日弁連新聞 第441号

法曹人口政策会議 第1回全体会議開催
8月21日 弁護士会館

法曹人口政策会議は、法曹人口に関する日弁連の基本政策案の立案と、これについて世論の理解と支持を得るために必要な措置をとることを目的として設置された。会長(議長)、副会長、理事に加え、各弁連から4人ずつ推薦された32人の委員と会長指名委員の合計140人以内で構成される。設置期限は宇都宮執行部の任期である2012年3月末日。議長代行に木村清志会員(徳島)、事務局長には伊井和彦会員(東京)が就任した。


第1回会議は、21日午前10時から午後3時まで、出席者数130人という高い関心を得て開催された。


会議の前半では、テーマを絞らない自由な意見交換が行われ、後半は、①新人弁護士の就職問題、②法曹人口問題検討会議(2010年3月31日廃止)の2010年3月5日付答申に示された事項の中から何をどういう形で検証するか、③世論の理解を得るためにどのような主張・運動を展開すべきか、④今後どのような基本政策を立案・提言すべきか、という4つのテーマについて、意見交換が行われた。


「この会議の設置要綱では、3月5日付答申を踏まえて検討するとされているが、同答申の内容は説得力がないのではないか」、「宇都宮会長は1000人~1500人という地方会の声に耳を傾けると公約したのだから、1500人ではなく、合格者1000人を目指すべきではないか」、「法的ニーズを検証するなどといった段階ではなく、もはや合格者減員に向けた具体的行動を起こす時期ではないか」、「法科大学院をはじめこれまでの司法改革に関する日弁連の政策が失敗であったことを率直に認めるべきではないか」、「給費制維持の運動の成果を踏まえて法曹人口問題についても運動していく必要がある」といった議論や、「この間の弁護士増加によってどれだけ多くの市民の権利が救済されたかという側面も考えるべきではないか。従来の合格者数で被疑者国選弁護制度を担えたか、全面的国選付添人制度に向けた運動が展開できたのかも考えるべきではないか」、「中央だけの活動でなく、各地において、マスコミ、市民の理解を得るための活動を行っていく必要がある」、「法科大学院制度や現に存在する法科大学院を修了した法曹を否定する方針は適切ではない」といった議論など、数十人の委員の発言を得て、活発な議論が展開された。


同会議は、3か月に1回程度の全体会議のほか、月1回程度の運営会議(理事以外の委員などで構成)、毎月の理事会における意見交換など通じて検討を深めていく。今年度中には何らかの中間的なとりまとめが行われる見通しである。


第24回 司法シンポジウム開催
司法による市民の権利確立を目指して 全体会
9月11日弁護士会館

全体会議の様子

社会の矛盾を司法の場に登場させて解決し、市民の権利を確立することを目指して、第24回司法シンポジウムが開催された。


全体会議では、現場からの報告を交え、各分科会の代表者によるパネルディスカッションを行った。


現場報告として、権利救済の手が届きにくい外国人のため、外国人ロイヤリングネットワークを創設する取組みが紹介され、同じく高齢者・障がい者については、弁護士は、近くにいても遠い存在であり、「僕らの声はどこまで届いているのだろうか」という配慮に加え、「彼らの声はちゃんと聞こえているのだろうか」という発想も必要であるといった報告があった。


こうした現場からの報告を受け、民事裁判分科会では、より利用しやすい民事司法とするため、提訴手数料の低・定額化、労働審判を参考とする民事審判制度の創設等が提言され、行政訴訟分科会では、裁量行政の打破を目指す取組み、団体訴訟制度、公金検査請求訴訟の導入等について提言があった。法曹養成分科会では、地域社会における弁護士の役割という授業を設ける北海道大学法科大学院等、各地の法科大学院における市民の権利を確立するためのさまざまな取組報告があった。


給費制存続に向けて
2000人決起集会・パレード・院内集会
9月16日 東京

雨雲を吹き飛ばすほどの熱気を帯びた長い列が国会まで続いた

「暑い夏に汗をかき、その実を秋に収穫しよう」を合い言葉に、全国で展開された運動の集大成として、2000人決起集会・パレードが東京・霞が関で開催された。当日は、朝方まで降り続けた激しい雨も奇跡的に止み、全国各地から、会員、法科大学院生、市民団体等数多くの市民が集まった。


日比谷公園大音楽堂に集まった人々を前に、宇都宮会長は「貸与制施行の延期ではなく、給費制の維持を勝ち取ろう」と、力強い挨拶を行った。熱気を帯びた長い列は、そのまま国会まで続き、給費制の維持を熱く訴えた。


その後行われた参議院議員会館での院内集会には、党派を超えて70人の国会議員等(本人29人、秘書41人)も参加し、給費制維持に向け、それぞれ熱い思いを語った。


全国の弁護士会で行われている市民集会、パレード、司法試験合格発表会場でのビラ配り等の成果から、全国各地のマスコミにも多く取り上げられ、給費制維持の機運は盛り上がってきている。


不可能と思われていた給費制維持という実りをいよいよ収穫するために、今後は、さらに与党・野党への働きかけを一層強め、議員立法による裁判所法改正を目指すことになる。


30万筆を目標としていた給費制存続を求める請願署名も、9月28日現在、59万1101筆となり、いよいよ国会に提出する。


最高裁判所、法務省の消極姿勢、一部マスコミの反対論説等もあり、まだまだ、乗り越えなければならない壁はあるが、今後も市民とともに、給費制維持の実現に向けて、一丸となって取組みを強め、ラストスパートをかけていくことになる。


ひまわり

9月10日、元厚生労働省雇用均等・児童家庭局長に無罪判決が出たことは、記憶に新しい。この事件では、検察官が、関係者らに強引な取調べをして、あらかじめ描いたストーリーに沿った供述調書に署名押印させるという違法不当な捜査を行っていた▼判決直後、日弁連は、「取調べが可視化されていれば、違法不当な捜査が行われず、元局長が起訴されることもなかった。冤罪を防ぐために、共犯者と目されて取調べを受けている者も含めた全ての被疑者について、取調べの可視化が不可欠である」との会長談話を発表した▼ところで、この事件では、「被疑者ノート」等から違法不当な取調べが明らかになっている▼「被疑者ノート」は、日弁連ホームページから取得可能で、実際に活用してみると、思っている以上に有用であることがわかる。一般に、その有用性として、取調べ状況の把握、被疑者自身の権利の自覚と励まし、証拠としての利用等が言われている。私も、「被疑者ノート」が重要な証拠発見の手がかりになった経験があり、速やかに「被疑者ノート」を差し入れる重要性を実感している▼1日も早い取調べの可視化の実現を目指すとともに、現状では「被疑者ノート」の果たす役割は大きい。ぜひ活用していただきたいと思う。 (H・Y)


第1分科会民事裁判
利用しやすく頼りがいのある民事司法制度を目指して

新民訴法の施行によって民事裁判は迅速化されたものの、過払請求事件を除く一般事件数はこの10年間横ばい状態である。そこで、日弁連は、裁判所の間口を広げアクセスを容易にする制度、当事者主導によって解決できるよう証拠収集手段を拡充する制度、判決の適正さを確保するための制度および権利救済を確保する執行制度の改革に取り組んでいる。


本分科会では、司法アクセス拡充のための民事審判制度、証拠・情報収集手段拡充の一環としての陳述録取制度創設の提案を取り上げた。


民事審判制度は、比較的簡易・迅速に解決できる事件を対象とする、労働審判類似の裁判と調停との中間的な手続きをいう。この提案に対して、パネリストの山本和彦教授(一橋大学大学院法学研究科)、三木浩一教授(慶應義塾大学大学院法務研究科)、朝倉佳秀氏(最高裁事務総局民事局第一課長)から、「多様な選択肢の提供という目的には賛同できるものの、まずは既存の制度の問題点を明確にして、その改善を検討すべき」「労働事件の扱いをそのまま一般事件に横滑りさせることが妥当、可能か」という意見が出た。


陳述録取制度は、米国のデポジションにならい、訴訟提起後早い段階において、訴訟外で相手方関係者や第三者に直接事情を聴取してそれを記録し、また、情報を収集して、事案解明力の強化・争点整理の実効化、和解の促進を図る制度である。これに対して、パネリストらから、特に証拠偏在型の事件について有意義である等、制度の導入に積極的な意見が相次いだ。しかし、費用の点、録取を受ける者の負担等、今後、検討すべき課題についての言及もあった。


第2分科会行政訴訟
官僚任せの裁量行政・公金の無駄遣いの根絶、行政分野の実効的救済を目指して

これまで司法の行政に対するチェック機能が十分ではなく、この強化を検討するため、本分科会を開催した。


第1部は、「行政裁量」に対する司法審査について、中川丈久教授(神戸大学大学院法学研究科)、滝井繁男会員(大阪・元最高裁判事)をパネリストとして議論を行った。この中で、最近の裁判例は、行政裁量の逸脱・濫用の判断基準を示したマクリーン判決(最大判昭53・10・4)を前提としつつも、行政決定の判断過程で考慮すべき事情を考慮しているか等に着目して判断する傾向にあるとの指摘、法律改正による裁量審査基準の明確化や個別法の見直しを提言する常設機関の設置の必要性等の議論があった。


第2部は、椎名愼太郎名誉教授(山梨学院大学)、島村健准教授(神戸大学大学院法学研究科)をパネリストに迎え、「団体訴訟制度」の導入を検討した。集団的・公益的利益(環境・文化財・消費者保護等)のために、環境保護団体等に原告適格を認める制度が必要であり、導入している国も多いことの指摘や、具体的な法律案の検討等を行った。


第3部は、「公金検査請求訴訟」の導入について、内田隆氏(全国市民オンブズマン連絡会議)、碓井光明教授(明治大学法科大学院)、畠田健治会員(大阪)をパネリストとし、国の違法な財政上の行為に対し、国民が是正できるよう住民訴訟と同様の制度を導入する必要があることや、法律案等の検討を行った。


第3分科会法曹養成
法曹養成の現状と課題

まず、全国の法科大学院に対するアンケート調査結果をもとに「マイ・ベスト・プラクティス」と題し、参考となる取組みや授業が紹介された。その後、「新しい法曹養成制度の現状と課題」、「多様な人材の確保の観点からの検証」と題した、成果と問題点に関する基調報告が行われた。


さらに、法科大学院出身の若手弁護士7人が「法科大学院出身法曹の今」についてパネルディスカッションを行い、各人の現在の活動状況を踏まえ、法科大学院の授業内容等を議論した。各人とも法曹資格を有しながら多彩な分野で活躍しており、法科大学院において多様なバックグラウンドの学生たちとともに学んだことの有益さが示され、また、地方法科大学院の存在の重要性が指摘された。


最後に「法曹養成の現状と課題」と題するパネルディスカッションでは、片山善博氏(慶應義塾大学教授(当時))を含め5人が議論した。パネリストからは、「基本的な法的理解の乏しい修習生がいる」との指摘がある一方、「現在の新司法試験は難しく、特に未修者にとって負担が重すぎる」との声もあった。また、「地方校を廃止しては地方から法曹になる途を絶ってしまう」「地方の行政や議会の分野へ新法曹は参画し法の支配を貫徹すべき」「法科大学院を含む高等教育全般の経済的支援を検討すべき」「数字合わせのための定員削減ではなく、教育の中身を見るべき」等、さまざまな意見が出された。


講演会「弁護士と地方議員」
地方議会活性化の必要性と弁護士への期待
9月1日 弁護士会館

  • 講演会「弁護士と地方議員」

北川教授

地方議会への弁護士の進出は、法の支配を社会の隅々に行き渡らせることに資する。現在、政府が推進している地域主権改革が実現すれば、地方議会も高度な条例制定能力が求められ、弁護士・法曹有資格者の活躍が一層期待される。


このような中、元三重県県議会議員・元衆議院議員・元三重県知事である北川正恭教授(早稲田大学大学院)を迎え、講演会を開催した。


北川教授は、「中央集権が進み過ぎ、地方は、中央ばかりを見るようになってしまった。それが地方の疲弊の原因となった」とした上、「中央から自立し、自ら創意工夫のできる地域社会を作らないと日本の明日はない。地方では、中央の指導を離れた後は、さまざまな価値観のある中、自ら法令に従って統治していかなければならない。地方議会、地方自治体に弁護士がどんどん入って行き、法令に基づく統治を進め、率先して地方の意識改革をしていかなければならない」と語った。


続いて、地方議員出身の菊田真紀子衆議院議員(民主党)は、「これまで、地方議会は、市長の提案を賛成するか反対するかのみ。議員立法で条例を作ることはほとんどない。ぜひ弁護士が多数地方議会に進出して地方議会を活発化してほしい」と述べ、また、弁護士でもある柴山昌彦衆議院議員(自由民主党)は、「地方議員は、地元の人間関係も大事」との認識を語った上、「就職先がないから地方議員という安易な考えはだめ。地方政治を変えていくという信念をもって、リスクをとって進んでほしい」と述べた。また、都議会議員の経験も有する柿沢未途衆議院議員(みんなの党)は、「議会事務局を担うのも行政機関からの出向者である。議会が本来の機能を取り戻すには、議会事務局の独立性の確保は欠かせない。法の専門家が、地方議会や議会事務局に進出し、議会の政策立案能力を高めてほしい」と語った。


即時独立開業予定者のための相談会
8月28日 東京・新橋

50人の相談者が相談会に訪れた

現新63期司法修習生のうち、修習終了後、即時に独立開業を考えている人を対象とした相談会を開催した。


相談者は、総勢50人にのぼり、「開業地はどのようにして選択すればよいか」「先輩弁護士は弁護士業務の獲得をどうしてきたのか」「実務面での不安をどのように解消すればよいのか」等の相談が寄せられた。


これに対して、若手法曹サポートセンター開業・業務支援プロジェクトチーム委員・幹事の弁護士がアドバイスを行うとともに、「独立開業支援メーリングリスト」や「独立開業支援チューター制度」等の案内、「即時・早期独立開業マニュアル」「即時・早期独立経験談集」「弁護士業務Q&A~即時・早期独立弁護士向け~」等の冊子資料一式を配布して、情報提供を行った。


また、弁護士偏在地域における独立開業については、偏在解消事業会計から経済的な支援が受けられることもあるが、この制度に対する関心も高かった。


昨年度の同様企画と比較すると、既存事務所への就業が悪化する中、積極的かつ熱心に独立開業に向けて、不安な点を解消しようとする人が多くなっていることが印象的であり、これに対応するため、より一層、支援体制を強化する必要性を感じた。


(若手法曹サポートセンター 開業・業務支援プロジェクトチーム副座長 髙橋太郎)


第2回裁判員裁判に関する経験交流会
9月4日 弁護士会館

代表的犯罪類型の量刑に関する判決分析等が行われた 裁判員制度が施行されて1年が経過した。そこで、全国から収集した事例等を通じて問題点を共有し、今後の課題を検討するため、本交流会を行った。東京会場のほか20弁護士会と3支部に中継が行われた。


無罪・認定落ち判決の紹介

第1部では、裁判員裁判で無罪や認定落ち判決となった6事例を紹介した。この中で、「疑わしきは被告人の利益に」の原則が弁論で丁寧に述べられた事案や、被告人が誘導されやすい人物であったことから、自白調書が理路整然としていたことは信用すべき証拠とはならないとの訴えが認められた事案等が報告された。


量刑傾向と分析について

第2部では、まず、裁判員裁判の判決数が601件(5月末現在)であること、報道等で判明している無期求刑19件中5件が有期刑に下がったことなどが報告された。


次に、覚せい剤の密輸事件では、量刑データベースの量刑傾向に言及する判決も多いとの指摘があった。


続いて、殺人事件について、量刑データベースの検索項目に何を入れるかによって、量刑傾向が変わることや、家族間の事件は、量刑が軽い傾向があるが、判決を分析すると、動機・経緯に同情できる事情があった事案と考えられること等が指摘された。


さらに、性犯罪事案について、求刑どおりの判決や求刑より重くなった判決もあったことや、性犯罪に関する判決の特徴は、被害者の精神的被害が大きいことや、再犯可能性、性的被害者数等に着目している等の指摘があった。


手続上の問題点の検討

第3部では、まず、遺体写真や被害者の生前写真は、検察官の立証趣旨を把握し、証拠能力(自然的関連性や法的関連性)の有無を検討する必要があることについて解説を行った。


次に、反対尋問における自己矛盾の供述調書を提示するには、記憶喚起の方法による尋問を要するか否かについて検討を行った。


さらに、罪責認定手続と量刑手続を区分する必要がある場合には、意見書等を提出して主張すべきとの指摘等があった。


第6回 災害復興支援に関する全国協議会
9月6日 札幌弁護士会

災害復興支援委員会は、災害復興支援に関する全国協議会を全国で開催することを企画し、東京での最初の2回の開催を経て、横浜弁護士会(2007年)、仙台弁護士会(2008年)、愛媛弁護士会(2009年)の各弁護士会の協力により、全国協議会を開催してきた。


全国各地で全国協議会を開催したいと考えたのは、大規模災害時の復旧、復興への取組みに対する問題意識に全国の各弁護士会において差異があるため、全国の弁護士会において、共通の問題意識を持ち、大規模災害に備えて準備を促す趣旨からである。


本年度は岡田弘名誉教授(北海道大学)による「有珠山噴火の予知と復興への課題」と題する講演のほか、千葉正志氏(札幌市危機管理対策課長)による札幌市の防災の取組み状況についての解説等があり、災害復興支援に関する問題点や課題を確認した。その後、各班に分かれてワークショップを行い、災害時対策マニュアルの作成に関する各弁護士会の取組みなどについて活発な意見交換が行われた。


現在災害時対策マニュアルを作成している弁護士会は仙台弁護士会と東京三会のみである。仙台弁護士会の担当委員からは、岩手・宮城内陸地震の経験を踏まえ、同マニュアルの問題点、改正すべき点等の説明があり、今後のマニュアル作成に関し参考となる貴重な意見交換が行われた。


(災害復興支援委員会副委員長 安藤建治)


訴訟に係る資金調達と保険
9月1日 弁護士会館

多くの学者や専門家が集まった

クリストファー・ホッジズ博士(オックスフォード大学)を招き、イギリスおよびEUにおける、訴訟に係る資金調達と保険に関する講演会を開催した。


まず、自己資金、法律扶助等の国家の資金で賄えない場合の訴訟資金調達の選択肢として、労働組合や医師等の専門家団体が保有する共有資金、保険、訴訟ファンド等があるとの話で始まった。


保険については、事前保険と訴訟が起きてから加入する事後保険があり、事前保険は、弁護士報酬が公定され、訴訟費用を予測できるドイツで発展したとの説明があった。弁護士報酬をタイムチャージで換算するイギリスにおいては、事前保険は難しいと考えられたが、実際には、火災保険の付帯保険として多くの人が訴訟費用保険に入っている。現在のところ、保険金支払請求数が少なく、機能しているが、今後、保険加入が周知された場合も機能するのかという問題を抱えている。事後保険は、特定の訴訟を前提にリスク評価されるため、保険料が高額なものとなりやすいという問題が指摘された。


最後に、濱野亮教授(立教大学)、菅原郁夫教授(名古屋大学大学院)が、日本が敗訴者負担制度をとっていないこと、訴訟費用が予測可能で、弁護士報酬が比較的安価であることを指摘し、販売開始から10年目の日本の権利保護保険の発展の可能性を検討し終了した。


なお、11月15日には、権利保護保険に係るシンポジウムが予定されている。


国際分野のスペシャリストを目指す法律家のためのセミナー
8月25日~27日 弁護士会館

定員を上回る盛況ぶりだった 3日間にわたり開催された本セミナー(法務省・外務省共催、法科大学院協会・国際法学会後援)は、日弁連初めての試みであり、約8か月間にわたる事前準備を経て実施に至ったものである。


2003年6月、司法制度改革推進本部の国際化検討会は、わが国の法曹の国際化の立ち後れや弁護士人口急増下での職域拡大の必要性を背景に、日本の法曹が国際機関で働くための包括的な情報提供が必要であることを指摘した。これを受けて、2004年より毎年1回の「国際機関人事情報セミナー」を開催してきたほか、新62期からは選択型実務修習プログラムとして、国際協力機構・国連難民高等弁務官事務所・国際移住機関等の各事務所でインターンを実施してきた。これらの取組みを更に発展充実させたのが、今回の3日間のセミナーであった。


講師陣として、国際分野の第一線で活躍中の弁護士・判事・大学教授・省庁関係者・国連職員ら23人が次々と教壇に立ち、国際分野を志望した動機、日々の業務内容ややりがい、国内弁護士業務との兼ね合い、そして応募採用システムなどが、余すところなく語られた。弁護士・法科大学院生(修了生を含む)・学部生ら89人がこれを受講し、内66人の皆勤者には修了証も授与された。各講師に対し、受講生側から熱心な質問が相次いでいたことも特筆されるべきである。


今回は、受講申込が相次いだことで事前に募集を締め切った結果、受講が叶わなかった応募者も多数みられた。


若手法曹が一定の実務経験を積んだ後に国際分野で活躍するためには、事前に情報や人的つながりを得て、長期の準備をすることが欠かせない。日弁連としては来年度以降も更に多くの受講者にセミナーを提供し、わが国の法律家が次々と国際分野で活躍する日を迎えたい。


(国際室嘱託 大川秀史)


JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.48

独立行政法人国民生活センター
野々山宏理事長インタビュー

今年10月に40周年を迎えるという「国民生活センター」。今回は、品川にある同センター事務所を訪ねるとともに、今年4月、同センター理事長に就任した野々山宏会員(京都)にお話を伺いました。


(広報室嘱託 西浄聖子)


消費者問題における中核的機関として~国民生活センター

国民生活センターは、消費者基本法第25条に基づき1970年に発足、2003年に独立行政法人化した。正職員は、128人。神奈川県相模原と品川に事務所がある。


同センターの主な業務は、6つに分けられる。


まず、全国各地の消費生活センターでの解決困難な相談の処理支援と、消費者からの直接苦情相談業務。2008年度の実績では、消費生活センター経由と直接相談とで合計9841件の相談を受けた。


次に、こうして受けた同センターや地方での相談による生の危害情報を収集、分析、提供する業務。同センターでは、全国各地から寄せられる相談の受付から解決までの情報を、国が収集蓄積するために構築したオンラインシステム「全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO―NET)」によりデータベース化している。そして、これらの情報は、行政機関による消費者被害防止のための利用や、相談業務支援に活用されている。


また、同センターは、各地の苦情相談解決のための商品テストや、ある特定の危険性が疑われる商品群のテストを実施し、行政機関や業者に改善要望を出す業務も行っている。


これらの業務に加え、同センターは、相談を受ける消費生活相談員の資格認定試験や研修を全国で実施したり、さまざまな出版物の発行やマスコミへの注意喚起などの広報・普及活動、さらには「重要消費者紛争」の適切・迅速な解決に向けた裁判外紛争解決手続(ADR)も行う。


このように、同センターは、国や全国の消費生活センターなどと連携して消費者問題におけるまさに中核的機関としての役割を果たしている。


独立行政法人国民生活センター理事長
野々山宏会員(京都・35期)

「法の支配を貫徹するためには、弁護士が組織内に入ることが非常に効果的」
消費者行政の変革期にこそ

野々山会員は、今年の4月20日、理事長に就任した。就任依頼から、1か月足らずのスピード就任だったため、身辺整理は大変だった。事務所の受任事件やアソシエイトを抱える身で、法科大学院の講義などもあったが、事務所の全面的協力を得て、何とか京都から上京、単身赴任した。就任後、わずか8日で「事業仕分け」も経験した。


就任の理由はいくつかあるが、消費者庁が設置され、消費者安全法が制定されるなど、消費者行政の変革期にある今だからこそ、民間・実務家から同センターの理事長に就任することが重要だと考えた。また、従来から消費者問題に取り組んできた経験から、消費者問題に熱心な関西地方から理事長が出ることに意味があると感じていたと言う。


「国民は今、この変革期に期待を抱いているはず。情報の発信と法執行がより広く早く行われることが大事だ」と野々山会員は言う。


また、課題としては、情報発信の迅速化以外に、同センターの政策提言機能や相談窓口強化、派遣・巡回相談などの地方支援機能の強化、相談員の研修強化なども行っていきたいと考えている。幅広い業務をこなす職員のモチベーションの向上も重要な課題で、各部署で懇談会を開催、意見集約を図り、業務に反映させていきたい。


就任してみて、外から見るより同センターの業務は多く、その果たす役割もずっと大きいと感じた。今後は、消費者行政における消費者庁、消費者委員会、そして同センターの位置付けや、あり方をより明確なものにしていきたいと言う。


弁護士経験が生きること

何よりも、現場で被害に直面し実態を知っている経験は生きる。また、法的知識や法の支配の観点、倫理観など、弁護士経験が生かせる場面は多々あると野々山会員は語る。


弁護士や弁護士会には、「ぜひ、同センターの業務を理解し、個々の弁護士には組織に入る決断をしてもらいたいし、弁護士会には人材的支援をお願いしたい」と言う。


「やればやるほど、風あたりが強くなる面もあると思いますが、頑張ります。ぜひ応援してください」と笑った。


日弁連委員会めぐり 38

両性の平等に関する委員会

左から川口副委員長、板倉第1部会長、清田副委員長

あらゆる分野に男女が共に参加し、真に両性が平等である社会が求められています。そこで、この実現を目指す「両性の平等に関する委員会」の活動について、清田乃り子副委員長(千葉県)、川口和子副委員長(第一東京)、板倉由実第1部会長(第二東京)にお話を伺いました。


(広報室嘱託 葭葉裕子)


真の両性の平等を目指して

本委員会は、1976年に設置された「女性の権利に関する委員会」を前身とする。


当初は、女性の地位・権利・差別などに関する調査研究とそれに基づき適切な措置をとることを目的としていたが、あらゆる分野に男女が共に参加し、真の両性の平等を目指すため、1993年に現在の「両性の平等に関する委員会」に名称を変更した。


現在、本委員会に参加する男性会員も増えている。


活動は広範囲に及ぶ

本委員会は、3つの部会と4つのPTを設置している。


第1部会は、雇用・労働問題を扱う。パート労働者の多くは女性であり、非正規雇用の問題は、ジェンダー(社会的性別)平等の視点が必要である。


第2部会は、教育・福祉問題を担う。市民に対するジェンダー教育や、離婚後の生活に直結する養育費について、現行の「簡易算定表」の問題点を指摘し、子どもの成長に必要な養育費の算定等に取り組んでいる。


第3部会は、家族問題を扱う。DV事件の件数は多く、危険も伴っており、相談・受任体制の充実を図ることが不可欠である。


民法改正PTは、選択的夫婦別姓や婚外子の相続分差別の問題等に取り組んでいる。その他のPTは、女性差別撤廃条約、司法におけるジェンダー、ハーグ条約の問題等に取り組む。


このほかにも、弁護士会内の啓発活動や、法律制定等の際にはタイムリーに意見書や要望書を提出しており、シンポジウムや研修会の開催、出版もする等幅広い活動を行っている。


弱者の痛みに対し敏感に

これらの活動に取り組んでいて感じることは、差別されている人、弱い人、DVや性的被害にあって苦しんでいる人ほど、その苦しみを訴えることができないということである。弁護士に求められることは、声なき声を察知し、人の痛みに敏感になることだと言う。


最後に、「選択的夫婦別姓は長年の悲願であり、11月2日に弁護士会館でシンポジウムを行うので、ぜひ参加していただきたい」と語った。


ブックセンターベストセラー(2010年8月・六法、手帳は除く) 
協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書籍 著者・編者 出版社
会社法コンメンタール11 ~計算等(2) 森本 滋・弥永真生 編 商事法務
弁護士職務便覧 ~平成22年度版~ 東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会 編 日本加除出版
遺産分割 リーガル・プログレッシブ・シリーズ10 上原裕之・高山浩平・長 秀之 編著 青林書院
要件事実マニュアル 第4巻[第3版]~過払金・消費者保護・行政・労働 岡口基一 著 ぎょうせい
Q&A過払金返還請求の手引[第4版] 名古屋消費者信用問題研究会 編 民事法研究会
特許法 法律学講座双書 中山信弘 著 弘文堂
要件事実マニュアル 第3巻[第3版]~商事・保険・手形・執行・破産・知的財産 岡口基一 著 ぎょうせい
国会便覧 平成22年8月新版 127版 日本政経新聞社 日本政経新聞社
量刑調査報告集3 2010年4月 第一東京弁護士会刑事弁護委員会 編 第一東京弁護士会
10 逐条解説 不正競争防止法(平成21年改正版) 経済産業省知的財産政策室 編著 有斐閣

編集後記

司法シンポジウム、民事裁判分科会に参加した。これまで、医療訴訟、建築訴訟など、相手側に証拠が偏在している事件で、当事者主義とは名ばかりではないか、武器がなくてどうやって戦えというのかと、どれだけ悔しい思いをしたことか。
また、自らの権利が侵害されているにもかかわらず、費用、期間の点から訴訟を断念し、結果的に我慢を強いられる依頼者も少なくなかった。
司法シンポジウムは、まさに、日々の業務で抱える割り切れない思いに応えるものであった。個々の提言については辛口の意見もあったが、今後の動向に注目したい。
近年、裁判員裁判など刑事裁判改革ばかりに目が行く。司法シンポジウムで民事司法制度を扱うのも24年ぶりだそうである。今、民事裁判も動き出そうとしている! (R・S)