効的に行うため、区市町村が事前に名簿を作成する義務等が盛り込まれた。
災害発生時、自治体において要援護者の個人情報をいかに取り扱うかを検討する本シンポジウムも、今回で5回目を迎え、法改正後初の開催として注目を集めた。

 

第1部では、東日本大震災の被災地である南相馬市、仙台市および岩手県の支援団体や自治体の担当者から、要援護者の個人情報の取扱いについて支障が生じた状況や当時の対応等について、具体的な報告がなされた。

第2部では、2012年に日弁連が公表した災害時における要援護者の個人情報の取扱いに関するガイドラインの内容について解説がなされた後、パネルディスカッションが行われた。

パネリストの岡本正会員(第一東京)からは、「個人情報保護法が、個人の権利利益の保護と個人情報の有用性のバランスを図ることを目的とし、運用に際しては保護だけを目的としていないことに着眼すべき」との指摘があり、山崎栄一准教授(大分大学)からは、「個人情報を保有する自治体と提供を受ける支援団体との平時からの信頼関係の構築が重要であり、そのためには提供を受ける側も情報管理態勢を整備する必要がある」との発言があった。

また、震災当時仙台市職員であった鳥井静夫氏からは、震災時の体験を踏まえ、新たな課題として「広域避難やみなし仮設住宅を利用する避難においては、被災地から遠く離れた都市に避難者が相当数生じることから、避難後の生活再建支援のための個人情報の把握が重要である」との指摘がなされた。

現在、各地の自治体では改正法に基づき要援護者の名簿作成、避難計画の策定作業中であるところ、全道各地から52人もの自治体担当者が出席し、関心の高さがうかがえた。また、福祉関係者や障がい者団体などを含めた出席総数は119人にのぼり、弁護士会と自治体・福祉関係者の連携のきっかけとしても有意義であった。

(高齢社会対策本部震災対応プロジェクトチーム委員 平井喜一)


 

東日本大震災・原子力発電所事故から3年間の軌跡

東日本大震災および福島第一原子力発電所事故発生からの3年間で、日弁連は、被災者・被害者の支援・救済、被災地の復興および原発問題等について、170を超える意見書、会長声明等を取りまとめ、社会に対する問題提起や政府に対する政策提言を行っている。多くの政策提言のうち、その後の活動により実際に立法化等の具体的施策が実現したものについて紹介する。

 

被災者支援のための施策

①罹災都市借地借家臨時処理法の不適用

日弁連は、2010年10月に同法の改正を提案していたが、震災発生後、あらためて、同法を現行のまま東日本大震災の被災地域に適用すべきではないとの意見を取りまとめ、法務省と協議を行った結果、2011年9月30日に適用しないことが決定した。

 

②相続放棄等の熟慮期間の延長

相続放棄等の熟慮期間については、「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」とされている。しかし、東日本大震災においては、この期間内に熟慮期間延長の申述等を行うことは現実的に困難であることから、日弁連は、相続放棄等の熟慮期間の1年延長を求める提言を行った。その後2011年6月21日に民法の特例法が成立し、東日本大震災の被災者については、同期間が、2011年11月30日まで延長されることとなった。

 

③災害弔慰金の支給等に関する法律および被災者生活再建支援法の改正

災害弔慰金の支給対象に生計を同一にする兄弟姉妹を含めること、災害弔慰金、災害障害見舞金および被災者生活再建支援法に基づく支援金について差押禁止条項を設けることなどを提言し、その旨の法改正がなされた。

 

④東日本大震災被災者援助特例法(震災特例法)の成立

日本司法支援センターの民事法律扶助事業の拡張を目指して、2011年5月の定期総会宣言などにおいて、資力要件の撤廃、行政手続への対象事件の範囲の拡大等の必要性を訴えた結果、2012年3月23日に特例法が成立した。

 

 

二重ローン(被災ローン)問題

日弁連では、2011年4月24日付けで「東日本大震災で生じた二重ローン問題などの不合理な債務からの解放についての提言」、同年5月19日付けで「東日本大震災復興支援緊急措置法案骨子案〈第一次案〉」を取りまとめ、関係者への働きかけを重ねた。その結果、2011年8月22日から個人被災者向けとして「個人債務者の私的整理に関するガイドライン(被災ローン減免制度)」の運用が開始された。さらに、2012年2月22日に東日本大震災事業者再生支援機構が設立された。

被災ローン減免制度の成立件数は、当初の予測に反し、本年1月31日現在で781件と極めて低調である。利用要件の厳しさ、周知が進む前に金融機関によるリスケジュールが行われたこと、運用において多くの問題が生じ、解消に時間を要したことが理由であると考えられるが、特に運用の問題に関しては本制度が立法に拠らなかったことが一因であると考えられることから、将来起こりうる大災害に備えて、立法化が求められている。

 

原発事故被害への対応

①原子力損害賠償紛争解決センターの設置および原子力損害賠償紛争審査会の指針への対応

日弁連は、事故後早い段階から、原発事故による損害賠償問題に特化したADRの設置を訴え、政府とも協議を行ったところ、2011年8月に原子力損害賠償紛争解決センターが設置されるに至った。センターの運営についても、仲介委員や調査官等として多数の弁護士がスタッフとして関与するなどの協力を行っている。

一方で、当初から日弁連は、センターの和解案に片面的裁定機能を持たせるなどの立法措置を求めていたが、立法には至らず既存の制度の下に設置されるにとどまった。その後、実際の和解仲介手続の中で、東京電力がセンターの示した和解案を拒否する事例が散見されることから、あらためて立法化を求めていく必要が生じている。

また、本件事故を受け、2011年4月に原子力損害賠償紛争審査会が設置されて以降、数回にわたり賠償指針が作成されてきたが、それに対し、日弁連はその都度意見を発表してきた。例えば、2011年4月の意見書で自主避難者の損害も賠償すべきと提言したところ、不十分ではあるものの、同年12月に自主避難者の損害に関する中間指針追補が取りまとめられ、また、2012年4月の意見書において、財物賠償については事故発生前の価値を基準とするのではなく、経年減価を考慮しない再取得価格による賠償を提言したところ、2013年12月に取りまとめられた中間指針第四次追補において、従来所有していた不動産の価値と新規に取得する住居の確保に要する費用との差額についても賠償するとの指針が定められた。

 

②原発事故による損害賠償請求権の消滅時効特例法の成立

日弁連は、センターの立法化を求めるなかで、センターへの申立てに時効中断効を付与することを求めていたが、実現しなかった。その後、民法七二四条による3年の短期消滅時効期間が迫ってくるにもかかわらず、多くの未請求の被害者が存在し、また東京電力が消滅時効を援用する可能性があったことから、日弁連は、2013年1月に、東京電力および国は、早急に、本件事故の損害賠償請求権について消滅時効を援用しないことを総合特別事業計画の改定等により明文化した上で確約するなどの措置を早急に講じることを求める意見書を発表し、さらに同年4月に、民法第七二四条前段を適用せず、短期消滅時効によって消滅しないものとする特別の立法措置を早急に講じるべきなどとする意見書を発表した。

その後、政府は、センターに申立てを行った者が和解仲介の打ち切りの通知を受けた日から1カ月以内に提訴した場合に、和解仲介の申立てのときに訴えを提起したこととみなすという特例法案を提出したが、同法ではごく限られた被害者しか救済されないことから、参議院文教科学委員会において、「全ての被害者が十分な期間にわたり賠償請求権の行使が可能となるよう、平成25年度中に短期消滅時効及び消滅時効・除斥期間に関して、法的措置の検討を含む必要な措置を講じること」などとする附帯決議がなされた上で、5月29日に同法が成立した。これを受けて、日弁連ではさらに具体的な立法提言をまとめるべく検討し、7月18日に、賠償請求権の時効期間を権利行使が可能となった時から10年間とするなどの特別立法を求める意見書を取りまとめ、関係者に精力的に働きかけを行った。その後、秋頃から与党内において本格的な検討が進められた結果、12月4日に、消滅時効の期間を損害および加害者を知った時から10年、除斥期間について、損害が生じたときから20年とする特例法が、議員立法により全会一致で成立した。なお、本法では、条文上国賠事件は対象となっていない。

 

③原発事故子ども・被災者支援法

日弁連は、東京電力による損害賠償は当然のこととしつつ、原発事故の人道的援助の第一義的責任は国にあるという前提の下、損害賠償だけではカバーできない被害者の生活再建、健康確保、人権擁護のための施策の立法化を求め、2012年2月に意見書を取りまとめた。その後、市民団体とも連携して、数回にわたり立法を求める集会を開催するなどの活動を行い、同年6月21日にいわゆる原発事故子ども・被災者支援法が成立した。

しかし、その後、法に基づいて具体的施策を定めるとされた基本方針が1年以上も作成されず、2013年10月にようやく策定されたものの、その内容は極めて不十分なものであり、法の理念が実質的に骨抜きにされてしまった。被害者からも施策の充実を求める要望が大きく、日弁連にも法の理念の具現化に向けた活動が求められている。

(震災担当特別嘱託 杉岡麻子)


 

日弁連の動き
2011.3.11 東北地方太平洋沖地震災害対策本部(その後「東日本大震災・原子力発電所事故等対策本部」に改称)設置
2011.4.14 「東日本大震災からの復興に関する第一次緊急提言」公表
2011.4.22
2011.5.19
「東日本大震災で生じた二重ローン問題などの不合理な債務からの解放についての提言」公表
「東日本大震災復興支援緊急措置法骨子案〈第一次案〉」公表
2011.5.26 「相続放棄等の熟慮期間の伸長に関する意見書」公表
2011.5.26 「罹災都市借地借家臨時処理法の早期改正を求める意見書」公表
2011.5.27 第62回定期総会「東日本大震災及びこれに伴う原子力発電所事故による被災者の救済と被災地の復旧・復興支援に関する宣言」
2011.6.23
2011.7.29
「災害弔慰金の支給等に関する法律等の改正を求める意見書」公表
「被災者生活再建支援法改正及び運用改善に関する意見書」公表
2011.6 政府に対し、原子力損害賠償ADRの態勢整備について提言
2012.2.16 「福島の復興再生と福島原発事故被害者の援護のための特別立法制定に関する意見書」公表
2013.7.18 「東京電力福島第一原子力発電所事故による損害賠償請求権の時効期間を延長する特別措置法の制定を求める意見書」公表
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社会の動き
2011.3.11 午後2時46分 東北地方太平洋沖地震発生
福島第一原発1、2、4号機全電源喪失、3号機が全交流電源喪失
2011.8.22
2011.11.14
個人版私的整理ガイドライン(被災ローン減免制度)運用開始
株式会社東日本大震災事業者再生支援機構法成立
2011.6.21 相続放棄等の熟慮期間の延長に関する特例法成立
2011.9.30 罹災都市借地借家臨時処理法不適用決定
2012.3.23 東日本大震災の被災者に対する援助のための日本司法支援センターの業務の特例に関する法律(震災特例法)成立
2011.7.25
2011.8.23
災害弔慰金支給等法改正(支給範囲を生計を同一にする兄弟姉妹に拡大)
災害弔慰金支給等法及び被災者生活再建支援法改正(差押禁止等)
2011.9.1 原子力損害賠償紛争解決センターによる和解仲介申立受付開始
2012.6.21 原発事故子ども・被災者支援法成立
2013.12.4 原発事故による損害賠償請求権の消滅時効特例法成立

 

原紛センターインタビュー
申立件数1万件超に

福島第一原発事故をめぐる被害者と東京電力の和解を仲介する原子力損害賠償紛争解決センターの開設から約2年半が経過しました。これまでの運用実績や今後の課題などについて、原子力損害賠償紛争和解仲介室の野山宏室長、出井直樹次長にお話を伺いました。
(広報室嘱託 白木麗弥)


 

野山室長(左)と出井次長
―本年二月時点での運用実績をお聞かせください

野山 申立件数が1万0078件、既済件数が7188件(2月24日時点)です。弁護士会のご協力のもと調査官の人員体制が充実したこともあって既済件数が増加し、通常の事案なら申立後半年程度で終結できるようになりました。昨年の秋以降、申立件数が高水準で推移しているため、現体制でもスピードを維持できるよう努力したいと考えています。

 

―申し立てられた損害項目はすべて審理できるのでしょうか

野山 現状、すべてに対応できているとは言えません。不動産賠償を例にとると、宅地や建物は多数和解案がでましたが、山林など対応が十分できていないものもあります。今後の課題です。

 

―原子力損害賠償紛争審査会のいわゆる中間指針第4次追補はセンターのこれまでの和解内容から影響を受けたように見受けられます

野山 建物の賠償額の上積みや移住先の土地の価値を賠償額で考慮する考え方はまさしく和解案から出たものだと思います。

 

―集団申立ての現状は

野山 最近は、本人申立てによる数十世帯の集団案件も散見されます。チャンピオン方式(多数の世帯が申立をする際に数世帯分を集中的に審理して和解を成立させ、その和解の基準に基づき、残りの世帯について当事者間で自主的に和解する方法)を使ったこともありましたが、人員体制が充実したため、集団申立てに相当の調査官をつけられることから、現時点では採用していません。

 

―立証の目安は疎明程度との話もありますが、発足当時のイメージから変化はありますか

野山 センターは従来から疎明程度との説明はしていません。もっとも、センターでは、訴訟と同程度の精密司法に陥らないように、柔軟に対応してきました。

出井 実際には、第1次産業や零細企業の従事者が被害者である事案が多く、帳簿等の記録がなくても不合理ではない場合があります。その場合に帳簿がないから損害を認めないとすれば救済になりません。被害者の事情に寄り添う審理をするということです。証拠として元々存在するものを提出しなくても損害として認めるという趣旨ではありません。

 

―2年半を振り返っての感想や今後の課題は

野山 走りながら考えてきた感じです。東京電力の基準による金額に相当程度のプラスをした金額の和解案を東京電力に受諾させることができたことについては評価したいと思います。今後はセンターでこれまで積み上げてきた和解案の内容について分析等を行い、よりよい解決に役立てることが課題です。

出井 センターは、非常勤職員として法曹実務家が約200人勤務するという、これまでにない組織です。その特殊性から、運営も試行錯誤の繰り返しでした。今後も原発事故被害者の1日も早い救済のために、実務を担っていただける調査官を随時募集していますので、興味がある方はぜひセンターに問い合わせていただきたいと思います。

 

寄稿
原町ひまわり基金法律事務所
開所から1年を経て

所長 石川 裕介

所長 石川 裕介

原発被害はまだ終わっていません。

原町ひまわり基金法律事務所は、2013年4月、日本弁護士連合会、東北弁護士会連合会、福島県弁護士会の支援の下、福島第一原子力発電所事故の被害者救済を重要な目的として、福島県南相馬市に開設されました。

原発事故により、南相馬市に限らず、福島第一原子力発電所の近くに住む人たちすべてが被害を受けました。そして、被害は今でも続いています。

2013年4月から12月までの間で、合計250件ほどの相談を受けてきました。その相談の多くが原発事故に伴う損害賠償請求に関するものです。そして、被害者の生活再建の一助となるべく、被害者の被害の声を届けるため、ADR申立等を行っています。

被災者・被害者の苦しみは、人それぞれです。原発事故後の生活の中で家族を亡くしてしまった方、自宅に帰ることができないまま避難を続けざるを得ない方、放射線や原発に対する不安を抱えながら生活しなければならない方。そして、その被害は、お金で償うことができません。話を聞いていても、「奪われたものを元に戻してほしい」という言葉が胸に染みます。元に戻らない中であっても、少しでも精神的、経済的に復興するために被災者・被害者の話を聞き、損害賠償請求を行うのが今の業務の中心です。

被災地で活動していて感じるのは、日本の多くの人が震災や原発事故を過去のものとして捉えているのではないかという不安です。当事務所から車を走らせて少し行けば、原発から20キロ圏内です。20キロ圏内は、未だ戻って生活をすることができない地域です。家や建物は、震災当時のまま、そこにあります。しかし、人はいません。生活感がありません。かたや20キロ圏外は、生活をして良いとされています。しかし、万が一のことがあった場合、20キロ圏外は安全だという保障は何もない中、自宅があるから、仕事があるから、それぞれの事情で生活をしなければならないのです。さらには、政府による避難指示区域の線引きにより、同じ集落の人が賠償金額で差を付けられています。特に、南相馬市は、賠償に差がある地域がたくさんあるため、隣の人は賠償がもらえているが、自分はもらえていないという事態が生じ、コミュニティー崩壊の危機にさらされています。

れでも、被災者・被害者は、原発事故に負けずに必死で生きています。相双地区には、相馬野馬追というすてきなお祭りがあります。毎年7月になると、地域全体が野馬追一色になります。街中を鎧武者の乗った馬が闊歩します。そして、祭場地では、甲冑競馬や神旗争奪戦等が行われ、その迫力は、目を見張るものがあります。

原発事故により、この地域は、多くの物を失いました。しかし、失ったままでは、未来につなげることができません。弁護士として被災者・被害者が適切な被害回復を受けるための手伝いをすることで、被災者・被害者の輝かしい未来の一助となるべく、日々、悩みながら業務を行っています。

 

全国に広がる原発事故損害賠償請求訴訟

福島第一原発事故後、被害者を支援する弁護団が各地で結成された。特に被災地から離れた地方においては、各弁護士会を基軸として弁護団が多く結成されている。全国に広がる訴訟の動向等を報告する。

 

損害賠償請求のこれまでの歩み

各弁護団は、当初被害者に対する法的助言を主眼としつつ、次第に原子力損害賠償紛争解決センター(原紛センター)への和解仲介(原発ADR)の申立ても行ってきた。

日弁連東日本大震災・原子力発電所事故等対策本部(対策本部)は、この間各地弁護団に対して、原発ADRに関する課題について、原紛センターとの意見交換や、全国の弁護団による情報交換の場を提供してきた。

その一方、原発ADRでは十分な被害の回復が得られないという被害者の思いも強い。さらに大震災から丸3年を経過しようとする中で、以前の生活を取り戻すことができず、あるいは避難生活を余儀なくされている被害者の思いをくみ取る形で、各地で訴訟提起の動きが広まっている。

 

各地の訴訟の状況

現時点での各地における訴訟提起状況は、右図のとおりである。原告団の構成はまちまちであり、避難指示対象区域はもとより、自主的避難等対象区域、さらには福島県ほか関東周辺から各地へ避難した被害者を原告とする訴訟も相当数存在する。このうち千葉地裁の訴訟進行が早く、その行方が十分注視されなければならない。福島県内に滞在している被害者を主な原告とする福島県内(下図※1~※4)と東京地裁の訴訟の進行がこれに続いている。その他の地域は、実質的な審理はこれからというところがほとんどである。なお、今後、提訴済みの地域も併せ、全国各地で約1000人の訴訟提起が予定されている。

 

経験と知識の共有のために

訴訟提起の動きが広まるにつれ、①どのような範囲の被害者を原告とすべきか、②東電に加え国の責任を追及すべきか、③被害者の実態を見据え、どのような損害論を形成していくか、④ADRで勝ち取る内容と訴訟との関係をどのように考えるか等これまでに経験のないさまざまな問題が明らかになってきている。

そこで全国の弁護団による情報交換会の中で、各地訴訟の経験と知識を共有し、各地の実情に対応できるよう検討を行う機会として、「原発事故損害賠償請求訴訟『入門編』」と題する意見交換会が実施されている。訴訟も含めて、被災者・被害者への法的支援・復興支援を継続することは、私たち弁護士の使命である。引き続き全国での活動を期待したい。

(東日本大震災・原子力発電所事故等対策本部事務局次長 太田賢二)


 

福島原発事故被害に関する主たる集団訴訟の状況(2014年2月26日現在)

 

被災自治体任期付職員として活躍する弁護士

日弁連は、被災自治体を支援するため、法務省や法テラスと協力して自治体に任期付職員として赴任する弁護士を推薦する取組を行っています。自治体への赴任前後を通じ、災害復興支援、原子力損害賠償の実務等についての研修を実施するなどして赴任する弁護士をバックアップしています。今回は、この取組によって被災自治体に任期付職員として赴任した、宮城県東松島市の佐藤隆信会員、同石巻市の野村裕会員、岩手県山田町の永田毅浩会員、福島県相馬市の高橋厚至郎会員とそれぞれの上司の方からお話を伺いました。
(広報室嘱託 倉本義之・小口幸人)

 

東松島市・佐藤 隆信 会員

佐藤会員(左)と浅野副参事
応募した動機は

2011年3月当時、法テラスのスタッフ弁護士として福島市内の養成事務所に勤務していました。震災当日は福島地裁相馬支部にいて、その日は避難所で一夜を過ごしました。養成期間を終え、法テラス佐渡に赴任した後も機会があれば復興支援に携わりたいと思っていたところ、派遣の募集を見つけ、手を挙げました。

 

現在の役職と職務内容を教えてください

総務課の法務専門監という新設のポストに昨年4月に着任しました。用地取得にかかわる問題、行政不服申立、債権管理などに関する助言や、市を当事者とする訴訟や調停への対応をしています。一番多い業務は、疑問を抱えた職員の相談対応です。最近は月に50件ほどの相談が寄せられています。業務の中で抱いた悩みや疑問は、他の被災自治体の弁護士にメーリングリストで相談できるので、心強いです。

 

裁判手続から遠ざかるのではと不安だったそうですね

 はい。自治体職員としての職務に興味はあったのですが、赴任期間後のことを考えると裁判手続に携わる機会がなくなるのではと少し不安でした。しかし実際は、顧問弁護士の先生と訴訟に関する詳細な打合せをすることもありますし、市を当事者とする調停等に自分自身が携わる機会もあり、とても有意義で充実した毎日を過ごしています。

 

今後の課題をお聞かせください

赴任して約1年が経過し、市全体のことも少しわかってきましたので、今後は目の前の仕事をこなすだけでなく、制度の在り方や根本的な問題への対処など、少し大きな視点で取り組みたいと思います。

 

上司の方からメッセージ(総務課副参事浅野和夫さん)

採用のきっかけは日弁連からのニーズ調査でした。特に用地買収の場面で弁護士がいればと考えていました。佐藤さんの親しみやすい人柄もあると思いますが、庁内に弁護士がいることで、職員は気軽に相談できるようになりました。疑問を持ったときにすぐ相談できるという環境が大きいのか、職員の間にも単に前例を踏襲するのではなく、法律に基づいて考えるという意識が芽生えてきているように思います。


 

石巻市・野村 裕 会員

野村会員(右)と及川総務課
応募した動機は

妻の実家が宮城県栗原市にあり、震災後は足を伸ばして沿岸被災地を訪ね、その被害の大きさを実感していました。後輩弁護士が被災地の公設事務所の所長をしていたこともあり、機会があれば何かの形で被災地支援に携わりたいと思っていたところ、今回の公募を知って応募しました。

 

現在の役職と職務内容を教えてください

総務課法制企画官という新設のポストに昨年5月に着任しました。課長級の扱いですが、一般職員の方と同じ島で机を並べて働いています。復興整備事業に供する土地の買取りに伴う不動産権利関係の問題や、被災建物解体に伴う損害賠償等の問題、被災者と締結する各種契約内容の検討等、扱っている業務の8割以上は多少なりとも震災に関連しています。

 

働いてみてどのような感想を持ちましたか

弁護士が役に立てる仕事は、紛争の場面に限らず、自治体の日常業務の中に広くあることを実感しています。プロパーの職員が直面する課題に共に取り組み、実態を踏まえた法的アドバイスをすることで、案件をより円滑かつ適切に進められるようになったと感じています。

 

地元弁護士会との関係はいかがですか

先日、仙台弁護士会の災害委員会に出席したのですが、非常に有意義でした。弁護士会の問題意識が自治体に伝わっていないこともありますし、またその逆もあります。私が地元弁護士会の皆さんと情報交換することは、弁護士会と自治体の双方にとって有益なことだと思います。

 

上司の方からメッセージ(総務課長及川伸一さん)

震災関係でさまざまな法的トラブルが起き、身近に法的問題を相談できる人がいたら、と思っていたところへ日弁連から打診があったので、渡りに船という感じで、すぐに採用するよう人事課に要望しました。

野村さんからは単に法律に関する知識だけでなく、例えば分かりやすい説明資料の作り方など、実践的なアドバイスをもらっています。野村さんがそばにいるので、職員は疑問をその都度解消して自信をもって安心して仕事を進められるようになっています。今や、野村さんは職場になくてはならない存在です。自治体への弁護士派遣を制度化し、今後も継続していただけるとありがたいと思っています。


 

山田町・永田 毅浩 会員

左から花坂用地課長、永田会員、豊間根和博総務課長
応募した動機は

2011年のゴールデンウィークに行われた宮城県下震災避難所相談に参加したことが大きいですね。地震・津波で無残に破壊された被災地の現状を目の当たりにし、被災者・被災地のためにできることをしたいとの思いを強く抱きました。その後、山田町が弁護士の任期付職員を募集しているとの話を聞き、瞬時に避難所相談のときに見た風景が頭に浮かび、被災地の復興に携われるならと応募しました。

 

現在の役職と職務内容を教えてください

用地課に所属し、法務専門監というポストに昨年9月着任しました。主に、不在者財産管理、相続財産管理、成年後見等の用地取得に関する法律問題への対応や用地取得交渉、売買契約書のチェックなどに携わっています。これら用地取得に関連する業務のほか、他部署の職員からの相談にも対応しています。

 

今後の課題をお聞かせください

 職員からの相談件数が多いとは言えないので、もっと気軽に相談してもらえるようにしていきたいですね。赴任して半年経つので、より積極的に業務に取り組んでいきたいです。

 

上司の方からメッセージ(用地課長花坂惣二さん)

これまでは、ひな形の売買契約書に条項をほんの1行追加するだけでも対応にとても時間がかかっていました。永田さんが来てからは迅速・的確にアドバイスをもらえますので、用地交渉のスピードアップにつながっていると思います。

 

岩手弁護士会吉江暢洋副会長からのメッセージ

永田弁護士が山田町に赴任して、これまで以上に町と弁護士会との連携が円滑になりました。町から会への要望も、先に永田弁護士から打診があるので、すぐに体制を作ることができます。また、会で考えていることを、永田弁護士を通じて町に伝えることもできます。先日も、会長と災対本部長が町に出向き、永田弁護士を交えてお話することで、被災者支援のため、震災後に設置された山田町相談センターについて、町の広報で取り上げてもらえることになりました。今後も、山田町内での活動に加え、弁護士会との橋渡し的な役割も担っていただきたいと感じています。


 

相馬市・高橋厚至郎 会員

高橋会員(右)と宮崎総務課長兼地域防災対策室長
応募した動機は

私は、震災当時、法テラスのスタッフ弁護士として中津川(岐阜県)の事務所に勤務していたのですが、法テラス内部での案内で募集を知ったのがきっかけです。弁護士としての経験を生かして被災地のお役に立ちたいと考えていましたので、迷わず応募しました。

 

現在の役職と職務内容を教えてください

昨年6月に企画政策部参事として着任しました。事務分掌だと企画政策部長の補佐、つまり行政の一般職員として働いています。企画政策部内の3つの課から回ってくる書類のチェックや事業の実施などが主な職務内容ですが、書類のチェックも、法的な側面というより行政の事務遂行の観点から行いますので、任期付職員として赴任した他の弁護士の方の業務とはかなり毛色が異なると思います。とは言え、職員からの相談を受けて法律関係文書作成の補助をしたりしていますから、弁護士資格を生かした仕事も少なくないという感じですね。

 

行政職として執務することに戸惑いはありませんでしたか

実は、弁護士になる前は、10年間自治体職員をしていたので、特に困ることはありませんでした。

 

赴任前後のバックアップが役に立ったそうですね

赴任前に受けた日弁連の事前研修講義は、原発事故損害賠償をはじめとても参考になりましたし、いただいた資料は今でも適宜参照しています。去年の八月には、仙台で「被災自治体任期付職員を励ます会」を開催してもらいました。他の被災地任期付職員の方々と率直な意見交換をし、被災地それぞれの課題などを共有することができ、とても有益でした(2013年10月号に報告記事)。

 

上司の方からメッセージ(総務課長兼地域防災対策室長宮崎富由さん)

弁護士を任期付職員として採用した主な目的は、復興スピードの加速と、職員の法務能力の向上でした。相談を顧問弁護士だけでなく、庁内の高橋さんにもできるようになり、事務処理のスピードが速くなったように思います。また、対応に苦慮するようなクレームが減ってきたようにも感じます。今後は、研修等で職員の法務能力を向上させていただくことを期待しています。




 

市民集会
可視化を止めるな!
全事件・例外なき取調べの録画を
1月17日弁護士会館

  • 取調べの可視化を求める市民団体連絡会主催・日本弁護士連合会共催 市民集会「可視化を止めるな!~全事件・例外なき取調べの録画を~」
特別部会の議論状況を語る周防監督

法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会で現在検討されているのは、録画対象事件としてまず裁判員裁判対象事件を念頭において、録画を義務づけるが一定の例外事由を設ける案と、録画の範囲を取調官の裁量に委ねる案だが、ほとんどの取調べが「密室」のままになりかねない。
取調べの可視化を求める市民団体連絡会主催、日弁連共催の市民集会では、係属中の事件の被告人から密室取調べの実態が報告されるとともに、特別部会の議論状況とその問題点が議論された。

 

密室取調べの実態

ドキュメンタリー「つくられる自白ー志布志の悲劇」の上映に続き、三鷹バス痴漢冤罪事件(現在係属中)で無実を訴えている津山正義氏が、「取調官は目撃者が何人もいると言っていたが、目撃者はいなかったし取調官は法廷でそんなことは言っていないと証言した」、「連日カメラに写っている、目撃者が何人もいると言われ続け、ひょっとしたら自分が意識していないときにやってしまったのかと1人で考えざるを得なくなった」と取調べの実体験を語った。

 

特別部会の現状と課題

パネルディスカッションでは、映画監督の周防正行氏(特別部会委員)が、「検討の対象として念頭におかれた裁判員裁判は刑事事件全体のわずか1.9%。証拠開示も可視化もこの限られた中での議論になりかねない」、「最初から録画の例外事由を定めてしまうと、取調官が録画したくないときは何としてもそれにあてはめようとし、制度が空洞化しかねない」、「10人の真犯人を逃すとも一人の無辜を罰するなかれ、という想いがそもそも共有されていない」と特別部会が発足した経緯を踏まえ、議論の問題点を指摘した。ジャーナリストの江川紹子氏からは、「今日は津山さんの話を聞けてよかった。これまで日弁連の集会では無罪認定された人ばかり出てきたが、今後は係属中の事件での冤罪被害をもっと取り上げるべき」との指摘もなされた。


民事裁判シンポジウム
争点整理で7割決まる!?
より良き民事裁判の実現を目指して
1月30日 弁護士会館

  • 民事裁判シンポジウム「民事裁判プラクティス -争点整理で7割決まる!?- より良き民事裁判の実現を目指して」
活発な議論を交わすパネリストら

現行民事訴訟法は施行後15年を経過したが、改正の趣旨であった迅速で適正な審理は実現できているのか。本シンポジウムでは、とりわけさまざまな問題点が指摘されている争点整理手続に焦点を当て、各地の民事裁判の運用状況を踏まえ、迅速適正な審理の実現に向けてあるべき手続について検討した。

 

冒頭、民事裁判手続に関する委員会の相羽洋一副委員長(愛知県)が、各地の民事裁判の運用状況の報告を行い、「新民事訴訟法施行当初は熱心に行われていた争点整理が、最近では十分になされていない例が多い」等と指摘した。

続いて、同委員会の後藤裕委員長(福岡県)から、同委員会が取りまとめた「民事裁判に関する運用改善提言」の報告がなされた。同提言は、弁論準備手続の活性化や集中証拠調べの充実など八項目にわたる。自由闊達な口頭での議論が弁論準備手続の活性化に不可欠であるため、議論中の発言を後に主張で引用してはならないといった運用についての新たな試みも盛り込まれている。

後半のパネルディスカッションでは、主に争点整理手続の活性化について検討した。

小町谷育子会員(第二東京)は、「議論中の自分の発言が後の主張で引用されないことが確実であれば口頭議論の活性化も期待できる」とし、福田千恵子氏(最高裁判所事務総局民事局第二課長)は、裁判所が早期に事案の概要を把握できることを理由に、口頭の議論によって争点整理が活性化することに肯定的であった。また、福田氏は、発言を引用した書面が実際に提出された場合の対応について、事前に当事者と裁判所の三者間で発言を主張で引用しないルールを合意していたとすれば、書面の陳述を認めないこともあり得ると述べた。

その他、提出書面の要旨の口頭による説明、裁判官による期日毎の暫定的心証開示、争点整理の結果の書面化などあるべき争点整理について議論が交わされた。


第16回
多重債務相談に関する全国協議会
1月25日弁護士会館

多重債務相談に関する各種テーマについて検討するため全国協議会を開催し、報告と活発な意見交換が行われた。本稿ではその一部について紹介する。

 

破産制度について

消費者問題対策委員会の千綿俊一郎委員(福岡県)から、韓国における事情として、管財人候補者を80人程度に絞り、予納金を3万円程度に抑えることで全件管財事件とする破産事件の運用と、2008年施行の保証人保護のための特別法の内容が報告された。

吉野建三郎委員(佐賀県)からは、日弁連による2011年度破産・個人再生事件記録の調査結果として、失業や転職、給与の減少を理由とする破産・再生申立の増加と、年金生活者、生活保護受給者の破産申立件数が過去最高にのぼったことなど、貧困問題の深刻さを示す結果が報告された。

 

事件処理の遅滞がもたらす問題点

黒木和彰副委員長(福岡県)から、福岡で発生した預り金横領事件の端緒の一つが、債務整理後の弁済代行の不十分な管理方法にあったことが指摘されるとともに、昨今指摘されている、債務整理事件の滞留問題の背景が報告された。また、これらの問題と関連する「いわゆる時効待ち方針」に関する最判の射程について活発な議論が交わされた。

 

貸金業者等による大量提訴事件における消滅時効の援用の可否について

及川智志会員(千葉県)から、一部業者が、消滅時効期間経過後の債権や破産免責後の債権を大量に買取り、返済を強要し、返済を受けるやいなや訴訟を提起し、裁判所が認容判決を出している事実が報告された。他方で、弁済の事実があっても援用権の喪失を認めない確定判決が出ていることも報告され、相談時等の適切な対応が求められた。

 

奨学金問題の現状と課題

貧困問題対策本部の岩重佳治事務局員(東京)から、深刻化している奨学金問題の現状が報告されるとともに、奨学金の所定の救済手段の利用を検討するなど、奨学金相談におけるポイントが指摘された。


夢実践シンポジウム Vol.4
クライアントの信頼を確実にする弁護士マインド
相談・受任、交渉、報酬請求を中心に
1月29日弁護士会館

  • シンポジウム「クライアントの信頼を確実にする弁護士マインドのABC~相談・受任、交渉、報酬請求を中心に~」
講演を行う原会員

受任から報酬請求に至る業務について適正に処理するために要求されるスキルは決して低くはなく、悩みを抱えている若手会員も多くいるのではないだろうか。本シンポジウムでは、そのような会員向けに、弁護士業務における心構えやノウハウについて講演とパネルディスカッションを行った。

 

前半は、弁護士のスキルアップのための勉強会を定期的に開催している原和良会員(東京)から、法律相談・受任、交渉、報酬請求などを行う上での心構えが語られた。

同会員は、「法律相談・受任の際には相談者の話を遮らずによく聴くこと。他方で相手方や裁判官から見える事件像をイメージし、伝えることが重要」と指摘し、報酬については、「若手弁護士はつい控えめに請求しがちだが、安すぎる報酬請求はすべきでなく、事件の価値を依頼者に理解してもらった上で適正な報酬請求をすべき」と強調した。さらに、弁護士のマーケティングについて、同会員自身がバンコクに長期滞在する日本人向けの法律相談を行っていることを踏まえ、「ニーズがあるところに新しいサービスを提供することを、より研究していくべき」と語った。

 

後半は、指宿昭一会員(第二東京)、林大悟会員(横浜)が加わり、パネルディスカッションを行った。

指宿会員は、法律相談・受任にあたり、「顧客は目の前の弁護士がどういうサービスができるのか知りたがっている。サービスは目に見えないので、イメージできるようにすることが大事で、自分の判断を示し、解決までの道筋を示すことが重要」と指摘した。

林会員は、良い結果を出しても報酬請求の際に依頼者から不満を示された経験を踏まえ、「結果を獲得するまでのプロセスもきちんと依頼者に示し、依頼者との間の信頼関係を構築できているかが大事」と強調した。


セミナー
国際法廷の現状と日本人のキャリア構築
国際業務への具体的な筋道
2月1日 弁護士会館

  • 一般社団法人広島平和構築人材育成センター・日本弁護士連合会主催 セミナー「国際法廷の現状と日本人のキャリア構築」

国際法廷など国際機関での弁護士の活動というと、業務内容も必要なキャリアも具体的なイメージをつかみにくい。
このような声を反映して、国際機関の法律業務に携わることを目指す人のための個別相談と、国際法廷の実情に関する講演会を一般社団法人広島平和構築人材育成センターと共催で開催した。会場はほぼ満杯となり、活発な質疑応答が交わされた。

 

自分の道が見えてきた

今回初めての試みがキャリアプランについての個別相談だ。実際に20年以上国連での業務に従事し、現在カンボジア特別法廷(ECCC)で捜査判事として勤務する藤原広人氏と国際業務に従事する人材育成を行う篠田英朗氏(広島平和構築人材育成センター理事)を講師として、各自のキャリア状況に応じた法務経験・知識の必要性や活かし方・取得の方法などについて、個別にアドバイスを行った。参加した67期の修習生は「職種が豊富にあるなど、初めて知ることがたくさんあった。国際業務を目指す前に弁護士となるべきかについても悩んでいたが具体的なアドバイスをもらえた」と笑顔で感想を語った。

 

増える法曹関連業務

第2部の講演会では、藤原氏の経歴や国際機関で法律家が従事できる具体的な業務内容についての説明があった。同氏によると、これまでも、法務官として国際刑事裁判所の判決の起草や法的調査に従事する職など、多くの職種に海外の法曹が参加しているという。これに加え、昨今では国際機関内部の雇用人数の増加等により、契約管理や雇用問題の調整に携わる職種も募集されているようだ。

藤原氏は「国際機関ではいわゆる年功序列ではなく、新しいポストにチャレンジし続けて自分の道を切り開くのが一般的なキャリアの積み方だ。ぜひ多くの弁護士にチャレンジしてほしい」と国際業務参加への期待を述べた。

 

2013年懲戒請求事案集計報告

日本弁護士連合会は、2013年(暦年)中の各弁護士会における懲戒請求事案並びに当連合会における審査請求事案・異議申出事案および綱紀審査申出事案の概況を集計して取りまとめた。
弁護士会が2013年に懲戒手続に付した事案の総数は3347件であった。前年に引き続き新受事案が3000件を超えたのは、1人で100件以上の懲戒請求をした事案が5例(5例の合計1701件)あったこと等による。
懲戒処分の件数は98件であり昨年と比べると19件増えているが、会員数との比では0.28%でここ10年間の値との間に大きな差はない。
懲戒処分を受けた弁護士からの審査請求は46件であり、2013年中に日弁連がした裁決内容は、棄却が30件、処分取消が3件、軽い処分への変更が1件であった。
弁護士会懲戒委員会の審査に関する懲戒請求者からの異議申出は31件であり、2013年中に日弁連がした決定内容は、棄却が23件、決定取消が1件、処分変更が0件であった。
弁護士会綱紀委員会の調査に関する懲戒請求者からの異議申出は1590件(前年比812件増)、綱紀審査申出は1098件(前年比777件増)であった。日弁連綱紀委員会及び綱紀審査会が懲戒審査相当と議決し、弁護士会に送付した事案はそれぞれ6件、4件であった。

 

表1:懲戒請求事案処理の内訳(弁護士会)

新受 既済
懲戒 懲戒しない 却下 終了 
戒告 業務停止 退会命令 除名
1年未満 1~2年
2004 1268 23 19 2 3 2 49 1023 1 19
2005 1192 35 18 4 3 2 62 893 0 18
2006 1367 31 29 4 2 3 69 1232 0 24
2007 9585 40 23 5 1 1 70 1929 0 30
2008 1596 42 13 2 2 1 60 8928 0 37
2009 1402 40 27 3 5 1 76 1140 0 20
2010 1849 43 24 5 7 1 80 1164 0 31
2011 1885 38 26 9 2 5 80 1535 0 21
2012 3898 54 17 6 2 0 79 2189 0 25
2013 3347 61 26 3 6 2 98 4432 0 33

表1、2について

  • *一事案について複数の議決・決定(例:請求理由中一部懲戒相当、一部不相当)がなされたものについてはそれぞれ該当の項目に計上した。
  • *日弁連による懲戒処分・決定の取消し・変更は含まれていない。
  • *新受事案は各弁護士会宛てになされた懲戒請求事案に会立件事案を加えた数とし、懲戒しない及び終了事案数等は綱紀・懲戒両委員会における数とした。
  • *2007年の新受事案が前年の7倍となったのは、光市事件の弁護団に対する懲戒請求が8095件あったため。
  • *2012年の新受事案が前年の2倍となったのは、1人で100件以上の懲戒請求をした事案が5例(5例の合計1899件)あったこと等による。

 

表2:審査請求事案の内訳(日弁連懲戒委員会)

新受(原処分の内訳別) 既済 未済
戒告 業務
停止
退会
命令
除名 棄却 原処分
取消※1
原処分
変更※2
却下・終了
※3
2011 14 15 0 0 29 20 2 3 3 28 19
2012 25 8 1 0 34 25 2 0 2 29 24
2013 29 13 4 0 46 30 3 1 1 35 36

※1 原処分取消の内訳

  • 2011年:戒告→懲戒しない(2)
  • 2012年:戒告→懲戒しない(2)
  • 2013年:戒告→懲戒しない(3)

※2 原処分変更の内訳

  • 2011年:業務停止6月→戒告(1)、業務停止4月→業務停止2月(1)、業務停止1年→業務停止8月(1)
  • 2013年:業務停止1月→戒告(1)

※3 終了等は取下げ・資格喪失・死亡による終了を指す。

 

表3:異議申出事案処理の内訳(日弁連綱紀委員会)

新受 既済
未済
審査相当 審査不相当 速やかに終了せよ
棄却 却下 終了※4
2011 682 7 494 14 10 22 547 270
2012 778 6 759 39 4 26 834 196
2013 1590 6 1431 26 8 21 1492 312

*2004年4月1日の改正弁護士法施行により、原弁護士会の懲戒委員会の審査に付されていない事案に関する意義申出事案は、日弁連網紀委員会に付議されることになった。

※4 取下げ・資格喪失・死亡による終了を指す。

 

 

表4:異議申出事案処理の内訳(日弁連懲戒委員会)

新受 既済 未済
棄却 取消※5 変更 却下 取下 速やかに
終了せよ
資格喪失・
死亡終了
2011 29 20 3 0 0 0 1 2 26 18
2012 32 29 0 0 1 0 3 0 33 16
2013 31 23 1 0 3 0 1 0 28 20

※5 「取消」の内訳

  • 2011年:懲戒しない→戒告(3)
  • 2013年:懲戒しない→戒告(1)

 

表5:綱紀審査申出事案処理の内訳(日弁連綱紀審査会)

新受 既済 未済
審査相当 審査不相当 却下 取下 資格喪失・
死亡終了
2011 327 0 271 2 2 0 275 118
2012 321 3 264 10 0 0 277 162
2013 1098 4 281 19 2 0 306 954

*2013年の新受事案のうち、同一の綱紀審査申出人による大量の綱紀審査申出事案の例が2例あり(2例の合計865件)。

 

日弁連委員会めぐり 62

弁護士職務の適正化に関する委員会

今回の委員会めぐりは弁護士職務の適正化に関する委員会です。預り金の横領など弁護士による重大な非行事案が相次いで明らかになり、弁護士および弁護士会に対する市民の信頼が揺らいでいます。その信頼を確保して弁護士自治を堅持・発展させるにはどのような取組が求められるのか、お話を伺いました。

(広報室嘱託 白木麗弥)

市民に開かれた窓口としての「市民窓口」
前列右から髙中委員長、藤井副委員長、後列右から山中事務局長、根岸事務局長

全国の弁護士会には市民窓口や紛議調停制度が置かれており、前者は弁護士の活動に関する苦情受付窓口として、後者は弁護士とのトラブルの解決手段として機能している。しかし、弁護士会によってノウハウや人員体制等に差異があるのが現状だ。そこで、委員会が主催して、市民窓口および紛議調停制度等に関する実務担当役員および事務局職員が一堂に会する全国連絡協議会を開催し、ノウハウの共有や改善策等の意見交換を行う機会を設けている。「市民窓口は市民と弁護士会とのコミュニケーションの窓口として重要であり、この協議会は、その充実強化に貢献しています」と藤井篤副委員長(第二東京)は語る。

また、昨年は預り金をめぐる不祥事が多発したことを受けて、預り金等の取扱いに関する規程を策定した。髙中正彦委員長(東京)は、「規程の制定だけで不祥事対策が完結するわけではありません。非行の探知、および再発防止という総合的な観点から、いかに実効的な対策を行うかが、今後の重要な課題です」と非行の探知・防止に関する総合的、具体的な取組の重要性を訴えた。

 

弁護士の人生設計を見直す

委員会では、不祥事事案の原因分析、検討等を踏まえ、弁護士のメンタルヘルスをはじめとするサポート体制の企画立案にも取り組んでいる。「弁護士はもともと孤立しやすい職業。今までは同期や弁護士会で顔が見える関係ができていたからこそ、相互のフォローができていたが、弁護士人口の増加や修習の短期化等の環境変化により、お互いの顔が見えづらくなってきている」と山中尚邦事務局長(東京)は現状を分析する。

また、法律事務所の事業規模は一般的に小さいため、経済的、人的基盤が脆弱になりやすい。根岸清一事務局長(第二東京)は、「親の介護のため本業に手が回らなくなってしまい、事務所の経費すら払えなくなったケースがありました」と実例を語る。誰にでも起こりうる話だ。

「弁護士は人生設計やしっかりしたマネジメントが重要な職業。会社員であれば定年があるが、弁護士はいつまで働くかを自分で決めなければならない。規模の縮小や手仕舞いという判断は、難しいが必要な時もあるでしょう」と藤井副委員長は弁護士特有の人生設計の難しさを指摘した。

弁護士自治の発展を担う委員会の活動に、ぜひ今後も注目していきたい。


ブックセンターベストセラー
(2013年11月・六法、手帳は除く)協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名
1 インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル 中澤佑一 著 中央経済社
2 法律家のためのスマートフォン活用術 弁護士業務改革委員会 編著 第一法規出版
3 和解・調停条項と課税リスク 三木義一 監修/馬渕泰至 編著 新日本法規出版
4 別冊ジュリストNo.217 憲法判例百選1[第6版] 長谷部恭男・石川健治・宍戸常寿 編 有斐閣
5 最高裁判所判例解説 刑事篇 平成22年度 法曹会 編集 法曹会
6 Q&A 家事事件と銀行実務 ―成年後見・高齢者・相続・遺言・離婚・未成年 斎藤輝夫・田子真也 監修 日本加除出版
7 新基本法コンメンタール 人事訴訟法・家事事件手続法 平成25年通常国会の法改正に対応[別冊法学セミナーNo.225] 松川正毅・本間靖規・西岡清一郎 編 日本評論社
新版 家庭裁判所における 遺産分割・遺留分の実務 片岡 武/菅野眞一 編著 日本加除出版
9 離婚調停[新版] 秋武憲一 著 日本加除出版
10 破産管財実践マニュアル[第2版] 野村剛司・石川貴康・新宅正人 著 青林書院
労働審判実践マニュアル Ver.2 日本労働弁護団 日本労働弁護団

編集後記

早いもので東日本大震災から3年が経とうとしています。一昨年、昨年に続き、震災3周年にあたる本号でも、4面を割いて震災特集を組ませていただきました。日弁連のこれまでの活動の報告や被災地の自治体職員として奮闘する会員へのインタビューなど内容盛りだくさんですので、ぜひお目を通していただければと思います。
最近、被災地以外では東日本大震災関連の報道があまりされなくなったとの話をよく聞きます。しかし実際には、被災地域の復興はまだまだ途半ばで、用地取得が難航する等の問題も山積しており、震災が風化されつつある状況に強い危惧を抱きます。
今年1月に就任したばかりの新米広報室嘱託ですが、被災者・原発事故被害者の方々の人間復興が果たせるその日まで、復興支援に関する情報の発信に取り組んでいきたいと思います。(Y・K)