日弁連新聞 第444号

第11回国選弁護シンポジウム
ブラッシュアップ!さらなる飛躍へ!
12月14日 国立京都国際会館

被疑者国選弁護制度の検証と展望

第11回国選弁護シンポジウムの様子

被疑者国選弁護制度の対象範囲が拡大し、約1年半が経過した。そこで、これまでの実績を示し、検証を行うとともに、今後の展望を検討するために本シンポジウムを開催した。


被疑者国選弁護制度の検証

~弁護実務と報酬改革~

第1部「検証」では、まず、被疑者の実質的で有効な弁護人選任権の保障には、①弁護人の就任、②接見を基本とする被疑者との意思疎通の確保、③弁護能力が必要との指摘があった。そして、この観点からの調査結果として、被疑者国選弁護対象事件拡大前と比較し、弁護人選任数が約10倍になったこと、速やかな初回接見が行われていること、一方で、面会室不足から、60分を超えて待つ例も相当数あること、被疑者段階の勾留取消数が増加していることなどの報告があった。また、軽微な自白事件での安易な身体拘束事例の報告の中で、逮捕段階にも国費による弁護制度が必要との指摘があった。


次に、国選弁護報酬は、適正な報酬でなければならず、今後も改正の必要があるとの説明があった。また、弁護人が被告人の精神疾患に気づき弁護人が鑑定を行い、最終的に責任能力がないとして無罪となった事例報告の中で、当事者鑑定費用が出ないことの問題が指摘された。


被疑者国選弁護制度の展望

~対応態勢と制度改革~

第2部「展望」では、まず、逮捕段階からすべての事件を国選弁護の対象とするための態勢確立が必要との指摘があった。


次に、刑訴法が日本と類似しながら、身体拘束率の低い韓国の実情が報告された。韓国では、拘束前被疑者審問(勾留質問に相当)に、弁護人立会権があり、捜査資料の閲覧もできること、拘束適否審査手続(起訴前保釈に相当)があり、釈放率は高いこと、裁判所には、捜査の便宜より身体不拘束の原則を重視する発想が根付いていることなどの報告があった。


さらに、韓国の制度などを取り入れた刑訴法改正試案が報告された。


逮捕段階における国選弁護制度と国費による当番弁護士制度

国選弁護シンポジウムパネルディスカッションの様子

第3部では、まず、少年にも全面的国選付添人制度が必要との報告があった。


続いて、葛野尋之教授(一橋大学大学院法学研究科)、木下信行会員(東京)、前田裕司会員(東京)が、逮捕段階の弁護人選任について、「逮捕段階における国選弁護制度と国費による当番弁護士制度」をテーマにパネルディスカッションを行った。この中で、逮捕時の弁護人は、取調べの適正確保や勾留の回避・釈放など必要かつ重要な役割があることや国費による逮捕段階の被疑者弁護制度の導入が必要などの意見が出された。


日韓弁護士会共同シンポジウム
韓国併合100年を機に過去・現在・未来を語る
12月11日 東京

戦争と植民地支配下における被害者の救済に向けて

多数の参加者が詰めかけた

第1回共同シンポジウム(2010年6月、於ソウル市)では、これまでの両国の戦後補償裁判などの論点整理、現在までの到達点および問題の所在の確認などが主なテーマであったが、今回の第2回シンポジウムは、来日した在韓被害者ら約50人を含む、約250人が参加し、今後の救済活動の具体的方策を討議するものであった。


神本美恵子参議院議員(民主党)と、イ・ソンヨプ国会議員(韓国民主党)、オ・ピョンジュ氏(対日抗争期調査支援委員会委員長)の来賓挨拶後、1部「日本軍『慰安婦』問題」、2部「強制連行・強制労働問題について」、3部「その他の未解決な課題について」のパネルディスカッションが行われた。


1部では、日韓両弁護士会名で「日本軍『慰安婦』問題の最終的解決に関する提言」を公表し、討議したほか、2部では強制動員被害者の救済の方向性が、3部では在日年金問題や日韓条約の両国の解釈齟齬によって生じる問題などが、それぞれ討議された。


パネル終了後、両国の報道機関も見守る中、高木光春副会長とヤン・サムスン氏(大韓弁護士協会副協会長)により、両弁護士会の機関決定を経た「共同宣言」が読み上げられた。「慰安婦」問題被害者への謝罪や金銭的補償、日韓基本条約締結過程に関する文書の完全公開、強制動員被害者に対する真相究明と今後の救済のあり方の検討などを求めるものであり、後日、両国の政府、国会議長、政党などに対して交付・執行される。


日韓併合から満100年を迎えた2010年3月に日弁連内に立ち上げた日韓弁護士会戦後処理問題共同行動ワーキンググループは、同年中に2度のシンポジウムを成功裡に終えた。引き続き被害者らの救済実現のため、大韓弁護士協会との共同行動を継続していきたい。


(国際室嘱託・日韓弁護士会戦後処理問題共同行動ワーキンググループ委員 大川秀史)


新年のご挨拶
日本弁護士連合会会長 宇都宮健児

宇都宮 健児

新年あけましておめでとうございます。


さて、昨年は、11月1日から司法修習生に対する給費制が廃止され、貸与制が導入されることになっていたことから、4月に緊急対策本部を立ち上げ、市民団体による「司法修習生に対する給与の支給継続を求める市民連絡会」や若手弁護士、司法修習生、大学院生らによる「ビギナーズ・ネット」などと連携・協力しながら、給費制の維持を目指す取組みを行ってきました。


11月1日には貸与制を導入する裁判所法の改正法が施行されてしまったのですが、日弁連や市民連絡会、ビギナーズ・ネットは、諦めないで粘り強く国会議員要請や院内集会の開催、議員会館前の街頭宣伝活動などを続けた結果、ついに11月26日、臨時国会の最終局面において給費制を1年延期する裁判所法の一部改正法を成立させることができました。この改正法の成立を給費制維持に向けての大きな一歩と位置づけ、今年も給費制維持に向けた取組みに全力をあげたいと思っています。


また、昨年は、9月10日に大阪地方裁判所で郵便不正事件に関し厚労省元局長に対し無罪判決が言い渡されるとともに、この事件に関連して大阪地検特捜部の主任検事が証拠改ざん容疑で逮捕・起訴されるという、わが国の刑事司法制度の根幹を揺るがすような大事件が発生しました。その後、「検察の在り方検討会議」が設置されることになりましたが、冤罪を防止するための取調べの可視化、検察官手持ち証拠の全面開示などの早期実現に向け、全力をあげて取り組んでいきたいと思っています。


さらに、昨年は、業務妨害事件で二人の会員の尊い命が奪われるという悲しい出来事が発生した年でした。


悲しむべきこの2つの事件を契機として、あらためて業務妨害対策を徹底させ、離婚事件やDV事件などから生ずる業務妨害事件に対する会員への支援体制をしっかりと確立していきたいと思っています。


このほか、貧困問題、民事法律扶助の飛躍的拡充、裁判官・検察官の大幅増員と地家裁支部の充実、民事裁判・行政訴訟の改革、若手法曹に対する支援体制の強化、法曹人口問題、人権のための行動宣言2009の実現などの諸課題に、市民との連携を大切にして、積極的に取り組んでいきたいと思っています。


どうか今年も昨年に引き続き、会員の皆さまのご支援、ご協力をよろしくお願い申し上げます。


取調べの可視化を求める市民集会実行委員会主催
待ったなし!今こそ可視化の実現を
冤罪はこうして作られる
12月2日 弁護士会館

講演する木谷教授

2010年9月10日に無罪判決が言い渡された厚生労働省元局長事件を機に、もはや可視化の是非を議論する段階ではなく、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)を早期に実現させることが急務である。そのような声が高まる中、取調べの可視化を求める市民集会実行委員会が主催(日弁連共催)し、本シンポジウムが開かれた。


第1部では、志布志事件のダイジェストビデオが放映され、冤罪被害者の切実な思いが伝えられた。続いて、足利事件の菅家利和氏、布川事件の桜井昌司氏と杉山卓男氏、厚生労働省元局長事件弁護人の河津博史会員(第二東京)から、任意取調べが全く任意となっていないという実態が紹介され、任意同行段階からの録画の必要性が訴えられた。また、実際の取調べ状況を録音したテープが公開され、もはや取調べとはいえない警察官の怒鳴り声が会場に響き渡り、密室の取調室での過酷な取調べの実態が浮き彫りになった。


第2部では、ジャーナリストの江川紹子氏、木谷明教授(法政大学大学院法務研究科・元裁判官)が、可視化について講演をした。江川氏は、本年11月に、大阪地検が有罪立証の困難性を斟酌して起訴を取り消した事件を紹介し、検察が立ち止まる勇気を持ったことは評価できると述べた。また、裁判官が書面を偏重するあまり、供述調書を作成さえすればいいという風潮になっていないかという厳しい指摘もあった。木谷教授は、取調官と被疑者・被告人との信頼関係が築けないという可視化反対の理由を紹介し、刑事裁判の実情を踏まえて、国家権力を背景に持つ取調官と一市民との間に信頼関係が築けるのかという疑問を呈した。


当日は、辻恵衆議院議員(民主党)、横峯良郎参議院議員(民主党)、井上哲士参議院議員(共産党)も駆けつけ、早期に、国会で可視化法案を成立させるべきと熱く語った。最後に、集会アピールを採択して閉会した。


第10回市民窓口及び紛議調停に関する全国連絡協議会
12月10日 弁護士会館

弁護士の活動に関する苦情やトラブル解決のための重要な制度である市民窓口や紛議調停制度に関する情報や意見を交換するため、本協議会を開催した。


まず、第二東京弁護士会から、2003年以降、市民窓口に寄せられる弁護士の対応・態度に対する苦情総数がおよそ10倍と激増している状況が紹介された。


苦情の活用方法として、多くの弁護士会では、苦情が多く寄せられる対象会員に指導・助言を行い、また、多く寄せられる苦情を抽象化して全会員に周知させているとのことであった。対象会員に苦情を伝えるに当たっては、あらかじめ苦情申出者の確認を取り、苦情申出者が特定されることで、制度の信用が失われないようにしているという。


法テラスでは、弁護士業務の監督権限は弁護士会にあることを説明して、各弁護士会の市民窓口を案内している。しかし、各弁護士会のホームページが見にくく、市民窓口へ容易にアクセスできないとの指摘があった。このほか、弁護士会共通の市民窓口取扱基準が必要ではないかとの問題提起もあった。


続いて、紛議調停制度について、近年、着手金の返還のみならず、慰謝料請求の案件が増加しており、紛議調停が不成立で終了する事案が増えているとの報告があった。紛議調停の不成立を避け、納得できる解決に至る方法として、部会から調停案を提示する、当該案件を係属した部会だけで処理するのではなく、全体会と有機的に連携して解決を図るという方法が示された。不成立に至ったとしても、それまでの過程が重要で、誠意を持って話を聞く姿勢が必要との意見もあった。


また、共同受任をしている事案に対する紛議調停が申し立てられた場合について、対象弁護士の所属弁護士会が複数にまたがっている際の処理方法等についてが今後の課題として挙げられた。


なお、本協議会では、日本組織内弁護士協会から、今後急激な増加が予想される組織内弁護士も市民との接点は皆無ではなく、市民窓口と無関係ではいられないとの報告もあった。


第28回 市民会議
12月6日 弁護士会館

今回から、総務大臣に就任した片山善博氏(慶應義塾大学法学部政治学科客員教授)に代わり、北川正恭教授(早稲田大学大学院公共経営研究科)が新しく委員となった。


法曹養成制度の現状と課題

冒頭、法曹志望者の減少を招いている主な原因として、合格率の低下という入口の問題と就職難という出口の問題が提起された。


入口の問題については、合格率を上げることばかりに目が行き、法科大学院が司法試験予備校化することへの懸念が指摘された。また、「司法試験のあり方が、法曹教育に影響を及ぼしている現状からすると、試験内容の抜本的見直しこそが必要」(フット)との意見が出た。


これに対し、不合格者が、法務博士として活躍できる場が確立していれば、合格率ばかりが偏重されず、法律家のあり方とリンクした法曹教育が実現できるのではないかという出口の問題に議論が及んだ。さらには、「社会が専門性を重視する土壌こそが必要」(清原)との意見にも発展した。


弁護士の地方自治への参画

1999年の地方分権一括法の施行により、地方公共団体には、国への追従ではなく、法令に基づき、地域に即した判断が求められるようになった。そうした中、それを支える弁護士への期待も高まっている。


これに関しては、「地方公共団体の政策判断については、情報公開条例などにより、第三者の目にさらされているため、判断過程・判断内容の適法性をチェックする専門家が必要」「行政判断に伴うリスクの分担・予防方法でも、専門家である弁護士への需要が高まっている」(北川)との意見があった。


また、「教育委員、建築審査会委員などの行政に携わる弁護士が増えている」(清原)という現状が紹介され、「このような弁護士の活動などを通じて、住民との接点の場を構築し、身近な司法を実現してほしい」(長見)との意見が出された。


最後に、次回以降、司法制度改革の検証を市民会議として行おうとの意見が出されたことから、司法改革の歴史的経過、その理念と内容、到達点と課題が紹介された。これに対し、「親しみやすさをアピールする外見からの改革も必要」(北川)という意見が出された。


市民会議委員(2010年12月6日現在)
長見 萬里野 (財団法人全国消費者協会連合会事務局長)
北川 正恭  早稲田大学大学院公共経営研究科教授)
清原 慶子 (三鷹市長)
古賀 伸明  (日本労働組合総連合会会長)
ダニエル・フット (東京大学法学政治学研究科教授)
中川 英彦 (前京都大学大学院教授、駿河台大学法科大学院講師)
松永 真理 (株式会社バンダイ社外取締役)
豊 秀一  (朝日新聞東京本社社会グループ次長)
吉永 みち子  (ノンフィクション・ライター)
(以上、50音順)

12月1日から
職務上の氏名制度施行

2008年12月5日の臨時総会において成立した職務上の氏名の制度が、昨年12月1日に施行された。


職務上の氏名の制度は、これまで事実上用いられてきた通称(婚姻等により戸籍上の氏名に変更があった場合の変更前の氏名、外国人登録原票に記載されている通称名など)を使用することについて、会則上の根拠を設け、弁護士名簿の登録事項とするものである。


職務上の氏名を使用する場合には、日弁連への届出または許可が必要であるが、昨年12月1日の時点で会員名簿に通称を掲載することが認められていた会員については、届出等があったものとみなされる。


職務上の氏名を使用する会員は、職務を行うに当たっては、原則として職務上の氏名以外の氏名を使用することはできない。また、職務上の氏名の使用をやめるときは、その旨の届出をしなければならない。


職務上の氏名の制度は、日弁連、弁護士会内の制度ではあるが、今後は、これを梃子に、成年後見等家庭裁判所関係の登記名義、銀行口座開設名義など、通称の使用が認められていない分野において、職務上の氏名の使用が認められるよう求めていく予定である。


第8回非常勤裁判官シンポジウム
12月3日 弁護士会館

常勤任官促進の機能を発揮する段階に

2004年1月に30人でスタートした非常勤裁判官制度は、本年10月に第8期の任官者が就任し、全国で約120人が実働するに至っている。


挨拶に立った氏本厚司氏(最高裁事務総局総務局第一課長)は「非常勤裁判官はすべての高等裁判所管内に及び、本庁併置簡裁に加え、調停事件数が多い支部併置簡裁に配置しているところもある。弁護士任官の促進と調停機能強化の観点から、さらにこの制度を推進していきたい」と述べた。


大島久明会員(第二東京・弁護士任官等推進センター事務局長)は、基調報告の中で「非常勤から常勤裁判官に任官した方が10人いるが、2004年以降の常勤任官者総数が33人であることを考えると決して少なくない。常勤任官促進の機能を発揮する段階に至りつつある」と述べた。


評議の積極的活用など裁判所実務にも影響

続いて、八尋紀一氏(東京三会調停委員協会会長)、菅野富邇子氏(前東京家事調停協会会長)、広瀬めぐみ会員(第二東京・東京家裁調停官)、淺野高宏会員(札幌・前札幌簡裁調停官)、井戸陽子会員(広島・広島家裁調停官)をパネリストに迎え討論した。


調停委員の側からは「調停官が積極的に調停委員との評議をするので、裁判官も評議を活用するようになってきた」(菅野氏)、「調停の『落としどころ』については、裁判官以上に分かっていると思う」(八尋氏)などの評価があった。


調停官経験者も「当事者とは違う立場に立つことにより、視野が広がり法曹としての力量が増した」(淺野会員)、「広島家裁では評議の充実により、調停成立率の増加や早期解決の成果が表れているとの報告があがっている」(井戸会員)、「裁判官の仕事ぶりを間近で見ることができ、常勤任官を考える上でプラスになった」(広瀬会員)などと語り、会場の参加者と制度の意義を共有した。


第29回弁護士会綱紀 委員長全国協議会開催
11月18日 弁護士会館

本協議会には、51の弁護士会から綱紀委員会委員長等が参加し、活発に協議した。


宇都宮会長挨拶の後、大室俊三会員(第二東京・日弁連綱紀委員会委員長)が、日弁連および弁護士会における懲戒請求事案の現況を報告し、迅速処理を要請した。日弁連綱紀委員会が原弁護士会の決定を覆した事例を紹介すると、参加者は熱心に耳を傾けた。


続いて、綱紀審査会委員長と同事務局員が、同審査会の活動状況を報告した。同審査会は昨年に続き、今年も審査相当の議決をしていないが、報告を聞き、日弁連綱紀委員会の判断が厳しくなっているため、綱紀審査会が審査相当の議決をしなければならない事案が出てこないと実感したとの発言があった。また、綱紀審査会では、結論が同じだからといってすべて定型的に処理しているわけではなく、結論としては非行に当たらないという事案でも、市民の目線から見て問題と思われる対象弁護士の対応には、議決書の理由中にコメントを付し、注意を促すこともあるとの発言があった。


今回の協議事項では、懲戒請求者からの閲覧謄写申請を認める判断基準、綱紀委員会の事案処理要領、関係者のプライバシーへの配慮や議決書等のインターネット流出など今日的な問題への対応も協議された。


新任委員育成に苦労している弁護士会綱紀委員会から要請を受けて、日弁連綱紀委員会が「議決書起案の手引(案)」を試作し、今回の協議会で出席者に配付したところ、研修素材によいと好評を得た。日弁連綱紀委員会では、手引案を各会で活用してもらい、寄せられた意見を参考にして、今年度中に完成させる予定である。


(綱紀委員会副委員長 宮崎裕二)


シンポジウム 社会的・文化的な最低生活水準のあり方とは
ドイツ連邦憲法裁判所違憲判決を題材に
11月30日 弁護士会館

講演するヨハネス・ミュンダー氏

ドイツ社会法典の権威であるヨハネス・ミュンダー氏(元ベルリン工科大学教授)を招き、ドイツ社会法典第二編に基づく最低限の人間的生活の保障に関して、2010年2月9日に出されたドイツ連邦憲法裁判所の違憲判決についてシンポジウムを開催した。


連邦憲法裁判所は、人間の尊厳に見合う最低限の生活の保障が、ドイツ基本法の改正によっても侵されない恒久的な基本権であることを初めて確認した。そして、基準給付の金額や算出手法の大枠については、立法府の裁量の範囲内であるとしたものの、具体的な給付額の算出にあたり、「実際の需要を調査し、現実的な基準需要を算定するための、透明性のある適切な手続が必要である」とした。そのうえで、同裁判所は、統計データから一部費目を外した不合理性や、子どもに対する給付を形式的に成人の一定割合としている点のずさんさなどを指摘し、違憲判断を示した。


すでにドイツでは、改定に向けた法案が提出されており、これまで所管の省が定めてきた基準需要を法律で定める改正や、子どものための別立てのパッケージの創設などが予定されているという。ミュンダー氏は来日中もインターネットを通じて法案を巡る論戦に参加しており、まさに最新の情報を得ることができた。


ミュンダー氏の講演後、木下秀雄教授(大阪市立大学法学研究科)から、日独を比較し、各論点について説明があった。わが国では、生活保護の老齢加算廃止をめぐり各地の裁判が係属しているが、2010年6月の福岡高裁の勝訴判決まで、原告敗訴の判決が続いていた。木下教授は「日本の裁判所の判断には厳密さが欠けている」と指摘したが、講演を通じて、司法の社会的な役割に対する裁判所の意識の違いが感じられた。


(貧困問題対策本部事務局員 舟木 浩)


家事法制シンポジウム
両親が離婚した後の親子の関わりのあり方--共同親権の展望
12月11日 弁護士会館

家事法制シンポジウムパネルディスカッションの様子

冒頭、木内道祥会員(大阪・家事法制委員会副委員長)が、共同親権の議論と到達点についての基調報告を行った。木内会員は「親権は親の子に対する支配権ではなく、あくまで『子どもの最善の利益』のためのものである」と指摘し、立法論としての共同親権を議論する際も、抽象的に誰が親権を持つかの議論ではなく、破綻した夫婦間で子どもに関する居所指定や監護費用、面会交流や医療、教育などの個別具体的事項につき、どう共同し分担していくか、中身を議論する必要があると語った。


また、続いて行われたパネルディスカッションでは、木内会員、富岡恵美子会員(群馬)、大谷美紀子会員(東京)、中村多美子会員(大分県)が、海外の法制度や面会交流・養育費などについての現在の家裁での運用例、また、特に協議離婚の場合、離婚後の子どもの権利を夫婦でどう定めるべきかなど、共同親権の展望を議論した。


富岡会員は、「共同親権という場合に、現在のような男女間の収入差、父母の力関係がある状態では、果たして対等な協議が可能か。男女間格差や母子家庭の貧困問題の是正などの社会的基盤を埋めることがまず必要」との懸念を示した。これに対し、大谷会員と中村会員が、共同親権のための社会的基盤作りと子どもの権利の問題は同時並行で議論していくべきとの考え方を示した。


また、大谷会員は、共同親権が法制度として採用されている諸外国での運用例や、協議離婚の場合にも子どもの権利に関し具体的に両者で決定して、その内容を裁判所に提出する海外の制度例を紹介しつつ、夫婦関係が破綻した場合の裁判所の早期関与の重要性を語った。


JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.51

「北九州自立更生促進センター」を訪問して

北九州自立更生促進センター(北九州市小倉北区)

法務省が全国で初めて設置した成人の仮釈放者を対象とする宿泊保護施設「北九州自立更生促進センター」が、開所から1年半を迎えました。そこで、今回は、同センターを訪問し、法務省福岡保護観察所北九州支部支部長曽根崎哲也氏と保護観察官松浦弘則氏にお話を伺いました。


(広報室嘱託 葭葉裕子)


北九州自立更生促進センターとは

刑務所を出ても、頼るべき親族や仕事がない中で更生をすることは、簡単なことではない。こうした人たちが確実に更生できるようにするためには、民間だけではなく、「官」による更生保護施設も必要である。そこで、2009年6月に、法務省が成人の仮釈放者を対象として、全国で初めて開所したのが「北九州自立更生促進センター」である。


本センターでは、刑務所での成績は良好だが、再犯歴などのため民間の更生保護施設では受入れが困難な者を仮釈放のうえ受け入れ、宿泊させながら、保護観察官が24時間365日常駐して、濃密な指導や監督、就労支援を行う。


法務省は、当初、同様の施設を別に三か所設置する予定であったが、住民の反対により、二か所は計画段階で凍結となり、一か所は2010年


入所者は、更生と就労の意欲がある人

本センターの定員数は、14人であり、更生と就労の意欲がある成人男性が入所する。2010年11月までに、20歳代から60歳代までの29人が入所し、うち4人が無断外泊や飲酒のため仮釈放が取消しとなったが、24人が社会復帰した。


入所者29人の罪種は、無銭飲食などの財産犯が約76%を占め、その他はけんかなどによる粗暴犯や交通事故などである。刑期は、3年未満が約79%を占め、刑事施設入所回数は、1回の者が約55%である。


3か月後の自立を目指して生活をする

本センターの入所期間は、原則3か月であり、入所直後から退所後の自立を目指した生活が始まる。


まず、ハローワークや協力雇用主の支援を受けながら仕事に就き、自立のための資金を貯める。退所すれば、たちまち布団などを購入しなくてはならないなど生活資金が必要となる。また、退所後の住居確保の準備も行う。


次に、入所者1人1人に、主任・副主任の保護観察官を決め、丁寧な指導・監督を行う。再犯防止プログラムの実施や他人とのコミュニケーションの取り方の指導など、その内容は多岐にわたる。


さらに、入所者は、休日の清掃活動などを通じて、地域社会への参加も行う。


センターの規則は厳格

入所者の部屋は1人部屋と2人部屋がある。食堂が完備され、1日3食用意されており、昼食時に戻れない者には弁当を持たせる。


入所者は、規則正しい生活を送り、午後9時の門限後の外出禁止などの規則を守らなくてはならない。ここでの規則は厳格であり、例えば、通勤時も保護観察官などが付き添う。帰宅時は、飲酒検査があり、飲酒の事実が判明すれば、仮釈放が取消しとなる。


保護観察官としての喜び

曽根崎支部長(左)と松浦保護観察官

保護観察官は、「社会内処遇」の専門家であり、国家公務員である。本センターには、9人の保護観察官が配属されている。


本センターでは、保護観察官による24時間365日体制を維持するため、ローテーションを組んで勤務にあたる。そのため、本センターに赴任して、曜日の感覚がなくなり、体調の維持も大変だという。


それでも曽根崎氏と松浦氏は、「入所者がなんとか自立して生活できるよう力を注いでいきたい」「退所者から元気に頑張っているとの連絡があることが、なによりもうれしい」と語る。


地元の理解を得るために

本センターでは、保護司や更生保護女性会員の支えが大きい。こうした地域ボランティアは、地元とのつながりがあり、退所後の住居確保の協力を得るなどしている。


本センターの運営について、地元の方に理解してもらえるよう運営連絡会を作って情報を提供していきたいと考えており、反対している団体にも参加をお願いしている。


また、入所者には、借金を抱えたままの者もいて、弁護士との連携も図れるようになればいいという。


さらに、入所者の自立のため、今後も就職先の開拓を図っていきたいという。


お二人の入所者に対する熱い思いがひしひしと伝わってきた。


日弁連委員会めぐり 40

子どもの権利委員会

左から影山委員長、川村事務局長

少年司法に児童福祉、学校教育など、子どもの権利に関する問題は多岐にわたり、取り組むべき課題も多いといいます。子どもの権利条約がうたう「子どもの最善の利益」を実現するための活動について、今回、子どもの権利委員会の影山秀人委員長(横浜)と川村百合事務局長(東京)にお話を伺いました。


(広報室嘱託 西浄聖子)


非常に幅広い活動内容

本委員会は、これまで、子どもの人権救済・付添人活動拡充・子どもの福祉という3つの小委員会と、少年法問題対策・子どもの権利条約日弁連カウンターレポート作成・少年事件の裁判員裁判検討・子どもの権利通信という4つのチームから構成されていたが、これに加え、児童虐待防止のための制度改革バックアップチームおよび少年院問題検討チームも発足した。さらに、子どもの権利委員会から、いわば派生するようなかたちで全面的国選付添人制度実現本部、教育法制改正問題対策委員会、児童売春・児童ポルノ問題に関するワーキンググループも立ち上げられ、本委員会の活動内容は非常に幅広いと川村事務局長は語る。


子どもの最善の利益のために

今後の活動としては、大きく3つを考えていると影山委員長は言う。1つは、少年事件における全面的国選付添人制度や少年司法の理念に基づく少年司法を実現すること。


2つめに、児童虐待防止のための親権に係る制度の見直しの立法に向け、諸機関への働きかけを行うとともに、子どもの最善の利益を図るため「子ども代理人」制度の確立を目指す。


3つめは、子どもの権利条約がうたう最善の利益を正面から認めた子どもの権利基本法を、わが国でも制定すること。昨年、わが国では子どもや若者の健やかな成長・発達を目指す子ども・若者育成支援推進法が制定されたが、子どもの権利を主体として正面から認めた法律はない。そこで、将来的には、子どもの権利の主体性を認める法律の制定と、その権利救済のためのオンブズマン制度の策定を目指しているのだという。


最後に、川村事務局長は、「各地の若手委員が積極的に活動することにより、当番や付添人制度も着実に充実してきています。今年5月、青森で21回目となる付添人経験交流集会が開催されますので、ぜひご参加ください」と語った。


訂正
12月号(443号)4面のJFBAPRESSの記事中、「2010年現在のドイツの法曹人口は、約15万3000人」は「弁護士人口」の誤りでした。訂正いたします。


ブックセンターベストセラー(2010年11月・六法、手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書籍 著者・編者 出版社
新訂第六版 法律家のための税法[民法編] 東京弁護士会 編著 第一法規出版
離婚事件の実務 弁護士専門研修講座 東京弁護士会弁護士研修センター運営委員会 編 ぎょうせい
消費者問題法律相談ガイドブック[4訂版]2010年 第二東京弁護士会 編 第二東京弁護士会
ケースブック 民事訴訟活動・事実認定と判断~心証形成・法的判断の過程とその解説 瀬木比呂志 著 判例タイムズ社
破産申立マニュアル 東京弁護士会倒産法部会 編 商事法務
弁護士職務便覧 ~平成22年度版~ 東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会 編 日本加除出版
量刑調査報告集3 2010年4月 第一東京弁護士会刑事弁護委員会 編 第一東京弁護士会
Q&A 解雇・退職トラブル対応の実務と書式 中山滋夫 編著 新日本法規出版
新版 情報化時代の名誉毀損・プライバシー侵害をめぐる法律と実務 静岡県弁護士会 編 ぎょうせい
10 ひと目でわかる欠陥住宅 ~法律実務家のために~ 簑原信樹・幸田雅弘 編著 民事法研究会

編集後記

共同親権に関するシンポジウムを取材して、初めて知ったが、わが国のように、居所や監護費用など、子どもの利益に関する重要事項について何ら定めず、夫婦が自由に協議離婚できる国は、珍しいらしい。
親の離婚や再婚、そして親権を持つ親の代諾による連れ子養子…。結婚も離婚も法律上認められた自由ではあるが、それにより、振り回され傷つくのは、いつも子どもたちである。
弱い立場の子どもたちにこそ、権利主体性を認め、法の下で保護することが必要だ。また、子ども自身の利益のために、協議離婚の場合にも、きちんと子どもに関する事項を具体的に夫婦で決めるよう義務づける法的枠組みも必要だ。
家族関係や家庭を取り巻く社会情勢が著しく変化する中、法制度や運用の不備で不利益を受ける子どもたちが存在する以上、家族法も見直すべき時が来ていると強く感じた。
 (S・S)